医者に行った帰りにまた医者に寄る羽目になるなんて、ついてない日もあるもんだ。  
しかも、見ず知らずの男の人に裸を見られることになるなんてーー。  
 
 
 
正午を回った頃に私は歯医者から家に帰ろうとしていた。  
お腹が空いていたので、早く家に帰りたいなーなどと考えながら、ぼーっとしながらのろのろと自転車をこいでいたら、  
 
……やってしまった。信号のない交差点で、私は車にはねられた。  
 
私が車とぶつかったのは信号もないような小さな道だったので、車のスピードはあまり出ていなかったのが幸いだった。  
原因は、両方の不注意。私も横からの侵入車を全く見ていなかった。  
私は自転車ごと横から突き飛ばされ、身体が自転車から投げ出され、左の鎖骨から地面に落下した。  
 
「すみません!大丈夫ですか!?」  
中から、スーツの中年の男性が出てきた。サラリーマンだった。  
「え、あ、あっ、ご、ごめんなさい。私、よく見てなくて」  
自分にも落ち度があるので、私はつい謝ってしまう。  
「身体は大丈夫ですか!?痛くないですか!?」  
「え、あっ、……」  
言われてみると、地面に打ち付けられた鎖骨がじわじわと痛む気がする。  
「救急車、呼びますね!」  
「あ、え、でもこの辺田舎なんで、救急車呼んでも30分以上かかっちゃいますよ」  
「なら、この近くに病院はありますか?そちらまでお連れします!」  
「えーっと、じゃあ、すぐ近くに◯◯外科ってありますから、多分そこでいいと思います」  
「そうですね、ひとまず応急処置の意味でも、外科がいいでしょうね。わかりました」  
 
私は、スーツの男性の車に乗り込んだ。衝撃でひしゃげた自転車も後部座席に乗せてもらった。  
彼は車を運転させながら、私を轢いたので病院に連れて行くということを会社に連絡していた。  
 
車の中で、この男性から一通りのことを教えてもらった。  
男性が飯田さんという名前であること、営業の仕事で隣の県からやってきたということ、警察に事故届けを出した後は示談の方向で話を進めたいこと、などを話してもらった。  
私は、ずっと相槌を打っているだけだった。地面に打ち付けた鎖骨がずきずきと痛み始めた。  
飯田さんは、私を心配しているからか、ずっと喋りかけてきた。  
「ほんとにすみませんでした。……あなたの名前も教えてもらえますか?」  
「あ、私は伊吹香苗です……」  
「伊吹香苗ちゃんかあ。香苗ちゃんは、学生ですか?」  
「えっ、はい、高校生です。南高です」  
「ここの南高って確か賢い高校ですよね。香苗ちゃんは勉強できるんですね……あ、着きました」  
 
外科に到着した。診察時間外を示すプレートがドアに掛かっていた。  
しかし鍵は掛かっていなかったので、私は飯田さんに連れられて中に入った。  
受付には、一人の医者がいた。  
「すみません、さっき車にはねられたので、診察してもらいたいんですけど……」  
私が状況を説明した。  
「……おお、それは大変だ。診察時間外だけど、とりあえず中にどうぞ。お連れの方もご一緒に」  
 
打ち付けた鎖骨は、どんどん痛みを増してきた。耐えることはできるが、急に動かすと激痛が走る。  
「ひとまずレントゲン撮ろうか。それでもし重傷なら、街の大きな病院に紹介状を出すからね」  
「はい」  
そう言うと、お医者さんは私を奥のレントゲン室に案内してくれた。  
 
「えーと、上半身はそのTシャツの下に何か着てるのかな?」  
私のその日の服装はTシャツとジーンズで、Tシャツの下にむ一枚アンダーシャツを着ていたりはしなかった。  
そう言えば、レントゲン撮影と言えば服を脱ぐんだ。  
うわあ、恥ずかしいなあ////ブラ外すだけで済めばいいなあ……。  
「検査室の中で、上は全部脱いで、はだかんぼになってくれるかな?」  
「えっ?でも、シャツの上からでもレントゲンできるんじゃ……?」  
「Tシャツのプリントが写っちゃうんだよ、だから早く脱いでね」  
「は、はい……」  
渋々ながら、私はTシャツの裾に手をかけた。  
 
……痛い!  
左腕は全然動かせないくらいに痛みが激しくなってきた。  
まずは右手だけを裾にかけて、脱ごうと捲り上げてみる。やっぱり片手だけで服を脱ぐのは難しく、胸から上には全然進まない。どう頑張っても、首から抜けない。  
右手を首筋にかけて脱ごうとしても、引っ張った服が左の鎖骨や腋周辺を刺激して、痛くてとても脱げない。  
片手で服を脱ごうとする間抜けな状態の私を、検査室の外からお医者さんは眺めているんだろうか……。脱ぐことよりもなんかそっちの方が恥ずかしい気がする……。  
脱げかけのTシャツの裾からおへそだけが出た状態でもぞもぞしていると、お医者さんが中に入ってきた。  
 
「どうしました?」  
「あっ、す、すみません……鎖骨が痛くて脱げないんです……」  
「じゃあ脱ぐの手伝ってもらった方が良さそうだね。今は診察時間外でナースがいないから、ちょっとあなたのお父さんを呼んでくるよ」  
そう言うと、お医者さんは診察室の方に歩いて行った。   
え?お父さんって誰?  
そう思っていると、診察室で待ってくれていた飯田さんが案内されてきた。  
 
「今は診療時間外で他に誰もいないから、検査室の外だけど、お父さんが脱がせてあげてもらえませんか?」  
検査室の中は狭く、二人が入るスペースはない。外の待合室のようなところで、お医者さんは飯田さんに私の服を脱がせるように言った。お医者さんは、飯田さんを私のお父さんだと勘違いしているようだ。  
……って、えええっ!?お医者さんの前で裸になるだけでも恥ずかしいのに、私を轢いた飯田さんに服脱がされるの!?  
お医者さんはそう言うと、検査室の奥に引っ込んで行った。  
 
ええっ、ちょ、ちょっと……脱がされるなんて、やだよ……  
しかも、上半身裸でしょ?うわあ……  
「香苗ちゃん……ごめんなさい。失礼します」  
そう言って、飯田さんは私のTシャツの裾に両脇から手をかけ、捲り上げていった。  
うああ、痴漢ー、脱がすなぁ……  
やぁ、お腹見られた……////うわあブラ見られたあ……指が胸に当たったあ……!!  
私の着ていたTシャツが、慎重に首から抜き取られた。  
上半身下着だけ姿を、私を轢いた人に晒してしまった。服を脱ぐと、強く打ち付けた肩周辺が赤くなっているのがわかった。  
でも、これで終わりじゃないんだ……ブラもとらなきゃ……  
一応片手でブラを外そうと試してみたけれど、だんだん右腕を動かすだけで左鎖骨に痛みが響くようになって、両腕とも思うように動かせなくなっていた。  
……ブラも、飯田さんに脱がせてもらうしかない。  
でも、男の人におっぱい丸出しにされるなんて、すごく心細いよ……  
飯田さんは躊躇っている。さすがにブラの上からレントゲンを撮れないことは知っているみたいだ。  
飯田さんも、いくらなんでも、恋人でも親子でもない私を裸にするのはやっぱり抵抗があるみたいだ。  
……このままじゃ、診察を受けられない。鎖骨はどんどん痛みだしてきた。  
私の方から、飯田さんにお願いした。  
「飯田さん、これも、脱がせてください……」  
 
飯田さんが私のブラのホックに手をかけた。ブラのホックはあっさりと外れた。  
飯田さんは私に気を遣うかのように、恭しく慎重にブラを奪い取った。  
私の胸は、丸出しにされた。  
飯田さんの視線が、申し訳なさそうに私の胸に注がれた。視線が温度を持っているかのようで、視線を浴びた箇所が熱く感じられた。  
は、恥ずかしい……見ないでください……。  
 
私たちがもたもたしていたからか、お医者さんが出てきた。  
お医者さんは私の腫れた肩を見て、驚いたように言った。  
「あらあら、こんなに腫れてたのか……こりゃ骨だけでも全身見といた方がいいねえ」  
「は、はあ……」  
「脚もレントゲン撮るよ。だからジーパンは脱いでもらった方がいいね」  
「え……」  
「お父さん、ジーパンも脱がしてあげて」  
いやああ……トップレスにされてるだけで恥ずかしいのに、パンツ一枚まで脱がされるの!?  
診察なのにいちいち恥ずかしがってたから、罰が当たったのかな……  
しかし、お医者さんにそう言われても、私に気を遣っているからか、飯田さんは自分からは手を動かそうとはしない。  
「香苗ちゃん……」  
こうなったらもう、吹っ切れるしかない……!  
「飯田さん、お願いします!」  
私は、飯田さんの正面に身体を向けて立ち上がった。恥ずかしさを無理矢理乗り越えようとして、ほんの少し自棄気味になっていた。  
私の裸の身体を、自分から飯田さんに見せつけている様な感覚が、自ら苦痛に臨もうとするマゾみたいな感覚をもたらした。  
 
あれ?何だろうこの感覚……  
私、恥ずかしくて仕方がないはずなのに……男の人に脱がされるなんて、屈辱的で、嫌で仕方がないのに……  
この恥ずかしさのせいで、ドキドキしている……  
何で?……嫌なのに、この嫌な気持ちが、心地良い……  
ひょっとして、私、マゾなの?  
でも、このマゾヒスティックな感覚を快感だと言ってしまっていいのなら……  
うん。飯田さんにおっぱい丸出しの裸の上半身を見せつけている今が、飯田さんにジーンズを脱がされようとしているこの今が、ちょっと気持ちいい。  
……ってあれ、何考えてんだろ私。  
 
飯田さんは私の前にひざまずいた。ジーンズのベルトに飯田さんの手がかけられた。どさくさにまぎれて、指でおへそを触られた気がする。くすぐったかった。  
そして、ジーンズの前ホックが外され、ファスナーが下ろされた。……パンツ、見られた!  
私のジーンズは、するすると足下に向かって下げられていった。もうパンツは丸見えだ!私の脚が、どんどん露出させられていく……!  
脱がされたジーンズは私の足首に到達した。私は足を上げて、ジーンズを引き抜いてもらった。  
……ああああ、パンツ一枚の素っ裸だ。ちょっと肌寒いよぉ……。  
飯田さんの正面に立っている私は、ちょっと気取ったように、両手を腰の後ろに組んで胸を張ってみた。  
まるで飯田さんに裸の身体を見てほしいかのように……。うん、見てほしいんだ……。  
だって、もうこんなに見られちゃったんだから。男の人に裸を見せてあげる機会なんて、滅多にないんだから!  
ああ、胸元が妙に心細くて寒い。……乳首、立ってる。  
なんでこんなに、落ち着かないんだろう。私は車にはねられて、重傷かもしれないというのにーー。  
 
パンツ一丁で、レントゲン撮影が行われた。  
まずは胸部、次に腹部、最後に脚をレントゲン撮影された。  
お医者さんにぺたぺた身体を触られ、指示通りに身体の向きを変え、次々と撮影されていく。  
まるでグラビアアイドルになったみたい……って、何自意識過剰なこと考えてんの私は!  
 
「じゃあ、写真を現像してくるから、診察室で待っててね」  
「は、はい……。あの、服は……?」  
「んー、引き続き診察するから、いちいち服着ると痛いだろうし、そのままでいてくれるかな。お父さんも、娘さんの服を持って診察室に来てくださいね」  
うわあ、まだまだ裸でいなきゃいけないなんて……///私は飯田さんと並んで、パンツ一枚のままてくてく歩き出した。  
腕を曲げられないから、胸を隠すこともできない。私は胸が小さい方だけど、私の歩調に合わせて小さな胸が、ふるふると揺れる……。  
心細さを覚えながら、私は病院の廊下を歩いていた。  
スーツをびしっと着た男の人の横を、素っ裸で歩かされている私……  
しかも、飯田さんは両手に私の服を抱えている。その服からは、私のブラも覗いている……///  
なんだろこれ。拷問か何かかな……。  
でも、この感覚……普通は裸では歩かない場所を裸で歩いているというこの解放感が、とってもぞくぞくする……。  
 
診察室に着いた。私は丸椅子に腰掛け、飯田さんは私の服を籠に入れて、私の後ろに立っていた。  
写真の現像に時間がかかるのか、私たち二人は少し長い間診察室で待たされた。  
お互い、無言。妙にきまずい。  
なし崩し的に飯田さんに裸を見せてしまったという事実が、善くも悪くも、ただただ恥ずかしかった。  
私は今、飯田さんに裸の背中を向けている。  
 
……どうしよう、このまま振り向いて、サービスしちゃおうかな?  
サービスなんて言っちゃうとお高く止まった自信過剰みたいだけど、でも、少なくとも、私の裸、見苦しくはないと思うんだ。胸は小さいけど……。  
だって、せっかく飯田さんには散々見られちゃってるんだし、ほら……!  
 
私は丸椅子を回転させ、後ろに立っている飯田さんに身体を向けた。  
あ、飯田さん目を逸らした。どうしてよぉ……見たくないのかな?  
今の私は、すごく、見てほしいのに、……どうして目を逸らすんだよぉ……。  
ええい、飯田さんに喋りかけちゃえ。  
「……あの、ここまで付き添ってもらってありがとうございます」  
視線が私の身体を向いた、そして、胸を一瞬見た。  
あはは、飯田さんやっぱり私の身体見たいんだ……ばればれですよ、その視線の動きは。  
「い、いえ。事故に合わせてしまって本当にすみません」  
飯田さんが、目を逸らしながら頭を下げて謝罪する。……むぅ、違う方向向いて謝るなんて失礼ですよ。  
 
どうしよう、もっと飯田さんの視線を引きつけていたい……何て言えばいいかな……?  
「あの……私の鎖骨の辺、やっぱ腫れてますか?」  
ほら……私の身体を、ちゃんと見て……!  
飯田さんの喉仏が動いた。生唾を飲んだんだ。視線がわざわざ胸を経由してから、左の鎖骨に向けられた。  
飯田さんの目が真剣になった。わあーやばいよ、飯田さんを興奮させちゃったよ……!  
「ああ、痛々しい……香苗ちゃん、本当に申し訳ありません」  
「いや、事故なんですから、そんなに謝らなくていいですよ。ちゃんと付き添ってくださってるんですから」  
でも、私に遠慮して、すぐ目を逸らす。それが悔しい。  
 
「あの……そんなに気を遣ってくれなくても、いいですよ……」  
「えっ……」  
「だからあの……、私にそんな、目を逸らそうとしなくても、いいですよ……」  
「うっ、い、いや……」  
「気にされる方が、逆に恥ずかしいですから……(嘘だけど……)」  
飯田さんの視線は、しっかりと私の身体を捉えた。  
飯田さんの視線が、熱い!……気がする。  
見られた……見られてる!  
視線が、遠慮なく私の全身を這い回っている。  
は、恥ずかしい……でも、気持ちいい……!もっと、もっと……!!  
私の欲求はエスカレートしてきた。でも、これ以上何が欲しいんだろう?  
……感想だ。私の身体をどう思うのか、本当に私の身体で興奮してくれているのか、私の思い過ごしじゃないか、飯田さんの言葉を聞いて確認したかった。  
そして、「私の裸を見ないとわからないこと」を飯田さんに喋ってもらって、私が飯田さんに裸を見てもらったことの証拠にしたかった。  
私は言葉を探した。あくまで変態だと思われないように、自意識過剰だと思われないように……!  
 
「あの……飯田さん、娘とかいます?」  
「あ、うん、いますよ。ちょうど香苗ちゃんくらいの娘が」  
「じゃあ、私がこんなかっこでも、あんまり恥ずかしくないんじゃないですか?私なんか、娘みたいなものですよね?」  
「いやーでも、うちの娘は愛想ないしブタだし、可愛くないから」  
「(さらっと酷いこと言うなあこの人……)えーそれだったら私だってブタになっちゃうじゃないですかー」  
大嘘。私は胸がないからその分、このくびれだけは頑張って維持してきた。豚なわけがない。私は細さには自信がある。  
自信があるくせにカマトトぶってしまうこの女心を許してほしい。  
「どこが……凄く細いじゃないですか」  
ああ、その言葉が欲しかったの……もっと私をおだてて……もっと褒めて……。  
 
「お待たせ〜」  
私が悦に浸っていると、レントゲン写真の現像を終えた先生が診察室に入ってきた。  
「えーっと、結論から言うと、鎖骨にひびが入ってます。ほらこのとおり」  
二人の服を着た男の人に囲まれて、裸のまま説明を聞く。  
「で、そのせいで、見てのとおり肩の辺りが腫れちゃってるんだよね。痛むでしょ?」  
「はい、かなり……」  
「異常が骨だけだったら大丈夫なんだけど、周辺の神経に断裂とかないか気になるね」  
「は、はあ……」  
「今からちょっと触らせてもらうよ。少し恥ずかしいかもしれないけど我慢してね」  
えっ!?  
言うが早いか、先生の手が私の鎖骨に伸びてきた。  
鎖骨に手を置かれるだけで、もの凄く怖い。少しでも押されたら本当に痛いのだ。  
「どれくらいの範囲で痛むかが知りたいから、痛かったら言ってね。ここは?」  
鎖骨からだいぶ離れた左肩。しかし、そこでも十分痛い。  
「い、痛いです……」  
「ここは?」  
先生の手は、両肩全体や首筋、耳の下のリンパ腺を順次触っていった。そして、  
「……ひゃっ!」  
左胸を触られた。鎖骨の真下辺りを、ぷにっと、指先を私のあまりない胸に埋め込んだ……。  
「ここ痛いよね〜。どんな風に痛い?骨が痛むとか、打ち身みたいに痛いのか」  
「んー、打ち身、みたいな痛みだと思います……」  
お医者さんの手が、ぷるぷると私の胸を揺する。乳がん検査されてるみたいだ……(されたことないけど)。  
 
ああ、随分長い間裸でいる気がする……。  
どうして恥ずかしいのに、気持ちいいんだろう……。  
あ、ちょっと乳首、立ちそうかも……。先生、私の胸、じーっと見てるよね……。(もちろん診察だからだけど)  
 
「はい、ちょっと我慢してね〜」  
言うが早いか、お医者さんは右手の親指と人差し指を私の胸に近づけ、……さっき「立ちそうかも」などと考えていた乳首を触った。  
「えっ、いやっ……!」  
こりこり、くにゅくにゅ、……。  
私の乳首が2本の指でつままれ、こすられ、人差し指で押し付けられる……。その間も、乳首をじーっと見られている……!  
う、うあああ……/////  
これ、何の診察なの……!?  
……立ってしまった。私は興奮して、すっかり乳首を立たせてしまった。  
「うん、神経系の異常とかはなさそうだね。簡易的だけど、不随意神経の異常の有無で脊椎損傷がないか確認させてもらったよ」  
お医者さんは私の乳首を触診した理由として、そんなことを言った。  
……あんまりよくわからなかったけど、その「不随意」な反射を起こさせる場所が、よりによって、ち、……乳首じゃなくたっていいじゃないか……//////  
そりゃ、あんなに触られたら、立っちゃうに決まってるよ。しかも、「立つ」のを見るために触ったって言うんだから……うああ、屈辱的だ……//////  
 
「えー、症状は鎖骨の不全骨折、ひび割れです。定期的に通院してもらった方がいいけど、基本的に安静にしていれば治ります。あまり大したことはありません」  
とりあえず、一安心。後ろで飯田さんも安心していると思う。  
「痛み止めの飲み薬と腫れを抑える塗り薬を出しておくので、処方箋通りに使ってくださいね。あと、1週間は学校とか行かず、自宅で安静にしてね。お大事に」  
これで診察は終わった。先生は、診察室から出て行った。  
 
あとは、飯田さんに服を着せてもらえば、私の診察は終わる。「服を着せてください」と言えば、私の診察は終わるーー。  
打ち切っちゃう権利があるのは、私だ。  
せっかく裸なのに……滅多に裸になんかなれないのに……もう、終わっちゃう……。  
私は立ち上がり、飯田さんに身体を向け、……そのまま喋りかけた。  
「……このあとは、どうしたらいいんでしょうか?」  
「香苗ちゃんを家まで届けます。その後は警察に事故届けを出しに行って、あとは車の保険の会社に連絡します。できれば示談で済ませてもらえればと思います」  
「あ、はい、示談で大丈夫ですよ、多分……」  
「……」  
「……」  
沈黙。どちらかが動き出さない限り、私は自分で服を着られないし、病院から出られない。  
「服を着せてください」と言えばいいのに、なかなか言い出せない。  
……飯田さんが、遠慮なしに私の身体を眺めてくれているからだ。飯田さんの目は真剣だ……////  
この状態を、打ち切りたくない。  
でも、いつまでもこうしてはいられない。  
だから、名残惜しいけど、パンツ一枚の裸のまま、飯田さんに最後の質問ーー。  
 
「……私の身体、どうでしょうか?」  
「えっ!?」  
「私の裸、どうでしょうか?」  
「い、いやその……」  
「人前で裸になることって滅多にないですし、見られることなんてありませんから、せっかくだから訊きたいんです」  
「そ、そうですか……」  
「私の裸を、もっとよく見てもらえますか?(……言っちゃった!何て大胆なこと言っちゃったんだろ私!)」  
「あ、ああ、……」  
「もし、不快でしたら構いません。不快じゃなければ、……私の裸を、見てください!」  
 
返事はない。飯田さんが視線を私の身体中に霰のように浴びせた。  
視線が、質量を持つ物体のように、チクチクと身体を刺激している気がする!  
目線が、足下から、太ももに移り、パンツ越しの股間を眺め、腰を一周這い回った。  
その目線はお腹に移り、……目線がおへそをくすぐり、乳房を撫で回し、乳首をこするように刺激した。  
そして目線は肩の上によじ登り、首筋を伝い、……私の顔にたどり着いた。  
私と飯田さんは、しっかり見つめ合った。  
 
「……とっても、綺麗ですよ」  
 
飯田さんに服を着せてもらい、家まで届けてもらった。  
私は布団に横になった。あとのことはお父さんかお母さんに任せちゃおう。  
よくよく考えたら、とっても恥ずかしい、とってもはしたないことをしてしまった……////  
大丈夫、これは私と飯田さんだけの秘密。飯田さんだって、こんなこと絶対言わないだろう。ましてや、伊吹香苗という私の名前付きで誰かに言ったりはしないはず……。  
えーい、ごちゃごちゃ考えない!  
とにかく鎖骨がめちゃくちゃ痛いから、安静にしないといけないし、薬を使わなきゃいけない。  
私は食事もとらずに、本来食後指定の痛み止めの飲み薬を飲み込んだ。  
そして、もう一つの塗り薬を手に取った。  
そのとき、ふと気付いてしまった。  
 
 
……塗り薬って、誰かに塗ってもらわないといけないよね?  
 
 
終わり  
 

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