「司令。このままじゃ研究所も破壊されて、○○計画もお終いです」  
 好き放題に暴れまくる悪の組織××のコギャル軍団が映し出されたモニターを見ながら小山田綾が叫んだ。  
「お願いです。あたしに行かせて下さい」  
 綾は基地司令の菊川詠美大佐に向き直ると、切羽詰まった様子で訴えかけた。  
「駄目よ。まだ試作段階でテストもしていない○○スーツを使用するわけにはいかないわ。どんな不具合が発生するかも知れないし、第一エネルギーの充填が不充分で、このまま出しても10分も戦えないのよ」  
 菊川司令は形の良い眉毛を悩ましげにひそめながら首を横に振った。  
「ホッホッホッ、その通りよ綾さん。それに例え出撃するにしても、あたくしならともかく、ドジなあなたになんか任せられっこなくってよ」  
 訓練学校を首席で卒業した美園生麗奈が、我慢出来ないといった風情で笑いこける。  
 ケラケラ笑い続ける麗奈を無視した綾は菊川司令に真剣な眼差しを向けた  
「司令、お父さんが残してくれた○○スーツです。娘の私が着るのなら、例え何があっても誰にも恨みは残しません。このまま全滅して、全てを失うよりはまだましです」  
「お父様・・・小山田博士そっくりな目をして・・・止めても無駄なようね」  
 菊川司令は溜息をついて肩をすくめた。  
「いいわ、行ってらっしゃい。ただしタイムリミットは8分よ。それを過ぎたら何があっても帰ってらっしゃい。いいわね」  
 ようやく笑顔を見せ大きく頷く綾。  
「おいっ、こんな奴に任せていいのかよ」  
 出入りなら任せとけと言わんばかりに教化院帰りの一文字夏美が肩をそびやかし、無口な若月可憐も心配そうな目を綾に向ける。  
「お願い。あたし、行きたいの。あたしに行かせて」  
 いつになく真剣な綾の眼差しにチームメイト達も黙り込んだ。  
                               ※  
「楽勝ぉ〜って感じィ?」  
 強化手術を施されたコギャル軍団達は、防衛軍の新型戦車部隊を物ともせず壊滅すると、研究所施設へ向けて歩を進め始めた。  
「そこまでよっ」  
 
 突然頭上から降り注いだ制止の声にコギャル軍団は面倒臭そうに振り返った。  
「悪の組織××の尖兵どもっ。ここから先はあたしが通さない」  
 綾は5階建て居住施設の屋上からコギャル軍団を見下ろして叫んだ。  
 興味なさそうにそれを見上げているコギャル達。  
「行くわよっ。転身○○!!」  
 転身コードを発した綾が屋上からダイブする。  
 コードの発信を確認した本部地下20階のメインコンピュータが、声紋検査など幾通りものチェック項目のオールクリアを待ってサテライトシステムを起動させる。  
 日本上空に待機していた3号衛星が綾の現在位置を確認するや、タキオン転換ビームに変調された強化スーツを放った。  
 空中に飛んだ綾の体が眩い光に包まれたかと思うや、原子分解した着衣が見せかけの爆発を起こして千切れ飛ぶ。  
 そして綾の姿を飲み込んだ光の固まりが弾け飛んだ時、彼女の体は強化スーツに包まれたスーパーヒロインへと変貌を遂げていた。  
 この間僅かに0.7ミリ秒の早業であった。  
「何ぃあれぇ〜?」  
「コスプレ?みたいなぁ〜」  
「超ウザくねぇ〜?」  
 突如として現れた新たな敵に不快感を隠せないコギャル達。  
「みんなでやっちゃお〜」  
 いきなり加速装置を使ってショルダーアタックを掛けてくるコギャル1を華麗な空中回転で避けてみせる綾。  
「みえみえって感じぃ〜」  
 素早く綾の着地ポイントを計算したコギャル2が先回りして待ち構える。  
「そうはいかないわ」  
 背中のバーニアを一瞬噴かせた綾は空中で軌道と体勢を変化させるとコギャル2の後方に降り立ち、振り向きざまに後ろ回し蹴りを食らわせた。  
 回転の勢いをそのままにしゃがみ込んだ綾は、軸足を入れ替えてコギャル3のルーズソックスに足払いを仕掛けた。  
 大股開きで無様にパンティを全開にしつつ、後頭部からアスファルトに落下するコギャル3。  
 
「超むかつくぅ〜」  
 コギャル1は右手を伸ばすと、指先に仕込んだマシンガンをぶっ放し始めた。  
 綾のボディアーマーの表面で乾いた金属音と火花が上がり、5ミリの徹甲弾を易々と弾き返す。  
「そんな物無駄よ」  
 傷一つ付かなかったアーマーを誇るように胸を張る綾。  
 その隙を突いてコギャル4が綾の後ろに飛び掛かり羽交い締めにする。  
「何よ、こんなものっ」  
 50倍にパワーアシストされた綾の怪力がコギャル4の体を振り払い、そのまま背負い投げにアスファルトに叩き付ける。  
 さしものサイボーグも限界を遙かに超える衝撃を受けて機能を停止させる。  
「いけるわっ」  
 綾が勝利を確信した時であった。  
 いきなり鳴り響き始めたアラーム音と共にバイザーメットの内部スクリーンのエナジーゲージが最下部で点滅を始める。  
「綾っ、限界よ。戻りなさいっ」  
 通信回路を通して司令の切羽詰まった声が響く。  
 一瞬たじろいだ綾の体にコギャル軍団の放った特殊合金製の鎖が絡み付いた。  
「ああっ?」  
 動きを封じられた綾の体に更に3本の鎖が巻き付く。  
「これで逃げられないって感じぃ?」  
 満足げにニンマリと笑ったコギャル1がダイヤモンド刃を埋め込んだチェーンソーを手に近付いてくる。  
 エネルギーが減少するとパワーアシストシステムが機能を喪失するだけではなく、防御効果を上げるマイクロフィールドの恩恵を受けられない。  
 唸りを上げるダイヤモンドカッターの高速回転は徐々に綾の体に近付いていった。  
 
「もっ・・・もうダメぇっ」  
 観念した綾は固く目を閉じた。  
「スプラッターって感じぃぃぃっ」  
 勝利の快感に酔ったコギャル1がダイヤモンドチェーンソーを高々と振り上げた瞬間、突然照射された眩い光の束が宙を裂いて迸った。  
「ギャッ。熱っ熱っ、熱ぅぅぅ〜っ」  
 超高熱ビームの直撃を受けたチェーンソーは一瞬でドロドロに溶解し、熱い飛沫となって周囲に降り注いだ。  
「何なのよぉ〜っ、一体?」  
 コギャル軍団が辺りを見回すと、居住ビルの屋上に綾と同じタイプのアーマースーツを着用した6人の姿があった。  
「みっ、みんな。来てくれたの」  
 ビルの屋上に勢揃いした虹色の天使達を見た綾が嬉しそうに叫ぶ。  
「何よぉ?アンタ達7つ子だったわけぇ?」  
 突然のことにパニくったコギャル2が、綾と新たに現れた敵とを交互に見比べながら素っ頓狂な声を上げる。  
「俺達、こんなノータリンを相手にしなきゃいけないのかよ。こういう奴等、いっちゃんムカつくぜ」  
 紫を基調としたアーマーを着用した夏美が、アームガードの中にビーム砲を収納しながら吐き捨てるように言う。  
「けど、知能指数的には貴女も大して変わらないと思うのよ」  
 いつもマイペースで周囲の空気を読めない高島操が頭部アーマーのバイザーを上げながらニコニコ顔を見せる。  
「あんだとぉ?てめぇやる気かぁ。第一、頭のおかしさではてめぇも負けないだろうがっ」  
 体力重視、というより能力値が体力側に著しく偏重している事を自覚している夏美が真っ赤になりながら操に食って掛かる。  
 偶然2人に挟まれる格好になった可憐は、無表情のまま後ずさりしてその場を逃れた。  
「そんなことしている場合じゃなくってよ。綾さん、予備のエナジーパックを受け取りなさい」  
 ブルーのアーマーを着用した麗奈がおふざけ中の2人を制止しながら綾に向けてカプセルを投げて寄越した。  
 鎖で後ろ手に縛られたままの綾は、飛んで来たカプセルをつま先で器用にリフティングすると、上手くコントロールしてそれを右手で掴んだ。  
 
 綾が背中の挿入口にカプセルを入れると同時に、待機モードに入っていたシステムが再起動を開始する。  
 綾の視界の先、1メートルの所に展開しているバーチャルスクリーン右隅のエナジーゲージが半分まで回復し、コントロールパネルのチェック機能もシステムのオールグリーンを示した。  
「うりゃあぁぁぁっ」  
 綾は気合いと共にパワーアシストシステムを解放し、50倍に高められた筋力が特殊合金の鎖をトイレットペーパー同然に引きちぎった。  
 その反動で無様に転倒する4人のコギャル達。  
「痛くなくない?」  
「オニムカァ〜」  
 口々に悪態をつきながら立ち上がったコギャルが改めて戦闘隊形をとる。  
「ってゆうか・・・アンタ達ぃ、何者なわけぇ?」  
 焼けただれた人工皮膚を気にしつつ、コギャル1が綾と6人の戦士を交互に睨み付ける。  
「あっ、自己紹介が遅れましてまことに申し訳ございません。私どもはこの度当研究所が新たに開発いたしました超伝導の・・・」  
「操ちゃんダメェ〜」  
 悠長に自己紹介と秘密の暴露を同時に始めた操を双子の風見姉妹、鈴子と蘭子が両側から押さえ込む。  
「下衆なサイボーグなんかに名乗る名なんて無くってよ。いくわよみんなっ」  
 バイザーを下ろした麗奈が真っ先にバーニアを噴かせて虚空に飛び上がり、残りの5人もそれに続いた。  
 緩やかな弧の虹を描いて地面に降り立った6人は綾と合流を果たす。  
「みんなありがと」  
 綾は感激に目を潤ませる。  
「礼を言うのは奴等を倒してからよ」  
 麗奈の言葉に深く頷いた綾はチームを戦闘フォーメーションに組み替えコギャル軍団と対峙した。  
 

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