【 6 】  
 
 かの魔獣討伐より一週間―――その間、村は始まって以来の来訪者達に沸いた。  
 ウォーク・マーラッツが討ち取られたと聞きつけて近隣はもとより、あるいは国境すらも越え、さらに別な国から  
は王の使者さえ訪れた。  
 例の魔獣はこの森だけに留まらず、実に様々な土地に出現しては悪事を働いていたらしい。そのマーラッツが討た  
れたとあって数多くの人々が村に押し寄せたのだ。  
 そのほとんどは魔獣に家族を殺めらた者達ではあったが、中には伝説の魔獣の何か素材を得ようと集まった商人達  
もいた。  
 そしてそんな討伐劇の主役たるツューとヤマトは、村内はもとよりそれら多くの人々に称賛され、その武功を広く  
轟かせることとなった。  
 しかしその中心人物たるツューは――事件以来、自宅に引きこもったまま表に現れようとはしなかった。  
 その理由にはもう一人の主役であるところのヤマトにある。  
 あの事件後、すぐに現場へ駆け付けた捜索隊に救出されヤマトは一命を取り留めた。  
 しかしながらマーラッツの命と引き換えにした代償は大きかった。  
 脊髄の延長である尻尾の喪失と、さらには体に塗った矢毒の成分に肉体を蝕まれたヤマトは、二度と狩りには出ら  
れない体となってしまったのだ。  
 かろうじて日常生活は送れるものの、もはや以前のように山野を駆け巡ることは出来ない――ヤマトをそんな体に  
してしまったことの責任をツューは強く感じていた。  
 そんな責任感から、ツューは村に帰り手当てを受けるやすぐ、村長へと角頭の役目を退くことを申し出た。  
 今日、ヤマトをこのような目にあわせてしまった責は自分にあるのだ、と――自分が無責任にもヤマトの恋心を  
弄びあの魔獣に嗾(けしか)けさせたのだと告白し、その罪を償わせてほしいと申し出た。  
 とはいえしかし、困ったのは村長だ。  
 いかにツューの言葉が真実であるとはいえ、今回のウォーク・マーラッツ討伐は、それを補って余りある功績で  
あったからだ。  
 そして誰よりもツューがそんな雌ではないことを、村長を始めとする村の皆が知っていた。  
 そのことを告げ、さらには引き続きこの村の狩りの陣頭指揮を執るよう命じた村長ではあったが――それに対して  
ツューはけっして頷こうとはしなかった。  
 それ以来ツューは自宅に引き籠ると、今日までを誰にも会うことなく過ごして来た。  
 そんな折、件のヤマトが意識を取り戻したことを聞きつけたのが事件後六日目となる昨日のことである。  
 そしてその翌日となる一週間目の夕刻――ツューは人知れず自宅から出ると、ヤマトの元へと向かったのであった。  
 ヤマトの家は自宅からそうは離れてはいない。この距離ならば、時間帯さえ気をつければ誰にも会うこともなく  
そこへ辿りつくことが出来る。  
 そんなヤマトの元へと急ぎながらも、  
――今さら、何を話せって言うんだい?  
 ツューは未だに心の整理をつけてはいなかった。体の傷以上に、そんな心の重みの方がツューには堪えていた。  
 今、自分は何を為すべきであるのか?   
 謝ることだろうか? しかし謝って取り返しのつくような事態ではない。ヤマトの為に自分は何をしてやれるのか……。  
 そうして答えの出ないまま、ツューはヤマトの家に着いてしまった。  
 そのドアの前に立っても、しばしツューは立ち尽くしたままノックをためらう。  
 昨日ヤマトが目を覚ましたと聞いた時、それに喜ぶ半面ツューは彼に会いに行けずにいた。本来ならばすぐにでも  
駆けつけて然るべきであるはずなのに、それでもツューは彼に会いに行く勇気を出せなかった。  
 
 今だって逃げ出したいのだ。  
 いっそのこと村を出てしまおうかとも考えている。  
 結果はどうあれ、あのヤマトの純情を弄んでしまった自分には彼に会う資格すらないのだから。  
「…………」  
 そうしてどれくらい経った頃だろう。  
「――あれ? ツュー? ツューじゃない!?」  
 突然のその声に、ツューは我に返り顔を上げる。  
 目の前にはヤマトの母でもある親友が、驚きを笑顔の中に咲かせて自分を見つめていた。  
 改めて気付けば、すでに辺りはとっぷりと更けこんでいた。どうやら、このドアの前で数時間をツューは過ごして  
しまったらしい。  
「ひ、久しぶり。その……ヤマトは?」  
 もはや退くことも出来なくなり、意を決してツューは彼女に語りかける。  
「元気なものよ、食欲もあるしね。ただ、やっぱり落ち込んでるみたい」  
「やっぱり、か」  
 母の言葉にツューもまた表情を伏せる。心の中には再び、罪悪感が己を苛めていた。  
 そんなツューの手を母は強く取った。  
「ねぇ、会っていってあげて」  
 突然のその申し出に驚きを隠せないツュー。そして当然の如くそれを断ろうとする彼女を、  
「せっかくの二人じゃない。角頭の激励で、うちのチビちゃんを励ましてやってよ」  
 母は有無を言わさずにその手をひいて、家の中に招き入れた。  
 ヤマトの寝室は二階の一室にある。そこに向かう階段をのぼりながら、ツューは改めてヤマトの容体を聞いた。  
 今はまだ体に痺れが残ってはいるようだが、じきにそれも取れるだろうということ。さらには身体能力こそ低下す  
れど、日常生活を営む分には充分な回復が望めるであろうことを聞き、ツューは村に戻って以来初めて安堵できた  
のであった。  
 とはいえしかし、それでも問題は山積みだ。  
 やがてはヤマトの寝室であるドアの前にツューは立たされる。  
 そしてそんなツューに気遣うよう、  
「今夜は泊っていって。二人きりで話せるよう、二階には来ないから」  
 母はそれだけを告げて階段を下りて行った。  
 一人残されたツューはそれでもしばらくは、立ち尽くしたまま動けずにいた。  
 ここまで来ると、もはや頭の中はひとつのことだけを考えてはいられなくなる。  
 今日まで悩みに悩みつくした後悔と責任、傷の痛み、恐怖と安堵、そして何よりも――  
――それでも、ヤマトに会いたい……!  
 素直なヤマトへの想い。  
 それらを胸の中で一つにすると、ついにツューは部屋のドアをノックする。  
 それに対する反応(へんじ)は無かった。それでもツューは静かにドアを開けるとその中に入る。  
 入口から見渡すそこには、すぐにベッドと開け放たれた窓が見えた。そしてそのベッドの上に――ヤマトはいた。  
 上体を起こし、開けた窓からヤマトは星を見ていた。  
 気付けば室内はランプも燈されていないというのに、そこには月明かりが満ちて眩ばゆばかりの光量で満たされて  
いる。  
 そしてそんな世界の中心で、降り注ぐ月光に銀の粉を撒くように毛並みを煌めかせたヤマトを――ツューは素直に  
美しいと思った。  
 やがては、  
「ヤマト………」  
 自然にその名を紡いだ。  
 
 小さく語りかけるその声に反応して、ヤマトも緩やかにこちらへと振り返る。そしてそこにツューを確認すると、  
「ツュー………」  
 ヤマトもまた呆けたように、ただその名を口にした。  
 二人に視線が互いを捉え、そして徐々に再び出会えたことを理解し実感すると――  
「ッ………んぅ」  
 ヤマトはきつく瞳を閉じて顔を伏せた。  
「ど、どうしたの? まだ傷、痛い?」  
 その反応に驚いて駆けよるツュー。枕元に屈みこみ、そこから見上げるヤマトは声を殺して泣いていた。  
 そんな顔を見ると、もはやツューは何も言えなくなってしまった。  
 今、どれだけの想いがヤマトの中を駆け巡っているのだろうと想像する。その身体に重大な障害を負ってしまった  
ヤマトの心境を思うと、まるで我が身のことのように心が痛んだ。  
 この村において、「狩りを行えなくなる」ということは、単に「仕事を失う」などといった気楽な問題ではない。  
雄にとってのそれは大いに不名誉なことであり、個人のアイデンティティが消失してしまうといってもいい。……す  
なわちは、『死』と同義だ。  
 いかにマーラッツ退治を果たしたとはいえ、ヤマトはもう満足に動くことは出来ない。周囲がどれだけ称賛し慰め  
ようとも、ヤマト自身が実感する今の己自身は――すでに死んでしまっていることと同じことなのだ。  
 どれだけ後悔していることだろうか? そしてどれだけ絶望してることだろう………それを思うと、ただただツューは  
申し訳なくなるのだ。  
――ならば、私の人生はコイツに捧げてやろう。  
 そして今、ツューはそう決心する。  
――ヤマトが少しでも元気になってくれるのならば、アタシは何だって  
  してやるんだ。コイツのオモチャだろうと何だろうと構わない。  
 そんなことを考えながら見守り続ける中、ついにヤマトが口を開いた。  
 存分に自分(ツュー)を罵るがいい―――ツューは覚悟する。  
 そしてそんなヤマトの口からこぼれた言葉は、  
 
「ツュー………ごめんなさい」  
 
 思いもよらぬ一言であった。  
 その言葉を耳にした瞬間、ツューは混乱のあまりしばし放心した。  
 しかしすぐにその言葉と今の状況を理解すると、今度はツューが語りかける。  
「な、なに言ってるのよ? 謝るのはアタシの方だって。ヤマトが謝るようなことなんて何もないじゃない」  
「だってさぁ……だってツュー、角頭辞めちゃったんでしょ? オイラのせいだ……オイラがもっとしっかりして  
れば、ツューにこんな思いさせずに済んだのに」  
「ヤマト………」  
 ついには声を上げて泣き出す子供のようなヤマトを前に、ツューの中には新たな感情が湧きあがっていた。  
「ごめんなさい」と謝ってくれたヤマト………重度の障害を負い、二度と狩りの出来ない体にまでなってしまったに  
も拘らず、それでもそんなヤマトは自分のことよりも、ツューの心配をしてその心を痛めていた。  
 本当は自分こそが一番の被害者であるはずなのに、ヤマトはツューが角頭を辞したことに責任を感じ、あまつさえ  
涙してくれているのだ。  
 それを理解した瞬間、ツューの中の悲しみや、ヤマトに対する悔悛はすべて消えた。  
 身勝手な話であることは重々承知している。  
 それでもツューは、  
「ヤマト………」  
 それでもツューは――  
「ヤマト、顔上げて……」  
 その言葉に反応して泣き顔を向けてくるヤマトの唇を、ツューは貪るようにして激しく奪う。  
 
 それでもツューは、ヤマトを愛せずにはいられなかったのだった。  
 
 ヤマトの両頬をしっかりと両手で包みこみ、無心でツューは口づけを求めた。  
 以前に交わした小鳥のキスのようなそれではなく、互いの舌根を絡ませて唾液を行き来させるような、どこまで  
深く濃厚なテーゼだった。  
 しばしそうしてその唇を味わうと、ツューは鼻息も荒くヤマトから離れる。  
 そして突然の行動に驚いた表情を見せるヤマトに対し、  
「ヤマト、抱いて。アンタの好きなようにして」  
 ツューは形振り構わぬ直接的な感情と言葉とをぶつけていた。  
 しかしながら当のヤマトはというと……そんなツューとは対照的に、再び落ち込んでいくのであった。  
「ツュー……オイラのことを気遣ってるのなら、やめて」  
 呟くように言う。  
「そんなことしてもらったって、オイラ嬉しくなんかないよ。だってそんなことの為にしたんじゃないもん」  
 昨日、数日にわたる昏睡状態から覚醒したヤマトは、全ての出来事を両親から聞かされると同時に、ツューを諦め  
ることを決意していた。  
 今の自分は、ツューにとって『疫病神』以外の何者でもないのだ。  
 こんな自分の身勝手さのせいで、その弱さのせいでツューは角頭の権威を失うこととなった。  
 それだけではない。  
 もはや狩りも行えぬこんな自分と共になろうものならば、きっとツューは物笑いの種にされる。こんな自分を抱え  
込んで不幸になる彼女の行く末を想像して、ヤマトは密かに彼女への恋心を断ち切ったのであった。  
 それゆえに、我が身を呈して自分を慰めてくれようとしている今のツューが胸に堪えたのだ。  
「同情なんかしないで。もう、オイラのことは忘れて」  
「…………」  
「だから、もう行って。もう二度と………二度と、オイラには会いに来ないで」  
「………………………」  
 別れの言葉を告げて、全ての関係を清算したと思ったその時であった。  
 突如として振りあげられたツューの両掌が、左右からヤマトの頬を張り挟んだ。  
「ッ!? な、なに? なんなの?」  
 そんな突然の展開にその一瞬、悲しみさえ忘れて目を丸くするヤマト。  
 そうして視線を向ける目の前には――  
「ヤマト……アタシの目をよく見て。これが、同情から体をあげようとしてる雌(オンナ)に見える?」  
 どこか必死の形相のツュー。  
 そして言われる通りに見つめる彼女の顔に――その瞳に、ヤマトはツューの言葉の真実を知る。  
「あ………ツュー、もしかして発情してるの?」  
 螺旋の瞳紋を浮き上がらせた瞳と、臭腺から発せられる芳しいまでの体臭――それら生理現象が伝える事実はただ  
一つ、ツューの発情それであった。  
 ヤマトの言葉の通り、今のツューは発情していた。故に何も考えられない。否、考えていることはただ――  
 
「ヤマト、好き。大好き! アンタのことが、可愛くてたまらないよッ」  
 
 彼を愛しているということだけ。  
 完全無欠の女傑であったはずのツューは、今や完全にヤマトの虜となっていたのだ。そこには同情や責任感といった  
打算は微塵として無い。  
 あるものはただ一つ、『愛』の本能それだけである。  
 全てはヤマトの愛が成し遂げた奇跡であった。  
 長年の仇を打ち、我が身を呈し、そしてなおもまだ彼女の為に尽くした―――ツューのことだけを想い続けたヤマトの  
愛は、ついに彼女を救ったのだ。  
 ツューが失っていた最後の感情である、『愛することの喜び』をついに、ヤマトは彼女の心へ取り戻させた。  
 
「最初に結婚してって言ったのはアンタ何だからね。もう、取り消せないんだから」  
 そうなると、ツューも止まらない。  
 今まで貞淑であった分、一度その箍が外れた彼女の情欲それは凄まじいものであった。……ましてやあの『短毛の  
ツュー』である。  
「いまさら『こんなおばちゃんなんて嫌だ』って言ったって、遅いんだからね」  
 最後の理性でそうジョークを言うツューに対して、しかしヤマトは、  
「――ううん、そんなことない! ツューは奇麗だよ! すごく可愛いよ! オイラだけの……オイラだけのお嫁さん  
なんだ!」  
 誰よりも真剣に、その想いを伝えた。  
 そして今ようやく―――二人は結ばれた。  
 そんなヤマトの言葉と想いが嬉しくて、  
「ヤマト!」  
 ツューは貪るようにヤマトの胸元へ鼻先を埋める。  
 
 かくして二人の夜は更けていく………もはや二人を阻むものは何も無かった。  
 
 
 
【 7 】  
 
「ヤマト……ヤマトぉ」  
 仔犬が母犬の乳房を捜すよう、ツューはヤマトの胸元に鼻先を押し付けて彼の匂いや体温を感じ取ろうとする。  
 やがてはそれを隔てている寝間着の存在を疎ましく感じると、前襟に手を掛けて繋がれているボタンをツューは  
外しにかかった。  
 外しにかかるがしかし――取れない。  
 極度に興奮している今の状態では指先が震えて、そんな単純な動作でさえ難しくそして煩わしく思えた。  
「ツュー、大丈夫? オイラ自分でやろうか?」  
 しばし奮闘するも結局はそのひとつとして外せはしない。ついには叶わじと諦めると、  
「ごめんね、ヤマト。あとで縫ってあげるからね」  
 そう言って寝間着の両襟に手を掛けると――ツューは力任せにヤマトの寝間着を引きちぎった。  
 すでに理性の箍が外れてしまっているツューの膂力で裂かれては、もはや薄手の寝間着などその原形すら留めない。  
斯様にして上半身を剥かれてしまったヤマトの胸元へと、改めてツューは鼻先を埋めた。  
 さらさらの毛並みではあるがしかし、素肌に鼻先が当たると僅かに蒸れた汗の匂いが鼻をついた。そんなヤマトの  
体臭にさらにツューは興奮していく。  
 笛の音のような鼻音を立てて存分にヤマトの香りを胸中に充満させると、さらには舌先で強く胸元そこを穿つ。  
「あ……あん、やだ。くすぐったいよ、ツュー」  
 舌先を以て体を弄られる感触にこそばゆさを感じて身をよじらせるヤマトではあったが、  
「ふふ、ふふふ。……――ッ!? い、痛い!」  
 すぐにそれとは正反対の「痛み」を感じて背をのけぞらせた。  
 ヤマトの胸の毛並みに潜っていたツューの口唇は、その奥底にあった乳首を探り当て、前歯にてそれを強く噛み  
摘んだからだ。  
 一度それを探り当てると、ツューの愛撫はそこへと集中する。  
 口先を尖らせ今度はそれ全体を口に含んで、強く吸い出す行為に没頭していく。  
 行為そのものは赤子が授乳を受ける仕草と同じものではあるがしかし、今の場合はその役割がまるで逆だ。雌の  
ツューが、雄であるはずのヤマトの乳首それを吸い立てていた。しかもその激しさたるや、吸い出されている箇所が  
痺れるほどである。  
「い、痛い! 痛いよぉ、ツュー!」  
 やがてはその痛みに耐えかね、背を反らし吸い出すツューの口唇に釣られて体を浮き上がらせるヤマト。  
 そうして存分に幼い乳首を味わいつくすと、  
「ふふ、ごちそうさま」  
 ようやくツューはヤマトを解放し、脱力してベッドに沈む彼を満足げに見下ろすのであった。  
「ごめんね、ヤマト。あんまりヤマトが可愛いから、つい意地悪しちゃった」  
 謝りつつもしかし、細めた瞳にサディスティックな笑みを満たすツューの慇懃無礼な様子にヤマトは不安を感じず  
にはいられない。  
「あ、あのさぁ……これから、何をするの? なんかツュー、おっかないよぉ」  
 そして涙目に不安な気持ちを伝えてくるヤマトの表情に、対照的にツューは強い喜びを感じて背筋を震わせる。  
「なにって、まだ判らない? これからね、アタシとヤマトは交尾しちゃうんだよ」  
 いつも以上に優しくして柔らかに応えながらもしかし、ツューはヤマトを組み敷いてその頬や唇を舌でなぞる愛撫  
を欠かさない。  
「こ、交尾? オ、オイラ交尾なんて判らないよ? どうすればいいの?」  
「そんなのアタシだって判らないさ。――でもね、したいことをすればいいんだと思うよ?」  
 僅かに顔を上げると二人は改めて見つめ合う。  
 
「ヤマトもしてみたいことがあったら言って。今日は、何でもしてあげるから」  
 そして小さく微笑むツューに、いつもの彼女を感じて安堵するも束の間――再びツューはヤマトの唇を奪っていた。  
 しばし舌同士を絡め合わせると、そこから離れたツューの舌先はヤマトの体をなぞり、そして下っていく。  
 唾液たっぷりに進む舌の跡には、それに濡れそぼって張り付いた毛並みがヤマトの幼い体のラインを露わにさせる。  
 全体的に脂肪を程良く蓄えたヤマトの体は、幼子のそれと大差は無い。斯様に発育不良気味のそんな体ではあるが、  
逆にそんな幼子に己の情欲をぶつけているのかと思うと、その禁忌感になおさらツューは興奮してくるのであった。  
――最悪ね、アタシ。こんなに変態だったんだ……  
 昂ぶる頭とは別に、どこか冷静にそんな自分を見つめてもいた。それでもしかし止められない。  
 とはいえこうまでして自分を変えてしまう理由は、単に歪んだ性癖のみに留まらない。何よりもそれは、ヤマトを  
愛しているからに他ならないのだ。  
「なんちゃって」  
「え……?」  
 そうして自分の嗜好を正当化すると、さらにツューは愛撫に没頭していく。  
 舌先は下腹部に迫ると、そこにてヘソのくぼみに落ち込んだ。  
「きゃっ!? ち、ちょっと、そこはダメ!」  
 ヘソの中に侵入してくる粘液の未知の感触に声を上げるヤマト。しかしその反応を前に、ツューが行為をやめる訳がない。  
 むしろもっとそんなヤマトの反応が見たくて……  
「あ、あ、あぁ! や、やだぁ! ホントにダメだってば!」  
 ツューは小さなヤマトの体を両掌で取り押さえ、さらに舌でヘソを突き穿つ行為を激化させていく。  
「あッ、あぅん! やッ……やだよぉ! おなか痛いー!」  
 常日頃においても、入浴以外ではほとんど触れたこともない個所への責めに、ヤマトはツューの頭をワシ掴んで  
行為の中止を訴える。  
 しかしそんな抵抗は、この発情した雌をどこまでも発奮させ、そして喜ばせるだけなのだ。  
 ついには口先でついばみ、  
「あッ……あぁ―――――ッ!!」  
 強くそこを吸い出すと……ようやくそこへの責めは終わりを迎えた。  
「あッ……はッ……はッ………!」  
 あまりの衝撃の余韻から回復できず、大きく瞳を見開いてしばしヤマトは放心する。もはや今この身に起きている  
ことが痛みであるのか、それとも快感であるのかすらも理解できない。  
 そんなヤマトが大人しくなったのをいいことに、  
「じゃ、今度はお尻を奇麗にしようね♪」  
 ツューは寝間着のズボンに手を掛ける。  
 ボタンと違い腰紐で蝶結びに留められたそこは、その両端を引くだけでいとも容易く解けた。  
 そしてゆっくりとズボン着をずり下ろすと、そこにはヤマトの陰部を包んで膨らんだ下着(ふんどし)が露わになった。  
 その眺めにツューは生唾を飲み下す。  
 狩りの頭など務める以上、雄達のふんどし姿などは日常のように眺めていた。時には、今のヤマト以上の体躯の雄  
の生殖器を目にすることも珍しくはなかったはずのツューではあるが………目の前にあるヤマトのそれには目眩すら  
感じていた。  
 日常とは違う雄雌の営みという状況下もあるのだろうが、それ以上にヤマトの無垢な性器がこの薄布一枚の中に  
内包されているという想像に、ツューは強い興奮を憶えるのであった。  
 このまま下着もろとも口に含み剥ぎ取ってしまいたい衝動に駆られるも、どうにかしてそれを抑える。  
 もっと楽しみたい――そう思ったからだ。  
 この下着姿のヤマトを愛でたいという欲望に、ツューは従うことにした。  
 かくしてその下着に鼻先を近づけるツューであったが、  
「あ……だ、ダメめぇ!」  
 それが触れようとした寸でのところで、ツューはヤマトの両手に阻まれる。  
 
「もう、何がダメなの? ここが見えないと交尾できないんだよ?」  
 そんなヤマトの行動に憤慨しつつも、そう焦らされることにまんざらでもなく興奮を覚えながら問い尋ねるツュー。  
「べ、別に交尾するのが嫌なんじゃなくて……ただ……ただね……」  
「ん? 『ただ』?」  
「ただ……――」  
 そしてヤマトから戻ってきた答えは、  
「お風呂入ってないから汚れてるの。……匂いも、すごいと思う」  
 それを告げてヤマトは、よりいっそう羞恥に耐えかねて股間を覆う手に力を込める。  
 とはいえしかし、それも無駄な抵抗であろうことをヤマトも心のどこかで覚悟していた。  
 言うまでもなく、今のツューは変だ。発情するがあまりすっかりいつもの冷静沈着な自分を見失っている。  
――交尾するのはいいけど、汚い部分とか見られるのは嫌だなぁ……  
 そして言葉では説得しつつもしかし、ツューの無慈悲な反撃を覚悟したその時であった。  
「それは大変だぁ」  
 予想に反してツューから返ってきた答えは、今までからは信じられぬほどに落ち着いた声であった。  
 思わぬツューの反応に、「もしかしたら」とヤマトも淡い希望を持つ。  
「じゃあさ、続きはお風呂入ってからにしようよ。ツューだってキレイな方がいいでしょ?」  
「うん、キレイになった方がヤマトも気持ちいいよね」  
「そ、そうだよ。じゃあお風呂焚いてもらうよう、母ちゃんに伝えて」  
 そして今一時、この行為が中断されるであろうことに安堵したその時であった。  
 
「お風呂なんていいよ。アタシが舐めてキレイにしてあげるからさ♪」  
 
 満面のツューの笑顔とは対照的に、ヤマトの表情は凍りついた。  
 そして有無を言わさずに、  
「いただきまーす♪」  
 ツューは下着の膨らみに食いつく。  
 布越しに牙が食い込み、さらには生殖器がその中で圧迫される感覚に、  
「はぐッ……! んんぅ!」  
 ヤマトは目を剥き、強く胸の前で両手を握り締めて背をのけぞらせる。  
 それこそが新たな愛撫の始まりであった。  
 牙越しに感じる陰嚢と性器の歯応えにツューの意識は興奮からぼやける。  
――アタシ、すごいことしてる……男の子のチンチンを食べちゃおうとしてる!  
 そう考えると、最高潮にまで熱し上げられていたはずの興奮はさらに昂く大きく胸の中で弾むのであった。  
 ひとしきり噛みほぐすと、今度は頬を使って強く吸いつかせてみる。  
「あんッ、痛い!」  
 強く陰嚢に与えられる外的圧迫にヤマトは痛みの声を上げた。  
 それを見守りつつもツューの口唇はそこへの愛撫を止めない。今度は口をゆすぐかのよう頬を伸縮させると、緩急  
に富んだ責めを展開する。  
「もうやだー! タマタマ、やめてー!」  
 ついにはそれに耐えかねて激しく身をよじるヤマト。  
 ツューの口撃を振り切ると四つん這いに張って逃げようとするが――  
「観念なさい! こいつめ!」  
「ッ!? きゃううん……!」  
 眼前に突きだされたヤマトの臀部へと、ツューは強く噛みついた。  
 あと少し力を込めようものならば、そのまま尻の房を食い破らんとする牙の力に恐怖してヤマトは動けなくなる。  
 
「ふふふ、大丈夫だって。すぐに良くなるからさ、だからもう少しだけ我慢して」  
「………」  
 うつ伏せにお尻を突きあげる姿勢のヤマトは、そんなツューの声に観念すると、抱きしめた枕に顔を埋めるので  
あった。  
「いい子いい子♪」  
 その反応に満足げに頷くツュー。  
 そして再び愛撫を始めようと眼前の尻に視線を戻したその時であった。  
「あれ? ……これって」  
 腰元の少し上――本来ならば尻尾があるであろうそこに、幾重にも包帯の巻かれた処置の跡を発見して、その一瞬  
我に返る。  
 そうして冷静さを取り戻すと、途端にそこから醸されているであろう血の匂いを強く感じ取ってツューは固唾を  
飲んだ。  
 やがて――  
「…………」  
 震える手でツューはそこに触れる。  
 その包帯の下にあるであろう傷跡を見てはいけないような気がした。それでもしかし、そんな意識とは裏腹に両手  
は処置の包帯を解いていく。  
 完全に包帯を取り去り、そしてそこにて傷口を包み込んでいたガーゼを剥がした瞬間――露わとなったヤマトの傷  
口に、ツューは息を飲むのであった。  
 そこには、無残にちぎれて縫い合わされたヤマトの尻尾があった。否、すでに「尻尾であったものの残骸」だ。  
 それでも回復の途中にある尻尾は、赤く鮮血の滴る肉の断面を大きく盛り上がらせて、石榴の実のようにその身を  
縫い合わせの糸へ食いこませている。  
 無残で残酷で、そして醜く変態したその姿――それこそは  
――これは、『アタシ』そのものなんだ……  
 己(ツュー)の『罪の形』だ。  
 自分のエゴをツューはこんなにも残酷に、この無垢な少年へ刻みこんでしまった。そのことを思うと、艶(いろ)に  
熱し上げられてツューの心は沈静化して、さらにはその反動もあり深く落ち込むのであった。  
「……ん? ツュー?」  
 突如として動きの止まった様子にいぶかしみ、ヤマトは恐る恐る振り替える。そしてそこに涙するツューを見つけ、  
「つ、ツュー? どうしたのッ?」  
 慌ててヤマトは擦り寄るのであった。  
「ヤマト………ごめんね。やっぱりアタシ、最低だった……」  
「ど、どうして? 別に今のエッチのことは怒ってないよ? ……ちょっとおっかないけど」  
「……しっぽ、取り返しがつかなくなっちゃった」  
 ツューの言葉にヤマトは己の背を振り返ると、包帯の取られた傷のそれを確認する。  
「これはいいよ、別に。あのマーラッツと闘ってこれくらいなら安いもんだって」  
「だけど……あんなに綺麗な尻尾だったの………そんなにひどくなっちゃった」  
 ツューの脳裏に在りし日のヤマトの姿が浮かぶ。  
 箒星のような尻尾をさらさらと舞わせながら狩りに挑むヤマトの姿は、すでに失われた過去の光景である。今の  
ヤマトはその尻尾を舞わせることも、そして狩りに赴くことすら出来なくなてしまった。  
「そんなにひどい尻尾になっちゃったよ……! アタシのせいだ……アタシの」  
 ついには声を上げて泣き出すツュー。  
 今日に至るまで、ずっと泣きだしたい衝動を抑えつけてきた。その感情が、ヤマトの醜く変形した尻尾を目にした  
瞬間、ついに爆発したのであった。  
 
 子供のように感情も露わに泣くツュー。  
 そんな彼女を、  
「――そうかな? オイラはけっこう好きだよ。このしっぽ」  
 ヤマトは語りかけ、そして涙するツューの頭を胸に抱いた。  
「え? で、でも……でも」  
 驚いたのはツューだ。そしてそれが慰みであることも理解した。  
「だってそんなに醜く歪んじゃってる。きっと後悔する……きっと」  
 さらに涙するツューの手を取ると、ヤマトはその掌を自分の尻尾へと導く。  
「醜くなんかないさ。自慢だよ。だってこれは、オイラのツューへの気持ちなんだもん」  
 そんな思いもかけない言葉に驚くツューに、ヤマトもまた精いっぱいの笑顔を咲かせた。  
「オイラがツューを好きだっていう証さ。女の子を助けることが出来た、っていう勲章」  
 そう言って笑うヤマト。  
 ツューにとってのそれが『罪の形』であるのならば、ヤマトにとってのこれは『愛の形』であるのだ。  
「だから泣きやんでよ、ツュー」  
「でも……」  
 いかに想いを伝えられようとも、それでもやはりツューは割り切ることが出来ない。齢を重ね、どんなに雄々しく  
逞しく体は成長しようとも、ツューの本当の姿は無垢な少女のままだった。  
 そんなツューを励ますように、  
「じゃあさ、今度はオイラがやってあげるね」  
 ヤマトはやおら言い出したかと思うと、抱きしめていたツューに体重を預け――その勢いに乗って彼女を押し倒し  
た。  
「きゃあ!?」  
「えへへ、さっきの仕返しするからね♪ 覚悟してよ?」  
 突然の行動にたじろぐばかりのツューを前に、ヤマトはイタズラっぽく笑って見せる。  
 そして奪うようにそっと唇を奪うと、伸ばした舌先でツューの体を下降し、先程受けた愛撫を今度はヤマトがなぞる。拙く、それでも愛情いっぱいに精一杯の奉仕を施すヤマトの姿に、徐々にツューの中の罪悪感も薄らぎ、そして  
癒されていく。  
 鎖骨を辿り少し降りると、舌先は胸中て越しにツューの乳房に突き当った。  
「えっとぉ……」  
 それを前につい愛撫を止め目を反らせてしまうヤマト。  
 こうまで異性の乳房を目の前にした事などは、家族以外ではツューが初めてであった。ましてやそれが初恋の人の  
ものであればなおさらのこと、ヤマトは照れてしまう。  
 それでもしかし、  
「う〜……ええい、ままよ!」  
「きゃッ」  
 意を決するとヤマトは胸中てに手を掛け、半ば強引にそれをずり下ろした。勢いがなければ、とてもじゃないが  
恥ずかしくて前に進めない。  
 と、次の瞬間――目の前で露わになったツューの放漫な乳房が大きく上下するのを目撃する。そんな光景を前に、  
ヤマトの胸も徐々に昂ぶりを見せる。  
 ただその一点を凝視してしまうそんなヤマトを前に、  
「目が『うずまき』になってるね。ヤマトも発情してくれた?」  
「――え?」  
 そんなツューの声にヤマトは我に返る。  
「発情してる? オイラ、発情してるの?」  
 思わぬ事実に、両頬に手を添えて己の変化に戸惑うヤマト。  
 
 なぜならば、  
「オイラ、発情したの初めてだぁ」  
「えぇッ?」  
 今度はツューが思わぬヤマトの言葉に戸惑う。  
「初めてって……今まで一度もなかったの?」  
「うん、ないよ。今日が初めて」  
 尋ねられ、大きく頷くヤマト。  
 ツュー達種族は早い段階で生殖機能が体に整う種である。それゆえ、村では15歳という若い年齢での結婚を認め  
ているほどで、それに照らし合わせるならば今のヤマトの発育の遅さはその小さな体と照らし合わせても特殊といえた。  
「ヤマトみたいな子もいるんだね」  
 半ば感心したように頷くツュー。かくいうツューの初めての発情は、それは早いものであった。過去のトラウマを  
克服すべく、肉体は彼女の意に添うよう肉体の成長を早めさせた結果である。  
「でもさ、たぶん今夜じゃなければ、きっとオイラまだ発情できなかったと思うよ」  
「そんなの関係ないよー。どうしてそう言えるの?」  
「だってさ……ふふふ」  
 尋ねてくるツューに対してヤマトは恥ずかしそうな、それでもどこか嬉しげに微笑む。  
「だって、ツューが初めての相手だったから発情したんだ。……大好きな、ツューが相手だったから」  
 いまさらながらそんな告白をしてはにかむヤマトを前に――再びツューの瞳にも渦文様の瞳紋が浮き上がる。  
 ツューもまた再び発情した。  
 しかし今度は性欲のみの、本能だけに刺激されたからではない。  
 体ではなく心が反応したのだ。  
 先程までの「ヤマトをどうにかしたい」という欲情ではなく、「ヤマトを受け入れたい」と想うが故の発情であった。  
「……――ヤマトぉ!」  
「わ、わぷぷッ!?」  
 そうして改めて心の中がヤマトで満たされると、ツューは居ても立ってもいられなくなり目の前の彼を力の限りに  
抱きしめるのであった。  
「ヤマト、ヤマトぉ……好き。大好きだよッ。愛して、愛してよヤマト」  
 ただただ溢れんばかりのその想いを拙い言葉にして表現するツューを前に、一方のヤマトはその乳房の中に抱き  
抑えられて呻き声も出せない。  
「つ、ツュー……! く、くるしいよ! するから……愛するから!」  
 どうにか圧迫してくる胸から脱出すると、再びヤマトはツューを横たわらせる。そうして改めて、ヤマトは乳房へ  
の愛撫を始めた。  
 乳首その先端を口にくわえ、その後はツューがしたよう口中において舌先で転がす動きをする。  
「あ……気持ち良い。……いいよ、ヤマト」  
 普段の彼女からは聞いたこともないような熱のこもったその声にヤマトも発奮する。  
 もっとその声を聞きたいと願うと同時に、  
――気持ち良くなってくれてるんだ。もっともっと良くしてあげたい……  
 ツューの為、より陰徳を施さんとヤマトは躍起になる。  
 依然として舌先で乳首を転がす動きをしつつ、指先で空いた右乳房に触れた。  
「ん、んぅ!」  
 その右乳房上において先端を指先でつまむと、口中の舌先と同じ動きで乳首を転がし摘まみあげる。  
「んん〜……ッ。あぁ、ヤマトいいよ、すごく気持ちいいッ。もっと、もっと強くして。……先っちょ、強く千切って」  
 ヤマトの頭を抱きしめてくるツューの動きに再び顔面を乳房の肉圧におぼれさせられるヤマト。それでもしかしツューの  
リクエストを受け、健気にヤマトは乳房への責めを展開していく。  
 口中において乳首全体を前歯で噛みしめると、右手そこには力を込めて摘み上げた。  
「あうん! いいよぉ、ヤマトぉ! もっと強くして! もっと痛くしてよぉ!」  
 そんな愛撫の変化にさらにツューは抱きしめる力を強くする。  
 

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