「果穂のばかやろー!!」  
「あんたがいつも同じ事するのがいけないのよ」  
「だからって…だからって、これはねーだろ!」  
 土曜の閑静な住宅街、その中の一軒である姉弟の喧嘩が勃発していた。  
 加害者と思われる姉は、膨らみかけの胸の前で腕を組んでにやにや笑っている。  
 それに対して、被害者と思しき弟は、女の子のような優しい顔立ちの大きな目  
に若干の涙を浮かべつつ、額に書かれている肉という漢字を指差して叫んでいた。  
「いつも同じことって、ソファで寝てただけじゃねーかよ!!」  
「ソファで寝ないでって毎回言ってるでしょ。邪魔なのよ邪魔」  
「だったら起こせよバカホ!!!」  
「馬鹿って言ったほうが馬鹿って言う言葉知ってる?」  
「くっ…う、うるさい!!」  
 小学校高学年の男子が中学生の女子にどう考えても勝てるわけが無い。それは  
弟…あゆむも今までの経験上嫌というほど分かっている…分かっているが…  
「油性マジックで人の顔に落書きとか意味わかんねーよ!」  
 ここで引いたら男が廃る、子供ながらに意地を張って言い返す。  
「毎回同じこと言われてもやめない方が意味わかんないわよ」  
「う、う、うるさい!!」  
「うるさい以外に言うこと無いの?あんたの声のがうるさいわよ」  
 
 …所詮は意地でしかなかったようだ…すぐに反論の余地が無くなっていく。  
 
「そもそも、私一昨日も言ったわよね?その前も言った気がするけど?」  
「うぅぅ…」  
 事実を突きつけられて一歩二歩下がるあゆむ。  
 黙っていればスマートで可愛くて自慢できる姉…のはずなのだが、一回口を開  
くとあゆむが泣いて謝るまでその口撃が止むことは無い。  
「大体あんたね、今日お父さんとお母さんが居ないからってお昼まで寝てるとか  
 意味わかんないわよ。どーせ昨日の夜、お母さん居ないの良い事に、遅くまで  
 ゲームやってたんでしょ?」  
 
「………」  
 図星を指されてぐうの音も出なくなる。  
「当たり?あんた隠し事下手よね〜」  
「………」  
 言葉に詰まったあゆむに対して一層高圧的に出てくる果穂。  
「どうしよっかな〜、お母さんに告げ口しちゃおっかな〜」  
「………」  
 猫がネズミをいたぶるかのように言葉を継ぐ。いつもこうしてあゆむが泣いて  
謝るまで口激が続くのだ。  
「……う、うるさい…」  
 いつもならこのあたりで本気で泣き始めるあゆむのはずなのだが、今日は様子  
が違った。両手を握り締め、俯いたまま小声で呻くように反論する。  
「だから、うるさい以外言えないの?」  
「うるさいうるさいうるさぁぁぁい!!」  
 今まで堆積した鬱憤か、はたまた精神的に何かあったのか、おもむろに大声で  
叫んで果穂にタックルするようにぶつかった。  
「きゃあっ!!」  
 小学生と中学生、姉と弟とはいえ年はさほどはなれていないためあゆむの勢い  
を受け止めきれず、押し倒されるように尻餅をつく果穂。  
「ちょ、ちょっとあゆむ!何するのよ!!痛いでしょ!!」  
 あゆむの下敷きになって喚くが、押し退けるほどの力はなく、手当たり次第叩  
くように手を振り回す。  
「いたっ、くそ…やめろよっ!」  
「やめるのはあんたよ!どきなさいよっ!!」  
「うるせー!」  
「きゃあっ!!」  
 とうとう切れたのか、果穂の上からどいたと思えば、すばやく両足首を抱え込  
んで身動きできなくしてしまう。  
「ちょっと、何すんのよ!バカ!あほ!スケベ!変態!」  
 膝丈のスカートがまくれあがるのを必死で抑えながら思いつく限りの罵詈雑言  
を浴びせかける。  
 
「バカホ覚悟しろ!お前が泣くまで電気あんましてやるからな!!」  
「バカじゃないの!?電気あんまとかお子様にも程があるわよ!」  
「うっせぇ!!くらえっ!!」  
 靴下に包まれた脚を果穂のスカートに突っ込み、下着越しに股間へ押し付けて  
振動させる。  
「きゃはは!ちょ、ばかぁ!!あははは!!くすぐった、ばかあゆむー!!」  
「くすぐったいわけねーだろ!このっ!このっっ!!」  
「きゃははははは!!やめ、やめて、死んじゃう!くすぐったくて死んじゃう!」  
 男の子同士のイメージで電気あんまをかけたあゆむだが、予想と違って全く痛  
がるどころか、笑い転げる果穂を見て焦りが浮かぶ。  
「あは、あははは!ば、ばかあゆむ、やめ、あはははは!ゆるさな、あはは!」  
 笑いながら怒る姉に冷や汗が落ちる。この姉のことだ、開放すればたちまち倍  
返ししてくるのは間違いない。  
 今している電気あんまの倍返し…考えるだけで下腹部が痛くなる気がする。  
「や、やせ我慢するなよ!」  
 必死で電気あんまをしながら姉に言う。しかし顔を真っ赤にして笑う姉は本当  
に効いていないようにも見える。  
 実際、男同士であれば急所というものが足の裏でも良く分かるのだが、果穂の  
股間に押し当て振るわせる足にはその感触が無い。  
 のっぺりした股間を振動させるだけ…やっぱり本当に効いていないのかもしれ  
ない。  
「……うぅぅぅ」  
 絶望に支配されかけながらも何とか電気あんまを続けるあゆむ。  
「やめなさ、ひんっ!」  
「え?」  
 あせったせいか力を込めすぎたせいか、あゆむの足が滑って踵が果穂の股間を  
擦り上げるようにした瞬間、それまで笑いを堪えていた姉の口から悲鳴ともとれ  
る声が上がった。  
「…もしかして…」  
 慌てて口を押さえる果穂を見ながら、スカートの中の足の位置を調整する。  
 
「ここが急所か〜!!」  
 先程悲鳴が聞こえた部分…股間の少しだけ上部分に足を押し当て、再び強烈な  
電気あんまを再開する。  
「っ!い、ちょっ、いたっ…んっ!ふぐっ…ぁ、ぅっ…」  
 先程まで笑い転げていたのとうってかわり、耳まで紅くした顔で痛いのか苦し  
いのか分からない声を上げつつ、必死であゆむの足を押し返そうと両手で股間を  
押さえる。  
「へへん、バカホ、降参したら許してやるよ」  
 男の子と女の子、その上手と足、全く勝負にならないのをいいことに、優勢に  
なっていきなり強気になるあゆむ。  
「だ、だれ、が…あ、あんたなんかにぃ…」  
「じゃあやーめない」  
「ゃう!あっ、んんっ!っ、ふゃ!」  
 しかし果穂にも姉の意地がある、歯を食いしばって睨み付けるが、再び始まっ  
た電気あんまに呆気なく身体を反らせて声を漏らす。  
「ほらほら、バカホ、いい加減に降参しろよ〜」  
「あ、ふぁ、んんっ…ぅ、く…」  
 あゆむの言葉に目を瞑って首を振る。  
「じゃあ俺の必殺技をくらえ〜!!」  
 あくまで降参しない姉に痺れを切らし、疲れた右足を左足と変えて踵を押し当  
てる。そして今までで一番強い振動をたたきつけた。  
「っっっっっ!!!!!」  
 余りに強い刺激に果穂は目を剥き、あゆむの足をスカートの上からぎゅうっと  
おさえて硬直し…  
「バカホ、お漏らししてやんの」  
 靴下に感じる僅かな湿り気にバカにした口調で言うあゆむ。  
「……許さない…ん、だから…」  
 
 スカートを押さえることをあきらめたのか、両腕で顔を隠しながら呻くように  
言う果穂。しかしその態度にあゆむはカチンと来た。  
 
 何故だか分からないが胸にもやもやが溜まり、姉を無茶苦茶にしたい衝動に駆  
られる。  
「バカホが謝るまでぜってーやめないからな!」  
 そして、一旦やめていた電気あんまを再開する。  
「っっ!ば、かあぁ!!あゆ、やめっ!!」  
「謝るまでやめねえって言ってるだろ!!」  
 じたばたと暴れる果穂の足をがっちりと押さえ、果穂の急所へと足の裏を押し  
あてて電気あんまを続ける。  
「っっ! っ、ぅ…ふ、く…んんっ…」  
 やがて抵抗が収まり、あゆむの脚の動きにあわせてガクガクと腰を震わせ、両  
手で顔を隠したままいやいやと頭を振る。  
「…は、ひぅ…ん…んん…く、ぅ…ぁ…ぅく…」  
 謝るまでやめないと言った以上辞めるわけにはいかない。  
「っっ…は…ぅ……ぅ…ぁ…っ…」  
 段々と果穂の声も小さなうめき声になり、あゆむも不可思議な感覚を胸に黙々  
と電気あんまを続ける。  
 
*    *    *    *    *    *    *    *  
 
「う、ぁ…っ…んん…ふ、ぅ…は…ふぐっ…ぅ、ぃ…」  
 どれだけの時間電気あんましていただろうか?  
 最初僅かだった靴下の湿り気は、いまや水音さえ立てそうな程になり、その気  
持ち悪い感触にあゆむは眉を寄せつつも、そのまま無言で足を動かし続ける。  
「……ぁ……ぅ…ぃ…ゃ……ぁぁ…ぅ、ぁぁ…」  
 執拗な電気あんま地獄に既に顔もスカートも隠す余力が無いのか、両手を投げ  
出して小さく悶える果穂。  
「……は…ふ…」  
 しかし足を振るわせ続けるという作業は思いのほか疲労が溜まる。やがてあゆ  
むは足が痛くなってきて小さく吐息を漏らした。  
 
 だがまだ姉は降参していない…  
 
 ここで辞めるわけにはいかない…  
 
 …ここで辞めたくない…  
 
 自分でも良く分からない気持ちに襲われたあゆむの視界の端にあるものが入っ  
た。  
 
 電気マッサージ器  
 
 お父さんが肩こりをほぐすのに使っている、スイッチを入れると細かく振動す  
る機械。  
「……ぁ、ふ…」  
 あゆむの足が離れた事に安堵したのか、全身脱力させて丸い吐息を漏らす姉を  
横目に、電気マッサージ器を手に取った。  
「…………」  
 
 真っ赤な顔、荒い息、半泣きの姉。  
 両手両足を投げ出している果穂の足元に座りなおし、電気マッサージ器をそっ  
と押し当てる。  
「…ねーちゃん…」  
 こくんと唾を飲み込んで…スイッチを入れた。  
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」  
 スイッチは弱だったが、あゆむの足とは比べ物にならない振動、硬さ、そして  
ピンポイントに襲い来る激振に、声なき悲鳴を上げて背を反らす果穂。  
「うっ、わ…」  
 姉のあまりの反応に一瞬驚くも、何故かもっともっとやりたい衝動に襲われ、  
そしてそれに従って果穂の身体を押さえ込む。  
「〜〜〜〜!!〜〜〜〜〜!!!〜〜〜〜!!」  
 ぐちゃぐちゃに濡れそぼった白いパンツ。自分の履いているパンツとの違いを  
改めて感じながら、足の電気あんまと違って間近にそれを見つつ姉の反応を観察  
する。  
 やがてある一点に押し当てると姉が激しく悶えることに気づいたあゆむは電気  
マッサージ器をそこへ押し当て、こねるように動かす。  
「〜〜〜!!〜〜〜!!!!っっ!〜〜!!!」  
 既に言葉を発することさえ出来ず、狂ったように頭を振り、腰を跳ねさせ悶絶  
する姉。  
 そこにはいつもの怖さも可愛さもなく、妙にドキドキする女の子が居るだけだっ  
た。  
「ね、ねーちゃん…強くするよ…」  
 果穂が返事できるとは思わない。しかし果穂に宣言するように呟くと、震える  
指でスイッチを強に入れる。  
「!!!!!!!!!!!!!!!」  
 機械の無慈悲な振動が果穂の急所を直撃し、それまでのが全て吹っ飛ばされる  
ような感覚が襲う。  
 その余りに強大な激振に息さえできず、あゆむを跳ね飛ばしそうな勢いで身体  
をそらす果穂。そして次の瞬間、マッサージ器を押し当てられた股間から黄色い  
液体が勢いよく噴き出した。  
 
*    *    *    *    *    *    *    *  
 
「…………」  
「…………」  
 けだるい昼下がり、閑静な住宅街の一角の家では姉弟二人がお手伝いなのか、  
黙々と掃除をしていた。  
「…………」  
「…………」  
 雑巾で丹念に床を拭き上げ、その雑巾をお風呂場の脱衣所へもっていく。  
「…………」  
「…………」  
 脱衣所にある手洗いで雑巾をしっかりと洗い、絞り、干す。  
「…………」  
「…………」  
 十二分に可愛いと通じるお姉さんと、ぱっと見女の子にも見える柔和な顔つき  
の弟、ひたすら無言でしていた掃除を終え、姉を前にリビングへと戻ってきた。  
「………ねーちゃんごめん」  
「…………」  
 二人並んでソファに座って暫く、弟が口を開くなりいきなり謝った。  
「……まさか…あんなになるて思わなくて…ごめん…」  
「…………」  
 謝る弟をにらみ付ける姉。可愛い顔が台無しである。  
「……ほんと…ごめん…」  
「……ごめんですんだら警察要らないわよ」  
「……うっ…」  
 低く押さえた姉の声にびくっと縮こまる。  
「…あんたのせいで…癖になりそうじゃない!!」  
「………へ?いてぇぇ!!」  
 姉の意味不明な言葉に思わず顔を上げると、目の前には拳。襲いきた痛みに情  
けない声を上げ、鼻っ柱を押さえてソファに小さくなる。  
 
「ね、ねーちゃん、今なんて…」  
「い〜い、あゆむ?今日の事お母さんに言われたくなかったらまたしてよね!」  
「……………え?」  
「何回も言わせないでよ!!」  
「っ!!」  
 振り上げられた手に反射的に顔をかばうと…股間に襲い来る激痛。  
「いってえぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜!!!!」  
 フェイントで殴られた股間を押さえ、ソファから転がり落ちて床に丸まるあゆ  
むを見下ろす果穂。  
 スカートの中が丸見えなのだが、下腹部に鈍く響く傷みにそれどころではない。  
「だ〜か〜ら〜、また電気あんましなさいってこと!」  
「………ね、ねーちゃん…」  
 痛みに涙目になりながら言葉を搾り出す。  
「……へ、変態…」  
「!!!!」  
 あゆむの一言に、果穂の顔がみるみる茹蛸のように真っ赤になって…  
「ばかあぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!!!」  
「ぎゃあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」  
 あゆむの股間へ果穂のスマートな足が容赦なく突き刺さり、近所に響くほどの  
悲鳴を上げて悶絶するあゆむだった。  
 
 終わ…り…?  
 

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