ぱっ、と大輪の花が夜空を彩る。  
 やや遅れて、どーんと身体を振るわせる大音響が響いた。  
 今日はこの町の鎮守の夏祭り──それに合わせた奉納花火大会である。  
 田舎町ではあるが、地元では有名な花火大会であるため、近隣の市町村からの  
見物客も多く、盛大に賑わっていた。  
「わっ、すごぉい……」  
 佐伯夏海(さえき・なつみ)も、父親にせがんで買ってもらった浴衣を着て、  
花火見物にやって来ていた。  
 今年の春、父親の転勤とともにこの町に越してきた夏海は、新しくできた友人  
たちと、夏祭りを満喫していた。  
 以前住んでいた街にもお祭りや花火大会はあったし、段違いに規模の大きな  
それらと比べれば、この町のお祭りなど質素にも感じられる。  
 だが、夏海にとっては、新天地での初体験であり、新しい友達とのお祭りと  
いうのは、格別のものがあった。  
 十分ほど前に三連続のスターマインで始まった花火大会──  
「いい場所があるんだ」  
 そう言った友達にくっついて、夏海は慣れぬ下駄履きで、よろよろと人込みを  
掻き分けていた。  
 のだが──  
「……あれ?」  
 ふと気が付くと、一緒にいたはずの友人たちが見えない。  
 頭上では続けざまに大きな花が咲き、何百人、何千人いるだろうかという見物  
人たちを照らし出す。  
 爆音が轟き、人々の歓声が周囲を埋め尽くしている。  
 きょろきょろと首を振って辺りを窺うが、小柄な夏海では人波を越えて見渡す  
ことは出来ない。  
 周りには、見知った顔が一人もいない。  
 急に心細くなる。  
 引っ越してきたばかりで、中学校への進学という、二重の新生活のスタートと  
なったこの春──賑やかことは苦手で、おとなしく、消極的なタイプの夏海は、  
不安でいっぱいだった。  
 だが、自己紹介も震えて満足にこなせなかったような夏海に、クラスメイトの  
少女たちは、気軽に声をかけてくれた。  
 都会から田舎にやってきた彼女にも、別け隔てなく接し、新天地での新たな  
友人となった少女たち──  
──はぐれちゃった……。  
 彼女たちがいない──それだけで、夏海は急激に不安になってゆく。  
 ポニーテールにした長い黒髪を、肩から前に回して指先で弄ぶ。  
 淡いピンクの生地に金魚の模様が染められた、膝上十センチほどのミニの  
浴衣は、大好きな父親が買ってくれたお気に入りだ。  
 可愛いと言ってくれた、似合ってると言ってくれた友人たちの姿が見えない。  
 夏海は身を竦ませるように、中学生としてはかなりの膨らみをもつ胸を、腕で  
抱いた。  
 直に感じる木綿の肌触りが、さらに心細さを増してゆく。  
 
「みんな浴衣? ってことは、みんな下着無しだよね!?」  
 数日前、今日の予定を立てているときに、そう悪戯っぽく笑っていた友達の  
顔が浮かぶ。  
──やっぱり、ちゃんと着けてくればよかった……。  
 夏海はその友達の言葉を素直に受け入れ、下着を一切着けずに待ち合わせの  
場所である、小さな公園に出向いたのだった。  
 金魚柄の真新しい浴衣を素肌に身に纏い、腰を帯で締めただけの格好。しかも、  
ふとももが半ば露わになったミニの浴衣だ。  
 心許無く、落ち着かなかったが、みんな同じなのだと思えばそのまま外出する  
勇気も湧いた。  
 しかし──  
「夏海、もしかして……マジで着てないの?」  
 言い出しっぺの彼女は、もちろん冗談のつもりだったのだ。  
 まさか馬鹿正直にブラもショーツも着けず浴衣だけで来る子がいるとは思って  
いなかった。  
 それは当然その少女だけではなく、他の友人たちも同じだった。  
「まぁいいじゃん、今日一日だけだしさ」  
「あたしらもいるから大丈夫だって」  
「気をつけてれば平気平気♪」  
 彼女らにそう言われては、いったん抜けて帰宅し、下着を着けてくるという  
のも友人たちに悪いかなと思い、夏海はそのままの格好で過ごすことにした。  
 祭囃子の鳴り響く神社の境内、ずらりと並んだ屋台を回り、綿菓子やりんご飴  
などを頬張りながら、祭りの空気を堪能していた。  
 時折、「夏海、見えてるよ!」なんて、からかわれながら──  
 
 とにかく、みんなと合流しなければ──そう思い、手に握っていた浴衣と  
おそろいの柄の巾着から携帯電話を取り出し、ぱくりと開く。  
 だが、メールを打とうとしてもどうもうまく操作できない。  
 前後左右から人に押され、指先が定まらないのだ。  
──うぅ〜、押さないでよぉ〜。  
 顔を顰めたところで状況は改善しない。  
「痛っ」  
 足の踵に激痛が走り、下駄は失敗だったかもしれないと夏海は思った。  
 これで何度目だろうか。昼間、屋台を見て回った時にも踏まれたり蹴られたり  
したのだ。  
 浴衣に合わせて下駄である。歯が高いわけではないが、履きなれないため  
安定感も悪い。  
──どうしよう、どうしたらいいんだろ……。  
 背中を押され、前に進もうにも進めず、左右に退こうにも退けず、携帯電話の  
操作もままならず、夏海は途方に暮れてしまう。  
 そんな夏海の気も知らず、天には幾輪もの花火が咲いては消え、轟音が鳴り  
響いている。  
 踏まれたところも痛むが、慣れない下駄の鼻緒のせいで、足の指の間や甲も  
痛みを訴えていた。  
 ずきずき、ひりひりと痛み、夏海の憂いをいっそう強いものにしてゆく。  
──少しでも人の少ないとこに行けば……。  
 夏海は、携帯電話をぎゅっと握り締め、身を捩り、人込みを掻き分けて抜け  
出そうとした──  
 その時だった。  
──痛っ!  
 顔が歪んだ。  
 痛みに続いて、背筋が凍りついた。  
──嘘、えっ……!?  
 胸が──乳房が、鷲掴みにされたのだ。  
 学年で一番の──いや、学校中でもトップクラスのサイズをもつ夏海の乳房を、  
何者かの手が浴衣越しに掴んでいた。  
──やだっ、これって……痴漢!?  
 都会で育った彼女にとって、痴漢という言葉は耳慣れたものだった。  
 電車では毎日のように痴漢の被害があるという。  
 夏海自身はほとんど電車を利用することがなかったし、鮨詰めといえるほどの  
混雑を体験したこともなかったから実感はなかったのだが、六年生のときには、  
クラスメイトの少女が痴漢に遭ったという噂を耳にしていた。  
 女性の意思を無視した、卑しい男による強制猥褻──  
 大人になったら、自分も被害に遭うかもしれないと、うすうす恐れてはいた。  
 しかし、まさかこんなに早く遭うとは、夢にも思っていなかった。  
──痴漢だ……やだっ、やだよぉ!  
 痴漢に遭ったら──声をあげて周りの人に知らせ、助けを求める──それが  
一番だと思っていた。そうしようと思っていた──  
 喉がひゅうと鳴った。  
──助けて……!  
 声が出なかった。  
 身体が硬直し、緊張に震えて、声が出せなかった。  
 浴衣一枚を隔てただけの男の手が、夏海の乳房をゆっくりと揉み始めた。  
 
──まさか……ノーブラなのか……?  
 男の心臓がどくんと大きく弾んだ。  
 浴衣越しにでも判る。少女はブラジャーを着けていない──  
 ゆっくりと確かめるように指を動かす。  
──そうだ、ノーブラだ……!  
 男はついに、念願の乳房に触れることができた。  
 彼──竹下隆幸は、中学一年生としては──いや、大人の女性であっても  
かなりの大きさといえる夏海の乳房に、ついに触れることが叶った。  
 佐伯夏海という名の、自分の歳の半分にも満たない少女を、竹下は以前から  
知っていた。  
 親しい間柄というわけではない。顔見知り、という程度である。  
 肩が隠れるほどの長さの黒髪は、普段は首の後ろでひとまとめにされている  
ことが多いが、今日はポニーテールに結い上げられ、その根元には赤いリボンが  
結ばれていた。  
 都会育ちだが、すれていない印象を抱かせる、目尻のやや垂れたおっとりした  
顔立ちの少女──  
 性格はおとなしめで、あまり社交的なタイプではない。  
 そして、小柄で華奢であるがゆえに、胸の発育がより引き立って見える──  
 竹下は、その程度には彼女のことを知っていたのだ。  
 竹下は四月に初めて夏海を眼にしたときから、チャンスを窺っていた。  
 それが今日、眼前にぶら下げられた餌のように、唐突に去来したのだった。  
 職業柄、子供たちの非行を監視するために彼は祭りに賑わう町に出た。  
 そして、つい先ほど、花火大会の会場で、夏海たちを見かけたのだ。  
 少女たちの初々しい浴衣姿にうっとりとしながら、彼は職務を忘れて彼女らの  
あとをつけ、すぐそばまで近づいた。  
 花火が上がり始め、皆が上を向いていた。  
 夏海たちは人込みの中を歩き出した──もっとよく見える場所へ移動する  
つもりなのだろうと竹下はすぐ理解する。  
 しかし、人込みに揉まれるうち、夏海は友人たちとはぐれてしまった。  
 ここぞとばかりに彼は距離を詰め、その真後ろにまで辿り着いた。  
 辺りに友人の姿はない。今は夏海ただひとり──  
 竹下は躊躇した。  
 中学生一年生の少女に手を出し、それが公になればどうなるか、もちろん彼は  
理解していた。  
 少女に暴行した罪でお縄になるであろうことも、職を追われるであろうことも、  
周りから一生白い眼で見られるであろうことも解かっていた。  
 しかし、欲望が理性を跳ね除けるまで、ほとんど時間は要さなかった。  
 バレなければ何の問題も無い──  
 夏祭り──誰もが浮かれ、夜空の花火に夢中になっている。  
 おとなしい少女は声を上げる事もできないだろう。  
 炸裂音と喧騒に紛れ、彼女の小さな悲鳴など誰の耳にも届かないだろう。  
 例え騒がれたとしても、この人込みである──自分がやったなどとは解かりは  
しないだろう──  
 竹下は、少女のふくよかな張りをたっぷりと味わい、意外にも下着を着けて  
いないことを知り、身体を熱く滾らせていた。  
 
 どーん、どどーん、ぱらぱらぱら──  
 夜空には華麗な花が咲き誇る。  
 周囲の人々の足も止まり、皆が空を見上げている。  
──やだぁ……嫌だよぉ……。  
 夏海は花火を見ることもできず、うつむいて眼を閉じ、震えていた。  
 男のものであろう骨ばった手が、夏海のふくよかな両の乳房を揉んでいる。  
 手は、夏海の後ろから彼女の両腕ごと抱え込むように乳房へと伸ばされていた。  
 夏海の十三歳の誕生日までは、まだひと月ほどある。  
 小学校を卒業してほんの四月ほどしか経っていない夏海の、少女らしく張りに  
満ちた乳房が、男の手によってゆがめられていた。  
 浴衣一枚だけしか身に着けていない夏海の膨らみを、男の指が捏ね回すように  
揉みしだいている。  
──やだよぉ、やだぁ……。  
 小学生の頃から胸の膨らみが目立った夏海は、しばしば男子からからかわれる  
ことがあった。擦れ違い様に触られたり、鷲掴みにされたこともある。  
 だが、それはほんの一瞬のことで、こんなにも長い時間、触れられていたこと  
など無かった。  
 夏海の胸に伸ばされた手の動きは、そんな子供の悪戯とは違っていた。  
 乳房を下から持ち上げ、大きさを確かめるように包み込む。  
 包み込んだまま、感触を味わうかのように指を波打たせる。  
 両側から寄せて双丘を触れ合わせ、かと思えば、左右にぐいと引き離す。  
 男の指が、大きな乳房とは対照的な、未成熟な突起に触れる。  
 引っ掻くような動きが強い刺激となって、夏海の身体をびくんと弾けさせる。  
 男は夏海の大きな乳房をもてあそび、少女が身体を震わせる様を楽しんでいた。  
──誰か助けて……。  
 夏海は声を上げようとするが、羞恥と恐怖で、声帯が麻痺しているかのよう  
だった。  
 かすれた吐息がひゅうと抜けるだけで、声にならない。  
 周囲の者たちは、誰も気づいていない。皆、頭上に煌めく夜の花に夢中だった。  
 地上で震える少女のことなど、誰も意識してはいなかった。  
 ただ一人、夏海の乳房を弄ぶ男だけが、彼女の震えを感じて昂ぶっていた。  
 やがて男の手が、夏海の浴衣の合わせを割って潜り込んでゆくのにも、誰一人  
として気づいた者はいなかった。  
 
──佐伯さん……佐伯夏海……夏海ちゃん……。  
 竹下は彼女の名を心の中で呼んだ。  
 初めて見たその日から、いつか触れてみたいと思っていた少女──  
 中学生ともなれば、ほとんどの子は胸が膨らみ始めているとはいえ、彼女の  
それは同級生の少女たちよりも、ひと回りもふた回りも大きかった。  
 入学直後よりもまたわずかに成長しているようにも思えるのは、腰を絞った  
浴衣の所為だろうか──  
 竹下はついにそこに触れることができたのだ。  
──ノーブラだなんて……形も、大きさも……よく判るよ。  
 浴衣越しにも、膨らみの弾力ははっきりと感じ取れた。  
──乳首だって……ほら、ここだ。  
 乳房の大きさとは対照的な、まだ未成熟の小さな突起の位置も、軽々と暴き  
出してしまう。  
「んっ、ひぅ……」  
 彼女の喉が鳴っている。  
 抵抗らしい抵抗も受けず、竹下は彼女の膨らみを揉み続ける。  
──気持ちいいのかな? おっぱいで感じてるのかい?  
 竹下の滾りはますます激しく、身体中の血液がその一点に集まってゆくかの  
ようだった。  
──エッチだなぁ……ノーブラだよ、夏海ちゃん。  
 浴衣の下には、彼女の素肌が待ち受けている──  
 竹下は浴衣の襟へと右手を伸ばし、滑り込ませていた。  
「んっ……ひぅっ!」  
 夏海の身体がびくんと弾けた。  
──あぁ、佐伯さん……夏海ちゃんの素肌……おっぱいだ……!  
 襟から入り込んだ手が、じっとりと汗の滲んだ夏海の谷間を撫で回し、浴衣の  
下で夏海の乳房をじかに味わう。  
 さらに奥へ──夏海の左の乳房へ到達すると、膨らみの下へと沈み込んで指を  
震わせながら持ち上げた。  
 夏海の幼い肌は、みずみずしさにあふれていた。  
 竹下は鼻息を荒げ、乳房をぎゅっと掴んで指全体で弾力を確かめた。  
 
──やだやだっ、やだぁ!  
 夏海は身体中ががくがくと震えていた。  
 夏海は、自分の身体をもてあそぶ男──竹下の顔と名前ぐらいは知っていた。  
 接触が多いわけではないため、竹下の人間性までは解からない。  
 そろそろ三十近いであろう、やや背が低く眼鏡をかけている、これといって  
特徴の無い、どこにでもいそうな男だという印象しかない。  
 どことなく近寄りがたい雰囲気があるのは、立場の所為だろうと思っていた。  
 しかし、夏海には、今現在どんな男に触れられているのかを知る術は無い。  
 知り合いの男に乱暴されているなどとは思いもしなかった。  
「ひっ……」  
 夏海はびくんと震えて、悲鳴にならない悲鳴を漏らした。  
──やだぁ、嫌だよぉ……。  
 男の指が左の乳房の周囲を這い、下から包み込んできた。  
 力を篭めた指に、ぎゅうと鷲掴みにされてしまう。  
──痛いっ、やだぁ……。  
 思春期の敏感な乳房が、男の乱暴な責めに痛みを訴えた。  
 夏海は身を縮ませて痛みに耐える。  
 逃げ出してしまいたいのに、動けない。  
 左の乳房は直に触れられ、右の乳房は浴衣越しにもてあそばれている。  
 後ろから抱きかかえられ、周囲の人垣にも押され、夏海はまったく身動きが  
取れない。  
 唇を噛み締めて耐えるしかない。  
 一方的な仕打ちに、じっと耐えるしかなかった。  
 男の指がゴム鞠のような弾力を嬲りながら、その頂きへと近づいてゆく。  
 触れてもまだ痛いだけの淡紅の突起──  
 恐怖と羞恥に震える夏海のそこは、緊張で収縮している。  
「んっ、くっ……!」  
 男の人差し指が夏海の敏感な蕾に触れ、身体が痛みに震えた。  
 指の腹がそこを押し潰すたびに鈍い痛みが走る。  
「くぅ、うっ……ひっ!」  
 恐怖と羞恥、鈍痛にも耐えながら、夏海は震えていた。  
 
 竹下は、身体を震わせる夏海のうなじを、歓喜の思いで見つめていた。  
 ほんのりと朱に染まった肌に、汗が滲んでいる。  
 幾筋かの黒髪が肌に張り付き、子供とは思えぬ艶めかしさを感じさせる。  
 鼻先を近づけると、少女の立てるほのかな香りが鼻腔をくすぐった。  
 竹下は、彼女の身体の震えを別の意味に捉えていた。  
 突起の収縮も、自分に都合よく解釈していた。  
──感じてるんだな。やっぱり、エッチな子だったんだなぁ。  
 竹下は夏海を見かけるたびに、その規格外の乳房に眼を奪われていた。  
 中学生になったばかり、顔立ちは子供そのものだというのに、大人も顔負けと  
いうほどに膨らんだ乳房──  
 これほど大きければ、以前住んでいたという都会でも目立っただろう。  
 周りから意識され、自分でも意識していたに違いない。  
 性の知識も、同年代の子以上に備えているのではないか。  
 おとなしそうな子だから、援助交際などという穢れた行為とはもちろん無縁  
だろうし、男女交際の経験もないだろう。  
 それでも、ひとりで慰めるぐらいはしているに違いない──  
 夏海を見るたび、竹下はそんな空想をしていたし、ひとりで妄想の海に浸り、  
欲望を噴き出したことも数え切れずあった。  
 それを裏付けるかのように、今目の前にいる彼女は、下着を着けずに浴衣を  
着ている──彼にはそう思えていたのだ。  
──きっと、こういうことが好きなんだ。本当はいやらしい子なんだな……。  
 鼻息が荒くなる。  
──抵抗もしないし、大声も出さない……感じてるんだ。  
 己の身勝手な欲望だけに支配された竹下は、彼女への責めを増してゆく。  
 収縮した淡紅を、指先で転がした。  
「ひっ、うぅ……」  
 少女の喘ぎは、喧騒に掻き消されてゆくが、竹下の耳にはかろうじて届いた。  
 夏海を背後から抱きすくめている彼には、彼女の呼吸器が立てる、わずかな  
震えも伝わっていた。  
 快楽の喘ぎ──彼はそう身勝手に解釈していた。  
 自分の愛撫に、年端もゆかぬ少女が身を震わせている──  
 竹下は己の妄想に興奮を増していった。  
 
 不意に男の左手が乳房から離れ、帯の巻かれた腰を撫でながら下ろされてゆく。  
 帯の下、裾の合わせに指を掛け、おもむろに引き開いていった。  
──えっ!? やだ、やだぁ!  
 右手に持った開かれたままの携帯電話を、ぎゅっと握り締め、左手でなんとか  
妨害しようとする。  
 夏海はまだ中学一年生だが、それなりに性の知識は備えていた。  
 小学校で基本的なことは学んだし、中学に入ってからは友達を通して、あれ  
これと過激な知識も耳にしている。  
 胸が大きいというのは彼女に性を意識させはしたが、といって他の子たちより  
進んでいるということはなかった。  
 自分にはまだ早い。自分が関わるのはまだまだずっと先のこと──  
 もちろん年相応に興味を持ってはいたが、積極的ではなかったのだ。  
 しかし、彼女の意思に反して、それは向こうから訪れてきた。  
 彼女の意思を無視して、防ぎきれない勢いで──  
 男の手を払い除けようとしても、彼女の力ではどうにもならなかった。  
──やだっ、だめっ! やめてぇ……!  
 男の手が、丈の短い裾を開ききってしまうと、夏海のほっそりした左の太腿が  
露になった。  
 
 
 竹下の左手が裾を乱すと、夏海の震えは激しさを増した。  
──もしかして、下も穿いてないのか?  
 ブラジャーだけではなく、ショーツすらも身に着けていないのかもしれない。  
 和服は洋風の下着を着けずに、素肌にまとうものだという慣わしを、夏海は  
忠実に守っているのかもしれない。  
──真面目そうな子だし……そうなのかもな。  
 竹下は開かれた裾へ、一息に手を滑り込ませた。  
 少女の身体がびくんと弾み、自分の想像は間違っていないのだと竹下は確信  
する。  
 汗の浮いた太腿を撫で、その付け根へと手を進めた。  
 夏海はきゅっと脚を閉じて抗うが、竹下の今の目的はそこではないのだ。  
 閉ざされた脚の付け根ではなく、下腹部をまさぐる。  
──やっぱりそうだ! ノーパンだ……!  
 夏海の下腹には、そこを包んでいるべき下着がなかった。  
 少女のみずみずしい肌が、じかに指先に感じられた。  
 しかも──  
 指に絡みつくであろうはずのものが、まったく感じられないことにも竹下は  
気づいた。  
──毛……生えてないのか……?  
 夏海の恥丘には、うっすらと産毛が生えている程度で、陰毛と呼べるほどに  
成長した体毛はなかった。  
 
──やだ、やだやだっ!  
 夏海は身をよじって逃れようとするが、ろくに力も入らず、男の右腕に身体を  
抱えられていては、叶うはずもなかった。  
 がっちりと抱え込まれ、身体を揺さぶるしかしかできなかった。  
──知られちゃった……あそこ、秘密……やだぁ……。  
 夏海の顔がゆがむ。  
 乳房こそ同級生とは比較にならないほどに発達していた夏海だが、それ以外の  
身体の成長は、むしろ遅れているほうだった。  
 乳房以外の身体全体のバランスは、まだまだ子供のそれだったし、初潮も  
ふた月ほど前に迎えたばかりである。  
 胸は大きいのに、恥毛は未だに生えていない──  
 まだ誰にも──友達にだって、大好きな父親にだって知られていない夏海の  
秘密だった。  
 それを、誰とも知れぬ男に知られてしまった──  
 夏海の眼にじわりと涙が浮かぶ。  
 声を上げて泣き出してしまいそうだった。  
 
 
──すごいな……剃ってるってわけでもなさそうだし……。  
 竹下の興奮はますます高まってゆく。  
 中学生ともなれば、たいていの女の子は陰毛が生えそろっているものだ。  
 竹下には、それが嫌でならない。  
 陰毛など、少女の美しさ、可憐さを乱すものでしかない──彼は常々そう  
思っていたのだ。  
 だが、夏海の身体はどうだ。  
 まだ幼さのほうが目立つ顔立ち、華奢な子供っぽい身体つき──それでいて  
大人顔負けの乳房の膨らみ──しかも、恥毛などという無駄なものが一切存在  
しない──  
 竹下は少女が好きだった。  
 とくに、穢れのない絵に描いたような無垢な少女が好きだった。  
 幼い顔立ち、幼い身体つき──でありながら、それらと相反する大きな胸を  
もつ少女が理想だった。  
 夏海は、そのすべてをクリアする──竹下の妄念を具現化したかのような  
少女だったのだ。  
──本当に……キミは最高の女の子だ……。  
 竹下の左手は無毛の丘を撫で、右手は乳房を揉み続けた。  
 硬く尖った乳首を抓み、転がすと、夏海の身体がぴくぴくと震えた。  
──こんなに感じて……エッチな子だね。  
 理想の少女を手に入れて、自らの手で開発し、調教する──竹下は、そんな  
妄想に囚われている男だった。  
──夏海ちゃんは、もっとエッチになれるよね……?  
 今はまさにその好機だと、竹下は思っていた。  
──浴衣でノーブラノーパンなんだ……もっとエッチなことだって……ね?  
 竹下の口元は卑しく不気味にゆがんでいた。  
 
 男の手が夏海の無毛の丘から離れ、浴衣の裾を抓んだ。  
 ほんのわずかに安堵した夏海だったが、しかしそれはすぐに否定された。  
 巾着を紐を手首に巻いた夏海の左腕を押さえつけ、手のひらに布を握りこむ  
ように持ち上げてゆく。  
──あっ……やだっ!?  
 男の手によって、浴衣の裾が持ち上げられ、太腿がさらに露わになる。  
──やだ、見えちゃうよぉ!  
 なんとか男の手を跳ね除けようとするが、腕力の差は如何ともしがたいし、  
羞恥に震えて力が入らない。  
 どうすることもできず、夏海の白い肌が曝け出されてゆく。  
 太腿がすべて露わになり──  
──やだやだ、やだぁっ!  
 ついに、裾は帯まで捲りあげられてしまった。  
 下着を穿いていない夏海の腰は、すべて夜風に曝されてしまった。  
 覆い隠すものは一切なかった。  
 無毛の恥丘も、小さな尻も──くっきりとした細い秘裂も──  
──やだ、やだぁ……。  
 夏海には、震えながら羞恥と戦うことしかできなかった。  
 人込みの中で、一番大切なところを曝されてしまったのだ。  
 これだけ密集しているのだから、もちろん無防備な下半身が誰かの目に留まる  
ことはないだろう。  
 だが、それでも、すべてを露出していることには変わりない。  
 泣き出してしまいそうだった。  
 大声を上げて泣き出せば、きっと誰かが気づいてくれるはず──  
 
 
──どうだい? 興奮するだろう?  
 竹下は心の中で夏海に呼びかけた。  
 彼は酔っていた。  
 夏海の浴衣を捲り上げ、彼女の可憐な下腹部と、かわいらしい尻を露わに  
してしまった。  
 覗き込んでも、それを見ることは叶わない。  
 だが、密着した彼女の身体からは、羞恥の震えが伝わってくる。  
 純真な少女を辱める──いきなり犯すなんて、スマートではない。陵辱なんて  
もってのほかだ。  
 少女に恥ずかしい思いをさせ、性的興奮を喚起させる。  
 それを意識させ、いやらしい女の子なのだと少女に教え込む。  
 そうすることで、彼女を目覚めさせるのだ──羞恥に昂ぶり、淫らな行為に  
喘ぎ、自分の欲望をすべて受け入れる性奴隷へと──  
 夏海を自分のものにする──自分の性奴隷にする──  
──もっと興奮させてあげるよ……。  
 竹下の暴走は止まらない。  
 左手は浴衣の裾を握ったまま、今度は右手が働く番だった。  
──ほら、そのおっぱい……大きなおっぱい……見せてごらん?  
 竹下の右手が、夏海の浴衣の右襟を掴んだ。  
 脇を締めるようにして、ぐいと一気に右に引っ張った。  
 
──えっ、えっ!? やだっ、やめてっ!  
 男の動きはもちろん夏海には理解できた。  
 しかし、やはり彼女にはどうすることもできなかった。  
 男の右手は、いとも簡単にそれを成し遂げた。  
 夏海の浴衣が開かれ──  
 大きすぎる乳房が、ぷるんと音を立てたかのように露わになった。  
 
 
 夜空に大輪の花が咲いた。  
──おおぉ……!  
 竹下は歓喜した。  
 水着の日焼け跡が薄く残った、中学生とは思えぬほどの大きな乳房の片方が、  
空に輝く燐光に照らし出された。  
 夏海の肩越しに覗き込んでいた竹下の眼に、みずみずしい膨らみと、頂点に  
ちょこんと乗った淡い紅色の突起が焼きついた。  
 服の上からしか見たことのなかった夏海の乳房は、竹下にとって理想どおりの  
色と形だった。  
 若いが故に重力の影響のほとんどない、張りのある乳房──  
 震える身体にあわせてぷるぷると揺れている。  
 穢れのなさをあらわす、小さな桜色の乳首──  
 幼い形ながらも、突端はきゅっと尖っている。  
 日焼けのラインも子供らしさを象徴しているかのようだ。  
──これは、すごい……本当にに、すごいぞ!  
 次々に打ち上げられる花火が、夏海の乳房を照らしては消え、照らしては  
消えてゆく。  
 竹下はしばしその美しさを堪能するかのごとく、じっと固まっていた。  
 
──もうやだ、やだぁ……。  
 誰にも見せてはいけないところを、両方とも晒されてしまった。  
 子供のままの下腹部も、大きな乳房も──  
 身体が熱かった。  
 はだけた胸が夜風に撫でられ、滲んだ汗が体温を奪ってゆくというのに、  
夏海の身体はますます熱を帯びていた。  
 背中に張り付いた男の所為もあるだろう。  
 しかし、それ以上に、羞恥に火照り、身体中が火を噴いているかのような  
錯覚に囚われる。  
 大声を上げて泣き出してしまいたかった。  
 だが、夏海はそれを必死に堪える。  
──見られちゃう……恥ずかしい……やだよぉ……。  
 大声を上げて泣き出せば、きっと誰かが気づいてくれるだろう。  
 だが、そのあとどうなるのか──  
 自分は、浴衣をはだけられ、恥ずかしいところを露出させられているのだ。  
 誰かに気づかれれば、それを見られてしまうことになる。  
 すぐそばにいる人だけでは済まないだろう。騒ぎが大きくなれば、何十人と  
いう見知らぬ人に、恥ずかしい姿を見られてしまう。  
 それだけだろうか──  
 どんな想像をされるかも判ったものではない。  
 下着も着けずにミニの浴衣──そんな恥ずかしい格好で、この人込み、花火  
見物にやってきた──  
──エッチな子……。  
 そう思われてしまうのではないだろうか──  
──やだ、そんなのやだ……。  
 周りの人たちは花火に夢中で夜空を見上げている。  
 背の低い彼女の身体は、彼らの視界には入っていない。  
 だが、自分をこんな格好にさせた男が、肩越しに覗き込んでいる。  
 大きな乳房を見られてしまっている。  
──見られてる……恥ずかしいよぉ……。  
 しかし、彼から逃れようと助けを求めて声を上げれば、もっと多くの人に  
見られてしまうことになる。  
──我慢しなくちゃ……ひとりだけだもん……。  
 じっと耐えていれば、大勢の人たちには、乳房も下腹部も見られずに済む──  
 ぎゅっと閉じられた夏海の眼から、涙が零れた。  
 頬を伝い、胸元に滴った雫は、肌に浮いた汗と混じりあい、双丘の谷間を  
流れ落ちてゆく。  
 
 

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