「それにしても、凄い雨だったな?」  
「はい、もうビショビショになっちゃいました……」  
 
8月1日。  
今日は夏休みの補習最終日で、いつものように俺は幼馴染の香奈と一緒に学校から帰宅していた。  
天気は久々に透き通るような快晴で、俺も香奈も真っ青な空を楽しみながらしばらく歩いていたのだが、  
突然バケツから水を零したような激しいお天気雨が俺達を襲ったのである。  
俺達はとりあえず、香奈の家より少しだけ近い俺の家に二人で避難することにした。  
 
「でも、綺麗でしたね、お天気雨! 虹も青空の向こうに見えて幻想的でした」  
 香奈は俺のほうを振り向くと、目をキラキラと輝かせながら口を開いた。  
 毎度のことながら、彼女のその純粋で純情な少女っぷりには思わず笑みがこぼれてしまう。  
「まあ、そうだな。雨に降られたのは不運だったけど、ある意味運がよかったかもな」  
「ハイ! あんなのそうそう見られるものじゃありませんから……」  
 そういうと香奈はうっとりと眼を閉じた。  
 先ほどの情景を思い出しているのだろうか?  
「あー、それよりさ……」  
「はい?」  
「お前、着替えたほうがいいな……その、Yシャツ透けてるぞ」  
「!!」  
 香奈は顔を真っ赤にすると勢いよく手で胸をサッと覆った。  
「青か……」  
「〜っ!! 諒助のえっちスケベ変態!! うぅ、もう……最悪です」   
「とりあえず、そこのタオルで体拭いて待ってろよ。 なんか着替え持ってくるから」  
「え……あ、はい」  
 
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
「無理です!!」  
「なぜ!?」  
 俺が持ってきたのは、中学の時の俺のジャージだった。  
 つーか、無理と言われても香奈が着られるのは家にはこれくらいしかないんだけどなぁ……  
「なぜって、諒助が着ていた物を私が着られるわけないじゃないですか!!」  
「あー、確かにちょっと大きいかもしれないけど、中学の時のだし大丈夫だろ?」  
「そ、そういう事じゃなくてですねぇ……」  
「じゃあ、どういう事だよ?」  
 俺がそう聞くと、何故か香奈は頬を少し赤らめて下を向いてしまった。  
「そのぉ、精神的に無理なんです……精神がすり減ります……」  
「なあ、それって少女が頬を赤らめながら言う言葉じゃないよな?」  
「でも、無理なものは無理なんです」  
 香奈はプイっと俺から目を背け、そっぽを向いてしまった。  
 こうなるとコイツは結構頑固だったりするから困る。  
「じゃあ家までその格好のまま帰るのかよ……なによりそれじゃあ風邪ひくだろ?」  
「うぅ、それはそうなんですけど……」  
「じゃあ着ろ!! ホレホレ」  
「ちょっ、やめてください。やめっ……近づけないでっ!!」  
「はい」  
 本気で拒絶されて軽くショックを受ける俺。久しぶりに香奈に怒られてしまった。  
「そ、そんな地に伏すほどショックを受けなくてもいいじゃないですか!」  
 そう言われても……  
 かなは普段は温厚だという事もあって、たまに怒られると俺のショックもでかいのだ。  
 失意体前屈くらい当然の結果だろう。  
「わ、わかりました……着ますから、そのジャージ貸してください……」  
「いや、無理に着なくてもいいよ……俺が悪かった」  
「い、いいんです! それに、このままだと諒助の言うとおり風邪引いちゃいますから……」  
 
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
「ど、どうでしょうか?」  
「ちょ、ちょっと大きいな……でも、似合ってるよ」  
「ほ、ほんとですか?」  
 そう言うと香奈は「えへへぇ……」と、頭を掻きながら照れ笑いをした。  
 不覚にもその笑顔で胸がキュンとなってしまう。  
 さっきは冷静に似合ってると言ったが、実際は頭がパンクしてしまいそうなほどの破壊力だ……  
 腕は袖で完全に隠れ、だぶだぶで肩からズレ落ちそうなジャージが妙に色っぽい。  
   
 ――あ、あの下は下着一枚なんだよな……?  
 
 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。  
 香奈のほうをちらりと見ると、だぶだぶのシャツを引っ張ったりいろいろいじくっていた。  
「それにしても、長袖のジャージしかなかったんですか? ちょっと暑苦しいです」  
「え、ああスマン」  
「まあ、別にいいですけど……それよりこのジャージ、きちんと綺麗にしてあるんですよね?」  
 香奈は匂いでも確かめるかのように両手の袖口を顔に近づけると、スンスンと息を吸った。  
「洗濯はちゃんとしてあるから、別に臭わないと思うけど?」  
「うーんそうですねぇ……」  
 そう言うと香奈は目を閉じて再び、今度は大きく息を吸った。  
 すると、だんだんと顔が赤くなり、「諒助の匂いがします……」とだけ一言呟いた。  
「え、マジ? おかしいなあ。嫌なら別のやつ持ってくるか?」  
「あ、いえ。いいんです! 我慢しますから……うふふっ」  
 彼女は顔をニマニマと綻ばせながら、またスーッと大きく匂いを嗅いだ。  
 気になるなら匂いなんか嗅がなければいいのに……  
 俺はなんとなく窓の外に目をやると、先ほどまでザーザーと降っていた雨は既に止んでいるようだった。  
「なあ、雨やんだみたいだな?」  
「……そうみたいですね」  
「帰るなら家まで送るぞ?」  
「じゃあ、お願いします」  
 かなはぺこりと頭を下げた。  
 相変わらず、幼馴染の俺に対しても礼儀正しいやつだ。  
「よし! じゃあ行くか?」  
「はい……えっとあのー、諒助?」  
「ん?」  
「このジャージ……」  
「ああ、後で適当に返してくれればいいよ」  
「そ、そうじゃなくてですね……えっと、貰っちゃだめですか?」  
「はぁ? ……なんで?」  
 さっきまで『精神がすり減る』とか『臭う』とか言っていたので、俺は香奈の真意がイマイチ掴めなかった。  
「ジャ、ジャージが欲しいとかそういうわけじゃなくてですね!私が一度着たものを諒助に返すのが、単に恥ずかしいだけです……」  
「ああ、そういう事なら俺はもう着ないし、かなの好きにすればいいよ」  
「そ、そうですか? それじゃあ、お言葉に甘えて貰っちゃいますね」  
 その時の香奈の笑顔は、いつにもまして一段とかわいかった気がする。  
 
 

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