隣の市に向かう峠の道を、滑らかな流線型を描いた、黒いスポーツタイプの  
軽自動車が走っている。  
 夏海は助手席で震えていた。  
 手には買ったばかりのミネラルウォーターのペットボトルを握っている。  
 よく冷えていて、渇いた喉を潤してくれた。  
 しかし、身体の奥で燃え上がる炎を消してはくれなかった。  
「夏海ちゃんはエッチだ……ほんとに、恥ずかしいのに感じちゃうんだね」  
 運転席の弘輝が軽い調子で夏海を責める。  
「あぅっ……」  
 上はキャミソールただ一枚だけで、ブラジャーを着けていない。  
 大きな胸の谷間にシートベルトが食い込んでいて、彼女の膨らみの豊かさを  
際立たせ、夏海に羞恥をもたらしている。  
「乳首、勃ってるよね?」  
「うぅっ……」  
 弘輝の言うとおり、キャミの下では、可愛らしい突起が縮み上がっている。  
──ダメ……気持ちいいよぉ……。  
 車が揺れるたびに、生地とこすれて快感を訴えてくる。  
──恥ずかしいのに……エッチだよぉ……。  
 アイボリーのゆったりしたフレアミニスカートは、腿の付け根まで捲られて  
いて、細く華奢な白い脚が露になっている。  
「もう、濡れすぎてるんじゃない?」  
「あうっ! うぅ……」  
 彼の言葉どおり──シートに直接触れた夏海の幼い秘裂からは、とろとろと  
蜜があふれ出してシートを濡らしていた。  
──わたし……ほんとに、おかしくなっちゃう……。  
 ほんの数分前──  
 夏海はドリンクを買いに入ったコンビニエンスストアで、店員とぶつかって  
尻餅をついてしまった。  
 手のひらと尻の痛みは、もうだいぶ治まっている。  
 だが、そのとき覚えた羞恥は夏海の心を激しく揺さぶり、彼女に強い官能を  
湧き立たせていた。  
 その前から、ずっと夏海は羞恥に蝕まれていた。  
 夏期講習の最終日を終えて、一度帰宅してシャワーで汗を流し、彼女なりの  
精一杯のおしゃれをして、弘輝に会いに家を出た。  
 そして──駐車場で上着を脱がされ、山頂の広場で下着まで脱がされた。  
 ブラジャーもショーツも着けず、キャミとミニスカートだけという姿で店に  
入った夏海は、店員とぶつかり、尻餅をつき──  
 スカートは、脚のつけ根まで捲れてしまっていた。  
 すぐ前にいた店員は、眼を丸くしてそこを凝視していたのだ。  
「見られちゃったかもね……今度、訊いてみよう」  
「──っ!」  
 その店は弘輝のバイト先である。  
 岡本と呼ばれていた冴えない風体の男性店員は、彼の同僚なのだ。  
「訊くまでもないかな……きっとあいつから俺に言ってくるよ。いや、俺だけ  
じゃないだろね。他のやつにも話すだろうなぁ」  
「そんなっ……!」  
 もし彼が、自分が下着を着けていないことに気づいていたら──自分の剥き  
出しの秘処を見られてしまっていたら──  
「店中のやつに知られちゃうな……店だけじゃないよ。その友達とか知り合い  
とかだって……家族に話すやつも出てくるだろうし」  
「やだっ……言わないで、くださいっ……!」  
「夏海ちゃんのこと、町中の人に知られちゃうかもね」  
「やだぁ……そんなの……」  
 弘輝は自分の羞恥を刺激するために、そんなことを言うのだ。  
 夏海はじゅうぶんすぎるほどに理解していた。  
 自分を恥ずかしがらせ、淫らな欲望を燃え上がらせる──彼はそんな行為に  
興奮する変態男なのだ。  
 しかし、うつむいたままの夏海は、彼の眼に浮かんだ動揺に気づかなかった。  
 
──くそっ……まずかったなぁ……。  
 弘輝は夏海を言葉で責めながら、内心自分の軽率さを悔やんでいた。  
 ひとりで行かせたのは失敗だった──  
 ペットボトルを入れた袋を手に戻ってきた夏海は、泣きそうな顔をしていた。  
 彼女に店での様子を尋ねると、夏海は鼻をすすりながらぽそぽそと答えた。  
──あいつ……マジで見たのか絶対吐かせてやる。  
 弘輝とはひとつ違いで、小中学校での後輩である岡本陽一は、バイト先でも  
彼の後輩だった。  
 高校は別で、今年の春に卒業したそうだが、受験に失敗して浪人生──受験  
勉強のかたわら、社会勉強と小遣い稼ぎのアルバイトだと聞いている。  
 同じ町の住人だが、家は近くないし、親しいわけでもない。シフトもあまり  
重ならないため、会話する機会は少なかった。  
──こんなことなら、一緒に行くんだった。  
 陽一が彼女の恥ずかしいところを見てしまったのかどうかは判らない。  
 もしそうだとすれば、それは弘輝にとっては誤算もいいところだ。  
 彼は夏海に心を奪われはじめている。  
 自分だけのものにしたいと思っていた。  
 彼は相手に羞恥を味わわせて快楽を覚える性癖を持っているが、といって、  
心惹かれる相手の肌を、無節操に曝させるような男でもない。  
 見られてしまうかもしれない、だが、見せてしまうわけではない──そんな  
ギリギリのラインが、彼のもっとも好むところである。  
 自分が一緒なら、陽一と夏海がぶつかることもなかっただろう。  
 大学生の自分が、中学生の少女を連れてバイト先に行くなど、体面が悪くて  
やれたものではない。それに、彼女がひとりで羞恥に震える姿を想像しながら  
待つのも悪くない──そう考えてしまったのは、失敗だった。  
──ほんとに、見られたのか……?  
 スカートの中までは見られていないかもしれない。  
 だが、ブラを着けていないことぐらいは気づいただろう。  
 彼が夏海に興味を持ってしまったら──  
──っつか、馬鹿だな俺……。  
 溜息がもれた。  
 自分と夏海は、つきあっているわけではない。  
 すでに特別な関係であるかのように考えてしまっている自分に苦笑する。  
 特別といえば特別な関係ではあるのだろうが──  
──それほど気に入ってるってことなんかね……。  
 車は峠を超えて、隣の市へと入っていた。  
 ふたりはしばらくの間、無言だった。  
 左右にくねる長い坂を下りきると、視界は急に開けて、田畑の並ぶ平地へと  
道が続いている。  
 ローカル鉄道の線路を横に見ながら、まばらな商店街を抜ける。  
 量販店やパチンコ店、自動車教習所などが並ぶ辺りを過ぎて、川に架かった  
橋を渡る。  
 このまま道なりにまっすぐ走れば、十五分ほどで市の中心部へ到達する。  
 その前に、どこかで昼食を摂るつもりでいた。  
──夏海ちゃん、か……こんなエロいのに、中学生なんだよな……。  
 弘輝はちらりと夏海を覗う──と、眼が合った。  
 夏海は潤んだ眼を弘輝に向けていたが、すぐに顔を伏せてしまう。  
 艶やかな黒髪が、朱に染まった頬を隠す。  
 彼女はうつむいたまま、ペットボトルを握って小刻みに震えていた。  
 ちらちらと横目で弘輝を見ながら、もじもじと膝をすり合わせている。  
「どうしたの?」  
「あ、ぅ……あの……」  
 夏海はぽそぽそと消えそうな声で言った。  
「えと……と、トイレ……行きたいです……」  
 弘輝は思わず笑ってしまった。  
 
 学生は夏休み、社会人も盆休み──昼食にはやや遅い時間だったが、付近の  
飲食店は、どこも混雑していた。  
「どうしよう……ここもいっぱいかぁ」  
 弘輝は駐車場の前で車を停止させたが、再びアクセルを踏み込んだ。  
「あぅ……うぅ……」  
──おしっこ……もれちゃう……。  
 夏海は身を縮ませて震えていた。  
 エアコンの風が直に当たり、表皮が冷えている。  
 下着を着けていない所為もあり、尿意を過剰に意識してしまう。  
「どっかで、トイレ使わせてもらおうか?」  
「うぅ……でも……」  
「俺は待ってても構わないし……なんなら、外でする?」  
「えぇっ!?」  
 まったく予想外の言葉に、夏海は泣きそうになってしまう。  
「そんなっ……無理です……」  
「いや、冗談だってば……」  
 この辺りは開けていて、陰になるような場所もない。  
 中学生にもなって、人目に触れる屋外で用を足すなど──そんな恥ずかしい  
ことが、できるわけもなかった。  
「おしっこ……だよね?」  
「あぅっ……」  
 確かに夏海が今覚えているのは尿意だが、そうだと頷くのも恥ずかしい。  
 トイレに行きたいと告げることですら恥ずかしかったのに──  
「おしっこなら、ペットボトルに出せばいいよ」  
「──っ!?」  
 考えもつかない言葉に、夏海は粗相をしてしまいそうだった。  
「そんなのっ……もっと無理ですっ……!」  
「いやいや、ごめんごめん、冗談だって、ほんと……」  
 夏海は眉を寄せて怨めしげに弘輝を睨み付けた。  
 眼に涙が浮かんでいるのが自分でも判った。  
「ごめん、ほんとに……ごめんね、夏海ちゃん」  
「うぅっ……ひどいです……」  
 口を尖らせて眼を伏せる。  
──そんなの……恥ずかしすぎるよぉ……。  
 弘輝の言葉の光景を想像してしまう。  
 幼い子供のように股を広げ──二日前の昼、竹下にさせられたような格好で、  
ペットボトルをあてがい、用を足す──  
──やだ、わたし……。  
 尿をこらえている所為で、冷や汗がじわじわとにじんでいた。  
 スカートの腰の辺りがしっとりしている。  
 剥き出しになり、シートに触れているその部分が、ひくひくと疼いている。  
──弘輝さんの、横で……おしっこなんて……。  
 用を足している姿を見られる自分を想像し、昂ぶってしまう。  
 もっとずっと子供の頃ならいざしらず、今はもう中学生なのだ。  
 身体つきはまだまだ子供っぽいが、乳房は大きすぎるほどに膨らんでいるし、  
精神的にも思春期を迎えていて、性を意識し、異性を意識し、羞恥を──  
──恥ずかしいのに、感じちゃう……エッチな子……。  
 竹下と弘輝に何度も言われた言葉が夏海の心を刺す。  
 彼らの言葉は、催眠術のように夏海を変貌させていた。  
「もうちょっと我慢できる?」  
 赤信号で車を停めて、弘輝は夏海を覗う。  
「あぅ……解りません」  
「もうちょっと先にコンビニあったし……そこでトイレ借りよう」  
「はい……お願い、します……」  
 クーラーの冷気が身体を冷やし、尿意を抑えるのがつらかった。  
 また他人の眼に触れる場所に出なければならないのに、下着を着けていない  
ことなど気にならないぐらいに、限界が近づいていた。  
 ほんの少し──尿をするところを、彼に見られたいと思ってしまった。  
 
「俺、車で待ってるから」  
 片手を上げた弘輝に、夏海はこくりと頷き、早足でトイレに入った。  
 和式の便器をまたいでスカートを捲る──ショーツは穿いていない。  
 しゃがんだ瞬間に、しゃあーっと音を立てて勢いよく尿が噴き出した。  
──よかった、間に合った……あっ、音……。  
 あわてて水洗レバーを倒し、水を流す。  
「ふぅ……」  
 ショーツを穿いていたら、脱ぐのが間に合わなかったかもしれない。  
 店内に客は多かった。  
 店員は、明らかに自分の胸に眼を向けていた。  
 ブラジャーを着けていないことは、きっと気づかれただろう。  
 視線を下げればすぐそこに、深い谷間が見える。  
 手のひらを重ねる──羞恥に昂ぶっていた身体が、びくんと震えた。  
──気持ちいい……。  
 溜まっていた老廃物を排出し終え、夏海はロールペーパーに手を伸ばす。  
「──っ!?」  
 悲鳴が上がりそうになってしまった。  
 ホルダーにはペーパーが収まっている。  
──えぇっ!? やだっ……なにこれ……?  
 だが、それはぐっしょりと濡れていた。  
 ふと気づく──足元や壁が、びっしょりと水浸しになっている。  
 誰かが悪戯したのだろうか。  
 または、掃除中に誤って水を飛び散らせてしまったのかもしれない。  
──そんなぁ……。  
 先ほど、自分の町のコンビニで恥ずかしい目に遭ったばかりだというのに、  
この店でもハプニングに見舞われてしまった。  
 きっと今日は厄日なのだ。コンビニは鬼門なのだろう──信心深いわけでも  
ないが、夏海はそう思わずにいられなかった。  
 どうしたらいいのだろう──  
 ペーパーは芯まで水がしみこんでいるようだ。  
 引き出そうとするが、すぐに千切れてしまう。  
 蜜をたたえて潤んだ秘処を拭おうと思っていたのに、紙がなければできない。  
 ポケットティッシュはいつも持ち歩いているが、残念ながら、それを入れた  
ポーチは車の中に置いてきてしまった。  
 ハンカチならスカートのポケットにあるが、直に拭くのは躊躇われる。  
 もちろんこのままでは出られない。尿が付着したまま、ショーツも着けずに  
車に乗るなんて──外を歩くなんて考えられない。  
──そうだ……指で拭いて、洗えば……。  
 夏海は右手の指をそこへ伸ばした。  
 恥ずかしいところ、汚いところ──気持ちいいところ。  
「んっ……」  
 刺激にびくっと弾み、吐息がもれた。  
 そこは思っていた以上に、ぐっしょりと潤んでいた。  
 指先から感じるぬめりには、愛液だけでなく、尿も混じっている。  
「ん……はぅっ」  
 ぴたりと閉じた裂け目をなぞるだけで、身体は反応してしまう。  
 汚れを拭うためだからと自分に言い聞かせながら、秘裂に指を沈ませる。  
 熱く火照った身体が、もっと強い刺激を求めている。  
──わたし……おしっこして、コンビニで……ひとりで……。  
 二日前は、学校のトイレで、欲望に飲み込まれかけてしまった。  
 今日もまたあのときのように──  
──ダメっ、そんなのダメだってば……!  
 雑念を払うように頭を振る。  
 指にいやらしい露がぬるぬると絡みついている。  
 夏海は震えながら左手を伸ばし、レバーを倒して再び水を流した。  
 ふらふらと立ち上がり、粘つく指を洗う。  
 股の間はまだ潤んでいる。このまま外に出るわけにはいかない。  
 ハンカチで水気を取ってから、再び秘処を指で拭った。  
 拭いても拭いても蜜があふれてしまい、きりがなかった。  
 
 コンビニを出て、少し走ったところにあるイタリアンレストラン──  
 イタリアの田舎をイメージしたのであろう落ち着いた内装と、入り口からも  
見える大きな石窯が印象的な、この辺りのちょっとした有名店である。  
 待たされることを覚悟して入ったが、幸いにも五分と経たずに案内された。  
「どう? 夏海ちゃん……」  
「……ん、美味しいです」  
 弘輝はシーフードたっぷりのマリナーラ、夏海はシンプルなマルゲリータを  
注文した。  
 奢りだからなんでも頼んで、と弘輝が言ったおかげで、夏海は逆に恐縮して  
一番安いものを注文してしまったのだ。  
「でも……こんなに、食べれないです」  
「あれ、なんか食べてきたの?」  
 もともと一緒に食事をする予定だった。弘輝は首を傾げる。  
「いえ……ちょっと、多いです……」  
 夏海は慌てて首を振り、上目遣いに弘輝をみながら言った。  
「えっ? そんな大した量じゃ……」  
 言った直後、弘輝はなるほどという顔で笑った。  
「いつも、あんまり食べないの?」  
 夏海はこくんと頷いた。  
 弘輝にしてみれば物足りないぐらいの分量だが、普段から小食な夏海には、  
じゅうぶんすぎるほどに多く感じられた。  
「この半分でも、いいです」  
「えぇ? それは少なすぎだって……」  
 弘輝は呆れたように笑う。  
「すみません……」  
「いや、謝ることじゃないよ。あまったら、俺が食べるから気にしないで」  
 夏海はしばし弘輝を見つめてから、眼を伏せて頷いた。  
──ほんとに、美味しい……でも……。  
 弘輝がおすすめの店だと言っていただけあり、ここのピザは絶品だった。  
 モツァレラチーズの濃厚な味わいと、トマトのすっきりした酸味がバランス  
よく調和している。  
 けれど──落ち着いて味わえるだけの心の余裕は、夏海にはなかった。  
 下着を着けていないのは大きい。  
 大きな胸はキャミソール一枚にしか守られていないし、剥き出しの尻が直に  
椅子に触れている。  
 もうずっとそんな格好でいる彼女は、身体中が疼いて肌が上気している。  
 それよりも──こんなふうに、出会って間もない男性とふたりきりで食事を  
したことなど、デートの経験など、一度もないのだ。  
 周りには家族連れも何組かいるが、それ以上に、カップルの姿が目立つ。  
 自分たちもそう見えるのだろうか──  
 恋人同士にしては歳が離れすぎている。歳の離れた兄妹か、従兄妹のように  
思われているのだろうか。  
──お兄ちゃん、か……。  
 もし自分たちが、あんな出会いかたをしていなければ、彼に対する印象は、  
全然別のものになっていただろう。  
 二日前の午後、彼の家に招かれたとき、あんなことをされなければ──  
「──でさぁ、そいつがね……夏海ちゃん?」  
 名を呼ばれ、ふと我に返った。  
 彼が話しかけてくれていたのに、まったく頭に入っていなかった。  
「あ、すみません……ぼうっとしてて……」  
「いいよ、気にしないで。大した話じゃないし」  
 気を悪くしただろうか──  
 冬香にもよく言われる──夏海はいつもぼうっとしている、と。  
 相手が話していても、少しでも他のことを考えると、意識がそちらに向いて  
しまい、相手の声が耳に入らなくなることがしばしばあった。  
 直そうと思うのだが、なかなか直らない──自分の短所のひとつだ。  
──恋人、かぁ……。  
 自分たちの関係を表す言葉ではない。少なくとも、今はまだ──  
 椅子に触れた秘処から、とろとろと蜜があふれている。  
 
 食事を終えたふたりは、店を出て車に乗り込んだ。  
 結局、夏海はピザを半分も食べることができなかった。弘輝がマリナーラを  
ひと切れくれたこともあるのだろうが、もともと小食であるし、羞恥と緊張の  
所為で、食が進まなかったのだ。  
 残りはすべて弘輝が平らげ、それでもまだ入ると彼は笑っていたが、夏海は  
申し訳なく思ってしまった。  
 店から出て少し行ったところから、道は上り坂になり、鬱蒼と茂った木々に  
囲まれた斜面を抜けると、市の中心部まで続く平坦な台地の上に出た。  
 左右には畑が広がっていて、民家や商店がまばらに並んでいる。  
 視界を遮るものが少なく、空が広い。夏海が育った街とは大違いだ。  
 ほとんどまっすぐの道を走り続けると、じょじょに建築物の数は増えてゆき、  
マンションなどもちらほらと覗えるようになる。  
 道路の両側には幅の広い歩道も現れ、松の並木が植えられていた。  
 店でもそうだったが、車に揺られている間も、弘輝がほとんど一方的に話し  
かけて、夏海が控えめに頷くだけという、落ち着かない時間が続いていた。  
 彼の話が途切れると、夏海は沈黙に息苦しさを感じてしまう。  
 親しい友人といるときなら、多少の沈黙が続いても、そうはならない。  
──つまんないよね、わたしみたいな子、相手にして……。  
 内気で口下手、社交性に乏しい自分といる弘輝に、申し訳なく思う。  
 話かけられてもうまく受け答えできないし、自ら話を振ることもできない。  
 彼にはまだ親しみを覚えてはいない。  
 出会ったのはわずか十日前だし、夏海は彼の名前も顔も判らなかった。  
 二日前の朝に初めて言葉を交わし、その午後──  
──いきなり、エッチなことされて……エッチになって……。  
 彼とは、それだけの関係なのだ。  
 下着を着けていない胸が、車の振動に合わせてぷるぷると揺れる。  
 羞恥に曝され続けた身体は、ずっと熱を帯びて疼いている。  
 未熟な秘処は、じくじくと刺激を求めている。  
 いっそのこと、淫らな話でも振ってくれたほうが、居たたまれない気持ちに  
ならなくて済むのかもしれない。  
 けれど、そんなことを自分から求めることはできない──  
 
 
──難しいな……中学生の女の子って、どんな話が好きなんだ……?  
 アーティスト、テレビ番組、映画──いろいろと話を振ってみたが、夏海の  
反応はいまひとつだった。  
 テレビゲームをやるようには見えないし、仮にそうだとしても、彼の好きな  
レースゲームやシューティング、格闘アクションなどは苦手だろう。  
 ファッションの話も振ってはみたが、彼自身、女性の服にはそれほど詳しい  
わけではないし、それ以上に夏海は疎かった。  
──なんか俺……馬鹿みたいだな。  
 七つも年下の少女に、つきあおうと言ってしまった。  
 最初は脅迫──祭りの夜に手に入れたネタで、彼女に迫ったのだ。  
 彼女は本心から抗っていたわけではないし、自分の責めを受け入れ、羞恥と  
快楽に悶えて高みにまで達していた。  
 特殊な嗜好を満たしてくれる少女──自分好みの大きな乳房まで備えている  
彼女を、確かに手に入れたいと思っている。  
 だが──  
──あの男……先生って……マジでいるんだな、そういう教師……。  
 竹下も──いや、彼は弘輝以上に、夏海の弱みを握っている。  
 夏海は逆らえないだろう。  
 彼女を手に入れることなんて、できないのかもしれない──  
 突然耳に届いた轟音に眼を上げると、小型のジェット機が前方の空を滑って  
いった。  
 T−4練習機──丸みを帯びた可愛らしいシルエットを持つ機体に、束の間  
眼を奪われ、道路を横切る小さな陰に気づくのが遅れた。  
「あっ──!」  
 夏海が小さな悲鳴を上げた。  
 
「──っと!」  
「ひゃっ!」  
 急な制動に身体がつんのめり、胸の谷間にシートベルトが食い込んだ。  
「あっぶねぇ……」  
 眼の前を猫が横切り、弘輝がブレーキを思い切り踏み込んだのだ。  
 窓に顔を寄せて背後に眼を向けると、茶虎の猫が、歩道を飛ぶように駆けて、  
家と家の隙間へ消えていった。  
 無事でよかったと胸を撫で下ろす。  
「猫って、なんであんな危ないことすんだろなぁ?」  
 夏海にはその理由は解らない。  
「人間より眼がいいんでしょ? 車が近づいてんのに、なんで渡るんだ……」  
 それなら知っていた。  
「猫は……そんなに、眼はよくないらしいです」  
「え、そうなの?」  
 弘輝は意外そうにちらりと夏海を見る。  
 夏海は顔を伏せてしまう。  
「はい……遠くのものは、よく見えないんだそうです。動いてるものや、近い  
ものとか、暗いところなら……人間の、何倍も……」  
 彼女の声は次第に小さくなっていった。  
 ゆっくりとブレーキが踏み込まれる──赤信号だ。  
「へぇ、詳しいんだね」  
「いえ、詳しくは……」  
 車が停まると、弘輝は感心した顔で夏海を見た。  
「夏海ちゃんは猫が好きなの? その髪留めも猫だし……パンツも猫だった」  
「あぅ……はい……」  
「可愛いパンツだよね。自分で買ったの?」  
「うぅ……」  
 自分が今それを穿いていないことを意識させられる。  
 弘輝が脱がしてしまったブラジャーと、夏海が自ら脱いだショーツは、後部  
座席に置かれた弘輝のバッグに収められている。  
 会ったときまで着ていた上着も、隣に畳まれている。  
「ね、これから下着買いに行こうよ」  
「えっ……?」  
「俺と会うとき専用の下着なんて、どう?」  
「え……あぅ……」  
──弘輝さんと……会うとき、専用……。  
 背筋に、ぞくっとした刺激が走った。  
 竹下や弘輝に、いやらしい言葉を言わされたとき、言ってしまったときの、  
えもいわれぬ官能──  
 乳房を覆うキャミソールの生地が、今まで以上に感じられる。  
 腿と尻、秘処にも触れている合皮のシートの感触が、強く意識される。  
 スカートは脚の根元までしか覆っていない。ほとんど剥き出しになっていて、  
膝を立てればそこが丸見えになってしまうだろう。  
──見られちゃったのかな……。  
 町のコンビニエンスストアで尻餅をついてしまった。弘輝の同僚が眼を丸く  
していた。  
 父親と最後に一緒に風呂に入ったのはいつだったか──それ以来誰の眼にも  
触れたことのないそこは、竹下と弘輝に見られてしまった。  
 弘輝はまだ、竹下ほどには凝視していないが、同じことだ。  
 たっぷり潤んだそこを責められ、達してしまった。  
 今もそこはぐっしょりと濡れている。  
 シートにあふれた露が、車の振動の所為で尻の下にまで広がっている。  
 ピザを食べたレストランの椅子にも付着していた。周りの眼を気にしながら  
拭き取りはしたが──自分の淫らな匂いが染みついてしまったのではないかと  
不安になる。  
 弘輝の車のシートにも、いやらしい匂いが染みてしまっているかもしれない。  
──専用の、下着……エッチな下着……。  
 背筋を官能が駆け抜けた。  
 とろとろと露があふれ出すのが感じられた。  
 
「こんなのどう? 可愛いよ」  
 弘輝が手に持っているのは、白地に淡い色使いの花模様が染められている、  
ふわりとしたチュニックだった。  
 薄手で、光に翳すと、うっすらと生地が透ける。  
「あの……いいです、そんな……」  
「いいのいいの。俺が買ってあげたいだけなんだから、ね?」  
「でも……悪いです……」  
 ふたりはこの市で一番大きなショッピングモールに来ていた。  
 広大な敷地にいくつもの大きな建物が並び、ありとあらゆる店が集まって、  
衣服だけでなく、書籍、家具、電化製品、ソフトなどなど、手に入らないもの  
などないと思えるほどの規模である。  
 敷地はいくつかに区分けされ、建物の間を道路が走っていて、駐車場も複数  
設けられている。  
 その中の、レディースファッションを扱う店が集まった建物にいた。  
 周りには若い女性がひしめいていて、自分と同じぐらいの少女もちらほらと  
覗える。カップルで来ている者も多く、自分たちも同様に見られているのかと  
思うと、むず痒いような気持ちになってしまう。  
 だが、そんなことよりも、下着を着けていないことのほうが余計に意識され、  
夏海の心を掻き乱していた。  
──気づかれちゃう……ブラしてないこと……。  
 店員に声をかけられはしないかと焦りが募る。  
 周りの客の視線も気になって、夏海はずっと物陰に隠れるように身を縮めて  
歩いていた。  
「ほら、夏海ちゃん」  
「えっ、あぅ……」  
 弘輝がチュニックを持った手を伸ばし、夏海の身体の前に合わせる。  
 びくっと一歩下がるが、彼の手が鎖骨に触れた。  
「ね、似合うでしょ?」  
「あぅ……」  
 弘輝は夏海の肩に手を回すと、夏海の身体を近くにあった鏡に向けた。  
 彼が選んだ服は、確かに可愛いと思う。  
 襟が丸く大きく開いていて、胸の下の切り返しまでは、ボタンが三つ並んで  
いる。そこから裾にかけてゆったり広がった、Aラインのシルエットである。  
 丈が少し長く感じられるのは、彼女の背が低い所為だろう。  
 落ち着いた可愛らしさがあり、地味な自分にも合うだろうと思う。  
「でも……」  
 しかし、胸の下ですぼまったデザインというのは、胸が強調されてしまう。  
 それに、食事も奢ってもらって、服まで買ってもらうなど申し訳ない。  
 しかも、弘輝は下着まで買うと言っていたのだ。  
「よし、決まり……これにしようか。じゃあ、これに合いそうな……」  
 服を持ったまま、弘輝が歩いてゆく。  
 夏海は慌ててあとを追いかける。  
──恥ずかしいよぉ……。  
 周りの目がどうしても気になってしまう。  
 弘輝と自分の取り合わせは、それだけでも眼を引くだろう。  
 小学生ほどにしか背丈のない夏海だが、胸は大人も羨むほどに膨らんでいる。  
 きっともう、何人もが気づいているだろう。  
 胸は大きくとも、まだ子供なんだな、と苦笑しているのか、それとも──  
──エッチな子って……思われてるのかな……。  
 店内は冷房が利いていて快適なのに、身体の火照りは治まるどころか、ます  
ます強くなっていた。  
 あふれた蜜が零れて滴るのではないかと不安になる。  
「夏海ちゃん……」  
 高い棚に囲まれた一角で、不意に弘輝が身体を寄せてきた。  
 夏海の腰に手が伸び──  
「──っ!」  
 夏海は悲鳴を上げそうになった。  
 彼の手がスカートを捲り上げたのだ。  
 
「恥ずかしい?」  
 弘輝は身体を寄せて密着させ、耳元で囁いた。  
 夏海のスカートは捲られて、小さな丸い尻が剥き出しになっていた。  
「や……ダメです……」  
 夏海はか細い声で言うが、身体が硬直して動けなかった。  
「だいじょうぶ、カメラにもミラーにも写ってないよ」  
「あぅっ……」  
──そんな問題じゃ……!  
 周りには何人もの客がいるのだ。いつこちらにやって来るか判らない。  
 そんなところで、自分は尻を丸出しにしている──  
 弘輝の手が尻に触れた。  
 柔らかな尻肉を撫でながら、下へと降りてゆく。  
「あぅ、やっ……!」  
 夏海は脚を閉じて抗うが、彼女の腿は、指の侵入を防ぐには細すぎた。  
「んっ──!」  
 触れられた瞬間、びくんと大きく身体が弾んだ。  
「いっぱい濡れてる……零れちゃういそうだ」  
「あぅっ……んぅっ!」  
 彼の指が、たっぷりと潤んだ裂け目を、ゆっくりと撫でる。  
 膝が揺れて倒れそうになるのを、弘輝のTシャツにしがみついてこらえる。  
 淫らな喘ぎを上げてしまいそうで、彼の胸に口を押しつける。  
──こんなとこで、ダメなのにっ……!  
 ずっと浴びていた羞恥に、身体は疼き続けていたのだ。  
 淫らな気持ちが一気に昂ぶって、強い刺激を求めてしまっている。  
 彼の身体に触れて大きく潰れた乳房から、快感が湧き立ってくる。  
 彼の指に触れられている濡れた秘処が、もっと大きな快楽を望んでいる。  
──見られちゃうよぉ、お尻……エッチなとこ……。  
 夏海の後ろには大きな棚があって、綺麗に畳まれたTシャツやカットソーが  
並べられ、商品の隙間から向こう側が覗き見える。  
 棚の向こうに客がいれば、自分の尻を見られてしまうかもしれない。  
 そうでなくとも、自分たちのいる通路の人が現れれば、スカートを捲られて  
いることも、秘処をまさぐられていることも明らかだ。  
「気持ちいい?」  
「んっ、うぅ……」  
──気持ちいい……すごい、気持ちいい……。  
 身体がびくびくと震えてしまう。  
 濡れた秘裂に沿って撫でられている。もっとも敏感なところには触れられて  
いない──それなのに、夏海は激しく反応してしまう。  
 柔らかな幼い秘処からとろとろと蜜があふれて、弘輝の指に絡んでゆく。  
 彼の黒いTシャツをぎゅっと握り、声がもれないよう口元に引き寄せる。  
 ずっと焦らされていた身体が、刺激を求めて──  
「やっぱりエッチだなぁ、夏海ちゃんは……」  
 だが、弘輝はそう言って、指を離してしまう。  
「あぅ……?」  
 スカートもふわりと戻り、何事もなかったかのように白い腿を覆い隠す。  
──えっ……終わり……なの……?  
 刺激は唐突に消え、膨れ上がった欲望が、行き場をなくしてしまう。  
 夏海はしがみついたまま、おもちゃを取り上げられた子供のような顔をして、  
弘輝を見上げた。  
 彼は嗜虐的に笑っていた。  
「もしかして……もっとしてほしかったの?」  
「あ、ぅっ……」  
──ひどいよ……意地悪だよぉ……。  
 泣きそうな顔をした夏海の顔の前に、彼が指を差し出した。  
「夏海ちゃんがエッチだから、汚れちゃった……舐めてよ」  
「──っ!?」  
 二本の指には、ぬるりとした液体が絡みつき、つんとした匂いが鼻を衝く。  
 指が唇に触れた。  
 夏海は無意識に口を開いていた。  
 
 夏海は弘輝の指をしゃぶっている。  
 恍惚の表情を浮かべ、潤んだ瞳で、弘輝を見つめている。  
 そこには、自分の淫らな露がねっとりと絡みついていた。  
 塩気とも酸味ともつかぬ味──つんとした匂いが鼻腔を刺す。  
 全身がぞくぞくした。  
 敏感なところへの刺激は終わってしまったのに、身体は官能に震えていた。  
「どう? 自分の味は……」  
「んぅ……」  
──わたしの、あそこの……エッチな味……。  
 彼の指に付着した自らの愛液を味わわされている。  
 そんなこと、今までしたこともなかった。  
 こんなところでさせられるなどとは、思ってもいなかった。  
 恥ずかしいのに──弘輝の嗜虐的な瞳から、眼が離せなくなっていた。  
「ちゃんと舐めないと……できるよな?」  
「んっ、んぅっ……」  
 彼の指が蠢いて、夏海の舌を撫でる。  
 口の中で唾液が淫液が混じり合い、くちゅりと音を立てる。  
──すごいよぉ……これ、エッチだよ……やらしいよぉ……。  
 弘輝の指がゆっくりと口の中を這い回る。  
 女性のもっとも大切な部分を下の口と呼ぶことは、夏海も知っていた。  
 ならば、指で掻き回されている場所は、上の秘処ということなのか──  
──そんなっ、恥ずかしい……。  
 恥ずかしいのに、抗うことができなくなっている。  
 夏海は秘処の中心──鮮やかなピンク色の蜜壷の中への刺激を知らない。  
 ひとりで耽ったとき、一度だけ指を入れてみたことはあったが、あまりにも  
激しかった痛みに、今でもそこをいじるのを躊躇ってしまう。  
 竹下や弘輝の責めも、まだ彼女のその中へは及んでいない。  
 それでも、漠然としたイメージが、夏海の頭の中に浮かび上がる──  
「んぐっ、ふぁ……んぅ」  
──わたし……指で、中を……。  
 自分の膣内を責められているような気持ちになってしまう。  
 初めてその中をいじったのは、小学生のときだった。  
 今ならもう、指ぐらいなら受け入れて、感じられるかもしれない。  
 男のモノだって──  
──あそこに、男の人の……おちんちん……。  
 二日前に学校で見た、竹下のグロテスクな怒張が思い出された。  
 先端から噴き出した白濁が、大きな乳房に降り注いだ。  
──精液……精子……いっぱい、かけられちゃった……。  
 胸に浴びせられたねっとりとした感触が浮かび、ますます昂ぶってゆく。  
 敏感なところへの直接的な刺激を止められ、行き場を失っていた官能の波が、  
指で掻き回されている口内へ、逆流する大河のように駆け昇ってくる。  
──弘輝さんの……おちんちん……。  
 フェラチオ──男性器を口で愛撫する行為だという知識はあった。  
 指を男性器に見立ててしゃぶる──そこまでの知識は、夏海にはない。  
 だが、彼女は無意識に、艶めかしく舌を絡めてしまっている。  
「エッチだなぁ……めちゃくちゃやらしいな、夏海ちゃん……」  
「んぁ……うぅ……んっ!」  
 ぴちゃり、くちゅり、と艶めかしい音が口の中に響く。  
 彼の指に絡んでいた自らの愛液と、たっぷりあふれた唾液が交じり合って、  
夏海の口を満たしていた。  
──あそこ……下のお口も……上のお口も……いっぱいだよぉ……。  
 涎を垂らしてしまいそうで、こくりと喉を鳴らして飲み込んでしまう。  
「もっと、気持ちよくなりたい?」  
「あぅ……んぅ……」  
 弘輝の意地の悪いセリフに、夏海はうるうると眼を揺らす。  
「でもまだ、買い物が残ってるよ? 終わってからね……」  
 弘輝が指をそっと口から抜くと、透明な糸がアーチを描いて消えた。  
「ん、ぅ……はい……」  
 夏海は弘輝のTシャツをぎゅっと握り、こくんと頷く。  
 潤んだ瞳に、官能に焦がれる蠱惑的な光が揺れていた。  
 
「これいいね、可愛いじゃん」  
 弘輝が、シンプルな淡い水色のブラジャーを指差す。  
 ふたりは、女性用下着を扱う店にいた。  
 色とりどりのさまざまな下着の並ぶ棚を見るのは恥ずかしい。  
 別の店だが、友人たちと行ったときも、夏海は顔を赤くしてうつむいていた。  
「こっちもいいけど……サイズがないみたいだなぁ」  
 身体が熱い。  
 秘処が疼いていた。  
 夏海の心の奥に灯った火が燃え盛っていた。  
 弘輝の車に乗って駐車場を出てから、もう二時間近くが経過しているだろう。  
 その間、夏海はずっと恥ずかしい想いに揺さぶられ続けていた。  
 つい先ほどなど、店の中だというのに、とろとろになった秘処を撫でられ、  
自分の蜜の絡んだ指を舐めさせられてしまったのだ。  
 弘輝に腕を組んでもらっていなければ、歩くこともままならない。  
 まだ知り合ったばかりの大学生の男と、夏海は腕を組んでいる。恋人同士の  
ようなことをしている。  
 だがその男は、自分を恥ずかしい目に遭わせて喜ぶ卑しい男なのだ。  
 それなのに夏海は、自身の倍以上もの太さの弘輝の腕に、頼もしさを覚えて  
いたし、その体温に心地よさを感じてもいた。  
──わたし……おかしいよ……。  
 十日前には考えもつかなかった出来事が、夏海の身に次々に降りかかって、  
彼女を急激に変化させていた。  
 自分の大きな膨らみが、彼の腕に押しつけられている。  
 ときどき彼は肘で押し返してくる。  
──ダメだよぉ、気持ちよくなっちゃうのに……。  
 今も彼は、陳列された商品を反対の手で指差しながら、夏海の膨らみを肘で  
押してきていた。  
 周りには店員も客もいるのに、そんなことおかまいなしと言わんばかりだ。  
「いらっしゃいませー。何かお探しですか?」  
 若い女性店員がにっこりと笑いながら声をかけてくる。  
 夏海は弘輝の腕に絡んだ手に、ぎゅっと力を籠める。  
「妹さんですか? 仲いいですね〜」  
「いえ、彼女です」  
「えっ──」  
──彼女っ!? 彼女って……そんな……。  
 予想外の答えだったのだろう。店員は眼を見開いて絶句した。  
 夏海も怯えたように、彼の腕をさらに強く掴む。  
「おかしいかな? 彼女、こう見えて高校生なんですよ」  
「あ、えと……そうなんですかぁ」  
 彼女はどんな顔をしていいのか判らないのか、困惑の笑みを浮かべる。  
 弘輝の身長は飛び抜けて高いというわけではないが、ふたりは三十センチも  
背が違う。夏海は幼い子供にしか──普通に考えれば、歳の離れた妹か、従妹  
としか思えないだろう。  
「子供っぽいって気にしてるんですよ。な、夏海?」  
「えっ? あぅ……」  
 急に話を振られ、どう言えばいいのか解らずに口篭る。  
「え、えっと……今日は、ブラをお探しですか? サイズはこちらになくても、  
在庫のほうお調べいたしますので、仰って頂ければ……」  
「まぁ、ブラも、パンツも……あと、エロい下着ってありますか?」  
「えっ──!?」  
──エロい、下着……!?  
 店員も夏海も、またもや絶句してしまう。  
 二日前の朝に見た、近所づきあいのいい好青年という顔。  
 自分の前で見せた、乱暴な獣のような顔。  
 店員に軽口を叩く彼は、そのどちらとも違っていた。  
「ええと……その、セクシーなものでしたら、あちらのほうに……」  
「いや、冗談ですって、ごめんごめん」  
 弘輝はくすくすと笑いながら、困り顔の店員に手を振った。  
 
 弘輝は今までにも何度か、この手の店に入ったことはあった。  
 とはいえ、彼もまだ二十歳の若い男である──女性用下着に囲まれて平静で  
いるのは難しい。  
 だから、くだらない冗談を言って誤魔化していたのだ。  
 夏海はサイズを計測してもらうため、カーテンで仕切られたフィッティング  
ルームへと連れられていった。  
 母親がおらず、友人に言うのも恥ずかしいからと、幼い頃から兄妹のような  
間柄の自分に、従妹である彼女は相談してきた──店員には、もっともらしく  
そう言っておいた。あまり納得したようには見えなかったが。  
 さすがに、ひとりで店内をうろうろするのは気が引けた。  
──普通は彼女なんて思わないもんなぁ……。  
 どう見ても、歳が離れすぎている。夏海は、胸が大きくなければ、小学生に  
見えるほどだ。  
 もっとも、中学生だと言っても奇異の眼で見られるだろうし、そもそも自分  
たちは恋人というわけではない。  
──それにしても……だいじょうぶかなぁ?  
 先ほどの様子では、彼女は相当に昂ぶっているはずだ。  
 秘処は彼が思っていた以上に濡れていたし、蜜の絡んだ指を唇に寄せると、  
躊躇いを見せたものの、抗わずに口に含んで舌を絡めてきた。  
 弘輝も激しい興奮に見舞われていた。  
 すべてを──あらゆるしがらみを投げ捨てて、スカートを捲り上げ、キャミ  
ソールを剥ぎ取って、彼女の身体を味わい尽くしたい衝動に駆られた。  
──ほんとに、すごい子だな……。  
 夏海の言葉を信じるなら、彼女はあの十日前の夏祭りの夜、花火大会のとき  
まで、こういった淫らな行為とはほとんど無縁だったのだ。  
 それなのに、おそらく数十分、一時間にも満たないであろう行為で開花した  
性質は、一週間の熟成期間を置いて二日前に再び発現させられ、著しい変化を  
彼女にもたらしてしまったようだ。  
 彼女の奥底に眠っていた性質は、弘輝がずっと求めていたものだった。  
 もちろん、性的な嗜好を抜きにしても、おっとりした可愛らしい顔立ちや、  
全体的な幼さとは対照的な、大人も羨むほどの膨らみといった、外見的な部分  
でも、そして、おとなしく内気そうな、放って置けない感じを抱かせるところ  
なども、彼にはじゅうぶん魅力的に思える。  
 周りを見れば、ほとんどが女性客だが、カップルの姿も何組かある。  
 高校生ぐらいの少女と、大学生ぐらいの男が一緒に歩いている。社会人では  
ないかと思う男と歩いている少女もいる。  
「ふぅ……」  
 煙草が吸いたかった。  
 弘輝はそれなりにもてる。  
 背丈も平均以上だし、すらりと細い身体つきで、顔立ちもすっきりと整って  
いる。さらさらとした長めの髪は、栗色に染められている。  
 普段は穏やかで人当たりもよく、性別を問わず友人は多い。  
 彼は自分から異性にアプローチをかけたことはほとんどない。  
 いつの間にか親しくなっていて、ふと気がつけば、あのふたりはつきあって  
いると周りから噂され、当人たちもそう思うようになっている──そんな関係  
ばかりだった  
 彼は本来、あまり積極的な性格ではない。幼い頃は人見知りの激しい内気な  
少年だった。  
 だからなのだろう、派手なタイプの異性にはあまり惹かれない。  
 おとなしめで、どちらかといえば地味な子のほうが好きだった。  
 だが、関係は長くは続かない。彼の嗜好の所為だ。  
 身体を重ねるほどに親密になると、彼はつい相手の気持ちを考えず、自分の  
欲望を満たそうとして暴走してしまう悪癖があった。  
 直そうとは思っているのだが、なかなか直るものでもないらしい。  
──夏海ちゃん、か……。  
 彼女との歳の差がもう少し狭ければ、せめて彼女が高校一年生ならば、まだ  
よかったのかもしれない──だとしても、法には触れるのだろうが。  
 背負ったバッグから煙草を取り出そうと思ったところに、店員に連れられて  
夏海が試着室から出てきた。  
 
──わたし、エッチだよぉ……。  
 羞恥に昂ぶってしまう自分が悔しかった。  
 二日前、弘輝にブラのサイズを見られ、自分の膨らみの大きさを改めて意識  
させられたばかりだというのに──  
 店員が告げたサイズは、さらに上のカップだった。  
 計測されている間、夏海は羞恥に怯えていた。  
 相手は手馴れた女性店員であるとはいえ、見ず知らずの他人に胸のサイズを  
測られたのだ。  
 キャミソールがきついから正確に測れないと言われ、脱がされそうになって  
しまった。夏海が戸惑っていると、店員はしかたないという顔でそのまま測る  
ことにしたのだが──  
 大きな膨らみにちょこんと乗った小さな突起は、もうずっと尖ったままだ。  
 生地にこすれて、焦らされるような快感がずっと続いていたのだ。  
 メジャーが当てられたときは、身体が反応してしまった。  
 店員は弘輝のように意地悪な言葉を言いはしなかったが、感じているのだと  
思われたのは疑いようがない。  
 淫らになっているのだと思われていそうで、夏海はずっと顔を伏せていた。  
「お待たせいたしました、お客様」  
 夏海とともにカーテンから出た店員が、弘輝を呼んだ。  
 店舗と店舗を区切る通路に出ていた弘輝が足早に戻ってくる。  
 夏海はうつむいて耳まで真っ赤になっていた。  
「アンダー65の、EかFで合わせてみて、装着感のいいほうをお選びになると  
いいと思いますよ」  
「どうも……」  
 弘輝は震える夏海の肩に手を置く。  
 夏海はうつむいたまま、彼のTシャツをぎゅっと握った。  
 まだ親しいわけではないはずの彼に縋ってしまう自分自身に驚く。  
「つか、Fカップですか」  
「ええ。まだ中学生でしょう? 羨ましいですねー」  
 計測してくれた店員の胸の膨らみは、夏海と比べるまでもなく控えめだ。  
 冬香と同じぐらいだろうか──自分もその程度でじゅうぶんだと夏海は思う。  
 もう少し大人になれば、大きい方がいいと思うようになるのだろうか。  
 この胸のおかげで、いつも恥ずかしい想いをしている。  
 恥ずかしいのは嫌なはずなのだ。そんな気持ちになりたくなどない。  
 なのに、羞恥がもたらす愉悦に惹かれてしまう。  
 淫らに昂ぶって、身体を火照らせ、敏感なところを刺激されたい──達して  
しまいたいと思ってしまう。  
 弘輝と店員が何か話をしていたが、耳に入らなかった。  
 大きな膨らみとは対照的な小さな乳首が、硬く尖って刺激を求めている。  
 ショーツに覆われていない秘処が、熱く潤んで刺激を求めている。  
「夏海ちゃんって、フランス国歌好きなの? 携帯に使ってたよね」  
 名前を呼ばれてやっと周りを意識できた。  
 世界の国旗をモチーフにした、コケティッシュな下着が眼に入る。  
「俺も好きなんだよ……花火のとき、携帯鳴ったでしょ?」  
「あぅっ……!」  
 ラ・マルセイエーズ──十六世紀末に生まれ、フランス国歌として歌われて  
いる曲だ。夏海はこの曲の軽快なテンポと勇壮なメロディが好きだった。  
 夏祭りの夜、竹下に責められているときに携帯電話が鳴ったのだ。  
 冬香からのメールだったが、夏海が隣の男──弘輝が自分のカメラを向けて  
いることに気づいたのは、それから少し経ってからだった。  
「あれのおかげで、俺は夏海ちゃんと知り合えたってわけだ」  
 弘輝は笑いながら、フランスの国旗と同じ青白赤の三色のブラを指差した。  
「でも、これはちょっと……変だよなぁ」  
 夏海はこくんと頷いた。  
 あのとき、メールが来なければ、弘輝は自分の痴態に気づかなかったのかも  
しれない。  
 彼が気づいていなければ、こんなふうに出かけることもなかっただろう。  
 それがいいことなのか悪いことなのか、夏海は判らなくなっていた。  
 恥ずかしいことをさせられているというのに──  
 心の奥底に、それを求め、悦んでいる自分がいた。  
 

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