「お前、迷っている暇あったら告っちまえ」
「……それができたら苦労しない」
親友の横山龍と昼食を取っている。
何が悲しくて昼飯食いながら恋愛相談の真似事しなきゃならんのだ……。
言っとくが、オレが相談を持ちかけたわけじゃない。
悪いがオレは、他所様に恋愛相談できるような人間ではない。
一人で抱え込むタイプだっ!!
……いや、偉そうに言うことじゃないな、うん。
その日、良い天気だったので中庭で弁当を食べることにした。
ちなみに、さつきもオレのいるベンチから離れたところで、友人たちとご飯を食べてるのが見える。
見るとはなしに、友人と談笑してるさつきを眺めてしまう。
さつきが、こっちに視線を向け、一瞬目が合う。
(……大介、一人で空しくない?)
(……巨大なお世話だっ!!)
距離も相当離れてるし、目が合っただけというのに意思の疎通ができるオレ達って……。
さつきはまた友達と話し始め、オレはオレで食事を再開したんだけど。
「よぉ」
「おう」
ビニール袋を提げた横山龍が、何時の間にかオレの前に立っていた。
「お前、一人で中庭でお弁当かよ……さみしくない?」
「別に良いだろ。あんまりにも天気が良いもんだから、さ」
「ま、たしかに」
龍がオレの隣に座ると、菓子パンをもそもそと食べ始めた。
「龍、お前それだけで足りるのか?」
こいつも運動部のはずだが……。
「あ? もう学食で食ったよ、これはデザート」
「なるほど」
こうして、何だか分からないうちにこいつと昼飯を取ることになってしまった。
龍はオレと同じく結構無口な方なので、会話が無い。
気づくと、俺はまたさつきの方に視線を向けてしまう。
「……お前さ」
「ん?」
クシャクシャとパンの包みを丸めながら、龍が話しかけてきた。
「……さっきから内藤(さつきのこと)を見ているな」
さりげない口調だったのだが、思い切りむせてしまった。
慌てて、お茶を飲む。
「な、な、な、なっ!!」
「ふうん……やっぱりなぁ……」
こいつ、ニヤニヤと笑ってやがる。
「……ん、んなわけ……」
「ここで一人で食ってるのもそういうわけか……」
「か、勝手に話を進めるんじゃねえよっ」
「ただ、ストーキングまがいのことは止めた方が……」
「人聞きの悪い事言うなっ!!」
思わず、立って声を荒げてしまった。
中庭で食事を取っている他の生徒達が、こっちを見ている。
「うぁ……」
無論、さつきも見ていた。
慌てて座る。
龍は平然としたものである。
こうして、よく分からないうちに、冒頭の会話に発展していた。
うまく龍に乗せられて、さつきの事を話してしまったのである。
龍とはかなり気が合うし、こいつは他人に言いふらすような男ではない。
それに何より、こいつは……
「お前と内藤って長い付き合いなんだろ。たぶん、大丈夫じゃないか?」
「お前と一緒にすんじゃねえよ」
こいつは……この横山龍という男は、すでに人生の勝ち組にいるのである。
「ん〜」
「美人で、年上で、止めに幼馴染みだっつー先輩とお付き合いしてる横山さんとは違うんですよっ!!」
できる限りイヤミを込めて言ってやるんだけど、こいつは平然としたものだ。
勝者の余裕か、くっ。
こいつは去年の一学期、まあつまり入学早々の一年生の身で、
学園でも五指に入るっつー美人な先輩とお付き合いを始めたのである。
で、聞いてみると、何でもその先輩とは幼馴染みだということ。
一時期すげえ騒ぎだったな。
周囲の男子連中は妬っかむは、ガラの悪い先輩方に校舎裏に呼ばれてたり、とか。
龍はそういった連中全て、実力で退けているが。
まあ本音を言えば、見事幼馴染みをゲットしたこいつを羨ましく思う。
オレもこいつみたいにって思うし、だからさつきの事を話してしまったんだけど……。
でもなぁ……。
「フラれて、今までの関係も何もかも全て、ご破算になるのが恐い」
「……」
ぎくり、とした。
オレの不安を思いっきり言われてしまった。
「……図星かよ」
「……何で?」
「……俺もそうだったし」
龍が、雲一つ無い空を眺めている。
「いや、もっとヤバイ状況だったな。
喧嘩というか、何というか……」
「……」
まじまじと親友の顔を見つめてしまう。
「……俺が一方的に悪くて、もうダメだってずっと思ってた」
「何したんだ?」
龍は苦笑いして、とても言えないと首を振った。
「気まずくなって、疎遠になっちまって。
でそのままお姉(龍は彼女をそう呼ぶ)は進学で遠くに行っちまうわで」
「……」
「まあ、一年近くお互い便りも何もせず……。
これで俺が他の所に進学してたら完全に終わっただろうなぁ……」
「別のとこ、行くつもりだったのか?」
「最初はな……でも結局ここに来ちゃったけど……」
「……何で?」
「まあ、実家の方でもいろいろあったんだけど……やっぱ未練かなぁ……」
「……」
それでちゃんと、よりを戻してしまうとは……。
「で、再会したとき大丈夫だったのかよ」
「それがな……」
龍はその時を思い出しでもしたのか
「お互い、昔のまんまだった」
カラカラと笑っている。
「ま、それからたったの二ヶ月ちょいで、ゴールしてしまったというか」
「……」
呆れてものが言えない。
「なあ……」
「ん?」
「思ったんだが……お前の話、全然参考にならないというか……
……単なる惚気を聞かされただけ、というか……」
「俺もそう思った」
「……殴っていいか?」
「それより、時間がやばいぞ」
「げっ!?」
まだ弁当半分近く残っているのにっ。
大急ぎでお茶と一緒に流し込むようにかきこむ。
「ま、俺が言いたいのはな」
「……」
「当たって砕けてみたら、うまくいった、ということ」
「……一応聞くが、砕け散ったらどうするつもりだったんだ?」
「どうって、お前……」
龍が笑った。
「残りの学園生活、鬱になって過ごすだけだっただろうよ」
「やっぱりお前の話、全然参考にならねえよっ!!」