――6――  
 
 ぐんにゃりとした赤っぽい物体がテーブルに突っ伏している。  
 使い込まれて滑らかになった木の天板には、緋色の髪が四方八方に広がって、まるで血の池のようになっている。  
 既に陽はとっぷりと暮れている。窓も戸も全て閉められ、天井付近には魔術で作られた白い光源を仕込んだランプが下がり、壁には獣脂を用いたランプが掛けられている。時折、油の吸いが悪くなるのか、ランプの火が不意に揺れる。  
 揺らめく明かりに合わせて、散らばったルヴァの髪も色合いを変化させる。  
「うー」  
「そんなに唸ったって今更しかたねぇだろう、やっちまったんだから」  
「ぬー」  
 ルヴァの対面。椅子に浅く腰掛けて、背もたれに体重を預けたエルクがぼやく。  
 テーブルの真ん中、ルヴァとエルクの二人の間には、麻で出来た質素な巾着袋が一個。  
 ルヴァ同様に力なくテーブルの上で平べったくなっている。本当に空っぽかと勘違いしてしまうほど薄いが、空ではない。  
 袋の中には、金貨が一枚。  
 普通に暮らしていればなかなか拝めない貨幣だが、これでも本来の報酬には遠く及ばない。今回の規模の襲撃ならば、この四か五倍は期待しても罰は当たらないだろう。  
 ルヴァが契約を結んだ当時のカーメラの行政と財政に関わる人間に、馬鹿はいなかった。ルヴァが結んだ契約の報酬は固定制ではなくて歩合制、しかもその時々の状況と事後交渉によって金額が変動するようになっている。  
 契約を結んだ当の相手は隠居しているか墓の下かで、今の交渉相手はダンもアッシュになる。どちらも適度に善人で、適度に腹黒い。  
 町を救ってくれたルヴァに対して感謝も敬意も払うが、かと言ってそれで諸手を挙げて全てを承諾してくれるようなお人好しには程遠い。  
 ドラゴンが神などと同列視されて無条件で崇敬されていた時代ならともかく、カーメラの住人にとって彼女はただの――若干、風変わりではあるが――隣人なのだ。契約は見えない鎖となって、たとえ竜と言えども縛りつける。  
 それはそれ、これはこれ。  
 と言う訳で、しっかりと賃金交渉が行われ、がっちりと値切られて今に至る。家に帰ってくるのがこんなに遅くなったのは、熱を帯びたままのルヴァの体が冷めるまで時間がかかり、なかなか交渉に入れなかったと言うのもあるが。  
 彼女は、二つの意味でやり過ぎたのだ。  
 一つ目は、赤竜としての力、つまり炎熱を使い過ぎた事。  
 町に住む者は殊のほか火災を嫌う。それも当然だろう。こんな田舎では魔術による消火は期待できず、火災に対処するには防火帯を築くのが最も効果的となる。密集した街中では、それは取りも直さず家屋を破壊する事を意味する。  
 つまらない火の不始末から焼け野原となった町や村だってある。ブリークランド王国の王都でさえも、大火に見舞われて市街の三割が灰と消えた過去を持つ。したがってこの時代、どんな理由があろうとも放火は死罪である。  
 彼女の放った高熱散弾は幸いにして流れ弾で火事を引きこすような事にはならなかった。だが下手をすれば、ルヴァ自身がカーメラを地図上から消し去っていたかもしれないと言うリスクに対しての制裁とも言えた。  
 二つ目は単純。  
 よりにもよって町中の、それも中央広場を血の海にしてしまった後始末の代金だ。  
 どっちにせよ、ルヴァが余計な色目を出して、戦場を町中に設定してしまった事に起因する。さすがにそこまでバレてはいないようだったが、若干の後ろめたさがある故に値切ってきたダンに対して強く抗弁できなかったのも事実である。  
 生えたままのルヴァの尾が椅子の足を叩き、ペタリ、ペタリと気の抜けた音を漂わせる。  
 
 はふぅ、と溜め息一つ吐いてからルヴァが口を開いた。  
「ワシの本性は知っておるよな?」  
「そりゃ、まぁな。結構長い事、お前と一緒にいるし」  
 エルクが肩をすくめる。  
「人であるぬしが、こうした時と…」  
 テーブルの下に消えていた腕が上がってきて、頭の上で合わさり、へこませた手のひらを合わせて杯を形作る。  
 いまだに額がテーブルにくっついたままなので、どことなく一神教徒が教会で司祭に額づいて杯に聖水を賜る仕草に似ていなくもない。もっともルヴァは一神教の唱える教義なんぞ、これっぽっちも信じちゃいないが。  
「本来の姿のワシがこうした時、どちらがより大きな器ができると思う?」  
「そんなの、答えるまでもないぜ」  
 今は人に交じって生活しやすいように人間の少女をベースにした姿に変身してはいるが、本来のルヴァは見上げるほどの巨体をしたドラゴンである。  
 エルクの答えに、ルヴァが突っ伏したままでもぞもぞ動く。角が下を向いたから、首肯したのだろう。  
「まぁ、その通りじゃな。人よりもドラゴンの方が体は大きい」  
 解けた杯は再び机の下に戻っていく。  
「ワシらドラゴンは、人やその他の種族にはない力を持っておる。似たような能力を持つ者らもおるが、概ねそやつらよりも強い。  
 と同時に、ワシらドラゴンは体や力に比例するかのように欲望や本能もまた強いのじゃ。  
 人とドラゴン、それぞれが両の手で掴めるだけの物で満足すると仮定した上で量を比べてみれば…ま、答えるまでもないのぅ」  
 ドラゴンが満足するに足る量は半端ではなくなる。掌で出来た杯がそれぞれの欲求の強さ、という事らしい。  
「ルヴァは随分と自制してる方だと思うぜ?他のドラゴンを見た事ないから、確かかどうかは知らんが」  
「おぬしに偉そうに言うてはおるが、血の疼きに負けるとはワシもまだまだ未熟、と言う事よ……」  
 世の中に邪竜悪竜の類が尽きない理由が、ここにある。年若いドラゴン達はその欲求を抑えられず、無軌道に暴走するからだ。人と魔が相争っていた混沌とした時代ならいざ知らず、それは今では許されざる行為である。  
 ルヴァがようやく顔を上げ、天板に顎を乗せた行儀の悪い恰好になる。  
 ふぅ、と溜め息を吐く。  
「ついでにワシらの一族は、殊の外、血の気が多いからのぅ…」  
 それはお前を見ていればよく分かる。とエルクが目だけで語っている。  
 普段ならばすぐさま反撃が飛んできそうなものだが、今回ばかりはばつが悪いのか、すねた視線がエルクを一瞥したのみ。  
 プイと顔を逸らして、テーブルと仲良しに戻る。  
「……まぁ、こうまで惨めな思いをしておるのは、単に我を忘れてしもうたからだけではないがの」  
 まるで自分に言い聞かせるような小さな呟き。  
 
「ん、何か言ったか?」  
 返事はない。  
 しばし、ふわりと静かな空気が流れる。  
「とりあえず、だ。稼ぎが少なかったから今回はこいつも売るぞ」  
 ちゃらり、ちゃらり、と手の中で玩んでいる物をエルクが目線で示した。  
 手品師がそうするように、指の間と間を行ったり来たりしているのは白く尖った数センチほどの円錐状の物体だ。ドラゴンの牙である。戦いの最中に伸びたルヴァの牙は抜け落ちて、既に普通の可愛らしい八重歯に戻っている。  
 本来のドラゴン形態から抜け落ちた牙ではないので僅かでしかないが、それでも魔力を帯びている。この手の物は魔術師や錬金術師達が様々な術や合成の素材に使うので、需要は無くならない。  
 金貨四枚とは、ルヴァとエルクが二ヶ月は働かずに食っていけるだけの額である。  
 が、それが四分の一では先が見えている。少しでも足しにしておきたいのが現状だ。  
「のぉ、エルク。その、なんじゃ、ワシとしてはあまり売りたくはないのじゃが…」  
 もともと魔素との親和性が高い種族は、身の内に魔力を貯めやすい。貯まった魔力は体の一部に宿り、そのまま新陳代謝で自然と剥がれるなり、誰かにむしり取られるなりすると、魔力を帯びたアイテムと化す。  
 高位の竜族ともなれば小水が万病に効く、とも言われる。同じ体積の黄金に等しい価値があると言われ、まさしく黄金水である。もっともルヴァは霊格が低いので、そこまでの魔力はない。あったとしても仮にもルヴァは女の子、絶対に許さなかっただろうが。  
 しかし問題はそこではない。羞恥もあるが、彼女が渋る理由はもっと別の所にある。  
「自分が羊や豚のように切り売りされとるみたいで、ちょっとのう…」  
 彼女にしては珍しく歯切れが悪い。  
 自らの能力が評価されて金品で購われるのは、分かる。むしろそれは正常な事だ。しかし鍛えた技や力など関係なく、ただそこに在るだけでよく、努力の対価としてではなく金になるとなれば、努力と鍛練を是とするルヴァとしては少なからずプライドが疼く。  
「だぁめだ、さすがに今回は売るぞ。自分の食費を考えろってーの」  
「ぐぅ…それを言われると弱いの」  
 とは言え、美味い肉をたらふく食うのは捨てがたいし、上等な酒を潰れるまで飲むのは止められない。  
 当然、それには金が要る。  
 善行を重ねて現世での業のツケを支払い、霊格を上げていけば、やがては天地を還流する魔素の流れから直にエネルギーを摂る事も可能な身と成る。  
 だが、それはルヴァでさえ、どれほどの生の果てに成るのかさっぱり分からない。その段階へ至るのはルヴァの夢の一つだけれども、夢で心は膨れるが、腹はちっとも膨れない。  
 心意気を保ちたくもあるが、胃と舌の喜びの前には決意も萎えがち。  
 天秤の如く、心がゆらりゆらりと揺れ動く。  
 結果、己の未熟な有り様をこれでもかと突き付けられ、一層と憂鬱さが増してしまう。  
 ゆらぁりと上体を起こして、ルヴァは椅子から下りた。  
 その様は、ドラゴンというよりは幽鬼のようだ。  
「どうした?」  
「ちぃと一風呂浴びてくるわ……」  
 
 
――7――  
 
 ルヴァとエルクの家にある風呂の豪華さは、ちょっとしたものだ。  
 別に最高級陶器のバスタブが金銀宝石で飾られている訳ではない。むしろそれとは正反対の質素な湯船だ。ただし、湯船だけでも数メートル四方の広さがあるが。  
 水と燃料を大量消費する風呂を個人の家に設けるのはかなりの贅沢にあたるので、これだけの広さの風呂を個人で持っているのはそうそういない。  
 カーメラの町は言うに及ばず、ここら一帯の領主であるコルモネン子爵の屋敷でもこれほどの規模では備わっていないだろう。  
 普通は公衆浴場があればそちらを使い、なければ川で水浴びか、ポット一杯の湯で体を拭き清めるくらいである。  
 その贅沢品がどうしてあるのかと言えば、ひとえにルヴァのお陰である。  
 風呂をあらかた作ったのも彼女ならば、沸かすのも彼女だからだ。  
 湯船は地面を掘り下げてから適当に拾ってきた岩で囲って組まれた野趣溢れる作りで、岩の隙間をセメントで目止めして水を貯められるようになっている。  
 水源は近くの川で、揚水用の小型水車を回して水を汲み、そこから風呂まで続く樋を伝って湯船に流し入れると言う凝った造りになっている。使い終わった湯は排水用の水路を伝い、川の下流で合流するようになっている。  
 屋根と言えるほどの立派な覆いはなく、四方に建つ柱が大雑把に井桁に組まれた細い梁を支え、その上に麦わらで編まれたゴザが被せられている。おかげで湯に浸かりながら月や、瞬く星明かりが眺められる。  
 母屋に寄り添うように作られているので三方が開けており、視界は広く、月を眺める頭を下げてやれば黒々とした夜闇に沈んだ丘の連なりが見える。  
 静かな夜風が草原を吹き抜けてゆく度に、丘一面に茂った穂先が風に合わせて揺れて、大きな丘のうねりの上を月光を照り返す細波がざざざ…と走り抜けていく。  
 まるで夜の海に船で漕ぎ出したかのような風情。  
 カーメラにも公衆浴場が数軒あるが、ルヴァの風呂は景色がよいので、しばしば見知った顔が連れ立って入りに来る。  
 湯を沸かす熱源はルヴァの魔術か、ドラゴンとしての力による。今は人差し指と親指で作った輪っかくらいの直径をしたガラス球が給水樋に紐でぶら下げられて、ちょろちょろと流れる水の中でひっきりなしに泡と湯気を吹き上げている。  
 面倒くさいとドラゴンブレスを直に吹き込むのだが、爆発的に湯気が出て間欠泉のようになるので、町の子供達が来た時にやるとなかなかウケる。  
 ルヴァは胸元辺りまで湯に浸かりながら、ふう、と大きく溜め息を吐いた。  
 その拍子に、湯船一面から立ち上る湯気がランプの灯りに照らされて、妖しく揺らめく。  
 組み合わせた手のひらにクッと力を篭ると、お湯がぴゅっと飛んで、たぱたぱっと波紋を重ね描く。  
 と、ガタゴトと音を立ててルヴァの背後で引き戸が開いた。  
「おーい、なんか呼んだか?」  
 開いた戸の向こう側から声だけが来る。  
 さすがに二人暮しとは言え、エルクも女身一人が入る風呂場に迂闊に顔を突っ込む気はないらしい。それが純粋に慎み深さによるものかは疑問であったが。  
 ただ幼女が戯れているだけにも見えるが、今もピュ、ピュと湯を飛ばしているルヴァの水鉄砲は、ひとたび勁力が篭ると並みの大人の拳よりも威力が出る。  
「うむ、呼んだぞ。肩を揉め」  
 何か言う前に畳み掛ける。  
「ワシは昼の戦いで疲れておる。弟子なら弟子らしく、師の体を気遣ってはどうじゃ?  
 それとじゃ、風呂に服着て入ってくるアホがおるか。ちゃんと脱いでこんかい」  
 ちらりとも見ていないが、気配を察知して行動を読むくらい、ルヴァにとってはお手の物。  
 洗い場にそのまま踏む込もうとしたエルクの足を叱責が止めて、回れ右させた。  
 
「そんじゃ、あらためて失礼するぜ」  
「うむ」  
 湯船の縁、荒く削った岩に腰掛けてルヴァがエルクを待っていた。  
 膝から下はまだ湯につけて、水面の向こう側で揺らめく自分のつま先でも見ているのか、わずかに下を向いている。  
 しっとりと水気を含んだ緋色の髪からは、ポタリポタリと雨だれのように滴が落ちてはレンガとモルタル敷きの床を濡らし、あるいはルヴァ自身を濡らす。  
 流れ落ちる水滴を追いかけて濡れ髪から目を下にやれば、良く鍛えられていて贅肉とは無縁のしなやかな肢体。しかし鍛えられてはいるが、そこに固く筋張ったような印象は微塵もない。  
 まだ幼さを感じさせる直線のようでいて直線など全くない絶妙な曲線の中に、肩甲骨と背骨のコツコツとした出っ張りが混ざる。  
 水滴は華奢なうなじから背筋を滑り降り、尻の谷間へと吸い込まれる前に、尾てい骨の辺りから生えたしなやかな太い尻尾に阻まれて散り散りに消えていく。前に回すと岩に当たって嫌なのだろう、尻尾は洗い場へとまっすぐ伸ばしている。  
 いつもは健康的に白い肌は、今は上気してほんのりと朱に染まっている。  
 ごくり、と思わずエルクの喉が鳴った。  
 ルヴァと交わった回数は両手足の指を全て使っても数え切れない。それどころか、自分の指が何人分あれば足りるのかも覚えていないくらいに彼女とは身体を重ねている。  
 ルヴァの身体は何度となく見ているし、隅から隅まで、それこそ奥深くまで知っている。目をつぶってでも、彼女の体のどこに何があるのか正確に辿れるだろう。  
 それでもなお。この先、たとえ一生見ても、見飽きる事なんてない。  
「どうした?はようせい」  
 どうやら思わず見惚れてしまっていたらしい。  
 催促の言葉に我に返り、慌ててルヴァに近寄った。彼女から伸びている尾を踏まないように、立て膝を突いて跨ぐ格好になる。  
 目の前にある緋色の髪から、ヴァンパイアでなくても顔を埋めて舌を這わせたくなるような形の良い首筋が覗き、柔らかい曲線を描いて両肩へと続いている。  
 この小さな体のどこにあんな怪力が、と首を捻りたくなるような細い肩。  
 エルクもあまり大柄ではないが、それでも片手で包めてしまいそうなほどだ。  
「優しく…しておくれ?」  
 笑みを含んだ言葉からルヴァがふざけているのは分かるが、シチュエーションがシチュエーションだけにその台詞だけで頭に血が上りそうになる。  
「お、おう…」  
 上擦りそうになる声を無理やり押し殺し、どうにかバレないようにしながら、エルクは肩を揉み始めた。  
 風呂で温まった体はほどよく熱を持っている。  
 撫で肩を半ば以上まで掌中に収め、ムニムニと手だけを動かす感じで、本格的に揉む前にまずは解していく。  
 緋色の向こうから満足げな鼻息が漏れるの聞きつつ、しばしムニムニ。  
 程よく解れたと見たエルクは、親指の腹で肩甲骨と背骨の合間を下から上へとを指圧していく。  
 
 豊満な柔らかさとは無縁だが、しなやかで張りのある肌は、指先に心地よい弾力を伝える。  
「ふ……ぁ、気持ちよい、のぉ」  
 ルヴァに意図的なものが有るか無いかはさておき、触覚に加えて聴覚も参戦して煩悩をこれでもかと刺激する。腰にまわしたタオル一枚が下から突き上げられて、ともすれば脱げてしまいそうなので、意識を出来るだけ指だけに集中して無心になろうとする。  
 しかし枯れていない男ならば誰もが分かるだろう。そんな事は無駄な抵抗でしかない。  
 ルヴァの肩は解れていくが、エルクの方はどんどん凝り固まっていく。  
 腕の良い武術家は、按摩の腕も良い。それは、如何に効率よく人体を破壊するか、という命題は肉体の構造について深く知る事でもあるからだ。  
 どこをどうすればより簡単により深刻な破壊を引き起こせるか、と言うのを知るのは逆も成り立つ。どうすれば壊れた関節を上手く直せるか、どうやれば筋肉の凝りを元に戻せるかを知る事でもある。エルクもしばしばカーメラの住人に骨接ぎを頼まれる事があった。  
 そんな極上の手に背を預けていると、ルヴァはまるで肩や腕が溶けていくような心地になる。  
 水面にぷかりと漂ってうたた寝しているような、性的な意味とはまた違う気持ちよさ。  
 しばらくその快感の水面を味わっていたが、やがてルヴァはそこから自らを引き剥がした。  
「もうよいぞ」  
「そうかい?そんじゃ、俺はそろそろ…」  
 引っ込ませてもらうぜ、と最後まで言わせずにルヴァが遮った。  
「待たぬか。誰か終わりじゃと言ったか。後ろはもうよいと言うたのよ」  
 固まっているエルクの手に、そっと小さなルヴァの手が重ねられる。  
「次は、前、じゃ」  
 ルヴァはそのまま手を自分の方に引き戻した。  
 二本の小さな手が一本の大きな腕を抱きしめ、それが絶対に失いたくない大切なものであるかのように、胸のうちに掻き抱くようにして引き寄せる。  
「どうした?続きをしてはくれぬのか?」  
 いいのか、とはエルクは聞かない。  
 彼はそこまで無粋ではない。同時に、ここで下半身を引っ込められるほど聖人でもない。  
 それに口も上手いとは思っていない。女ったらしならば、ここで耳触りの良い歯の浮くようなセリフでも出るところだが、彼は言葉よりも行動で示す。  
 重ねられたルヴァの手をそっと解いて、水気を含んで普段より滑らかさの増している柔肌へと這わしていく。  
 いきなり薄桃色の突起に触れたりはしない。  
 彼女に「揉め」と言われた通り、ゆっくりと時間を掛けて二つの丘の裾野から揉んでいく。もっとも、揉むという行為が出来るほどの肉付きはルヴァにはなかったけれど。  
 ふに、と柔らかい少女の体に指が沈む。が、すぐに締まった肉に行き当たる。  
 まるで降ったばかりの雪を冠した初冬の山肌のよう。白く美しいが、まだまだ雪は薄い。  
 性の未分化な幼い肉体が羽化を始め、うっすらと女の柔肉を纏い始めた頃しか味わえない絶妙な感触。  
 硬いのに、柔らかいという矛盾。  
 それは嫌な矛盾ではない。むしろ、この相反する筈の触感が同居しているのは心地よい。  
 
 肋骨の浮き出た脇腹から、まるで胸に足りない分を余所から持ってこようとでも言いたげに、乳房の下までを撫でる。  
 つぅっ、と下から上へエルクの指が痩せぎすの体を這いあがる度、  
「あ…は、んっ……ふ、ぁ…っはぁ……んん…」  
 ぞくりした甘い痺れがルヴァの背をも這いあがって来る。  
 下から上に撫でる掌がそのまま乳房を下から掌で包み込み、ゆっくりと揉まれると、腰に力が入らなくなってくる。  
 いつの間にか、ルヴァは後ろにいるエルクに身体を預けていた。  
 後頭部と背中に伝わってくる、しっかりと締まった筋肉の感触と鼓動。包み込まれるような安心感が心の垣根を取り払い、エルクが与えてくれる感覚と彼自身の感触に心を委ねていく。  
 湯とは別の火照りを帯びた吐息が、胸の奥から漏れていく。  
 激しさとは縁遠い、ぬるま湯のような快感。肩を揉まれていた時と似た、しかし異なる種類の快感。もどかしいぐらいの刺激だが、いつまでも浸っていたくなる。  
 もっとこの感触と熱を感じてもいたかったが、それ以上にもっと違う感触も欲しい。より激しく、より多く欲しい。  
 上半身を捻って半ば振り返り、頭だけエルクの方を向く。  
「のぅ……?」  
 そっと、開きかけた花びらのような小さな唇を突き出した。  
 ふぅ、ふぅ、と熱い吐息が漏れている。  
 常ならば強い意志を感じさせる大きな目は半ば伏せられ、睫毛は儚げに震え、しっとりと潤んだ瞳の中には女の艶が宿っている。老成した幼女という、二つの貌を一つの身に持つルヴァだからこそ醸しだせる、独特の淫靡さ。  
「なんだ、そいつは?」  
「この鈍感が……」  
 噛み合わされた歯がギリと鳴る。  
 わざと言っている事ぐらい分かる。ニヤついたエルクの顔が何よりも雄弁に物語っている。同時に、自分に言わせたがっている事も分かる。  
 そして、それを口にするのは悪い気はしない。  
「ちゅー、をせい」  
 優しくするのじゃぞ。  
 と、続けようとした言葉は途中から、ルヴァに体ごと覆いかぶさってきたエルクの唇に飲み込まれた。  
 風呂の湯がたゆたう水音に、別の水音が加わる。  
 ちゅ。ちゅく。ちゅぷ……。  
 初めは短く、断続的に。次第に長く、粘っこくなっていく。  
 体相応に小さなルヴァの唇を割ってエルクの舌が口腔に滑り込み、天井と言わず歯茎と言わず、ぬるり、ぬるりと舐め回す。  
 相手にされていないのに焦れたのか、そっと突き出された舌を、待っていましたとばかりにエルクの唇が甘く食む。  
 始めはデリカシーのない唐突なディープキスに吊りあがっていたルヴァの眼も、水音が激しくなるにつれてうっとりを目尻を下げ、舌での抱擁を楽しむ。  
 
「ん、ちゅ、んう…んむ…っは……あ、は……む……ぷふぁっ!」  
 離れた唇と唇の合間を細い唾液の橋がつないで、二人が息継ぎ一つする間に、プツリと切れては肌を濡らす。  
「このぉバカ者がぁ…優しく、チューをせいと……んんっ!」  
 ポコと小さな拳が力なく胸を叩く。形だけの文句はつい先ほど同様、またしても唇に遮られた。しかし少し違ってもいた。  
「ん、ふぅ……んむぅ、んんーーっ!」  
 濡れた瞳で舌を絡めていたルヴァが、陸に打ち上げられた魚のように、エルクの腕の中でビクンビクンと跳ねる。  
 見れば、エルクの指がルヴァの乳首にかかり、ころころと転がしている。  
 下から腹を撫で上げて、胸元を掌で包み込み、何喰わぬ顔で人差し指の関節の内側でルヴァの敏感な突起を刺激しているのだ。  
 キスの息継ぎをすると悪戯な手は脇へと戻るのだが、再び上がってきてはツンと起き始めた突起をさらに充血させようと円を描いては、ルヴァにぴりぴりとした快感を味わわせる。  
 地肌とほとんど同じ色合いの、色素の薄い乳輪の頂点がエルクの指使いに従って徐々に隆起し、ピンクに染まっていく。それはまるでルヴァの身体が『ココを押して』と彼にさらなる刺激をねだっているようだ。  
 だが、ルヴァもやられっぱなしで黙っているような性格はしていない。少なくとも、まだ負けず嫌いな性格は快感に隷従していない。  
 きゅ、と眉が上がる。  
「うく、おぉっ?!」  
 今度、体を跳ねさせたのはエルクの方だった。  
 不意打ちを食らって無様に踊る姿に、してやったり、とルヴァの目が笑っている。びくびく震えるエルクの股間では、ルヴァの尾が彼の内腿を撫でている。  
 太く筋肉質のルヴァの尾では、タオルの下で天を突いている怒張に巻きつくのは不可能だ。しかし、撫でる擽るには十分。しかも彼女は手と同じくらい自由自在に動かせて、先端に行くにつれ細くなっているので手が入り辛い所でも難なく分け入れる。  
 ルヴァからのお返しの愛撫はけして肝心のペニスには触れない。  
 陰嚢と肛門の間、蟻の戸渡りに尾の先でちょんと触れてから、そのままツツーッと袋の脇を撫でて過ぎ、太腿の付け根をくるくると気まぐれに擽っては、またスタートに戻る。  
 触れるか触れないかギリギリの軽やかなタッチ。  
 むず痒いような快感が腰から走っては、エルクの上下の頭にじりじりと炙るような切ない疼きを貯めていく。  
 互いに静かに愛撫し合いながら、唇を重ね続ける。  
 粘膜の絡み合う粘ついた水音に、荒くなった鼻息が混ざる。時折、どちらかが息を詰まらせるのは、愛撫に加えたアクセントの所為だ。  
 エルクは、親指の腹で乳首を扱きたてる。ルヴァは、尾の側面で袋の付け根をそっと擦ってやる。  
 互いに互いを求め、長い長い口付け。  
 やがてどちらともなく、身体を離す。  
 深い海の底から浮き上がってきた人魚のように、二人して大きく息を吸った。  
 
 
――8――  
 
 荒い呼吸もようやく収まった頃、  
「まったく拳の腕はさっぱり上がらぬ癖に、夜の組み手のほうばかり腕を上げおって…」  
 頭をエルクの胸元に預けたルヴァがポツリと呟いた。  
「まぁな、なにせ、とっても良い練習台がいてくれるもんでね」  
 型どおりに悔しがるルヴァを、エルクが肩をすくめて受け流す。  
 無論、そこに本気など一欠けらも混じっている筈が無い。エルクが色々な意味で腕を上げるのはルヴァにとって喜びであるし、回りまわって悦びにもなる。  
 寄り添いあう二人を、心地よい空気が包む。  
 それをエルクがあえて破る。  
「なあ」  
 どうしても、この魚の小骨が喉に引っ掛かったような違和感の原因を、取り除いておきたい。  
「お前が落ち込む理由は分かるんだが、今日は落ち込みっぷりが妙すぎるぞ。どうかしたのか?」  
「ぬしが己の命を削ってワシの頭を冷まさせてくれたかと思うと、の…」  
「……気づかれてたか」  
「愚か者が。ワシが気づいておらんとでも思うたか」  
 ぴしゃりと言う。  
「なにせ…」  
 ゆるりと身体を起こしてエルクの胸板に、とん、と人差し指を突き立てる。  
「この胸の奥で燃えとる命の火の半分がたは、ワシがくれてやったものじゃろうが」  
 生物とはすべからく炉であり、命とはすなわち炉の中で燃える火である。と言うのが竜族の命の概念である。炉が壊れれば火を維持する事は叶わず、火が燃え尽きて二度と点かないのであればそれは炉と呼ぶには値しない。  
 昼間の戦いの最中、傭兵一人をその尋常でない勁力でもって爆裂させた辺りから、エルクは自らの師匠の異変に気づいていた。  
 血の臭いと戦いその物に昂り、彼女が我を忘れるのはこれが初めてではない。同時に、人間に化けている時なら渾身の勁力を篭めて引っぱたけば正気に戻せるのも分かっていた。  
 だが本性を現し始めたルヴァに近づくのは容易ではない。  
 何かしらのレトリックではなく、言葉そのままの意味である。本気を出し始めた――暴走でも同じだが――ルヴァには純粋に近づきがたい。  
 それはルヴァ自身が熱を発し、また彼女の放つドラゴンブレスが強烈な輻射熱を発するからだ。  
 火炎や高熱への耐性がなければ、人間など数メートルまで近付くだけで全身に大やけどを負ってしまうだろう。  
 防ぐ方法は色々と有るが、スタンダードな防御方法は魔術によるものである。それも術の行使にかかる手間や効果など、色々と制限がある。  
 最も効果的な防御法は、竜の加護を得る事だ。  
 とりわけ赤竜の加護があれば火はほぼ無効化できる。それも加護となる力の源泉が熱を発する当の本人と同じであれば、最大級の効き目が期待できよう。それもそうだ。自分の炎で焼け死ぬドラゴンがいる訳がない。  
 そして、エルクの体内深くには、ドラゴンから見れば少量ではあるもののルヴァの命の火が灯っている。  
 
 もうだいぶ昔になるが、エルクは竜族が言うところの炉と火の両方を、ルヴァ自身に半ば以上まで踏み潰された事がある。  
 彼がまだルヴァの見た目と同じ程度の歳だった頃、彼の故郷は戦火に焼かれた。亡びつつある国を捨てて、一家は険しい山脈を越えて逃げた。  
 慣れていてさえ山は時として魔物と化す。慣れぬ者など言わずもがな。熊の餌が精々。  
 と、思われた一家の前に、深い山中に似合わぬ姿格好の幼女が現れた。彼女は言った。守ってやろうか、と。そしてドラゴンが変身しているとも。今よりもずっと勝ち気で負けず嫌いで向こう見ずで自分を知らず、その癖、一丁前に格好だけはつけたがる若いルヴァである。  
 だが慣れぬ道行きである。一家の歩みは遅々として進まなかった。ルヴァにしてもドラゴン形態になって背に誰かを乗せる気など無い。  
 落ち武者狩りの手は一家にも伸び、遂に理性の弱いドラゴンが力を奮う時が来てしまった。  
 次にルヴァが気がついた時。その眼に映ったのは、焼き払われて燃える森と敵、そして敵と一緒に血の海に沈んでいる守るべき者達だった。  
 守るべき者を守れなかった。約束を破り、生かさなければいけない命を死なせてしまった。  
 母親の胸に抱かれ守られていたお陰でただ一人生き残り、しかし死につつある子供を前にして狂ったように取り乱すルヴァを、彼女の母が助けた。  
 ルヴァの母にとって人間の命などどうでも良かったが、娘が無意に邪業を積んで悪竜に堕ちるのを見たくはなかったのだろう。  
 失われつつある命を、手にかけた者の命で贖わせた。  
 強力無比な治癒魔術で炉を修復し、ついでドラゴンに伝わる秘術でルヴァの火の一部を死にかけの人間の子供に注いだ。すなわち、まだ幼かったエルクへと。  
 それにより、エルクは死の女王が治める国へと旅立たずにすんだ。  
 と同時に、彼は人族の時の流れから弾き出されもした。一見すれば青年のエルクだが、とうに四十を超えている。もっとも、エルフのようにやたら長命な種族もいるので寿命の長短はあまり気にはされないが。  
 
 かつて継ぎ足された命の火は、継ぎ足した事により外部からアクセスするルートが構築されてしまい、本人の鍛錬もあって自らの意思である程度引き出せるようになってしまっている。  
 だが、それは諸刃の剣だ。  
 一時的とはいえ強力な赤竜の加護を得られるが、寿命を削る事と同義である。しかも彼は"火"自体を知覚できない。箱の中から目隠しして掴み出している状態に近い。下手をすれば、その場で寿命を使い切って事切れる可能性すらある。  
 それを使わせてしまったのだから、ルヴァの落胆が推し量れようというものだろう。  
「忘れるもんかい、お陰でお前と一緒にいられるんだからな」  
「ふむ、上出来じゃ。ならば、その火を使わせてしまったワシがぬしにしてやれる事、一つしかないのも忘れてはおらぬな?」  
 同時に、本来ならば触れえざる場所から力を引き出せるルートがあるという事は、逆に使った分を補充できるという事でもある。  
 半ば以上もルヴァのと等質化した火が燃えている炉に少しばかり――器に余る激しすぎる火は炉自体を溶かしてしまうので――火を継ぎ足すのは、ドラゴンとして若輩なルヴァでも行える。  
 ルヴァ自身の寿命が幾らか削れてしまうが、彼女にとっては「たかがそんな事」だ。  
 まさしく身を挺してくれた者に等しく応えないなど、何よりも彼女のプライドが許さない。  
「よいしょっと」  
「ひゃっ?!」  
 エルクは少女の両脇に手を入れてヒョイと抱え上げた。自らは床に胡坐をかいて座りなおし、抱えたままの小柄な身体を両太腿の上に降ろす。  
 あっという間に、ルヴァは横向きに抱き抱えられていた。  
「忘れちゃいないさ。だから、しっかり濡らしておかないとな?」  
 
 ごく。  
 我知らず喉が鳴る。これから襲ってくるであろう感覚への期待に、ルヴァの背筋がぞくぞくと震える。  
「そ、そうじゃ。忘れておらねばそれでよい。  
 ぬしのチンポは太いからな。ワシのマンコでは窮屈すぎてぬしが痛いかもしれん。  
 ワシは痛がるぬしを見とうない。じゃから……その、よぉく濡らすのじゃぞ?」  
 口調も台詞もそれらしく勿体ぶってはいるが、中身は女から男へのおねだりに他ならない。それも、とてつもなくはしたない種類の。  
 自分の無毛の股間へと伸びていく手を、どろりと情欲に溺れ始めた瞳が追いかける。  
 しなやかだが、女らしく熟れた円やかさが不足しているルヴァの身体。だが、そこだけは極上の柔らかさでエルクの指を迎えた。  
 ふっくらとした幼い秘裂はまさしく縦筋と言うのがぴったりのシンプルな造形。どれだけ交わっても形は少しも崩れず、色合いも初めての時からずっと変わらず淡い桃色のままだ。  
 細い腿の合間に差し込まれた手が、性器全体を掌で包み込むようにして揉むように撫でる。  
 ぴっちりと閉じた亀裂から溢れるほどではないが、そこは既に潤いを帯びていた。  
「んっ、ふぁ……」  
 指先を、そっと曲げる。  
 人差し指に生温かく濡れた感触。かまわずに指先を亀裂の間に押し込む。  
 ちぷ、と言う粘ついた水音と、微かな声がルヴァの口から漏れた。  
 ぬるぬるした感触をしばし楽しんでから、エルクは指を抜いた。関節を真っすぐにしただけで、引き抜くという動作にも当たらない。  
 指先の愛液を擦りつけながら、我が子の頭を撫でるようにしてゆっくりと円を描いて、閉じ合わさった入口を撫でる。  
 エルクを掴むルヴァの手に、くっと力が入り、腰から角の先端まで何かが走り抜けたみたいにピクンと震える。  
 指先が幼肉を掻き分けて、また先端を中に埋める。  
 同じように漏れる水音と喘ぎ。  
 また引き抜く。つぅ、と指の腹と秘裂の間に透明な粘液の糸がかかる。  
 ルヴァの秘裂は赤子が無心に乳を吸うように、第一関節までも入っていない指先を愛おしそうに咥え、出ていかないでと引き止めようとする如く柔らかい肉で指先を食む。  
 埋めては、引き抜く。何度も、何度も。  
 その度にルヴァは喘ぎを漏らす。吐息とほとんど同じように微かな、しかし確実に快感の熱を孕んだ喘ぎ声。  
「んっ……あッ……あッ……あッ…ひん…っ!!」  
 控えめだった粘液の水音は大きくなり、くちゅくちゅといやらしく響いては二人の耳を打つ。  
 指先を埋めては抜くリズムに合わせて、鼻にかかった喘ぎ声がとめどなく漏れる。しかし、まだまだ嬌声は密やかだ。  
 もっと派手に啼かせてやりたいとエルクの雄が囁き、それに指が従う。  
 ねとりと指先に纏わりついた愛液を花弁の縁に丁寧に塗りつけていく。ぽってりと丸みを帯びた肉の上を指が通り過ぎると、まるで蛞蝓が這い回った跡みたいにテラテラと濡れ光る。  
 
 丁寧に愛液を塗り広げる指の悪戯は止まらない。楚々とした花弁の片方の縁をそっと外側へ押してやる。  
 途端、くちぃっと粘っこい音を立てて、蕾がわずかにほころんだ。  
 エルクからは見えなかったが、隙間からは粘液に塗れたピンクの肉壁が、恐ろしく淫猥な姿を覗かせていた。  
「あっ…んんっ…あんッ、やふっ…やめ、い…広げるなぁ…」  
「いやだっつー割りにゃあ、弄られて随分とおもらししてるじゃねえか。俺の指がふやけちまいそうだぜ?」  
「そ、それは…ぬしが痛く、ならぬよう、頑張っ…あふぅぅ…って、おるから、じゃ」  
「確かにルヴァは頑張ってるよなぁ。こんなになってるし」  
 言うなりエルクの手は、痛みがないように気をつけながら、人差し指と薬指でぷにぷにした大陰唇を指一本分の幅だけ割り広げた。  
 残る中指が遊んでいる訳がない。  
 幼い肉壺に溜まった蜜をわざとらしく音をさせて掻きだしていく。  
「ひぃぃ……んっ!」  
 ちょんとピンクの真ん中に浅く爪先を埋めては、下から上に撫でるように掻いて、何度も指が往復する。  
 岩清水の如く細い亀裂から流れる愛液は、あとからあとから溢れて途切れる気配はまるでない。  
 尻の谷間へと伝い流れては、ルヴァが座っているエルクの腿を濡らしていく。  
 唐突に、荒く息を吐くルヴァの小柄な身体が跳ね上がった。  
「ひゃあぁぁっ!!あっ!あっ!ひぃ…んんっっ!!」  
 たっぷりと愛液を絡みつかせた指先が、ルヴァの秘裂の一番上、クリトリスをくりくりと撫で回している。  
 薄桃を通り越して赤く充血していてもサイズはごく小さい。しかし感度は十分。  
 無骨なエルクの指がルヴァに鋭い快感を送り込む。修行や鍛冶でタコだらけの癖に、驚くほど繊細に蠢いては小さな淫核を優しくこね回す。その度にキュンキュンとルヴァの胎から頭の天辺まで電撃に似た快感が飛んでくる。  
「やめ、バカも、の、おぉぉっ!!や、あぁぁんっ!あっ!んっ…そこ、よわ…」  
 意味の有りそうな言葉を吐けたのはそこまで。  
 ルヴァが快感に全身を戦慄かせているうちに、熟練のエルクの指は肉真珠を守る包皮までつるんと剥いてしまう。  
「ーーーーっっ!!!」  
 剥き出しになったクリトリスをグリッと乱暴に潰されると、もう堪らない。  
 全身がきゅんと引き攣る。視界に白い閃光が飛び跳ねる。細い喉からは声にならない嬌声が迸る。唇の端からは涎が零れるが、もうそんな事なんて気にならない。  
 エルクの手指が動くたびに、ルヴァの尾はピンと天を向いてブルブル震えたり、限界を訴えるようにパンパンと床を叩く。  
 しなやかな尾の先から、真っ黒い角の先端まで余すところ無く悦びに満たされて快感に打ち震える。  
 エルクの指がルヴァを開放したのは、何かに耐えるようにぎゅーっと丸められていた足先から、力が抜けた後だった。  
 
「よく濡れたかい?」  
「う…うむ、ほどほどに、の」  
「イった?」  
「ま、軽く、の」  
「…軽く?」  
「……これ以上なにを言わせる気じゃ、バカ」  
 丸まった拳がポコと胸板を打つ。甘く愛撫するような拳と言葉には、羽虫一匹殺せるほどの威力も無い。  
「さ、これからはぬしも楽しむ番じゃ」  
 その両腕が、エルクに向かって揃えて差し出される。  
「それでの、ワシはいつもの格好がよいぞ」  
「へいへい」  
 口では不承不承という感じだが、手慣れた様子で体勢を変えるエルク。  
 横抱きで足の上に置いていたルヴァをお姫様抱っこにして抱えて、立ち上がる。鍛えた体にとって子供一人くらいなど羽毛も同然。  
 そのままクルリと腕の中で回して向かい合わせにすれば、ルヴァも慣れたもの。  
 差し出した両腕を男の首にしどけなく回し、はしたなく両脚を大きく開いてたくましい腰に絡みつける。すっと膝から先を伸ばして優雅に男を股ぐらに挟みこむ仕草は娼婦のようで、少女の形と相まって異様な背徳感を醸しだす。  
 肉付きの薄い左右の尻肉をエルクの手が鷲掴んで支える、いわゆる前面立位になる。  
「前から思ってたけど、お前、この体位が好きだよな」  
「む?ああ、なに、この格好ならば、ぬしにぎゅーっとして貰いながら繋がれるじゃろ?」  
 しまった、と思った時にはもう遅い。  
 真正面から真顔でそんな事を言われて照れない男がいるだろうか。  
「う、あ、くそ……っ、反則だろ、それ」  
 耳の先がどんどん熱くなる。鏡を見なくたって、自分が初心な少年のように真っ赤になっていくのが手に取るように分かる。  
 年甲斐もなく赤くなったのを見られたくないので、顔を背けようとして。  
 ルヴァの手により阻止された。  
 頤に掛かった、ほっそりとした指一本。たったのそれだけで、くい、とルヴァと真正面から向き合わさせられる。  
「嘘は言うとらんよ。なにせ、ぬしの間抜け面もまとめてたっぷりと堪能できる。それに尾があるからワシが下になるのは、ちとやり辛くての」  
 右に、左に、と所在なげにエルクの視線が泳ぐ。  
 視界の端で、悪戯が成功した子供のようにルヴァがころころと笑っているのが見える。  
「それにな、いつも小生意気な口を利くワシの体を自由に出来るこの格好は、ぬしも好きじゃろうが?」  
 媚びるような、請うような口調。  
 
 あどけない顔の下には、老獪な淫蕩さがちらちらと見え隠れしている。エルクを見つめる瞳はいまだ収まらない肉欲にとろりと潤んでいる。  
 確かに、抱き抱えられる姿勢のこの体位ではルヴァは動きにくく、エルクにほぼ全ての主導権がある。  
 突く速さも、抉る深さも彼の胸三寸。  
「さ、体を捻るのもままならんこの哀れな体を、ぬしは一体全体どうしようと言うのじゃ?  
 その猛ったチンポで乱暴に突くのか?それとも小さなマンコに気遣って優しく擦ってくれるのか?」  
 普段の気高さなど欠片も無く、躊躇せずに性器の卑称を口にして男を誘うルヴァ。いつ頃からかは既に忘却の彼方だが、ドラゴンとしてのプライドも強さも何も関係なく彼に玩具のように扱われるのは、すばらしい快感を呼ぶようになっていた。  
「如何ようにでもすればよいぞ。ワシはぬしの全てを受け入れるしか……きゃふっ!」  
 トロトロと蜜を滴らせる熱い入り口に亀頭があてがわれ、  
「くっ!は…ぁっ、はいってくるうぅ…!エルクのチンポがぁ…」  
 ズンと容赦なく突きこまれた。  
「あがっ!」  
 太い穂先がみっちりと閉じ合わさった媚肉の筒を押し広げて、中から溢れる滑りの助けも借りてグリッと貫く。  
 これが本当に人間の少女であったならば裂けていても不思議はないだろう。だがルヴァは見た目通りではない。彼女の秘裂は驚くほどの柔軟性を見せ、真っ赤に熟れた亀頭を受け入れていた。  
 柔軟性に富んでいる癖に弾力も素晴らしい。ルヴァの秘肉はその小ささでもって締め付け、責めているはずのエルクのペニスを逆に責める。  
 亀頭表面に満遍なく触れる膣肉が、鈴口から張り出した雁首までを全方位から舐めあげる。  
 これがフェラチオであれば唇の輪が通り過ぎれば少しは緩むのだろうが、それがない。どこもかしこも密着して、粘液で蕩けた柔襞で撫でられてしまう。思わず太腿が戦慄くほどの灼熱した快感がエルクの全身に広がっていく。  
 腕の力を抜いていくと、ペニスが秘裂にずぶずぶと飲み込まれていく。  
 快感の輪がエルクの竿を搾りあげていく。しっかりしていないと今にも放ってしまいそうな快感。噛み締めた歯の隙間から、苦しそうな呼気が漏れる。  
 ペニスの半ばまでがルヴァの秘裂に消えたところで方向が反転。  
 雁首で膣肉を抉るように引っ掻かれ、あるいは柔襞で裏筋から雁の括れからあらゆる敏感な部分をヌルリと撫でられ、異口同音に喘ぐ。  
 限界まで開ききった幼い淫唇から猛った雄が徐々に姿を見せるという、とても背徳感に満ちた淫靡な光景。  
「なんじゃ…?急に黙りおって…まさか、ワシの尻を持つ手を離そう、というのではなかろうな?  
 そんな事、されたら、ぬしのチンポでワシが串刺しにされてしまうじゃろうが…。  
 せぬよな?そのような乱暴……されたら、ワシは、耐えられぬ…」  
 無論、そんな彼女のお願いを聞いてやらない理由はない。  
 ずん。  
「くああぁぁっ!あぁーー!!……は、んー…ん!くうぅぅっ!」  
 さっき以上の深さまで一気にペニスが柔肉を犯し貫く。ルヴァ自身の体重が、彼女を胎の底まで犯していく。  
 びくんっ、とルヴァが上半身を海老のように仰け反らせる。様々な衝撃に角がふるふると震え、焦点の合わない瞳は天井を向いたままで何も見ていない。口からは涎と半ば意味をなさない言葉がとろとろ零れる。  
「入っておるぅ…おくまで、おくのおくまでぇ…んふう…えるく、で、いっぱい……」  
 
 根元が無毛の丘に触れるぐらいまで深く、秘裂を抉っている肉槍。見れば、ルヴァの下腹がぽこりと内側から何かに押されて膨らんでいる。  
 溢れかえった粘液が幾筋も濡れた線を肌に描いては、粘った水滴となって落ちていく。  
 小刻みに震える尻にエルクの手がかかり、ゆっくり持ち上げていく。下腹部の膨らみが入り口に向かって移動するにつれ、淫液を纏わりつかせ凶悪な姿をした肉棒が、ずるずると姿を現していく。  
 一番太い雁首までも引き出され、ほとんど亀頭を宛がっているだけのような所まで来る。  
 また落とす。  
「あはあぁぁっ!!ふっ…ふと、ぃぃ…イイ!…これが、ぁっ!イイのじゃあ…」  
 掬うようにして尻が持ちあげられ、  
「あっ!あっ!あっー!はぁっ…ごりごり、し、て、エルクの…チンポがナカ、こすっとるぅ…うあああぁっっ!」  
 落ちる。  
 押される内臓や骨が悲鳴に近い嬌声をあげる。身体も心もエルクに翻弄されるのがこの上ない快楽となる。  
 身体が落下して一気に肉串に貫かれると顔は上を向き、口からはあられもない卑猥な叫びが迸り、持ち上げられ胎一杯に咥えこんだ肉串を無理やり引きずりだされると身体がきゅっと丸まり顔が下を向く。  
 次第にルヴァの叫ぶ間隔が短くなっていく。  
 それは、エルクの我慢の限界も示していた。  
 掬い上げて落とすだけの速度で得られる快感ではもう足りない。もっと刺激が欲しい。もっと高みにイきたい。  
 尻たぶをすっぽりと包むように掌で支え、汗と愛液で濡れた肉に指を食い込ませて、腕力に任せて上下に振りたくる。  
 ルヴァとエルクの腿同士がぶつかり合い、パンパンと肉の打ち合う音、ジュプッジュプッと粘液の絡み合う音が嬌声を彩る。  
 抜ける直前まで持ち上げて、子宮まで届けとばかりにルヴァをぎゅっと抱きしめるようにして楔を打ち込む。  
「あっ!あっ!イイっ!ひ、ぃ…えるくの、イイ……んっ!あっ!はぁぁんっ!」  
 がしがしと豪快に責めたてているようでいて、エルクには余裕などまるで無い。  
 極上の媚肉は甘く強烈に締めつけて腰が痺れるほどの快感を与え、加えてルヴァが大きく喘ぐたびに壁が不規則にうねってペニスを揉みしだく。  
 ぱんぱんに張り詰めた先端から、充血して血管の浮き出た茎の根元まで。小さなドラゴンの淫らな肉壺で満遍なく扱かれる。  
 一扱きごとに背筋から後頭部まで舐めるように快美電流が走り抜ける。  
 脳を揺さぶった快楽が戻ってきて、ペニスの根元で強烈な疼きの渦となる。  
「ルヴァ…」  
 短く名を呼ぶ。余計な言葉は不要。それだけで意思は通じる。  
「ん、あっ!よい、ぞっ!あっ…!ワシの、なか、白くて、あついの!だすが、あぁっ、よい…っんく!」  
 物も言わずに、腕の中で可愛らしくのたうち回るドラゴンを抱きしめる。  
「あっ!ぎっ!お、ふぅっ!おく、きつ、い…いイ、イイ、くうぅぅ……あーーっ!!」  
 きつく、かたく、抱いて、彼女の奥に射精した。  
 
 
――9――  
 
 どくり、どくりと恍惚を呼ぶ熱が胎内に注がれていく。  
 ああ、やはり自分は強欲なのかもしれない。  
 腰から下が蕩けて消えてしまいそうな恍惚に浸りながらも、ルヴァは頭の片隅で思う。  
 もっと欲しい。自分以外の熱が胎内深くで爆ぜる、この感覚を。  
 もっと欲しい。甘美な感覚をもたらしてくれる、この液体を。  
 それこそ、内臓の全てが白く染まり、口から零れるくらいに。  
 もっと、もっとと体も心も訴えている。これが強欲でなくてなんだと言うのだ。  
 とりとめもない思考が浮かんでは消え、本来の目的まで流れて消えそうになりかけて、ようやく理性が働く。  
 ともすれば、次の迸りを求めて動いてしまいそうになる腰を押さえつける。  
「あ、ふぅ、ほれ……エルクよ。呼吸をあわせい…ゆくぞ」  
 純粋に肉の交わりを愉しむのは、もう少し後だ。  
 気力を振り絞り、思考を支配しかける本能を無理やりに押し出して、理性を取り戻す。  
「昂った気を散じるでないぞ。  
 ぬしの放った精液にワシの"火"を乗せて送り返すぞ」  
 血液や精液は、魔と関わりの深い者にとって普通とはまた違った意味を持つ。  
 彼らにとって、それは通貨のようなものだ。  
 生命力と呼ばれる、この世に生を受け活動するあらゆる生命体が内包するエネルギー。それをやり取りする為の媒介物。  
 故にヴァンパイアやサキュバスは血や精を啜り、魔女達は命の萌芽であり可能性の塊であるそれらを媒介にして魔力を高めようとする。  
 頷き返すエルクをルヴァは見ていない。  
 既に瞑目して、精神は己の内を向いて深く集中を始めている。  
 突然、ルヴァのお腹一面に複雑な紋様が浮かんだ。青白く光る極細の線で描かれた精緻な魔法陣で、一見して高度な魔術によるものだと分かる。  
 現れたのが一瞬なら消えるのも一瞬。ひゅん、と渦を巻いてルヴァの臍から中に吸い込まれるようにして消える。  
「ぐっ!!」  
 次の瞬間、歯を喰いしばって耐えねばらないほどの、脳を焼くような強烈な快感がエルクを襲った。  
 ルヴァの胎の中で、どろどろの液体が渦を巻いているイメージ。  
 それはイメージだけはない。実際に、射精したばかりで敏感になっている亀頭が粘度の高い液体に包まれていて、それがぐるぐると粘膜を擦りながら旋回している。  
 射精したばかりで達する事が出来ず、強烈すぎる快感は痛みと等しい。エルクの顔面に、今までとは違う種類の汗がにじむ。  
 ぐるぐると回る粘液が、不意に熱を帯びていく。出したばかりなのだから体温程度に熱いのは当然だが、火にかけられたように温度が上がっていく。だが、嫌な熱ではない。肉を焼くような激しい熱さではなく、母親の腕に抱かれているような温かさ。命を内包したルヴァの熱だ。  
 熱い粘液のリングが回りながらゆっくりと雁の括れから亀頭を這いあがり、そして鈴口を割って、蠢く熱い粘液塊が管へと逆流してくる。  
「ぐぅ、おおぉぉぉっ…!!」  
 
 反射的にルヴァの体を放り出さなかったのは、半分くらいは彼女が首と腰に手足を絡めていてくれたお陰だろう。  
 本来ならば一方通行の筒を逆流される恐ろしい違和感に、がくがくと壊れたように腰が震える。  
 ふっ、とペニスの内側を掻き毟るような、痛痒感にも似た激烈な快感が消えた。  
 どれほどかかったのだろうか。一瞬のような気もするし、随分と長く叫んでいたような気もする。激痛に近い快感は時間感覚を吹き飛ばしていた。  
 同時にエルクの腕の中で、ルヴァが失敗の許されない集中から解放されて、長い長い息を吐いた。  
「終わった……のか?」  
 エルクは拷問から解放された囚人の気分が今なら分かる気がした。  
「ああ、終わったぞ」  
「そうか…」  
 その安堵の心を勝手に体が代弁していたのだろう。思わずこぼれていた溜め息一つを、ルヴァが聞き咎める。  
「何を呆けておる。今までのはワシがしでかした事の後始末に過ぎぬ。  
 これからは違うぞ……お楽しみの時間じゃ」  
 言いざま、顔を寄せ、舌を伸ばしてエルクの頬にネロリと這わす。  
 喉の奥では、くふふ、と挑戦的な笑み。  
「後悔させてやると言ったはずじゃ……ぬしがババァと呼んだ体で、な。  
 ワシが存分に楽しむまでは煙しか出んようになっても終わらんからな、覚悟せい」  
「……へっ、上等だ。そっちこそ泣いて謝ったって突くの止めてやんね…んぷ」  
 それ以上の言葉をキスが止めた。  
 いつもいつも余計な一言を吐き出す舌を、ルヴァの舌が絡め取る。チュプチュプと吸い取るようにして、エルクが目を白黒させている様子と甘いキスをまとめて味わう。  
 たっぷりと嬲ってからようやく解放。  
 とろり、と二人の口腔から溢れた唾液が肌に零れ落ち、すぐに汗と混じって見分けがつかなくなる。  
「言葉など無粋じゃ。そうじゃろう?ぬしのその言葉に偽りが無いか、行動で示して見せい。  
 ワシは嘘が嫌いで、ついでに嘘吐きを弟子にした覚えもない……そうじゃな?エルクよ」  
 しなやかな尾が、エルクの尻たぶの谷間から陰嚢までをゆるりと撫でる。全身に甘い痺れが走り、体中を走り回った挙句、下腹の一箇所に集まってくる。  
 参れ、と貴人が手招きするように優雅に尾がうねり、触れるか触れないかのフェザータッチで何度も撫でる。  
 その招きに応じない理由など無い。  
 再び、ゆっくり近づく唇と唇。そして距離が零になる。  
 すべすべした小ぶりな尻肉を掴む腕に、ぐっと力が入る。  
 ごつごつした筋肉質の体に絡めた肢体と尾に、そっと力が入る。  
 招かれた肉の竿が蜜を滴らせる狭間を押し広げる。  
 招く肉襞がきゅうきゅうと抱きしめる。  
 頭を白く染め始めた快楽を二人して求め、もっと二人の距離を縮めようと動く。  
 そうして再び漏れはじめた二つの嬌声は、再びゼロ距離となったお互いの唇の中に溶けて、消えた。  
 

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