「あれ、朽木君まだいたの?」  
 榎元が、廊下からちょこんと顔をだして言った。  
「宿題やらなかったら、居残りさせられて。問題がわからないんだ」  
 朽木は頭を掻いて応えた。  
「榎元やってよ」  
 朽木は目を輝かせて言った。彼女は優等生だった。  
「その宿題、朽木君のでしょ。あともう少しで終わるじゃない」  
「それが最後の二問、わからないんだよ。空も暗くなったし、はやく家に帰りたい。  
暗い廊下からお前がでてきたとき、おれはどれ程期待したことか」  
「でも私、さっきまで、先生の手伝いしていて疲れちゃった。もう帰りたい」  
「そんな。宿題やってくれたら、肩たたきしてやるぜ」  
「ちょっとあんた、私をいくつだと思ってるの」  
「おばさん」  
 榎元が殴りかかってきた。朽木は笑いながら教室の中を逃げた。  
彼女は優等生で学級委員であったが、こういうふざけあいが出来るところが好きだった。  
 
 結局、宿題は榎元にやってもらい、すぐに片づいた。  
「ありがとう」  
 朽木は心から感謝した。  
「全く、疲れた私にこんなことをやらして。窓の外見てよ。もう真っ暗だわ」  
「時間も遅いし、いつもなら早く帰れって先生が来るんだけどね」  
「朽木はほっておいても、宿題やらずに勝手に帰るだろ、って先生にそう思われてるんじゃない」  
「言ったな」  
 朽木は榎元の肩を押した。  
「きゃ」  
 予想外に勢いがついて、榎元は後ろから倒れて尻餅ついた。  
「ああ、ごめんごめん。やりすぎた」  
「あはは。私も言いすぎた。まさかこんな遅くまで、朽木君が教室にいるとは思わなかったもん」  
 今のはさすがの榎元も、少しは頭にきたんじゃないかと息が詰まるものがあったが、  
彼女は笑って許してくれた。  
 
 榎元が尻餅をついたとき、中からストライブ模様のパンツが顔を覗かせた。  
柔らかな湿り気を帯びた、脚の間のふくらみを、朽木は見逃さなかった。  
とくに、彼女のスカートの中を見たのはこれが初めてだっただけに、強く脳裏にこびりついた。  
 不意に、榎元はにやにやして言った。「どうしたの? 急に黙って」  
「え?」朽木は声を荒げてしまった。  
 不安を隠すためにすぐに取り繕って言った。  
「いや。なんか寒くなったよね」  
「そうだね。こういう時、ズボンはいてる男子が羨ましい。私スカートなんだもん。」  
「ふーん。膝が寒そうだね」  
「うん」  
 スカートから伸びた脚は、本当に冷めたそうだった。  
 ふと朽木は、男士達の間ではやっている電気あんまを思い出した。  
あれで、彼女を温められないか。  
 電気あんまをされる彼女を思い浮かべた。  
面白そうである。幸い教室には二人しかいない。  
朽木は電気あんまのことを榎元に言ってみたくなった。  
 

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