毎年新春に行われる親戚一同の新年会は私にとっては幼い頃からつまらなく、そしてくだらないものだった。
そんなつまらなく、くだらない新年会に私が出席する動機はお年玉という名の実弾が貰えるからである。
しかし今年はこれまでに輪をかけてくだらない。
普段あまり笑うという事をしない私も思わず失笑してしまいそうだった。
……その点からつまらなさにおいては幾許か軽減されたと言えるかもしれない。
そのくだらなさの中身とは、すごろくという遊戯の体裁をとり、十代の少女である私達に恥辱を与えたり性を刺激する倒錯的な行為を強制する催しである。
この低俗な余興に参加する事と期待値35万円を天秤にかけた結果、私は多少の屈辱は甘んじてこれに加わるという結論を出した。
……断じてわずかでも内容に興を引かれたり、輪に加われない事に寂寥を感じたわけではない。
ゲームが始まると私に先立って賽を振った従姉妹たちは早速臀部を晒したり、水着に着替えたりする羽目となった。
その周りで彼女達の血縁者にあたる男達が興奮している浅ましい姿を心の中で嘲笑しながらも、同時に自分にもその血が混ざっている事を思い出すと、次第にそれは自嘲へと変わる。
しかし、この男達も一応紳士的と言えるのか、私達に過剰に低俗な野次を飛ばしたりはしてこない。
ましてや直接手を出すなどという事は彼らの中でご法度とされているようだ。
……だが、私の番が回ろうかという直前に広間の襖が開かれ、親族の中でも最も危険な人物が現れた。
―――――――菅原小春―――――――
彼女の存在を認識した直後、私は眼前で臀部を晒している従姉の飛鳥に冷ややかに
(危機が迫るとしたら、まずあなた)
と視線を送ると、案の定小春は獲物を見つけたか獣のように哀れな従姉に近づき、その魔手を伸ばしたのだった……
懺悔すると私は飛鳥をスケープゴートにしてサイコロを振るのを故意に少し遅らせた。
現状賽を振ったものに注目が集まるのが自然であるし、止まった先の内容次第では私が小春の毒牙にかかる可能性が高いと判断したからだ。
それを知ってか知らずか彼女は私に賽を早く振るよう要求したが、もう遅い。
……私は静かに賽を転がした。
私の身代わりとなり、下半身の柔肌を撫でられながら悶える羽目となっている飛鳥を一瞥もせず私は自分の賽が示した場所へと歩を進める。
その先は「服を着たまま下着のみを脱ぐ」という比較的軽い内容が記され。私は特に躊躇う事も無くその命令を実行した。
衣服に手を差し入れ、下着だけを取り外す私の挙動に周囲は盛り上がっていたが、自分が直接身につけているわけではない状態の下着を見られたところでさほど羞恥は感じない。
だがその後の……下に身につけるべきものを身につけず、直にズボンを穿いている感触は、私にとって未知の……えも知れぬ不安や不自然さを生じさせるものだった。
無論、そのような違和感を感じている事は表面上はおくびにも出さなかったが……
順番が一巡し、ようやく下着を元に戻す事が許された飛鳥は臀部を撫でる小春の手を振り払い再び賽を振る。
出た目は6……その先のマスに進み、そしてそこに書かれた内容を知った時、彼女の顔は再び引きつった。
「サイコロをもう一度振り、出た目の数だけ衣服を脱ぐ(ただし靴下は脱がない事)」
その内容を知った際に
「ボクがそこ止まったら振るまでも無くハダカ決定じゃん!ウケルw」
と、すでにスクール水着一枚の皐月がけらけら笑いながら言った。何が面白いのか理解不能。
……かく言う私も現在下着を身につけていないので実質纏っている衣服は上下あわせて3枚。
仮にあのマスに止まった時、1ならばセーターを脱ぐだけにとどまり、せいぜい下着をつけていない事で透け出た乳首を見られるぐらいで済むだろうが
2が出たら上半身裸、3以上が出たら全裸にならなければならない。
止まった張本人の飛鳥は幸いまだ服そのものに変化はないので、おそらく上着とインナーとスカートで下着の他に最低3枚の衣服を身につけているだろう。
サイコロの数字が3以下なら下着止まりで済む。あるいは私のように下着を先に脱いでしまうという手もある。
しかしもう一度サイコロを振った飛鳥の出した目は4だった。
飛鳥は渋い顔をして小声で何やら悪態をついた後、自らの衣服に手をかける。
ニーソックスと下着の上下だけになった所で一度手が止まり、しばし躊躇した後、ゆっくりと手で前を隠すようにしてブラジャーを外した。
下着一枚になった飛鳥に小春が叫ぶ。
「あぁん!中途ハンパ。もうどうせだからパンツも脱いじゃいなよ飛鳥ちゃん」
見るものからすれば中途半端かもしれないが脱ぐ方からすればその一枚で大違いであろう。当然その要求は却下された。
しかしこれでこの先飛鳥はショーツとニーソックスのみの姿でゲームを続ける事となる。
今は俗に言う手ブラで前を隠しているが、次の自分の番が回ってきた際には否応無くその手をどける事となるだろう。
……ところで、先ほどまで飛鳥について回っていた小春がなぜ私の傍らに立っているのか……正直不気味でならない。
賽は1ターン目に唯一性的な指令から逃れた少女、弥生の手に渡る。
彼女は最初にスタート地点に立った時以上に緊張した面持ちであり、怯えているようですらあった。
彼女以外のプレイヤーである私たちが三者三様に痴態……
とまではいかなくともそれなりに羞恥を伴う行動を強いられた。
その事がこの気弱な少女に多大な不安を与えたのは想像に難くない。
しかし、この少女は性的な指令に怯える一方で、最初の回で自分だけ何もしなかった事に負い目を感じているようだ。
……全く随分と損な性分だと思う。
そんな弥生の性格を彼女の姉である飛鳥も思うところがあるようで今も賽を持ちながら震える妹を見る飛鳥は少し苛立った様子である。
それは決して下着一枚にされて待たされているからだけではないだろう。
「え、えぃ……」
消え入りそうな掛け声で弥生は転がすと言うより置くような動作で賽を振る。
まるでその弱気な挙動が賽に影響したかのように出た目は1。
その先には一番最初に飛鳥が、彼女の実の姉が実行した内容。
「……ぁ……!」
弥生の顔は緊張に引きつる。
この少女にとって大勢の前で臀部を晒す行為は恐怖を覚えるほどの羞恥のようだ。
だが、命令を拒否し降りる勇気もないのがこの弥生という少女。
弥生はどうしたらいいのかわからず、その場で蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。
「……その子は下着は許してあげたら?パンツ丸出しでいいじゃん」
その様子を見かねたのか、すでに自分は丸出しどころかそれ一枚しか身につけてない状態の飛鳥が口を開く。
普段は優柔不断で大人しく流されやすい妹に対して棘がある態度が目立つ彼女だがいざという時は庇うのだ。
「……い、いえ!やります……!!」
だが姉の折角の助け舟を弥生は拒否してしまった。
いや……むしろ姉の言葉によって決心がついてしまったと言う方が正しいのか。
どの道この少女は自分だけ優遇されるなどという事も耐えられない性分なのだから仕方ない。
吐いた唾を飲めなくなった弥生は震える手で自分のスカートの中に手を入れると、ゆっくりと素朴な白い下着を降ろしていく。
「…………っ!!」
さらに頬を紅潮させながら震える手でスカートを捲り上げ、白い臀部を晒すと、追い討ちをかけるように小春が率直な感想を投げかける。
「弥生ちゃんお姉ちゃんに似てかわいいお尻?」
小春のその言葉に弥生は震えた。
先ほど姉がどうなったかは知っている。見られるのみならず自分も小春の毒牙にかかるであろう事に怯えているのだろう。
しかし小春は弥生の臀部を笑みを浮かべながら凝視はしているが、彼女の傍に近寄ろうとはしない。
流石に良心が咎めたのか、年齢的に守備範囲から外れているのだろうか?
いや、彼女に限ってはどちらもあまり考えられない。
……なぜ小春は既に下着は脱いでいるものの視覚的には露出の少ない私の横を離れないのか。
「よっしゃー!次ボクボク!早く」
一回賽を振るのにも多大な緊張を強いられた弥生をよそに、この場で唯一純粋にゲームを楽しんでいる少女、皐月が叫ぶ。
……本当に私たちと同じゲームをしているのだろうかと思ってしまう。
「それっ」
投げるように思いきり賽を振る皐月。
ドン……ッ!ドン……ガスッ!
「うわらばっ!」
勢いよく転がった賽がバウンドして小春の脛を直撃した。
そして、賽の目の出した数字は前回と同じ6。
誰が振ろうと1が出る確率も6が出る確率も同様なはずなのに、まるで賽を振ったものの精神と運命を写すかのようにこの少女には大きい目が続く。
「完全独走〜♪」
水着姿でマスをピョンピョンと飛び跳ね、皐月が向かったスタートから12マス目の内容は……
「次の自分の番までブリッジ(途中で床に身体がついてしまったらペナルティとして1枚服を脱ぐ)」
最初のターンであれば殆ど問題のない内容であっただろう。
だが、今の皐月にとってはかなり過酷だ。水着一枚でブリッジというのもそうだが、それ以上にこの状況で一枚ロスト=全裸だ。
「よゆーよゆー!……いよっと」
しかし等の本人はむしろ得意気な表情をして体を後ろに倒すと、そのまま手を床についてブリッジを完成させる。
それは頂点が高く、理想的なアーチを描いたとても美しいブリッジだった。
だが、そんなふうに彼女のブリッジを見ていたのは私だけだろう。
現に私の横の女の視線は、皐月の下半身の一点に釘付けである。
そこは薄い水着の布越しに股間部分が盛り上がり、そのさらに中心部に水着が食い込んで一本のラインを作っていた。
「あ〜あのドテ、あのミゾ!触りたい、触りたい!」
……そんなに触りたいなら触りにいけばいい。この場で誰もあなたを止められないのだから。
そんな事を考えているうちに早いもので次は私の番だ。
賽を手渡された時……小春が私の耳元で囁いた。
「……若葉ちゃん、次の一振りで追いつけるかな?追いつけなかったらその時は……」
……!!この女……何を言っている……!?
本日二度目の自分の番を迎えた私は……賽を持ったまましばし考えた。
現在プレイヤーとなっている少女は私を含めて4人。
先頭を走る少女、皐月は水着一枚の姿で高々としたブリッジの体勢をとり、幼いその肢体を精一杯アピールするような格好となっている。
私の少し前にいる少女、飛鳥は既にショーツ一枚の姿にされ、両胸を手で隠しながら居心地悪そうにその場に立ちつくしている。
私の後方で下着をずり下げ臀部を晒している少女、弥生は頬を紅潮させ目をつぶり俯きながら、必死に羞恥に耐えている。
私はというと……もう下着こそ身につけていないが上下の衣服は正常なままで、外見上はこの中では一番被害が少なかった。
だが、その私の傍を、同性であろうと親戚であろうと構わず食ってしまう好色な女性、小春はなぜか離れようとしない。
回りには彼女が食指を伸ばすべき獲物が他に多数いるのに。そして、彼女は先ほど賽を手渡された私に意味深な言葉を投げかけてきていた。
『……若葉ちゃん、次の一振りで追いつけるかな?追いつけなかったらその時は……』
ここで私は、一つの仮説を立てた。彼女は無節操に私たちに手を出しているのではなく彼女なりのルールを設けているのだと。
そのルールとは、彼女は4人のプレイヤーのうちの一人にだけまとわりつき、その間は他の者には手を出さない。
そして、おそらく他のプレイヤーのいるマスに止まるか通過した際に、彼女を他者になすりつけることが出来る……
そう考えると今の状況に辻褄が合う。
一番最初に被害にあったのは飛鳥。その飛鳥に追い抜かれる形になった私。そして先の小春の言葉……
すなわち今、危機に晒されているのは私であり、それを回避するには4マス先にいる飛鳥に再び追いつかなければならないということ。
……無論ここまではあくまで推測であり、仮に推測が当たっていたとしても小春がその自分ルールをどこまで厳守してくれるかはわからないのだが。
いずれにせよ、私はゲームを続けるため賽を振るしかなかった。
……だが、出た目は3、つまり4マス先にいる飛鳥には追いつけない。
追いついてしまったら、それはそれで振った目の数だけ衣服を脱ぐという既に実質二枚しか身につけていない私にとっては少々条件の厳しいマスに止まる事になっていたわけだが……
そして、移動した先に変わりに書かれていたのは
「次の自分の番までおっぱいを見せて立っている」
……既に菅原姉妹がやる羽目となった臀部を晒して立っているのとどちらがマシだろうか……
いずれにせよすでに身につけているのがショーツ一枚で常時上半身裸になっている飛鳥よりはマシだろう。
……私はさほど躊躇う様子も見せず、自ら上着を捲くってすでに下着を着けていない乳房を露出させた。
すぐさま周囲から短い歓声が上がり、息を呑む音が聞こえる。
私の胸……とりわけその双丘の頂点にその場にいる人間の視線の大半が集中するのがわかる。
別にこれぐらい覚悟していた、どうという事は無い。
……しかし、問題は見るだけでは済まないこの女の存在。
「まだ発育途上なのに綺麗な形してるわね……」
小春が背後から私の耳元にそう囁く。私の背中に私より軽く10センチ以上はサイズのありそうな胸を押し付けてきながら……
さっさと触るなり揉むなりすればいい、それだってこのゲームを始めて、あなたが現れた時から覚悟していた。
そう思った次の瞬間、それでは遠慮なく、と言わんばかりに私の背後から小春の両手が回され……私の胸の頂点に、彼女の指先が軽く乗せられた。
ちょん……
それはなまじ思い切り揉まれたりするより強い官能を、つま先から頭の頂点まで微弱な電気が走るような刺激を私に与えた。
私はそれを声と表情に出す事をなんとか堪える。
「若葉ちゃん声も出さなければ表情一つ変えないんだ……」
小春は感心したような口調で指先を動かし、私の乳首を弄る。
「でもね、若葉ちゃんのおっぱいは正直だよ……ほら、どんどん固くなってくる」
……彼女の言うとおり、指先で突かれ、撫でられ、刺激を与えられ続ける私の乳首は徐々に固く尖っていってしまっているようだ。
「……末端に神経が集まっている、人間の自然な生理反応です」
私は内心こみ上げてきている屈辱を抑えてそう言った。
「じゃあさ、なんで若葉ちゃんは眉一つ動かさないで耐えてるのかな?生理反応ならガマンしないで少しぐらい反応してもいいはずじゃない?」
「私の勝手です」
「結局ね……若葉ちゃんは本当は恥ずかしがり屋さんなんだよ」
「前後の会話が繋がってません」
「胸を見せても平気……胸を触られても平気って振舞ってるけどソレは結局恥ずかしがると余計恥ずかしいから我慢してるんでしょ?」
「…………別に」
「若葉ちゃんは本当は繊細だから今回に限らずそうやって傷つかないようにしてたんだよね」
「…………」
「若葉ちゃんは無感情でクールなキャラ作ってるけど、それが思春期特有のポーズだって事、お姉さんを見抜いてるから」
「……勝手に妄想していればいい!」
「……くすっ?」
キュッ!
「うあぁっ!」
突然、それまでの小指の先を乗せるだけのような触れ方をしていた小春が私の乳首を強く摘んだ。
焦らしによって高められていた感覚と不意打ちに思わず私は声を出してしまった。
「あ、今の声と表情可愛い?気持ちよかった?」
「……痛かっただけ。あまり乱暴な事はしないで欲しい」
嘘だ。確かに少し痛かったけど、それより別の感覚の占める割合が多くて私は叫んでしまった。
そして、そんな嘘は当然この女には見抜かれている。
「そう?痛かったゴメンね。ふーふーしてあげる。ふーふー」
小春の息が、抓られた感触がじんじんと残る私の胸にかかる。
「……あうぅっ!」
「ふふっ、若葉ちゃん、それも生理反応?」
……ダメだ、このままじゃ、壊れる。私の中の私が壊れる、誰かに擦り付けなきゃいけない、この悪魔を。
早く、早く賽を振って……!!