夏期講習の最終日──
あれから、竹下からのメールは、一度送られてきただけだった。
翌日も、また下着を着けずに登校しろと指示されるのではないかとひやひや
していた夏海だったが、それは杞憂に終わった。
『残念だけど、仕事を押し付けられてね……夏海ちゃんを虐めてあげることは
しばらくできないみたいだ。いずれまた、たっぷり可愛がってあげるよ』
そんなメールが、月曜の夜に届いただけだった。
夏海はどうすべきか迷ったが、『お疲れ様です』とだけ書いて返信した。
『ありがとう。おやすみ、エッチな夏海ちゃん』という返事が戻ってきた。
肩透かしを食らったような気持ちになった夏海は、そんなふうに感じている
自分が怨めしかった。
弘輝からのメールは八件あった。
おやすみ、おはよう──といった他愛のない挨拶のメールと、ちょっとした
雑談が七件。
八件目はちょうど今──夏期講習の全日程が終わったときだった。
「誰から?」
「えっ?」
隣の冬香が覗き込んできて、夏海は反射的に閉じてしまう。
「えと、お、お父さん……」
「ほーんと、夏海はファザコンだねぇ。いや、おじさんが夏海好き好き〜って
だけか」
冬香は夏海の動揺に気づいた様子はない。
「娘って……ドーターだっけ? じゃあ、ドタコン……?」
よく解らないことを言う冬香の横で、夏海は再び携帯電話を開き、メールに
眼を通す。
『そろそろ学校終わりかな? 返事待ってるよ』
短い文面に、夏海は複雑な想いに駆られる。
月曜日の午後、冬香たちと一緒にカラオケに行くはずだったが、夏海が参加
できないと知った彼女らは、予定を取りやめた。
夏海は放課後、竹下にもてあそばれ、弘輝にも責め立てられた──
冬香たちはそんなことを知るはずもなく、夏海は具合を悪くしたから自分が
送ってゆく、と告げた竹下の言葉を疑いもせずに信じていた。
そして今日、再びその話が持ち上がったのだが──
「ごめんね、冬香ちゃん……」
「気にするなって……カラオケはまた今度行こうぜぃっ」
うつむいた夏海の頭を、冬香が優しく撫でる。
これから弘輝とのデートが控えていたが、冬香には、父親と買い物に行くと
嘘をついたのだ。
二日前と今日──冬香たちを二度も欺いてしまったことが、夏海の心に重く
のしかかっていた。
──わたし……ほんとにエッチだよ……。
竹下にも弘輝にも、泣きたくなるほどの羞恥を与えられていながら、自分は
確かに、激しい興奮を覚えてしまっていた。
きっと今日も弘輝に、いやらしいことをされるのだろう。
それなのに、友人を欺いてまで、自分は彼とのデートを選んだ。
彼女らに話すことなどできない。
自分がとんでもなくいやらしい少女なのだと、打ち明けることはできない。
──仮面……わたしも、被らないとね……。
嘘をつくということなのかもしれない。
けれど、誰だって少しぐらいは嘘をついているものだろうと自己弁護する。
「ごめんね、ほんとに……」
「いいっていいって。カラオケなんていつでも行けるでしょう? おじさんも
夏海と買い物できるの楽しみにしてるんだからさ、ね?」
「うん……ありがとう」
冬香の優しさに、心が痛む。
自分が嘘をついていたと知ったら、冬香はどう思うのだろう。
大学生の男とデート──淫らな行為をするためなのだと知ったら──
その先は怖くて考えたくなかった。
友人を──冬香を失いたくなかった。
そのために自分ができることは、淫らな本性に仮面を被せることだけだった。
「こんにちは、夏海ちゃん」
メールで言われたとおり、彼らの自宅の近くにある駐車場に行くと、弘輝は
車のエンジンをかけ、簡素な屋根の陰で煙草をふかしていた。
「こんにちは……すみません。お待たせしました」
「ん? ああ、いいの。エアコンかけてただけ……可愛いね、そのかっこ」
「あっ、ありがとう、ございます……」
デートなんて初めての経験だった。
だが、夏海のような年頃の少女が想い描く、心がうかれるような気持ちでは
いられなかった。
何をされるか判らない恐怖と不安でいっぱいだった。
彼はつきあおうなどと言ったが、自分の欲望を満たしてくれるパートナーを
求めているだけだというのは、夏海にも理解できていた。
恋愛というものがどんなものなのか、夏海はよく解らない。
気になる異性というのがいないわけではなかったが、実感としての恋心は、
まだ彼女には芽生えていなかった。
漠然としたイメージだけが先行し、実体のない靄のようなふわふわしたもの
だけが頭の中に存在している。
好きな人と一緒にいるだけでも楽しいという、純朴な関係──そんなものを
弘輝が求めているわけがないのは明らかだ。
彼の嗜好の一端は、二日前の昼下がりの短い時間だけでも理解できた。
きっと自分はこれから、恥ずかしい想いをさせられるのだ。そして、乱暴に
責められるのだ。それが、弘輝の性的嗜好なのだから──
「今日は髪、下ろしてるんだね……やっぱり、そのほうが可愛いよ」
とはいえ、褒められれば悪い気はしない。
恋愛には疎い夏海だが、デートという言葉には憧れを持っていたし、少なく
とも表向きはデートなのだから、と気を使ったつもりだった。
学校から帰宅してすぐシャワーを浴びた。
艶やかな黒髪は丁寧にブラッシングして、右の耳の上には、ピンク色の猫の
マスコットがついたヘアピンを刺している。
毛先は肩よりも長く、汗の浮いた肌に張りついて、少しうざったい。快適さ
だけなら、いつものように後ろで纏めているほうがはるかに上なのだが──
弘輝の好みに合わせてしまったのは、なぜなのだろうと思う。
「服も似合ってるし……」
淡い水色キャミソールに、だぼっとした白い涼しげなプルオーバーを重ね、
腰を細い紐で括っている。
襟元はゆったりと開いていて、可憐な鎖骨が覗いている。
ふわりとした服で大きな胸を誤魔化しているつもりだが、あまり役立っては
いなかった。どんな服でも、彼女の膨らみを隠せはしない。
象牙色で膝上数センチほどの、ゆったりしたフレアミニスカートから、細く
しなやかな脚が伸びている。
小さな足にはソールの厚いサンダルを履いていて、細い左手首にはビーズの
ブレスレットが巻かれていた。
肩にかけた長いベルトの先に、財布と携帯電話、ちょっとした小物を入れた
ポーチが揺れている。
「夏海ちゃん……もてるでしょ?」
「えっ? そんな……ぜんぜん……」
弘輝が言うと、夏海はうろたえたように眼を伏せた。
確かに、異性の視線を浴びることは多いが、それは卑しい気持ちの表れで、
恋愛感情とは別のものだと考えていた。
「可愛いし、胸もおっきいし……人気ありそうだけどなぁ」
そんなことを白昼堂々と口にされ、顔が赤らんでしまう。
彼の眼に灯ったかすかな嫉妬の光に、うつむいたままの夏海は気づかない。
「んじゃ……暑いし、そろそろ行こうか」
弘輝は携帯灰皿に煙草を押しつけて消すと、助手席側に回り、ドアを開けて
夏海を促した。
光沢の強い、黒いボディの軽自動車である。車種など夏海には判らないが、
竹下のものよりもひと回り小さい、スポーティな感じのする車だった。
「はい……すみません」
夏海は頭を下げて、助手席のシートに身をうずめた。
大きな恐怖と不安──だけでなく、かすかな期待に胸が震えていた。
夏海の身体が小さいのもあるだろうが、シートはゆったりしていて、外から
見るよりも、車内はずいぶん広く感じられた。
エアコンの風に冷やされたシートが、ひんやりとしていて心地いい。
「夏海ちゃん、よろしくね」
運転席に座った弘輝が、夏海に笑みを向けた。
「はい……よろしく、お願いします」
夏海はちらりと弘輝を見てから、眼を逸らして言った。
「緊張してる?」
「……はい」
膝に乗せたポーチを両手で握る。
「緊張、ほぐしてあげようか?」
「え……えっ!?」
弘輝が身を乗り出してきて、左手を夏海の腰の横に突く。
「リラックスして……デートなんだから、緊張してたら楽しめないよ?」
「あ、あぅっ……!」
左手で支えながら、身体をひねって右手を伸ばし、夏海の膝に触れた。
びくっと身が縮んでしまう。
「こうすると……ね?」
「えっ、あ、やっ……!」
──やっぱり、恥ずかしいこと……!
弘輝の右手がスカートの裾を抓み、ゆっくりと捲ってゆく。
「夏海ちゃんは、こういうのが好きだからね……緊張なんて忘れられるよ」
「あぅっ……」
夏海の心がざわざわと揺れる。
「これ、どけて……」
弘輝がポーチを彼女の手から奪い、後部座席に放ってしまう。
手を戻すと、さらにスカートを捲る。夏海の太腿が露になる
「やっ、弘輝さん……」
「上も、脱いじゃいなよ」
「えっ……?」
「その白いの……暑いんじゃない?」
「やだ、そんな……」
「だいじょうぶだって……キャミ着てるでしょ?」
本来下着であるキャミソールは、現在ではもうTシャツと変わらぬ扱いだ。
もっとも、Tシャツだって、ブラウスやシャツにしても、起源は下着として
着用されていた衣服である。
そうはいっても、夏海にとって、身体のラインが露になるキャミソールだけ
というのは大胆に感じられるし、胸の膨らみまではっきりと判ってしまうのは
非常に心細かった。
「一昨日に比べたら……ぜんぜん平気でしょ?」
弘輝の指が、へその前で結ばれた紐を解く。
「あぅっ、うぅ……」
──あんなのに比べたら……そうだけど……。
一昨日の午後、弘輝の部屋で裸にされ、窓際に立たされて責められた。
確かにそれに比べればマシかもしれない。肌を曝すわけではない。
けれど──あの夜から続いている疼きが、また熱を上げてしまいそうだった。
解っていたことだった。
彼は自分に恥ずかしい想いをさせて責めるつもりなのだ。
羞恥に昂ぶらせ、淫らに喘がせ、官能に導いてくれる──
──導いて、くれる……気持ちよく、してくれるんだよね……。
自分の心の奥に眠っていた、羞恥を求める本性が、ふつふつと泡立ちはじめ、
胸が熱く苦しくなってくる。
否定などできない──そんなふうに責められることを、自分は望んでいる。
「いい子だね、夏海ちゃん……好きだよ、夏海ちゃん」
「あぅ……」
──好き……弘輝さんは、わたしを……エッチなわたしを……。
夏海は抗わなかった。
ゆったりしたプルオーバーが脱がされてしまう。
エアコンから吹き出される冷気が、火照りはじめた肌を撫でてゆく。
横向きの加速度が、夏海を左右に揺さぶる。
クーラーのおかげで車内の温度は快適だし、夏海の座る助手席側には、強い
陽射しもほとんど当たらない。
駐車場を出てまだ二分と経っていないが、すでに町の中心部を抜けていた。
住宅の密集した地区の外側、平地には狭い水田が、傾斜地には畑が広がって
いて、その先はもううねうねと曲がりくねった山道が続いている。
さらに先へと、車は進む──斜面にへばりつくように並んだ果樹園と、深い
木々との間を縫うように、アスファルトの道路が続いている。
ところどころに農家のものであろう古びた軽トラックが停められていた。
──どこ行くのかな……この道って、確か……。
夏海は不安に思いながらも、口には出せないでいた。
隣の市へ続く道ではない。山をいくつも越えて、さらに奥深く、この町より
もっと小さな町へと続いている道だった。
果樹園の一帯を抜けると、周りの風景も一変する。
左の山側は数メートルの高さのコンクリートで覆われ、落石を防ぐネットが
かけられている。
右側は白いガードレールが続き、その外は垂直に近い切り立った崖のように
夏海には思えた。斜面に無数の草木が生い茂っている。
フロントガラスの向こうには、木々の隙間から、空の青が広がっている。
弘輝は慣れた手つきでハンドルを操って、右に左にカーブする道に、難なく
車を走らせている。
「夏海ちゃん、この辺って来たことあるの?」
「ええ……」
前を向いたまま訊いた弘輝に、夏海は眼だけ向けて答える。
「へぇ、そうなんだ。自転車とか?」
「いえ……父の車で……」
弘輝がちらりとこちらを見たため、夏海はすぐに眼を伏せた。
「ドライブ?」
「はい……こっちに来てすぐと、ゴールデンウィークに……」
「ここ、見晴らしいいし、素敵でしょ?」
「はい……」
夏海は冬香から、この辺りに住む車好きな者たちが、しばしばこの道で腕を
競い合っているという話を聞いたことがあった。
それを証明するかのように、路面には黒いタイヤの跡がいくつも残っている。
弘輝もそういう類の人間なのだろうかと思う。
だがそれよりも──
夏海の知る限り、この先に民家はない。人気のない山奥である。
──やらしいこと、させられるのかな……。
キャミソールとミニスカートという、心細い姿の自分が怨めしい。
いや──どんな服を着ていても、変わらないだろう。
服を脱がされ、車外に連れ出されるのかもしれない。
車が通りかからないとも限らない。
そんなことになれば──
──きっと、エッチになっちゃう……うぅん、わたし、もう……。
すでに昂ぶりはじめていた。
あの夜から消えない疼きが、夏海を内から責めている。
「ん……そろそろだな。ほら、あそこ……」
弘輝が左手で正面を指差す。
道が大きくカーブし、視界が木々の壁にふさがれる。
「あ、隠れちゃったけど、おっきなアンテナ……憶えてる?」
夏海は頷いた。
山頂周辺を平らに削り取ったらしい、広い展望スペースのような場所があり、
そこには大きな鉄塔が建っていた。
山に囲まれたこの町に、テレビやラジオの電波を中継するアンテナである。
「とりあえず、飯食いに行く前に……第一目的地はそこ」
自分はこれから、どんな羞恥を受けることになるのだろうか──
意識したくなくても、身体の疼きが意識に浮かんできてしまう。
「高いとこなら少しは涼しいかと思ったけど……あんま変わんないね」
ふたりは車を降りて、剥き出しの地面に立っていた。
山頂の広場は、整地されただけで舗装はされていない。
真夏の太陽はやや傾いてはいるが、焼けるような陽射しを放っている。
「そうですね……でも、風があります……」
風がそよいでいるし、空気が澄んでいる。いくぶん涼しく感じられた。
車のエンジンはかけたままで、冷房も入れっぱなしだ。
きっと、ここからはすぐに立ち去るつもりなのだろう。
「やっぱ景色いいよなぁ……夏海ちゃんは、こういうの好き?」
「はい……好きです」
「そっか、よかった。連れてきた甲斐があったよ」
頭上には澄みきった青空が、周囲には緑の山々が広がっている。南を望めば
白く霞んだ太平洋の水平線も覗えて、こんもりとした入道雲が浮いていた。
わずかの間、夏海は羞恥を忘れることができた。
自分たちの暮らす町の中心部が一望できる。
夏海の育った都心近くの住宅街とはまるで違う。江戸時代の旧道に沿って、
米粒のように小さな家々が集まっていて、周りを畑や水田が囲っている。
ところどころに大きな建物が見える。果実の選果場、スーパーマーケット、
そして学校──いくつか工場もあるが、どれも規模は小さい。
夏海の通う学校は手前の山の向こう斜面にあり、ここからは見えなかった。
「俺らの家は、っと……あそこが役場で……」
彼が指差しているのは、高い建物と体育館、消防署と広い駐車場が集まって
いる場所、町民センターだ。そこにある図書館に、夏海はよく通っている。
「ちょっと横の……あの青い屋根、たぶんあれ、夏海ちゃんの家だね」
夏海の自宅は、賃貸の一軒家である。築年数はかなり経っているようだが、
鮮やかな青い瓦屋根は、古さをあまり感じさせない。
そこから少し西に、弘輝の自宅──二日前、責められた家がある。
父親と初めてここを訪れたのは、まだ肌寒い春の日曜だった。眼下に広がる
山には、咲きはじめた桜も覗えて、新しい生活への不安もいくらか和らいだ。
その次に訪れたのは、初夏の陽気の漂う黄金週間だった。そのときは冬香も
一緒だった。彼女も、弘輝と同じように自分たちの家を指差していた。
「しまったなぁ……飲み物、買ってくるんだったよ」
弘輝が夏海の肩に手を回し、夏海はびくっと身を竦める。
確かに、喉が渇いていた。
「降りてコンビニでも行こうか」
「はい……」
「じゃあその前に……と」
「あっ……」
夏海は頷くと、弘輝は腕に力を籠めて、夏海の身体を抱き寄せた。
「ちょっと、いいことしよっか」
いやらしいことに違いない──夏海は即座に思った。
束の間忘れていた羞恥が、勢いを取り戻してゆく。
「夏海ちゃん……もっとエッチな格好、できるよね?」
「──っ!?」
弘輝の指が、夏海の肩を撫で──キャミソールのストラップと重なっていた
白いブラジャーのそれに、彼の指がかけられた。
「あっ、やだ……」
身をよじって逃れようとするが、彼に正面から抱きすくめられてしまう。
大きな乳房が弘輝に押し付けられ、彼の体温が伝わってくる。
鼓動まで響いてくるようだった。
「いい子にしてたら、乱暴にはしないよ……ね?」
──やっぱり、やっぱりそうなんだ……。
弘輝の片腕は、しっかりと夏海の細い腰を抱え込んでいる。
もう片方の指が、ブラのストラップをずらして腕に落としてしまう。
「だいじょうぶ……誰も見てないし、裸にするわけじゃない」
「やっ、あぅっ……」
弘輝の指は、反対側の肩紐も外してしまうと、夏海の背中へと回される。
夏海には、震えて身を強張らせることしかできなかった。
弘輝の指は、キャミの上から、いともあっさりとホックを外してしまった。
垂れたストラップから腕が抜かれた。
抗おうと思えば抗えたかもしれない。
逃げようとすれば、逃げられないこともなかっただろう。
けれど、夏海は弘輝に抵抗せず、逃げ出しもしなかった。
「いい子だね、夏海ちゃん」
──いい子? 違う……わたしは、エッチな子……。
ブラジャーを身体に固定するものはすべて外されてしまった。
あとは、膨らみそのものと、外から押さえつけているキャミしかない。
「これって、一昨日のだよね? あの男……竹下、先生だっけ……」
弘輝の声はかすかに震えていた。
夏海が今日身に着けていたのは、二日前に竹下から受け取った下着だった。
夏海の大きな乳房には、家にある下着ではサイズが足りていないため、普段
から窮屈な思いをしていた。
この下着の着け心地は、比べ物にならないほどに快適だった。
今日、弘輝と会うために、どの下着を着けるか迷う必要はなかった。
だが、それだけではない──
竹下の与えてくれた下着に弘輝がどう反応するか──夏海自身、自覚しては
いなかったが、そんな気持ちがわずかながら働いていた。
相手を試すような──それは彼女の、女としての本能なのかもしれない。
「夏海ちゃんは、エッチな子だからな……」
弘輝はわずかな動揺を浮かべるが、夏海は気づかない。
相手の様子を覗うほどの余裕は、彼女にはなかった。
「あっ、やっ……!」
弘輝の手が、夏海のふっくらと膨らんだ胸元に侵入した。
びくっと震えた彼女に構わず、弘輝は汗ばんだ谷間の奥にまで指を伸ばす。
「こんなもの……要らないよな?」
「あぅっ!」
弘輝は指に力を籠め、彼女の膨らみごと持ち上げるように引っ張った。
カップが夏海の大きな双丘に引っかかり、それを持ち上げてしまう。
「ひっ、んぅ……」
弘輝は真っ白なブラジャーを強引に引き上げる。
「はぅっ……!」
キャミソールの中で、乳房がぷるんと大きく揺れた。
敏感な突起がこすれて、夏海はびくんと震えてしまう。
──ブラ……取られちゃった……!
キャミには裏当てがしてあり、小さな突起が浮き出ることはないだろう。
しかし、ブラの抱擁感は消え失せ、胸元が急に心細くなる。
身体が疼いていた。小さく震えながら、夏海はそれを意識してしまう。
「夏海ちゃん……恥ずかしい?」
「あぅ……」
弘輝は夏海に体温の残るブラジャーを持ったまま、彼女の身体から手を放し、
数歩下がった。
夏海は怯えた子犬のような顔で弘輝を上目遣いに見る。
「おっぱいの形、綺麗だよね……ブラしてなくても、ぜんぜん変わんない」
弘輝の言葉に夏海の羞恥が刺激され、胸を手で覆い隠す。
「花火のときも……ノーブラノーパンだったよね?」
「やだ……言わないで、ください……」
十日前──下着を着けずに浴衣を着ていた自分が思い出される。
昼間は友人たちと一緒だったから、羞恥も和らいだ。
だが、その夜──夏海は変わってしまった。
ふたりの男によって、変えられてしまったのだ。
「今日も……どう? ノーブラノーパンでデート……刺激的じゃない?」
「──っ!」
──そんなっ! そんな、エッチなこと……。
身体が熱いのは、気温の所為でも、照りつける陽射しの所為でもない。
それは夏海自身、痛いほどに解っていた。
弘輝の嗜虐的な瞳に、夏海の心が引き込まれてしまう。
──俺……もしかして、本気なのか……?
弘輝は、ちくちくと胸を刺す痛みにうろたえていた。
確かに夏海は、彼にとってこの上ないほどに魅力的な少女だった。
自分を満たしてくれる──彼女には、羞恥に恥らい、昂ぶってしまう性質が
備わっていることは明らかだし、幼いながらも大人の女性でも羨むほどの胸の
膨らみを持っている。
まだ中学生の幼い少女であるということだけが──
いや、それだけではない。それだけなら、躊躇いはしても、うろたえること
などなかっただろう。
彼女は学校の教師──自分と同じ性質を持っているらしき男にもてあそばれ、
弱みを握られている。彼女はその男から受けた恥辱に怯えていた。
なのに、どうして──
手にしたブラジャーをぎゅっと握り締める。
──嫌なんじゃないのかよ……。
男から与えられたという下着を、彼女は今日身に着けてきた。
これがどういう意味なのか──
──なんで俺と会うのに、あいつからもらったもん着けてくんだよ……。
弘輝は嫉妬している自分自身に、さらに苛立ってしまう。
夏海の手持ちの下着の中で、サイズの合うブラジャーがそれしかないことを
彼は知らない。
もし弘輝がそれを知っていれば、ここまで苛立つこともなかっただろうし、
うろたえることもなかっただろう。
そして、夏海に本気で惚れはじめている──そうも思わなかっただろう。
「下も脱ぎなよ……できるでしょ?」
うつむいて眼を伏せた彼女は、身体を小刻みに震わせている。
「夏海ちゃんは変態だから……変態で淫乱な子は、自分でできるよな?」
「あぅ……」
陽射しが肌を焼いている。汗が噴き出てくる。
黒いTシャツは失敗だったかもしれない──陽光は反射されずに吸収されて、
熱に変換される。
夏海も日光を浴びて、彼女の肌がいっそう白く眩しく感じられる。
「早くしないと……汗びっしょりになって、キャミ透けちゃうよ?」
夏海は上目遣いに弘輝を見て、再び視線を落とす。
「こ、ここで……ですか?」
彼女のセリフに、弘輝の背筋がぞくぞくと粟立つ。
「そうだよ、ここで……スカート捲って、パンツ脱ぐんだ」
「あぅっ……」
「ノーブラ、ノーパン……変態で淫乱な中学生にはぴったりだろ?」
「はぅっ、んぅ……」
夏海は怯えた眼を弘輝に向け──
「はい……」
腰を屈めてスカートに手をかけた。
自分の好みに合わせてくれたのか──下ろした髪がはらりと垂れる。
夏海の手がスカートを捲ってゆく。
膝上数センチほどの裾が、ゆっくりと持ち上げられてゆく。
ほっそりとした子供っぽい腿が露になってゆく。
「夏海ちゃんはいやらいし子だなぁ……自分でスカート捲ってる」
「やだ……うぅ」
「嫌じゃないでしょ? 嫌だったら、自分でそんなことしないよね」
「うぅっ……」
彼女の息が荒くなっている。
頬を赤く染め、身体を震わせながら、夏海はスカートを持ち上げる。
腿の中ほどまでが露になると、夏海はスカートの中に手を潜り込ませた。
「そう、いい子だ……あとはパンツを脱ぐだけ……簡単だろ?」
──俺も変態だ……こんな可愛い子に、こんなことさせて……。
弘輝の股間に、血液が凝縮してゆく。
二日前の夏海の話を聞いた限り、彼女はまだ──
処女を奪うことに、さほど思い入れがあるわけでもないが──
弘輝は、彼女のすべてを手に入れたいと思う。
「そう、いい子だ……あとはパンツを脱ぐだけ……簡単だろ?」
──わたし……変態、淫乱……中学生……。
夏海はスカートの中で、ショーツに指をかける。
ブラジャーとは違い、竹下から受け取ったものではない。
冬香たちと一緒に出かけたときに買った、お気に入りのショーツだった。
白地に淡いピンク色で猫の模様がプリントされ、フロントに小さなリボンが
飾られている可愛らしいデザインだ。腰の浅い、ヒップハングやローライズと
呼ばれるタイプである。
未成熟な秘処が熱く疼いている。
じわりと露がにじんで潤んでいるのが自分でも判る。
直接的な刺激を受けたわけでもないのに、夏海の身体は昂ぶっている。
羞恥が彼女を昂ぶらせてしまうのだ。
──変態だもん……エッチだもん……。
夏海はショーツの両サイドに指をかけ、ゆっくりとショーツを下ろしてゆく。
ショーツが下がると同時に、スカートの裾も下りてゆく。
華奢な腿を滑り、腰を屈めながら膝に到達すると、ショーツがスカートの下
から現れた。
「やらしいなぁ、夏海ちゃんは……自分でノーパンになっちゃうんだ?」
「あうっ……うぅ……」
弘輝の言葉に責められ、さらに淫らな気持ちがあふれる。
──ノーブラ、ノーパンなんて……。
恥ずかしい姿になってしまうのに、それを望んでいる自分が存在している。
クラスで一番背の低い夏海は、クラスで一番大きな乳房を持っている。
ショーツを脱ぎながら、前かがみになった自分の膨らみが眼に入る。
肩から胸元まで剥き出しになったキャミソールは、自分の胸の谷間の深さが
よく判る。
下ろした髪が穏やかな風に揺れて、頬をくすぐる。
「パンツ汚れちゃうから、サンダル脱ぐといいよ」
弘輝に言われ、サンダルを脱いでから片脚を上げ、ショーツを抜き取る。
ふらふらとよろめきながら、もう片方の脚からも抜き取ってしまう。
「いい子だ……自分でパンツ脱いじゃうなんて、ほんとにエッチだよ」
──脱いじゃった……自分で、ノーパンになっちゃった……。
身体を起こすと、弘輝が近づいてきて手を差し出した。
「パンツ、見せて」
「あぅっ……」
「もう濡れてるんじゃない?」
「あっ! あぅ……」
弘輝の手が、奪うようにショーツを取ってしまう。
恥ずかしくて顔を上げていられない。
「やっぱり濡れてる……」
「──っ!」
ちらりと眼を向けると、弘輝はショーツを広げてその部分を見ていた。
ちょうど彼の真上に太陽が輝いていて、眩しくてすぐに眼を伏せる。
「夏海ちゃんの愛液で濡れてるよ」
「あぅっ……」
下着には、いやらしい染みができていたのだろう。
「下は、先生がくれたやつじゃないんだね。可愛いパンツじゃん」
ショーツを凝視されている。しかも、淫らな露が染みている。
「子供っぽいけど……こういうほうが、夏海ちゃんには似合ってるな」
自分のお気に入りを褒められ、似合ってると言われれば、嫌ではない──
けれど、どう反応していいのかは判らない。恥ずかしいことに変わりはない。
「そうだ、いいこと思いついたよ……よし、そうしよう」
「え? あの……」
上目遣いに弘輝を見る。
陽光が網膜を焼くようで、眼を上げていられない。
「ま、もともと街に出ようと思ってたしね。そのついで……」
弘輝がにやりと笑ったのを、夏海は肌で感じていた。
車はもと来た道を戻ってゆく。
カーブを曲がるたびに、身体が左右に揺られ、大きな膨らみも揺れる。
薄い水色のキャミソールは、胸の大きさをまったく隠してくれない。
乳房の谷間をシートベルトが押さえつけていて、夏海の羞恥を掻き立てる。
スカートは捲り上げられ、太腿の付け根までが露になっている。
それどころか──
「スカートに染みたら困るよね?」
もっともらしいことを言った弘輝の手で、腰の後ろにまで捲られ──彼女の
未成熟の小さな尻が、シートに直接触れていた。
ゆったりしたフレアスカートは、腰周りを隠してくれてはいるが、心細さを
癒してはくれない。
ブラジャーもショーツも身に着けていない。キャミとスカートを取り去れば、
夏海は生まれたままの姿を曝すことになるのだ。
キャミソールの下で、小豆より小さな突起がきゅっと尖っている。胸の裏に
厚い布が当てられているため、浮き出ることはないが──
──こんなの、誰かに見られたら……。
車は自分たちの暮らす町へと戻ってゆく。
知り合いとすれ違わないとも限らない。信号で停止しているとき、すぐ横に
いないとも限らない。あられもない姿を見られてしまうかもしれない──
なのに、身体は熱く火照り、それを望んでいるかのように疼いている。
「俺、コンビニでバイトしてんだよ」
弘輝がハンドルを操りながら言う。
この町に、一軒だけあるコンビニエンスストアのことだろう──夏海もよく
利用する店である。
「いつもは深夜なんだけどね、たまに昼間とかも入っててさ……夏海ちゃんを
初めて見たのも、うちの店でね……六月ぐらいだったかなぁ」
夏海はちらりと弘輝を覗う。彼は正面に顔を向けたままだ。
「そんとき、可愛い子だなーって思ってね。それと……すげぇ胸だな、って」
「あぅ……」
夏海が怯えたように胸に腕を重ねると、弘輝はくすりと笑った。
相槌すら打てない夏海に、彼は一方的に話しかけていた。
自分が大学生であり、コンビニでアルバイトをしているということ。
今日も朝まで仕事をしていて、昼まで仮眠を取っていたこと。
朝のメールは職場から、昼のメールは起きてすぐ送ったこと。
二日前のあの午後は、バイトを控えていたため、彼女を満足させるだけで、
それ以上の行為には及ばなかったのだということ。
胸の大きな子が好きで、相手に羞恥を与える行為が好きだということ──
車は住宅地に入り、夏海たちの家のある方向へと進む。
「俺って変態でしょ……やっぱ、変態は嫌いかな?」
「え……」
言葉に詰まる──
──嫌いじゃ、ない……たぶん……。
「こんな変態野郎でも、好きになってくれる?」
外見や普段の性格であれば、弘輝はじゅうぶんにいい男だといえるだろう。
すらりと背が高く、顔立ちも整っている。冬香や千歳が見たら、イケメンだ
などと言って眼を輝かせるだろう。
「解りません……まだ、解りません」
嫌いなら彼の誘いを受けたりしない。淫らな行為にしたって、心の奥底から
嫌がっているのなら、大声を上げて泣き叫んで拒むだろう。そうでなくとも、
昂ぶって、達してしまったりはしないはずなのだ。
「まだ、ってことは……期待していいのかな?」
「……解りません。そんなの……解らないです」
夏海には、自分の気持ちが一番理解できない。
恥ずかしいことをされたり、恥ずかしい姿にされたりするのは嫌だ。
けれど、それを受け入れてしまっているのは事実だし、望んでもいる自分が
いるのもまた、確かだった。
「そっか……ダメだったら諦める……信じてもらえないかもしれないけどね」
「……はい」
夏海は顔を上げ、弘輝の横顔を見つめて、小さく頷いた。
気づけば、弘輝の仕事先であるコンビニエンスストアの近くまで来ていた。
──恥ずかしいよぉ……。
夏海は弘輝の財布を握り、震えながら路側帯をふらふらと歩いている。
クーラーの利いた車内とは別世界の、蒸し暑い澱んだ空気が満ちていた。
すぐ横を乗用車が走り去る。排気ガスと排熱の混じり合った不快な熱風が、
夏海の黒髪とスカートを揺らす。
夏海は今、キャミソールとスカートだけしか身に着けていない。
大きな胸を包むのは、淡い水色のキャミ一枚──ブラジャーを着けていない
ふたつの膨らみは、彼女の歩みに合わせてぷるぷると艶めかしく揺れている。
アイボリーのフレアミニスカートの下には、何も穿いていない。膝上までの
丈である。容易く捲れ上がってしまうことはないだろうが心細い。
弘輝の車は、コンビニから十メートルほど空き地に停車していた。
──ひどいよ……意地悪だよぉ……。
彼はどんな顔をしているのだろう。
弘輝の財布は黒い合皮でできていて、ほどよく使い込まれている。
夏海はそれをぎゅっと握り、羞恥と緊張に怯えながら歩いていた。
コンビニの前には駐車場があるし、まだ三台ぶんの空きスペースがあった。
「俺もさ、女の子連れてバイト先に行くのは、ちょっとね……」
彼はそう言っていたが、真の理由ぐらい夏海にも理解できた。
彼は夏海に羞恥を味わわせるために、離れた場所へ車を停め、彼女ひとりで
店に行き、ふたりぶんのドリンクを買ってくるよう言ったのだ。
夏海は弘輝の仕打ちに身を縮ませながら、ようやく店の前まで辿り着く。
──やだっ……!
と──ちょうど客がドアから出てきた。
夏海は咄嗟に顔を伏せたが、その三十台ぐらいの男性が自分をじろじろ見て
いるのは、疑うまでもなかった。
──やだっ……ダメだよ、エッチになっちゃダメだってばぁ……!
意識すればするほど、消すに消せない疼きが、身も心も掻き乱す。
山頂でブラを剥ぎ取られ、ショーツを脱ぎ、あられもない姿で車に揺られて
いるうちに、夏海の秘処はすっかり蜜をたたえていた。
「いっぱい濡れちゃって……夏海ちゃんは濡れやすい子なんだね」
車から降りるとき、弘輝はシートを指でなぞりながらそう言った。
──わたし……いっぱい濡れちゃう、エッチな子だよぉ……。
二日前──学校でクラスメイトの視線に昂ぶってしまい、竹下の前で淫汁を
滴り落としたことを思い出す。
こんな格好で店に入ることなど恥ずかしすぎる。
店員に見られてしまうし、客にも見られてしまう。
今すぐ走って逃げてしまいたい──自宅までは、歩いて十分もかからない。
それでも──
夏海は弘輝の言葉に従って、ドアに手をかけた。
ぐいと押し込むと、心地いい冷えた空気が頬を撫でた。
いらっしゃいませ、と店員の声──
自分以外にも数人の客がいて、商品を選びながら歩いている。
そのうちのふたりは明らかに自分に眼を向けていた。
肩が剥き出しのキャミなど、こんな田舎町であっても珍しくはない。
だが、その下にブラを着けていないとなると──
──気づかないで……お願い……。
夏海はうつむいたまま、足早にドリンクコーナーへ進んだ。
弘輝はさっぱりしたスポーツドリンクがいいと言っていた。
日本でもっとも売れているであろう銘柄のひとつを手に取る。
そのそばにあったミネラルウォーターを、自分用に掴んだ。
夏海の小さな手では、二本のペットボトルを片手で持つのは難儀だったが、
いまさら籠を取りに戻るのも躊躇われて、急いでレジへと──
「きゃっ──!」
「わあっ!」
身体の向きを変えた直後、すぐそばにいたらしい男性店員とぶつかった。
夏海はよろめき、脚がもつれ──
その場に、すとんと尻餅をついてしまった。
店員が運んでいたらしい段ボール箱が、軽い音を立てて床に落ちた。
夏海はわずかの間、思考が停止していた。
彼女の手にしていたペットボトルは、二本とも足元に転がっている。
握っていたはずの弘輝の財布の感触がない。
夏海は両手を尻の後ろに突いて身体を支えている。
右の膝は立っていて、左の足は床に投げ出されている。
床に触れている手のひらと臀部が、じんじんと痛みを訴えてくる。
「あっ……ごめっ、すみません!」
──わたし、ぶつかったんだ……。
頭上からかけられた声に、夏海は我に返った。
二十歳ぐらいだろう──店の外装と同じ、オレンジとグリーンのカラフルな
シャツを着た男性店員が、自分を覗き込んでぺこぺこと頭を下げていた。
店員は段ボール箱をひとつ抱えている。夏海のすぐ横にも箱が落ちている。
彼は箱を重ねて運んでいた所為で、自分が視界に入っていなかったのだろう。
自分が急に動きだしたから、ぶつかってしまったのだろう──
「あのっ、怪我、ない? ……ですか?」
「え? あ……はい……」
幸い、スナック菓子を詰めた軽い箱だったし、身体には当たらなかった。
だが、そんなことより──彼の大きく開かれた眼が向けられている先は──
──え……? えっ!? あぁっ! やだぁっ……!
夏海はかつてないほどの俊敏さで、立てていた膝を閉じ──
捲れ上がって、腿のつけ根まで露になっていたスカートを手で押さえた。
──見られた……? 見られちゃったっ……!?
腿がほとんど剥き出しになったスカート。夏海はショーツを穿いていない。
店内は明るく、眼の前で──
「申し訳ございません、お客様! だいじょうぶですか?」
別の店員が大声を上げて駆け寄ってくる。三十代中半ぐらいの女性だった。
「岡本君、何ぼーっと突っ立ってるの!? ほら、拾ってぇ!」
「あ、はいっ……!」
女性に怒鳴られ、若い店員は抱えていた段ボール箱を置くと、夏海の手から
落ちたペットボトルを拾った。
彼女の背後に落ちていた財布も拾い──
「あれ? これって……」
「ごめんなさいねぇ……だいじょうぶ? どこか、ぶつけたりしてない?」
女性は彼の声には反応せず、穏やかな口調で心配そうに夏海を覗き込んだ。
「いえ……あの、だいじょうぶです……」
「ほんとに? どこか痛くない? 立てる?」
「はい、すみません……」
夏海は、差し出された彼女の手を握る。
痛みはあるが、大したことはない。すぐに治まるだろう。
ぐいと引っ張られ、夏海はふらつきながら立ち上がる。
女性が夏海の尻をぱんぱんと優しくはたいてくれる──それが親切心からの
行為であると解っていても、身が縮み上がるほどの想いがした。
「あのぉ……」
「もう! 岡本君……落ちたの渡さないで! 新しいのに取り替えなさいよ」
「は、はいっ!」
青年は首を竦めて同じ商品を棚から取り出した。
──やだ……見られちゃったのかな……? わたしの、あそこ……。
彼の視線が痛かった。
──見ないでよぉ……お願い……。
財布とともに、二本のボトルを夏海に手渡すとき、彼は明らかに彼女の胸に
眼を向けていた。
「ちょっとぉ、ぼーっとしてないで、さっさと片づけなさいよ」
「はい、すみませんっ……」
女性に尻を叩かれ、彼は箱を再び抱えてバックルームへ去っていった。
「ほんとにもう……ごめんなさいねぇ」
周りにいた客も、何事かとこちらを見ていた。
いくつもの視線に曝され、消えてしまいそうなぐらいに恥ずかしかった。
眼を丸く見開いた若い男性店員の顔が、頭から離れなかった。
一秒でも早く、店から立ち去りたかった。
泣きたくなるほどに──身体が激しく疼いていた。