あたしの趣味がちょっとおかしいことは、自分でも解ってる。  
 趣味っていうと変かな?  
 嗜好っていうのかも。  
「お母さん、ちょっと本屋さん行ってくるね」  
 台所にいた母の背に声をかける。  
「こんな時間に?」  
 お母さんは洗い物をしながら応えた。  
「うん、今日新刊の発売日だったの、さっき思い出して」  
「また漫画? 明日にしたらいいじゃない。もう九時よ」  
 母の言うとおりだよね。  
 あたしの住む町は、大きな市の郊外。畑と林ばかりで、夜八時を過ぎれば  
人影もほとんどなく、街灯も少ない。  
 とくにあたしの家の辺りは、ぽつぽつと民家が建ってるだけの寂しい場所  
だから、高校二年生の女の子がひとりで外出するには、ちょっと危険。  
 夜九時にもなれば、近くで唯一の書店もシャッターを下ろしてるし、国道  
沿いに十五分ほど自転車を飛ばして市街地まで出なくちゃいけない。  
 最近はこんな田舎でも物騒な噂が絶えないし、母親が心配するのも無理は  
ないんだよね。  
「ん……まぁ、食後の運動も兼ねてね。帰ったらお風呂入るよ」  
「はいはい。気をつけてね」  
「うん、行ってきまーす」  
 あたしはサンダルを引っかけ、玄関の戸を開けて外へ出た。  
 うっ……やっぱりやめようかな……。  
 そう思ってしまうぐらいに気温はまだまだ高く、湿った空気がまとわりつく。  
 あたしの身体が熱いのは、半分はその所為だ。  
 でも、もう半分は──あたしの、嗜好の所為。  
 母屋と納屋をつなぐ屋根の下に停められていた自転車の籠に、ポーチを放り  
込んでスタンドを蹴り上げる。  
 どこにでもある、いわゆるママチャリというやつだ。  
 自転車を玄関前まで引っ張り出し、ハンドルをひねって向きを変える。  
 左足を左のペダルにかけて踏み込みながら、右足で地面を蹴った。  
 勢いをつけてサドルにまたがって、自転車をゆっくりと走らせる。  
 腿の半分も隠してないミニスカートが、ひらりと風に舞う。  
 あたしの、ちょっとした冒険の始まり──  
 
 あたし──佐伯春菜は、高校二年生。  
 もちろん女の子だ。  
 背の順に並べば、前から三番目──小柄というよりはチビといったほうが  
合ってるってのは自分でも思ってる。  
 高校ではテニス部に所属してるスポーツ少女で、肌はこんがり小麦色。自慢  
じゃないけど、無駄なお肉はあんまりない。  
 全体的にこじんまりとして、よく中学生に間違えられる……。  
 ところが、胸だけはかなりおっきい。  
 ブラのサイズはEカップ──うん、大きいよね。  
 友達からは羨ましがられてるし、男子の視線もかなり気になる。  
 大きいことに優越感がないって言ったら嘘になるけど、背の低いあたしには、  
ちょっと大きすぎると思う。  
 それなのに、今は──  
 ブラを着けてないんだ。  
 ノーブラの肌に、谷間が覗くロングキャミソール。  
 そんな心細い格好で、あたしは外出してる。  
 さっきから──家を出る前からずっとどきどきしっぱなしだった。  
 興奮して、身体は火照り、大きなバストの先っぽの小さな突起は、つんっと  
尖ってる。  
 それなりに厚みのある生地だけど、心なしかその部分が浮き出ているように  
見えなくもない。  
 腰にはフレアのミニスカート。  
 その下にあるべき大切なところを包む布もない。  
 スカートがお尻の下にならないようにサドルに腰掛けると、ぺたりとした  
合皮の感触が、直に感じられる。  
 あたしはショーツも穿いてないのだ。  
 ノーブラ、ノーパンで外出──  
 それがあたしの、人と違う変わった趣味──エッチな趣味だった。  
 
 
 自転車を漕いで夜風を切る。  
 国道沿いの歩道を、車道を走る乗用車やトラックに追い越されながら、荒い  
息を吐いて走ってる。  
 家を出て五分ぐらいかな。  
 全力で飛ばしてるわけじゃないけど、ずっと漕いでるから汗も出てきた。  
 キャミが肌に張りついて、身体のラインがくっきりと露わになってる。  
 ペダルを踏み込むたびに身体が揺れる。  
 ブラに包まれていない膨らみが、上下左右に揺さぶられる。  
 硬くなった胸の先っぽが、キャミの裏にこすれて刺激されて──  
 スカートがなびき、太腿が根元まで露になってる。  
 サドルには 剥き出しのあそこが、直接触れてる。  
 路面の振動が、敏感なところを刺激して──  
 恥ずかしいのに──あたしは全身を火照らせて、興奮に酔ってた。  
 どきどきがとまらない。  
 顔は真っ赤だろう。耳まで熱いのが自分でも判る。  
 こんな姿、普通に考えたら、誰にも見られるわけにはいかない。  
 でもあたしは、これから人目に触れるところへ行く。  
 こんな恥ずかしい格好で、あたしは本屋に行くんだ。  
 目指す書店の周りは遅くまで店も開いてるし、人通りも多い。  
 きっと、何十人もの人に見られることになる。  
 すれ違うだけの人を入れれば、何百人かもしれない。  
 それが、あたしに激しい興奮と快楽をもたらしてくれる──  
 一歩間違えれば危険なことになるかもしれない。  
 こんな趣味を持ってるんだけど、あたしはまだ──清らかな乙女。  
 そのリスクを負いながらも、せずにいられなかった。  
 
 市街地に入ると、いっそう人目が気になるようになった。  
 見られてる──すれ違う人の多くは、確実にあたしを見てる。  
 信号で止まったとき、向こう側や隣で立ち止まった人たちが、ちらちらと  
こっちを見てるのも感じた。  
 心臓がどくどくと打ってるのは、自転車を漕いでたからだけじゃない。  
 気持ちが昂ぶって、どきどきしてるのだ。  
 胸の先っぽが、さっきまでより硬く尖ってる。  
 サドルに触れるあそこが、恥ずかしいおつゆで濡れてる。  
 背を反らせてお尻を突き出すようにすると、一番敏感なところが刺激されて、  
あたしは思わずびくんと身体を震わせてしまった。  
 それも見られたかもしれない。  
 ノーブラで自転車に乗ってる女の子──  
 ノーパンだとまでは思われてないかもしれないけど、眼が潤んできてるのが  
自分でも判る。  
 月に数回しか行かない店だけど、こんな状態で書店に入るのだ。  
 顔見知りの店員に、見られてしまうのだ。  
 もしかしたら、同じ高校の生徒がいるかもしれない。  
 クラスメイトがいるかもしれない。  
 恥ずかしさに興奮して、エッチな気分になってる自分を、見られてしまう  
かもしれない──  
 
 
 あたしがこんなことをしはじめたのは、中学の終わりごろからだった。  
 高校受験のために必死に勉強してたあのころ──勉強は苦手だったので、  
友達と同じ高校に入るため、ほんとに必死に勉強した。  
 ストレスはかなりのものだった。  
 そのころにたまたま眼にした、インターネットのアダルトサイト──  
 それがすべての元凶だ。  
 体験投稿サイトとでもいうんだろうか──あたしがとくに惹かれたのは、  
とある女子高生の手記だった。  
 学校で、彼氏とした数々のエッチな体験談──学校だけに留まらず、公園や  
駅のトイレ、電車の中、遊園地などで、肌を露わにしたり、裸になったりした  
というものだった。  
 今思えば、それは作り話だったのかもしれない。  
 でも当時は信じてた。  
 そして、あたしは彼女の真似をしたくなってしまった。  
 
 
 透明なガラスのドアが開き、店内のひんやりとした空気が流れ出してきた。  
 書店の中へ入る。  
「いらっしゃいませー」  
 すぐ右手のレジカウンターにいた大学生ぐらいの男性店員が声を上げた。  
 見られた──彼の視線は、明らかに私の胸元に向けられていた。  
 キャミソールは胸元がV字に切れ込んでいて、深い谷間が覗いてる。  
 厚めの生地だが、色は白だ。  
 店員は、あたしの大きな膨らみに眼を奪われたのか、それとも──  
 蛍光灯に照らされたそこに、尖った鳶色の突起が透けてたのかもしれない。  
 バレちゃったかもしれない……。  
 あたしはこぼれそうになる吐息を飲み込んで、うつむき加減で通路を進む。  
 膨らみの頂点に眼を向けると、ぷっくりと膨らんでるように思える。  
 うっすらと肌が透けてるようにも思えてしまう。  
 恥ずかしい──  
 店のクーラーに冷やされても、身体の熱が治まることはない。  
 それどころか、さらに火照ってゆく。  
 この辺りで一番の大型書店──夜九時を過ぎたこの時間でも客は多い。  
 コミックスの新刊が平積みにされてるところで、あたしは脚を止めた。  
 何人かの客が、あたしにちらちらと眼を向けてくる。  
 棚の整理だろうか、作業をしている店員の視線が突き刺さる。  
 恥ずかしい姿で現れた女の子を、彼らはどんな気持ちで見てるんだろう。  
 変態、露出狂──  
 そんな言葉を思い浮かべてるんだろう。  
 いやらしい子だと思われてるのかもしれない。  
 男の人はきっと、胸に触りたいと──揉みたいと思ってるに違いない。  
 それぐらい簡単にさせてくれる、淫乱な子だと思ってるのかもしれない。  
 そんなことはない。  
 見知らぬ人とエッチなことをするほど、あたしは軽い子じゃあない。  
 でも、そう思われてると思うと──  
 あたしは淫らな気持ちに支配されてゆく。  
 後ろからいきなり抱えられ、乳房を鷲掴みにされてしまうかもしれない。  
「大きなおっぱいだね……そんな格好でエッチな子だ」  
 そんなふうに耳もとで囁かれ、乳房を揉まれてしまうかもしれない。  
「こういうことされたくて、こんな格好してるんでしょう?」  
 いやらしいことを言われて、乳首を摘まれて──これ以上ないほどに硬く  
尖った突起を、指先でもてあそばれてしまうかもしれない。  
「ノーパンなんだ? 本当にエッチだね」  
 スカートの中に手を入れられ、熱く疼いてる大切なところを、くちゅくちゅと  
音を立てて掻き回されてしまうかもしれない。  
 そんなことをされたら──  
 エッチなおつゆが、たくさんあふれてる。  
 滴り落ちてしまうんじゃないかと思うぐらいにあふれてるのが判る。  
 自転車のサドルにもぬるぬるしたおつゆがついてたけど、今はさっき以上に  
濡れてる。  
 心臓が激しく脈打って、息が荒い。  
 恥ずかしさにエッチな気分が昂揚して、身体中が刺激を求めてる。  
 視線と羞恥による興奮だけでなく、もっと直接的な、肉体的な刺激が欲しく  
なってくる。  
 今すぐ、敏感なところに触れたかった。  
 きゅっと尖った乳首や、女の子の一番大事なところを──あふれた蜜を指に  
絡めて、小さな蕾を転がしたかった。  
 こんなところで──客も店員もたくさんいる店の中で、あたしは自分自身を  
慰めたくなってしまった。  
 身体が揺れる。  
 脚がもつれて転んでしまいそうになる。  
 あたしはふらふらと店の奥へと歩いてゆく──  
 
 初めては、教室だった。  
 放課後、誰もいない教室で、あたしは制服のスカートを捲り上げた。  
 子供っぽい白いショーツを曝した。  
 すごくどきどきした。  
 そして、もっとエッチなことをしようと思った。  
 あたしは誰か来てもすぐに気づけるようにと、耳をそばだてながらショーツを  
脱いだ。  
 ショーツには、いやらしいおつゆがついてた。  
 スカートを捲り上げ、下着を着けていない下腹部を曝し出した。  
 いつも授業を受けたり、友達と馬鹿話をしたりしてる教室で、あたしは大事な  
ところを曝してしまった。  
 まだ少ししか生えてなかった恥毛も、ぴたりと閉じた割れ目も、丸くて小さな  
お尻も全部──  
 恥ずかしいところを曝したまま、教室の中を歩いた。  
 誰もいないのに、クラスメイトたちに見られてる気がした。  
「はるちゃんって、そんなエッチだったんだ……」  
 友達が言う──驚きと、嘲りの混じった顔をして。  
「佐伯のまんこ、丸見えだぜ」  
 男子が言う──好奇と、興奮の混じった眼をして。  
 あたしはそんな想像をしながら教室の前に立った。  
「佐伯さん、そこでオナニーしなさい。みんなに見てもらいなさい」  
 先生が言うと、あたしは──  
 教卓の上に座った。  
 スカートを捲り上げ、両脚を広げて、幻像のクラスメイトたちに向けて、  
自分の秘処を曝け出した。  
 エッチなおつゆがとろとろとあふれてきた。  
 指で触れると、身体がびくんと弾けた。  
──ダメ、こんなこと……。  
 そう思うのに、指は止まらなかった。  
 あふれる蜜をすくって指に絡め、ぷくりと膨らんだクリを刺激した。  
 今までにした、どんな自慰よりも激しい快感があたしを襲った。  
 全身をびくびく震わせながら、淫らな水音を響かせて、荒い吐息を漏らし、  
オナニーをしちゃった。  
 ほんの数分だっただろう──あたしはイっちゃった。  
 教卓に滴ったエッチなおつゆを、あたしはそのままにしておいた。  
 
 書店の一番奥、棚に囲まれた一角──  
 あたしは周りに誰もいないのを確認した。  
 フロアの角、天井近くに防犯用のミラーがある。  
 あたしの姿がゆがんで映り込んでる。  
「はぁ……ふぅ」  
 ミラーに背を向け、ポーチのストラップを手首に絡め、深く息をした。  
 あたしは、とんでもないことをしようとしてる。  
 下着を着けず、扇情的な姿で街に出ただけでもじゅうぶんとんでもないこと  
だと思うけど──  
 もう一度辺りを確認する。  
 だいじょうぶ、誰もいない。  
 あたしは片手をスカートに伸ばした。  
 指を生地に絡め、少しずつ──  
 ミニスカートをゆっくりと持ち上げてゆく。  
 太腿の根元まで──見えちゃう。  
 書店の一角で、女の子の大切なところを曝そうとしてる。  
 息をするたびに、えもいわれぬ恍惚が湧き上がる。  
 スカートを掴んだ右手が、上がってゆく。  
 うつむいたあたしの視界──  
 大きな膨らみの向こうには、捲り上げられたスカートと、剥き出しの太腿。  
 心臓が脈打つたびに、身体が熱を放つ。  
 こんなとこで、あたしは──  
 スカートが腰まで捲れてしまう。  
 あたしは、恥ずかしいところを露わにしちゃった。  
 隠すべき場所を、曝してはならない場所を、曝け出してしまったんだ。  
 普通に生活してたら、そこを曝す機会なんてほとんどない。  
 トイレとお風呂、着替えのときぐらいだよね。  
 それなのに、書店の中で、人目に触れる場所で、あたしは曝してる。  
 沸騰した血液が全身を駆け巡る。  
 敏感なところに触れてもいないのに、あたしの身体はぞくぞくと疼いて、  
びくびくと震えてる。  
 快感が、湧き立ってる。  
 したい──もっと気持ちよくなりたい。  
 触れたい。  
 いじりたい。  
 あふれたおつゆを指に絡めて、敏感な蕾を刺激したい。  
 快感を貪りたい──  
 もう一度ミラーに眼を向けると──  
「──っ!?」  
 誰かが近づいてくる。  
 背格好からして、中年のサラリーマン?  
 あたしは身をこわばらせて様子を窺う。  
 男性は角を折れ、あたしの前の棚の向こう側で足を止めた。  
 男性は、立ち止まった。本を探してるみたい。  
 棚ひとつを挟んで、父親と同じぐらいの歳であろう男の人がいる。  
 もしそのおじさんが、棚を回りこんでこっちに来たら──  
 
 
 最初の日の数日後、あたしは教室で、また自慰をした。  
 そのときは、人の気配を感じて、最後までせずに途中でやめた。  
 けど、疼く身体を抑えられなくて、トイレに入って続きをした。  
 あたしはそれから、学校中の人目につかないところを選んで、恥ずかしい  
ことをした。  
 何度もしちゃった。  
 臭いを我慢すれば、トイレは一番安心できる場所だった。  
 イくまでできなくても、少しいじるだけには最適だった。  
 授業の合間の休み時間、隣の個室に同級生がいるのに、あそこをいじるのは  
とても興奮した。  
 屋上は寒かったけど、開放的で心地よかった。  
 すでに引退してたけど、部活の部室でもしてしまった。  
 後輩のラケットを股に挟んでしちゃったときは、罪悪感がさらなる刺激を  
与えてくれた。  
 一度、下着を着けずに登校したことがあった。  
 見つかるかもしれないと思いながらも、ずっとどきどきしてたあたしは、  
我慢し切れず、その日だけで三回もトイレに篭ってオナニーをした。  
 下校途中、公園や商店のトイレ、立ち入り禁止の工場跡や、罰当たりだけど  
神社やお寺の境内でも肌を晒し、ひとりエッチをした。  
 そんなストレス解消法のおかげで──かどうかはわかんないけど、あたしは  
なんとか志望校に入学できた。  
 そんなことをしてたくせに、よく合格できたというべきかも……。  
 けど、高校に入ってからは、部活に打ち込んでたせいか、そういった行為を  
しなくなっていた。  
 けど、時々思い出しちゃうのだ。  
 あの刺激を──羞恥がもたらしてくれる、激しい興奮を──  
 
 
 身体が熱い。  
 見られたらどうなっちゃうんだろう。  
 中年男性に見られて──  
 エッチな子だと言われちゃう。  
 もっと見せてくれと言われちゃう。  
 触らせてくれ──そう言われるかもしれない。  
 言われたら、あたしは──  
 まだ誰にも触れられたことのない場所を。  
 名前も知らない人に、中年のおじさんに──  
 見せちゃう? 触らせちゃう?  
 どくんどくんと心臓が激しく打ってる。  
 違う、そうじゃない。  
 見られたいわけじゃない。  
 触られたいわけじゃないんだ。  
 そんなのはダメなんだ!  
 見られてしまうかもしれない──そんなどきどき感がいいんだから。  
 誰かに見られてしまうかもしれないという焦りが、あたしを昂ぶらせる。  
 ほんとに見られちゃうのはダメ。  
 誰にも知られず、ひっそりと──  
 でも──  
 なら、どうしてこんな格好で人目に触れる場所に出てるの?  
 ブラをしてないって、誰にだって判るような格好をしてるの?  
 スカートだって短い。  
 自転車に乗ってる間、誰かに見られてたかもしれないのに。  
 横を走る車に乗ってた人が、見てたかもしれないのに。  
 横断歩道の向こうから、スカートの下に何も着けてないのを見られてたかも  
しれないのに。  
 見られたい、触られたい──  
 ほんとは、そんなふうに思ってるのかもしれない。  
 そうなら、だとしたら、あたしは──  
 はぁっと湿った息を吐く。  
 心臓が高鳴って、身体中を熱いものが駆け巡ってる。  
 キャミソールが肌に張りついてる。  
 ちょっとした自慢の大きな膨らみは、たった一枚の布に覆われているだけ。  
 いやらしい格好だった。  
 恥ずかしいのに、身体が熱い。  
 社会的、常識的な羞恥心とは異なる、もっと本能的な心が刺激されてる。  
 血管が脈動する音が耳元で響いてる。  
 心臓が頭に移動してきたみたい。  
 緊張と興奮が、あたしの心からブレーキを外してしまう。  
 左手を胸元へ伸ばす。  
「んっ──」  
 手首のあたりが、つんと尖った突起に触れ、吐息が漏れた。  
 甘い吐息だった。  
 
 いやらしい、官能の吐息。  
 聞かれちゃったかもしれない。  
 棚の裏側にいる男性は、こっちに意識を向けてるかもしれない。  
 エッチな響きを感じ取ったかもしれない。  
 それでもあたしは、もっと強い刺激を求めちゃう。  
 手をゆっくりと持ち上げる。  
 左手の指を、胸を覆う生地に引っ掛けた。  
 キャミソールをずらしてゆく。  
 大きな谷間が、さらに露わになってゆく。  
 火照った身体から、湯気が立ち上ってるんじゃないかと思う。  
 棚を挟んですぐ近くに、見知らぬ男性がいる。  
 向こう側は見えない。向こうからも見えない。  
 けど──  
 息が荒くなってるのを、気づかれてるかもしれない。  
 興奮してるんだと、知られてるのかもしれない。  
 あたしは息を飲む。  
 左手に力を籠めて──  
 胸を隠していた布を、ぐいっとずらしてしまった。  
 締め付けられてた大きな左のおっぱいが、ぷるんと勢いよく飛び出した。  
 水着の日焼け跡の残るまんまるの乳房が、ぷるぷると揺れる。  
 書店の中で、乳房を曝しちゃった──  
 とっくに昂ぶってた身と心が、激しく震えた。  
 一番奥、ひとけのあまりない一角だった。  
 けど──  
 おっぱいを丸出しにしたあたしの姿は、防犯ミラーにも映ってる。  
 ゆがんだミラーでは、よく判らないかもしれない。  
 でも、あたしの大きな膨らみは目立つ──  
 店員さんに見られてるかもしれない。  
 お客さんに気づかれてるかもしれない。  
 気持ちよくなりたい──  
 あたしは、スカートの中に右手を、大きな乳房に左手を重ねた。  
 
「んっ、んぅ……」  
 頭がおかしくなっちゃいそうだった。  
 いや、きっともうおかしくなってるんだ。  
 吐息が漏れる。  
 身体が震える。  
 大きく膨らんだ乳房に、自分の指を沈み込ませて揉む。  
 剥き出しになった秘処に、指先で触れて転がす。  
 書店の一番奥、目立たない場所とはいえ、棚を挟んで向こう側に見知らぬ  
男の人がいるというのに、防犯ミラーにはしっかり映ってるのに──  
 あたしは立ったまま、オナニーをした。  
 やわらかくて大きなおっぱいを揉みながら、つんと立った乳首を摘む。  
 快感がが全身に広がって、身体がびくびくと震える。  
 とっくにびしょ濡れの大切なところを、指で掻き回す。  
 一番敏感な突起を刺激すると、身体の中心から強烈な波が打ち寄せてきた。  
 エッチな匂いと、エッチな音が──  
「はぁっ、んっ……」  
 我慢しても声が出ちゃう。  
 こんなところで、こんなことをしてる──  
 それがあたしを興奮させる。  
 恥ずかしくて、不安なのに、気持ちよくて、もっと強い刺激を期待してる。  
 おじさんに見られちゃったら──そう、また思う。  
 おじさんにいじられちゃうかもしれない。  
 犯されちゃうかもしれない。  
 今なら、されちゃっても──  
 名前も顔も知らない中年の男の人に、自慢のおっぱいを揉まれて、乳首を  
摘まれて、ぐちょぐちょに濡れたおまんこをいじられて──  
 おっきくて、グロテスクな──  
 おちんちんを、入れられるんだ。  
 棚に手を突いたあたしの後ろから、赤黒く、太くて長い、どくどくと脈打つ  
男性器を、あたしのまだ小さく狭い、ピンク色のおまんこに──  
 いやらしいおつゆをあふれさせ、ひくひくと震えるおまんこが、犯される。  
 犯されたい──  
 妄想が膨らんで、肉体と精神を刺激する。  
 敏感なところは自らの指に責め立てられ、快感が全身を侵してゆく。  
 気持ちよくて、理性が飛んじゃいそう。  
 刺激を、快感を、その最高の頂へと向かって、あたしは夢中で自慰に耽った。  
「んぁっ、ひぅ……」  
 声が我慢できない。  
 ぴちゃぴちゃという水音が響いてる。  
 いやらしい匂いも立ち上ってくる。  
 気持ちいい。  
 今まで、何度もした露出行為──  
 その中でも、一番の興奮だった。  
 どうしようもない興奮が、あたしの心を覆い尽くしてゆく。  
「ひっ、ひぁっ……!」  
 もう、すぐそこまで来てる。  
 強烈な刺激が何度も身体中を突き抜ける。  
 肉体的な快感と、精神的な快感が、あたしを包み込む。  
「んっ、イっ……イくぅ──ッ!」  
 小さく呟き、あたしはイっちゃった。  
 びくんびくんと何度も身体を震わせながら、その場にうずくまった。  
 
 
 官能の余韻に包まれて、あたしは荒く息を吐いた。  
 力の入らない手で、必死にキャミソールを戻し、乳房を隠した。  
 気がつけば、棚の向こう側から人の気配が消えていた。  
 男性はどこかに行っちゃったらしい。  
 あたしのことには気づいてなかったのかも。  
 それとも、気づいてたんだろうか──  
 気づいて、棚を回り込んでこちら側に来たのかもしれない。  
 こんなところで自慰をしてたあたしを見たのかもしれない。  
 オナニーに夢中で、周りのことなんてさっぱり判らなかった。  
 もしかしたら、見られたかもしれない。  
 書店の奥で、乳房を剥き出しにして、スカートを捲り上げてオナニーする  
女の子──  
 そんな子を見たら、男の人はどう思うんだろう。  
 淫乱な子だと思ったのなら、あたしは襲われてたかもしれない。  
 それとも、頭のおかしな変態だと思われちゃったのかも?  
 だとしたら、きっと関わり合いにならないほうがいいと思ったんだろう。  
 何事もなくて、よかった──  
 やっぱり、本当に誰かに見られたとしたら、怖い。  
「ん……はぅ」  
 余韻が燻って、あたしの身体を震わせる。  
 まだ身体が熱い。  
 気持ちよかった。  
 興奮した。  
 ふらふらと立ち上がり、思い出したように目当てのコミックスを探しに行く。  
 店内にいる人たちが、みんなあたしの恥ずかしい姿を見てたのかもしれないと  
思うと、治まったはずの興奮が再び込み上げてくる。  
 あたしはこの恥ずかしい格好のまま、家に帰らなくちゃならない。  
 きっとその間に、またいやらしい気分から逃れられなくなるんだ。  
 そしたら、家で──  
 お風呂に入りながら、またしちゃおう。  
 ふと、店員と眼が合った。  
 大学生ぐらいの、若い男の人だ。  
 彼の視線が、ちらりとあたしの胸に向けられた。  
 ちょっとかっこいいし、見せてあげてもいいかも──なんて思っちゃう。  
 あたしは身体の疼きを抑えられなくなってゆく。  
 何か尋ねる振りをして、奥まで一緒にいって、キャミをずらしておっぱいを  
見せちゃおうか──  
 そんなことを考えてた。  
 やっぱりあたしは、どこかおかしいのかもしれない。  
 それでも、あたしはこの趣味を、当分やめられそうにない。  
 
 
 店を出て、買った本とポーチを自転車の籠に入れたあたしは、ふと気配を  
感じて顔を上げた。  
「──っ!?」  
 びくっと背筋を冷たいものが走った。  
 そこには、スーツを着た中年男性がいた。  
 おじさんは鼻を膨らませて、ギラギラした眼であたしを見つめてた。  
 
                            おしまい  
 
 

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