「あれだって。あれ。ほら、襖の上の部分。」姉は嬉しそうにテレビに映る心霊写真を指差した。  
テレビには旧い和室の写真がアップで映し出され、低い声のアナウンサーが説明している。夏によく放送される幽霊系の番組だ。  
「うん。分かったってば。もういいから。」僕は目を背けて夕飯の豚肉をほお張りながら言った。  
昔から姉は心霊写真だとか幽霊だとかそういうのが大好きだった。  
でも僕は大嫌いだった。小学高学年にもなって・・・恥ずかしいねーと、中学生の姉はよく僕をからかった。  
「知ってる?幽霊ってさ、怖い怖いと思うと余計に寄ってくるんだってね。」  
またはじまった。姉の僕虐め。姉は僕を怖がらすのが大好きなのだ。  
「あんたの周りにもその内集まってくるかもねー」姉はクスクス笑いながら食べ終わった自分の茶碗を持ち  
キッチンの方に運んでいった。  
僕は姉を無視しながら視界にテレビが入らぬように飯を口に書き込んだ。  
「わっ!!!!!!」っと言いながら突然姉は背後から両手で僕の肩を掴んだ。それに驚いた僕は口から飯を吹きこぼし  
茶碗を落として割ってしまった。ゴハンが盛大に散らばった。  
「な、何すんだよ!!!」  
「うわー、何やってんのバッカじゃないのー!」姉はケラケラと笑った。  
母は姉を叱ったが姉の笑いは止まらなかった。  
「そんな弱虫だから女の子にモテないんだよー」僕は悔しくて悔しくて目元に涙を滲ませた。  
「うるさい!!ボケ!!死ね!!」僕は破片を拾いながら涙がポタポタと落ちる床を掃除した。  
姉に泣かされるのは毎度の事だった。確かに僕にも涙脆いところはあった。  
というか、僕が情けないところさえ見せなければ姉はそんなに僕を苛めたりはしなかった。  
僕にはそれがなんとなく分かっていたから、つまり、原因は情けない僕にあるから、思い切り反発することがなかなかできなかった。  
大々的な喧嘩に発展することはそんなに多くは無かった。もちろん、殴り合いに発展するような  
喧嘩も何度かしたことがあるにはあるが、そういう喧嘩が多かったのはもっと幼い頃の話だ。  
基本的に姉は僕に優しかった。普段は仲も良く、いつも一緒に居た。  
 
家族はみんな風呂に入り終わり、寝室でテレビを見ていた頃。  
僕は自室に入り、窓を全開にして扇風機を強にした。そして算数の問題集を取り出し  
夏休みの宿題をはじめた。さっきから隣の姉の部屋からは話し声が聞こえた。  
家の電話の子機を部屋に持ち込み(今時の中学生は携帯持つのは常識だろうけど・・・)中学校の友達と話しているのだろう。  
「うるさいなぁ・・・」僕は壁を叩いた。  
ドスン!!重い音が返ってきた。怒った姉が足で壁を蹴ったのだろう。  
 
 
数分前から降り始めた雨が強くなってきた。ザーザーと煩く、音量が小さめのテレビの音を掻き消すほどだ。  
僕は雨の侵入を防ぐために念のため窓を2/3程閉めた。完全に閉めると部屋に熱が篭るような気がしてできなかった。  
外がカッと明るくなる。そして遠くから雷の轟音が聞こえた。さっきから音がだんだんと近くなってきていた。  
僕はワクワクしながら外を眺めた。僕は雷や地震が大好きだった。自然の驚異的な力には毎度の事ながら驚かされる。  
対して姉はそれが大の苦手。僕が姉を馬鹿にできる数少ないシチュエーションだった。  
その時、外が一際明るく輝いた、と思った瞬間凄まじい轟音と地響きが家を襲った。  
すぐ間近に堕ちたのだろう。僕はスゲーと声を上げた。  
ドタドタドタ!!!!姉が僕の部屋に駆け込んで着た。そしてベッドに飛び乗り布団を頭から被った。  
「何してるの?」僕は半笑いで尋ねた。  
「今、絶対堕ちた。近所に堕ちたってば!!!」姉は絶叫した。  
「馬鹿じゃねーの」僕はそれを嘲笑った。  
また外が昼間みたいに明るくなった。そして轟音。それと同じくらいの音量で姉は泣き叫んでいる。  
「オラ、どけ!僕が寝るんだ。自分の部屋に戻れ。」僕は姉のケツをこついた。  
足元に電話の子機が転がっていた。多分姉が握ったまま部屋に走ってきたのだろう。廊下の電話だ。  
僕はそれを戻すために部屋を出た。すぐに姉が僕を追いかけてきた。  
「ま、待ってよぉ・・・」  
「・・・子機戻しにきただけなんだが。」  
「トイレについてきて欲しい。」目元に涙を湛えた姉が苦笑しながら言った。先ほど程ではないがまだ雷鳴は轟いていた。  
「姉ちゃん・・・もう中2だろ・・・再来年は高校生になるんだぞ・・・」  
「あんただって再来年は中学生だよ。そんな歳でお化けが怖いなんて恥ずかしくないの?」  
痛いところを突いてくる。口喧嘩で姉に勝った試しがない。  
「分かった。分かったから・・・ついていくってば。」僕は深い溜息をつき、渋々了解した。  
 
「居るー?」姉はトイレの中から僕の存在を確認した。  
「あぁ居るよ。」疑り深い奴だ。第一、僕がここに居るからなんだというのだ。もしも家に雷が落ちたら  
僕がここに居ようが居まいが感電するならするだろうし、しないならしないだろう。別に一緒に居る必要はないじゃないか。  
トイレからチョロチョロと小便をする音が聞こえる。  
「居るー?」姉はまた確認しようとしたが僕はあえて返事をしなかった。  
「ねぇ!居る!居るの!?ねぇ!!!」ガラガラガラ!大急ぎでトイレットペーパーを手繰る音が聞こえる。  
どんなに怖くてもケツは拭くのだなと僕は必死に笑いを堪えながら、トイレの隣の客間のドアに隠れた。  
また雷の轟音が家に響いた。  
「きゃあああああああああ!!!!」姉の絶叫がトイレから響いた。  
そっとドアからのぞくと姉は下は下着のまま階段を駆け上がっていった。  
僕は大笑いしながらトイレを流し、電気を消して姉を追っかけた。  
部屋に戻ると姉はまた布団を被っていた。  
「なんでそんなに怖いんだよ!ここは住宅街だし絶対堕ちないのに」僕は大笑いしながら言った。  
よく見ると姉は大泣きしていた。  
「なさけねー!それでも中学生かよ!」笑いが止まらない。  
僕は布団に包まる姉をそのままにし、上機嫌で机に就いて今日の分の宿題を仕上げてしまった。  
10分ほどで終わったが、まだ雷雨は収まる気配がない。これはしばらく降りそうだとテレビの天気予報が伝えた。  
映像では道が川のようになった市街地が映っている。時間は午後11時。流石にもう寝る時間だった。  
「おい、寝る。どけ。」僕は布団を捲り上げた。  
姉はノースリーブにパンツという恥じらいも糞も無い格好で伏せていた。  
「おい!!どけって!」僕は足を姉の腹にコツンと当てた。  
「今日はここで寝る。」姉はヒクヒクと喉を鳴らしながら鼻声で言った。相当泣いたのだろう。  
「はぁ!?ふざけんな!どけ!」僕は姉の腕を持ち、力づくでどかそうとした。  
だが姉は踏ん張った。  
「冗談じゃない・・・もう雷なんか収まっ―」  
ゴゴゴゴォ!!!  
「らないみたい。」姉は耳を必死に塞いでいる。これでは埒があかない。  
「はぁ・・・分かったよ。ここで寝ていいから。とりあえず、僕が寝るスペースを頂戴。」  
姉は無言で壁側に寄った。僕は空いたスペースに、姉に背中を向けてゴロンと寝っ転がった。  
そして布団をベッドの下に落とした。姉は布団を被るといったが、この猛暑に冗談じゃない。布団被るなら出て行けと  
言ったら姉は渋々布団は諦めた。  
 
テレビを消すと部屋は雨の音と雷の音、そしてたまに光る雷光のみが支配した。  
姉の静かな息が聞こえる。だいぶ落ち着いてきたようだった。  
僕はそっと目を閉じた。その直後。背中に生暖かいものを感じた。  
僕は姉に背中を向けて横向きに寝ていた。背中に姉がそっと寄り添ってきたのだ。  
「暑いな。離れろよ。」僕は言った。「嫌。」姉は消えそうな声でそっと言った。  
ゴロゴロゴロ・・・相変わらず雷は収まる気配がない。  
音が鳴る度に姉の腕に力が入った。徐々に僕の体を抱きしめる形になってゆく。  
あまりに暑苦しいから僕は姉の方に体を向きなおし、言った。  
「なぁちょっと離れろよ」と言った直後。姉は僕をギュッと抱きしめた。  
湿った姉の体。シャンプーなのかボディーシャンプーなのか分からないが、心地よい柑橘系の匂いがする。  
姉は足を僕の腰にまとわりつけた。姉の小ぶりで柔らかな胸が僕の胸に張り付いた。少し硬い乳首の感触がする。  
姉の華奢な体が完全に僕に密着した。  
体温がぐんぐん上がってゆく。気温のせいだけではない。心臓はドクドクと鼓動し、不本意にも僕の股間は反応しはじめていた。  
「何・・・だよ・・・」僕は声を絞り出した。しかし抵抗はしなかった。姉の柔らかい体に抱かれるのは嫌な気分ではなかったのだ。  
湿ったおでことおでこがくっつく。姉の鼻息が僕にかかる。かすかに匂う。  
ドキンと心臓が跳ねた。急激に小さな股間が膨れ上がる。僕は一瞬目を逸らしたが、また姉の目に戻す。でもまた逸らす。  
これを繰り返した。  
「姉ちゃん・・・あ、暑いよ・・・」股間がグイグイと姉の下着しか着ていない下腹部を押している。僕は腰を屈め、股間を遠ざけようとした。  
しかし姉が足にグイと力を込め、また引き寄せた。  
「ね、姉ちゃん・・・」僕はどうすることもできなかった。  
姉は僕のおでこにそっとキスをした。  
「へへ、しょっぱいでしょ。」少し汗をかいていたので僕は姉にそう言った。  
その時、姉が僕の唇を強引に奪った。姉の唇は僕の口を吸おうとした。  
動揺し、とっさに口を閉じてしまったが、性的な興奮を抑えきれずにいた僕は口をゆっくりと開き、姉の舌の進入を許してしまった。  
ヌラヌラと舌が僕の舌に絡んできた。歯磨き粉のにおいと、姉独特の息の匂いが入り混じったものが鼻の奥を刺激し、  
姉の唾液が僕の口内を犯す。グチャグチャと液体が交じり合った。  
心臓の心拍数が上昇し、鼻息が荒くなる。僕も姉の体に抱き付いた。姉も僕の体をより力を込めて抱いた。  
たった数秒の出来事だった。姉は僕の口から離れた。  
「お姉ちゃんのこと、好き?」姉は真顔でそんな質問をした。  
よく冗談半分で姉はそんなことを聞くことがある。僕も冗談半分で大嫌いだと答える。  
だが今回はいつもと様子が違うことくらい僕みたいな馬鹿にでも分かった。  
僕はもう、とてもじゃないが姉の顔なんて直視できる状態じゃなかったから、すぐに俯いた。  
そして、うん、と頷いた。笑顔になった姉は僕の頭を引き寄せ両手で抱いた。  
僕達はほぼ抱き合った状態で時を過ごした。といっても数分程度だが。興奮は収まる気配がない。  
気がつけば雷はとっくに止み、雨だけになっていた。二人は汗だくになっていたが、不快ではなかった。  
「寝ようね。」姉が切り出した。  
「うん。」僕は同意した。そして姉は僕に背中を向けてしまった。僕も背中を向けることにした。  
しかしなかなか興奮が収まることは無かった。姉という女体の確かな感触がリアルに僕の体に焼き付けられ離れなかった。  
股間は納まりそうにない。僕は背中で常に姉の存在を強く感じた。姉の息遣いと雨の音だけが聞こえた。  
僕は興奮を抑えるために目を閉じた。  
 
 
翌日。目覚めると既に姉は居なかった。部活に行ったのだろう。未だに昨日の夜の事が信じられない。  
考えてるうちに、じわじわと後悔の気持ちが出てきた。僕達は姉弟なのだ。一体何をやっているのだろうか。  
気持ちが悪いことだ・・・僕の理性がそう考えようとした。でもそれはなかなか難しいことだった。  
姉の体の熱や弾力はまだ僕の股間を刺激していた。だが、当時の僕はこの股間の膨張が何を意味しているのかは理解できていなかった。  
昼頃。僕は1階のダイニングの床でラジコンを組み立てていた。  
テーブルには僕と姉の昼食がラップをかけて置いてっあった。両親は共働きで夏休みはほぼ姉と二人で過ごすのが毎年の事だった。  
僕は真剣に悩んでいた。間もなく姉が部活から帰ってくる。僕は一体どんな顔で出迎えればいいのか。  
全く解決策が見つからぬまま、玄関から「ただいまー!」という元気な声が聞こえてきた。  
姉がリビングに飛び込んできた。  
「何!?エアコンは!?つけてないの!?何で!?」姉は次々に窓を閉めると  
僕の扇風機を取り上げ、風量を強にして制服の中に風を送り込んだ。そしてエアコンの電源をオンにした。  
姉の変わりの無さに僕は唖然とした。ぽかんと見つめる僕に姉が気付いた。  
「何?お姉ちゃんが可愛くて見惚れてるの?キモ〜」姉は笑った。昨日の事をもう忘れてしまったのだろうか。だがそんなはずが無い。  
しかし、姉がこうも普通だと僕もぎこちないながらもそれに合わせるしかなく、平常心を装った。  
昨日は姉が少しおかしかったのだ。確かに昨日の雷は僕自身が驚く程激しかった。  
だから恐怖に頭がヒートしたのだろう。僕は無理やりそう考えようとした。  
でも、姉のこういった屈託のない笑顔を眺めていると、だんだんとそんなことどうでもよくなってくる。  
姉の笑顔にはどこか相手を安心させる不思議な力があった。  
しかし、心のどこかで、これで済むはずがないと思っているのも事実だった。  
これから突き進むかもしれない背徳の行為へ期待していることを否定しきれなかった。  
 

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