四ヶ月あまり前の春に夏海がやってきたこの町は、四方を山に囲まれ、狭い  
平地に商店街と住宅街が形成された、人口一万あまりの小さな田舎町だ。  
 面積自体はそれなりに広く、山にはこの町の名産であるミカンの畑が並び、  
山の間を縫うように走る曲がりくねった道沿いにも、民家が続いている。  
 小さな町ではあるが、歴史は古い。奈良時代や平安時代に建立されたという  
寺社がいくつも健在で、人々の信仰を今も集めている。  
 江戸時代には、裏街道の峠越えの宿場町として人が集まり、現在でも当時の  
面影をいくらか残している。  
 山に囲まれてはいるが、標高は低く、内陸に位置しているわけではない。  
 峠をいくつか越えれば隣の市に出られ、その最南端は太平洋に面している。  
 
 
 隣の市に向かう峠の道を、滑らかな流線型を描いた、黒いスポーツタイプの  
軽自動車が走っている。  
 真夏の昼下がり──連日三十度を越す真夏日が続いているが、冷房の利いた  
車内は涼しく快適だった。  
 強い日差しも、周囲の木々が遮ってくれている。  
 だが、夏海はそんな心地よさなど感じていられなかった。  
 助手席で、羞恥に震えていた。  
「夏海ちゃんはエッチだ……ほんとに、恥ずかしいのに感じちゃうんだね」  
 運転席の男が軽い調子で夏海を責める。  
「あぅっ……」  
 男の言葉に夏海は身を竦める。  
 夏海は、中学生一年生とは思えないほどの、豊かなバストの持ち主だ。  
 背は低く、顔立ちも幼い。身体つきそのものは華奢で子供っぽいのに、胸の  
膨らみだけは、同級生をはるかに凌駕している。  
 夏海が着ているのは、淡い水色のキャミソール──彼女の胸のボリュームが  
はっきりと表れていて、細い身体との対比が扇情的である。  
 たわわに実ったふたつの膨らみの谷間を、黒いシートベルトが襷掛けに通り、  
その中学生離れした大きさと、優美な造形をさらに際立たせている。  
 補修を何度も繰り返した路面は凹凸が激しく、車の硬いサスペンションは、  
細かな振動を搭乗者に与える。車体が揺れるたびに、夏海の乳房はぷるぷると  
揺れていた。  
「乳首、勃ってるよね?」  
「うぅっ……」  
 彼女はブラジャーを着けていなかった。  
 キャミの身頃には裏当てがあり、夏海の小さな突起が浮き出ることはないが、  
彼の言うとおり、そこは布の下で、つんと尖っていた。  
 キャミソールは乳房に直に触れて、車の振動が乳房を揺らす。生地と突起が  
こすれて、じわじわと快感を訴えていた。  
──ダメ……気持ちいいよぉ……。  
 腰にはアイボリーの柔らかなフレアミニスカート──膝上数センチの丈だが、  
腿の付け根まで捲られ、細い脚が剥き出しになっていた。  
──恥ずかしいのに……エッチだよぉ……。  
 つい十日前まで、彼女はこんな刺激とはほとんど無縁な少女だった。  
 一週間と三日前──町の夏祭りの夜、奉納花火大会の観覧客の人込みの中で、  
夏海は激しい羞恥と官能に見舞われた。  
 幼い身体を曝し、快楽に飲み込まれ、責め立てられて初めての絶頂を覚えた。  
 夏海を責めた男は、彼女が通う学校の教師だった。  
 彼女の隣で淫らな姿をカメラに収めていた男は、すぐ近所に住む青年だった。  
「もう、濡れすぎてるんじゃない?」  
「あうっ! うぅ……」  
──わたし……ほんとに、おかしくなっちゃう……。  
 スカートの下には、ショーツを穿いていなかった。  
 シートには、未熟な秘処が直接触れている。  
 彼の言うとおり、とろりとした蜜でたっぷり潤んでいた。  
 羞恥が夏海の心を刺激し、官能を昂ぶらせてしまう。  
 夏海はブラジャーもショーツも着けず、車の助手席で淫らな昂揚感に苛まれ、  
あの日から消えることのない疼きに、身を焦がしていた。  
 
「じゃあ、行ってくるね」  
「あいよー、行ってらっしゃい」  
 階下から聞こえた母親の声に、弘輝はだるそうに声をあげた。  
「あんた、ちゃんとバイト遅れないように気をつけなさいよー」  
「わかってるよ」  
 玄関のドアが閉まる音がして、弘輝は溜息をつく。  
 母親は、近所の主婦仲間と、隣街へショッピングだそうだ。  
 盆休みの父親も、昼食を済ませて一服すると、パチンコを打ちにいった。  
 外から聴こえる蝉の声が屋外の暑さを物語っている。  
 ふたりとも、よくこんな暑い日に外出する気になるもんだ、と弘輝は呆れる  
やら感心するやらで苦笑してしまう。  
 コンビニでのアルバイトは、普段は深夜シフトだが、今日は代打で午後から  
入ることになっていた。あと一時間半ほどだ。  
 ネットでも見て時間を潰そうと、PCを起動したときだった。  
 家の前で車の止まる音がして、弘輝は何気なく窓の外へと眼を向けた。  
──あれ……? あの子……。  
 白い小型車の助手席から、この一週間ずっと頭から離れなかったあの少女が  
降りてきて、弘輝の心臓が大きく脈打った。  
──なつみちゃんだ……。  
 彼女は頭を下げ、走り去る車を見送った。  
──これは……チャンス到来か!?  
 弘輝は携帯電話を掴んで駆け出した。  
 彼女の家はすぐ近く──急げば間に合う。急な階段を慎重に、しかし足早に  
下り、サンダルを引っ掛けて玄関を出た。  
 少女はもうそこにはいなかったが、彼女の家は知っている。  
 弘輝は角を折れて路地へと入った。その先にはもうひとつ角があり──  
──いたっ!  
 白いブラウスに紺色のスカート。学校指定のバッグを肩にかけ、首の後ろで  
ひとまとめにされた髪、小柄で華奢な後姿──  
「こんにちは、なつみちゃん」  
 弘輝は彼女の後ろから声をかける。  
 少女はびくっと震えて振り返った。  
 子供っぽい顔立ち──丸みを帯びた頬に細い顎。目尻はやや垂れておっとり  
した印象を受ける。小さな鼻、艶やかな唇──  
 彼女は手にしていた携帯電話を、ぱたんと折り畳んだ。  
──可愛いなぁ……それに、ほんとにでかい……って、あれ?  
 弘輝は、彼女の大きな胸の膨らみに眼を奪われた。  
 朝はブラジャーを着けていなかったはずの彼女だが、今は着けているようだ。  
──鞄に入れてたのか?  
 よく解らないが、これから訊けばいい──そう考えて彼女に笑みを向ける。  
「学校終わったとこ?」  
「え、はい……」  
 彼女は弘輝を、上目遣いに見てから眼を逸らした。  
 人と眼を合わせるのが苦手なのだろう──人見知りのするタイプのようだ。  
 それとも、胸を見られていることに気づいたからだろうか。  
「あのさ、ちょっと……いいかな?」  
「はい……?」  
 彼女はまた弘輝をちらりと見てすぐに眼を逸らす。  
──恥ずかしがりやなのに……あんなにやらしい子なんだよな……。  
 弘輝の嗜好──パートナーに淫らな羞恥を味わわせて昂ぶるという性癖を、  
彼女なら満足させてくれる。  
 拒絶はさせない──強制させるだけの手段が自分にはあるのだ。  
 今、自宅には誰もいない。  
 弘輝は握っていた携帯電話を開き、キーを操作する。  
 データフォルダを開き、あの一週間前の夜に撮った画像を表示──  
「これ……解るよね?」  
「──っ!」  
 彼女は眼を見開き、身を強張らせた。  
 怯えて後退る彼女に、弘輝は良心がちくりと痛むのを覚えたが、そっと手を  
伸ばして肩を抱いた。  
 
 竹下に送られて車を降りた夏海は、自宅に続く路地を歩きながら携帯電話で  
メールを打っていた。  
 数学準備室で竹下に淫らな責めを受けている間に、友人の冬香から送られて  
きていた、夏海を気遣うメールだった。  
 行為の間、携帯電話は教室に残された鞄に入れっぱなしだったため、夏海は  
ようやく読むことができたのだが──  
 背後からかけられた声に、夏海はびくっとして振り向いた。  
 そして──  
──この人、だったんだ……。  
 夏海の思考は停止た。  
 一週間前のあの日──花火大会の夜、自分の通う中学校の教員である竹下に  
もてあそばれた夏海の隣で、彼女のあられもない姿を撮っていた男──それは、  
今朝、登校途中に出会った二十歳ぐらいの若者だった。  
 狭い町とはいえ、自分の恥ずかしい写真を撮った男が、まさかこんな近所に  
住んでいる人物だったとは、思いもよらなかった。  
 夏海は弘輝の自宅に招かれた。  
 抗うことはできなかった──  
 
 
 机に乗った液晶モニタが、デスクトップ画面を映し出している。  
 足元のPC本体がファンの唸りを立てている。  
 冷房が利いていて、屋外の蒸し暑さが別世界のように快適だ。  
 弘輝の部屋に、夏海は心細い顔でぽつんと立っていた。  
 彼は彼女を部屋に招くと、座って待ってて、と言って一階へと降りていった。  
 モニタの乗った机と椅子、クッションがふたつと、低いテーブルにベッドが  
ひとつ──座れと言われても、どこに座っていいか夏海には判らない。  
 親しくない男性の部屋に上がるなど夏海には初めての経験だが、男の部屋は  
散らかっているもの──そんな印象を持っていた。  
 父親の部屋も、ちょっと眼を離すとすぐに散らかってしまう。夏海がまめに  
片づけを手伝わなければ、どうなってしまうのか不安になるほどだ。  
 いつも悪いねと、ばつが悪そうに笑う父親の顔が、夏海は好きだった。  
 弘輝の部屋は、夏海のそんなイメージどおりだった。  
 六畳ほどの広さの洋室である。  
 いくつかある棚には、本や漫画が収められているが、収まりきらなかったで  
あろう書籍や雑誌が、床に敷かれた絨毯の上に重ねられている。  
 机の上にはペンや小物が無造作に置かれていて、空になったペットボトルも  
あった。ベッドのシーツやタオルケットも、整えられてはいない。  
 掃除はされているようだが、整頓されているとはお世辞にも言えなかった。  
──ベッド……いやらしいこと、されるのかな……。  
 身体が震えた。  
 つい三十分ほど前に受けた、竹下からの恥辱──  
 夏海の身体には、まだその残滓が漂っている。  
 いや、一週間前のあの日から、ずっと身体の奥の疼きは消えていないのだ。  
 自分は、この青年にも淫らな行為を受けるのだろう。  
 あんな出来事に気づいていながら、彼はそれを咎めることなく、逆に自分の  
あられもない写真を撮り、あまつさえ硬くそそり立ったモノを握らせて、射精  
までしたのだ。  
──恥ずかしい……。  
 夏海の左手は、あのときの感触をまだ憶えている。  
 想像以上に硬く大きなペニスと、ねっとりと絡みついた精液──  
 自分はあの日から変わってしまった。  
 それまでの、純粋な女の子ではなくなってしまった。  
──変なこと、考えちゃ……ダメだよ……。  
 立ったまま、夏海は携帯電話を再び開いた。  
──冬香ちゃんに、謝らなくちゃ……。  
 急いで謝罪のメールを送ろうと、ぽちぽちと震える指でキーを操作する。  
 あと少しで打ち終わるというところで、弘輝が戻ってきた。  
「おまたせ、なつみちゃん」  
 彼は片手に麦茶の入ったボトルを、反対の手にグラスをふたつ持っていた。  
 
「あ、メール? さっきも打ってたみたいだけど……」  
「はい……」  
 夏海は携帯電話を畳んだ。  
 人前でメールを打つのは、相手に悪い気がしてあまり好きではない。  
 弘輝はテーブルにボトルを置き、グラスのひとつを夏海へと差し出す。  
「飲みなよ。喉渇いてるんじゃない?」  
「いえ……」  
 夏海は首を横に振って、携帯電話を鞄に仕舞った。  
 竹下からもらったお茶のおかげで、喉の渇きはなかった。  
「座ればいいのに……ほら、どうぞ?」  
 弘輝はクッションをひとつ掴み、夏海の足元へ置く。  
 もうひとつを自分の足元に置き、胡坐をかいて座った。  
「すみません」  
 夏海は眼を合わせないようにしながらクッションに正座した。  
「もっと楽にしなよ」  
 弘輝が苦笑して言うと、夏海はちらりと彼を見て、脚を崩して横座りになる。  
「緊張してるんかな?」  
 弘輝は夏海の前に置いたグラスに麦茶を注ぐ。  
 夏海はそれを見ながら、畳んだ携帯電話を握り締める。  
「ん〜……やっぱ、俺が怖い?」  
「えっ……?」  
 びくっと身を震わせて、夏海は弘輝を見た。  
 彼は曖昧な笑みを浮かべて夏海を一瞥し、自分のグラスにも麦茶を注ぐ。  
「俺、弘輝ね。弘法大師の弘に、輝くって書いて、ひろき──しょっちゅう、  
ひろてるって間違えられるんだよな。あと、こうきとか」  
 そう言って笑う。  
「あ、弘法大師って知ってる? 弘法も筆の誤り……だっけかな」  
「はい……」  
 昔の偉いお坊さんの名前──そう夏海は記憶していた。  
「そういえば、空海の俗名って、佐伯なんとかっていうんだよね」  
「え……?」  
「どうだっけ? まぁ……なつみちゃんも、佐伯さんだなぁと、ね」  
「はぁ……」  
 夏海はうつむいたまま、曖昧に頷いた。  
 彼女にはどうして空海──これも偉いお坊さんのはずだ──の名が出てきた  
のか解らなかったし、俗名というのも知らない言葉だった。  
 それに、もともと親しくない人との会話は苦手だったし、あの夜の出来事を  
思えば、まともな会話などできるわけもない。  
「なつみちゃんは、なんて書くの?」  
「えと……季節の夏に、海です」  
「へぇ……いいね、夏生まれなの?」  
 弘輝はそう言ってグラスをあおった。  
「はい……」  
「ん……夏っていえば、海か山か……あと──」  
 冷たい麦茶で喉を潤し、まっすぐに夏海を見据える。  
「花火だよね」  
「──っ!」  
 夏海の身が固まった。  
──やだっ……やだぁ……。  
 はだけられた浴衣。剥き出しの大きな乳房。  
 捲りあげられた裾。激しく責め立てられた秘処。  
 尻に押しつけられ、手に握った怒張からほとばしった、男たちの精──  
「すごかったなぁ……夏海ちゃんは、ああいうのが好きなんだ?」  
「わっ、わたし……あんなの……」  
──好きじゃない……好きじゃないのに……。  
 それなのに、昂ぶってしまった自分──今日も半日、恥ずかしい姿をクラス  
メイトに曝して、淫らな想いを募らせていた。  
 身体が震えていた。  
 弘輝の瞳が、欲望の炎をたたえて揺れていた。  
 
「今朝、ブラしてなかったよね?」  
「──っ!」  
 夏海はうつむいて眼を逸らす。  
 この柔らかな物腰の青年も、竹下の同類──淫らな嗜好を持つ男なのだ。  
 眼を合わせたくない。眼を見ては、飲み込まれてしまう──  
「どうして? 学校行くのに……胸、そんなおっきいのにさぁ……」  
「あっ、や……」  
 咄嗟に胸を腕で隠す。  
「やっぱり、あいつの命令? ノーブラで学校行け、とか」  
 彼女の細い腕では、その大きな乳房を隠すことなどできない。  
 むしろ、圧迫されて上下に張り出した膨らみが、その大きさをより際立たせ、  
弘輝の欲望を刺激するだけだった。  
「ほんと、おっきいよね……何カップあるの?」  
「えっ……」  
 彼女は自分のバストサイズを知らない。  
 竹下から与えられたブラジャーは、夏海の大きな胸にぴたりとフィットして  
いたが、彼女自身はサイズを確かめてはいない。  
 父親が以前買ってくれたものではとっくに足りなくなっている、ということ  
しか判らなかった。  
「ねぇ、教えてよ。教えてくれるよね?」  
「あっ、ぅ……」  
 弘輝は携帯電話で、テーブルをとんとんと突いた。  
──やっぱり、この人も……先生と同じ……。  
 彼はあのときの写真で、自分を縛ろうとしているのだ。  
 言うことを聞かなければ、この写真がどうなってもいいのかと──  
「わ、わたし……知りません……」  
 夏海はうつむいたまま、か細い声で答えた。  
「えぇ? 知らないって……そんなことないでしょ?」  
「知らないんです……ちゃんと、測ったこと、ない……」  
「へぇ、そうなんだ」  
 弘輝が口をゆがめたのは、うつむいている夏海には見えない。  
「じゃあ、見てみようよ」  
「えっ……?」  
「今着けてる夏海ちゃんのブラを見れば、サイズは判るよ?」  
 再び、弘輝が携帯電話でテーブルを叩く。  
──そんな、やだ……やだよぉ……。  
 夏海は彼の意図を理解する──  
 見れば判る、ではなく、見せろと言っているのだ。  
 なんとかしなくては──そう思うのだが、どんな手も浮かばない。  
 あの写真を握られている以上、自分は彼に歯向かうことはできないのだ。  
「制服脱いで、ブラ見せてよ。知りたいなぁ、夏海ちゃんのサイズ……」  
「あぅっ、そんな……」  
 弘輝は笑っている。  
 彼の眼に、竹下と同じ暗い揺らぎが覗えて、背筋が寒くなる。  
──あれ? でも、なんで……。  
 ふと──違和感を覚えた。  
 自分が今着けている下着は、竹下が用意したものだ。  
 竹下はあの夜、自分の乳房を見て、手で触れて、だいたいのサイズが判った  
と言っていた。それは見事に的中し、今、乳房をしっかりと覆っている。  
 彼はそれを知らないのだろうか。竹下の予想を聞いていないのだろうか。  
 彼らが仲間ならば、ふたりの間にそんな情報のやりとりがあったと考えても  
おかしくはないだろうに──  
──もしかして……。  
 彼は、竹下のことを知らないのだろうか。  
 ふたりは、知り合いではないのだろうか──  
 
「まずは脱がないとね……脱がしてあげるよ」  
「あ、あぅっ……!」  
 弘輝はグラスを置いて、身を乗りだしてきた。  
 左手を床に突き、右手を伸ばす。  
 夏海は逃れようとしたが、それよりも弘輝の手のほうが早かった。  
 弘輝は右腕で夏海の肩を抱き、彼女の前に膝を突いて、ぐいと引き寄せた。  
「あっ……!」  
 夏海の小さく軽い身体を、弘輝は苦もなく抱きすくめてしまう。  
「おっぱい、当たってるよ……すごいな、こんなおっきいんだね」  
「うぅっ、嫌ぁ……」  
「怖がらなくってもだいじょうぶだって。ひどいことはしないからさ……夏海  
ちゃんの大好きな、エッチで、恥ずかしいことをするだけだよ」  
 弘輝の声は、今朝出会った好青年という印象からは、かけ離れていた。  
 竹下ほどの声色の変わりようはない。  
 だが、彼が欲望を昂ぶらせていることは、夏海には手に取るように解る。  
 弘輝は抱いたまま、夏海の制服のリボンを抓む。  
 細いリボンはあっさり解ける。  
「夏海ちゃんは、ああいうことが大好きなんでしょ? 嫌いだったら、あんな  
恥ずかしいこと、できないもんなぁ……」  
 弘輝は言いながら、膝立ちの姿勢で夏海の背後へと回り込む。  
「あの男は、キミの何なの? 彼氏にしては、歳が離れてるよね……」  
──そうだ、そうなんだ……やっぱり……。  
 弘輝は竹下のことを知らないのだ。  
 ふたりは他人だった。自分は、どうしようもない勘違いをしていた──  
──わたし、ほんとに馬鹿だぁ……。  
 激しい自己嫌悪が夏海を襲った。  
 と同時に、全身に徒労感が広がってゆく。  
「もしかして、ご主人様ってやつ……?」  
 夏海には、背後で囁いた弘輝の言葉の意味が解らなかった。  
 ご主人様といえば、大きな屋敷に住む大金持ちや、その召使いが主人を呼ぶ  
言葉といった、自分とは無縁な世界のイメージぐらいしかない。  
「中学生の夏海ちゃんを、露出調教するご主人様か……変態だなぁ」  
──露出、調教……変態……。  
 竹下に言わされた卑猥な言葉が思い出される。  
 そして、竹下があの夜口にした、調教という言葉──  
──そうか、そういう意味なんだ……。  
 自分は、未開花の淫らな本能を、竹下に引き出されてしまった。  
 恥ずかしいことをさせられて、官能に昂ぶってしまった。  
 いやらしい言葉を言わされて、刺激に溺れてしまった。  
「夏海ちゃんは、あいつの奴隷なの?」  
──奴隷……わたしが……?  
 夏海にはその意味も解らない。  
 奴隷という言葉に対する印象も少ない。古い時代、貧しい人々や、侵略した  
土地の住民を捕らえ、労働力として使役する──  
──でも……そっか、強制されたんだ……。  
 自分は強制されて、恥ずかしいことをさせられた。  
──それが、きっと……調教なんだ……。  
 おぼろげながら、彼の言わんとすることが理解できた。  
 どこか、自分を遠くから眺めているような、現実感のない感覚だった。  
──わたし、先生に……調教されてる、奴隷なんだ……。  
 自分は確かに彼の責め苦に喘ぎ、最後には自ら求めてしまった。  
「中学生で……まだ一年でしょ? それなのに……やらしいなぁ」  
 主人と奴隷、マスターとスレイヴ、サディスト、マゾヒスト──そういった  
言葉を夏海はよく知らなかったが、イメージだけはぼんやりと浮かんでいた。  
「わたし、そんなんじゃ……」  
 違うとは言い切れなかった。  
 
──マジで奴隷なのか? こんな子が……。  
 怯えたあどけない顔は、まだまだ子供っぽい。身体つきも幼児体型といえる  
ほどだ。それなのに、彼好みの大きな乳房を持っている。  
 あの夜に見た、淫らに喘ぎ悶える少女は、間違いなく彼女だ。  
 弘輝の性衝動は、幼い少女が対象というわけではない。  
 だが、彼女のような、羞恥に快感を覚える異性をずっと待ち望んでいた。  
──やっべぇ……虐めたい……。  
 彼のアブノーマルな欲望が、むらむらと膨れあがってゆく。  
「ほんとに……すごい胸だなぁ……」  
「ひゃっ……!」  
 弘輝は夏海の双丘を鷲掴みにした。  
 びくっと震えた彼女の小さな悲鳴に、弘輝は劣情を激しくそそられる。  
──マジで、すげぇ……でかいし、柔らかいし……。  
 つい数ヶ月前まで小学生だった少女の乳房とは思えない。  
 たわわに実った膨らみは、指をいっぱいに広げてようやく包み込める。  
 ブラのカップの上からでも、その柔らかさと弾力がじゅうぶん伝わってくる。  
 彼が求めてやまなかった、大きな膨らみを両手で包む。大きさと感触を堪能  
するかのように、ゆっくりと揉みしだく。  
 一週間前に見たとおりの、予想したとおりの、官能的な双丘だった。  
──これで中一って……やべぇ、俺もじゅうぶん変態だな……。  
 中学一年生──まだ十二歳の少女の乳房を揉んでいる。  
 インモラルな衝動が弘輝を揺さぶっていた。  
「こんなに大きいと、いろいろ大変そうだね……学校で、男子に見られたり、  
触られたりするんじゃない?」  
「あぅっ、やだっ……んっ」  
 彼女の身体の震えが手に取るように判る。  
 恥じらい、怯え──だが、それだけではないのも弘輝には解る。  
──感じてるんだ……やらしい子だなぁ……。  
 彼女は羞恥に怯えているのに、身体を昂ぶらせ、淫らな官能を望んでいる。  
 今まで弘輝がつきあってきた女性とは明らかに違う反応──  
「んっ、や……あぅっ」  
 弘輝の指が彼女の乳房を刺激するたびに、夏海は小さな吐息をもらす。  
 彼女のブラは、制服の上から見る限りちょうどいいサイズのようだ。触って  
みても、カップと乳房の間には隙間もないし、窮屈そうでもない。  
──見てみたい……こないだは、暗かったし……。  
 一週間前のあの夜は、横目で盗み見ることしかできなかった。  
 携帯電話のカメラでは、鮮明な画像は得られなかった。  
 彼女の大きな膨らみを、眼に焼き付けたい──そんな想いに駆られていた。  
 だが、惜しむらくは、乳房から手を離さなければ脱がせられない──  
「そうだ……自分で脱いでよ。ひどいことは、しないからさ……」  
「えぇっ、そんなっ……」  
 弘輝が言うと、夏海はびくりと身を震わせる。  
 知り合ったばかりの男に肌を曝すなど、彼女のような内気な少女には、到底  
無理な話だろう。  
 しかし、彼女は内気なだけではない──そう弘輝は確信している。  
 今までつきあってきた女性は、弘輝が正体を現すと、本心から拒絶したのだ。  
蔑むような眼で見られたことさえあった。  
 だが、夏海はそうではない。  
 顔をしかめてはいるが、本気で嫌がっているわけではないのだ。  
──あの男の調教の成果……ってこと?  
 ふたりはどんな関係にあるのだろうか──まさか、本当にご主人様と奴隷と  
いうわけでもあるまい。  
 まったくの他人とは考えられないし、恋人同士というのはもっと考えにくい。  
 あの夜、弘輝は彼女が男に連れられて人込みから離れるを見届けていた。  
 ふたりを途中で見失ってしまい、そのあとどうなったかは判らない。夏海を  
家まで届けた竹下が、彼女の父親に、教師だと名乗ったのも知らなかった。  
──ちゃんと聞いとかないとなぁ……。  
 ふたりの関係がどうあれ、夏海が、弘輝の願望を満たしてくれる少女である  
ことには間違いない。  
 
──この人も、竹下先生と同じ……。  
 彼は自分に、恥ずかしい想いをさせ、卑猥なことをする気なのだ。  
 竹下だけでなく、弘輝という名の──優しそうに見えた青年からも、羞恥を  
受けなければならないようだ。  
 逃れる手段はただひとつ──法に訴えることだけだ。  
 だが──どんな取調べを受けるのだろうか。  
 痴漢や強姦の被害者は、警察の取調べで、セカンドレイプと呼ばれる羞恥に  
耐えなければならない──以前、テレビで見たことがあった。  
 自分の受けた恥辱を、他人に伝えなければならない。たちの悪い警官などは、  
本当に嫌だったのか、本当は受け入れていたのではないかと、被害者に責任が  
あるかのように責め立てることもあるらしい。  
 画像も見られてしまうだろう。祭りの夜に撮られた画像だけでなく、学校で  
竹下に撮られた動画だって──  
 加害者への取調べでどんな証言をされるかも解らない。自分が淫らに喘いだ  
ことや、秘処を濡らしたこと──恥ずかしいことを喋られてしまう。  
 ニュースにだってなるだろう。名前は伏せられるかもしれないが、それでも、  
察しのいい者に気づかれ、噂が広がらないとも限らない。  
──そんなの、絶対やだよぉ……。  
 自分の愚かさが怨めしい。  
 もっと早くに気づいていれば、こうはならなかっただろうに──  
 夏海は溜息をつく。いまさら考えても意味のないことだった。  
「自分で、制服脱がないと……どうなるか判んないよ?」  
「あっ! うぅっ……」  
──脱がなくちゃ……ひどいこと、されたくない……。  
 しかし、脱げば──肌を見られてしまう。大きな乳房を見られてしまう。  
──見られたら、わたし……。  
 快感を覚えてしまうかもしれない──  
 あの夜も、今日の午前中も、竹下の前でも、夏海は激しく昂ぶった。  
 身体が再び疼きだしている。  
 竹下に責められ、導かれて達してしまい、波は引いたはずなのに──  
「ほら、ボタン外して、制服脱いで……できるよね?」  
「うぅ……でもっ……」  
 窓は締め切っているが、カーテンは開いたままだ。  
「か、カーテン……見えちゃう……」  
 弘輝の部屋は二階で西向きである。道路に面しているが、真向かいは小さな  
空き地であり、その向こうの民家の庭には大きな樹木が枝葉を広げている。  
「だいじょうぶだよ、向こうの窓とか、見えないだろ?」  
「うぅ……」  
 窓の外に、真夏の青空が見える。  
 この部屋にベランダはない。窓は夏海の膝より上、高さは九十センチほどだ。  
 傾きかけた太陽が、強い陽射しを窓際の床に落としている。  
 窓の外に蝉が止まったようだ。すぐ近くから激しい鳴き声が響きだす。  
──見られないよね? だいじょうぶだよね……?  
 座っている夏海を、家の前の道路や空き地から覗くのは困難だろう。  
 空き地の奥にある家からだって、樹木の枝葉に隠れて見えないし、空き地の  
左右にある家も死角になっている。  
「いい子だね、夏海ちゃん……」  
 夏海は、震えながら制服のボタンに手をかけた。  
 季節は夏である──解かれた細い臙脂色のリボンの下、第一ボタンはいつも  
外している。  
 夏海は、第二ボタンを外した。  
 指が震えて思うように動かなかった。  
 
 夏海はクッションに横座りして、肌を曝してゆく。  
 ブラウスのボタンを外す間、弘輝はずっと乳房への愛撫をやめなかった。  
 身体が震えて何度もボタンを逃がしてしまいながら、夏海はすべてを外した。  
「よくできました……と」  
「あっ──!」  
 直後、弘輝はブラウスを掴み、ばっと左右に勢いよく広げてしまう。  
 下にはキャミソールを着ているとはいえ、下着が露になるのだ。恥ずかしく  
ないわけがなかった。  
 弘輝はこともなげに脱がしてしまう──もちろん、夏海が強い抵抗を示さな  
かったからだ。  
 弘輝はブラウスを軽く畳んで、夏海のバッグの上に置いた。襟からするりと  
抜け落ちたリボンも一緒に重ねる。  
「さぁ、キャミも脱いじゃおうね」  
「うっ、うぅ……」  
──恥ずかしい、恥ずかしいよぉ……。  
 夏海は震えながらキャミの裾に指をかけて、ゆっくりと持ち上げた。  
 細いウェストが露になり、大きな膨らみを包んだブラジャーが現れる。  
 うっすらと日焼けの跡の残る、夏海の白い肌が露になった。  
 上半身を隠すのは、竹下から与えられた白い大人びたブラジャーだけ──  
 ほどよくレースがあしらわれ、胸の谷間に小さなピンクのリボンが飾られ、  
彼女の大きな膨らみを下から支えるように包んでいる。  
 2/3カップのそれは、乳房の谷間と上側を露にし、その大きさと弾力とを、  
視覚的にも強調するデザインだ。  
 胴を回るベルトがやや緩く感じるが、夏海の身体が細すぎるからだと、彼は  
言っていた。  
 竹下は、彼女にブラの正しい着け方を教えてくれた。  
 カップを乳房に被せるだけでなく、脇から指を入れて、乳房自体がきちんと  
持ち上げられるように整えるのだそうだ。  
 その間、夏海は快楽の余韻に震えていた。竹下はときどき敏感な突起に触れ、  
夏海の羞恥を煽った。  
「ほんとにいい子だね、夏海ちゃん」  
──見られてる……恥ずかしい……!  
 夏海の羞恥が一気に膨らみ、腕で胸を隠してしまう。  
 背後で弘輝がどんな顔をしているか、夏海にはよく解った。  
「さぁ、ブラも取っちゃおうか」  
「えっ──!?」  
 夏海は絶句した。  
──そんなっ……サイズ、見るだけじゃないの……?  
 ブラジャーのサイズは背中のベルトの裏にあるはずだ。外す必要などない。  
「どうしたの? あ、そっか……俺がくっついてたら外しづらいよね」  
 弘輝は笑いながら身体を離した。  
「見せてくれるよね? 夏海ちゃんの大きなおっぱい……」  
「あっ、やだ……」  
 膝を突いたまま、再び夏海の前方に回ってくる。  
 夏海は咄嗟に腕を胸に重ねたが、細い腕では膨らみすべてを隠しきれない。  
 むしろ、押し潰されてブラのカップからあふれた膨らみが、より彼女の胸の  
大きさを際立たせるだけだった。  
 夏海は顔を上げていられなかった。  
 
「ほんとに、おっきくて……すごく綺麗なおっぱいだよ」  
 眼の前の青年が、竹下と同じような言葉を口にする。  
 弘輝が手を伸ばし、夏海の手首を握った。  
「もっとよく見せて……」  
──恥ずかしいのに……わたし……。  
 夏海の身体の奥で、消すことのできない疼きが、ぞわぞわと蠢いている。  
 抑えられない衝動が、彼女の理性を揺さぶる。  
 夏海はうつむいたまま、彼の手に引かれて腕を下ろした。  
──ダメなのに……エッチに、なっちゃう……  
 ブラジャーに隠れているとはいえ、大きさも形もはっきりと判る乳房を凝視  
されている。  
 彼女の羞恥を求める心がふつふつと沸きはじめる。  
「ブラも……外せるね?」  
 心臓がどくどくと激しく脈打っている。  
 カップの裏に縫い込まれた柔らかなパッドの下で、淡い桜色の小さな突起が  
きゅっと尖っている。  
 まるで、自分を見て欲しいと言っているかのように──  
「いい子だなぁ、夏海ちゃんは……」  
 夏海の指が、ゆっくりと背に回った。  
──ブラジャー……外したら……おっぱいが……。  
 震えながらホックを外す。  
 と──ぷるんと乳房が弾むように揺れ、カップが浮き上がった。  
「すっげ……」  
 弘輝はじっと夏海の膨らみを凝視している。  
──わたし……変態だよ……。  
 昂ぶりはじめている自分が悔しくて、恥ずかしくて──さらに昂ぶってゆく。  
──わたし、ほんとにエッチ……変態中学生……。  
 竹下に言わされた卑猥な言葉が、夏海の官能を燃え上がらせる。  
 あれから一時間も経っていないのだ。  
 夏海の指が、ブラジャーを肩から吊っているストラップにかかった。  
「さぁ、見せて……」  
──見せちゃう……おっぱい、見られちゃう……。  
 弘輝に促されるように、夏海は左右の肩紐を同時に外した。  
 純白のブラジャーが、はらりと膝に落ちた。  
 背は低く身体つきも華奢で小学生のような夏海──  
 そんな彼女にはアンバランスな、大きすぎるほどの乳房が露になった。  
「マジで、すげぇ……」  
 弘輝が感嘆の吐息をもらすと、夏海の身体がびくっと震える。  
 ぷるっと揺れた乳房が、ふたりの情念を激しく駆り立てた。  
 

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