大学の健康診断で心電図で要精密検査にひっかかってしまったせいで、あんなに恥ずかしい思いをすることになるとは思わなかった。  
 
大学に入学してすぐに、健康診断が行われた。  
多分、男の人には何てことない診断項目ばかりだろうが、女にとっては脱衣を伴う診断はそれなりに辛いものだ。  
私の自意識過剰な思い過ごしかもしれないが、私の診察や検査を担当する男性医師の半分くらいは、「目が悦んで」いると思う。  
その目は私を、というより女を本能的に不安にさせるものなので、服を脱ぐのは正直なところできれば避けたい。  
とは言え、検査だと割り切って受診するしかないし、これで何か病気が発見できるならそれはありがたいことなのだ。  
 
で、心臓に異常があるかもしれないという診断結果が返ってきた。  
最初は近所の個人病院に診察を受けにいったが、そこの施設では十分な検査ができないということで、  
より精密な検査が行える、私が通う大学の大学病院に紹介状を書いてもらった。  
因みに、ここの病院に行くのは初めてだ。私は大学入学とともに一人暮らしのために引っ越ししたから。  
 
受付を済ませ、心臓外科に案内される。  
「相川さやかさーん」  
私の名前が呼ばれた。私は診察室に入った。  
かなり若い男の先生だった。医者になって間もないのだろうか。  
先生は私が受付で渡していた紹介状に目を通し、聴診器を手にした。  
「それでは、胸の音を聴きますので服を捲り上げてください」  
「あ、はい」  
私は着ていたTシャツの裾に手をかけたもののどこまで捲り上げたらいいのか戸惑い、おへその少し上くらいの位置で手を止めた。  
すると先生は、シャツの裾から手を潜り込ませ、胸を見ることなく聴診してくれた。こういう診察は女としては結構ほっとする。  
 
軽い聴診の後、検査室に案内された。測定機器とベッドのみがある簡素な狭い部屋だ。  
「それでは、上半身裸になってください」と、先生はこともなげに言った。  
「あ、はいっ」  
(あーあ、やっぱり胸見せなきゃダメかあ。目の前で服を脱ぐのはやっぱり嫌だなあ……)  
私はTシャツを脱ぎ、ブラを取った。  
(うう……////)  
やっぱり少し恥ずかしい。上半身が少し寒くて心細い。  
私は、ジーパンのみの上半身素っ裸になった。  
しかし、先生は私を「イヤらしく」眺めることはなく、真面目に検査してくれていたように感じた。  
 
そして、いつも通りベッドに横になって心電図の検査を受けて終わり。  
その検査の後、先生にこう言われた。  
「うーん、珍しい波形が出たり消えたりしてるけど、ちょっとわかりませんねえ。次回、もう少し精密な検査を行いたいと思います」  
(え、私やっぱり心臓悪いの!?)  
「次回は"運動負荷心電図"を取ります。軽い運動していただいて、心拍数が高くなった状態での心電図を観察させていただきます。」  
「……はい。(そんな検査があるんだ)」  
「ルームランナーを使った運動をしていただきますので、次回、ジャージのような運動ができる着替えと、タオルをご持参ください。今日の診察は以上です」  
「わかりました。ありがとうございました」  
この日の診察を受けて、私はかなり不安になった。何事もなかったらいいなあ、私はそう考えていた。  
 
でも、ルームランナーを使った検査というのが少し楽しみでもあった。  
私は、身体を動かすのが好きだ。週に一度は家の周りをジョギングしてストレスを発散させたり、体型維持のために毎日腹筋は欠かさずやっている。  
だから、ジムのトレーニングみたいなものだと思い、何となく楽しみにしていた。  
 
忘れていたのだ。心電図は裸で検査するということを。  
だから、心の準備が全く出来ていなかった。  
 
 
二度目の診察を受けに行った日。  
診察室に入ると、前回診察を担当してくれた真面目な先生の他にもう一人、初老に近いおじいさんの先生が立っていた。それと、女性の看護士さんが診察室をせわしなく出たり入ったりしていた。  
 
担当の方の先生は私の姿を見ると、「あれから体調はいかがですか?」と一声かけてくれたが、その後はおじいさん先生と少し話し込んでいた。  
医学的で専門的な会話だったので正直私には理解できなかったが、そのおじいさんが教授でかなり偉い人であることが担当の先生の口ぶりからわかった。  
あと、私の心電図は医学的にもかなり珍しい波形であり、体調に異常をきたすかどうかも分からないことも言っていたと思う。  
 
「そうか。なら、私は心音だけ聴いておくことにする」教授の先生は、担当の先生に向かって言った。(私に言ったのではなかった)  
「わかりました。……それでは相川さん、上半身裸になってください」  
「えぅ、は、はいっ」  
前回は聴診で裸になる必要はなかったのに……。恐らく、精密を期すための処置なのだろう。  
教授が私の心臓の音を聴くことは、それだけ価値のあることらしい。そんなことをさっきの会話で喋っていたような気がする。  
私は、Tシャツに手をかけ、シャツを捲り上げ……少し手を止めた。  
やっぱり、男の人に見られながら裸になるのは気恥ずかしくて不安なものだ。おへそが見えるくらいの位置までシャツを捲り上げたところで手を止め、二人の先生の顔を窺った。  
教授は、露骨に苛立った視線を私に投げかけた。「早く脱げ」と、椅子に座っている私を見下ろしながら目で訴えていた。  
(いや、脱ぐからさ、そんなにじろじろ睨むのはやめてくれませんか?)  
担当の先生は、……極力表情を変えないように努めているものの、教授の顔色が気になるみたいだ。  
診察室を出たり入ったりしていた女性の看護士さんが、私の後ろに立っていた。  
 
シャツから腕と首を抜き取った。私はブラだけの姿になった。すかさず看護士さんがブラのホックに手をかけ、あっという間に私のブラを奪い取った。  
看護士さんが、私の胸を露出させた。  
(ううっ……////)  
教授が私の前に座り、聴診器を私の胸に当てた。  
目を閉じて、真剣そのものの表情で私の心音を聴いていた。私を裸にさせたことがイヤらしい目的の行為ではないことだけははっきりわかった。  
とは言え、医学的興味のための実験体として無配慮に裸にされ、モノ扱いされている感覚もそれはそれで屈辱なものだ。聴診で上半身を完全に裸にさせられたことは、今まで一度もない。  
 
教授は聴診を終え、私には何も言わず、担当の先生に一声かけて診察室から出て行った。担当の先生が深々と頭を下げたことが、この教授の地位の高さを物語っていた。  
何故か私も少し頭を下げていた。上半身裸のままで。  
 
「……それでは、今日は運動負荷心電図を取らせてもらいますが、着替えはご持参いただけましたでしょうか?」  
裸のまま椅子に座っている私に、先生は尋ねた。  
「はい。スパッツなんですけど、いいでしょうか?」  
「はい。それでは、私は検査室で準備をして参りますので、下だけ穿き替えて検査室に来てください。検査室はこの診察室の奥の廊下を右に曲がった突き当たりです。タオルもご持参ください」  
「あ、はい。」  
この先生は、私が脱ぐときは外してくれるんだ……配慮してくれる先生もいることを感じた。  
(あ、タオル忘れた。……ってか、裸で廊下を歩かなきゃいけないの!?)  
「あの、シャツは着ていいんでしょうか?」  
「検査室までは着ていただいて構いませんが、検査時は上半身裸になっていただきますので、差し支えなければそのまま検査室に来ていただければと」  
「……わかりました」  
 
先生が出て行った。私は下穿きをスパッツに着替えた。  
裸で廊下を歩くと、身体が妙に肌寒い。服を着ていないことでかなり不安にさせられた。  
両腕をクロスさせて胸を隠しながら歩いた。  
ブラしてなかったら胸ってやっぱ結構揺れるんだなあ、などとどうでもいいことを考えていた。  
 
(……ちょっと待って、今日確かルームランナーで歩くとか行ってたよね??  
……まさか、まさかこの格好で!!?)  
 
私は裸のまま検査室に入った。  
言われていたとおり、ルームランナーと測定器が部屋にあった。  
(うわ、どうしよ……私こんな格好でこの上を歩かされるんだ……うああ//////)  
「それでは、電極を取り付けますので、こちらに立ってください。そして、これを腰に巻き付けてください」  
そう言われると、ポーチに入ったポータブル型の心電図測定器が手渡された。私はそれを腰に巻き付けると、先生はポーチから伸びた電極をぺたぺた私の胸の周りに貼付けていった。  
「タオルはお持ちではないですか?」先生が、電極を貼付ける手を動かしながら尋ねた。  
「あ、忘れてきました」  
「女性の場合肩からかけていただくためにタオルをご持参いただいているのですが、お忘れでしたら後ほどお持ちします」  
「あ、ありがとうございます。お願いします」  
タオルってそのためにあったんだ……私は納得した。確かに、必要最低限ながら胸は隠すことができる。  
 
「「「失礼しま〜す」」」  
いきなり、何人もの白衣の医者が検査室に入ってきた。5、6人くらいだろうか。いきなり大勢の男の人が入ってきたことに驚いて、私は胸を隠した。  
「市川教授の指示で見学に来ましたーっす」  
一人が担当の先生に言った。市川教授というのはさっきの教授らしい。そしてこの何人もの白衣の男は研修医らしい。失礼かもしれないが、この喋っている研修医だけは、どう見ても真面目な医者のようには思えなかった。  
「……わかった。」渋々といった感じで(私の思い過ごし?)、先生は承諾した。  
 
「相川さん、すみませんが少し安静時間を置きますので、椅子にかけてそのままお待ちください」  
「……はい」  
私は、胸の周りの電極が外れないように注意しながら胸を隠し、椅子に腰掛けた。  
(うわあ、嫌だあ///何でこんな大勢に裸見られないといけないんだよ……///)  
白衣をしっかり着込んだ、大勢の医学生。その中に一人だけ、裸のまま座っている私。その対比や違和感がとても恥ずかしかった。  
 
検査室の中で、私たちはしばらく無言で過ごした。研修医たちは一人を除き無表情だ。  
見学……正直患者としては、はいそうですかとすんなり了承したくはない。裸を見られる人数はできるだけ少ない方がいい。  
 
(この人たちの前で、私は裸を見られながらあの上で運動するんだろうなあ……。ってか、ずっと胸隠したままの方が逆に恥ずかしいのかも……。腕疲れたし……)  
胸を隠している腕を、恐る恐るほどいた。腕を下に伸ばし、胸を完全に露にさせた。  
研修医たち全員の視線が、私の胸に移動した。さりげなさを装ってすぐに視線を外した人もいたが、全員が全員、しっかりと私の胸を見た。男の人というのはどうして、明らかに視線を動かせたときでも「さりげない」つもりでいられるのだろうか。  
 
(おっぱい丸出し……////)  
とても不安になって、やっぱりすぐに胸を隠したかった。でも、そうする方がもっと恥ずかしいと思い、堂々と胸を出したままにしておくことにした。  
 
検査室の扉が開いた。  
また一人、別の医学生が入ってきたようだ。私は、咄嗟に胸を隠しそうになった。  
その医学生は、私に視線をちらちらと向けながら待機している医学生と会話していた。  
そして、出て行った。  
(ええー、ちょっと、何しにきたのあんたは!!)  
さっきの人は見学するでもなく、本当に少し入ってきただけだった。少し入ってきて、ただちらちら私を眺めて行っただけだ。会話の内容だって事務連絡ですらなかった。  
 
(何よ、何よ、何なのよ……///)  
はやく担当の先生にタオルを持ってきてほしかった。背中や脇腹が完全に露出したとしても、胸が露出するより何倍もマシだ。  
とにかくかなりの時間待たされ、その間に医学生が何人か入れ替わり立ち替わり検査室に入ってきて、彼らは(私が自意識過剰にあっているからではなく、明らかに)私の裸をしげしげと眺めて出て行った。  
 
特に最後の人は、私に世間話を持ちかけるふりしてセクハラを仕掛けてきた。  
 
「相川さやかさんだったよね?運動負荷(心電図)は初めてかな?」  
「え、あ、はい……」  
(この人、顔がにやけてる……)  
患者の私をリラックスさせるためだろうか。とは言え、白衣をしっかり着込んだ無関係の男に裸の状態で話しかけられて、落ち着くわけはない。  
「この検査、最後の方はちょっときつくなるよ。マラソンくらいには走らないといけないかもね」  
「はあ……」  
「体力はある方?運動は何かやってる?」  
「はい、普段よくジョギングと腹筋をしてます」  
「なるほどねえ。じゃあ心拍数あがりにくくて大変かもね」  
服を着せてもらえない状態で敬語で男の人と会話することは、身分の差を着衣枚数で示されているようで屈辱だった。  
 
「それと……痩せ型の女性は心電図に異常が感知されやすいから、今回の症状以外にも波形異常が診断されちゃうかもよ」  
「は、はあ……」(何が言いたいんだろうこの人……)  
「それにしてもほんとに細いね。お腹ぺったんこじゃん」  
(///////ひ、人の身体を、じろじろ見るなあ……!)  
「腹筋きれいだし、おへそも可愛いね。……お腹触っていい?」  
「だ、駄目です!!」  
私は、はっきりと拒絶した。少し大きな声を出してしまった。  
そしてまた彼は、全く関係のない世間話を私に矢継ぎ早にしかけてきた。私は、その気のない相槌をうつことしかできなかった。  
ふと、彼がいきなり黙った。そして、私の身体の一点を凝視している。  
……私の胸だ!私の、……乳首だ///  
彼は口に出さずに(私のお腹のことは言及したとしても、胸のことは発言せず)、私の胸元をじーっと見つめていた。  
そして私が恥じらって表情を変えると、彼は目を悦ばせた。私の反応を見て楽しんでいたのは明らかだった。  
 
私は大きく身震いした。  
その動きのせいで、電極が一つ胸から落ちた。  
「ご、ごめんなさい、電極落としちゃいました」  
(悪いのはこの人なのに何で私が謝ってるんだろう)  
「あ、いいよいいよ。俺がつけるから」  
そう言って彼は電極を手に取り、私の胸に近づけた。  
その手の軌道は、電極が元々付いていた私の乳房の下ではなく、明らかに、……乳首をめがけていた。  
(う、うそ!ちくびさわられるっ///)  
しかし彼の手は私の乳首寸前で止まり、ちゃんと元の位置に電極が取り付けられた。  
 
明らかなセクハラだった。医療行為中のことだから、ドクハラというんだろうか。  
彼の取った行動は、徒らに女の羞恥心を煽るようなものだった。もし私が訴えたら勝てるだろうか。  
……でも、「胸を触った」のような決定打がないのだ。彼はその辺り、うまく躱しているんだろう。  
 
そして、本当に恥ずかしいことに、  
……気付いたら私の胸の先端は、痛いくらいに固くなっていた。  
「乳首を触られる」と思って一瞬覚悟を決めてしまったせいか、とても敏感に反応してしまっている。  
いっそ触ってほしかっうわあ何考えてんだ私は!!  
 
そして何より恥ずかしいのは、乳首が立ってしまっていることが誰の目にも分かってしまうことだった。  
乳首を見られることは恥ずかしいのに、乳首が立っていることを見られるのはもっと恥ずかしかった。  
 
(えーん……どうして私がこんな恥ずかしい目にあわないといけないんだろう/////)  
 

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