「……」  
「呆れるなよ。誘ったのは俺でも、お前だってノったんだぜ?」  
 
無言の満月(みつき)に対して挑発するように声をかける康之(やすゆき)。  
事実、康之が「ちょっとエロ改良加えたチェスで勝負しないか? 賞金付きで」と誘いをかけたのに対し、  
満月は「チェスで勝負? いいわよ、負けないし」とノったのだ。  
『エロ改良』という言葉が気になったが、大した事はないと思ったのだろう。  
なにより、彼女はチェスのアマチュア大会で入賞経験があるのだ。  
 
今、彼女は後悔している。  
通常チェス盤上には、クイーン、キング各1。ポーン×8。  
ルーク、ナイト、ビショップ各2の計16×2人分=32の駒が存在する。  
しかし目の前の盤では、その駒にそれぞれ何か書かれた紙が張られている。  
 
ポーン⇒1枚脱衣(各¥500)  
ナイト⇒胸弄り(各¥1000)  
ビショップ⇒1つ目・バイブ挿入、2つ目・スイッチON(各¥1000)  
ルーク⇒1つ目・ローター装着、2つ目・スイッチON(各¥2000)  
クイーン⇒秘所弄り(¥5000)  
 
「どういう事?」  
「俺が駒を取られたら、とられた駒に書かれた額をお前に支払う。お前が駒を取られたら、その駒に書かれた事を実行」  
「……キングは?」  
「もち本番、お前が勝ったら¥10000でどうよ?」  
 
流石に満月の怒りを買ったようだ。  
 
「謝って、世界中のチェス愛好家に謝って。なによこれ、改良というか改悪じゃないの!」  
「男の浪漫とゲームの融合を馬鹿にする気か!」  
「それ以前にチェスを侮辱しているわよ!!」  
「んじゃ何、やんないのかぁ?」  
「当たり前でしょ!!」  
 
そう言い残して教室から出ようとすると、康之は不適に笑う。  
 
「逃げる、のか?」  
「なっ!?」  
「アマチュア大会入賞者が、ちょっと変なルールが追加されてるからって、チェス勝負を挑まれて逃げるのか?」  
「くっ、判ったわよ。やってやろうじゃないの!」  
 
つい挑発に乗ってしまう満月。  
この後の展開も知らずに……  
 
 
「さあ、始めるわよ。あんたの財布の中身、すっからかんにさせてやるわ!」  
「へっ、出来るのか? お前を素っ裸にひん剥いてヒーヒー言わせてやんよ!」  
 
顔には見せていないが、満月は必死だった。  
ポーンを取られる毎に1枚脱がなければならない。  
彼女が今着ている服はシャツにブレザー、ベスト、リボンにスカート、捲られ防止にハーフパンツ、  
下着がブラジャーとパンティ、靴下を1組で1枚と考えると計9種、ポーン一個分多い。  
脱ぐ順番は彼女の自由だが、当然下着姿になんぞなりたくないので、  
取られても問題ないポーンは、ブレザーとリボン、ベスト、靴下とハーフパンツ分の計5個が限界。  
それ以上のポーン、そしてナイト、ビショップ、ルーク、クイーン、そしてキングは絶対に取られるわけにはいかない。  
 
Q.ポーンの犠牲を4個までに抑えて勝つことは可能か?  
A.無理、無茶、無謀  
 
第一に、出来ることなら康之を後悔させるために全ての駒をとって計¥27000ふんだくりたいのだ。  
と、ここで満月に1つ疑問が浮かんだ。  
 
「ちょっと待って」  
「なんだ、怖気付いたかあ?」  
「違うわよ! ルールの確認。プロモーションした場合どうするの?」  
 
プロモーションとは、ポーンが敵陣の最奥に到達した時にキング以外の駒に昇格する事である。  
 
「ん〜、じゃあサービスしてやるよ。俺の場合、全部クイーンに。つまり、¥500が一気に10倍の¥5000に」  
 
つまり総額¥27000が最大¥63000になるという事だ。  
 
「私のポーンの場合は?」  
「既に取られた駒に昇格した場合、復活扱いで罰を一旦取り下げってのは?」  
「いいわ、それでやりましょう」  
「んじゃ、お前が白でいいぜ」  
 
そして、勝負は始まった。  
 
「つっても、最初は普通のチェスだよなあ?」  
「……」  
 
康之が言うように、序盤は極々普通の進行となった。  
互いに中央ポーンを前進させ、後列のビショップやナイトの道を作る。  
 
そして、先に駒を取ったのは康之だ。  
ひたすら前進させたポーンの後ろにいたビショップで、満月のポーンを取る。  
 
「へっへ、まずはポーンを1個っと♪」  
「……そうね」  
「ほれほれ、早く脱いでゲームを再開しようぜ?」  
「あら、焦らした方が燃えるかと思ったけど。その急ぎ様、もしかして早漏?」  
 
相手のペースに飲まれないように挑発をする満月。  
ブレザーを脱いでゲーム続行。  
 
「さぁて、幸先いいスタートだ」  
「何処が?」  
「ゲッ」  
 
たった今ポーンを取ったばかりの康之のビショップを、ナイトで狩る満月。  
 
「ビショップは¥1000だったわよね?」  
「ちっ、まさか囮戦法とはな」  
「サクリファイス、少々の犠牲には目を瞑るわよ」  
 
夏目漱石を1人渡しながら悔しがる康之に対し、  
受け取った漱石をヒラヒラと振りながら余裕を見せる満月。  
 
駒1つの強さを考えれば当然、ポーン<ビショップとなる。  
ポーンを犠牲にビショップを取れば、相手の出ばなを挫けるのだ。  
 
「まだ、勝負はこれからだぜ!」  
「ええ、まだまだ取っていくわよ」  
「ゲゲッ」  
 
 
その後もルークとビショップを1つずつ取り、満月は計¥4000をゲットする。  
 
 
「へっ、やっぱポーンには目をくれずに来るか。余裕綽々だな」  
「言ったでしょ、財布をすっからかんにするって」  
「だがその余裕は油断でもある、と」  
「……ちっ」  
 
高額クイーンにするため敢えて放置していたポーンに、軽視していたナイトを取られる満月。  
 
「さあて、シンギングタイムの間にお邪魔しま〜す♪」  
「ホント、邪魔ね。  うっ……くっ」  
 
次の手以降を幾通りも脳内で予想構築しようとする満月の後ろに回りこみ、ベストの上から彼女の右乳を玩ぶ康之。  
 
「ああ、安心しろよ。 自分の番にはちゃんと一旦止めっから」  
「ふぅぁっ! ……だったら、もうお終いね!」  
 
一瞬乳首に触れられ声が出るも手早く駒を動かし、康之の手を胸元から引き剥がす満月。  
 
「おっと残念。 んじゃ、さっさと進めて続き続きっと」  
「……」  
「なあ、服脱ぐ順番俺が指定しちゃ駄目か? 裸ベストってのも良いと思うんだけど……」  
「馬鹿いってないで、次の一手を考えたらどう?」  
「んじゃ、コイツを……よし、続きを〜」  
「はい……あんたの番」  
 
ルークを前進させ再び満月の後ろに回り込もうとした康之だったが、  
満月はすぐにポーンを前進させ、自分の番を終了させる。  
 
「ちぇっ、もっと長考しろっての」  
「してるわよ、あんたの長考時間中に」  
「……んじゃ、そろそろ切り札を投入すっか♪」  
「……はぁ?」  
 
突然鞄を漁り出す康之。  
顔を上げた彼は、手に何か持っていた。  
 
「何よ、それ」  
「中学時代の友人から借りた、とっても高性能なスキャナーとノートPC、そしてプログラムだ」  
「それで何をするつもり?」  
「まあ、待ってろ。じっくりこの先の展開でも長考しながらな」  
「……」  
 
康之はノートPCを立ち上げ、スキャナーと繋げる。  
 
「ひっひっひ、コイツで徹底的に負かしてやるよ」  
「……確かに世界王者はマッチ戦でコンピューターに負けたけど、一般のチェスソフトのCOM程度の相手なら負けないわよ」  
 
事実、最高峰のコンピューターと世界王者が幾度もマッチ戦を行っているが、勝ち越した事は一度も無いのだ。  
 
「ところがぎっちょん! このノートPCはオンラインゲーすらラグ無しでスイスイの超高スペックなのだよ」  
「何そのオーバーテクノロジー。 あんたの友人って何処の人間よ?」  
 
自信満々に言う康之に対し、満月は平然を装いながらツッコミを入れる。  
 
「体育祭とか学園祭とかの祭典行事にHでパヤパヤな企画を幾つもやる学園に居る」  
「どんな学園よ。私立校だろうけど、とはいえよく運営が成り立つわね」  
「なんでも出資者に、正月からHなすごろくやら何やらで子供たちをオモチャにして楽しむ一族がいるらしくてな」  
「……この国の終わりも近いわね」  
「別の何かが始まっているけどな」  
 
「まあ、とにかくだ。このスキャナーで盤上を映して、友人がこのエロチェス用に組んでくれた特製AIをセットして〜♪」  
「なっ……!?」  
 
満月も企みに気付いたのか、余裕が無い表情になる。  
対して康之の表情は次第に怪しい笑顔になっていく。  
 
「さっき自分で言ったよなあ? 『世界王者はマッチ戦でコンピューターに負けた』と」  
「……」  
 
康之がノートPCの画面を満月の方に向ける。  
そこには、まさに今現在の盤面が再現されていた。  
 
「スキャナーを通して盤面の状況をノートPCで仮想再現。AIにルールと作戦を入力してあるから、黒の最善の一手を常に超高速で打つ、というわけだ」  
 
康之は丁重に説明しながら、満月の後ろに回りこむ。  
 
「しかも友人がオマケしてくれたAI連動アームが駒を動かしてくれるから俺はもう席に着く必要すらない」  
「……最先端技術の乱用も大概にして欲しいわね」  
「これで俺が長考する事は無くなった。お前が考えている間は触り放題、って事だ。もっとも、時々戯れに作戦を変えたりするつもりだけどな♪」  
「……良いわよ」  
「は?」  
「ノってやるわよ。そのAIとやらがどれだけスゴイ性能か知らないけど、人間を無礼ないで欲しいわね!」  
「……んじゃ、ゲーム再開だ!」  
 
康之がEnterキーを押し、アームが駒を進める。  
満月もすかさず駒を動かす。  
 
「!!ッ」  
 
満月が駒を動かした一秒後、既にアームが次の一手を打っていた。  
 
「世界王者になった気分ね……あぁっ!!」  
 
幾通りもの展開を再考察しようとした満月の右胸に、康之が触れる。  
 
「ほらほら、早く打ったほうが良いぜ? 世界王者さん♪」  
「わ、判ってい……ひゃうっ!」  
 
乳首を執拗に攻められ、声を上げる満月。  
 
「一瞬とはいえお前がしっかり反応してくれたからな。乳首の場所はバレてんだぜ?」  
「ふぁ……んあぁ」  
 
満月は快感に耐えながら必死に駒を動かすものの、  
間を置くことなくAIが打ち返してくるため、康之の手が止まることは無い。  
 
「お、ポーン2個目ゲット! んじゃ次は〜」  
「っ……ちょっと、脱ぐ順番は私が決めていいはずでしょう!?」  
 
アームが盤面からポーンを1個取り除くのを確認した康之は、空いている左手でスカートのホックを外そうとするが、  
満月はそれを阻止して、首もとのリボンを外す。  
 
「ちぇ〜、リボンは最後までとっといた方が『勝利景品はワ・タ・シ』って感じになって可愛いのに……」  
「とことん変態ね。 あんたの友人が変態学園に行くのも判る気がするわ……やっ!」  
 
康之の浪漫を軽めに流そうとするものの、只管右胸を玩ばれ、チェスに集中することさえ出来ない満月。  
 
「そろそろ右胸だけ、ってのも飽きてきたな……お♪ ルークが取られちまったぜ?」  
「嘘っ! ……あぁ」  
 
確かに盤面から、満月のルークが1個消えていた。  
康之(というかAI)のクイーンが、ルークを討ち取っていた。  
 
「どうしたよ? 俺がテクニシャンなせいで、読みを誤ったか?」  
「くっ、そうかもね……」  
 
康之の手が止まり、満月は一時的にだが解放される。  
盤面を確認し今後の駒運びを練る彼女を余所に、再び鞄を漁り出す康之。  
 
「さ〜て、ルークはローターだったっけか?」  
「……あんたが決めたんでしょう?」  
 
わざとらしく言う康之に対し、余裕の無い答え方をする満月。  
 
「まあそうなんだけどな。あったあった、振動どのくらいか試すかぁ?」  
「結構よ、スイッチ入る前に勝つから!」  
 
話しかけてくる康之をあしらい、盤面に集中しようとする満月。  
 
「(流石に、お金を気にしている場合じゃ無いみたい……)」  
「試さないのか。まあとりあえず、乳首にとりつけっから一旦上脱いで……」  
「自分でやるから早く貸しなさい!!」  
 
康之の軽薄さに耐えられなくなったのか、満月は怒鳴りながらローターをひったくる。  
 
「ま、現物拝見は後のお楽しみにとっておきますか」  
「煩い、黙ってそっぽ向いてなさい」  
「へいへい。んじゃ、ちょいと作戦変更でもしておくよ♪」  
 
一度ベストを脱ぎシャツ前を開けさせ、ブラの隙間からテープを使いローターを両乳首に固定する。  
その後素早くベストを着直し、席に着く満月。  
 
「う〜ん失敗したな、これじゃ乳首に触っている感覚があまりしない」  
「そう、それはこっちとしては安心ね」  
 
 
その後の展開は、まさに圧倒的だった。  
次々と満月の駒が取られていく。  
 
あっという間に2つ目のナイトを取られ……  
「待たせたな俺の左手よ、そして満月の左胸よ!」  
「待ってない!! ひゃっ!」  
 
3個目のポーンも取られ……  
「……靴下も衣服に入るわよね?」  
「俺としては全裸に靴下ってのも『有り』なんだが……」  
「知らないわよそんな趣味!」  
 
ビショップも取られるものの、直後に満月のポーンが1個プロモーションしてビショップに……  
「ちっ、一瞬でもいいから挿してやれよ。バイブが可哀想だろうが」  
「どんな理屈よそれ!?」  
 
4個目のポーンも……  
「スカートキター! っと思ったらその下のハーフパンツかよチクショーッ!!!」  
「あんたの嗜好に付き合う義理は無い!」  
「どうしてハーフパンツを穿いている!? スカートの下はパンツ以外認めない!!」  
「あんたみたいな奴がいるからよ!!」  
 
 
反撃に康之のポーンを1つ、クイーンをプロモーションされた分も含めて3つ取ることに成功したが、  
満月はクイーン¥5000、現時点総額¥19500獲得している事など、既に興味が無かった。  
 
 
「さってっと〜、次はどうしよっかなぁ〜♪」  
「……」  
 
康之が何度目かの作戦変更をノートPCで行っている間に、満月は両胸を庇いながら状況を整理する。  
 
「(ヤバイ……この勝負のルールと、康之の計画を甘く見ていた……)」  
 
満月はようやく気付き始めた、プロモーションの罠に……  
 
 
 

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