某県某市に所在する閑静な住宅街。その一角に笹山家はある。いや、あったと言うべきか。  
 
 寡黙な父、子供を二人も産んだとは思えないほどの若々しい美貌の母親。近所でも評判の  
おしどり夫婦として知られていた。  
 そんなふたりから生まれた子供は、姉の優花。年のころは二十代後半に差しかかろうかと  
いうところ。母譲りの容貌と、父が個人経営していた士業事務所を受け継ぎ、しっかりと業務を  
こなせるだけの頭脳を持ち合わせていた。  
 一方、もう一人。優花の弟、春人。今春、大学を卒業したばかりではあるものの、なんとか  
就職できた地元の中堅企業にて新社会人としてスタートを切ったばかりであった。  
 
 
 笹山夫妻。それは子供たちである優花・春人姉弟のふたりにとって、尊敬できる大切な両親  
に他ならなかった。  
   
 五月、ゴールデンウィーク。毎年恒例となった夫婦水入らずの旅行へと旅立った両親を見送った  
姉弟は、特に弟の春人は社会人になって初めての連休ということでのんびりと過ごそうと決めていた。  
 が、優花の  
   
 『ねえ、春人。あなた私やお父さんと同じ仕事をするのが夢なんだよね? だったらちゃんと  
 勉強しないとね、資格が取得できないことにはどうにもならないわけだし。大丈夫、大丈夫。  
 お姉ちゃんがみっちりしごいてあげるから』  
   
 というありがたくも恐ろしいお話により、半強制的に試験勉強へと励むことになったのだった。  
 
大型連休も最終日を迎えたこの日。  
 優花から出されていたお手製の問題集を解き終えた春人が時間を確認すると、夕方が近くなって  
いた。昼過ぎに姉とふたりで昼食をとってから、トイレに立つこともなく自室に引きこもっていた  
ので、凝り固まった肩・腰へと手をやってほぐすとリビングへと向かう。  
 「姉ちゃん、やっと終わったよー。採点よろしく……って、どうしたの?」  
 「…………」  
 テレビから少し離れた位置に座布団を敷いて、取り込んできた洗濯物をたたんでいたらしい姉。  
 春人が間違えていた場合の指導はお手柔らかに――という意図で明るく声を掛けたものの、優花  
の反応はなかった。  
 ただただじっと液晶テレビへと視線を注いでいた。  
そこには、  
 『先ほどから何度もお伝えしていますように、○×共和国の観光名所として名高いヴィルヌール  
 王家墓所院にて爆発物が炸裂したあとに、武装テロリストらによる観光客を狙った襲撃が発生しま  
 した』  
 突然、頭を殴られたような気がした。そこには姉弟の両親が訪れていたはずだった。  
 数日前に掛かってきた国際電話で、「せっかくだからヴィルヌールにも行ってみることにする。  
母さんが前々から行ってみたいって話していたところだしな」。  
 普段、物静かな父親がはしゃぐように話すのをふたりで微笑ましい思っていた。  
 「…………」  
 「…………」  
 ガタガタと震えが止まらない優花を春人が抱きしめた。  
 突然降ってわいた災厄に自身も悪寒が止まらない。  
 『……っ。たった今事件の続報が入りました。墓所院を訪れていた観光客はおよそ八百人ほどでして、  
 ほぼ全員の方が亡くなられた模様でかろうじて意識不明の重体の方々がおられるそうです。同観光地  
 はわが国でも人気の場となっており、邦人が多数訪れていたという情報が入ってきており、政府と  
 関係省である外務省が全力を挙げて事件の情報収集に努めているとのことです――。なお犯行声明が  
 届けられた共和国国営放送局によりますと、テログループはイスラム原理主義団体を名乗っており――』  
 緊張気味だった男性アナウンサーの表情が更に強張り、テレビの向こう側で最悪の事態になりつつある  
と告げてくる。  
 
「いや……お父さんとお母さんが」  
 端正な顔を俯けて優花が力なくつぶやく。ぎゅっとただ抱擁する。なにがどうなっているのかわからず、  
悪い冗談であってほしいと頭の中で繰り返していく。  
 今日ってエイプリルフールだっけか?   
 違う。  
 ゴールデンウィークも最後の日を迎えている。  
 ああ、やっぱり現実なんだ。でもそんなわけ……。  
   
 ――プルルルッ、プルルルッ、プルルルッ  
 
 気付けば日はとっぷりと暮れていた。家庭用の電話機がけたたましく鳴り響き、着信を知らせてきている。  
 最初は無視していた。オレたち姉弟はそれどころじゃない。あとにしろ、と。  
 しかし、着信がとまることはなかった。  
 すっと立ち上がっていくと優花が不安を隠し切れない様子で見上げてくる。努めて微笑を浮かべて大丈夫  
だからと落ち着かせようとする。  
 心臓がバクバクしてこのまま倒れてしまうんじゃないか、いや、倒れてしまったほうが楽になれるんじゃ  
と現実逃避をしてしまう。  
 だが、電話機は相変わらずにけたたましく鳴り響くばかりだった。  
 「はい、笹山ですが」  
 『夜分遅くに申し訳ありません。私、日本国外務省の○×共和国テロ事件対策本部付き連絡官の山中と  
 申します』  
 「はい……」  
 『非常に申し上げにくいのですが……』  
 電話に出た春人を気遣いつつも、外務省の山中と名乗る男はふたりの両親と見られる遺体が発見収容された。  
 ただ爆発物とテロリストたちの銃撃により損傷が激しく、現地大使館の人間たちだけでは断定できない。  
 今回の事件において確認されるだけでも実に百人近くの日本人が巻き込まれたらしく、日本政府としては引き続き  
事態の把握に努めていく。  
 また、現地は気温も高く、遺体の腐乱の進行が早いものと考えられる。  
 確認作業のためにも姉弟ふたりに現地まで行ってもらいたい。飛行機は政府で既にチャーター便を押さえており、  
こちらから迎えの者をやるのでふたりにはすぐにでも現地に入ってもらいたい、とのことだった。  
 わかりました、すぐに準備しますとだけ答えるのがやっとだった。  
 受話器を置くとすぐ後ろから抱きつかれた。  
 「春人、お父さんとお母さんに会いに行こう。大丈夫だよ、お父さんたちのことだから案外けろっとしてるって。  
 あっ、お父さんこの間の電話でこっちの酒は合わないから、早く日本に帰って焼酎を呑みたいって言ってたん  
 だった。うーん、お酒って飛行機に持ち込みできるのかな? いくら無事でもしばらくは向こうに入院しちゃう  
 かもしれないから、持っていってあげられるといいんだけど……」  
 「……っ」  
 涙が溢れて止まらなかった。弟が泣き出したのを皮切りに姉の瞳からも熱い雫が盛り上がり、そして頬を伝って  
いった。   
 
いろいろとあった。そしていろいろと大変だった。  
 現地に飛んで両親の遺体を確認して姉弟ふたりで発狂してしまうんじゃないかってほどに、泣き叫んだ。  
 こんな酷い姿で日本に連れて帰るのは可哀想だということで、大使館にお願いして現地で荼毘にふした。  
 そして日本へと家族四人で帰国すると、姉弟ふたりきりで葬式に出した。ふたりの親は駆け落ちだったことも  
あり、笹山家には親戚付き合いというのが皆無だった。  
 父親に仕事関係でお世話になったという顧客の方々が、お悔やみにとやってきて線香をあげるために家に入って  
もらった以外にはふたりきりで過ごした。お互い仕事も休んで。  
 事件から少しして○×共和国日本大使館職員と名乗る男性と外務省職員の合わせて三人が、笹山家を訪れた。  
 今回の事件のお悔やみと、共和国からと日本国からのせめてもの気持ちですとジェラルミンケースが渡され、  
なかには大量の札束が入っていた。  
 原油埋蔵量の限界が囁かれている同共和国において、十数年前から力を入れている観光産業は国家にとって  
不可欠なものであり、今回の事件はとても不幸なものであったがどうか共和国に悪い印象を抱かないでいただき  
たい。犯人グループの捕縛は国軍を動員してほぼ完了しており、共和国法廷にて裁きにかける、とのことだった。  
 
 ふたりで彼らを送り出すと、また涙が溢れてきた。あれだけ泣いたはずなのに、人間っていくらでも無限に  
泣くことができるのかと取り留めのないことを頭の片隅で考えていた。  
   
 それから更に数日してしてテログループ全員が捕縛され、簡易的な裁判を執り行ったあと全員が極刑となった  
ということが、外務省からふたりへと知らされた。  
 もうどうでもいいことだった。  
 
 
 それからしばらくして七月。  
 床の間にて机に置かれた両親が入っているふたつの骨壷。その前にて笹山姉弟は正座をしていた。  
 既に近所の墓地にて両親に入ってもらう墓を購入してある。優花と春人は気持ちの整理がつかなくて両親には  
この家に留まっていてもらっていたが、ずっとこのままというわけにはいかない。  
 「お父さん、お母さん。私たちの我侭でこの家に残ってもらっていてごめんなさい。たくさん泣いたり喚き  
 散らしちゃったりしてごめんなさい。近所迷惑になることはやめなさいって言われていたのに、ごめんなさい」  
 「父さん、オレたちようやく気持ちの整理がつきました。明日にでもちゃんとお墓に連れて行きます」  
 そこで言葉は途切れ、沈黙が室内を支配する。  
 ややあって、それを破ったのは優花だった。  
 「お父さん。前々から私に早く結婚してほしいって縁談のお話とかもってきてくれてたよね。でも全部断っちゃ  
 ってなにが気に入らないんだって怒られても適当にかわすだけだったけど……。もう正直に話します」  
 傍らにいる春人へと視線を向け、そっと微笑む。この事件での心労がたたったためか、痩せこけてしまった感が  
否めないものの、元来の母譲りである美貌に陰りは一切見受けられない。  
 手と手を重ね合わせて握り合う。  
 
 「お父さん、お母さん。私、春人が好きなの、大好きなの、愛しているの」  
 「ごめん、父さん、母さん。姉ちゃんはずっと昔からオレのことを好きでいてくれて、オレも気付けば姉ちゃん  
 のことを大好きになってた。姉弟じゃなくてひとりの男として女である姉ちゃんのことを」  
 そこで区切ると見詰め合った男女は、キスを交わした。始めこそ唇が触れ合っているばかりのものであったが、  
次第にエスカレートしていき、お互いの舌同士を絡ませて唾液を交換しあう。  
 とても昨日今日でできるものではなかった。相手がどうすればなにをすれば感じて興奮していくのかを知り尽く  
しているかのようだった。  
 「はぁっんんっ、春人が高校二年生の……ぅっんときに、お父さんたちが始めての旅行に行ったときに、私が  
 私から告白したの……。だって、春人のことが好きで好きで堪らなくって、んんっ、我慢できなかったの」  
 「その頃のオレ、すごい悩んでて。回りは付き合っているやつとかもいた。オレも何人かの女の子から告白  
 されたりもした。でも、誰も好きになれなかった。だって、中学のときには姉ちゃんのことが好きなんだって  
 はっきり自覚したから」  
 そっと優花を横たえるとその上に春人は覆いかぶさっていく。弟の首筋へと両の手を回して、姉は更なる口付け  
をねだる。  
 「ちゅっん、そうしたら私たち両想いだったの……。もう私たちその場で抱き合ってセックスしちゃったの」  
 「オレはもちろん初めてで、姉ちゃんも初めてだった。終わったあと姉ちゃんのことを一生愛していくって  
 決めたんだ」  
 「私も、ずっと春人だけ……。小さい頃からの大好きな人と結ばれたのに、別の人に好意を抱くなんてできっこ  
 ない」  
 「父さん、母さん。オレたちふたり親不孝だなって思う。だけど、オレは姉ちゃん以外の人は考えられない」  
 「私たち、ふたりで生きていきます。ごめんなさい」  
 両親に隠れて何度も何度も貪りあってきた身体だ。  
 既にお互いともに切羽詰った状態に陥っているということは、手に取るようにしてわかりあっている。  
 優花のスカート内へと手を突っ込み、穿いているショーツを脱がせる。クロッチ部位には姉の高まりを証左する  
愛液が糸を引き興奮していることを雄弁に語っていた。  
 春人が穿いているズボンとボクサーブリーフを脱ぎ、ついでポケットに忍ばせていた避妊具の取り出そうとする。  
 「春人」  
 「……うん」  
 これ以上の言葉はいらなかった。  
 ふたりはこれから先の人生を夫婦として歩いていくと決めたのだから。  
 世間様から後ろ指を指されてしまう道へと、踏み込んだら二度と引き返すことのできない道程を進むことになる。  
 だが、他人からなんと言われようが思われようが、心だけでなくて身体的にもっとも深い面にて繋がりあいたい。   
 否、繋がらなければならない。  
 「いくよ」  
 「……うん、きて」  
 いきり立った剛直を慣れ親しんだ姉の膣口へと合わせる。  
 姉弟はなんら躊躇うことなく、背徳の相姦へと耽っていった。  
 
「はああっんんっ、春人、はるくん、いいのいいの、お姉ちゃんの奥をもっとズンズンしてぇ……っ!」  
 「ああっ優姉っゆーねえー……っ」  
 
 激しく絡み合う男女をやや離れた位置で見守る影があった。そう広い部屋ではないため、侵入者があれば気付き  
そうなものだが、姉弟がそれの気配すら感じることはない。  
 それもそのはずで、その影はこの世に在らざるものへとなってしまったふたりの両親であったからだ。  
 『なんていうか、若いわね。優花も春人も』  
 『……っ。母さん、なんとかせんといや、どうすりゃいいんだ!?』  
 愛妻の一言で我に返った父親。しかし、娘の裸体をガン見するのはさすがに憚られるらしく、もどかしそうにする  
ばかりであった。  
 『まあまあ、とりあえず座りましょう。あなた、お茶です』  
 どこから取り出したのか不明であるものの、生前に愛用していた夫婦お揃いの湯飲みを手渡してくる妻。夫はそわ  
そわしながらも、言われたとおりに胡坐をかいてそれを受け取ると、中身を飲み干す。  
 『んぐっんぐっ……ふぅ。飲みやすいように温めのお茶を出してくれるなんて、母さんはやっぱり気が利くな  
 ……って、違うだろ!? 実の娘と息子がセックスしてんだぞ、なんでそんな落ち着いているんだ!!』  
 『まあまあ、はい。これもどうぞ』  
 手にした急須からお代わりを注ぐ母親。反射的に口をつける。  
 『んー、今度はさっきよりも若干熱いお茶かぁ。母さんはやっぱりって……だから!?』  
 『そうね、どこから話したものかしら……』  
 息巻く夫とは対照的に妻は頬へと手をやりおっとりと考え事に耽る。ややあってまとまったらしく、少しずつ  
語りかけていく。  
 『つまり、母さんは以前から薄々ながらも優花と春人の仲に気付いていたと』  
 『ええ』  
 『だったらなんで止めなかったんだ。いや、オレに言ってくれれば……』  
 『わたしたちみたいに駆け落ちでもされて苦労してほしくなかったのよ。それに気付かないふりはしていたん  
 だけれど、あの子たちが交し合う視線とか見てるとね。もう夫婦そのものとしか見えなかったっていうか』  
 『…………』  
 
 駆け落ち云々と言われて、押し黙る夫。確かに自分たち夫婦がしてきた苦労をさせるのは忍びない。  
 『むしろ、今回の事件に巻き込まれてよかったのかもしれないわ。わたしたちがいなくなることで、あの子たち  
 への重しがなくなるわけだから。駆け落ち夫婦の利点って言ったらおかしいかもしれないけれど、遠くの町に  
 行けば夫婦としてやっていけるわ。親戚連中が行方を捜すこともないでしょうし。優花はもう事務所開ける  
 ほどの腕前だし、春人も必死に勉強して資格をとってくれるわ。だから、生活に困ることはないわよ』  
 「はんっ、ダメ、らめ、お姉ちゃん、はるくんにイカされちゃう……っ」  
 「うんっ、ゆーねえー、ダメだ、おれも」  
 「いいよ、お姉ちゃんの膣奥にたっぷり出してっ。お姉ちゃん、はるくんとの赤ちゃん欲しいの!!」  
   
 『姉弟相姦の上に、膣内出しってどういうことだ、ゴラァッ!!』  
   
 と、食って掛かっていきそうな夫を妻は引きずっていく。  
 『もう諦めなさいって。三途の川の船頭さんの話だと今回の事件で死んじゃった人たちは、神様がお詫びに願い  
 事をひとつずつ叶えてくれるんですって。私はあの子たちと生まれてくる孫の幸せをお願いするから――』  
 『……わかった、オレは健康な子供を授けてくださいって頼むよ』  
   
    
 『毎年ちゃんとお墓参りには来なさいよ』  
 『孫の顔をちゃんと見せてくれよ』  
   
 抱き合ってまた嗚咽を漏らし始めたふたりへと、母は優しく、父はやや憮然としながら語りかけ、そして  
消えていった。  
 
 
                                          (おしまい)  
 
 

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