『ひまわり会館 メイド・綾音』  
 
メイドというお仕事は、お勤めするお宅によってずいぶん違うものです。  
中には、共働きのご家庭へ通いで家事のお手伝いをするだけのものもありますし、たった一人のメイドが家の中の何もかもをこなさなければならないこともあります。  
けれど、ここへ集まるメイドで一番多いのは、数人から十数人のメイドが住み込む、政界の大物や経済で名をなすお家、伝統芸能のお家元などのお屋敷でのお勤めでしょう。  
 
申し遅れました。  
私は、全日本メイド協会の相談役、中務薫と申します。  
相談役といっても三十路のはじめ、最近ではアラサーとか申しますとか。  
2年ほど前までは、江戸時代から続く大きな呉服商の会社社長のお屋敷で、その前は明治維新のころからの政治家のお屋敷でメイドをしておりました。  
ひょんなことから、日本中のメイドが登録される全日本メイド協会の本部がある、この「ひまわり会館」で相談役を勤めることになりました。  
主な仕事内容は、若いメイドたちの教育と親睦、そして息抜きのためにあるひまわり会館で、休日を過ごすために集まってくるメイドたちの相手をすることです。  
相談も受けますし、ただ話を聞くだけのこともあり、最新のメイド情報を入手することもあります。  
なにかと忙しいメイドからは、メールや電話での相談に乗ったり、口外できない秘密のあれやこれやを聞くのでございます。  
 
今日も、ひまわり会館へは束の間お勤めから開放されたメイドたちが集うのです。  
 
お屋敷では決して見せることのないだろうくつろいだ姿でソファに寝転がっているのは、沙希さんです。  
外出時も制服が義務付けられているお屋敷は少なくないので、沙希さんもメイドの制服で、ティールームにあるテレビでアニメのDVDを見ながら、スナック菓子などをつまんでいます。  
メイドとしてのしつけは、各お屋敷でそれぞれになさいますので、せっかくの休日、私はこれくらいのことで小言は言いません。  
まだハタチにもならない女の子なら、茶室でお抹茶と干菓子をいただくより、コーラとスナックやチョコレートのほうを喜ぶでしょう。  
私が通りかかると、一応は姿勢を正して挨拶をします。  
「こんにちは、薫先生」  
沙希さんはメイド一年目。つまり、このひまわり会館へ出入りするようになってからまだ半年ほどです。  
「先生だなんて、もっと気楽でいいのですよ、ここでは。でも、なにか困ったことがあったらいつでも相談してね」  
はい、と頷いた沙希さんは、まだほっぺたに小さなニキビができるほど若いのです。  
スナック菓子で、そのニキビが大きくならなければいいのですけど。  
「こんにちは」  
「こんにちは」  
正面玄関で声がします。  
お屋敷での教育がすっかり身についているのでしょう、華道の家元のお屋敷に勤める愛さんと、大きな会社社長のお屋敷で働く綾音さんです。  
「そこで綾音さんとバッタリお会いしました。お屋敷でいただいたお菓子がございますの。薫さんもいかがですか」  
三人の中では年長の愛さんがテキパキと言って、紙袋から美味しそうな焼き菓子の箱を出します。  
いただきたいのは山々ですが、あいにく私には仕事があります。  
それに、私がいては若い子はくつろげないでしょう。  
遠慮をして、ティールームの隣にある事務室に入り、ドアを閉めます。  
ここにいると、大きな窓ガラスからティールームの様子を見ることができます。  
私は、愛さんを手伝って綾音さんと沙希さんがお茶の仕度をするのを見ながら、そっと机の引き出しを開け、そこにあるスピーカーのスイッチを入れました。  
「愛さんのお屋敷は気前が良くてうらやましい。ウチなんか、余った夕食のパセリのひとかけだってメイドには下げないわ」  
すぐに、沙希さんの高い声が聞こえてきました。  
事務室では、ティールームでの会話を隠しマイクで聞くことができるのです。  
若い子の話を盗み聞きするなんて、最初はいやだったのですが、メイドのような仕事は時々ご主人さまの深い事情を知ってしまうものですし、知れば話したくなるものです。  
うっかり広めてはいけない話を漏らしたり、間違った考え方でお勤めに不満を持ったりしないよう、そういう傾向のあるメイドにはそれと気づかれないように道を正すことが、私の仕事だと考えることにしました。  
 
「今日は、三人だけみたいね」  
とろけそうな顔で焼き菓子を頬張って、綾音さんが言います。  
「先週来た時に、くるみさんに会ったんですけど、選挙が近いからお屋敷がバタバタしてると言っていましたよ」  
そう言うのは、愛さん。愛さんは他の子のように、ここに来たときだけ言葉遣いがくだけるようなことがありません。  
「あら、くるみさんのところはご主人さまが選挙に出るの?」  
「やだ、沙希さんたら。選挙で忙しいのは政治家だけじゃないのよ。うちの旦那さまも、お金がかかるから大変ですって」  
綾音さん、そういうことを言いふらしてはいけません。  
もっとも、メイドの耳に入るような話ならたいしたことではないのでしょうが。  
「綾音さんのところと、くるみさんのところ、接点があるんですか?」  
メイド歴半年の沙希さんには、お屋敷の中のことだけで精一杯なのでしょう。  
お屋敷とお屋敷の間の、業種を越えた複雑な交流関係を全部頭に入れておくのは、相当ベテランのメイドでも難しいものです。  
「ないわけじゃないわよ。この間、くるみさんのところのお坊ちゃまがうちに来たし」  
メイドたちは、お互いがどこのお屋敷にお勤めしているかを知っていますが、たしなみとしてお名前や会社名を出しません。  
話題になっているメイドの名前で、「だれそれさんがお勤めしているお屋敷」「だれそれさんの旦那さま」などと濁すのが習慣です。  
「くるみさんとこの、って、あの噂のプリンス?」  
さすがの愛さんも、思わず紅茶カップを持つ手が止まりました。  
メイドたちの話によれば、くるみさんのご主人さまは大きな会社を経営なさっているのですが、息子さんが二人いらっしゃって、ご次男の方が、それはもう、いわゆる「イケメン」なのだそうです。  
すらっと背がお高くて、色白なのが知的で高貴な雰囲気で、彫りの深いお顔立ちにスポーツ万能、ご学業でもいくつも論文を書かれたとか、まあこれはみんなひまわり会館に来るメイドたちの話ですけど。  
「で、どうだったんですか、プリンスは」  
「あ、うん、そうね、でも、あたくしは別のところにいたからちょっと」  
「え、そんな。せっかくプリンスを拝見できるチャンスなのに、私だったらモップ抱えてでも駆けつけるわ」  
沙希さんの教育係の嘆きが見えるようです。  
「綾音さん、プリンス……、くるみさんのお屋敷のお坊ちゃまがいらしたのは、夜ではありませんの?」  
なんでしょう、愛さんの言い方に含みがあります。  
おや、綾音さんが少しうつむいてしまいました。  
「それは、そうなんだけど」  
「え、なに、なんですか。私にもわかるように教えてください、お姉さまがた」  
現場を離れて2年がたつ私は、そこでようやくピンときました。カンが鈍ったものです。  
もっとも、メイド歴半年の沙希さんには、なんのことだかさっぱりわからないようです。  
それにしても、しばらく前まではそんな素振りの全くなかった綾音さんが、まあ。  
私は鍵のかかる扉の中にある名簿を取り出しました。  
IDを確認して、パソコンに打ち込むと登録されているメイドのパーソナルデータが出てきます。  
これは、メイド本人の自己申告で製作したものを基に、それぞれのお屋敷のメイドを管理する部門の方が随時最新の情報を更新するものです。  
綾音さんの情報が、先月更新されていました。  
氏名、年齢、そして。  
お屋敷のご長男の、専属に配されていることがわかりました。  
専属メイドとして一ヶ月。それはプリンスどころではないでしょう。  
「どうなんですの、いらしたプリンスも眼中になくなるほどの……」  
愛さんのからかうような言い方に、綾音さんの頬が桜色に染まります。  
「やだ、愛さんたら、もう」  
なんのことかわからない、というように沙希さんが文句を言います。  
「えー、ずるいですよ、ふたりだけで」  
「沙希さん」  
たしなめるように、愛さんが沙希さんの膝に手を置きます。  
「綾音さんは、お屋敷でお坊ちゃまのお世話を担当なさってるんですよ」  
ちょっと考えて、沙希さんはまじまじと綾音さんを見ました。  
「え、やっぱり、そ、そういうこと、あるんですか……」  
旦那さまがもうお年寄りだったり、お坊ちゃまがお小さかったりすることもありますから、全部のお屋敷でそういうことがある、とは申しません。  
それに、お相手するのが一人のメイドだけとは限らず、それはもう若いメイドを片っ端からというお屋敷もあります。  
もちろんメイドたちがご主人さまの寵愛を奪い合うようなはしたない事は、表立っては控えますけれど。  
 
年長、といっても愛さんは二十歳をひとつふたつ越えたかどうかのお年頃ですけれど、やはり経験がものを言うメイド稼業。  
綾音さんが言わないことまで察しをつけたらしく、意味深な微笑を浮かべます。  
愛さんのパーソナルデータも、あとで確認しておきましょう。  
ところで、綾音さんのお屋敷では、男のお子さまにきちんと『そういう』メイドを決めてしまう習慣のようですね。  
「そうですかー、私もお勤めしてて、なんか先輩の様子が変だなーとか思うことあったんですけど、いつもうまくかわされてて、そうですかー」  
愛さんが、そっと沙希さんをたしなめました。  
「沙希さんたら、物事をはっきり言うのははしたないこともございますのよ。ほんのり、ほのめかすのが礼儀なのです」  
こういう、不文律のようなしきたりを先輩から後輩へ上手に伝えることができるのも、ひまわり会館の役割なのです。  
「それで、どうなんです。綾音さんの、旦那さまは」  
思わず、私はがっくりと肩を落としてしまいました。  
愛さん、ちっともほのめかしていません。  
「どうって」  
「ここでそんな隠し事はなしにしましょう。ちょうど沙希さんもいらして、ちょうどいいお勉強になります。教えてさしあげたら」  
きっと、本当は話したくて仕方なかったのでしょう。綾音さんはちょっと身を乗り出しました。  
「あの、あたくしが、旦那さまの担当を拝命したのは金曜日だったの」  
まあ、それは計算されつくした日程です。  
思わず、私も事務室の中で両手を握り締めました。  
「旦那さまは、大旦那さまの会社にお勤めだから、帰りは少し遅くて、9時ころだったかしら。ご挨拶に行ったわ」  
沙希さんが息を飲みます。  
「旦那さま、といってもお坊ちゃまのことよ。わかるでしょ?」  
綾音さんが、沙希さんに確認するように言いました。  
お屋敷ではお坊ちゃまと呼ばれる立場の方でも、綾音さんにとってはご自分だけの旦那さまなのです。  
「もちろん、旦那さまは今までにも何人も担当のメイドがいらしたから、別にあたくしのことも、ああ今度のメイドはキミなんだねくらいしかおっしゃっていただけないと思ってたのよ」  
おやおや、担当メイドをとっかえひっかえですか。  
「なのに、こう、片手でネクタイを引き抜いて、それがまた格好良くて、それで」  
綾音さん、もう顔が真っ赤です。  
「緊張しないでもっとこっちへおいで、って。それから…あたくしの顔に手を当てて、よろしくねの代わりにキスしてもいい?っておっしゃったの」  
きゃっ、と沙希さんが両手で顔を覆ってしまいました。  
愛さんも驚いた様子です。  
「まあ、ステキな旦那さま……。もちろん、それだけじゃなかったのでしょう?」  
愛さん、愛さん、落ち着いて。  
私はICレコーダーのスイッチを入れ、綾音さんのお話を書き取るためにペンを取りました。  
 
――――  
 
旦那さまは、それはそれはやさしくキスをしてくださったの。  
あたくし、もうぼうっとしてしまって。  
旦那さまがあたくしの耳元で、それはもう息がかかるほど近くでよ、綾音って呼んでもいいね?って。  
そうでしょう、愛さん。あたくしもそう思ったの。  
だって旦那さまですもの、メイドをなんて呼ぼうとご自由ですもの、それをわざわざ聞いてくださったの。  
お優しい方なんだってすぐにわかったわ。  
え、それから?  
いやね沙希さん、そんなに先を急かすなんて。  
まあ、メイドになって日が浅いからいろんなことを知りたいのはわかるけど。  
あのね、旦那さまはね、ああ恥ずかしい。  
いえ、話します話します。  
見せて、っておっしゃったの。  
つまり、あたくしをよ。  
ほら、メイドの制服ってお屋敷によっていろいろだけど、うちの制服って実はセパレートなの。  
エプロンを外すと、ブラウスとスカートに別れているのよ、珍しいかしら。  
ブラウスとスカートを脱いで立ったら、旦那さまはソファにおかけになってあたくしをご覧になったわ。  
長い脚を組んで、腕も組んで、にっこりなさったの。  
それで、それでね。綾音、それじゃ見えないよって。  
あたくしもう、体中が真っ赤になってしまうんじゃないかと思うくらい熱くて恥ずかしかった。  
どきどきした……。  
 
――――  
 
これはまた、ずいぶんなお子さまを寄こしたもんだ。  
貴士はもじもじと下着姿で立っているメイドを値踏みする。  
白とピンクの下着をつけたまま、何度が手を背中に回そうとしたり、ためらったり。  
もったいぶるんじゃないよ、たいした身体でもないくせに。  
それでも貴士は訓練された上品な笑顔を顔に貼り付けたまま、メイドを眺める。  
若い女が恥ずかしさに身もだえしながら衣服を取っていくのは、なかなかにそそる風景だ。  
今まで何人ものメイドにそうさせてきたが、この瞬間が楽しい。  
2回目からは、この楽しみは半減する。  
目の前にいるメイドは、貴士が黙って見ているのでようやく決心したように両手を背中に回して下着をはずした。  
さて、どんなのが出てくるかな。  
女性の下着は補正効果が高いせいで、中身を見るまでわからないことが多い。  
そこそこの大きさがあっていい形だと思っていても、中身が出てくると小さくてしなびてハリがない、ということだってある。  
今回のメイドがそっと足元に安っぽいブラジャーを置いた。  
思い切ったように、両手を下げる。  
ショーツに手を掛けようとすると、胸があらわになった。  
ほう。  
貴士の眉が上がる。  
半球状の、ぷりっとした乳房。  
乳房、乳輪、乳首の形、色、大きさ。  
まずまずかな。  
あとは、さわり心地だが、これは後回しだ。  
緊張と恥ずかしさで身の置き所もないようなメイドが最後の一枚を脱ぎ落とすのを待って、貴士はとっておきの笑顔を浮かべる。  
もっとも、このサービスはうつむいているメイドには効果がなさそうだった。  
「さあ、見せてくれるね?」  
貴士の言葉に、メイドはおずおずと両手を横に下ろす。  
「回って」  
ぎこちなく片足を下げ、重心を移して背中を向ける。  
その動きをもう一度くりかえして、貴士に向き直る。  
「素敵だ、綾音」  
まちがっても、まあまあだなとは言わない。  
味見でもするか。  
 
貴士はメイドを招き寄せ、小刻みに震えている全裸の少女に触れた。  
この肌つやは、十代ならではだな。  
片手をウエストに回して、片手で小さなあごをつまむ。  
メイド長には処女をよこせといってあるが、この震えと強張りではキスも未経験だっただろう。  
未開の地を侵略するのは楽しいが、我慢を知らない金持ち息子は、あまりに開拓が困難だと嫌になる。  
緊張しすぎて少しも開かず、泣き喚かれたり、暴れたりされては興冷めする。  
まったく抵抗なしに服を脱いだところ従順さを見ると、このメイドはほどほどに楽しめそうだ。  
自分の欲求を満たしつつ、メイドに勘違いさせて自分に執着させる。  
貴士のお気に入りの遊びのひとつだった。  
うまくやれば、メイドは自分に入れあげるし、飽きて捨てても恨むことはない。  
そのプロセスも、大切なゲームだと思っていた。  
「ああ、とてもきれいだね。この身体は、誰のもの?」  
え、そんな。  
予想通りの答えが返ってくる。  
「まだ誰のものでもないんだね。じゃあ、僕のものにしてかまわないね」  
あごをつまんでいた指先で頬を下から上にすっと撫で上げる。  
難なく、メイドは頷いた。  
「キスをしよう。さあ、綾音からしておくれ」  
動きの悪い機械仕掛けのように、メイドの顔が貴士に近づく。  
「……あっ」  
唇を噛まれたメイドが、びくっとして身体を離した。  
「も、もうしわけございません、とんだ粗相を」  
貴士はメイドの小ぶりな尻肉をつかみあげた。  
「あんまりおいしそうだったから、食べてみたくなったんだ。痛かったかい」  
「い、いえ、少しも」  
貴士は尻や太ももを乱暴につかみ、揉む。  
見た目より弾力がある。いい身体かもしれない。  
メイドが不安と痛みで目に涙をためた。  
このくらいにしておこう。  
最初からやりすぎると、面倒なことになる。  
貴士はもう一度メイドの唇を、今度は柔らかく吸った。  
血の味は甘露だった。  
尻を掴んでいた手を、触れるか触れないかで背中を撫でまわす。  
メイドはいつまでも止まらないかのように震えている。  
抱き上げてベッドへ連れて行くのが順当だろうが、むらむらと沸き起こった衝動にしたがって、貴士はメイドを床に倒した。  
仰向けで驚いたように目を見張るメイドに馬乗りになる。  
「綾音、きれいでかわいい、僕だけの綾音」  
ささやくと、メイドの頬が紅潮する。  
「このまっさらで清らかな身体に、僕の印を刻みたい。いいかな」  
こくんと頷いたメイドのうなじに手を添えて、貴士は開かせた唇に舌を入れた。  
素直だ。  
このまま両手を頭の上で縛り、両足首をテーブルの脚に縛り付けてムチで嬲りたい。  
以前、やはり若い無垢なメイドでそれをやって泣かれ、メイド長にちくりとイヤミを言われたことを思い出して、貴士はぐっと思いとどまる。  
メイド長のイヤミなぞどうということもないが、メイド本人が表立って騒いでは家名に傷がつく。  
それに。  
貴士はメイドの白くて華奢な腕に唇を滑らせながら、淫猥な目で生贄の子羊をねめつける。  
縛るのは、着衣のままのほうが楽しい。  
中身を確かめるためにとりあえず脱がせたが、裸には裸の楽しみ方がある。  
二の腕の内側の柔らかい肉に、歯を立てる。  
強く噛んで離すと、白磁の肌に赤い歯形と鬱血の跡が刻まれる。  
その間に形のいい乳房を柔らかく揉みたてる。  
甘美な愛撫と時折加えられる鈍い痛みに、メイドは身をよじった。  
閉じた目のまつ毛が震え、薄く開いた唇がわなないて吐息を漏らす。  
筋のいいメイドだ。  
 
さほど面倒にも思わず、貴士はメイドの耳元で甘い言葉をささやいてやる。  
出会ったばかりなのに、もう綾音に夢中だ。  
綾音の全部がとてもいとおしい。  
どうか、今ここで綾音のすべてを僕におくれ。  
なめらかな肌を貴士の手がすべり、全身を愛撫されてメイドは身をよじった。  
指先で乳首をはじきながら、頬を赤らめたメイドを見下ろして貴士はベルトを外した。  
その音に、メイドは涙に潤んだ目を開いて貴士を見上げる。  
いい顔だ。  
じゅうぶんに愛撫を加え、局所が柔らかくなるのを待つつもりだったが、気が変わった。  
自ら苦痛に耐える意志のある処女を力づくで犯すチャンスは、一人の処女に一度しかない。  
前を開けて男性器を露出する。  
初めて目にしただろう勃起した陰茎に、メイドが本能的に身体を強張らせた。  
「愛してる、綾音」  
簡単な呪文で、メイドは力を抜く。  
「旦那さま……」  
硬く閉じた膝を割らせ、指一本で下からなぞるようにすると、初めてのそこが開く。  
誰も触れたことのない、一度も開いたことのない性器。  
貴士は今すぐ押し開いて陵辱したい欲望をかろうじて押さえ込み、乳房を揉みしだき、唇を重ねた。  
その間も、しなやかに動く指が一枚ずつ花弁を開いて奥地へ進んだ。  
親指で皮を被った快楽の芽をそっと押さえながら、中指で膣口を探る。  
指先すら入らないそこを犯し、経験したことのない痛みに悲鳴を上げまいとこらえる女の顔を見たい。  
貴士は両手でぐっとその場所を開き、大きさに自信のある分身を押し付ける。  
「……あっ」  
メイドが両手で自分の口をふさいだ。  
一筋こぼれた涙を指でぬぐってやり、甘い言葉をささやきながら、貴士はメイドの腰を抱え上げて逃げ道をふさいだ。  
「僕を愛してくれる?」  
白々しく陳腐なセリフが、世間知らずでウブな処女には真心のこもった愛の告白に聞こえる。  
苦痛と引き換えに、誰もが憧れる相手からのただひとつの愛を与えられると信じるのだ。  
こじ開けるように指を入れ、強く目を閉じて唇を噛むメイドの顔を見ながら、無理に開かせたその場所を犯した。  
裂けるのではないかと思うほど狭く小さなその膣に、じゅうぶんに勃起した男が押し込まれる。  
道が作られ、血が流れる。  
メイドは必死で声を抑えて、しかし涙は抑えきれずに流れる。  
全身で悲鳴を上げるメイドを力で我がものにすることに、貴士はこの上ない快感を感じ、興奮する性質だった。  
処女を犯す楽しみは限られている。  
最初ほどの苦痛を感じなくなったメイドには、別の苦痛を与えなくてはならない。  
何の準備もなく挿入したり、人工物をつっこんだりするのはもちろん、乳首やクリトリスをクリップで挟むことや、革のムチでしみひとつない滑らかでつややかな肌を打ち据えることもある。  
電動で振動する道具を使って、身体で快楽を覚えこませる。  
打ち据えられたり拘束されたりの苦痛と、性の悦びを交互に与えることで、自分好みに仕立て上げる。  
この娘も、遠からずすすんで脚を開き、貴士の陰茎にしゃぶりつき、縛られて吊られながらムチ打たれ、全身に赤い傷跡を刻まれて悦びの喘ぎ声を立てるようになるだろう。  
そして、そうなると貴士は飽きるのだ。  
楽しいのは仕込みの段階であって、出来上がってしまえば興味がない。  
新しい、無垢な処女が欲しくなる。  
このメイドは、何人目だろう。  
メイドの喉の奥で、声にならない声が引いている。  
ほとんど潤いのない膣内を、先走りだけを潤滑液にして激しく擦り上げる快楽に没頭して、貴士は恍惚とした。  
 
――――  
 
愛してる、って何度もおっしゃってくださったの。  
あの、沙希さんはおわかりにならないかもしれないけれど、その時って、それはちょっとは辛いのよ。  
だって、経験したことがないでしょう。  
大人の女性にしていただくんですもの、仕方がないの。  
それに、そんなことちっとも気にならないくらい嬉しいって気持ちが強いのよ。  
一晩中優しくされて、週末の間中おそばにいて、嬉しくて幸せで、ぼうっとしてしまったわ。  
愛さんなら、わかってくださるでしょう?  
あたくし、旦那さまにそんなふうにしていただいて、心の底から幸せ。  
旦那さまはね、あたくし以外どのメイドもご自分にお近づけにならないのよ。  
あたくしだけ。  
旦那さまのお世話を全部させてくださるの。  
朝も、夜も。  
旦那さまが本当にあたくしのことを愛してくださっているのがわかるわ。  
それはそれは、大切にしてくださるの。  
ずっとおそばを離さないで、いろいろな方法でしてくださるのよ。  
いつもいつも新しいことがあって、あたくしは知らなかったことを教えていただくの。  
あんなことが、とてもいいなんて思いもしなくて。  
同じお屋敷の他のメイドたちには、とても言えないのよ、だってみんなうらやましがるでしょう。  
え、どんなこと?  
いやだ、沙希さんたら、はしたないわよ。  
そうね、いずれは沙希さんも旦那さまに見初められることがあるでしょうし。  
大丈夫よ、沙希さんとてもかわいらしいもの、放ってなんかおかれないわ。  
ここでお会いするお姉さま方にいろいろなことを教わって、きっと旦那さまに愛されるメイドになれるわよ。  
あたくしみたいにね……。  
 
――――  
 
はにかみながら、綾音さんが頬にかかる髪を細い指先で撫で付けると、袖口から華奢な手首がのぞきました。  
遠目にも、なにやら薄赤い筋のような跡がいくつも残っているのがわかります。  
夢見心地で話を聞いている沙希さんはともかく、愛さんはそれに気づいたようでした。  
メイドとして経験を積んでいる上、もともと賢く思慮深い愛さんは、綾音さんの話の内容にも不信感を抱いているのでしょう。  
そっと私の方をうかがうような仕草をします。  
その後しばらく綾音さんによる、『旦那さまがいかに優秀で見目麗しくて素敵』かという話が続き、沙希さんがうっとりと聞きほれていました。  
沙希さんが、自分もいつか、噂のプリンスのようなお坊ちゃまのいるお屋敷にお勤めしたらと考えているのか、今いるお屋敷の旦那さまやお坊ちゃまなどを思い浮かべていらっしゃるのかはわかりません。  
メイドたちの束の間の自由は、あっという間です。  
残ったお菓子を沙希さんと綾音さんに分け、最後まで残ってお茶の後片付けをきちんと済ませて、愛さんが事務室に挨拶に見えました。  
「薫さん、私もお屋敷に戻ります。ありがとうございました」  
気のせいか、やってきたときより少し浮かない顔をしているように見えます。  
おそらく、綾音さんのことを心配しているのでしょう。  
私はわざと明るく返事をし、またいらっしゃいと送り出しました。  
 
一人になって、私は思わずため息をつきました。  
私には綾音さんのお話の端々から、お坊ちゃまの本音を覗き見ることができたように思います。  
綾音さんは気づいていないようですが、どうやら少し変わった趣味をお持ちのようだ、ということも。  
登録されているメイドのデータを検索してみると、綾音さんの旦那さまにお付きして解任されたことのあるメイドは片手に余るようです。  
とりたてて苦情のようなものが上がってこないことを見ると、お坊ちゃまはメイドの身も心も、それはそれは上手にしつけなさる方なのでしょうか。  
ですが、表に出ないからといって見過ごしていいこととよくないことがございます。  
このまま綾音さんがお坊ちゃまのお世話係を続け、こんなしつけが続くようなら、メイド協会のほうから正式に綾音さんのお屋敷へ苦情を申し立て、メイドの勤務状況について監査を入れなければなりません。  
取り返しのつかない傷が、メイドの心と身体に残ることがないように。  
もちろん、事務室でメイドたちのおしゃべりを聞いていて、いつもこんな話にぶつかるわけではありません。  
ほとんどの場合、女の子たちが楽しくおしゃべりをして、ほんの少し愚痴をこぼして、明日への活力を得て帰っていくのです。  
私は、それを見守っています。  
メイドたちが気持ちよく働けるよう、決して不幸な思いをすることがないよう、メイドたちを守るのがひまわり会館の、そして私の仕事なのですから。  
明日は、どちらのお屋敷にお勤めするメイドから、どんな話を聞きますことか。  
 
 
――今日も、ひまわり会館にはお休みをいただいたメイドたちが、わずかな時間を楽しむために訪れます。  
ほんの少しの間、メイドからひとりの女の子に戻るのです。  
私は、女の子たちの笑顔を見守り、送り出します。  
「ひまわり」の花言葉は、「愛慕」。  
そして、「私の目はあなただけを見つめる」……。  
 
またいらっしゃい。  
心をこめて、おつとめなさいませ――――。  
 
 
 
――――了――――  
 

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