ふと目を覚ました。頭を上げるとエプロン姿の姉が真新しいキッチンで動いていた。  
「おはよー。気分はどう?」姉は笑顔で尋ねた。  
「あー・・・んー・・・」姉の質問を飲み込み、解析し、答えを作る。  
「あー、ちょっとマシかな・・・でもまだえらい・・・」  
「えらい?誰が?」姉は目を丸くした。関西弁を知らない姉はしんどいという意のえらいを「偉い」と思ったのだろう。  
僕は訂正する気にもなれず、ヨロヨロと立ち上がるとトイレで小便をした。  
頭がフワフワし、ズキズキ痛む。もう二度と酒なんか見たくなかった。  
「あ、そうそう、昨日は迷惑かけてごめん・・・」僕は謝った。  
「本当だよ。急に吐いてその場で気を失ったように寝ちゃうんだから。びっくりしちゃった。」  
「ごめん。ち、ちょっとベッド借りるわ・・・」  
僕はベッドまで辿り着けずそのまま二人掛けソファにへたり込んだ。本当に情けないもんだ。  
「ちょっと・・・大丈夫?はい水。」姉は僕に水を差し出した。僕は上体を起こし、水を飲み干した。  
「姉ちゃん、仕事は明日からだよな。今日はちょっとここで休ませてもらってもいいかな」  
「別にいいけど・・・」僕は横になった。横になっても少しも体は楽にならない。  
それなら起きていようと僕は体を起こした。  
「寝てなくていいの?」キッチンで作業を再開した姉は尋ねた。  
「ああ、いや、うん・・・」僕は曖昧に答えテレビをつけてリモコンを操作した。  
姉がどさっと僕の隣に座った。  
「食べれる?手づくりなんだけど。」姉は皿に盛ったケーキを僕によこした。  
食欲なんてあったもんじゃないが、せっかくだから戴くことにした。  
「美味しい。チョコバナナケーキかな。」  
しっとりとしていてバナナの香りと触感が残る、甘すぎずほんのりチョコの苦さを感じる大人の味の美味しいケーキだった。  
「そう、美味しいでしょー。」  
「うん。すごい・・・」姉にこんな特技があるとは意外だった。  
僕はゆっくりと咀嚼しながらテレビを眺めた。  
少し沈黙が続いた。  
「ちょっと、ね、実はあんたに報告したいことがあって」姉は急に改まって言った。  
「ん?なんだよ急に」僕はケーキの欠片を口に放り込んだ。  
「うん・・・まぁ・・・えっと・・・その・・・」姉はもじもじとしながら言った。  
「なんだよ気持ち悪いなぁ。らしくないな」  
「じ、じゃあ言うね」  
「お、おう・・・」一体なんだろう・・・僕は身構えた。  
 
「私・・・結婚するんだよ」”結婚”という言葉は僕の頭のもやもやを一気に吹き飛ばした。  
「けっ、けけけ、結婚!?」  
「うん」姉は恥かしそうに頷いた。  
「だっ・・・誰と?」  
「この人」姉は携帯の裏に貼り付けてあった写真を僕に見せた。  
小さくて見難いが、僕よりもずっといい顔の男と、笑顔の姉が寄り添って映っている。つりあいの取れた二人だ。  
「もう付き合って3年目なんだ。大学の頃の先輩。同じ会社じゃないけど、勤め先で偶然再会してさ。  
元々そういう関係じゃなかったけど、入社初年で色々打ちのめされてた時期だったんだけど、その時良くしてもらってさ」  
姉は嬉しそうに僕に彼氏を紹介した。そうだ、家具を配置している時に感じた違和感はこれなのだ。  
この部屋はどう考えても姉一人で住むためのものではない。たぶん、この後、旦那の荷物が届き  
そこではじめてこの部屋は完成するのだ。  
「へ、へぇ、よかったね・・・」  
「それまで男なんか興味ないって思い込んでたのに、時が経つと・・・脆いもんだね」  
ここは祝うべきところなのだろうけど、何故だろう、凄く複雑な気持ちになった。  
「あんたに最初に報告しようと思って。・・・寂しい?」姉は尋ねた。  
「べ、別に寂しくはねぇよ。つか今までずっと会ってなかったんだから」僕は動揺を隠すためにテレビを見ながらそう答えた。  
「そっか」  
姉はそう言うと少し笑った。そしてそっと頭を僕の肩に凭れかけてきた。  
「あったりまえだろ」僕は平常心を装おうと必死だった。  
「私ね、あの時、あんたの子供ができたとき、実はちょっと嬉しかったんだよ」突然姉は当時の話をはじめた。  
心の奥底に仕舞っておいた記憶。僕達の愛の結晶であり、同時に僕達を引き裂く切欠を作った出来事。  
突然そんなこと言われても僕はなんて答えたらよいのか分からなかった。  
「一瞬、もしかしたらあんたと一生一緒に暮らせるかもって思ったんだよ。あんたはあの時私を愛してるって言ってくれたよね」  
「うん・・・だがもう昔の話だ」僕は言った。  
「そうよね。昔の話ね。・・・もう戻れない」  
僕自ら言ったことではあったがそれに対しあっさり同意されると寂しい気持ちになった。  
「いい人なんだろ?」僕は話題を変えた。姉の頭をそっと撫でた。あの頃のようにしっとりとした髪質ではなかった。  
「うん、とっても。」姉は涙を拭った。  
僕は姉の「とっても」という回答に正直嫉妬した。  
僕は姉の幸せを心から願っている。これは正真正銘事実だ。  
多分、姉はこの人と結婚したら幸せになれるのだろう。とすると僕はここで喜ぶべきなのだ。  
でも僕は喜べなかった。どちらかというと悔しい気持ちすらあった。  
僕は一体姉をどうしたいのだろう。自分でもよく分からなかった。  
 
「ねぇ・・・、しよっか」姉は僕に言った。  
「な、何をだよ」  
「何って、エッチに決まってんじゃん」姉は笑った。  
「ばっ馬鹿なこというなよ・・・結婚控えてんだろ」  
僕は必死に欲望を抑えて言った。  
「大丈夫だよ」  
「大丈夫じゃねぇよ。それに、俺ゴム持ってねぇぞ」  
「これがあるよ」  
姉は手を伸ばし、置いてあった鞄の中を探った。  
そしてライターサイズのピンク色のケースを取り出した。  
「なんだよそれ」  
「避妊の薬よ」  
姉はケースから白い錠剤を一錠取り出した。そしてそれを摘み、僕の口の中に指ごと突っ込んだ。  
「お、俺が飲んでどうすんだよ」  
「頂戴」  
姉はそう言うと、上半身を伸ばし僕の口に唇を押し付けた。僕は舌を使って錠剤を姉の口の内部に挿入した。  
そのまま僕達は腕を絡め、キスを続けた。  
柔らかな胸の感触を感じる。柔らかく伸縮性のある部屋着は腰のラインの美しさを強調させる。メスの臭いが姉からたちこめた。  
僕は口を離した。  
「もうそういうのはやらなって決めただろ」  
もちろんこれは本心とは違う。  
姉は喋る僕の口に指を当てて遮った。  
「もうこれが最後だから」姉は僕の膝に跨った。  
僕の勃起したそれは姉の股間に密着した。姉はそのまま僕の顔に手を添えて口付けした。  
僕はそれを拒否しなかった。  
姉は上着とシャツを脱いでブラを外した。目の前にふっくらと実った胸が露になった。ぼくはその2つの山に釘付けになった。  
姉はポイと脱いだものを後ろに投げ捨てた。そしてまた腕を絡ませキスをした。  
「大学の女の子ともよくするの?」姉はニヤニヤしながら尋ねた。  
「し、しねぇよ」  
「なんで?」  
ご縁さえあればいつでも大歓迎だ。しかし生憎法学部は文系学部にも関わらず男子が8割を占める。  
さらに所属する二輪サークルは男しかいないし、四輪サークルの僅かな女はどいつもブスばかりだ。  
バイトでたまに一緒になるJKと喋るのが唯一の異性交流だ。高校の時の方がよっぽど女に恵まれていた。  
人の事は放っておいて欲しい。  
「大学の女の子とはしないのに、お姉ちゃんとはするの?」  
「はぁ?もうやらねぇ」  
「冗談よ」姉は笑った。  
そして両手で自らの胸を揉んで見せた。  
「ほらぁ、胸には自信があるんだよ。触ってもいいんだよ?」  
姉は僕の手を掴み胸にそっと添えさせた。すごく柔らかい。そして心地よい弾力。僕はゆっくりと触った。  
「揉んでもいいし、舐めてもいいんだよ」  
姉はそっと言った。  
「い、いいの?」  
「うん」姉は優しく微笑み頷いた。僕は先端をそっと口に含んだ。  
 
「どう、スイッチ入ったでしょ」  
「入るに決まってんだろ」  
僕は恥かしくなり目を背けた。この初々しい己の反応に自分でも嫌になる。  
僕は乳首に吸い付いた。  
「ママー、おっぱいでないおー」恥かしさを隠すために言った冗談のつもりだったが  
「やだキモ・・・」  
「うう・・・」  
僕達はキスを繰り返した。  
姉はズボンを脱ぎ、僕をソファーの上に押し倒して馬乗になった。  
酔いはとっくに吹き飛んでいた。  
「やばい・・・むっちゃ緊張する・・・」  
「何?昔はあんなに手馴れてたのに」姉は勝ち誇ったように笑った。  
「じゃあー、お姉ちゃんがほぐしてあげる」姉はそう言うと僕のシャツを脱がし、僕に覆い被さった。  
僕は貪るように激しく姉の体を抱いた。  
今まで分け隔てられていた分、10年分溜まりに溜まった感情をお互いにぶつけた。  
今日だけ。今だけ。それを頭の中で呪文のように唱えながら、今の現実全てに背を向けた。  
僕は姉に覆い被さり力ずくで腰を打ち付けた。姉は激しくあえいだ。  
「駄目だ、姉ちゃん、出る・・・」  
姉は僕を抱く腕と足に力を込めた。  
「な、なにすんだよ・・・出るってば・・・」  
「出したいの?」  
「何言ってんだよ・・・離せよ」  
「出しちゃいなよ」  
「中には出さない」  
「今出したら、赤ちゃんできちゃうかもよ」  
「避妊薬、一応飲んだだろ」  
「避妊薬?あぁ、あんなもの、ただの胃薬よ。あんた本当に何にも知らないのね」  
「は・・・?」  
「こうでもしなきゃ、あんたしてくれなさそうだったし」  
「腕をどけろ」僕は腰の動きを止めた。  
「出ちゃうの?子供ができちゃったら、お姉ちゃんと彼氏の関係は崩壊だぁ」  
姉は他人事のように笑いながら言った。  
「いい加減にしろよ・・・」僕は少しイラっとした。少し冗談が過ぎる。  
「そんなことになったら、私を貰ってくれる?」  
「はぁ・・・?意味わかんねぇ」  
少しでも姉との未来を想像してしまったことに僕は余計に苛立った。  
「血が繋がってるから?」  
「しらねぇ」  
「私が好きなんだよね」  
「どうなんだろうね」僕はあえて好きだとは言わなかった。  
「出る・・・」僕は力ずくで上半身を引き剥がし、ペニスを膣から引き抜いた。  
そして下腹部の上に射精した。その勢いは姉の胸にまで到達した。  
姉の顔を見つめて射精している時、少しだけ、姉が悲しそうに見えた気がした。  
 
シャワーを浴び、しばらく僕達は特に会話も弾むことなくベッドでゆっくり過ごした。  
そろそろ帰ろうかと思った時。  
「私ね、実は大学卒業するまで、ずっと待ってたんだよ。あんたが帰ってくるの」  
「えっ・・・」突然触れたくなかった話題を振られ、僕はドキリとした。  
「でも、あんたは帰ってこなかったね・・・」  
「いや、それはその・・・」突然の事でとっさに言い訳ができなかった。  
僕は姉の方をみた。姉は俯いていた。表情を見る事はできなかった。  
「あれがあんたの答えだったんだよね・・・」  
ちがう。それは違う。僕は今だって姉が大好きだ。この世で一番大切な人だ。  
しかし・・・姉は僕達が血の繋がった姉弟だという事をどう考えているのか?  
「違う・・・違うよ・・・あの時は色々あったんだ・・・」  
「いろいろ・・・ね」  
「お姉ちゃんは今でも世界で一番大好きだよ」  
「そっか・・・そういうことか」  
姉は少し寂しそうに言った。  
しかしすぐに顔を笑顔に変え、  
「ありがとう」  
と言い、額に軽くキスをした。  
姉はマンションの出口まで僕を見送りにきてくれた。  
「じゃあ姉ちゃん。元気で。」  
「元気で、って。なんだかもう会わないみたい」  
「はは、そうかな」  
「結婚しても私はあんたのお姉ちゃんなんだから。別に縁を切るわけじゃないわ」  
「そうだね」  
一瞬沈黙が続いた。  
「じゃあ。また」  
「うん。またね」姉は笑った。姉の笑顔を見ると、僕の顔にも自然と笑みがこぼれた。  
その笑顔に中学生だった姉の姿が重なる。化粧を落としたその笑顔は全く昔と変わっていなかった。  
もうこの入り口の自動ドアが閉まれば、僕は永遠にあの頃の姉とは会えない気がする。僕の大好きなお姉ちゃん!  
突然、僕の目から涙が溢れてきた。一体何年ぶりの涙だろうか。  
それを見た姉は玄関で僕を抱き寄せた。  
「泣くな。男の子でしょ。」姉は僕のおでこをコツンと叩いた。  
「ごめん・・・ごめん、やっぱり僕、素直に喜べないや。おかしいね、幸せになってほしいはずなのに」  
しばらく姉は黙っていた。  
「馬鹿・・・」  
姉は涙を流しながら僕の腹をポンとグーで叩いた。僕も涙が止まらなかった。  
「ねぇ、私にどうしてほしい?」  
「どうって・・・そ、そりゃ一人の弟として、姉ちゃんには幸せになって欲しいと思ってるよ」  
今更どうしようもない。僕が彼から姉を奪ったとして、幸せになれるだろうか?とてもそうは思えない。  
僕は、今の姉が、僕が自ら退き居なくなった所で作り上げた幸せをぶち壊してまで彼女を幸せにできる自信などなかった。  
もう昔の姉は消滅したのだ。僕自らの手でそうしたのだ。  
「あんたのそういうところが好きなところで、同時に最大の恋敵だよ」姉は笑った。  
「なんだよ、別に邪魔しようって訳じゃねぇよ」  
「あー、はいはい、もういいから。黙って」姉は僕の口を手で押さえた。  
 
「なぁ、最後に一つ聞かせて欲しい」  
「何?」  
「何故今日僕と寝てくれたの?」  
「どうして?忘れたの?約束じゃない」  
「約束・・・?」  
「あんた本当に忘れたの?あんたが小学5年の時、駅で約束したじゃない。  
キスの続きは、7年後会った時にしてあげるって」  
「そうだっけ・・・」  
「最っ低・・・」姉は口を膨らませた。冗談じゃなく少し怒ったようだった。  
「嘘、実はあんたの意思を確かめたかっただけ」  
「俺が結婚を反対するとでも?」  
「そういうのじゃないわよ馬鹿。馬鹿、あんたホント馬鹿ね。昔の方が数倍賢かったわ」姉は僕のわき腹を殴った。  
「なんだよそんな言い方ないだろ」  
「それとね」姉は目線をずらした。そっちには、30代後半と思われる母親と、小学高学年くらいの女の子と  
低学年くらいの幼い男の子が仲良く手を繋ぎながらエレベーターに入っていった。  
「少し昔に戻りたかったのかな・・・」姉は言った。  
もしかすると、実は姉もそうなのかもしれない。  
昔の僕達の関係を少し恋しくなったのかもしれない。今よりももっと純粋だったあの頃。  
何も考えずに愛し合えたあの頃。  
僕は少しそんな気がした。そう思うと何故だろう、少しだけど気持ちが楽になる。  
「幸せになってね」必死に笑顔を作った。  
「ありがとう」姉は涙を拭いた。そしてもう泣かなかった。  
マンションの出入り口を出た。ガラスの自動扉が閉まった。  
もう姉の声は聞えないし僕の声も姉には届かない。でも確かに姉の姿は今目の前にある。  
僕は手を降った。姉も振り替えした。すると姉は何か思い出したのだろうか、すぐにエレベーターの方へ戻って行って  
見えなくなってしまった。  
僕は体を方向転換し、駅へと歩を進めた。  
後ろを振り返る。マンションの入り口の明かりのみが見えた。もう姉は部屋へ戻ってしまったのだろうか。  
僕は止らず歩き続けた。幸せにな。姉さん。  
 

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