ボクが通う高校には、中学校のころみたいに夏休み中の課題はないけれど、夏休みを開  
けて直ぐにテストがある。  
 夏休み中にやる課題を与えても、ほとんどのひとは写したり、やらなかったりだから。  
 それなら、夏休み明けにきっついテストをしたほうが、夏休み中さぼっていなかったか  
分かるというものだ――と、ともだちが言っていた。  
 だけど、どちらにしてもサボる人はサボるんだから。  
 なら、みんなが楽できる夏休み中に課題のほうがいいんじゃないかなぁ?  
 だって、ボク、夏休み中に課題がないからって遊びほうけてたもん。  
 このままだと、確実にテストは赤点……。  
 そんなときに、彼女から電話がかかってきたのだ  
   
   
 絵美、勉強会をやらない――って。  
   
   
   
 勉強会は、彼女の両親が同窓会でお出かけしている日に行われることになった。  
「いやあ、暑いなあ。暑い暑い」  
 エアコンがガンガンに効いた部屋。  
 肌寒いくらいだというのに、彼女はそういった。  
 ボクは思わず、きょとんとしてしまった。いうほど暑いかなぁ?  
「そんなに暑いなら、エアコンの設定下げようか?」  
「へ? あ、ああ、いやいいんだ。別にそんな暑いわけじゃないし」  
 その言葉で更に分からなくなった。  
「じゃあ、なんで暑い暑いって……」  
 彼女はたははと笑うと。  
「ん? うん、なんていうかさ。言わないといけないかなぁって」  
「……はぁ」  
「まあいいじゃない。それよりも、ほら、勉強に集中集中」  
「あ、うん」  
 ボクは頷くと彼女が持って来てくれたプリントに目を落とした。  
 数学のことについて書いてあるのは分かるのだけれど、なにを書いてあるのかが分から  
ない。習ってないとか、そんなレベルではなく。もっと恐ろしい自分のばかさ加減に嫌に  
なりそうだ。  
 だって、彼女が言うには――  
『ほら、一学期にやった奴だし余裕でしょ?』  
 ――というのだが。  
 おかしい。  
 絶対におかしい、やった記憶がない。  
 だが彼女は、懇意にしてる数学の志井先生――ボクたちが卒業することには、学校を辞  
めてそうなおじいちゃん先生――から、勉強会をするからと、貰ったやつだという。  
 彼女がウソをつく理由はないけど、志井先生がぼけちゃって、違うの渡したってことは  
ないのかな?  
 加えて、おかしいことはもう一つ。  
 ボクは何度も教科書を開いて、書いては消して、それでようやく一問解いているという  
のに――  
 小さなちゃぶ台を挟んで向かい合って座っている彼女は、すらすら、すらすら、ほとん  
どペン先を弛めずに解いていっている。  
 だから、これは一回やった内容なのだ――とは、決め付けられない。  
 
 中学時代の彼女は学年でもトップクラスで、ボクは下から数えた方が早いくらいだった  
のだから。  
 といって、これが単純に学力の差だと思うと、泣きたくなってしまう。  
 同じ女の子なのに、なんでこんなに違うんだろう……。  
「……はぅ」  
 そう、絶望的なまでに、違う。  
 ボクはいつまでたってもちっちゃい子みたいで、子供っぽいし、引っ込み思案だし、怖  
がりだし……悪いところを上げだしたら、いくつもいくつも。  
 だけど彼女は、いつも堂々としてるし、大人っぽいし、怖いって噂の生徒会長さんの下  
でちゃんと生徒会の仕事できてるし、それにボクと違って声がどもることなんてない……  
好きなところを上げたら、たぶんノート一冊埋め尽くせるくらいいっぱい書けると思う。  
 それに、だいたい、容姿からして圧倒的に違ってる。  
 中学のころはボクたちは姉妹のようだといわれていたのに、高校に入ってからというも  
の彼女は変わってしまった。  
 ブラジャーとっかえっこしても大丈夫だったのに、彼女のおっぱいはばいんと膨らんじ  
ゃって、まるでたわわな木の実が生っているようになってしまった。試しにブラジャーを  
交換したら、あまりのすかすかさに自分でも笑ってしまうほどだった。  
 これで、彼女が太ったというのなら別なのだが。元の体型とさして変わらず、おっぱい  
だけが大きくなってしまっているのだ。  
 丸みを帯びていた顔も、しゅっとした大人の顔つきになって。子だぬきみたいでかわい  
かった顔は、狼みたいに格好よくなった。  
 美人で、おっぱいがおっきくて、頭が良くて、性格もいいなんて……  
 ――でも、ボクはそんな彼女へ嫉妬心を向けたことは(あまり)なかったりする。  
 むしろ……  
 ボクの目はプリントを離れ、彼女を見ていた。  
 ビロードのような黒い髪、柔らかそうな白い肌、薄い唇……くちびる。  
 お化粧濃くないて言ってるのに、なんであんな綺麗な色してるんだろ?  
 触って……みたいな……  
「え? なんか言った?」  
 不意に彼女が顔をあげた。  
「は、はわわわわ」  
「あはは、どうしたの?」  
「な、なんでもないよ。うん、全然大丈夫だよっ」  
 慌ててそう言い繕う。  
 彼女はボクの様子がヘンだったからか、くすくす笑いながらボクを見ている。  
 うー、恥ずかしいよぉ。  
「あれ?」  
 と彼女が言った、今度はなんだろ?  
「絵美、――ああそっか、海行ったんだっけ」  
「え、うん。行ったよ」  
 ボクのお父さんは観光会社の人だったりするので、格安でチケットを手に入れることが  
できるのだけれど。  
 お父さんは身内に不幸でもない限り仕事を休まない人だから、有給休暇がたまっちゃっ  
て、休まないといけなくなってしまったそうなのだ。  
 だからと、お父さんの上司さんが海外行きのチケットを家族分プレゼントしてくれて、  
それでみんなでちょっと海外まで行ってきたのだ。  
 ボクは楽しかったけれど、お父さんは「もういやだ、あんな人ごみにまみれたくない」  
とうんざりした顔で言っていた。  
「すっごい綺麗な海だったよ、お魚さんとかぷかぷか泳いでたし」  
「ぷかぷかって……その言い方は気味悪いわね」  
 
 彼女が半眼になって言う。  
 その段になって、彼女はシャープペンシルを机に放り投げた。  
「でも、そっかぁ、いいなぁ。海かぁ……今年は一回も行ってないや」  
「そうなんだ」  
 そういえば、高校に入ってから彼女の水着姿をみてないや。  
 うちの学校にはプールはあるけど、水泳部用であって、授業で使われることはない。  
 ボクは一瞬、彼女の水着姿を想像して……なぜか顔がかーって熱くなってしまった。  
 彼女にそれを勘つかれないように、ボクは  
「あ、なら、プール行かない? ほら、ファクトリーにあるプール。あそこエステもある  
っていうし」  
 というと。  
 彼女は渋い顔をした。  
「プールかー、外がいいんだよね。屋外。室内だとあんまり燃えないっていうか……」  
「もえる?」  
 焼き芋でもするんだろうか?  
 だとしたら季節が早いような。それに海岸じゃあ落ち葉は集まらないような気がする。  
「――へっ。ああいや、なんでもない」  
 彼女はあはははと笑った。そうやって笑う顔も素敵だなあと考えていると。  
「そ、そう、ほら。あれよあれ、日焼け」  
「日焼け……ああ」  
 なるほどと思ったけど、肌が燃えるとはいわない気がする。  
 そう思って彼女を見ていると、なんか舌打ちでもしそうな顔をして、それから満面の笑  
みを浮かべて彼女は言った。  
「そう、日焼けよ。絵美みたいな、小麦色の肌になりたいってことよ」  
「ボクみたいに?」  
 彼女は頷いたけど、それはどうだろ。  
 綺麗な肌してるんだから、焼かないほうがいいような。  
 そう思っていると、彼女は猫化の動物を連想させる笑みを浮かべながら。ボクのほうへ、  
にじり、にじり、と寄ってきた。  
 その手はわきわきと動いている。  
「な、なに?」  
 怖くなってそう訊くと。  
 彼女はニヤッと笑った。怖いよ。  
「見せろ」  
 男の子みたいな言葉使いで彼女は言った。  
「見せろってなにを?」  
「どれだけ日焼けしたか」  
「え? えっ?」  
 どういう意味?  
 ボクが困惑していると、彼女はとびかかってくるように襲い掛かってきたのだ。  
「ひえー」  
 その場に押し倒され、あっさりと組み伏されてしまった。  
「なにするの? なにするの?」  
 聞いても彼女は鼻歌まじりに無視してしまう。  
 ボクが何をされるのだろうという、恐怖を感じていると、彼女の手が! 手が!  
 ボクの着てるTシャツの裾を掴み、一気に引き上げてしまったのだ!  
 なんで? なにするの?  
 驚いて声をあげれないボク。  
 彼女は楽しげに、AAサイズのブラジャーに手をかけ、ずらした。  
「ひぃっ!」  
 
 だめだよっ、女の子同士なのに!  
 言おうとしたのに、口が回らず、言えなかった。  
 それは怖くて怯えてるからなんだろうか?  
 それとも、そうされることが嫌じゃないから――?  
 ……と、そんな疑問を抱いたが  
「へぇー、こうしてみるとすっごく焼けてるねえ。オセロみたい」  
 結果は、いつもどおり。  
「いいなあ、やっぱ海行きたいなあ」  
 彼女はボクが考えてしまうようなことはしてくれず。  
 あくまで、女の子同士のじゃれあい程度のことくらいしかしてくれない。  
 ――って  
 してくれないって、ボクってば、なに考えてるんだろ。  
 それじゃあ、まるで――  
「それにしても、絵美の胸っていつみてもかわいいよね」  
「――ふぇ?」  
 どういう意味だろう?  
「あ、ああ。小さくてとかじゃないよ、私だってこの前まで、大きさ全然変わらなかった  
わけだしさ」  
 彼女は慌ててそう言った。  
 なら、どういうこと?  
「ねえ、触ってもいいよね」  
 唐突に、あまりにも突然に、彼女はそんなことを言った。  
 ボクが返事をすることもできないうちに、彼女の温かい手が、ボクのぺったんこな胸に  
触れていた。  
「あはは。絵美、なんか緊張してない? 心臓凄い早さで鳴ってるよ。ほら、りらーっく  
す、りらーっくす」  
「……う、うん」  
 頷いたけど、リラックスなんてできそうにもない。  
 だってだって、彼女がボクのおっぱいに触っているのだ。  
 それも学校の更衣室とかじゃなく、二人きりの彼女の部屋で。  
 これで緊張するなって――無理だよ、そんなの。  
 ボクはなんとか話題を反らそうとして  
「ね、ねえ、かわいいってどういうこと? ボクのちっちゃいのなんてかわいくないよ、  
ぜんぜん」  
 そう言うと、彼女はうん?と首を傾げ、ああと頷いた。  
「なんていうのかな」  
 そう言いながら、彼女の手の平がボクの胸をゆっくり撫でていた。  
 そんなことされたらもっとドキドキしちゃうよ。  
「形がね、かわいいの」  
 そういうと彼女は勝手に一人で納得して、うんうん頷いてしまった。  
「ほらこう、さ」  
 そういうと手を止め、おっぱいの形を指でなぞるように、彼女は指先を動かした。  
 ぞくっと背中が震えた。  
 思わず声をだしちゃいそうになるくらい。  
「私のがちっさかったころって、形が歪だったでしょ。だから、いつも見て思ってたんだ、  
絵美のおっぱいかわいいなあって」  
 つんと乳首に指先が触れると、  
「ひゃっ」  
 身体が反応してしまった。  
 それを見て、彼女が笑うのが恥ずかしくて、ボクは言った。  
 
「――のおっぱいのほうが綺麗だよっ」  
 ……って、ボクはなにを言ってるんだ!  
 彼女はきょとんとした顔をしている。  
 どうしよう、どうしよう。  
「だって、ほら、白くて柔らかそうだし、マシュマロみたいだし」  
 違う、違う。  
「おっきいのに形綺麗だし」  
 だから違うって、ボクが言いたいのは  
「顔を埋めたらやわらかそうだし!」  
 ――――って、ちっがーーーーーーう!!  
 なにをいってるんだよボクは、これじゃ変態さんみたいじゃないか。女の子が女の子に  
向かってこんなこといったらヘンだよおかしいよ。  
 ボクのばかばかばか。  
 ……もうやだ。  
 なんでボクってこんなバカなんだろう。  
   
 ――くすっと笑う声が聞こえた。  
 
 その声で、ボクの混乱する頭は波が引くように落ち着いて、彼女の顔だけを見ていた。  
 やわらかく微笑む彼女は、ボクに向かって  
「ほんと、かわいいなあ、絵美は」  
 と言った。  
 頭はもう混乱しすぎてまともに働かない。  
 震える唇が、訊いていた。  
「……それ、どういう意味?」  
 ボクの問いに、彼女はゆっくりとボクの胸を撫でた。  
 その撫で方は優しくて、気持ちが落ち着くようだった。  
「小動物みたいで」  
 期待していたのと、百八十度違う答え。  
「……へ?」  
「だって、顔小さいのに目ぇ大きいし、身体のつくりがいちいちちっちゃくて、ほんとも  
うハムスターみたいでかわいいよ!」  
 期待してしまった展開と違う展開に、ボクが呆然としているなか。  
 彼女は満足したのか、立ち上がると、  
「じゃあ、お風呂入ってくるわ。私があがるまでには、それ終わらせておきなさいよ」  
 なんてことを言って、部屋から出て行ってしまった。  
 おっぱい丸出しで放置されたボクは、早鐘を打つ胸を押さえるように、丸くなった。  
 さっきまで彼女が触っていた場所。  
 かわいいっていってくれた場所。  
 ボクの胸は小さいけれど、彼女がそう言ってくれるなら、前より好きになれるかもしれ  
ない――  
   
 ***  
   
 やばい、やばい、やばい――  
 私は逃げるように部屋を後にすると、ダッシュで風呂場まで向かった、とにかく一人に  
なって落ち着きたかった。  
 しかし、私は友だち相手になにやってるんだ!  
 胸触ってかわいいって――変態か、私は。  
「……いや、変態か」  
 露出狂で、この前はあやうく小さな子供としてしまいそうになったような女なのだ。  
 ――だからこそ、か。  
 これ以上、自分の変態的素養を育みたくはなかった。  
 せめて、男ではなく、同性を好きになるような女だったとしても、友だちに手を出すよ  
うな下種にはなりたくない。  
 そう思えた。  
 絵美が私にあそこまで無防備なのは、そうしたことでも受け入れてくれるからではなく、  
親友として信用しているからなのだ。  
 その信頼には応えたい。  
 私はもう二度とあんなことをしないよう、風呂場で自分を戒めると、部屋へ戻った。  
 そこには――  
「ほんと、小動物みたいだ」  
 あの後直ぐ寝てしまったのだろう。  
 かわいらしいおっぱいを丸出しにしたまま寝ている絵美がいた。  
 
 
了  
 

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