「ん、んんむ……」(く、苦しい……!)  
 ツューの声に応じて摘み締める行為を強めるヤマト。  
「ああぁ! ヤマト! もうちょっと……!」  
 そしてついにツューが絶頂を迎えられようかとなり、よりいっそう強くヤマトを抱きしめたその時であった。  
「ヤマトぉー! ………あれ?」  
 突如としてヤマトの愛撫が止む様子にツューも我に返る。  
「ヤマト? どうしたの、もっとしてよぉ?」  
 そして込めていた腕の力を解き、見下ろす胸元には――真っ赤に窒息してぐったりとしているヤマトの顔が目に入った。  
「や、ヤマト!? うわぁー!」  
 急いでヤマトを解放すると、今度はツューが横たわらせたヤマトに両手で風を送り開放する。  
 快感に耽るあまり、すっかりヤマトが病み上がりだということを忘れていた。……ましてや男顔負けの狩人であるツューの膂力で力の限りに抱きしめたのだ。たまったものではない。  
「ヤマト! ヤマトってばぁ!」  
「……う、うう〜ん。あれ、ツュー?」  
 どうにか意識を取り戻すヤマトに安堵するツュー。  
「ごめんね。つい嬉しくってさ……抱きしめちゃった」  
「いいよー……喜んでくれたんならさ、オイラも嬉しい」  
 力なく笑ってみせるヤマトではあったが――そんな表情とは一変して、力強く変化したある一点を見つけてツューは息を飲む。  
 それこそはヤマトの股間――今まで全く反応を見せていなかったそこが、今はそれを包み込む褌を破り貫かん勢いで天高く勃起しているのであった。  
 そは言えそれも、今の状況に促されて起きた自然な変化かと問えば、そうではない。ツューにきつく抱きしめられた  
瞬間、衰弱もしていたヤマトの体は本能的に死を察知し、己の種を残そうと肉体的な変化を起こしたに過ぎない。  
 生理現象というよりは、条件反射といった方が正しい勃起なのだ。  
 それでもしかし準備が整ったそんなヤマトの体に、ツューの中の雌は激しく刺激される。  
 そして、  
「ねぇ、ヤマト。……舐めっこ、しようか?」  
 そんな提案をヤマトにする。  
「なめっこ? なにそれ?」  
「アタシがヤマトのチンチンを舐めるから、ヤマトはね……ヤマトも、アタシの大事なところ舐めるの」  
 口で説明しながら顔から火のでるような想いがした。こういう行為は口で説明するようなことではないのだ。  
 それでもしかし、初心(うぶ)のヤマトにはそれくらい言ってやらなければ判らない。事実、そんな提案をされた  
ヤマトはというと、  
「えっと、うんと………ツューがそうしてほしいって言うんなら、いいよ?」  
 ツュー以上にはにかみながら頷くのであった。  
 そんなヤマトの返事に途端にツューは表情を明るくさせる。  
「ホント? じゃあアタシが上になるねッ」  
 そしてヤマトの反応すら確認せずにその上に乗りあげると、ヤマトの眼前には自分の股間が見えるように尻を向けた。  
 
 そうして改めてヤマトの褌を目の前にするツュー。褌越しに甘く饐えた、雄独特の香りが充満している。その香り  
に中てられて軽いめまいを起こしながら、ツューは褌の結び目に手を掛ける。  
 そして贈り物の包装を解くよう褌を取り払ったそこには――赤剥けて充血した、ヤマトの陰茎が露わになった。  
 芽吹いたばかりの青草のよう先細って天を向いたその茎は、先端が濡れぼそって夏の果実のような艶やかさを見せ  
ている。  
 匂いもまた蟲惑的だ。  
 新陳代謝による饐えた発酵臭に加え、数日間入浴を済ませていなかったというそこからは強いアンモニア臭もまた  
醸しだされている。それでもしかし、そんな塩気を強く含んだ匂いは強くツューの本能を刺激するのであった。  
 そんな臭気と外見にめまいを覚えた次の瞬間には、  
「あうんッ! つ、ツュー」  
「……ん? んむむッ」  
 ツューはヤマトの陰茎を咥えていた。  
 舌先に生臭さとぬめりの触感が感じられると、途端に生肉に似た血の味が舌上に広がる。  
 その味に再び頭がしびれた。  
 あとはただ貪るばかり………唾液と混じって口中に広がる線液を飲み下し、ツューは性器それの奥底にある何かを  
引きずり出そうとするかのよう、ヤマトの陰茎それをしゃぶり続けた。  
 しばし失心して陰茎を貪り続けるツューは、  
「い、痛い! 痛いってば、ツュー!」  
「んッ、んッ、んッ……あえ?」  
 ヤマトの声にようやく我に返る。  
 気付けば、ヤマトが必死にツューの臀部をワシ掴んで中止を訴えていた。どうやら夢中になりすぎるあまり、加減  
なしに吸いつくしてしまったようであった。  
「ツュー、痛いよぉ。もっと優しくしてってば」  
「ごめんごめん、ヤマトのチンチンがおいしいからさ」  
 照れ笑いもしかし、まんざらでもなくそう思っているツュー。そんな自分が自分でも怖くなる。  
「じゃあさ、今度はヤマトもして」  
 言いながらツューは起き上ると、ヤマトの顔を股座の下に置くような形で膝立ちになる。  
 そしてショーツの紐を解くと、  
「召し上がれ♪」  
 ヤマトの眼前に生(き)の膣部を露わにした。  
 それを見上げながら生唾を飲み込むヤマト。ぴたりと割れ目が閉じ、熱に蒸れて膨らんだ膣部の眺めはどこかウリ科の  
果実を連想させる。  
 そんな膣のクレバスに人差し指の先を食いこませた瞬間、  
「ッ? ぷわッ」  
 途端に大陰唇が割れ、そこにせき止められていた愛液がしとどに溢れだしてヤマトの鼻先を濡らした。  
 そんなツューの体液の芳香が鼻孔に充満すると、ヤマトの中の『雄』は半ば強制的に反応させられる。  
「わ、すごい。跳ね上がった」  
 互いに発情中とあっては、こうしたパートナーの体液が肉体の変化を切り分けるスイッチとなる。  
 ヤマトはツューの体の下から這い出ると――立ち上がり、振り向きざまにツューの唇を奪った。  
 突然のヤマトからのキスに目を丸くさせるツュー。それでもしかし、想い人からのそれは何とも心地がいい。しば  
しヤマトに体を預け、互いの口先同士をついばむキスをすると、  
「ツュー……」  
 ヤマトは静かに顔を離し、まっすぐにツューを見つめた。  
 そしてもう一度だけ触れるだけのキスをして、ヤマトはその両膝を抱えるようにしてツューを抱き上げる。  
 
 歯を食いしばり、震える体から精一杯に力を振り絞る姿に、  
「や、ヤマトどうしたの? 無理しちゃダメだってば」  
 その身を案じてツューも慌てふためかずにはいられない。  
 それでもしかし  
「うぅ〜……やらせて!」  
 ヤマトは唸るように言い放つ。  
「オイラは、こんな小っちゃいし、体だってこんな風になっちゃったけど……それでもツューのことが好きなんだ。  
だから……ッ」  
「ヤマト………」  
 ただでさえ自由の利かない体に加え、さらには倍以上の体格と体重差である。そんなツューを抱きしめて持ち上げる  
ヤマトの表情には苦悶の色が大量の脂汗と共に滲みでていた。  
「だから! オイラ、ずっとツューを抱きしめてあげるよッ。どんなに苦しくたって、どんなに辛くたって、絶対に  
離さないから!」  
「…………」  
 この状況でのヤマトの告白に、その一瞬ツューは彼の身を案じることすら忘れて心奪われる。  
「絶対に幸せにしてみせる! もう、独りになんてしないからね!!」  
「……ッ―――ヤマト!」  
 そして改めて彼の決意を――その告白を聞いた瞬間、ツューもまたヤマトを抱きしめた。  
 もう言葉はいらない。掛ける言葉が思い浮かばない。いまツューに満ちるものは、感謝、喜び、後悔、心痛――  
それら全て。言葉になど出来ようがない。  
 だから抱きしめた。  
 ヤマトの想いに応えるため、そしてこれからを共に過ごすことを誓う為に、ツューもまた抱き返したのであった。  
 それを受けてヤマトも俄然奮起する。  
 そこにて初めて――ヤマトは屹立した己の陰茎をツューに挿入した。  
『う、うわあああぁぁ……ッ』  
 二人が二人、同じ声を上げた。互いの粘膜が重なり合う感触と熱に震えたのだ。  
 もはや今の二人の意識はそれほどにまで同調している。気持ちだけではなく、最後の垣根であった『肉体』もまた、  
ようやく二人はひとつになることが出来たのだった。  
「ふぅふぅ……ツュー、大丈夫?」  
「う、うん……大丈夫ぅ」  
 しばし快感による衝撃の波が過ぎ去るのを待ってから、ヤマトはツューへと声を掛ける。もはやヤマトの頭を抱き  
しめて、体全体を預けているツューは息も絶え絶えにそれに応えるのであった。  
 しかしながら、  
――イッちゃったぁ……  
 かろうじて絶頂耐えたヤマトとは裏腹に、ツューはというとその挿入だけで果ててしまっていた。  
 彼女達一族には処女膜といった器官が無い故、熟成の済んだ肉体はすぐにでも雄を迎え入れられるようには出来て  
いる。――とはいえしかし今のこれは、それにしてもおおげさであるように思えた。  
――何これ? 自分でするのなんかとは全然違う……  
 もはや快感であることすら認識できないほどの衝撃は、今日まで処女であったツューにはあまりに衝撃的な経験で  
あった。  
 とはいえしかし一時的な波が去り、今は体に残るその余韻に心地良く浸れていた。そうしていつまでもこのままで  
いたいと多幸感に浸るツューであったが、  
「ご、ごめんね。いま動くからさッ」  
 一方のヤマトはというと、ツューとは対照的にせわしなくなるのであった。  
 
 微動だにせずヤマトにその身を預けているツューの様子を、退屈していると勘違いしたらしい。  
「もっともっと、気持ち良くしてあげるからね」  
「え……あ、ち、違うの………ヤマトぉ」  
 再び彼女の体を持ち直すと、より激しく動けるように両足を踏ん張り、体勢を立て直すヤマト。それに対してツューも  
思い違いであることを伝えようとするが、いかんせん先の絶頂の余韻が抜けきれず、うまく呂律が回らない。  
――だ、ダメだったらヤマト。まだイッたばっかりなのに、  
  そんなにすぐ動かれたら……  
 それを心配するも次の瞬間、  
「うぅ〜……えい!」  
「ッ――あうぅ!?」  
 大きく腰を引いて存分に反動をつけると、さながら撞木で釣鐘を打つかの如く、ヤマトは力一杯の挿入をツューに  
打ち込んだ。  
 絶頂ゆえ敏感になっていた感覚は、その急激な一撃による快感をより強くして体に伝えてしまう。  
「あッ……おぉ……お………ッ」  
 眼を開き、首をのけぞらせて空を噛むツューは、もはや受け止めきれなくなったその快感にただ声を殺して喘ぐばかり。  
 そしてそれを皮切りに、ヤマトは動きだすのであった。  
「う〜……えい、えい、えいッ」  
「あッ、お! ま、待って……ッ……うん!」  
 制止を求めようと、ヤマトとて限界だ。ましてやこれがツューを喜ばせているという勘違いもあって、ヤマトは力の  
限りに腰を動かし続ける。……遠回しにツューは、先ほどヤマトにしたイジワルを仕返しされた形であった。  
 それでもしかし、  
「はぁ、はぁッ……ツューッ」  
「あ、う、うん……ヤマトぉ」  
 次第に体も熱に馴染み、乱れていた呼吸も鼓動にあわせて均一に弾みだすと、ツューの中の快感の波は徐々にヤマトの  
動きにシンクロしていくのであった。  
 そして再度の絶頂を予期し、  
「ヤマト……ヤマトぉ……」  
 抱きかかえられるそこから、ツューはヤマトを抱きしめた。  
 小さな頭を抱えるように胸の中へ取り込み、さらには尻尾と両足をヤマトの腰に絡めて、その瞬間に意識を集中させる。  
 押し付けられた胸から聞こえてくる鼓動が、まるで鼓楽器のよう強く横顔に振動してくるその音に、ヤマトも本能  
でツューの限界を知る。  
 それを確認し、ヤマトは疲弊した体に最後の鞭を入れた。  
 酸欠と快感から二人の意識はもうろうと白ずむ。  
 その中にツューとヤマトは互いの姿を見た。  
 ずっと幼い頃の、ずっと昔の話―――何が理由か今となって知る由もないがあの日、泣きじゃくってやまなかった  
ヤマトをツューが慰めたのだ。  
 その両耳を摘みあげた少女は、それがくすぐったくて泣くのを止めた少年に大きく笑ってみせた。  
 その時、少年は恋をしたのだ。  
 将来きっとこの人と結ばれようと――この人の為に命を捧げようと―――幼い胸に誓ったのであった。  
 それをヤマトは思い出した。ツューもまた、その光景をヤマトと見た。  
「ツュー……オイラ、約束を果たせたかな?」  
 尋ねるヤマトに対し、  
「上出来だよ。今アタシは、最高に幸せ……もう、独りじゃない」  
 応えてツューがヤマトの耳介を噛んだ瞬間――ヤマトはありたけの精を彼女の中に撃ち放った。  
 
「んあッ……すごい、熱いよ……すごく沁みるよ………あったかい」  
「ツュー……」  
 臍の奥で爆発した灼熱感にツューは力の限りにヤマトを抱きしめる。   
 やがて預けていた体が大きく傾いたかと思うと、  
「う、うわわッ? や、ヤマトぉー?」  
「うきゃあ!」  
 仰向けに倒れるヤマトを、ツューは愛情いっぱいに押しつぶしてしまうのだった。  
 
 
 
【 8 】  
 
「はぁはぁ………」  
「ふぅふぅ………」  
 仰向けに二人で天井を見上げる。  
 しばしそうして何も考えられない二人ではあったが、ふと吹き抜けた風がカーテンを煽り、その裾を二人の目の間に  
広げた瞬間、  
「交尾……しちゃったね」  
 ヤマトは、依然として天を見上げたまま呟いた。  
「しちゃったよ……こんなに子種、たくさん出しちゃってさ」  
 応えるツューもヤマトと同じ天井を見上げたまま楽しそうに笑ってみせる。  
 しばしそうして笑い合う二人ではあったが――やがてその笑いも夜の静寂に溶けて笑いが途絶えると、熱の冷めた  
ヤマトの頭には再び、自分という存在の負い目を恥じる考えとが鎌首をもたげていた。  
 今宵、ありったけの愛を存在しあった自分達ではあるが――今の自分達以外の世界は、けっしてツューとヤマトを  
祝福してはくれないだろう。  
 狩りに出ることも叶わず、そして尻尾すらない雄――そんな自分をパートナーに持つツューがどれだけ惨めな思い  
をするのかを思うと申し訳なる。  
 それだけではない。いずれは生まれてくる子供達もまた、こんな自分のせいで苦しむことになるのではないか。  
………そんなことを考えるとヤマトはたまらなく怖くて、そして悲しくなるのだ。  
――やっぱり結ばれるべきじゃないんだろうか……?  
 そしてついには、やはりツューを諦めようかと思い直したその時であった。  
「ダメよ。そんなの」  
 突然のツューの言葉に、ヤマトは心臓が口から飛び出してしまうのではないと思うほどに驚かせられる。  
 そして右隣へ振り向くそこには、  
「変なこと考えてたでしょ?」  
 肘を立て、内に折った手首に顎を乗せた苦笑いツューが自分を見つめていた。  
 そんなツューを目の前にして、改めてヤマトは彼女のことをキレイだと思った。好きだとも。それゆえに、より  
いっそうに諦めなければと思った。  
「ツュー、判ってるのならばやっぱりオイラなんかと結ばれちゃダメだ。絶対にバカにされるよッ。……ツューも、  
生まれてくる子供達も」  
 思い切ってそんな思いの丈を伝える。  
 しかし黙って聞いていたツューは、そんなヤマトの話を聞き終えると小さく鼻を鳴らす。  
「ヤマト。これはね、もうアンタだけの問題じゃないのよ? アタシだって、アンタに惚れぬいてるんだ。今さら  
諦められる訳ないじゃない。――アタシの性格を一番よく知ってるのはアンタでしょ?」  
「だ、だけどさぁ……。オイラなんてこんなに小っちゃいし、もう何も持ってないよ?」  
 自分で言いながら、それが情けなくてポロポロとヤマトは涙をこぼした。  
 
 そんな悲しみの粒を拭うように、そっとツューは触れる程度のキスをヤマトにする。  
「……今までね、いろんな雄がアタシに告白してきたよ」  
「………?」  
「一生食べさせてくれるって約束してくれた雄もいれば、森の半分をくれるっていう雄もいたし、余所の国の人なんか  
お金でアタシを買おうとした」  
 うつ伏せに寝そべると組んだ両腕の上に頬をつけて、そんな過ぎ去りし日をツューは思い出す。  
「でもね、自分の命を捧げてくれる人はいなかった。――ヤマト、アンタだけだった。アタシなんかの為にそれを  
してくれたのは」  
 だからこそヤマトでなければならないのだ――そう言って、もう一度ツューはキスをした。  
「それにさ、だからといって甘やかすつもりはないよ? このアタシの旦那になるんだ。これから恥ずかしくない雄  
になってもらわなくちゃ!」  
 そういって快活に笑ういつもツューに、思わず感動から涙ぐんでいたヤマトは強く目頭をこする。  
「ッ――わかったよ。オイラ、判ったよツュー! 強くなる! もっともっと強くなって、ツューが恥ずかしくない  
雄になる!」  
 幼き頃、胸に刻んだ誓い――ツューと共にあることをヤマトは今、弱き自分に再び誓い直すのであった。  
「そうこなくっちゃ。……よろしくね、ダーリン」  
 そう微笑むツューに――今度はヤマトからその唇を奪う。  
「こちらこそ、よろしく。ツュー」  
 太陽のように咲くその笑顔を――ツューは力一杯に抱きしめた。  
 これにてヤマトの銀齢祭と、そしてツューの人生を縛っていた全ての過去の清算は終りを告げた。  
 これからどのような人生を二人が歩むかは知る由もないが、それでもきっとそれは楽しいものとなることだろう。  
 銀齢祭を過ぎて有明にその身を細らせ始めた月ではあるがそれでも―――  
 今宵新たに結ばれた二人を祝福するかのよう、月はありたけの銀の粉をツューとヤマトに降り注がせるのであった。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ところでさぁ、ヤマトぉ………」  
「んー……なぁに、ツュー」  
 
 ひとしきり互いの愛を確認し合ったツューは、どこか気怠そうにヤマトへと語りかける。一方のそれを受けるヤマトも  
また、うつ伏せに突っ伏してどこか空苦しそうに呼吸を弾ませていた。  
「ちょっと下まで行ってさ、サユマ呼んできてくれないかなぁ? なんか……おなかの傷が開いちゃったみたい。  
ちょっとヤバいかも……」  
「うぅ〜……あのね、実はオイラもけっこう前から尻尾の縫ったところが開いちゃったみたいで、血が止まらないの  
ぉ。……なんかクラクラしてきたぁ」  
 
 
 かくして翌日………昼過ぎになっても降りてこない二人を心配した母に発見されて、再手術を余儀なくされる。  
 結婚を誓い合った二人の初の共同作業は、枕を並べて仲良く入院をすることであった。  
 
 
 
【 蛇足(そのあと) 】  
 
 
 無事に退院を果たし、どうにか歩けるようになったツューとヤマトは互いの結婚を村長へと報告に行った。  
 思わぬ二人のそれを聞いた村長はそれは喜び、ならばと二人だけの為に再び銀齢祭を催した。  
 折しも村には先のマーラッツ退治の報を駈けつけた多くの人々や行商人達が残っており、ましてや結ばれる二人と  
いうのがあの魔獣退治の当事者ともあれば祭りが盛り上がらない訳がない。  
 かくして、開かれたツューとヤマトの式はそれは盛大で、数日前に行われた本祭よりも規模の大きいものとなった。  
   
 同時にツューも角頭の役目に復活を果たす。村人達から、ツューを許すようにと嘆願書が集められたからであった。  
 羊皮紙や繊維紙に蝋を押した正式なものもあれば、はたまた村の子供達が木の葉や木の実にしたためたものに至る  
まで、村に住む全ての人々がツューを許してほしいと願い出たのだ。  
 それを目の前にして、そしてみんなの気持ちを確認した瞬間、ツューは思わず泣き出してしまった。  
 子供のように声を上げて、ツューは泣いた………ずっと独りだと思っていた自分ではあったが、けっしてそんな  
ことはなかったのだ。  
 この『村』という大家族に包まれてツューは生きてきた。  
 そのことに気付いた時、ツューのトラウマは残らず消えていた。  
   
 そして、その翌年の終わりにツューは8人の子供を産む。  
 まるで今まで先送りにしていた『幸せ』が利子をつけて、ツューの元へ返ってきたかのようであった。  
 狩りに勤しみ稼ぎを持ち帰るツューと、そんな彼女の帰る家を守るヤマト――そんな二人のでこぼこの生活はこの  
上なく幸せそのものである。  
 
 
 ともあれ、悲喜交々あった今年の銀齢祭もこれにて一巻の終わり。  
 はたして次なる銀齢祭ではどのような物語が生み出されることやら――。  
 それは神様にだってわからないのである。  
 
 
 
 
 
 
【 おしまい 】  
 
 

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