恥ずかしくてたまらなかった。今日という日が早く終わってほしかった。
私は、大勢の研修医たちと一緒に検査室で担当の先生が来てくれるのを待っていた。
胸は相変わらず完全に丸出しにした状態だ。
先生がタオルを手にして入ってきた。
「お待たせしてすみません、それではこれから検査を始めますので。首掛け用のタオルを持ってきましたので使ってください」
「あ、はい、ありがとうございます」
私はそのタオルを首から垂らし、胸が隠れるようにした。
これはこれで本当にみっともない姿なのだが、胸だけでも隠せるということはやっぱり安心で、
患者の羞恥心に無配慮なこの病院に珍しく見られた良心的な措置だと感じられた。
そろそろ検査開始ということで、私は検査室のルームランナーの上に移動した。
ルームランナーは検査室入口、つまり私を囲っている研修医と対面する向きで置かれている。
だから、私が運動している間はずっとこの人たちに見つめられないといけない。
(ああ……だから、そんなに見ないでよ//////早く終わりますように……!)
隣に置かれていた機器のディスプレイには、私の心電図やら心拍数やらが随時モニターされていた。
腕には血圧計が巻きつけられ、血圧もモニターできるようになっていた。
また検査室のドアが開き、人が入ってきた。
さっき私を聴診した「偉い教授」の市川さんと、スーツをしっかり着こんだサラリーマン風の男性だった。
(また誰か入ってきたの?もうやめてよ……って、何でこの人スーツなの?)
市川「光田先生(担当の先生)、測定はまだかね?」
光田「はい、今から開始するところでしたが」
市川「病院にちょうど仁藤さん(スーツの人)がいらしていたから、せっかくなのでアースの調整やらキャリブレーションやらの機器調整を万全にして測定していただきたいのだ」
光田「し、しかしいくら何でも病院関係者以外を検査室にお通しするのは……ましてや、その、このような検査ですし……」
市川「光田先生、今回のケースは千載一遇の機会なのだよ。今回のケースの価値は君にも分かるだろう?」
光田「し、しかし!」
担当の光田先生と市川"教授"が言い競り合いを始めた。
紹介された仁藤さんという人は、私の姿を見てとても驚き、目を白黒させたかと思うと、すぐ私の横の装置の調整を始めた。
仁藤さんは極力私の姿を見るまいと視線を逸らし、それでもたまにちらちらと目線を向けてきた。
私「あ、あのー……」
仁藤「す、す、すみません……私は機器調整を担当させていただいているだけですので……!」
何というかこの人、私の裸を見てものすごく照れている。女の裸を見慣れた病院関係者だとは思えないほどに「ウブ」な反応だ。
事態が飲み込めない私に、担当の光田先生が説明してくれた。
光田「こちらは、○○医機社の技術担当員の仁藤さんです。今回の測定に万全を期すため、機器のメンテナンスを担当してくださいます」
(ってことは、この仁藤さんって人は「部外者」なの!?私は、医者でもない人に裸を見られているってこと!?)
私は表情を曇らせた。光田先生だけは、申し訳なさそうな面持ちで私を無言でいたわってくれていたように思えた。
すべては、この市川教授の一存だ。
ここに多数の研修医を招いて裸の私を取り囲ませていることも、病院とは全く部外者のサラリーマンの男の人が私の裸を見てしまったことも、
すべては市川教授の学術的興味によるものだった。
(こんなに大勢の男の人にいっぺんに裸を見られるなんて……私はヌードモデルじゃないんだよぉ……////)
(それに、……仁藤さんでしたっけ?自意識過剰かもしれないけど、女の裸を見れるなんてラッキーでしたね!ふん!)
それでも、光田先生の最後の良心的措置の、私の首から胸にかけられたタオル。
上半身裸に、タオルだけかけて胸を隠した姿。心細いけれど、乳房やその先っぽをかろうじてガードしてくれている。
これはこれで見る人が見たら相当にフェティッシュな格好かもしれないけれど(……って私何言ってんだろ)、胸が隠せるというだけで本当に安心できる。
服を着ていないってだけで、ここまで不安になれるとは考えたこともなかった。
タオルだけの上半身裸の姿で、ルームランナーの上で研修医たちと向き合う。
私と対面するように座っている研修医たちは全員、じーっと私の方を見ていた。
(うわあ……、そんなにじろじろ見ないでよ//////見るなら見るで、せめてもうちょっとさりげなくできないかなあ?
それに、あなたたちは医者なんだから、私の身体じゃなくて波形の方が興味があるはずじゃないの?それとも、そんなに私の裸の方が興味あるのかな?
ふふ、残念でした。少なくとももう胸は見えないよ、タオルで隠してるから。それなのに、私の身体のどこを見てるのかな?
脚かな?結構きれいな脚でしょ?これでもジョギングで鍛えているんだよ?
あ、そこのあなたは私のお腹を見てるでしょ?さっきの人にも褒められたけど、このくびれには自信あるんだよ私。腹筋してるしね。
あー、君は懲りずに胸を見てるな?もう横乳しか見えないよ、残念でした、ふふーん。)
胸がかろうじて隠れたという余裕からか、私の裸をじろじろ覗き込んでいる研修医たちに対して、もう恨みではなく、ある種の可愛らしさを感じていた。
(あはは、私の裸をそんなに魅力的だと思ってくれるなら、もっと見てくれていいんだよ。
私だって、せっかくまあまあいい身体してるんだから、そんな風に見て喜んでもらえたら嬉しいしね……
……あ、あれ?私、もしかしてイヤらしいこと考えてた!?)
市川「光田先生、彼女のタオルは邪魔だ。測定誤差になりかねん」
私にそんな余裕をもたらしてくれていたタオルに、市川教授は容赦なく手をかけ、取り去ってしまった。
(え、う、うわー、痴漢ー!脱がすなー、おっぱい丸出しにさせるなー/////ううっ……)
私はまた、胸を完全に丸出しの上半身裸に戻ってしまった。
剥き出しになった私の胸に改めて、研修医と仁藤さんの視線が注がれた。もう余裕を感じてはいられなかった。
光田「……それでは、今から検査を開始します。」
(うう……ほんとに恥ずかしいんですけど……)
光田「今から足元のベルトがゆっくり動き始めます。検査中は前の手すりをずっと握っていてください」
いよいよ、検査が始まった。
後ろに流れていくベルトに逆らって、ゆっくりと私は歩き始めた。
すっ、すっ、すっ、すっ。
ふる、ふる、ふる、ふる。
(ああー、やっぱ胸が揺れるよー、落ち着かないよぉ……/////)
私の歩調に合わせて、小刻みに私の胸が揺れていた。
私は、極力前に座っている人たちの表情を見ないようにした。彼らがこっちを見ていると知ってしまえば、もっと恥ずかしくなると思った。
前には研修医達と、仁藤さんが座っている。
光田先生は装置の横で、私の様子を見ながらいつでも装置を操作できる位置に立っていた。
市川教授は、私にカメラを向けた。……えっ!!??
「ちょっと、な、何でカメラを……!!」
私はルームランナーの上を歩きながら、つい思ったことを口に出してしまった。
「論文化のためだ。君の症状や検査結果は論文としての発表を考えている。そのため、測定模様も必要な状況証拠として掲載させてもらう」
市川教授は、裸の私にカメラを向けた。
もちろん、堪らなく嫌だ!
「ちょっと、や、やめてください!!」
「相川さん、君は確か、うちの大学の工学部の学生だろう?ならば論文やレポートにどういった図が必要かわかるはずだ」
「でも……でも……!」
「心配しなくてもいい、君自身が特定されるような掲載の仕方はしない。顔など君だとわかる個所はモザイクをかけさせてもらう」
市川教授の手にしたカメラからフラッシュが光った。
私は、私のヌード写真を撮影されてしまった。
(あああ、撮られた……裸を……/////)
目尻に涙が溜まるのを感じた。屈辱で泣きたかった。
市川教授は角度を変え、パシャパシャともう二、三枚の写真を撮影した。
そうこうしている間にも、ベルトは変わらず動き続け、私は小刻みに揺れる胸の動きを感じながら足を動かし続けていた。
光田「……相川さん、今から負荷レベルをアップさせますので、少し傾斜と速度を加えます」
光田先生が言うと、ルームランナーが少し傾き、ベルトの動くスピードが上がった。負荷が少し上がった。
(き、気にしない、気にしない……。せっかくジムみたいな運動ができるんだから、色々忘れて楽しもう)
さっ、さっ、さっ、さっ、
ぷる、ぷる、ぷる、ぷる、
(……いやあ!ちょっと、胸揺れすぎだって……!)
自分でも知らなかった。下着も付けずに運動すると、胸というのはこんなに揺れるものだったらしい。
胸が、上下に、弾む。
(うわーん、助けて……///恥ずかしすぎるよ……!)
私は無言で、内心絶叫していた。
毬が弾むように、胸が上下に振動する。そんな状態を、目の前の男性に晒しているんだから、恥ずかしくて当然だ!
光田先生の掛け声とともに、また傾斜と速度が上がった。
そろそろ小走りくらいのスピードで足を動かさないとベルトについていけない。額や背中に汗がじんわり滲む。
たっ、たっ、たっ、たっ、
ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ、
胸が揺れて乳房の付け根が痛い。
上下に軌道する私の……乳首が、冷たい空気に触れて、うん、早い話がまた反応して立っていた。
私は涙を堪えるために、ぎゅっと目を瞑った。
「どこを見ている!モニターを見ろ!」
突如、市川教授が研修医達を叱る声が聞こえた。
どこを見ていた?うん、きっと裸で走らされている私の方だろう。
光田「これで最後の負荷レベルアップです」
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、
ぶるんっ、ぶるんっ、ぶるんっ、ぶるんっ、
(ああ、もう、胸ずっと揺れてる……みんな私の方見てるの……///?)
自分でも見たくなかった。私の胸は、イヤらしいというよりはみっともなく、上下に大きく弾んでいた。
これがもし例えば、昔少しだけ読んだ男性向けのエロマンガとかならばきっと下品な擬音がつけられてしまうような、そんな感じの弾み方だ。
こんな状態なのに、剥き出しの乳首は冷たさを感じて反応してしまっていて、この上なく恥ずかしかった。
自分の身体が起こしている反応が、……自分の身体が起こしている反応だから、とてもみっともなく、羞恥を感じさせられてしまうのだった。
目を瞑っていたのに、私は目の前の人たちが気になってしまい、目を開けてしまった。
研修医、スーツの仁藤さん、みんな私の胸を見ている。目がイヤらしく悦んでいた。
市川教授は私の心電図の波形しか見ていなかった。それだけは救われた。
光田先生は?……あれ、光田先生も、私の方を、私の胸を見てる?うわーんやだよっ、光田先生まで鼻の下を伸ばさないでよ、信じてたのに!
ぶるんっ、ぶるんっ、ぶるんっ、ぶるんっ、
私の方を見ている男性全員が、光田先生までもが、「男の目」をしていた。
裸の私を、大きく揺れる私の胸を、それでも走らされる屈辱的な私の姿を、しっかりと目に焼き付けて愉しもうという表情だった。
(何でこんなに惨めなの……////もう許して……見ないで……見るなあ……!)
目尻に溜まった涙は、こぼれる寸前だった。もし一滴でも溢れてしまったら、私は泣いてしまっていた。
光田「はい、検査終了です!お疲れ様でした!」
私は汗だくのまま、そばのベッドに仰向けになった。引き続き安静状態での心電図のモニターが始まった。
このままどこかに隠れて、泣いてしまいたかった。