「はぁーあ……」  
朝……結構早い。7:00ちょうどぐらい。  
一人の青年が、ベットの上に座り、ため息を吐いていた。  
名前は今上 光。19才。今年短大に入学したばかりだ。  
イイ男…とまではいかないが、少し長身で普通の体格をしている。  
 
寝間着の彼の周りには、複数の紙くずが散らばっている。  
「やっと収まってくれた…。」  
既にその行為は4,5回程行われていた。  
光の毎日の日課である……とは言っても、  
「好きでやってるのじゃないのがまた悲しきかな……」  
と言っても、日課は変わることはなく。  
股間の妙な山を作らないためには、こうするしかなかったのであるのだが。  
簡単に紙くず……ティッシュの残骸をまとめてゴミ箱に詰め込むと  
さっさと私服へ着替え、身の回りの品をまとめて布地の鞄に詰め、  
自室の扉を開け下の階へと進む。  
 
ざっざっざっざっざっ。  
……なんていうのは某ロールプレイングゲームの効果音であるのだが。  
 
「はぁ……」  
ともう一つため息をついたそこは、食事用のテーブルだった。  
流し台には昨晩の夕食で使われていた食器類が山のようになっている。  
「ったく、母さんも食事の後、韓ドラ見るんだったら  
見ながらでいいから食器あらえっての」  
と悪態を付きつつ、食器洗いを開始する。  
終わったのはちょうど……両親が起きてリビングについた、7時半ぐらいだった。  
 
彼の悩みはただ一つ、何故か性欲が強いことだった。  
何とか今まで地道な努力をしたおかげで、  
「変態」の称号は与えられていないのだ。  
……何故か?と聞かれても解らない……というかこれは人並みではない  
と、光は思いたかった。  
 
「どうしちゃったのかなー?ひかるっち」  
「えっ?」  
と声を掛けられる。ふと、光に声がかかる。  
横を振り向くと、同級生で親友の朝丘 仁が隣の席に座っていた  
さわやかな顔で、にやにや光を見ている。  
「いつもならぱぱっと食事平らげてるのに、今日はぼけーとしちゃってさ」  
「んー。まーね」  
ここは、大学の食堂だ。手頃な値段で学生に親しまれている。  
目の前のカツ丼に頬杖を付きながら、黄昏れた笑顔を見せる。  
「ははーん、ひかるっち、溜ってるっしょ?」  
「は!?ば、馬鹿だな!そんなわけ……」  
と言いかけたところでさらに仁のニヤニヤ度が増して、  
光はしまった、と思ったのは……後の祭り。  
 
「まあ、俺のAV貸してあげるからさぁ、あ、DVDだけど、  
それでも見て発散させた方が良いぜ、なんたってひかるっちは、旺盛だもんな」  
「……それを言わないでよ、仁」  
仁とは高校時代からの親友で、仁の方が知識旺盛である(そっち側については)  
ただ、光以外の奴には、まじめに接しているらしく、  
彼をねらっている女性がたくさん居るとか居ないとか。  
「っつーか、何でお前、ガッコにそんな物持ってきてるわけ?」  
「そんな予感したから」  
きっぱりと言われ、何も言えなくなる光。  
「とりあえず、その、『例のブツ』については、お借りしておくよ。」  
「おっけ……お前、午後4限だけだよな、だったらこれ終わったらわたしとくから」  
「ああ」  
結局、"例のブツ"を3枚拝借し、光は家へと戻った。  
 
家に戻ると、玄関で違和感に気づいた。  
女、それも若い子の靴である。  
母が39才の事を考えても……やはり趣味とはほど遠いような  
一瞬疑問符が光の頭に浮かんだが、気にせず光は玄関をあがった。  
 
「ただいま、母さん」  
「あら、お帰り、光……どうしたの?」  
母、鈴音の反対側には、同年代の女の子が……ソファーに座っていた。  
今時の子といえば、髪を染める物だが、黒髪を下ろしていた。  
そしてその、口元といえば、つややかで、つぶらな二重の瞳、  
あまり出しゃばらない鼻……など。  
それに適度な化粧がしてある、が、出しゃばらない程度なのが学生らしい。  
ついでに言うと体つきの方も、大きすぎず小さすぎず。何もかも、最高!!  
 
と、  
彼は彼なりに評価し、総合評価A++を叩き出していた。  
……ぶっちゃけ、一目惚れ?みたいな。  
 
「あらあら、あんまりカワイイから、固まっちゃったわ」  
「あ……え?、う、うん」  
慌てて返事すると、その女の子がくすりと笑って、  
「初めまして、津村 澪です。」  
と、礼を挟んで自己紹介をする、  
「光です。よろしく」  
立ったまま、深い礼をした。  
「あら、普通なら、『あ、どーも』、ですませるのに……」  
「うるさいなぁ、黙ってよよ」  
とツッコミをいれられて、またくすりと澪と名乗った少女は微笑んだ  
 
「津村さんはね、私達の親友なの、勿論、私とお父さんね。  
 ちょっと用事でこっちに引っ越すことになったから、今日は澪ちゃんだけ、  
 学校を見に来たんですって」  
簡単に鈴音は説明する  
「へぇ……どこの?」  
「岬第一です」  
即答する澪。  
「お!僕の出たところだよ、そこ」  
「そうなんですか?」  
鞄を置いた光は、そこから澪とうち解け、あっという間に1時間ほど、  
雑談することとなった。  
 
「澪ちゃん、か」  
「やっぱり気になるの?」  
「そ、そりゃあ、ね」  
澪が帰ったあと、鈴音にいろいろと津村家との関係について、光は聞いてみた。  
今上家は、旧姓を今神といい、ある古い神社を切り盛りする一族だった。  
そこで育った父、瞬と母、鈴音、そして澪の父、春樹と母、秋子は  
4人幼なじみで同士で育ったという。  
「其れで今は、春樹君は輸入会社の会社さん秋子ちゃんと結婚してできた子が  
澪ちゃんてわけ」  
 
「へぇ」  
「まぁ、後々、あんたがいろいろお世話になる人だと思うから」  
「は?」  
「ふふ……」  
と呆気にとられる光に鈴音は何か意味ありげなほほえみを浮かべた。  
 
夜遅く、光は起きた。  
何故か……胸が鳴る。  
「……いや、そりゃあ、澪ちゃんはカワイイけど」  
と独り言で光は自分自身に問いかけるが、その感じとは違った。  
 
……気づくと、光は着替え、外へ出ていた……。  
全く暗くは無いのだが、住宅街はひっそりとしており、11月でもあり、外は寒い。  
「……うひぃっ、さびー」  
……と暢気に言ってはみたものの、光はその違和感に、とまどっていた。  
何故か……、無意識だった。  
普通だったら、コンビニ行くとか、そういう理由で外に行くはずだ。  
でも、今は、真夜中なのに、自分は、知らないうちに着替え、外に出ていて。  
「僕、夢遊病なのかな……」  
 
「あ、今上さんっ……」  
と少女の声がして、ふと先を見るとその視界には  
 
……あの、澪がいた。  
 
 
二人は、歩いていた。……もう、かなり奥の方へ来ている。  
「……ねぇ、津村さん」  
「澪でいいですよ」  
「じゃあ僕も光でいいけど……て、そういう事じゃなくて」  
住宅街の外、その山の中だ。30分ほど二人は歩き続けていた。  
 
「どこ行くの?こんな夜中に」  
「大切な事なんです。お願いします」  
妙に澪は、真剣な顔をしている。何か重々しい何かを。  
「……」  
その表情を見て、光は黙ってしまった  
「あ、ごめんなさい、なんでこんな顔してるんだろ、あたし……」  
「う、ううん、別に良いけどさ」  
と苦笑しあって、結局いろいろ、自分の事、楽しかったこと、  
学校のことを、二人は話しながら歩いた。  
 
山の中をもう10分ぐらい歩くと、そこだけ、ぽっかり森が切り開いてあった。  
その、広場みたいなところの真ん中に、大きな岩がある。  
「ここです」  
「ここ……がどうかしたの?なんか、大事な場所みたいだけど」  
「……」  
と、また、澪は先ほどの表情に戻ってしまい……  
そのまま、腰から、小さな太刀を取り出した。  
 
「え?ね、ねえ、澪ちゃん!?」  
「……」  
光は慌てて、澪に問いかけるが、澪はその瞳を固く閉じ、押し黙っていた。  
「澪ちゃ……」  
と、澪の体に触れようと  
一瞬、澪の体が、淡いヒカリに包まれている事に気が付いた。  
黙っていたと思ったが口から聞いたこともないような言葉が聞こえて……  
 
澪の耳にうっすらと白い毛が生えてきている……、  
そして、太刀を持つ手にも……毛が……  
 
「……うっ!!!」  
いきなり、"何か"が光に襲いかかった。  
「……どうなってるんだよ……みぉ……ちゃ……」  
光は頭を抱え、足がすくんでしゃがみ込んでしまっている……。  
頭の中に膨大な量の何かが注ぎ込まれてしまっている、  
ような気がしてならない。  
 
「……目覚めです」  
凛とした、真っ直ぐな声……感じは違うがそれは……  
「澪、ちゃん……?」  
見上げると……澪であった其れは……姿を変えていた。  
赤い和風の巫女の装束を纏い、  
頭にはやや青みがかかった白の狗の耳が生えている。  
体格は変わらないのだが、その出で立ちを見ると、  
幼さが抜けてしまっている。  
真っ直ぐにこちらを見つめる目は、獣の目と也……  
 
「千三百、有余年……私達はお待ちして降りました……」  
優しく、その"澪であった女性は、ほほえみかけている  
「な……なにをっ!?」  
「……あなたをです、狗神殿」  
「狗が……みぃっ!?」  
 
ドクンッ!  
波動が来たように……からだが大きく波立ち……  
一瞬瞬きすると、目が見開かれ、瞳の瞳孔が縦に大きく割れる。  
……明らかにそれは、動物の何かに変わっていた。  
 
「……我……ハ……」  
(何なんだ……此、声……違うじゃん)  
「……我…」  
(違う、此は僕なんかじゃ)  
「……狗大栄神(いぬのおおえのがみ)……光景(こうけい)」  
(僕は……何だったんだよ……いったい)  
 
メキッ……。  
一つ何かが鈍い音を立てると、両耳が尖って、上へ伸びていく。  
(いたっ……)  
両爪が、粉々になって落ち……代わりに鋭い鉤爪となって現れる。  
 
「……久シイナ……美緒……」  
「ずっと、……お待ちしておりました」  
 
光の目の前で、その美緒という女性は、涙を流していた。  
其れをみて、変わりつつ体の中、ほほえみかける光……だったもの。  
混乱する思考の中も、口だけは蠢き、また、体の構造は変化を続けている。  
 
ビリビリッ……。  
服は、悲鳴を上げた、それだけ、彼の筋肉が大きく発達しているのだろう。  
「……ぁ……ぁあ……あ……」  
 
「……光さん……落ち着いて……心を落ち着かせてっ!」  
美緒……いや、澪の口調だった。  
(よかった……やっぱり、あれは澪ちゃんだったん……だ)  
息が苦しいすべてをはき出してもまだ足りないほどだ……。  
そんな苦しさが、光を拘束する。  
光景は、光を追い出そうとしているのかのように  
 
「……コヤツ……」  
「光景殿……おやめください!……そなたの子孫でございますよ!?」  
「……心配無用ダ……此奴ヲ試スダケダ……」  
冷たくその、野太く、低い声は言い放つ  
(試す……って……なん……だ……)  
意識が薄れていく……まるで、死ぬときのような。  
 
ビリリッ……  
光の着ていた服は、ただの布きれと成り代わり、  
そこ巨体にうっすらと白と黒の毛が生える。  
ずるずると、髪が伸びるように生える獣の毛が……。  
その人でなくなった、凄まじい体格を覆っていく。  
 
(お……おい……僕……これ……って)  
「気ヅイタカ、我之可愛イ生レ変ワリヨ……」  
(此奴……僕、のっ……思考……をっ……)  
「ソウダ、御前ニ我ノ『力』ヲ使ウノガフサワシイカ……試スノダ」  
(ふざけ……るなっ……勝手に……僕の……体、おっ)  
「……ぉお……うぉぉおおお……」  
 
ミリリッ……  
表情は、もうすでに阿修羅のような……激しい物に変わっていた。  
音が鳴り、光の顔の鼻先が、ゆっくりと前へ突きだしていく。  
その口は、食いしばり……犬歯が下へ伸びて行っている。  
 
「僕の……からだ……おっ」  
ぐぐもった、人であらざらぬような、その声で。  
「……僕ハ……今上ィィィィ……」  
唸るように言うと……徐々に、そこに光が集まっていく。  
銀色の……神々しい……光が。  
ゆるりと立ちあがり、手を月と星の浮かぶ空へ突き出す。  
「イマガ……ミィィ……ヒカルダアァァァァァァァァァァァァァッ!!!」  
 
カッ!  
 
ヒカリが……『神光』が放たれた。  
広場だけでなく、森を突き抜け……鳥たちが飛び去る。  
神光と共に放たれる叫びのような咆吼は、長く、長く。  
その勢いは獅子並、いや、其れを上回っていたかもしれない  
 
「アアァァァァァァッ………。」  
神光が……ふっ、と消え去ると、咆吼もとまり、光はがくっ、と両手をついた  
 
「光さんっ……」  
「はぁっ……はぁっ……はあっ」  
大きく、息を吐き、舌をだらりと垂らす光に、澪は抱きついた。  
「えっ……」  
「光……さんっ」  
ボロボロと泣き出す澪に驚きながらも、ゆっくり体勢を立て直し、  
その大きな手を、澪の背に回した。  
「ええと、その……泣かないで」  
今、顔の構造がどうなって居るか解らないが、必死に笑ってみようとした。  
うまく動かない……が、必死に、顔の筋肉を動かすように意識し……  
「……ごめんなさいっ……う、嬉しくて……あたしっ」  
微笑んでみせる澪の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていたが、  
その顔を見て光はほっ、と心を落ち着かせた。  
 
壊れそうなぐらい、小さく感じる澪を、優しく、力強く抱いていた。  
 
光に抱に抱かれて、しばらく静かにしていた後。  
澪ははっ、と、目を覚ました。  
暖かい毛が……澪を包む  
「あっ……すみません……あたし」  
「良いんだよ……澪ちゃん」  
穏やかに、光は言う。  
 
まだ、光には何も解っていなかった。  
自分がいまどうなっているのか。  
何者なのか。  
光景とは美緒とは、何者なのか。  
でも、どうでも良かった。澪の穏やかな寝顔を見てしまうと、  
もう、知らなくても良いような気がして。  
 
「……話さなければいけませんね」  
澪は、そういった。  
「うん、知らないことばかりだし……でも、無理には」  
「ダメですっ」  
力強く、澪は反論した。  
びくり、と、その光の体は震えた。  
「あ……すみません」  
澪が小さくしおれると、光は首を振った。  
 
「わたしは……月宮巫女(つきのみやのみこ)、美緒の生れ変わり……そして、  
あなたは……」  
「狗大栄神、光景、ね」  
澪は頷き、話を続ける  
「私たちの前世は、平安時代に神としてまつられた神獣とその従者でした。  
ですが……邪念に遣われた闇の者立ちが……私たちは……  
必死に戦ったのです……でも、私たちは……勝てなかった」  
 
澪は悔しそうに、俯いた。  
「平家と源氏の戦いが起こったのも、その邪の者が、  
両家にとりついたから……  
そこから……人間達の過ちは、繰り返されていった、と。  
今でも、怪奇現象や、誰かにとりついて、悪事を……。  
お願いです……わたしと一緒に、浄化してはいただけませんでしょうか?」  
必死に哀願する、澪。  
 
それを、  
「……え……でも、僕はそんな力……」  
と、力なさげに光は反論する。  
 
「見てください……今のあなたの姿を」  
そういって、巫女装束の胸元から、鏡を取り出すと、光の方へと向けた。  
 
鏡には、犬のような物が写っていた。銀色の獣の瞳と……黒と白の毛……。  
瞳からは凄まじい程の鋭さ、力強さがある……。  
睨まれたら、自分自身でも、立ちすくんでしまうのでは無いか、と思うほどだ。  
形は獣のようであるが、そこにはどこか、神々しい何かが……あった。  
見下ろして体を見つめた。  
何故か、袴のような物を身につけていた。その、山のように隆起した肉体の上に、  
柔らかく艶やかな毛が生えている。  
鏡を片手に、そっと、自分自身に触れてみた。  
 
「……なに……これが……僕?」  
澪に顔を向けると、頷く。  
 
いきなり、心臓の鼓動が高まる……何か……わき上がる。  
先ほどの事を思い返した。確かに苦しいが……どこか……どこか心地よかった。  
此が自分とおもうと……おかしかった。  
惨め……でもあるが、でも、でも……  
 
「ふふっ……ふふふふ………あははははははは」  
光景のような、太く、低い声で、笑った。  
「……光、さん……?」  
「だっ、だってさ……、僕、こんなんなっちゃったんだよ?  
僕、こんな、こんな化けものみたいなこんな力もって、君みたいな……」  
口では笑ってるのに、目は……とても深く悲しみを持ち  
 
「こんなに……こんなに可愛い女が居るとっ……僕はっ!、ぼくはっ!」  
ぷるぶると、澪を抱き……光はふるえている。  
 
ダキタイ……メチャクチャニシタイ……ボクノモノニシタイ………  
モウ、コワレテイイ……オカシタイッ  
 
        ミオヲッ、ミオヲメチャクチャニッ!!!  
 
「君を……滅茶苦茶にしちゃうよ……」  
「良いです……それで」  
澪はそういって、優しく光の胸を触れる  
 
「小さな頃、一緒に会ったんです、あたし。それに……あのときから、  
『澪はあの光って子を……支えてあげないといけないって』言われました」  
ゆっくりと、その手を、腹のほうへ下ろしていく  
「あの頃、光さんと遊んで、いろいろ優しくして貰っていました。  
幼稚園では、仲間はずれにされてたのに……あのときから、  
あのときから、あなたが……好きでした」  
腹の方にあったては、やがて、袴の中にある、光の化身へ……  
ゆっくりと下ろされていく、澪の華奢な手  
 
「夢の中で、あなたを見つめて……わたし、思ってたんです……  
あと、あなたに合いに、こっそりお母さんにあったり……それで、  
あたし……其れを考えながら、独りでしたりっ……」  
既に、それは大きく膨張していた……。光も、袴がとても邪魔で、  
爪で切り裂いてしまおうか、想うほどに、苦しく袴が締め付けていて  
 
澪はその化身を、優しくなで上げる  
「み、みお……さん」  
「……お願いします、澪とよんでください……」  
潤んだ目で、光を見上げる、澪の瞳に化身は反応を繰り返す  
「み、み、お……」  
理性はとっくに限界を超えているというのに、手が出せない。  
こんなにも、誰かを求める事は無かったからだろうか……。  
澪に触れるのが、とても怖かった。  
 
それなのに澪は、顔を赤めて、その化身を包むように持ち、  
嬉悦なるため息を吐き捨てる  
「大きい……私に入る、ぎりぎりの……これが、はいるの……」  
澪の背中から、かすかに見える尾は、バタバタと揺れている。  
「澪……でも、僕は、君を傷つけたくない」  
「まだ言いますか……」  
 
光の手を持ち、ゆっくりと澪自身の装束の中へ差し入れる  
「ほら……あなたの素敵な姿を見て、……ぁっ……  
   あたし……こんなに立ってるんですよ?」  
光のその手の先から、双丘の先のしこりが堅くなっているのが解る。  
 
互いに息が激しくなっているのが、耳から痛いほど伝わってくる。  
光はもう片方の手で押し倒し、両手をその装束の方へ掴み、  
力強く脱がせようとする、が。  
爪が、鋭い刀のように、澪の服の胸元を切り裂いていく。  
 
びりっ、びりりっ、びりっ  
「はあっ……ああ……ああんっ」  
澪の形の良い双丘が現れると、其れを、長く、ざらついた舌でべろりと舐める。  
舌につられ、胸が形を醜く変えていく。  
「んあっ……ああっ……ひかるっ……さ……ぁっ」  
光は澪への舌攻めを繰り返しながら、袴をゆっり脱いで……。  
ふと、自分の化身……すなわちペニスを見て、驚いた  
その太く長いそれが、反り返り絶えず透明な液体を滲ませているのだ。  
あまり気づかなかった。こんなにもなっているとは  
我ながら、自分の性欲の強さに、呆れてしまう。  
 
舌が胸から首筋へと上っていき、そして澪の唇にかかる  
「んっ……んんっ……」  
光は自分がまるで犬のようだ、と思った……まぁ実際にはそうなのだが。  
 
唇を舐めるのをやめると、澪をじっと見つめつつ、  
鋭い爪は続いて、澪の袴へと標的を定めた。  
 
びりっ、ビリッ…  
腰の当たりを簡単に斬り、するりと袴は澪の体の拘束を解いた。  
その袴を光は後ろへ投げ捨て……それははらりと、力無く落ちる。  
澪の体は、細身かと想ったがなかなか豊満な体つきだった。  
その股間には、透明な愛液をどくどくと溢れ出していた……。  
 
「はっ、早くっ……いれ、てっ……おねがいっ!!」  
「……まだだめ」  
つぶやくように光は言うと、その割れ目へ、舌を刺しだした  
「ああああっ、やっやめ……あっ……こわれちゃう……ひぁっ」  
舌の動きに合わせて身悶える澪。その体を見て、自然と光の尾も  
力一杯揺れているのを感じた。  
 
「……みお…………ねぇ……入れてって……お願いしてよ」  
べちゃっ、べちゃっ、と粘着音は鳴り響き、話ながら舐めを止めない光。  
「あ、あうっ……ひ……ひかる……さまっ……あんっ、のぉぉ……」  
快楽の激しい刺激に耐えながら、息と共にしおらしい声で澪は鳴く。  
「……でっかい……おちんちん、おっ……い、っ、いれてく、ださいっ……いっ、あんっ、ひゃっ、ああっ!」  
 
舌を止め、ゆっくりと舌を割れ目から放した。  
「……ひかる……さんっ……」  
息が途絶え途絶えしながら、澪は光と見ている……。  
其れを見て、ゆっくり光は頷いた。  
 
化身に手を押さえ、腰をゆっくりと下ろしていく。  
そして、その割れ目の中へと、浸食を開始する。  
 
ずちゅぅぅぅぅっ  
「ああああっ。す、すごいのぉ……ふと、ふといよっ、く、くるしっ……」  
強く、強く澪は光の化身を締め付ける。こんなにも広がるのか、というぐらい、広がり、澪の下腹部は少しふくれている。  
少し待って、澪の中を浸食していく化身。  
「ひあぁぁぁぁあっ、はい、はいる、のっ、んっ、太いのがはいるのぉっ!」  
びくっびくびくっ、と必死に澪は全身を蠢かせながら、息を吐き捨て、  
更に、化身を放すまいと、肉を狭める。  
 
なんとか全て入りきると、  
澪の下腹部はグロテスクにぷっくりとふくれている、  
カリの部分がくびれているのが、生々しくて、光を更に興奮させていた。  
刺さった腰をゆっくり落とし、引いていく。  
「あっ、ひ、ひゃっ、引っかかって、すごっ、のっ、あっ、いいっ、いいいっ」  
お互いに人ではないからだろうか、  
普通死ぬであろうその性器が合さって、血も出ない……。なんて。  
繰り返し、繰り返し、段々と間隔を狭める、ピストン運動をさせつつ、  
二人は、狗のごとく息を吐き捨てる。  
 
「あっ、ひかるさんっ、んっ、ヒャ、あああっ、あたし、っ、あたしっ」  
「み、みおっ、みおっ!みおぉっ!」  
その行為は上り詰めていき、やがてその限界へ近づいていた、  
二人の口からは、絶え間なく唾液が糸を作り、地へ向かわんとする。  
「やっ、だめっ、あんっ、い、いちゃ、んっんっあっやっ、うっ、  
イッちゃう、イッチャウ!!」  
「みおっ!みおっ!みおおおっーーーーーーーー」  
 
光の禍々しい欲望が、澪の中に吐き捨てられた。  
そして、澪の中の欲望も、潮として、光へと押しつける。  
びくんっ、びくんっ、と痙攣する澪の腹には、  
ぶくっ、と全てを受け止め、痛々しくふくれている。  
 
其れを見届けると、ニヤリと笑ってから、光が気を失い、  
また、澪も其れを追うように、意識がなくなった。  
 
 
ふと、目を覚ます……。  
そこは、森の広場……あのときのままだった。  
朝の太陽が、光の目を刺す。  
周りを見回すと、どうやら自分と、澪しか居ないようだ。  
 
薄れた意識をはっきりさせつつ、光は記憶を掘り起こした。  
どうやら、つながったまま、光は寝て……  
「うわぁぁぁぁぁっ」  
いきなり顔を真っ赤にさせる光。慌てて自分の化身を抜く。  
てらてらと濡れているのだが、最後に上り詰めた程の量の精液は出なかった。  
 
「ふくっ、僕の服ッ」  
何か覆う物が欲しかったのだが、何も無い……  
無論あるはずもない、光の変貌の際にことごとく  
バラバラに散っていったのだから。  
 
どうしようどうしようどうしようどうしよう。  
 
様々な事が頭の中で回っていく。  
自分のことこの後のこと澪さんのこと……  
「つか僕は……?」  
 
(*´д`)……変態変態大変態ハァハァ……  
 
「やだぁぁぁぁぁそんなのいやだぁぁぁっ!」  
 
と自分で結論を立てつつ、悶えていると  
「うーん……」  
澪が意識を取り戻したらしい。  
「み、みみ、みみみみ、澪、澪ちゃんっ」  
「あ、ああ……光さん……おはようございます」  
平然とにっこり笑う彼女に、更に光は青ざめた。  
 
そして彼は思うのだ。  
(熊でも虎でもモグラでも何が住み着いててもいいからっ  
穴があったらいれてくれえええええっ!!)、と。  
「どうかしました?」  
「え、あ、いえ、なななな、なんでもないっですよー」  
やけに間抜けな声を上げながら、光は必死に笑っていた。  
もう、ダメだ……と光は思っていたのだが  
 
「ああ。そういえば、着替えですけど、ここに」  
「へ?」  
此でもかというぐらい、そのときの光の顔は間抜けだったという  
 
 
あの時から数日経った、ある日。  
無事、津村家の引っ越しも終わり、  
今上家はその手伝い兼お祝いにやってきた。  
何とか作業も終わり、皆で祝おうと、準備を始めようとした、そのとき  
 
「申し訳ありません!!」  
と光は土下座していた。  
 
其れを見て戦慄する3人。  
「い、いきなりどうしたのかね?光君」  
「ぼ、僕は……澪さんを、お、おっおそっ」  
「其れはもう知ってますよ、光さんのお父様方も」  
にこにこと澪は言う。  
 
「なんだって━━━ヽ(゚Д゚ )ノ━━━!!!!!?」  
 
……澪の父、春樹から光が聞かされた話はこうだ。  
性交とは、お互いの神の光、すなわち神光を強める行為であると。  
そして初めて自ら持つ神の姿へと変わると、  
欲情の押さえは聞かなくなるのだと。  
「澪もな、始めてあの巫女の姿になったときは……  
本当に大変だった物だよ、な、母さん」  
「ええ、お父さんも色気にやられて、近親相姦になるところだったわねぇ」  
ははは、と暢気に笑う津村夫妻、  
更に其れを微笑ましく見ている今上夫妻に、  
光は顔を真っ赤にしていった  
「僕の心配はっ……無駄だったのかよっ」  
愕然とするも、一緒に笑うことしかできない、今上 光青年であった。  
 
 
光と澪は、津村家を出ていた。  
もう、夕暮れで、周りには星と月が浮かぶまでそう時間はかからないだろう。  
「……御免なさい、あたし、光さんに心配かけちゃいましたね……」  
「ん?、ああ……あれね」  
俯く澪を、光はのぞき込んで笑った。  
「もう、本当にびっくりしたんだからね……  
まさか、両親に話しちゃうとはさー」  
「う、うう……」  
今更、なのだろうが、真っ赤になって恥じらう澪が、  
光にはとても魅力的に見え。そんな彼女を抱きしめる。  
「そういえば、僕……まだ澪ちゃんにいってなかったよね」  
「え?」  
きょろきょろと周りを見る。  
住宅街のその道は誰もいないのをほっとする光。  
澪の耳元に口を近づけ、言う  
 
「……僕も、澪ちゃんが好きだよ?もう……放さないから」  
 
そういって、少し力を込め、澪を包み込む。  
澪はさらに顔を赤く染め……瞳を閉じ、涙を流した……。  
「私、光さんに……ずっと尽くします……ずっと」  
 
そういって、黙り込んだ二人を、静寂の闇と、星と、月が見つめていた。  
もうすぐ、戦いはやってくる。  
この二人はいったい、どの様な敵と戦っていくのだろうか。  
 
其れを知る事ができるのは、また、後になりそうだ。  
 
 
狗神様の憂鬱「狗神、神々しき銀の光放ち」 了。  
 
 
 
 
・今上 光(いまがみ ひかる)  
19才。男。祖父はある神社の神主、さらに叔父がそれを継いでいる。  
15年ほど前に今の家の越してくる。  
人並み以上に性欲が強く、それが悩みの種。どうしてなのだか分からない。  
 
・津村 澪(つむら みお)  
17才。光の両親の親友である津村家の一人娘。  
一応社長令嬢だが着飾らない性格。光となにか縁があるようだが…。  
 
・朝丘 仁(あさおか じん)  
光の高校時代からの親友。むっつりすけべ(?)  
でもケンカは結構強く、運動神経もいいらしい。  
 
・狗大栄神 光景  
光の前世であり、今神一族の祖先。豪快な性格、だったらしい。  
狗巫女である美緒と恋に落ちるも、平家と源氏の争いの直前に命を落とす。  
 
・月宮巫女 美緒  
澪の前世であり、津村一族の祖先。しっかり物で知将としても知られていた。  
狗神を支える巫女であったが、光景が先立った後、子を産み、後を追うように亡くなる。  
 
<補足「狗神とは?」>  
犬神とは違う別のもの。  
神獣族の一派で、人狼のような体を持つ。  
獰猛さはあるものの、その神格は高いとか。  
もともと雄のみであるため、雌である「狗巫女」と交わり、子を産む。  
 
ちなみに「犬神」は祟り神である。  
 

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