性格上、人前に出るのは苦手なので清掃スタッフという仕事を始めました。  
仕送りだけじゃどうにも行詰るので、しぶしぶバイトを探したのです。  
都心の大学に通っていますが、勤務地のスーパーは家の近所です。  
ここも東京ですが、都県境で畑も広がる典型的な郊外といった様相です。  
 
仕事は閉店後に始まります。  
主任とパートのおばさん二人と一緒に、2フロアを隈なく清掃します。  
地方のスーパーにありがちな独特の匂いが店内を覆っています。  
二階の衣料品売り場もどこか商店街の洋品店というような趣です。  
照明を一段階落とした誰もいない店内はとても不思議な空間です。  
各々端から始め、中央で落ち合う形で清掃します。  
下着売り場で商品を物色します。もちろん手には取りません。  
どのような物が並んでいるかを目で追うだけです。  
男性用売り場も通るわけで、最近多いボクサータイプの展示品に見入ってしまいます。  
我に返り誰かに見られていないか、四方を見渡しました。  
幸い誰の視線も感じません。そしていつも通り定時前に作業を終えました。  
その日は率先して後片付けを申し出ました。  
 
ある日のことです。  
二階バックヤード端に従業員の通用階段があります。  
そこは半ば物置と化し、防火扉も常に開け放たれています。  
その割りに普段から薄暗く人影はありません。  
そこに清掃用具を片付けるのですが、一階に降りきった階段裏にマネキンがありました。  
西洋人と思われる男女のマネキンがポーズを決めて立っていました。  
一瞬驚きましたが、それだとわかるとホッとし、笑みがこぼれました。  
絞り終えたモップや雑巾を表に干せば、後片付けは終了します。  
その後は詰所に戻り、時間までおばさん達とおしゃべりをするだけでした。  
その時間も結構苦痛なのでもう少しここにいようと思いました。  
 
もう一度マネキンを見ると完璧なプロポーションを此れ見よがしに晒しています。  
私は、これが性格に影響してると言ってもいいように、体型にも自信がありません。  
若干お腹回りが気になりますし、胸はありますがそれすら負い目に感じてしまいます。  
男性のマネキンを見ました。金髪の青年の碧い目はどこか遠くを見ていました。  
胸板が厚く腹筋は逞しいです。自然と視線は下がります。  
そこにはそれはありませんが、適度な膨らみがありました。  
下着やボトムを履かせるとそれなりに見えるのでしょうか。  
自分でも驚きましたが気付いた時にはそこに手を伸ばしていました。  
 
女性のマネキンの乳房を掌で包みました。  
自分のそれを触る感覚で試みたので、当たり前ですが違和感を覚えました。  
股にも手を伸ばしました。さらっとした感触でした。  
再び男性のマネキンに近づき抱きつきました。ひととき目を瞑りました。  
その場を後にする時、心臓が高鳴り言い知れぬ興奮を体感しました。  
地味な性格と生活が影響したのか、こんなことに悦びを覚えてしまったようです。  
 
そんな事が何度かあっての今日です。  
前述の通り私は後片付けを自ら引き受けました。  
主任やおばさん達はおせんべいでも頬張りながらおしゃべりをしていることでしょう。  
バックヤードから階段を降り、マネキンに会いに行きました。  
あっという間に清掃用具の片付けを終え、後は干すだけです。  
マネキンを撫で摩りました。あの日頭を過ぎった事を実行することにしました。  
作業着のボタンに手を掛けました。上から下に、手が震えました。  
そのままズボンも脱ぎました。Tシャツの裾からビキニラインが顔を出しています。  
Tシャツも脱ぎました。  
空調の届かないこの空間はとても暑く、ムッとした空気が直接肌に触れます。  
この時点ですでに息が上がってしまいました。  
下着を脱いだ時には開放感からか恍惚としてしまいました。  
 
私は脱ぎ捨てた衣類を女性に着せてあげました。  
女性が裸でいるのははしたないですから。  
下着は丁度良かったですが、上下作業着は寸足らずでした。  
見ようによっては七分袖にクロップドパンツといった、最新トレンドのようです。  
美しい西洋人女性が作業着を着ているのが可笑しかったです。  
 
女性にその場を譲ってもらい、男性の隣で同じポーズをしました。  
誰もいないのに、この行動から顔が火照ってしまいます。  
高鳴る鼓動で男性に抱き付きました。胸にキスをしました。  
乳首をちょんと押し付けると快感を得ました。  
胸から太ももにかけ体を擦り付けると、乳房が上向きにズズズと音を立てるようにこすれました。  
乳房と股間に手を持っていきました。汗ばむ肌と共に興奮が増してきます。  
床に腰を下ろし四つん這いの女豹の格好で、尻を持ち上げ股間を脚に擦り付け挑発しました。  
何度か上下すると、潤滑されて滑らかになりました。  
仰向けに体勢を変え、膝を立てました。潤ったあそこを見られています。  
両手を男性に向け誘い、心の中で「来て」と呟きました。  
脚を自分の頭の方へ、まんぐり返しと言うんでしょうか、そのままあそこを押し広げました。  
 
こうやって理想的な体躯を見ていると、思考があらぬ方へ激しさを増していきました。  
 
平坦な股間から性器が生えてきて、私のおまんこを見るとずんずんと大きくなっていきます。  
おちんちんはとても長く、そして太くなりました。  
脈打つおちんちんの先端は赤紫色になり、糸を引いて涎を垂らします。  
おちんちんが私に覆い被さり、腰を突いてきます。  
予想以上に硬いそれを初めて体が受け入れました。  
彼が絶頂を迎えても腰を引かないように、私の四肢は彼の背中をしっかりと押さえ込みます。  
そうして彼は私の膣内に愛と欲と遺伝子を含む液体を止む無く放出するのです。  
 
惚ける瞳に階段が映りました。  
階段は踊り場で折り返すため、二階バックヤードの状況はわかりません。  
確認するには少なくとも踊り場まで行かなくてはいけません。  
恐る恐る忍び足で踊り場に向かいました。  
そこからちょいと顔を出すと、通路の微かな明かりのおかげである程度そこを認識できます。  
バックヤードを挟んだ突き当たりにある売り場への扉が見えました。  
扉は典型的な銀色のスイングドアで、押しても引いても開くあれです。  
上部の小窓は色褪せ、売り場の様子は伺えないと思われます。  
 
私はどうしても売り場に顔を出したいという欲求に駆られました。  
ドアを開けるとそこには、西側のコンコースが向こうまで貫いています。  
通路には買い物客が溢れ、ポップなBGMが流れています。  
ある女性は服を手に取り、体にあてがっています。  
そばでは子供達が走り回り、お母さんが窘めています。  
きっと興奮や緊張、羞恥やらが綯交ぜになり、やがて性的絶頂に達してしまうと思ったのです。  
閉店と同時に監視カメラが停止する事は知っています。  
経験上この時間にフロアに従業員はまずいません。  
微妙ですが、限りなく100パーセントと言っていいです。  
ですから問題は、バックヤード向こうから人が来ないか、でした。  
バックヤードは幅2メートル弱の通路で片側は商品ストックで埋まっています。  
実質、人がやっとすれ違える程度です。  
消防法か何かに抵触するのでは、といらぬ心配をしてしまいます。  
バックヤードから数メートル行くと私達の詰所があり、  
遅い私を心配して主任が見に来るかもしれません。  
階段を昇りきった所で鉢合わせをしたらおしまいです。  
一糸纏わぬ姿を見られてしまいます。  
驚いた主任の視線が下がり、乳房を認め、下腹部の翳りに釘付けになるかも知れません。  
階下に逃げ戻るにも、尻を振りながらのそれです。  
そして蹲る私に近づき問い詰めます。その後…  
しかしそんな心配をしながらも私の指は股間を弄っています。  
 
さすがに胸と股間を隠しながらですが、いよいよバックヤードに向かいました。  
一歩一歩を確実に、そして聴覚に意識を集中しました。  
ドアの直ぐ向こうに小さなアミューズメントエリアがあるんです。  
とは言っても子供をあやす程度の場所で、靴を脱いで遊ぶ区切られたスペースと、  
ちょっとした遊具、簡単なコインゲームが数基。  
電源の落ちていないコインゲームの「じゃんけんぽん」の音が気になるんです。  
普段清掃中に聴こえるそれには全く意識しない分、やたら響く気がするんです。  
 
通路にゆっくり顔を出したのと瞬間的に引っ込めたのはほぼ同時でした。  
階下に飛んで戻りました。  
 
いたのです。  
 
あれは警備のおじさんでした。  
白髪だったので、温厚そうなあの人だと直ぐにわかりました。  
下に戻ったときには、既に懐中電灯の明かりが階段スペースを照らしていました。  
最悪のタイミングだったのです。丁度警備室から出てこちらへ向いた所に遭遇したようです。  
見られたかは正直わかりません。こちらへ戻る際も焦りましたが、足音など極力抑えました。  
祈りましたが、すぐに警備員は通用階段の確認にやってきたのです。  
微動だにできませんでした。警備員の口笛が場違いな感じと、言葉にならない緊張を誘います。  
誤算でした。一番気をつけなければいけない職業を蔑ろにしていました。  
そして留まった位置も最悪でした。  
一歩。たった一歩下がるだけで見つかることのない死角になるのです。しかし動けません。  
口に手を当て、空気が漏れないことが見つかるリスクを軽減させるのだと言い聞かせました。  
「じゃんけんぽん」の音が私を後悔させます。同じ音には聴こえません。寧ろ静寂にも思えます。  
先程仕事中に聴いた時にはまさかこんな事態になるとは露にも思いません。  
 
再三の祈りは叶わず、踊り場まで確認しに来た時にはもう覚悟しました。  
 
店で働く二十歳そこそこの女が仕事中に全裸で見つかる。  
事件性がない事は直ぐに証明されるが、それは己が変態である事を確固たるものにする。  
クビになるのは当たり前。親や学校には知られるか?  
「頭のおかしい」なんて冠の付いた噂が一人歩きし、地元に帰れなくなるかも。  
その前に、あの冴えない四十半ば独身の主任に、口止めとして脅迫じみた辱めを受けるか。  
私の貞操はそうして失われる。  
しかし非は私にあります。  
公になれば主任はその椅子を失うばかりか、業務撤退なんて事にもなりかねません。  
となると感情は怨みに変わり更なるものが待っているかもしれません。  
それよりもまず、この警備員に見つかりこの場で犯される。  
人のよさそうな初老の男性が変貌し、欲情を漲らせ、あそこを私に突きつける。  
被害妄想でしょうか、悪いほうへ悪いほうへ考えてしまいます。  
ですが、どうやらそこから逃れる余地はなさそうです。受け入れざるを得ないようです。  
そんな思考が眩暈と吐き気を増幅させました。  
 
一通り辺りを照らす明かり。口笛は鼻唄に変わりました。  
 
恐らく、踊り場から金と栗色の頭をした後姿、そして衣服を纏った三体を確認したのだと思う。  
手すりを警棒でカンカン鳴らし、明かりが遠のく。  
普段閉めない防火扉を引き、惰性で動き出した扉は、バタンと大きな音を立て、閉まりました。  
その音に腰が抜け失禁してしまいました。  
 
微かにじゃんけんぽんが聴こえました。  
 
永遠のような一瞬が過ぎると我に返り、女性から衣服を剥ぎ、奪い取った。  
身なりを整え、最悪の状況から排出されてしまった尿をモップで拭き取る。  
そこへおばさんが来て、まだ終わらないの?と嫌味を含む言葉を投げかけた。  
 
あまりにも稚拙で杜撰な思いつきに、自責の念にかられました。  
 
もう懲りました。  
 
けれど、  
 
またするかもしれないし、しないかもしれません。  
 
おわり  
 

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