「久しぶりの宇宙はどう?X」  
「こっちは慣れてるわよ。地上も宇宙も一緒」  
「それは頼もしいわね・・・来たわ!気をつけてね!」  
遠方から青と黄色のVAが飛行してくる。間違いなくレプトスとフォーディだろう。  
「他はAEX隊が相手をする!ブロディアは2機に集中して!」  
ハルカからの指示を受け取った2機は戦闘準備に入る。  
 
「いいね・・・この仕様は。フォーディは伊達じゃないわ。最初からこう改造してくれれば良かったのに」  
ロングレンジライフルを構えるフォーディ。  
「エリナってのもムカつくわね。奴を殺したら後であいつらもぶっ殺そう・・・それが、それがいいの・・・フフフ」  
電磁ムチをシュルリと右腕から出すレプトス。  
 
「血祭り・・・血祭りに上げてやる!どいつもこいつも!!!」  
レプトスの思念にXが不安を抱く。  
「何なの・・・河合さんは・・・」  
「河合さん・・・いや、レプトスにはもう人間としての意志はこれっぽっちも残ってはいない。Xの気持ちは分かるけど・・・」  
「おかげで気分は最高ォー!アンタらなんか虫ケラ以下!」  
「その装甲を、装甲を外してっ!河合さん!」  
Xが必死になってレプトスに語りかける。  
「アタシはこれからあんたらをブチ殺すのよ!今更降りてどーすんのよ!」  
「もうやめて、X。玉井さんのことを忘れたの?」  
「・・・・」  
もうレプトスを破壊するしかない。覚悟を決めるX。  
 
「あなた達もわたしと同じ人殺し。何の感情もない、ただの殺人マシーン。分かってるの?」  
冷徹な口調で語るフォーディ。  
「う・・・そんなこと・・・」  
思わず身じろぎするX。  
「2機は既に自我を失っている!破壊して!」  
ハルカから非情の指令が下る。  
「やっぱり・・・やるしかないの?」  
「ここは戦場よ!感傷に浸っている暇なんてない!フォーディ、レプトス・・・勝負よ!」  
 
ライア軍AEX隊が量産型ブロディアを引きつけている間に、2機のXXは  
敵の2大A−AEXと対峙していた。ここでケリをつけるべきだ・・・・  
4機全機がそう感じていた。  
 
フォーディと対峙するXX。  
「ラサ基地はもう潰した。もう貴方達に逃げ場はない!」  
「アンタのせいでね。おまけに、合流しようとした部隊もこのザマよ」  
「心配しなくても、あなたもすぐ行くべきところに送ってあげる」  
「ハン、楽しみね。だが、そこへはアンタだけが行ってね!」  
フォーディがVA形態に変形して猛然と突っ込んでくる。  
 
「なんだ、まだいたのアンタ?」  
「あなたを倒すためにわたしはここまで生きてきた!」」  
「雑魚は雑魚らしく、隅っこに引っ込めよ!」  
「あなたみたいに遊び半分で戦う奴がいるから・・・この戦争が終わんないのよ!!」  
腕部ビーム砲をかわすX。  
 
「XX!アンタは私の手で潰す!」  
「XXの機動性を甘く見ないで!」  
すれ違い様にVA形態のフォーディにビームライフルを当てるXX。  
「やる!でもまだ墜ちない!」  
フォーディはVAに変形できる特性を活かして後ろに回り込もうとする。  
「もらった!」  
突如、腹部に激しい衝撃を感じたXX。  
VA形態のフォーディには接近戦の武装としてクローが仕込まれており、  
そのクローで腹部をやられたのだ。  
だが、XXのインジケーターを見てもそれほどの損傷は受けていない。  
「流石XX、何ともないわ」  
続いてAEX形態から発射される肩部ビーム砲をかわす。  
「そこっ!」  
腰部ミサイルランチャーをフォーディはすんでの所でかわす。  
「私を狙うならもっとちゃんと狙え!」  
フォーディのロングレンジライフルから太いビームが発射される。  
「見える!」  
XXは下方にサッと移動してかわす。  
そしてすぐに上昇すると、ビームソードでフォーディを切り裂く!  
「うっ、この私が押されているの!?」  
致命傷とまではいかないがかなりのダメージをフォーディは受けた。  
 
「飛び散れ、オラー!」  
レプトスの拡散ビーム砲がXをかすめる。  
「当たった?でもまだ!」  
「たまんないね!命をやり取りする遊びってのは!」  
レプトスの電磁ムチがXに絡みつき、青白い光がXを包み込む。  
「ううっ・・・でもこんなもの!」  
Xは身を振りほどくと、電磁ムチを引きはがした。  
(ふぅ、このパワーは流石Xといったところかしら)  
Xが安心する間もなく次の攻撃がやってくる。  
「今のはわざと外してやっただけ。感謝しときなさい」  
「負け惜しみもたいがいにしてよ!」  
レプトスの機先を制して、Xの肩部から発射されたグレネードランチャーがレプトスを吹き飛ばす。  
「あん?このアタシに当てやがったな。生意気だぞ!」  
レプトスが腕部ビーム砲を発射してきた。  
「アンタだけは絶対に許さないんだから!」  
ビーム砲をかいくぐり、逆にビームライフルを当てる。  
「へぇ、アタシをここまで楽しませるなんて」  
VAに変形してXの周囲を飛ぶレプトス。  
 
「くだらない理想に執着し、自身の可能性すら見限る、それがアンタ!」  
つまらない夢の中に溺れて終わる者の末路など、もう見たくもない!  
これ以上私に無駄な時間を使わせるんじゃない!消えろ!」  
「理想?あなたの理想は人間を人間じゃなくすること?それはエゴ以外の何者でもない!」  
フォーディが撃ってくるロングライフルを冷静に避け、XXはビットを叩き込む!  
「ぐあ・・・ジェネレーターが・・・」  
「終わりよ、フォーディ!」  
XXの背中からビットが多数放出され、それが複雑な動きでフォーディに向かっていく。  
「あなたの戦いはもう終わったのよ!マルチビット、発射!」  
四方八方からビームがフォーディの身体を貫く。  
「うああああぁぁーっっ!!!」  
 
ビットを喰らったフォーディはかろうじて爆発せずに済んでいるが、あちこちの  
装甲が損傷を受けており、もう戦える状態ではない。  
だが、なおもXXにフォーディからの通信が入ってくる。  
「懐かしい・・・昔、みんなと語り合ったね・・・ とめどもない夢や・・・  
これから巡る世界とか、新しいAEXのこととか、・・・いっぱいいっぱい・・・語った  
あのとき思い描いたいろんな世界を・・・わたし、どのくらい見て回れたかな・・・  
夢の出発点・・・最期に・・・いるべき所に帰ってくるなんて・・・あのときは思わなかった・・・  
もっと世界を見たい・・・もっと世の中を知りたい・・・ 次の旅は・・・こんな  
険しくなければ・・・いいな・・・次の・・・旅は・・・・・・!!!!!!」  
次の瞬間、宇宙空間にフォーディの機体が爆散した。  
 
「杉原さん・・・悪いけど、貴方自身のことを一番よく知らなかったのは貴方のようね」  
XXはやや離れた所でレプトスもまた最期を迎えたのを知り、こう一人ごちていた。  
 
「アタシはね、ゾクゾクするような刺激が欲しいのよ。 ライアの連中はみんな平和  
ボケした奴ばっか。こんな世の中に私を満足させてくれる事なんて有りはしないわ。  
分かる?こういうアタシみたいな人間もいてもいいんじゃないの?  
生きていく権利が平等なら、それに伴う生き方だって平等でいい筈だもの。  
それが分からないクズはクズらしく、床に這いつくばって生活してな!!!」  
「アンタ一人でいい思いしようたって、そうはいかないわよ!」  
懐に飛び込んだXのビームソードが正確にレプトスのジェネレーターを貫いた。  
もう満足にレプトスは動けないだろう。  
「これは果穂ちゃんの分!」  
近づいたXは武器も持たずに素手でレプトスを殴り始める。派手な音とともに  
レプトスの青い装甲がボコボコに凹んでいく。  
「なっ、何をするんだ、やめろ!」  
「これはアタシの分!アンタも果穂ちゃんと同じ苦しみを味わいなさい!」  
Xはレプトスの右腕を掴むと力任せに引きちぎる。  
宇宙空間に青い右腕の部品が飛び散る。  
「アンタなんかに人間の気持ちは分からない!」  
Xはビームソードでレプトスをメッタ刺しにする!それも何度も何度も!  
「くっ、こんな所で、アタシが、こんな奴に、こんな奴にいいいい!!」  
「メガビームランチャー、転送!」  
いよいよトドメを刺しに入るX。  
 
「リミッター解除!照準よし!メガビームランチャー、行けえぇぇっ!」  
巨大なビーム砲からひときわ太いビームが飛び出し、動けないでいるレプトスに  
一直線に向かっていき、その姿を覆い隠す。  
 
「う、嘘!! 何でアタシが・・・ブロディア如きに・・・!!こ、こんなこと・・・アタシは認めない!!   
アタシは奴らの性能を調べ尽くした!なのに・・・!エリナ様が知恵を与えてやらなきゃ、  
満足に戦えない連中に・・・!!何で!? 何でこのアタシがっ!!  
こ、このアタシが倒されなきゃならないのさぁっ!?・・・・・・・・・・・・・・・・・」  
 
ビームの帯がおさまった時、レプトスがいた場所には何も残っては居なかった。  
 
「言い訳は地獄でゆっくり考えなさい」  
Xはメガビームランチャーをゆっくりと下ろした。  
 
2機を撃破してひとまず戦艦に戻ったXXとX。  
「まだ敵を感じる。いつでも出られるように準備はしておきなさい」  
ハルカにそう促され、デッキを後にする2機。  
 
「ふぅ・・・」  
人間の姿に戻った果穂と和美。二人ともこの戦争がいよいよ  
終わりに向かっていることはうすうす感じていた。  
「いよいよね・・・果穂ちゃん、怖い?」  
先に口を開いたのは和美だった。  
「機械のはずなのに、怖いっていう感情を抱くなんて、やっぱり私はまだ人間だわ」  
「でも、感情があるのってすごく大切だと思うよ。だって、感情が無くなったら・・・」  
和美が再び口を開いた時、  
「人工衛星がレーザーの発射準備をしている!あれが発射されたらライアは消し飛ぶ!  
至急、総員戦闘配置!」  
 
果穂と和美がデッキへと走りつつ装着を開始する。これで最後だと思うとより一層力が入る。  
「装着ッ!」  
二人の身体が閃光に包まれ、裸身が美しく輝く。  
次いで二人の全身をぴったりと覆う黒いアンダースーツが装着され、二人の美しいプロポーションを  
映し出す。かと思えば、二人の全身に白い装甲が次々と装着されていく。  
身体がどこまでも浮いていくような感覚。少女から無敵の兵器、ブロディアへ。  
「装着」は、二人にとっては最強の戦士へと生まれ変わるゾクゾクとした儀式のようなものなのだ。  
頭部をすっぽりと覆うヘルメット型の装甲が装着され、目の前のバイザーが降りた時、閃光は  
おさまっており、そこには2機のブロディアがいた。  
「ダブルブロディア、出る!」  
 
「ふふふふふ・・・ははははは!」  
XXとXに連合軍AEX隊隊長・・・エリナの声が入ってくる。  
「何を笑ってるのよ!出てきなさい!」  
XXはエリナの機体の位置を感じ取ろうとする。  
「私の勝ちね。今計算してみたけど、衛星レーザーはあと15分で発射される」  
「ふざけないで!たかが衛星ひとつ!XXで止めてみせる!」  
人工衛星の位置を確認したXXはそこに向かっていった。  
「バカなことはやめなさい、2機とも」  
「やってみなきゃわかんないわよ!」  
XもVA形態に変形してXXの後を追う。  
 
「正気なの!?」  
「私はまだ、人間に絶望しちゃいない!」  
エリナの思念を振り払うかのように人工衛星への道を急ぐXX。  
「発射準備は始まっているのよ!」  
2機のブロディアが声を揃えてこう答える。  
「ブロディアは、ダテじゃない!」  
 
「あと13分よ!急いで!連合軍のAEX隊はあらかたこちらで掃討した!」  
ハルカから報告が入る。  
(へぇ、他のみんなも頑張ってるわね。もう一頑張りよ、X!)  
(分かってる!この戦いで・・・わたしの全てを出し切るつもりなんだから!)  
 
人工衛星に到達した2機。  
「ここから中に入れる!突入!」  
XXが先に入っていく。  
「ここは・・・?」  
Xが内部のあまりの空間の広さに驚いていた。  
どこまでも天井が広がっているようだ。  
「お出迎えが無いわね・・・何かの罠かしら」  
「・・・強いプレッシャーが来る!とんでもなく強い!気をつけて、XX!」  
「了解!」  
 
レーダーが敵機体をキャッチする。  
遠くから金色の巨大なAEXがやってくるのが見える。  
ブロディアの2倍ほどの大きさがあるというのに信じられないほど滑らかな動きだ!  
全身にミサイルやランチャーなどのゴテゴテした武装を身につけているというのに。  
「ようこそ、衛星レーザーへ。お客さんに何もおもてなしをしないのは無礼だからね」  
ハルカ・・・ついにワーロックがその全貌を現した。  
「よくもここまできたものね。あなた達は私の全てを奪ってしまった。  
これは許されざる反逆行為としか言いようがないわ」  
「衛星レーザーの発射装置は何処!答えなさい!」  
それほど時間がないことはXXも分かっていた。  
「さぁ・・・この空間のどこかに複数個あるけど、時間内に探し出せるかしらねぇ」  
「Xは発射装置を探して!コイツはXXが落とす!」  
「分かった!」  
装置を探して飛び去るX。  
(強い振動をあちこちから感じる・・・これもオーラコンバーターの力なのかしら)  
「XX・・・この最終鬼畜兵器・・ワーロックをもって貴方達の罪に私自らが処罰を与える。死ねっ!」  
「貴方さえいなければ、こんな事にはならなかったのよ!」  
ワーロックとブロディアXXの敵意がぶつかり合う。  
 
「ついでに私の直属の親衛隊とも遊んであげてね」  
ワーロックの周囲に2機の重武装AEXが現れる。  
「ネオ・ベイツ。私の傑作よ」  
「どっちが傑作かどうか試してあげるわ!」  
背部からビットを出すXX。  
 
「あれね!」  
衛星を支える柱が所々光っている。これを壊すごとに衛星の力は失われるのだ。  
VA状態のXからビームガンが撃ち出され、これを壊す。  
「次は・・・きゃあ!」  
Xは背後から撃ち落とされ、強制的にAEX形態に戻ってしまった。  
「まだまだ!」  
Xはネオ・ベイツに向き直る。  
先に仕掛けてきたのはネオ・ベイツだった。空中にフワリと浮き、Xにシールドキャノンを撃ってくる。  
攻防一体となっている優れた武装だ。  
「外れた!外れて・・・くれた」  
本能的にシールドキャノンをよけたXは、着地の瞬間を逃さず、ネオ・ベイツを狙い撃つ。  
ネオ・ベイツもさるもので、素早くシールドキャノンを構えると、Xのビームライフルを防御した。  
「防がれた?」  
一瞬たじろいだXは次の反応が遅れた。信じられないほどの素早い動きでXにビームソードを突き立ててくる。  
「くぅっ・・・!」  
Xの機体をビームソードがかすめる。直撃していたら間違いなく仕留められていただろう。  
 
「XXの機動性についてこられるものか!」  
ネオ・ベイツの斬撃をよけるXX。空中に飛び上がり、一直線にネオ・ベイツに蹴りをかます。  
グシャアッ!!  
派手な音を立ててネオ・ベイツの装甲がひしゃげ、空中に吹き飛ぶ。  
無防備な状態のネオ・ベイツを見逃すXXではない。  
素早く抜いていたビームソードが、ネオ・ベイツの機体を縦に真っ二つに両断した。  
爆発してその無残な残骸を晒すネオ・ベイツ。  
「次はあなたよ!」  
「今の、本当に私を狙っていたのかしら?」  
取り出した両手のビームソードでXXのミサイルランチャーを全て切り払ってしまった。  
何一つワーロックに命中することなく爆発するミサイル。  
「私はあなたの動きは手に取るように分かるのよ」  
腹部から拡散ビーム砲が発射される。その一部がXXに当たる。  
(まだまだ大丈夫だけど・・・Xはまだなの?)  
 
「こんな所でやられるわけにはいかないんだから!」  
Xは低空で飛び、素早くネオ・ベイツの胸元をビームソードで切り裂いた。  
「これでお終い!」  
Xは信じられないほどの突きの速さで・・・自分でも驚くほどの速さで・・・  
ネオ・ベイツに何度もビームソードで突きを入れた。吹っ飛んだネオ・ベイツも  
これにはたまらず爆発を起こし、そして二度と襲いかかることはなかった。  
(装置はあと4個・・・残り時間はあと7分か・・・)  
 
「いつまで続くか分からない幸せに浸っていることなど、どうしてそれが幸福だと言えるの?  
新しい幸せを見つけるために進む道は、誰かの想いを砕かなければならない。  
人が幸せを求めることそのものが間違いよ。 だから私は人間であることを拒んだ・・・  
誰かを犠牲にして得られる幸福なんて要らない・・・てね。  
私は自分を改造して人間を越える存在になったわ。ためらいも無くね」  
「そうやって、貴方はいつも他人をコケにしようとする!」  
XXはワーロックと斬り結んでいた。相手は二刀流でXXの方が不利であるにも  
関わらず、ほぼ形勢は互角だった。  
「甘いな!」  
突如、ワーロックの胸部からアームが飛び出し、XXの胸を打つ!  
「隠し腕の味はどうかしら」  
XXは20メートルほども大きく吹っ飛ばされた。  
起きあがろうとするXXのバイザーに注意の表示が出ている。あれほど強烈な打撃を喰らってもまだ  
動けるのだ。だが今の果穂はそんなことに感心している場合ではなかった。  
「私は最近のライア人の卑劣さを心配してはいない。我々の活躍でまともなライア人が次々と改心し  
少数の邪悪な者だけが残ったに他ならないからよ。地球連合千年国家の実現も近いはずだった。それを、あなたは・・・  
「卑劣なのは、人を邪悪と蔑む貴方のほうよ!」  
「現在の社会は不幸な人が溢れている。限られた幸福を奪い合う社会が生み出した悲劇なのよ。  
ライア人もおとなしく我々に臣従していれば、我々によってすべての人が幸福を享受できる  
無限の幸福が生み出される社会へと変える事ができたはず! 地球連合千年国家はみんなが幸福になれる社会  
よ!そのことが・・・何故分からない・・・橘さん」  
「独裁者の末路は目に見えている!貴方は何故過去から何も学ぼうとしないのよ!」  
ついに態勢を立て直したXX。ワーロックに対する怒りがそうさせたのだった。  
 
「地球連合千年国家は善良な人々の心の中に存在する。誰もがこの青い星、地球に臣従する  
ことで世界は一つになる。争いも憎しみも無い永遠の理想郷・・・」  
「アンタなんかに、青い地球を汚させはしない!」  
ワーロックにビームライフルを命中させた機体がいた。Xだ!  
「X!もう終わったの!」  
「もちろんよ。衛星レーザーは機能を完全に停止したわ。もう観念しなさい、ワーロック!」  
勿論ワーロックも一撃でやられるほどヤワでもない。  
「全ての人が地球と共に同じ道を歩み、争いも憎しみもない真の理想郷を創る。  
限られた幸せを奪い合う邪悪な社会から地球によって生み出される  
無限の幸福を共有する社会への変貌を素晴らしいとは思わないのかしら?  
再びダブルブロディアとワーロックの戦いが始まる。  
「命を・・・何の罪もない街の人々を巻き込み、その上自分の力を誇示するためだけに  
ヨコハマシティだけでなく数々の街を次々と破壊してきた・・・そのせいでたくさんの人が・・・・・・  
許さない!!AEXの力は貴方のような人には絶対に渡さないわ!!  
いくわよ!!貴方が欲したこの力、その身でたっぷり味わいなさい!!」  
XXは再び背部からビットを射出する。  
「わたしがもっと早く気づいていればあんなに人は死ななかった。  
悔やんでも悔やみきれないわ。 今から振るうこの力・・・死んじゃった人への鎮魂にあてる!  
メガビームランチャー、転送!」  
Xの右手に巨大なビーム砲が転送された。  
 
「マルチビット、発射ァ!」  
「メガビームランチャー、行けっ!」  
2機のブロディアの攻撃がワーロックに命中し、ひときわ大きな閃光が走る。  
ズズーン、と振動が2機に伝わる。  
閃光が収まった後には何も残っていなかった。  
 
「終わった・・・の?」  
Xが辺りを見回す。  
「いや、まだプレッシャーを感じる!X、気をつけて!」  
「そんな!メガビームランチャーの直撃に耐えられるなんて!」  
「アイツはまだ残っている。さっきのは追加装甲を破壊しただけ。まだ中の人が残ってる!」  
XXのオーラコンバーターははっきりとワーロックの所在を捉えていた。  
「どこ?どこなの!?」  
「衛星の外にいた!追いかける!」  
 
「逃がさない!」  
「あそこよ、XX!」  
人工衛星の外の宇宙空間にワーロックは漂っていた。いや、待ちかまえていたと言うべきか。  
前の時の装甲が綺麗さっぱり吹き飛んで、スマートな外見になっている。  
だが感じられるプレッシャーは少しも小さくはなっていない。  
 
「ここまで来るとはね・・・はっきり言ってあなた達のしつこさに敬意を表したいくらいよ。  
でもこれ以上の抵抗は無駄。大人しく降伏しなさい」  
「あなた達の兵器になって戦えって?お断りよ!」  
Xがワーロックに言い返す。  
 
「貴方の目的はライア人を全員兵器にすることってのはもう分かってるのよ!」  
XXの言い分にワーロックがそのとおりだ、といった風に応える。  
「ご名答。貴方の言うとおり、ブロディアはあくまでもサンプルに過ぎないわ。  
だからこそ、色々戦闘データを採集し、ゆくゆくは大勢のライア人を捕らえ、兵器として調整するの」  
「それで、改造されたのが・・・果穂ちゃんや杉原さん、河合さん・・・そして、わたし・・・」  
X・・・和美は沸き上がる怒りを必死に押し殺していた。  
 
「もうつべこべ言う必要は無いでしょ?。貴方達は私の兵器となれば良いのだから」  
「あなたみたいなのがいるから、いつまで経ってもこの戦争が終わらないのよ!」  
Xがしっかりとワーロックを見据える。  
「貴方たちの力なんかでこのワーロックは倒せない。本当の地獄を見せてあげる」  
「だったらあなたの身体で試してもらうわよ!ダブルブロディアの力をね!」  
XXが右手にバズーカランチャーを構える。  
 
「ライアが驚異的な発展を成し遂げたのはお互いに信頼できる社会を築き上げたから。  
他人を信用することで自衛にかかる費用を他に回すことができるわけ。でも、  
楽に生きようとする自分の利益しか考えない人間が増えてきた。そう、  
あなた達のようなそういう人間よ!」  
「言ったね!一番人間を信用していないのは他でもない、貴方じゃないの!」  
XXのバズーカランチャーを軽々と避ける金色のAEX、ワーロック。  
「ブロディアだけのマルチビットだと思うな!」  
背部から放出されたビットから放たれるビーム。  
そのうちの何本かがXXの左腰をかすめる。  
「だ、XXが押されているなんて!」  
 
「相互信頼社会が崩壊した今、世界を立て直すには思想の統一が必要よ。  
皆が同じ考えを持つことで、すべての人が幸せを享受でき、そして、情報  
伝達のロスも無くなり、平和な世の中が実現出来る。すべてが計画通り  
うまくいくはずなのよ」  
「全ての人が服従していれば確かに争いは起きない。でもそれは平和とは呼ばない!」  
Xの機先を制してワーロックがビームランチャーを当てる。  
「装甲が一流でも、パイロットが二流ではな!」  
 
「ブロディアのパワーは戦争のためではない、平和のために使うのよ!」  
「そう思っているのは貴方たちだけよ!事実、貴方たちはその強大な力を戦争に使っているではないか!」  
「それは平和のために、貴方を倒すためにふるう力。貴方の考えているものとは違う!」  
「XX、お前は力を使うことに理由をつけているにすぎない!」  
「理由もなく使われる力はあってはならない!」  
ワーロックのマルチビットのビームの1本がXXの左脚に当たる。  
(くっ!でもまだまだ動く!)  
 
「戦争が終わったら貴方達兵器は用済みよ!それでもいいの?」  
「わたし達みたいな想いをする人間をこれ以上増やしたくない!わたしや果穂ちゃん、杉原さん、  
河合さん、玉井さんみたいに・・・」  
「情に流されていては戦争は出来ないわ、X」  
「そんな程度でしか戦争を考えていない人にわたしは負けない!」  
「神にも悪魔にもなれる力を持ちながら、なぜ情に流されて戦争を否定する!」  
「ブロディアを神にするか、悪魔にするか決めるのはわたしよ!それを証明する!」  
「ならば貴方が言う神の力を見せてみろ!」  
ワーロックの大型ホーミングミサイルがXに命中し機体を大きく吹き飛ばす。  
(えっ!?VA変形機構が破壊された!?そ、そんな!)  
「裏切りの代償は死で償え!」  
ワーロックの肩部の2連装ビームキャノンがXの右脇腹を貫く!  
「あああぁーっ!」  
必死に態勢を立て直そうとするX。  
(まだ何とか動くみたいだけど、あと1発喰らったら・・・)  
 
「いい加減墜ちなさいっ!」  
ビームライフルをビームマシンガンのように連射するXX。その内の数発が命中した。  
「フフフ・・・やるわねXX。流石私が見込んだだけのことはあるわ」  
「何言ってるの!私はあなたの道具なんかじゃない!あなたみたいにはなりたくないもの」  
「私が道具だと? フッ・・・軍の命令だけで動くサンプルが何をいう」  
「みんなのおかげで私は自分を取り戻せたわ・・・だから、あなたも・・・!」  
XXとワーロック、お互いが展開したビットがお互いのビームで全て撃ち落とされる。  
 
「ブロディアだけにいい格好はさせんよ!」  
「お、俺だってやってみせる!」  
2機の激しい戦いを見ていたライア軍のAEX隊が加勢に入る。  
 
「墜ちろ、カトンボ!」  
ワーロックのマルチビットが近づくAEX隊を次々に落としていく。  
「もういいのよ!みんなやめて!」  
オーラコンバーターを通じて増幅された果穂の意思が、戦場のあらゆる人間に伝播する。  
そしてXXの周りには、敵味方を問わず多くのAEXが群がってきた・・。  
「離れて!XXの力は・・!」  
閃光が走り、XXの周辺にいるAEX達を弾き飛ばす。  
「これが・・・オーラコンバーターの共振・・・。人の意思が集中し過ぎてオーバーロードしているの?  
でも・・・恐怖は感じない・・むしろ暖かくて・・安心を感じる・・」  
 
「くっ!な、何だ・・・?この頭痛は・・・」  
ワーロックの動きが目に見えて鈍る。  
「XX、あの中の人は、やっぱり・・・」  
「わかってるわ、X。あの機体を破壊しなければ・・・地球にも、ライアにも未来はない・・・だから・・・」  
 
「貴方達に・・・ワーロックを止めることなど・・・」  
機体を必死に制御するワーロック。  
「結果はもう見えているわ」  
「何・・・?」  
XXに負けを言い渡される。こんな屈辱をワーロックが黙って味わうはずがない。  
「もう衛星レーザーは止まってるのよ!これ以上どうするつもりなの?」  
「衛星を止めたくらいで勝っただと? 思い上がるんじゃない!」  
「思い上がってるのはどっちよ!散々わたしたちを利用しておいて、手に負えなくなったら潰すなんて!」  
Xがメガビームキャノンを構える。  
「・・・貴方達のデータは、全てこちらにある。勝ち目はないわ」  
「データなんて、過去の遺物に過ぎない!あなたにデータ以上の力を見せてあげるんだから!」  
「よし、X、行くわよ!この戦いを終わらせるために!」  
宙域で再び2機対1機の戦いが始まった。  
 
「紺田さん、これ以上戦うのなら、ここで死ぬことになるわよ!」  
「違う!わたしの死に場所はこんな所じゃない!わたしには守るべき場所があり、守るべき人々がいるんだから!」  
VA形態になれなくとも卓越した動きでマルチビットのビームの間をくぐり抜けるX。  
 
「エリナさん!あなたは自分で何をしているか、わかってるの!?」  
「こざかしい!消えろ、XX!」  
「あなたの周りにいた人も、そうだった・・・!そして、あの時の私も!こんな戦いなんて、誰も望んでいなかったのよ!」  
「何をいう! この戦いは私の意志よ!」  
「エリナさん・・・本当に、あなたは、あなたは自分の意志で戦っているの!?」  
(目に見えてワーロックの動きが鈍っている・・・何故だ)  
 
「理由はどうあれ、多くの人々の命をもてあそんだあなたは・・・悪よ!!」  
「自分の思いこみだけで正義を名乗る・・・つくづく程度が低いわね」  
「わたしはわたしの正義のために戦うだけよ!!」  
「その墜ちる寸前の機体でよくそんなことが言える!」  
ギリギリでワーロックのミサイルランチャーをかわすX。  
 
「頭が・・・痛い!黙れ、黙れええっ!」  
(エリナ先生!もうやめて下さい!)  
(もうダルいからやめよーよ)  
「いいから黙れっ!」  
ワーロックの動きがさらに鈍くなる。  
「杉原先輩と河合さんの残った人間の部分が、ワーロックの制御装置に反乱を起こしてる!」  
XXのオーラーコンバーターは細かな思念も全て読み込めるのだ。  
 
「動け、ワーロック、なぜ動かん!ワーロック!」  
「あなたには分からないのよ、人間の想いや願いというものが」  
Xがメガビームキャノンの照準を合わせる。  
「兵器に人間らしさを求めて何の意味がある?」  
「言ったね!だけどそれがどれほどの力を生み出すか、見せてあげる!メガビームランチャー、行けえぇぇっ!」  
太いビームがワーロックの下半身を吹き飛ばした。  
 
ワーロックの損傷はかなりひどく、まともに動ける状態ではない。それでもまだ戦おうとする。  
「ブロディアXX・・・手に入れれば私の強力な兵器となれたのにね」  
「力におぼれた奴の末路は決まってるわ・・・!自分の意志じゃなく、ただ誰かに利用されてる奴なら、なおさらね!」  
「私は自分の意志で戦っている!」  
「だったら、貴方のやっている事のどこに自分の意志があるの!その装甲に振り回されてるだけよ!」  
「な、何・・・!?」  
「ワーロックに操られている運命を・・・私が断ち切るっ!!」  
XX全体が閃光に包まれる。  
「こ・・・これは・・・・」  
身じろぎするワーロック。  
「これは私の怒りよっ!」  
光に包まれたXがビームソードを構えてワーロックに突っ込んでいく。  
 
「ああああああぁぁーっ!!!」  
 
XXはビームソードを構えたままワーロックの胴体を突き抜けていた。  
 
「・・・こ・・・こんなことで・・・私のワーロックが・・・!か、かくなる上は・・・出力を全解放して・・・」  
ああっ!? あああっ!!」  
ワーロックの装甲がバチバチと電気を放出している。  
「な、何だ、ワーロックが・・・私を拒絶・・・!?何故だ、ワーロック・・・!?   
わ、私は最高傑作なのよ!な、何故、私に逆らう!? 何故、私を排除しようと・・・!!」  
(もう、やめて!)  
(いい加減つまんないから終われよ)  
「な・・・に・・・・・・!? わ・た・し・は・・・・・・・・・ワ、ワーロックがああああっっ!!」  
 
 
爆発を避けるために極力遠ざかっていた2機のブロディアが、  
閃光がおさまるにつれてゆっくりと姿を現す。  
「任務完了。これより帰還する」  
「お疲れ・・・ブロディア」  
XXもXも機体のあちこちが損傷を受けていた。  
 
ゆっくりと母艦に戻る2機のブロディア。  
デッキに着陸すると一瞬の沈黙が支配した。そしてややあって、  
 
「か、勝ったぞー!」  
「ライア軍バンザーイ!」  
「これでもう地球の奴らに怯えなくて済む!」  
 
「おめでとう・・・そして・・ありがとう・・・橘さん、紺田さん」  
ハルカは溢れ出る涙をこらえ切れなかった。  
 
「空はこんなにも美しい・・・風よ・・・雲よ・・・人の心はなぜこんなにも  
すさんでいるの?心あるなら教えて欲しい・・・」  
ライア軍勝利の祝賀式が復興されたヨコハマシティ近郊のフラワーパークの近くで行われている中、  
和美はポツンと外の芝生に座って「空」を見つめていた。  
後ろから果穂がポンと和美の背を叩く。  
「掛け替えの無いものがある・・・だから戦った。それだけのこと」  
「この前まで果穂ちゃんとわたしは敵同士だった。  
互いの存在を証明するために、本気で殺し合いをしていた。  
それなのに・・・今は共に戦う仲間だなんてね、運命っておかしいわ」  
うつむき加減になる和美。  
「今の私たちは、果穂と和美ちゃん。それ以上でもそれ以下でもないわ」  
果穂がそっと語りかけた。  
 
「・・・戦争が終わっちゃったら、わたし達はどうなるのかしら?」  
「私達のデータを平和活動に利用できればね。救助用マシンの開発とか」  
「これからは人を殺す時代じゃなくて人を救う時代だと思うわ。  
それにもう、わたしは人間に戻りたい。もう、誰も撃ちたくはないから・・・」  
「和美ちゃん・・・」  
果穂は和美の身体をそっと抱く。  
 
 
「フラワーパーク・・・わたし一人で見に来たことあるんだよね・・・  
でも今の方が、キレイに見える・・・だって果穂ちゃんと一緒だもん」  
「・・・ああ・・・そうね・・」  
「わたしの隣に果穂ちゃんがいるからいっそう綺麗に見える・・・」  
・・・ふふ・・・おかしいな・・・機械なのに光が・・・にじ・・・にじんで・・・」  
ライア軍母艦に置いてある2機のブロディアの登録が解除されたのは  
その日のことだった。艦を降りた果穂と和美はブロディアであることを止めたのだ。  
 
 
「果穂ちゃん、突入速度が速すぎる!これじゃあ中の人が耐えられない!」  
「高機動性と居住性を兼ね備えた救助用AEX・・・難しいなぁ。  
二人はハルカのもとで火災、地震、洪水、あらゆる災害に対処できる救助用AEX  
開発の仕事に携わっていた。  
(文明の機器には戦争目的で生み出されたものも多い・・・皮肉ね)  
 
 
二人の活躍によってようやくひとまず戦争は終わりを告げた。  
もっとも、二人が望むような休息を得られるかどうかは、また別の話になるが・・・  
 
〜FIN〜  
 
 
 
 
 

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