「半年ぶりにこんにちは。第3放送部の名無しAです」  
「てか、これを書き始めてるのが半年ぶりだから、書き上げる頃には半年じゃ済まなくなる可能性もあるだろ」  
「や〜なかなかいい妄想が降りてこないんですよ」  
「中の人の思考をそのまま垂れ流すなよ。それで書き始めたってことは良い妄想が降りてきたとか?」  
「いや、ぶっちゃけプロットまとめずに書き出しているから、途中で投げ出す可能性大」  
「さりげなく予防線を張ってやがるな」  
 
「さて学園祭シリーズ、次の演し物は化学部のステルス鬼ごっこです」  
「ほう、演目だけ聞くと色々なエロパターンが想像できるが……」  
「ルールは簡単、校舎のワンフロアをフィールドとして、制限時間まで鬼から逃げ切ったら勝利です」  
「ステルスってことは鬼か逃亡者のどっちかは普通じゃ見えないんだろ?」  
「その通りです。逃亡者は透明薬を服用し、その効果時間はちょうど鬼ごっこの終了時間とぴったり一致します」  
「それじゃ逃亡者が圧倒的に有利じゃね?」  
「勿論、鬼にもPleasureControlSystem(快感制御装置)というアイテムが貸し出されます」  
「PCS?」  
「予め設定しておいた対象者の性感を自在に操れると言うアイテムです」  
「つまり透明化した女の子をPCSを使って探り当てて捕獲しようってことか」  
「そういうことです。とりあえずは化学部部室からの映像をご覧いただきましょう」  
 
「さて、化学部ではただいまそれぞれ仕切りで分けられた部屋で待機している鬼と逃亡者にルールの説明がされております」  
「鬼役の男子生徒は学業では学園でもトップクラスの秀才君だな」  
「この手の美味しい役柄をゲットするにはゲームの時みたいに大金を支払うか、スポーツもしくは学業で優れた成果を残すことが求められますから」  
「じゃ生徒会長に聞くの時にセクハラレイプしてた全身タイツ野郎どもも?」  
「勿論中身は全国クラスの秀才かアスリートですよ」  
「それもどうなんだ……もしかしたら高校野球の期待のエースとかが全身白タイツでセクハラレイプしてたかもってことだろ?」  
「そういう学園ですから」  
「ちなみに鬼が男子生徒ってことは逃亡者は当然……」  
「女子生徒です。それも学年一の美巨乳美少女、ゆりなちゃんです。」  
「それは楽しみだね。しかし学園祭の演し物なのに、客がまるではいってないようだが?」  
「ステルス鬼ごっこは、その性質上開催されていることが周囲にばれると色々と問題がありまして……。この実況を後からVTRで流すのが化学部の本当の演し物ということになります」  
「なるほど、ちなみにルールは?」  
「エリアはA校舎2Fのフロア全てが対象になりますが、男女の入室制限のあるトイレは開始後双方侵入不可になります。また1Fと3Fに通じる階段もエリア外という判定で、侵入すれば即失格です」  
「階段はともかく女子トイレは篭られたら手の出しようがないから侵入不可ってことか」  
「あと制限時間はお互いに知らされず、校内放送でアナウンスが流れた時点で終了となります。また鬼も逃亡者もお互いが誰であるかは知らされないままのスタートとなります」  
「なるほど」  
「PCSは対象をゆりなちゃんに固定させているため、他の女の子には効果はありません」  
「どれくらいの効果なの?」  
「PCSは通常モードと絶頂モードに分かれていまして、通常モードは常にONの状態で使えます。この場合、近くにいると徐々に体が火照りはじめて、大体3分経過すると歩行が困難な程の快楽状態に落ちてしまいます」  
「通常モードでも結構効くんだね」  
「それでも体の異変を感じたら、すぐにその周辺から距離を取れば何とかなります。次に絶頂モードですが、これは一度使うと3分間の再チャージが必要で、効果時間は5秒です」  
「その分効果は強力と……」  
「その5秒間で全く素面の女性を潮噴き絶頂させるくらいの超強力モードです。ただし5秒しかもちませんから、無駄打ちはできません」  
「万が一制限時間が10分だったら最大4回しか使えんわけだからな」  
「制限時間を教えない理由の一つですね」  
 
「じゃ、基本は通常モードのまま、ゆりなちゃんが隠れていそうな場所を探し、怪しい気配を感じたら絶頂モードに切り替える……っていうのが鬼側の基本行動スタイルになるわけか」  
「そうなりますね。あとは通常モードに比べると絶頂モードは効果範囲が狭くなっていますから、その点も注意が必要です」  
「どれくらい違うの?」  
「効果範囲についてはゆりなちゃん、秀才君ともに教えられていません。実際に使い、使われてみないとわからないんですね。あ、先に説明の終わった秀才君が化学部部室を後にします。この後秀才君は校舎中央の男子トイレで5分間待機してから行動を開始します」  
「逃げる側は透明とは言え、化学部部室で同時スタートじゃ即絶頂モードに切り替えればスタートと同時に決着してしまうからか」  
「その通りです」  
「あ、ちなみ鬼はゆりなちゃんにタッチしたら勝ち?」  
「いや、それだと偶然触れただけで勝負がついてしまう可能性もありますので、もっと確実に……あ、ゆりなちゃんが透明薬を服用し始めました」  
「おっと、徐々に体が透けていって……制服だけが宙に浮いていますね。この薬、衣服は透明化の対象外なのか」  
「勿論です。ですから当然ゆりなちゃんは制服を脱がないとモロバレです」  
「つまり透明化しているとは言え全裸で校内を走りまわるわけだな。これは色々なハプニングが期待できそうだ」  
「ステルス鬼ごっこの開催が秘匿されているのもこれが理由です。透明とは言え全裸の美少女が会場のA校舎2Fにいるとわかれば、野次馬が殺到しますから」  
「そりゃそうだ」  
「というわけで透明全裸になったゆりなちゃんが化学部部室を後にします。ちなみに校内のカメラは勿論アンチステルスモードが搭載されていますので……」  
「全裸ゆりなちゃんが画面に写っているね!」  
「このゲーム、ゆりなちゃんが勝った場合、勝者の権利としてゆりなちゃんの映像は完全モザイクの放映となってしまいます。珍しく実況する我々だけがどちらに転んでも全裸が拝めると言う役得のある演し物です」  
「素晴らしい。走るとたゆんたゆん揺れる美巨乳が素晴らしい。その割に小さめで綺麗な桜色の乳首も素晴らしい。ああ素晴らしい素晴らしい」  
「はいはい、素晴らしいですね。さて先程言いかけた勝利条件ですが……」  
「ああ、触れるだけじゃなくて?」  
「ゆりなちゃんの体にPCSを5秒間押し付けたら勝利確定になります」  
「なんだかその時の光景を想像すると楽しそうだね」  
「近くに寄るだけで感じてしまう装置を直接肌に押し付けられるわけですからね」  
「これは秀才君の頑張りに期待したいところですね」  
 
「さてA校舎2Fは化学部部室も兼ねた第2理科室と家庭科室が両端にあり、その間にある普通教室では各クラスの演し物が開催されています」  
「演し物の性質上部員以外誰もいない第2理科室とは違って、家庭科室では手作りお菓子の参加型実演販売ということで、幼年部や少等部の子供達で大盛況と言った様子ですね」  
「廊下もそれなりに賑わっており、この人ごみの中からステルス化しているゆりなちゃんを探すのは結構大変そうですね」  
「ただゆりなちゃんもこれだけ人がいると、接触の危険性が高くて神経を使いそうですね」  
「周りの生徒から見えていないのですから、ゆりなちゃんが避けないと相手は容赦なくぶつかってきますからね」  
「ぶつかって転んだりして騒ぎになれば、秀才君がすぐさま駆け寄ってくるでしょうしねぇ」  
「そこでゆりなちゃんの行動ですが、おや化学部部室の近くで人通りの少ないポイントでじっとうずくまっていますね」  
「動きまわる方が危険だと判断したのでしょうかね」  
「それもあるでしょうが、時間切れで勝利した場合に透明薬の効果が切れますからね」  
「あ、つまり鬼ごっこ終了の時間になったら、いきなり全裸で人前に姿を現してしまうわけですね」  
「そうです。終了したらすぐに化学部員がガウンを持って駆けつけてくれる手筈にはなっていますが、化学部部室の近くなら人目に晒される時間も少なくて済むということなんでしょう」  
「制限時間がわかっていれば、別の場所で隠れていて、時間ギリギリで化学部部室に近付くという手もあったんでしょうが、制限時間はお互いに知らされていませんから、最初から近くにいるしかないということですか」  
「しかし、これには危険もありますね」  
「そうです。ゆりなちゃんがそう考えることを見越して秀才君が行動をすれば……」  
 
「おっと、その秀才君が待機時間を終了して動き始めます」  
「一応追いかける側もギリギリまでは自分が鬼だと知られない方が有利なので、秀才君も他の生徒に紛れてトイレから出てきましたね」  
「とはいえゆりなちゃんには待機場所も待機時間も知らされていないので、この時点での特定はまず不可能なんですけどね」  
「その秀才君ですが、やはりバレを恐れてなのかさり気なく4人の男子生徒の集団の後方に紛れながら、化学部部室の方に近づいていきます」  
「これはゆりなちゃんの考えに気付いていますね」  
 
『んくっ!ん……はぁっ、はぁん……うぅ』  
 
「おっとお互いの距離が5M程度になったところで、ゆりなちゃんの様子が変わりましたね」  
「自分の体をだき抱えるようにして震えながら、小さく吐息を漏らしています」  
「ま、小さな声ですし聞こえてしまうことはないでしょう」  
「さて、PCSの効果に震えながらもゆりなちゃんは必死で自分に近づいてくる男子生徒を確認しています」  
「校舎の端にいて、上下の階段は禁止エリアとなれば廊下を歩いて自分に近づいてきている男子のうちの誰かが鬼ってことになりますからね」  
「しかしPCSの効果範囲が不明ですから、近づいてきている男子の誰かまではなかなか特定は難しそうですね」  
「今現在、ゆりなちゃんのすぐ近くに男子生徒2名、そして数メートル先に本命の秀才君とその他4名、そして更に数メートル先に3名の男子生徒、以上がゆりなちゃんの視点から見て怪しいと思われる男子生徒になりますね」  
「そしてすぐ近くにいた2名はそのまま階段の方へと去っていきましたから除外されて、本命グループと後方の3人組に疑惑の対象は絞られます」  
「おや、ここでゆりなちゃんがゆっくりと立ち上がり、他の生徒にぶつからないようにしながら廊下を歩き始めました」  
「ある程度容疑者を絞り込めたので、完全な特定は次の機会に譲って今は距離を取ろうという判断ですね」  
「ちなみに鬼とすれ違うことになりますが、PCSは効果範囲内であれば常に一定の効果なので近付き過ぎたからどうということはありません」  
「しかしまだ通常モードの効果範囲に入って30秒程度しか立っていないのに、もう顔は真っ赤で乳首もやや硬くなっている様子ですね」  
「3分で足腰立たなくなるらしいですからね」  
「今、秀才君の横を通り過ぎ……あっ!」  
 
『ひっ!?んああああああぁぁっっっ!!』  
 
「これは?すれ違い様にまるでわかっていたかのように、秀才君が絶頂モードをオンにっ!?」  
「ゆりなちゃんの体が電気に打たれたかのように反り返った瞬間、割れ目から愛液が噴出しましたっ!」  
「秀才君が自分の真横から聞こえた声に反応してすぐさま手を伸ばしますが、無意識にグラリと前につんのめったゆりなちゃんはからくも秀才君の腕をすり抜けてフラフラとよろめきながら逃げ出そうとします」  
「どうやら絶頂モードの効果範囲は1M程度のようですぐに効果範囲からは脱したものの、廊下にポタポタと愛液を垂らしてしまってます」  
「ゆりなちゃんを捕まえ損ねて一瞬動きの止まった秀才君ですが、床の愛液に気付き猛然と追跡を始めます」  
「あ、ゆりなちゃんが教室に逃げ込みました!ここは学園祭定番の軽食喫茶店ですね」  
「そして店内に入った瞬間、手近なテーブルのお冷を手にとって……うわっ!床にぶちまけています!」  
「突然目の前のコップが浮き上がって中身をまき散らしたことに驚きを隠せないテーブルの女生徒二人組ですが、店員は誤ってコップを落としたのだろうと笑顔で床を拭き始めます」  
「これで愛液の痕跡を誤魔化すことができますね。それにしてもゆりなちゃん、意外に大胆な判断と行動力です」  
「数秒後に店内に駆け込んだ秀才君もやられた……という顔をしています」  
「一方でゆりなちゃんは秀才君の顔を確認して鬼が誰だか見極めると、少しふらつきながらもその場を離れます」  
「愛液が流れ落ちないように手で股間を抑えながら歩く姿が悩ましいですね」  
「開始直後から怒涛の急展開でしたが、とりあえずはゆりなちゃんが何とか難を乗り切りましたね」  
「それにしても秀才君はどうしてあのタイミングで絶頂モードに切り替えたんでしょうね?」  
「あれ、わかりませんか?」  
「いや全然わかんないんだけど……」  
「可愛い女の子はすれ違うといい匂いのする法則!」  
「ああっ!」(その時解説Aに電流走る!)  
 
 
 
(はぁ……びっくりしたぁ……)  
喫茶店の隣の教室に入るとなるべく人の寄ってきそうにない場所にしゃがみ込むと安心したようにふぅと小さなため息をつきながらしゃがみ込む。  
ややナチュラルウェーブの掛かった栗色の髪の毛と瞳の大きい幼さの残った顔立ちは可愛いを通り越して愛らしいという形容詞が相応しい。  
しかし両手で抱え込むようにして隠している胸元の膨らみは学年随一と呼ばれる美巨乳であり、常に羨望と欲望の視線を集めている。  
そんなアンバランスな容姿を持つ少女の名は美原ゆりな、学年でも5本の指に入るであろう人気の美少女である。  
その美少女は現在、完全に一糸纏わぬ状態で教室の隅でしゃがみ込んでいる訳なのだが、その姿に注目するものは全くの皆無。  
化学部の学園祭の演目である「ステルス鬼ごっこ」に使用される「透明薬」の効果で完全に透明化しているからだ。  
ちなみにゆりなが一時避難しているこの教室のクラスは演し物を校庭か講堂で行う為か、教室内は閑散としており、たまに休憩に来る生徒が交代で数人ずつ入ってくる程度である。  
 
(けど、どうやってわたしを見つけたんだろう……)  
ゆりなは鬼ごっこが開始されてすぐにA校舎2F西端の化学部部室傍で待機を始めた。  
理由は複数ある。  
まず鬼が誰なのかを見極める必要があった。  
追跡者が誰なのかがわかれば、自分は透明であるが故に鬼の動向を遠目に監視しながら安全に距離を取るという戦法が可能になる。  
PCSは厄介な道具だが、自分に鬼が近付いていると知らせてくれるセンサーでもある。  
ただし四方八方から人が歩いてくる場所にいては、誰が鬼なのか特定できない。  
できれば人の流れが限定される場所が望ましい。  
校舎西端の化学部部室前ならば、東から歩いてくる人の流れと上下階段からの人の流れに限定できる。  
階段に関しては進入禁止エリアであるため、東から歩いてくる男子生徒だけに注意してさえいれば良い。  
また化学部はこの鬼ごっこが終わるまでは誰も立ち入らないため、それ程多くの人が通り掛からないのも理想的だった。  
更に時間切れで勝利が確定した際に、すぐに化学部部室に飛び込めば全裸を晒さなくて済むという可能性も理由の一つだ。  
とは言え自分がそう考えたなら鬼も自分の思考を読んで行動する可能性はあると思っていた。  
相手が頭の切れる男子なら、こちらの作戦を察知して化学部部室に近付いてくるから正体を見極めることができる、逆に頭の悪い男子なら隠れたまま時間切れまで待機できる可能性すら出てくる。  
化学部部室傍での待機はゆりなにとっては、どちらに転んでも悪くない作戦だった。  
それ故に鬼ごっこ開始間もなくPCSの効果が肉体を襲ってきたこと、鬼が明らかにそれとわかるように一人で近づいてくるのではなく、複数の男子生徒に紛れて近づいて来ているとわかったときは、早めにその場を離れようとした。  
まだ容疑者を5,6人に絞ることができたという程度だったが、相手が頭の切れるタイプのこちらの行動や思考を読んで動く男子生徒だとわかった時点で、鬼の判別も執着せずにまずは安全に距離を取ることを優先させたのだ。  
無論、距離を取るとは言え化学部部室内と上下階段は進入禁止のために、鬼と思しき男子生徒の集団と一度はすれ違う必要がある。  
しかしPCSの効果は距離に比例しないと聞いていたし一瞬交錯するだけなら問題ないと考えていた。  
ところがである、鬼はまるで計ったかのようなタイミングでゆりなが真横を通り過ぎた瞬間にPCSのモードを変えたのだ。  
突然快楽中枢に直接電気信号を送り込まれたかのように、ゆりなの全身を性的快感が駆け巡った。  
我慢するどころか声を抑えることすら不可能な快感に、悲鳴を上げて思わずよろめいたが逆にそれが幸いして鬼の手を掻い潜る事ができた。  
その後、愛液をまき散らしながら必死で喫茶店を出店している教室に駆け込んで、テーブルから水の入ったコップをひったくると、床にぶちまけた。  
そしてなんとか愛液の痕跡を誤魔化しながらPCSの効果範囲から逃げ切った。  
そのすぐあとに教室に駆け込んできた鬼の顔を確認して、当初の目的を達成することができたのだ。  
素早い機転と行動で危地を見事に脱したように見えるが、実際のところ運が良かっただけだとゆりなは思う。  
絶頂モードを食らったとき、自分の前に誰かがいればぶつかって倒れてしまっていただろう。  
そうなれば恐らくその時点でゲームオーバーだったに違いない。  
一番近くの教室が喫茶店だったのも幸運だった。  
もしあの教室が今待機している教室のように空き教室だったら愛液の痕跡を隠し通すことは難しかった。  
 
(でもとにかく誰が鬼なのかわかったんだから、作戦を考えないと……)  
ともあれゆりなは再び思考を組み立て始める。  
判明した事実、想定外だった事実、予測していなかった事実を順に整理し、それら材料として対策を編んでいく。  
判明したことはまず鬼の正体、主要教科は常に一桁台、それも大抵は5位以内という秀才の男子生徒。  
化学部部室傍での待機を見破ったように、偶然に頼らず理詰めでこちらの行動を予測して動いてくるタイプの生徒だ。  
そしてPCSの効果範囲、通常モードで約5〜7M、絶頂モードは約0.5〜1.5Mを半径とする恐らくは円形状の範囲。  
絶頂モードは想定していたより随分と範囲が狭い。  
しかし逆に通常モードの効果は想定を上回っていた。  
効果範囲内に入っても多少は我慢が効くと思っていた通常モードは、あたかもじっくりと豊かな美乳を揉みほぐされるような感覚で予想以上に強い快感をもたらしてくる。  
効果範囲内に1分も居れば息が荒くなって声が漏れ始め、2分で全身を震わせながら喘ぎ泣いてしまい、3分も経てば上と下両方の口からだらしなく涎を垂らして悶え狂ってしまいそうな程の威力だった。  
性感というのは一度火が点いてしまうと、快楽の波が押し寄せるのに要する時間は加速度的に短くなり、逆に波が引く時間はどんどん伸びていく。  
僅かな時間とはいえ絶頂モードを受けて、体に火がついてしまった状態で、通常モードの範囲内に足を踏み入れるのは、言わば体内に快楽の種火をずっと灯し続けてしまうようなもの。  
そうなると通常モードの範囲に絶対に入らずに鬼を観察するには10Mくらい離れておかなければならない。  
しかし、半径10Mとなるとほぼ教室全域をカバーしてしまう。  
つまり鬼が教室に入ったとしても、追うことはできず廊下から中を伺うしか無い。  
だが、たいていの教室はドアはともかく廊下側の窓は締めてある場合がほとんどだ。  
そしてドアの周辺はもっとも混雑しやすく、透明化している自分と誰かが接触してしまう可能性が非常に高い。  
結論として鬼が教室に入ってしまうと、通常モードの効果範囲に入らないまま鬼の動向を察知するのは非常に難しいということになってしまう。  
これは鬼の正体を掴んだ場合の有効な対策である「鬼と一定距離をおいて常に鬼の行動を監視下におく」ことが実質不可能になったことを意味する。  
 
「うぅ……せっかく苦労して鬼の正体を掴んだのに……あ、でも……」  
一番の攻略法が潰えてしまったことで、一瞬涙ぐみながら途方に暮れるゆりなだったが、そこは秀才君に負けず劣らず成績優秀なだけあってすぐに思考を切り替える。  
鬼監視戦術は放棄しなければならないが、その理由は通常モードが予想以上にキツイことと効果範囲がそこそこ広いことが理由である。  
しかしこの二つの理由は実際に身に受けたゆりなだからわかることで、秀才君視点では通常モードの威力も範囲も全く掴めていないはずである。  
(逆に絶頂モードは間近でゆりなが声を上げたことと、よろめきながらも脱出に成功した為に威力と範囲を予測されている可能性は高い)  
つまり、秀才君からは「ゆりなが監視戦術を諦めざるを得なかった」という事実はまず予測できない。  
ということは、「監視戦術を諦める事」それ自体が秀才君の思考の裏をかくことになる。  
 
「ってことは……よぉしっ!」  
一度は途方に暮れかけたゆりなだったが、そこまで気付くと素早く考えをまとめて行動に移る。  
透明ではあるが全裸の美巨乳美少女が空き教室を飛び出して行くのであった。  
 

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