「あ〜、やっぱり、こっちにいたのね?」  
「ああ」  
「部室、鍵かかってたからさ、教室かな〜、って」  
「そうか」  
「どうしたのよ、ひとりで……」  
「ちょっとな」  
「あれ、双眼鏡? なに見てんの」  
「なんでもいいだろ」  
「あ〜、女子更衣室でしょ、スケベ!」  
「ちがう」  
「だって、ここから見えるもので、あんたの覗きそうなものって……」  
「ちがう、と言ってるだろ」  
「じゃ、なによ…… あれ? あ、ほら、旧校舎の屋上、だれかいるよ?」  
「だから、それを見てるんだ」  
「だれかな…… 向かいあって…… 制服、だよね? うちの生徒?」  
「右が夕子先輩、左が恭平」  
「えっ、ちょっと貸して、双眼鏡!」  
「断る!」  
「うう……」  
「少しだまってろ」  
「でも、なにやってんの、あの二人? あんなとこで…… まさか、告……」  
「決闘だ」  
「けっとお!?」  
「にらみあって、牽制している段階だがな」  
「な、なにそれ…… なんでそんなことになってるわけ?」  
「夕子先輩が部室の冷蔵庫に入れといたプリンを、恭平が食った」  
「はあ……」  
「ふだんから張りあってる二人だから、決闘でもしなきゃおさまらない」  
「そ、そんな、っていうか、あんた止めなかったの!?」  
「面白いから煽ってやった」  
「バカ!」  
「場所も提案したぞ。人の来ない屋上がいいだろう、と」  
「あ、あのね〜、なぐりあいなんかして、ケガしたらどうすんの!」  
「なぐるとか、そんな無粋な決闘じゃない」  
「だって……」  
「演劇部らしく、趣向のあるゲームだ」  
「なによ、にらめっことか?」  
「夕子先輩の体には、ローターが固定されている」  
「えっ」  
「恭平は、昔懐かしい電パンをはいている」  
「な、なにそれ」  
「装置のリモコンは、相手のポケットに入っている」  
「そっ、なっ、へんな冗談やめてよ、やらしいな」  
「先にイッたほうが負けだ」  
「……」  
「決闘の方法を決めかねていたから、提案してやった」  
「あんたの提案か!」  
「なんのかんの言って、二人とも乗った」  
「まさか……」  
「夕子先輩はエロ話に命賭けてるような人だし、後に引けなかった」  
「そ、そりゃ、先輩そういうとこあるけど…… だからって……」  
「恭平も演劇部の誇るエロ大名だし、夕子先輩と一発やりたがってた」  
「そ、そうなの?」  
「あの二人、すでにデキてんじゃないか、って噂もある」  
「うそ! 初耳だよ、それ」  
「あ」  
「な、なに、どうしたの?」  
「だまってろ」  
 
「どうしたの、ねえ、どうしたのってば!」  
「夕子先輩の肩が、ピクッと動いた」  
「えっ」  
「恭平から口火を切ったか。やっぱりな」  
「……」  
「恭平も少し動いた。いよいよゲーム開始ってわけだ」  
「ねえ、ちょっと見せて!」  
「断る!」  
「うう……」  
「しかし、二人とも、ここからはタイミングの勝負になるな」  
「たいみんぐ?」  
「不用意に max にしたら、すぐに max にやり返されるから、危ない」  
「まっくす、って……」  
「おまえ、使ったことないのか、ローター」  
「あ、あるわけないでしょ! あんたらと一緒にしないで!」  
「そういや、こないだの部会で出たな、おまえの処女疑惑」  
「なっ、む、蒸しかえす気!?」  
「あ」  
「な、なに?」  
「夕子先輩、腰が引けちゃってる。感じやすいんだな」  
「……」  
「恭平は変わらんな。いや、そうでもないか」  
「ねえ、見せて、レンズの片っぽでいいから!」  
「ええい、くっつくな! うっとうしい」  
「うう……」  
「おまえ、ほっぺた熱いぞ、興奮してんのか」  
「バ、バカ!」  
「いてっ、やめろよ、危ないな! 高いんだぞ、この双眼鏡」  
「けち!」  
「お」  
「ど、どうしたの?」  
「しがみつくなって!」  
「だって……」  
「いや、しがみつきたいのは夕子先輩のほうか、あの様子じゃ」  
「どうなってんの?」  
「ひざがふるえてる。口もとを手で隠した。色っぽい」  
「……」  
「おや、ふるえが止まったな。あっ」  
「なに?」  
「びくっ、と痙攣して、太ももを手で押さえた」  
「……」  
「たぶん、一度 off にしてから、いきなり max にしたんだ」  
「ふ、ふ〜ん」  
「恭平の勝利かな。もう長くないぞ、夕子先輩」  
「そ、そうなの?」  
「いや、恭平もふるえてるか。こりゃ max 同士の決戦に持ちこまれたな」  
「……」  
「ん」  
「えっ」  
「夕子先輩、唇がひらいてる。声出ちゃってんな」  
「ど、どんな声?」  
「くっつくなって、髪がくすぐったい! 息も荒いし」  
「あ、荒くなんかないってば!」  
「くっついたって、なんか聞こえるわけじゃないぞ」  
「そ、そりゃ……」  
「通信機と双眼鏡の区別もつかんのか、このアホ娘」  
「あほって…… あんたに言われたくないわよ!」  
「おや」  
 
「なによ!」  
「口があんなにひらいてちゃ、あえぎ声というより、嬌声だろうな」  
「ふ、ふ〜ん」  
「なんて叫んでんのかな」  
「……」  
「ああ、いや、イッちゃうよー」  
「バ、バカ、へんな声出さないでよ!」  
「声出ちゃう、出ちゃうよー」  
「やめてってば、変態!」  
「もう、やめてー、あああああ」  
「あああああ、じゃないわよ!」  
「あ」  
「えっ」  
「イッたか。いや、まだか」  
「……」  
「しかし、今のよろめきかたは、もう」  
「もう……?」  
「お」  
「えっ」  
「おおっ!」  
「な、なに!? どうしたの!?」  
「洗濯が大変だろうな」  
「……」  
「勝負あった」  
「そ、そう……」  
「ふぅ」  
「……」  
「しかし、なんだな」  
「なによ」  
「恭平は強いな。結局、たいした反応を見せなかった」  
「そう……」  
「遅漏なのかな。おまえ、ああいう男とはつきあうなよ」  
「だ、だれが!」  
「さて、と」  
「あっ! ぷっ、あはははは……」  
「なんだ」  
「目のまわり、赤い隈できてるよ」  
「そうか」  
「ねえ、もう見ないんなら、貸して? いいでしょ?」  
「いいよ、ほら」  
「ありがと…… あれ?」  
「どうした」  
「あの二人…… って、部室にあった人形じゃないの! 二つとも!」  
「そうか」  
「衣装の制服着せて…… どういうこと? 先輩たちは?」  
「二人とも、今日は早くに帰った」  
「だ、だましたわね?」  
「うん」  
「うう…… 最低」  
「あのな、そもそも」  
「なによっ」  
「イッたら負けなんて勝負、女は、イッてないって言い張れるだろ」  
「……」  
「そんなことにも気づかないで、だまされるおまえが」  
「バカだっていうの?」  
「とってもかわいい」  
「なっ、バッ、バカ――――ッ!!」  
「こら、双眼鏡を投げるな――――っ!!」  
 
 

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