「くっ……」  
 俺はあくびを噛み殺しながら、太陽が昇りつつある空へ拳を突き出すように体を伸ばした。  
 体が伸びなくなるまで伸ばしきると、指先がかすかに震えた。  
 そこで伸ばすのを止め、一気に体から力を抜くと一瞬だけ消えていた倦怠感が戻ってきた。  
「ふぁぁ……」  
 昨日の晩二十七時くらいまで、というかほんの二時間前まで友人連中と呑んでいた酒は、ど  
うやら簡単には消化されてしまわないらしい。  
 普段は泥酔するほど呑まないのだが、五年ぶりにあった学生時代の友人たちということもあ  
り、話が進み、酒も進み、気づけば六時間も呑んでいた計算になる。  
 友人連中はまだ飲むと言って更にハシゴしに夜の、もとい、朝の街へ消えていったが。俺は  
財布の中身と明日以降の仕事を考えて自重した。  
 ただ、帰るわといって別れたのはいいものの、気づくと財布の中には小銭しかなく、地下鉄  
の始発が動き出すにはまだ少し時間があった。  
 タクシーで家まで送ってもらい、家においてある金で払うという方法もあったが、あと一時  
間もせず地下鉄が動くのであれば。今日呑んだ分、少しでも節約しておいたほうがいいだろう  
という打算が働いた。  
 俺は始発が動く時間になるのを公園のベンチで待ちながら、まだ寒い春の風を受け、少しで  
も酔いを醒ましていた。  
 不意にもよおした俺は、目の端に映った公衆トイレへと急ぎ、そこで――  
「てってってー……え?」  
 ありえないものを見た。  
 この公園にある公衆トイレの入り口には扉がなく、個室ごとに扉があるのだが。その個室の  
中ではではなく、入り口入って直ぐのところに、女がいた。  
 それも、今まさに服を脱いでいる最中の女が。  
「……は?」  
 自分でも、自分の目か頭がおかしくなったのではないかと思ったが。  
 何度、目を擦ってもその女の姿は消えず、一枚一枚服を脱いでいき黒いトートバッグへしま  
っていく。  
 女は後姿だったがどうやら十代のようだ。  
 肌がキメ細やかで、腰はきゅっとくびれており、尻はかわいらしいサイズだった。髪は肩口  
のところで切り揃えられていて、朝の陽光を反射し天使の輪を描いている。  
 少女は水玉模様のパンツに手をかけると、それも脱いでしまった。  
「よしっ」  
 なにかは分からないが、満足できたのだろう。とてもいい声で少女は満足げな声をあげた。  
 俺の目の前には、一人の少女がいる。  
 学校指定のものだろうエナメル靴、スネの途中で綺麗に折ってある紺の靴下、少女はそれら  
以外なにも身に着けていない――裸の少女。  
 これは、酔っ払った独身男が見た夢なんだろうか?  
「さて、今日もはりきっていくかなー」  
 少女は盛大に独り言を呟くと、トートバッグをトイレの入り口の影に置き、くるりと振り返  
り、目があった。  
「――え?」  
 少女は目の前にいるくたびれたオヤジ――俺を見て、大きく目を見開き、表情を硬直させて  
しまっていた。気のせいか、少しずつ青ざめていっているようにも見えた。  
 そして、次の瞬間――  
「きゃあああああああああああああああああああああああ、変態!!」  
「いや、どっちがだよ」  
 少女は慌ててトイレの中へ引っ込み、個室の中へ隠れてしまった。  
 どうしたものだろうと考えたが、まだ始発までは時間がある。ほっといてもいいのだが、ま  
あ暇だったので、少しかまってみることにした。  
 俺はトイレの中へ踏み込むと、少女が隠したトートバッグの中を漁り、目当てのものを見つ  
けた。  
 少女が先程まで着ていた衣服は、まだ生暖かく、その匂いを嗅いでみたいと思ったが、流石  
に実行はしなかった。  
 ええと、なになに。  
「群雲天乃(ムラクモ アマノ)……?」  
 俺がそう呟いてやると、個室の中で「ハッ」と分かりやすく息を飲む声が聞こえてきた。  
「なんか凄い名前だな。んで、なになに聖フィーリス学園高等部二年B組、……って、あの有  
名なお嬢様学校じゃないか」  
「うわああああああああああああああああああああああああああ」  
 
 個室の扉はいきなり開け放たれ、素裸の少女が俺に飛び掛ってきた。  
「返せ返せ返してよぉぉぉ!」  
 俺は少女が求めるそれを天高く掲げた。  
 すると少女はぴょんぴょんと跳ねながら、俺の手の中にある少女――群雲天乃の学生手帳を  
奪い返そうとした。  
 だが、いくら酔っ払っていようが錯乱状態の少女に遅れをとる俺ではない。  
 とりあえず、この状態だと喋りにくいしなあと考えた俺は、少女の胸に触れた。  
 至近距離で発された少女の悲鳴は、最早声とは呼べなかった。  
 鼓膜がびりびりと震えて微かに痛い。  
 少女は俺に触れられたショックで飛びのき、転がり、公衆トイレの床に尻餅をついていた。  
「返してもいいが、条件がある」  
「さっ、触られた。うぅぅ」  
 聞こえているんだろうか?  
 少女は膝を抱えてくすんくすんとすすり泣き始めた。  
 俺は繰り返して言った。  
「返してもいいが、条件がある」  
「それはさっきも聞いた! 条件てなによ!」  
 聞こえてたのか。  
「まあいい」  
 俺はこほんと咳をすると、できるだけ落ち着いた声色で聞いた。  
「なにやってんだ、お前」  
 我ながら簡潔で、問題の本質を突いた質問だったように思う。  
 少女はびくんっと身体を震わせると、上目遣いに俺を見てきた。  
 飼い主に怒られているときの子犬を擬人化するとこんな感じだろうか、我ながら馬鹿な考え  
に思わず口端を吊り上げてしまった。  
「ひっ、い、言うから、言うから乱暴しないでよ」  
 少女は自分の身体を隠すように、頭の上で両手を交差させながら答えた。  
「わ、わたし、あのっ、ちょっと、露出が趣味でいつもここで朝の誰もいない時間裸でうろう  
ろしてるだけなの。誰にも迷惑かけてないんだから見逃してよ」  
「ふむ、だがそれは犯罪じゃないのか」  
 そう言おうとしたら、少女は遮っていった。  
「裸だったら何が悪いのよ!」  
「いや……」  
 嘘だとは思えなかった。  
 嘘ならもっと、自分の罪が軽くなるようなことを言うはずだろうに。この少女は、今回が初  
めてではなく、常習犯であると明かしたのだ。特に知りたくもなかったが。  
 とりあえず分かったのは、この少女は露出狂の変態ということ。  
「ね? 言ったんだから、許してよ。ね?」  
 腕時計をみると、まだ始発まで時間はある……。  
「許して欲しいのか?」  
 許して欲しいもなにも、俺はそういった立場にはないし、この公園の管理者でもないし、な  
により被害者という立場でもない。  
 俺はただの目撃者でしかない。  
 だが、それでも許して欲しいというのならば、だ。  
「うん」  
 少女は即答した。  
 ならば、少女を救済してやるためにも何かを課したほうがいいのだろう。俺はそう思った。  
いい暇つぶしができた、と。  
「それで、なにをしたらいいの?」  
「そうだな……」  
 俺はわずかに考えた。  
 この少女は露出癖がある、つまりは自分の痴態を他人に見られたいということだ。  
 だから、こんな行為をしてしまった。  
 ならば、この少女は普通の少女ならば断るような行為をも許容するのではないだろうか。  
 俺は嗜虐的な笑みを隠しきれず、少女へ命じた。  
「おしっこするとこ、みせてくれないか?」  
「え、ええええ」  
 驚きのあまり固まってしまった少女。  
 おそらくは性的な暴行でも受けると思っていたのだろうが。  
 
 こんな野原で見知らぬ少女をいきなり抱いて、性病にでもなったり、まかり間違って妊娠で  
もさせてしまったら大変だ。  
 なら少し恥ずかしいことをさせるだけでいいだろう。  
「まあとても恥ずかしいことだし、人には見せたくない行為だということは分かるが。それを  
やってのけれたら、今回のことは不問にしてあげよう」  
「……本当、ですか?」  
「ああ、本当だとも」  
 にっこり笑ってそういうと。  
 少女は僅かに逡巡したが、頷いた。  
「じゃあ、そこにある洋式便座の上に座って」  
「……はい」  
 少女はおとなしく従い座った。  
「うん?」  
 しかしそれは俺の予想した形と違っていた。  
 てっきりちゃんと座るのかと思ったのだが。  
「これで、いいですか?」  
 少女は便座の上に足を置いて、和式便座で用を足す時のような格好をした。  
 それも、足を大きく開いているせいで、薄毛に包まれた陰部が丸見えになってしまっている。  
「あ、ああ……」  
「それじゃあ、しますね……」  
 そういうと、少女は口元に手をあて、目を瞑って体に力をいれたようだった。  
「ふっ……ぅぅ……」  
 俺はしゃがんで少女の股間を見つめた。  
 少女の陰部はまださほど黒ずんではおらず、ただ元の肌の色が白いせいで、肌の色が濃いそ  
の部位が目立って見えた。  
 少女は顔を赤く染めて「んっ」と淡い声を漏らしている。  
「どんな気分なんだ?」  
 俺は不意にそう聞いていた。  
 朝、いつものように変態行為をしようとしていたら、見知らぬ男に見つけられ、更なる変態  
行為をさせらている少女――なかなかない状況だ。  
 少女は呻きがもれてしまう口唇を、精一杯に動かして応えた。  
「し、しらない男の人におまんこみられて恥ずかしいのぉ、恥ずかしいのに……あっ、くる…  
…恥ずかしいけど……気持ちいいの、見られるの、うあああ、すっごい気持ちいいのおおお」  
 喘ぎ散らす少女は求められてもいないのに、更に啼く。  
「えっちなお汁でぬるぬるしたまんこ恥ずかしいの、えっちなところみられて恥ずかしいのお  
ぉぉ。だけど、だけど……」  
「それが、気持ちいいってんだろ?」  
「う、うんっ」  
 少女は頷こうとしたが、唐突にびくんと身体を痙攣させた。  
「き、あああ、来たっ」  
 その瞬間、ぷしゃああああああっと勢いよく少女の尿道口から黄金色の液体が放出された。  
 それは当然ながら、緩やかな放物線を描きながら飛び  
「うわっ」  
 ――俺にかかった。  
「ちょ、きたねえ、よがってないで止めろ」  
「あああああ、きもちいいよぉ。知らない男の人におしっこ、おしっこするところ見られてる。  
見られちゃってるぅっ」  
「くそっ」  
 避ければいいだけの話だったが、俺も状況に流されて冷静な判断が下せず、少女のおしっこ  
が飛んでこないようにと止めようとして少女の秘部に触った。  
 すると  
「触らないでぇぇ」  
「なら、止めろって」  
「つまんでください!」  
「なにをだよ!」  
   
―完―  
 

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