ドアを開けたら、上半身裸のさつきがいた。  
「……」  
「……」  
 OK、ちょっと状況を整理してみよう。  
 部活を終えて、速攻で着替え終わったところで、忘れ物に気づいた。  
 で、急いで体育館に戻ることにして、近道をしようと殆ど使われることのない舞台側の入り口から入って  
 で、ドアを開けたら、そこにさつきがいたのである。  
「……」  
「……」  
 さつきは、何とも言えぬ表情で凍り付いていた。  
 俺も多分、同じくらい間抜けな表情してると思う。  
「……」  
「……」  
 まあ、いろんな思考が頭を駆け巡ったけど、五秒も経ってはいないと思う。  
 俺は無言でそっとドアを閉め、そそくさと退散したのだった。  
 
 …………………………  
 校門で待っていると、憮然とした表情のさつきがやってくるのが見えた。  
 で、そのまま互いに対峙する。  
「……その、さっきはすまん」  
 先に折れることにした。  
「……いいわよ、あそこで着替えてた私にも責任あるし」  
 ああ、良かった。  
 問答無用で覗き魔にはされないみたいだ。  
 そのまま二人、並んで帰路につく。  
 帰り道が同じなのだ、つーか家、隣同士。  
「何であんなところで着替えてたんだ?」  
「部室、もう閉まっちゃったし」  
「いや、だからって……」  
「それに、うちの部あそこで着替える人、結構多い」  
「うそ、マジかっ!!」  
「……」  
 さつきが殺気のこもった目で俺を見つめて下さった。  
「次覗いたら、故意とみなし問答無用でコロス」  
「……はい」  
「他の連中にも喋ったらコロス」  
「いや、それはないから」  
 こんな天国のごとき秘密情報を他人に喋ったりするものかっ。  
「……」  
 ああっ、さつきの背後からどす黒いオーラが、殺意の炎がっ!!  
「……トンカチで頭殴り続けたら、記憶消えるかな?」  
「……ごめんなさい、死んじゃいます」  
 それからは俺たちは無言だった。  
 
 もう少しで家に着く、というところで、  
「ねえ」  
「ん」  
 さつきが話しかけてきた。  
「見た?」  
「……」  
 さつきの顔は相変わらず憮然としたまま。  
「いや、はっきり見えなかった。暗かったし、パニクってたし」  
 これは本当。  
 むしろ、驚きのあまり凍り付いていたさつきの顔のほうが印象に残ってたりする。  
 さつきは俺の顔をジーッと見てたが……  
「ん、良し」  
 俺が嘘をついてないと踏んだらしい。  
 こういう時、付き合いが長いってのは嫌だねえ……  
「まあ、お前の身体は結構白いんだなぁ、ぐらい……」  
 殴られました。  
「いちいち解説しなくて良いっ!!」  
 さつきがずんずん行ってしまう。  
 耳が赤くなってるのは気のせい、じゃあないよな。  
 
「さつき」  
 玄関に手をかけたさつきに声をかけた。  
「なによ」  
 振り返りもせず、不機嫌な声だけで応える。  
「……その」  
「……」  
「あそこで着替えるの、もうやめろよ」  
「……」  
「その、なんだ。人が来ないからって、俺みたいに誰か通るかもしれないし……。  
 今回は俺だったから良かったけど、その……もし他の奴だったりしたら、その……」  
 
 俺以外の奴にさつきの裸を見せてたまるかっ、何て恥ずかしすぎる台詞、言えるわけなくて。  
 
「……」  
 さつきが振り返った。  
 なぜかニンマリと笑っている。  
「ん、分かった。なるべくそうする」  
 さつきは何でか機嫌よく言うと、鼻歌交じりに家に入っていった……。  
「……」  
 まさか……俺の心の声が聞こえた、なんて事ないよなぁ……。  
 
 
 おしまい  
 
 

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