(はぁ……わたし、何でこんなことしてしまってるんだろう……)  
自分でも馬鹿なことをしている自覚はあった。  
否、馬鹿というよりは変態と言うべきか。  
なにしろいくら人気のないとはいえ深夜の公園は若い女性が一人で居て良い時間と場所ではない。  
それが裸であれば尚更だ。  
 
 
 
きっかけはサークルのコンパで日付が変わるまで飲み明かした帰りに見てしまったものだった。  
サークル行きつけの飲み屋から下宿に向かう帰り道、翌日は一限から授業のため、少しでも早く帰って寝ようと  
いつもは通らない公園を通り抜けたのだ。  
そのとき、チャラ、チャラと言う金属音につられて振り返ると公園の四阿のテーブルの上に蠢く奇妙な影があった。  
アルコールの所為で気が大きくなっていたのも手伝ってよせばいいのに正体を確かめてやろうと覗き込んでしまった。  
 
其処に居たのは裸で、胸と股間を繋ぐ鎖を揺らしながらテーブルの上で踊る若い女性と、無機質にそれを記録するビデオカメラだった。  
その、異質な光景に私は何故か目が離せなくなってしまっていた。音楽も流れていないのに常に不思議なリズムにのってその女性は踊り続けていた。  
 
五分か十分か…もしかしたら一時間か、あるいは逆に一分も立っていないのか分からなかったが、正面から  
私が凝視していることに気付いたそぶりも見せずに鎖を引っ張り、乳房を揉み、女陰を掻き回しその女性はひたすら淫らに踊続けた。  
あまつさえカメラに向かって女陰を開き、放尿までして魅せた。驚くべきことに尿の着弾点にはその女性が着ていたと思しき衣服が  
置いてあったがそのようなもの無いかのように、いや寧ろわざと汚すかのように自分の服が尿を吸い込むのを恍惚とした表情で見ていた。  
やがてその踊りがクライマックスを迎えるのがわかった。  
その美しい裸身を伝う汗の量が増え、自らの秘所を責めるその手の動きが一段と加速し……そして絶頂を迎えたのだろう、数瞬身じろぎをした後  
身をかき抱いて崩折れた。  
 
その、トサッという妙に軽い音で我に帰った私は咄嗟に逃げ出した。  
無我夢中だったのだろう、気がつけば下宿の布団の中で絶頂を迎えていた。  
ここ暫くそういった欲求とは無縁だったと言うのに、あの女性の淫気にあてられたのか、いつ始めたとも定かでないその自慰行為で  
今までにない深い快感を覚えていた。おかげでその後も三回程達するまで自慰を繰り返し、気がつけば新聞配達の音が聞えるころあいだった。  
 
無論、そんな有様だったのできっちり翌日の授業には遅刻して友人たちに心配をかけてしまった。  
「昨日の帰りに何かあったの?」ときかれていたら、平静を装うことは難しかったかもしれないが、  
飲みすぎか寝冷えの所為ではないか、と勝手に自己完結してくれたのでそのときは安堵したものだ。  
結局その日一日は前夜に見た景色が脳裏から離れず何事も上の空だったのだけれど。  
 
そして何より、困ったことにその日以来、欲求不満が解消できなくなってしまったのだ。  
最初は気がつくとあのときの光景を思い返すだけであったのが、やがてあの女性を自分に置き換えた夢を  
見るようになり、それをネタに自慰を行うようになるまで一週間もかからなかった。  
しかし、どれだけ激しく達したとしてもあの夜ほどの快感を感じることは出来ず、むしろ消化不良の疼きだけが蓄積していった。  
 
結局、あの運命の夜から十日を過ぎたころには自分でも認めざるを得なくなっていた。  
即ち、自分もあの女性のように外気に裸を晒したいのだ、と。そうしなければこの欲求は鎮まらないのだ、と。  
 
 
 
そうして今、ここで私は裸を晒している。もしかしたらあの晩の私のように誰かが通りかかるかもしれない公園で。  
あの女性のような淫らな装身具も無ければ美しい踊りでもないが、それでも私は、これから淫らで無様な舞踏を踊るのだ。  
たとえそれが人としての道を踏み外す引き返せない第一歩だとしても。そうしなければこの疼きはけして鎮まらないのだ、と信じて。  
 
 
 
 
 
 
「あら……あなた、こないだの娘ね?待っていたわ」  
絶頂を迎える瞬間、妖しく微笑むあのヒトの声を、聞いた……。  
 

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