今俺は、同じアパートの隣に住む美人の七井さんとデートしている。  
しかも、七井さんは上半身ビキニのトップスのような、ほぼブラジャー一枚だけのような姿で。  
 
 
事の発端は、同じアパートのごみ捨て場だった。  
明日が燃えるごみの日だと思い出して、面倒だと思いながらも夜中にごみ袋を持って外に出ると、  
街灯が照らすだけの暗いごみ捨て場で七井さんと鉢合わせた。  
「……あ、七井さんこんばんは」  
俺が言った。  
「……ひっ!?あ、こ、こんばんは……」  
七井さんは、ひどく驚いていた。そして、俺も驚いた。  
下半身はジーンズ、なのはいい。問題は上半身だ。  
どう見ても、……ブラジャーだけ?Tシャツも着てない!?  
街灯に照らされる上半身が、艶やかな肌色を照り返らせている……!  
「あ、あ、……」  
七井さんは胸を覆った。そしてそのまま小走りに自室に戻っていった。  
今は夏、しかも今日も相変わらずの熱帯夜だ。自分の家では裸で過ごしていたっておかしくはない。  
だから、七井さんも「どうせごみ捨てする間だけ」という気持ちで、下着姿のまま外に出てきてしまったのだろう。  
自分の隣に住んでいる美人ということしか知らない、ろくに会話したこともない七井さんの、  
まさかの半裸姿を拝むことができた俺は、それだけで幸せだった。  
 
しかし幸せはこれで終わりではなかった。  
翌日、バイト明けで帰宅してアパートの階段を上っていると、また七井さんと鉢合わせた。  
しかも……また前日と同じく、Tシャツも着ていない姿だ!  
「あ、七井さんこんばんは、また会いましたね……」   
「あっ!あ、こんばんは……」  
七井さんは、また咄嗟に胸を隠した。  
それでも、上半身のあらゆる箇所が丸見えになっている。首筋、鎖骨、肩、お腹、……。  
特に、薄くくびれてぺったんこなお腹と、その中心の小さく可愛いおへそに俺の目線は釘付けになった。  
 
七井さんは、胸を隠す方が不自然だと思ったのが、胸を隠す腕を下ろした。隠すほどのボリュームとは言えないが、しっかりと膨らみを主張する可愛らしい胸だった。  
「また会いましたね」  
気まずさを打ち消すように、俺は言った。  
「俺、七井さんの隣に住んでる矢田です」  
「あ、はい、矢田さんですよね。知ってます……」  
ここで俺は気づいた。会話を繋げば繋ぐほど、俺は彼女の身体を眺めていられることに。  
七井さんは、ひとまずもう恥ずかしがってはいないみたいだ。  
まあ、自分の(下着で自室を出たという)横着ではしたない姿を見られてしまった以上、堂々としていないと却って恥ずかしいというのもあるだろう。  
「七井さんって、学生ですか?」  
「あ、はい……」  
「どちらの大学ですか?」   
「あの、K大学です」  
何と、超名門大学に通う才媛じゃないですか!美人な上に頭もいいなんて……。フリーターの俺とは大違いだ……。  
そう思いながらも俺は、七井さんの肌のきめ細やかさまでしかと目に焼き付けていた。  
そして、これ以上半裸の彼女を引き留めておくのは可哀想かなと思っていた頃、   
「矢田さんは、何をされているんですか?」  
彼女の方から質問が返ってきた!  
い、いいのかい?このまま俺は裸の君と立ち話しちゃうぜ?  
その整った顔も長く綺麗な髪も、小さくて可愛いおへそも、胸に谷間をつくる膨らみも、もっと見せてもらうぜ?  
 
と、そこまで考えたとき、ふと気づいた。  
俺たちは二階に住んでいるのに、何故さっき七井さんは三階から下りてきたんだ?  
そもそも、何で昨日と全く同じ服装なんだ?  
……もしかして、七井さんは、露出趣味があるのではないだろうか?  
全裸まではいかなくとも、本当は露出度の高い服装で外を歩きたいのかもしれない。だから、アパートの中だけでも、うろうろしていたのかもしれない。  
K大学に入るくらい勉強している彼女だ、きっとどこかで発散したくもなるだろう(←何じゃそりゃ)。  
俺は一つの賭けに出た。  
「七井さん、良かったら、一緒に近くのコンビニまで散歩しませんか?」  
それはつまり、七井さんをブラジャー一枚だけの姿で、アパートの外に連れ出すということ。  
もし七井さんに露出趣味があるなら、乗ってくれるのではないか……。  
「……わかりました。いいですよ」  
 
上半身はブラジャー一枚の女の子が、俺の横を歩いている。  
暗い夜道、もしこんな格好の女の子だけだったらかなり危険だろう。  
ブラジャーといってもスポブラみたいな感じで、ファッションだと言えなくもない。  
というか、ブラジャーではなくそういうトップスなのだと教えてもらった。  
つまり、家着ではなくそれなりのブランドの一張羅なのらしい。  
(やっぱりそんなものを着てアパートのごみ捨てをする時点でどこかおかしい)  
「……一応、このトップスだけでも、街を歩けるんですよ」  
「さすがにそれは大胆だと思うけどなあ。恥ずかしくないの?」  
「えっ?まあ、その、正直……」  
うーん、初々しい反応だねえ。  
きっと七井さんは、こんな大胆な服装で街を歩いてみたいんだ。  
でも、それに対しての踏ん切りがつかずにずっと躊躇っているんだ。  
「……七井さん細いよね」  
「えっ?」  
そしてきっと、内心は自分の身体を見せたくて仕方がないんだ。  
「スタイル抜群なんだし、堂々としてたらいいんだよ」  
俺も認める彼女の身体を、もっと自信付けさせてやる。  
「で、でも……」  
「街に行ったらそれくらいの格好普通だって」(さっきの逆を言ってるが気にしない)  
「そ、そうですよね!」  
「じゃあさ、今度、一緒に街に行こうよ」  
「あの、それって……」  
「七井さんは、その服を着てきてね」  
「うわ〜……わかりました。恥ずかしいですけど……」  
 
待ち合わせは午後一時。夏の日差し真っ盛りだ。  
果たして彼女は……来た!   
ブラジャーのような最低限しか覆わない例のトップスと、ややローライズなスキニージーンズ姿で。  
下半身が長い丈で覆われている分、上半身の露出の多さが一際目立つ。  
彼女自慢(?)の形の良い胸と、見事なくびれが映えている。大きめのベルトが腰周りを一際大きく見せてくびれを強調している。  
そして、丸出しのおへそ。   
「……こんにちは」  
「おっす。……凄く似合ってるよ」  
「そ、そうですか?」  
七井さんの表情は、間違いなく褒められて嬉しいというものだった。  
「わ、私、普段は友達の前でもこんな格好しないんですよ!」  
今の彼女の姿は、いつもの友達や知り合いには見せられない、もう一人の「彼女」。   
その「彼女」を発散させたのが、この俺。  
改めて、彼女の身体をじっくり眺める。  
七井さんは、少し身をすくめながらも、俺の視線を意識して胸を張ってくれた。   
やっぱりこの子は、見られたいんだ。  
 
「じゃあ、行こうか!」  
俺は、剥き出しの七井さんの肩に手を掛けた。  
「……はい!」  
少し震えた力強い声で、七井さんが応えた。  
 
 
 
終わり  
 

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