私、志田秋穂。  
この就職氷河期まっただ中の就職活動生です。  
 
今日は会社説明会で、この会社の大きな工場に案内された。  
工場の中に入るということで、スーツのままでは汚れるので作業着を貸してもらうことになった。  
今日説明会に来た、私含め5人ほどの学生全員に作業着が貸与された。  
 
工場見学生で女は私だけだったので、私だけ更衣用の別室に案内された。  
「少々落ち着かないかもしれませんが、こちらでお着替えください。  
中のカーテンを閉めていただいて、少々時間がかかっても構いませんので、着替え終わったら出てきてください。  
志田さんが入られましたら、私が外側から鍵をかけますので」  
人事の方から説明をいただいた。  
 
上質のソファーが並ぶ会議室。  
私は着替えるために、スーツをするすると脱いでいく。  
自分の知らないところで、入社したい会社で、緊張している中で、私は服を脱いでいく。  
当然、誰にも見られていないから、裸になったって気兼ねはしない。  
私は、下着姿になった。あとは作業着を着るだけだ。  
 
ふと、悪戯心が脳裏を過った。  
もし、この下着も脱いじゃったらどうなるんだろう。  
 
別に誰かに見られたいわけではない。  
ただ、「会社の会議室で裸になる」というえも言われぬ背徳感を味わいたかった。  
まず、アンダーシャツ。  
次に、……ブラジャー。  
……パンツ一枚だ。私は会社説明会に来た会社の会議室で、パンツ一枚になってしまっているんだ!  
胸の鼓動を抑えながら、そろりそろり、会議室の中をうろうろする。  
見慣れない部屋を裸でうろうろする感触が、とても刺激的で官能的だった。  
ああ、そろそろ出なきゃ……でも、もうちょっとだけ……  
 
ガチャッ  
 
ドアを開けたのは、作業服を着た男の人。この会社の社員さんだ!  
さっきの人事の人が、鍵を閉め忘れたんだ!  
「ひっ……!」  
ちょっ、な、何入ってきてるんですか!で、でも裸でうろうろしていた私が悪いんだし、え、えーっと……  
胸を隠すのも忘れ、私は呆然と立ち尽くした。  
「……!た、た、大変申し訳ありません!」  
社員さんは丁寧に謝った。  
「いえ、とんでもないです!私が悪いんです!」  
社員さんがドアをあわてて閉めようとした。私はあわてて引き止めた。  
「あ、すみません、待ってください!」  
社員さんは脚を止めた。  
「人事の方に鍵をかけていただいたはずが、うまく鍵がかからなかったようなんです。鍵をかけていただけますでしょうか?」  
社員さんはドアを半開きにしたまま、身体だけが私に見えるようにしている。  
「あ、あの、……入ってきていただけますか?」  
「えっ!で、でもしかし……」  
「ドアが開きっぱなしの方が嫌なので……すみませんが、入ってきてください」  
私は裸のまま、社員さんを部屋にお通しした。  
 
もう今更隠したって仕方が無い。私はパンツ一枚のまま、社員さんに頭を下げた。  
「私、本日御社の見学に参りました志田と申します。お見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ありません」  
社員さんは目を泳がせている。  
「え、いや、あの、その、しかし……」  
「あ、どうぞお気遣い無く。会議室を更衣室として使用させていただいて、ご迷惑をおかけしております立場ですので」  
社員さんは、ゆっくりと私に視線を向けた。  
視線は、私の胸を中心に、身体全体をくまなく行き交った。  
 
私、どうしちゃったんだろう……次から次に、裸である自分を追いつめてる。  
まるで、自分の裸を見てほしいみたいだ……。  
 
「あ、えーっと、私は総務部の久野と申します」  
「久野様ですね。ご縁があって私が入社しましたなら、そのときはどうぞよろしくお願いします」  
私は、裸のまま深々とお辞儀した。  
垂れた膨らみと下を向いた先っぽに、久野さんの視線は集中した。  
 
久野さんの視線が、私の身体に強く刺さる。  
 
見られている……!  
こんなに恥ずかしいのに!こんなにはしたないのに!  
何故、ぎりぎりの理由をつけて、社員の久野さんを呼び止めて見てもらおうとしているんだろう。  
普通なら他愛ないハプニングで終わるところなのに、どうしてこんなことになっているんだろう……。  
 
「えーっと、私はまだ着替え中ですので、鍵をかけていただきたいのですが……」  
「は、はい。この部屋の合鍵が後ろの机にありますので……ただ、外鍵なので、私が出て行くときに施錠させていただきます。」  
久野さんが会議室の後ろに移動する。私はパンツ一枚のまま気をつけの姿勢で立っている。  
久野さんが鍵を手に取った。  
「お引き止めしてすみませんでした。ありがとうございました!」  
私は、見られ納めの最後の挨拶をした。  
「い、いえいえ……頑張ってくださいね!」  
久野さんの最後の視線は、私を見る遠慮がなくなっていたように思えた。  
 
 
さあ、これから工場見学だーー。  
 
 
終わり  
 

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