四ヶ月あまり前の春に夏海がやってきたこの町は、四方を山に囲まれ、狭い
平地に商店街と住宅街が形成された、人口一万あまりの小さな田舎町だ。
面積自体はそれなりに広く、山にはこの町の名産であるミカンの畑が並び、
山の間を縫うように走る曲がりくねった道沿いにも、民家が続いている。
小さな町ではあるが、歴史は古い。奈良時代や平安時代に建立されたという
寺社がいくつも健在で、人々の信仰を今も集めている。
江戸時代には、裏街道の峠越えの宿場町として人が集まり、現在でも当時の
面影をいくらか残している。
山に囲まれてはいるが、標高は低く、内陸に位置しているわけではない。
峠をいくつか越えれば隣の市に出られ、その最南端は太平洋に面している。
隣の市に向かう峠の道を、滑らかな流線型を描いた、黒いスポーツタイプの
軽自動車が走っている。
真夏の昼下がり──連日三十度を越す真夏日が続いているが、冷房の利いた
車内は涼しく快適だった。
強い日差しも、周囲の木々が遮ってくれている。
だが、夏海はそんな心地よさなど感じていられなかった。
助手席で、羞恥に震えていた。
「夏海ちゃんはエッチだ……ほんとに、恥ずかしいのに感じちゃうんだね」
運転席の男が軽い調子で夏海を責める。
「あぅっ……」
男の言葉に夏海は身を竦める。
夏海は、中学生一年生とは思えないほどの、豊かなバストの持ち主だ。
背は低く、顔立ちも幼い。身体つきそのものは華奢で子供っぽいのに、胸の
膨らみだけは、同級生をはるかに凌駕している。
夏海が着ているのは、淡い水色のキャミソール──彼女の胸のボリュームが
はっきりと表れていて、細い身体との対比が扇情的である。
たわわに実ったふたつの膨らみの谷間を、黒いシートベルトが襷掛けに通り、
その中学生離れした大きさと、優美な造形をさらに際立たせている。
補修を何度も繰り返した路面は凹凸が激しく、車の硬いサスペンションは、
細かな振動を搭乗者に与える。車体が揺れるたびに、夏海の乳房はぷるぷると
揺れていた。
「乳首、勃ってるよね?」
「うぅっ……」
彼女はブラジャーを着けていなかった。
キャミの身頃には裏当てがあり、夏海の小さな突起が浮き出ることはないが、
彼の言うとおり、そこは布の下で、つんと尖っていた。
キャミソールは乳房に直に触れて、車の振動が乳房を揺らす。生地と突起が
こすれて、じわじわと快感を訴えていた。
──ダメ……気持ちいいよぉ……。
腰にはアイボリーの柔らかなフレアミニスカート──膝上数センチの丈だが、
腿の付け根まで捲られ、細い脚が剥き出しになっていた。
──恥ずかしいのに……エッチだよぉ……。
つい十日前まで、彼女はこんな刺激とはほとんど無縁な少女だった。
一週間と三日前──町の夏祭りの夜、奉納花火大会の観覧客の人込みの中で、
夏海は激しい羞恥と官能に見舞われた。
幼い身体を曝し、快楽に飲み込まれ、責め立てられて初めての絶頂を覚えた。
夏海を責めた男は、彼女が通う学校の教師だった。
彼女の隣で淫らな姿をカメラに収めていた男は、すぐ近所に住む青年だった。
「もう、濡れすぎてるんじゃない?」
「あうっ! うぅ……」
──わたし……ほんとに、おかしくなっちゃう……。
スカートの下には、ショーツを穿いていなかった。
シートには、未熟な秘処が直接触れている。
彼の言うとおり、とろりとした蜜でたっぷり潤んでいた。
羞恥が夏海の心を刺激し、官能を昂ぶらせてしまう。
夏海はブラジャーもショーツも着けず、車の助手席で淫らな昂揚感に苛まれ、
あの日から消えることのない疼きに、身を焦がしていた。
「じゃあ、行ってくるね」
「あいよー、行ってらっしゃい」
階下から聞こえた母親の声に、弘輝はだるそうに声をあげた。
「あんた、ちゃんとバイト遅れないように気をつけなさいよー」
「わかってるよ」
玄関のドアが閉まる音がして、弘輝は溜息をつく。
母親は、近所の主婦仲間と、隣街へショッピングだそうだ。
盆休みの父親も、昼食を済ませて一服すると、パチンコを打ちにいった。
外から聴こえる蝉の声が屋外の暑さを物語っている。
ふたりとも、よくこんな暑い日に外出する気になるもんだ、と弘輝は呆れる
やら感心するやらで苦笑してしまう。
コンビニでのアルバイトは、普段は深夜シフトだが、今日は代打で午後から
入ることになっていた。あと一時間半ほどだ。
ネットでも見て時間を潰そうと、PCを起動したときだった。
家の前で車の止まる音がして、弘輝は何気なく窓の外へと眼を向けた。
──あれ……? あの子……。
白い小型車の助手席から、この一週間ずっと頭から離れなかったあの少女が
降りてきて、弘輝の心臓が大きく脈打った。
──なつみちゃんだ……。
彼女は頭を下げ、走り去る車を見送った。
──これは……チャンス到来か!?
弘輝は携帯電話を掴んで駆け出した。
彼女の家はすぐ近く──急げば間に合う。急な階段を慎重に、しかし足早に
下り、サンダルを引っ掛けて玄関を出た。
少女はもうそこにはいなかったが、彼女の家は知っている。
弘輝は角を折れて路地へと入った。その先にはもうひとつ角があり──
──いたっ!
白いブラウスに紺色のスカート。学校指定のバッグを肩にかけ、首の後ろで
ひとまとめにされた髪、小柄で華奢な後姿──
「こんにちは、なつみちゃん」
弘輝は彼女の後ろから声をかける。
少女はびくっと震えて振り返った。
子供っぽい顔立ち──丸みを帯びた頬に細い顎。目尻はやや垂れておっとり
した印象を受ける。小さな鼻、艶やかな唇──
彼女は手にしていた携帯電話を、ぱたんと折り畳んだ。
──可愛いなぁ……それに、ほんとにでかい……って、あれ?
弘輝は、彼女の大きな胸の膨らみに眼を奪われた。
朝はブラジャーを着けていなかったはずの彼女だが、今は着けているようだ。
──鞄に入れてたのか?
よく解らないが、これから訊けばいい──そう考えて彼女に笑みを向ける。
「学校終わったとこ?」
「え、はい……」
彼女は弘輝を、上目遣いに見てから眼を逸らした。
人と眼を合わせるのが苦手なのだろう──人見知りのするタイプのようだ。
それとも、胸を見られていることに気づいたからだろうか。
「あのさ、ちょっと……いいかな?」
「はい……?」
彼女はまた弘輝をちらりと見てすぐに眼を逸らす。
──恥ずかしがりやなのに……あんなにやらしい子なんだよな……。
弘輝の嗜好──パートナーに淫らな羞恥を味わわせて昂ぶるという性癖を、
彼女なら満足させてくれる。
拒絶はさせない──強制させるだけの手段が自分にはあるのだ。
今、自宅には誰もいない。
弘輝は握っていた携帯電話を開き、キーを操作する。
データフォルダを開き、あの一週間前の夜に撮った画像を表示──
「これ……解るよね?」
「──っ!」
彼女は眼を見開き、身を強張らせた。
怯えて後退る彼女に、弘輝は良心がちくりと痛むのを覚えたが、そっと手を
伸ばして肩を抱いた。
竹下に送られて車を降りた夏海は、自宅に続く路地を歩きながら携帯電話で
メールを打っていた。
数学準備室で竹下に淫らな責めを受けている間に、友人の冬香から送られて
きていた、夏海を気遣うメールだった。
行為の間、携帯電話は教室に残された鞄に入れっぱなしだったため、夏海は
ようやく読むことができたのだが──
背後からかけられた声に、夏海はびくっとして振り向いた。
そして──
──この人、だったんだ……。
夏海の思考は停止た。
一週間前のあの日──花火大会の夜、自分の通う中学校の教員である竹下に
もてあそばれた夏海の隣で、彼女のあられもない姿を撮っていた男──それは、
今朝、登校途中に出会った二十歳ぐらいの若者だった。
狭い町とはいえ、自分の恥ずかしい写真を撮った男が、まさかこんな近所に
住んでいる人物だったとは、思いもよらなかった。
夏海は弘輝の自宅に招かれた。
抗うことはできなかった──
机に乗った液晶モニタが、デスクトップ画面を映し出している。
足元のPC本体がファンの唸りを立てている。
冷房が利いていて、屋外の蒸し暑さが別世界のように快適だ。
弘輝の部屋に、夏海は心細い顔でぽつんと立っていた。
彼は彼女を部屋に招くと、座って待ってて、と言って一階へと降りていった。
モニタの乗った机と椅子、クッションがふたつと、低いテーブルにベッドが
ひとつ──座れと言われても、どこに座っていいか夏海には判らない。
親しくない男性の部屋に上がるなど夏海には初めての経験だが、男の部屋は
散らかっているもの──そんな印象を持っていた。
父親の部屋も、ちょっと眼を離すとすぐに散らかってしまう。夏海がまめに
片づけを手伝わなければ、どうなってしまうのか不安になるほどだ。
いつも悪いねと、ばつが悪そうに笑う父親の顔が、夏海は好きだった。
弘輝の部屋は、夏海のそんなイメージどおりだった。
六畳ほどの広さの洋室である。
いくつかある棚には、本や漫画が収められているが、収まりきらなかったで
あろう書籍や雑誌が、床に敷かれた絨毯の上に重ねられている。
机の上にはペンや小物が無造作に置かれていて、空になったペットボトルも
あった。ベッドのシーツやタオルケットも、整えられてはいない。
掃除はされているようだが、整頓されているとはお世辞にも言えなかった。
──ベッド……いやらしいこと、されるのかな……。
身体が震えた。
つい三十分ほど前に受けた、竹下からの恥辱──
夏海の身体には、まだその残滓が漂っている。
いや、一週間前のあの日から、ずっと身体の奥の疼きは消えていないのだ。
自分は、この青年にも淫らな行為を受けるのだろう。
あんな出来事に気づいていながら、彼はそれを咎めることなく、逆に自分の
あられもない写真を撮り、あまつさえ硬くそそり立ったモノを握らせて、射精
までしたのだ。
──恥ずかしい……。
夏海の左手は、あのときの感触をまだ憶えている。
想像以上に硬く大きなペニスと、ねっとりと絡みついた精液──
自分はあの日から変わってしまった。
それまでの、純粋な女の子ではなくなってしまった。
──変なこと、考えちゃ……ダメだよ……。
立ったまま、夏海は携帯電話を再び開いた。
──冬香ちゃんに、謝らなくちゃ……。
急いで謝罪のメールを送ろうと、ぽちぽちと震える指でキーを操作する。
あと少しで打ち終わるというところで、弘輝が戻ってきた。
「おまたせ、なつみちゃん」
彼は片手に麦茶の入ったボトルを、反対の手にグラスをふたつ持っていた。
「あ、メール? さっきも打ってたみたいだけど……」
「はい……」
夏海は携帯電話を畳んだ。
人前でメールを打つのは、相手に悪い気がしてあまり好きではない。
弘輝はテーブルにボトルを置き、グラスのひとつを夏海へと差し出す。
「飲みなよ。喉渇いてるんじゃない?」
「いえ……」
夏海は首を横に振って、携帯電話を鞄に仕舞った。
竹下からもらったお茶のおかげで、喉の渇きはなかった。
「座ればいいのに……ほら、どうぞ?」
弘輝はクッションをひとつ掴み、夏海の足元へ置く。
もうひとつを自分の足元に置き、胡坐をかいて座った。
「すみません」
夏海は眼を合わせないようにしながらクッションに正座した。
「もっと楽にしなよ」
弘輝が苦笑して言うと、夏海はちらりと彼を見て、脚を崩して横座りになる。
「緊張してるんかな?」
弘輝は夏海の前に置いたグラスに麦茶を注ぐ。
夏海はそれを見ながら、畳んだ携帯電話を握り締める。
「ん〜……やっぱ、俺が怖い?」
「えっ……?」
びくっと身を震わせて、夏海は弘輝を見た。
彼は曖昧な笑みを浮かべて夏海を一瞥し、自分のグラスにも麦茶を注ぐ。
「俺、弘輝ね。弘法大師の弘に、輝くって書いて、ひろき──しょっちゅう、
ひろてるって間違えられるんだよな。あと、こうきとか」
そう言って笑う。
「あ、弘法大師って知ってる? 弘法も筆の誤り……だっけかな」
「はい……」
昔の偉いお坊さんの名前──そう夏海は記憶していた。
「そういえば、空海の俗名って、佐伯なんとかっていうんだよね」
「え……?」
「どうだっけ? まぁ……なつみちゃんも、佐伯さんだなぁと、ね」
「はぁ……」
夏海はうつむいたまま、曖昧に頷いた。
彼女にはどうして空海──これも偉いお坊さんのはずだ──の名が出てきた
のか解らなかったし、俗名というのも知らない言葉だった。
それに、もともと親しくない人との会話は苦手だったし、あの夜の出来事を
思えば、まともな会話などできるわけもない。
「なつみちゃんは、なんて書くの?」
「えと……季節の夏に、海です」
「へぇ……いいね、夏生まれなの?」
弘輝はそう言ってグラスをあおった。
「はい……」
「ん……夏っていえば、海か山か……あと──」
冷たい麦茶で喉を潤し、まっすぐに夏海を見据える。
「花火だよね」
「──っ!」
夏海の身が固まった。
──やだっ……やだぁ……。
はだけられた浴衣。剥き出しの大きな乳房。
捲りあげられた裾。激しく責め立てられた秘処。
尻に押しつけられ、手に握った怒張からほとばしった、男たちの精──
「すごかったなぁ……夏海ちゃんは、ああいうのが好きなんだ?」
「わっ、わたし……あんなの……」
──好きじゃない……好きじゃないのに……。
それなのに、昂ぶってしまった自分──今日も半日、恥ずかしい姿をクラス
メイトに曝して、淫らな想いを募らせていた。
身体が震えていた。
弘輝の瞳が、欲望の炎をたたえて揺れていた。
「今朝、ブラしてなかったよね?」
「──っ!」
夏海はうつむいて眼を逸らす。
この柔らかな物腰の青年も、竹下の同類──淫らな嗜好を持つ男なのだ。
眼を合わせたくない。眼を見ては、飲み込まれてしまう──
「どうして? 学校行くのに……胸、そんなおっきいのにさぁ……」
「あっ、や……」
咄嗟に胸を腕で隠す。
「やっぱり、あいつの命令? ノーブラで学校行け、とか」
彼女の細い腕では、その大きな乳房を隠すことなどできない。
むしろ、圧迫されて上下に張り出した膨らみが、その大きさをより際立たせ、
弘輝の欲望を刺激するだけだった。
「ほんと、おっきいよね……何カップあるの?」
「えっ……」
彼女は自分のバストサイズを知らない。
竹下から与えられたブラジャーは、夏海の大きな胸にぴたりとフィットして
いたが、彼女自身はサイズを確かめてはいない。
父親が以前買ってくれたものではとっくに足りなくなっている、ということ
しか判らなかった。
「ねぇ、教えてよ。教えてくれるよね?」
「あっ、ぅ……」
弘輝は携帯電話で、テーブルをとんとんと突いた。
──やっぱり、この人も……先生と同じ……。
彼はあのときの写真で、自分を縛ろうとしているのだ。
言うことを聞かなければ、この写真がどうなってもいいのかと──
「わ、わたし……知りません……」
夏海はうつむいたまま、か細い声で答えた。
「えぇ? 知らないって……そんなことないでしょ?」
「知らないんです……ちゃんと、測ったこと、ない……」
「へぇ、そうなんだ」
弘輝が口をゆがめたのは、うつむいている夏海には見えない。
「じゃあ、見てみようよ」
「えっ……?」
「今着けてる夏海ちゃんのブラを見れば、サイズは判るよ?」
再び、弘輝が携帯電話でテーブルを叩く。
──そんな、やだ……やだよぉ……。
夏海は彼の意図を理解する──
見れば判る、ではなく、見せろと言っているのだ。
なんとかしなくては──そう思うのだが、どんな手も浮かばない。
あの写真を握られている以上、自分は彼に歯向かうことはできないのだ。
「制服脱いで、ブラ見せてよ。知りたいなぁ、夏海ちゃんのサイズ……」
「あぅっ、そんな……」
弘輝は笑っている。
彼の眼に、竹下と同じ暗い揺らぎが覗えて、背筋が寒くなる。
──あれ? でも、なんで……。
ふと──違和感を覚えた。
自分が今着けている下着は、竹下が用意したものだ。
竹下はあの夜、自分の乳房を見て、手で触れて、だいたいのサイズが判った
と言っていた。それは見事に的中し、今、乳房をしっかりと覆っている。
彼はそれを知らないのだろうか。竹下の予想を聞いていないのだろうか。
彼らが仲間ならば、ふたりの間にそんな情報のやりとりがあったと考えても
おかしくはないだろうに──
──もしかして……。
彼は、竹下のことを知らないのだろうか。
ふたりは、知り合いではないのだろうか──
「まずは脱がないとね……脱がしてあげるよ」
「あ、あぅっ……!」
弘輝はグラスを置いて、身を乗りだしてきた。
左手を床に突き、右手を伸ばす。
夏海は逃れようとしたが、それよりも弘輝の手のほうが早かった。
弘輝は右腕で夏海の肩を抱き、彼女の前に膝を突いて、ぐいと引き寄せた。
「あっ……!」
夏海の小さく軽い身体を、弘輝は苦もなく抱きすくめてしまう。
「おっぱい、当たってるよ……すごいな、こんなおっきいんだね」
「うぅっ、嫌ぁ……」
「怖がらなくってもだいじょうぶだって。ひどいことはしないからさ……夏海
ちゃんの大好きな、エッチで、恥ずかしいことをするだけだよ」
弘輝の声は、今朝出会った好青年という印象からは、かけ離れていた。
竹下ほどの声色の変わりようはない。
だが、彼が欲望を昂ぶらせていることは、夏海には手に取るように解る。
弘輝は抱いたまま、夏海の制服のリボンを抓む。
細いリボンはあっさり解ける。
「夏海ちゃんは、ああいうことが大好きなんでしょ? 嫌いだったら、あんな
恥ずかしいこと、できないもんなぁ……」
弘輝は言いながら、膝立ちの姿勢で夏海の背後へと回り込む。
「あの男は、キミの何なの? 彼氏にしては、歳が離れてるよね……」
──そうだ、そうなんだ……やっぱり……。
弘輝は竹下のことを知らないのだ。
ふたりは他人だった。自分は、どうしようもない勘違いをしていた──
──わたし、ほんとに馬鹿だぁ……。
激しい自己嫌悪が夏海を襲った。
と同時に、全身に徒労感が広がってゆく。
「もしかして、ご主人様ってやつ……?」
夏海には、背後で囁いた弘輝の言葉の意味が解らなかった。
ご主人様といえば、大きな屋敷に住む大金持ちや、その召使いが主人を呼ぶ
言葉といった、自分とは無縁な世界のイメージぐらいしかない。
「中学生の夏海ちゃんを、露出調教するご主人様か……変態だなぁ」
──露出、調教……変態……。
竹下に言わされた卑猥な言葉が思い出される。
そして、竹下があの夜口にした、調教という言葉──
──そうか、そういう意味なんだ……。
自分は、未開花の淫らな本能を、竹下に引き出されてしまった。
恥ずかしいことをさせられて、官能に昂ぶってしまった。
いやらしい言葉を言わされて、刺激に溺れてしまった。
「夏海ちゃんは、あいつの奴隷なの?」
──奴隷……わたしが……?
夏海にはその意味も解らない。
奴隷という言葉に対する印象も少ない。古い時代、貧しい人々や、侵略した
土地の住民を捕らえ、労働力として使役する──
──でも……そっか、強制されたんだ……。
自分は強制されて、恥ずかしいことをさせられた。
──それが、きっと……調教なんだ……。
おぼろげながら、彼の言わんとすることが理解できた。
どこか、自分を遠くから眺めているような、現実感のない感覚だった。
──わたし、先生に……調教されてる、奴隷なんだ……。
自分は確かに彼の責め苦に喘ぎ、最後には自ら求めてしまった。
「中学生で……まだ一年でしょ? それなのに……やらしいなぁ」
主人と奴隷、マスターとスレイヴ、サディスト、マゾヒスト──そういった
言葉を夏海はよく知らなかったが、イメージだけはぼんやりと浮かんでいた。
「わたし、そんなんじゃ……」
違うとは言い切れなかった。
──マジで奴隷なのか? こんな子が……。
怯えたあどけない顔は、まだまだ子供っぽい。身体つきも幼児体型といえる
ほどだ。それなのに、彼好みの大きな乳房を持っている。
あの夜に見た、淫らに喘ぎ悶える少女は、間違いなく彼女だ。
弘輝の性衝動は、幼い少女が対象というわけではない。
だが、彼女のような、羞恥に快感を覚える異性をずっと待ち望んでいた。
──やっべぇ……虐めたい……。
彼のアブノーマルな欲望が、むらむらと膨れあがってゆく。
「ほんとに……すごい胸だなぁ……」
「ひゃっ……!」
弘輝は夏海の双丘を鷲掴みにした。
びくっと震えた彼女の小さな悲鳴に、弘輝は劣情を激しくそそられる。
──マジで、すげぇ……でかいし、柔らかいし……。
つい数ヶ月前まで小学生だった少女の乳房とは思えない。
たわわに実った膨らみは、指をいっぱいに広げてようやく包み込める。
ブラのカップの上からでも、その柔らかさと弾力がじゅうぶん伝わってくる。
彼が求めてやまなかった、大きな膨らみを両手で包む。大きさと感触を堪能
するかのように、ゆっくりと揉みしだく。
一週間前に見たとおりの、予想したとおりの、官能的な双丘だった。
──これで中一って……やべぇ、俺もじゅうぶん変態だな……。
中学一年生──まだ十二歳の少女の乳房を揉んでいる。
インモラルな衝動が弘輝を揺さぶっていた。
「こんなに大きいと、いろいろ大変そうだね……学校で、男子に見られたり、
触られたりするんじゃない?」
「あぅっ、やだっ……んっ」
彼女の身体の震えが手に取るように判る。
恥じらい、怯え──だが、それだけではないのも弘輝には解る。
──感じてるんだ……やらしい子だなぁ……。
彼女は羞恥に怯えているのに、身体を昂ぶらせ、淫らな官能を望んでいる。
今まで弘輝がつきあってきた女性とは明らかに違う反応──
「んっ、や……あぅっ」
弘輝の指が彼女の乳房を刺激するたびに、夏海は小さな吐息をもらす。
彼女のブラは、制服の上から見る限りちょうどいいサイズのようだ。触って
みても、カップと乳房の間には隙間もないし、窮屈そうでもない。
──見てみたい……こないだは、暗かったし……。
一週間前のあの夜は、横目で盗み見ることしかできなかった。
携帯電話のカメラでは、鮮明な画像は得られなかった。
彼女の大きな膨らみを、眼に焼き付けたい──そんな想いに駆られていた。
だが、惜しむらくは、乳房から手を離さなければ脱がせられない──
「そうだ……自分で脱いでよ。ひどいことは、しないからさ……」
「えぇっ、そんなっ……」
弘輝が言うと、夏海はびくりと身を震わせる。
知り合ったばかりの男に肌を曝すなど、彼女のような内気な少女には、到底
無理な話だろう。
しかし、彼女は内気なだけではない──そう弘輝は確信している。
今までつきあってきた女性は、弘輝が正体を現すと、本心から拒絶したのだ。
蔑むような眼で見られたことさえあった。
だが、夏海はそうではない。
顔をしかめてはいるが、本気で嫌がっているわけではないのだ。
──あの男の調教の成果……ってこと?
ふたりはどんな関係にあるのだろうか──まさか、本当にご主人様と奴隷と
いうわけでもあるまい。
まったくの他人とは考えられないし、恋人同士というのはもっと考えにくい。
あの夜、弘輝は彼女が男に連れられて人込みから離れるを見届けていた。
ふたりを途中で見失ってしまい、そのあとどうなったかは判らない。夏海を
家まで届けた竹下が、彼女の父親に、教師だと名乗ったのも知らなかった。
──ちゃんと聞いとかないとなぁ……。
ふたりの関係がどうあれ、夏海が、弘輝の願望を満たしてくれる少女である
ことには間違いない。
──この人も、竹下先生と同じ……。
彼は自分に、恥ずかしい想いをさせ、卑猥なことをする気なのだ。
竹下だけでなく、弘輝という名の──優しそうに見えた青年からも、羞恥を
受けなければならないようだ。
逃れる手段はただひとつ──法に訴えることだけだ。
だが──どんな取調べを受けるのだろうか。
痴漢や強姦の被害者は、警察の取調べで、セカンドレイプと呼ばれる羞恥に
耐えなければならない──以前、テレビで見たことがあった。
自分の受けた恥辱を、他人に伝えなければならない。たちの悪い警官などは、
本当に嫌だったのか、本当は受け入れていたのではないかと、被害者に責任が
あるかのように責め立てることもあるらしい。
画像も見られてしまうだろう。祭りの夜に撮られた画像だけでなく、学校で
竹下に撮られた動画だって──
加害者への取調べでどんな証言をされるかも解らない。自分が淫らに喘いだ
ことや、秘処を濡らしたこと──恥ずかしいことを喋られてしまう。
ニュースにだってなるだろう。名前は伏せられるかもしれないが、それでも、
察しのいい者に気づかれ、噂が広がらないとも限らない。
──そんなの、絶対やだよぉ……。
自分の愚かさが怨めしい。
もっと早くに気づいていれば、こうはならなかっただろうに──
夏海は溜息をつく。いまさら考えても意味のないことだった。
「自分で、制服脱がないと……どうなるか判んないよ?」
「あっ! うぅっ……」
──脱がなくちゃ……ひどいこと、されたくない……。
しかし、脱げば──肌を見られてしまう。大きな乳房を見られてしまう。
──見られたら、わたし……。
快感を覚えてしまうかもしれない──
あの夜も、今日の午前中も、竹下の前でも、夏海は激しく昂ぶった。
身体が再び疼きだしている。
竹下に責められ、導かれて達してしまい、波は引いたはずなのに──
「ほら、ボタン外して、制服脱いで……できるよね?」
「うぅ……でもっ……」
窓は締め切っているが、カーテンは開いたままだ。
「か、カーテン……見えちゃう……」
弘輝の部屋は二階で西向きである。道路に面しているが、真向かいは小さな
空き地であり、その向こうの民家の庭には大きな樹木が枝葉を広げている。
「だいじょうぶだよ、向こうの窓とか、見えないだろ?」
「うぅ……」
窓の外に、真夏の青空が見える。
この部屋にベランダはない。窓は夏海の膝より上、高さは九十センチほどだ。
傾きかけた太陽が、強い陽射しを窓際の床に落としている。
窓の外に蝉が止まったようだ。すぐ近くから激しい鳴き声が響きだす。
──見られないよね? だいじょうぶだよね……?
座っている夏海を、家の前の道路や空き地から覗くのは困難だろう。
空き地の奥にある家からだって、樹木の枝葉に隠れて見えないし、空き地の
左右にある家も死角になっている。
「いい子だね、夏海ちゃん……」
夏海は、震えながら制服のボタンに手をかけた。
季節は夏である──解かれた細い臙脂色のリボンの下、第一ボタンはいつも
外している。
夏海は、第二ボタンを外した。
指が震えて思うように動かなかった。
夏海はクッションに横座りして、肌を曝してゆく。
ブラウスのボタンを外す間、弘輝はずっと乳房への愛撫をやめなかった。
身体が震えて何度もボタンを逃がしてしまいながら、夏海はすべてを外した。
「よくできました……と」
「あっ──!」
直後、弘輝はブラウスを掴み、ばっと左右に勢いよく広げてしまう。
下にはキャミソールを着ているとはいえ、下着が露になるのだ。恥ずかしく
ないわけがなかった。
弘輝はこともなげに脱がしてしまう──もちろん、夏海が強い抵抗を示さな
かったからだ。
弘輝はブラウスを軽く畳んで、夏海のバッグの上に置いた。襟からするりと
抜け落ちたリボンも一緒に重ねる。
「さぁ、キャミも脱いじゃおうね」
「うっ、うぅ……」
──恥ずかしい、恥ずかしいよぉ……。
夏海は震えながらキャミの裾に指をかけて、ゆっくりと持ち上げた。
細いウェストが露になり、大きな膨らみを包んだブラジャーが現れる。
うっすらと日焼けの跡の残る、夏海の白い肌が露になった。
上半身を隠すのは、竹下から与えられた白い大人びたブラジャーだけ──
ほどよくレースがあしらわれ、胸の谷間に小さなピンクのリボンが飾られ、
彼女の大きな膨らみを下から支えるように包んでいる。
2/3カップのそれは、乳房の谷間と上側を露にし、その大きさと弾力とを、
視覚的にも強調するデザインだ。
胴を回るベルトがやや緩く感じるが、夏海の身体が細すぎるからだと、彼は
言っていた。
竹下は、彼女にブラの正しい着け方を教えてくれた。
カップを乳房に被せるだけでなく、脇から指を入れて、乳房自体がきちんと
持ち上げられるように整えるのだそうだ。
その間、夏海は快楽の余韻に震えていた。竹下はときどき敏感な突起に触れ、
夏海の羞恥を煽った。
「ほんとにいい子だね、夏海ちゃん」
──見られてる……恥ずかしい……!
夏海の羞恥が一気に膨らみ、腕で胸を隠してしまう。
背後で弘輝がどんな顔をしているか、夏海にはよく解った。
「さぁ、ブラも取っちゃおうか」
「えっ──!?」
夏海は絶句した。
──そんなっ……サイズ、見るだけじゃないの……?
ブラジャーのサイズは背中のベルトの裏にあるはずだ。外す必要などない。
「どうしたの? あ、そっか……俺がくっついてたら外しづらいよね」
弘輝は笑いながら身体を離した。
「見せてくれるよね? 夏海ちゃんの大きなおっぱい……」
「あっ、やだ……」
膝を突いたまま、再び夏海の前方に回ってくる。
夏海は咄嗟に腕を胸に重ねたが、細い腕では膨らみすべてを隠しきれない。
むしろ、押し潰されてブラのカップからあふれた膨らみが、より彼女の胸の
大きさを際立たせるだけだった。
夏海は顔を上げていられなかった。
「ほんとに、おっきくて……すごく綺麗なおっぱいだよ」
眼の前の青年が、竹下と同じような言葉を口にする。
弘輝が手を伸ばし、夏海の手首を握った。
「もっとよく見せて……」
──恥ずかしいのに……わたし……。
夏海の身体の奥で、消すことのできない疼きが、ぞわぞわと蠢いている。
抑えられない衝動が、彼女の理性を揺さぶる。
夏海はうつむいたまま、彼の手に引かれて腕を下ろした。
──ダメなのに……エッチに、なっちゃう……
ブラジャーに隠れているとはいえ、大きさも形もはっきりと判る乳房を凝視
されている。
彼女の羞恥を求める心がふつふつと沸きはじめる。
「ブラも……外せるね?」
心臓がどくどくと激しく脈打っている。
カップの裏に縫い込まれた柔らかなパッドの下で、淡い桜色の小さな突起が
きゅっと尖っている。
まるで、自分を見て欲しいと言っているかのように──
「いい子だなぁ、夏海ちゃんは……」
夏海の指が、ゆっくりと背に回った。
──ブラジャー……外したら……おっぱいが……。
震えながらホックを外す。
と──ぷるんと乳房が弾むように揺れ、カップが浮き上がった。
「すっげ……」
弘輝はじっと夏海の膨らみを凝視している。
──わたし……変態だよ……。
昂ぶりはじめている自分が悔しくて、恥ずかしくて──さらに昂ぶってゆく。
──わたし、ほんとにエッチ……変態中学生……。
竹下に言わされた卑猥な言葉が、夏海の官能を燃え上がらせる。
あれから一時間も経っていないのだ。
夏海の指が、ブラジャーを肩から吊っているストラップにかかった。
「さぁ、見せて……」
──見せちゃう……おっぱい、見られちゃう……。
弘輝に促されるように、夏海は左右の肩紐を同時に外した。
純白のブラジャーが、はらりと膝に落ちた。
背は低く身体つきも華奢で小学生のような夏海──
そんな彼女にはアンバランスな、大きすぎるほどの乳房が露になった。
「マジで、すげぇ……」
弘輝が感嘆の吐息をもらすと、夏海の身体がびくっと震える。
ぷるっと揺れた乳房が、ふたりの情念を激しく駆り立てた。