「おい見ろよ。瀬野っちと秋野せんせー、まーたケンカしてるぜ」  
 ある小学生が、ジャージ姿の教師2人を指して友人に囁いた。  
「だからね瀬野君、皆で手を繋いでの一等賞、じゃ駄目なの!  
 これからの時代、競争ができない子供は苦労するわ。それを今の内から……」  
 一人は、黒いショートヘアの女性教師だ。  
 精気に満ちた目、程よく日に焼けた肌は見るからに健康的だった。  
 ジェスチャーを多用しハキハキと喋る姿からは威勢のいい性格が見て取れる。  
「でも秋野先生、今の子供は繊細ですよ。才能の差に酷い劣等感を持つ子供が多いんです。  
 そんな思いは大きくなってからいくらでもする。でもだからこそ、小さい内ぐらい平等でいいじゃないですか!」  
 もう一人は、こちらも健康的な若い男だった。  
 年は秋野と呼ばれた女性教師よりも少し下、いかにも新任教師風の爽やかな容貌だ。  
 短く刈り上げた頭に逞しい肩はスポーツ万能という言葉を想起させる。  
 
 2人は向かい合ったまま、激しく言い争っていた。  
 だがそれは異常事態ではない。至って日常的な光景だ。  
「ねー瀬野っち、秋野せんせー、また夫婦喧嘩?」  
 なお言い合う2人を児童達が囲み、囃したてる。  
「ふ……夫婦!?なっ、何言ってるの!」  
 秋野は顔に驚きを浮かべ、次に怒ったように否定した。  
 
 瀬野と秋野、2人は同じ小学校の教師だ。  
 年は2歳違いと非常に近く、快活な性格も体力自慢の所もよく似ている。  
 それゆえか些細な事ですぐ衝突しては、子供達にそれをからかわれているのだった。  
「でも2人って、本当によくケンカするよね」  
 一人の児童が言った。  
「喧嘩っていうより、お互い譲れない意見があって、それを言い合ってるだけだよ」  
 瀬野がやや憮然とした顔で答える。  
「でもいつも結局、どっちにも決まらないんでしょ?」  
 児童が言うと、その周りの子供達から笑いが起きる。  
 その笑いに顔を赤らめ、瀬野と秋野が睨み合ったとき、児童が続けた。  
「じゃあさぁ2人とも、得意のスポーツで決着つけたら?勝ったほうが偉いでいいじゃん」  
「そうだそうだ、それで決めなよ!」  
 他の子供達も囃したてる。  
 瀬野と秋野は顔を見合わせたまま、ほぼ同時に笑みを浮かべた。  
「……面白い!!」  
 
 
 放課後、校庭にはジャージに着替えた瀬野と秋野の姿があった。  
 その2人を数十人の児童が見守っている。  
 それぞれの担当クラス以外からも数多く集まったのは、2人の人望の高さゆえだろう。  
 もっとも教員の中でも、生徒と泥だらけになってまで遊ぶのはこの瀬野と秋野ぐらいなのだから、  
 それは至極当然であるといえた。  
「頑張れ瀬野っちー!!」  
「秋野先生、ファイトー!!」  
 子供達の声援が2人に浴びせられる。  
 
「手加減なんてしないわよ」  
 秋野が腕を十字に組み、肘を伸ばしながら不敵に微笑んだ。  
「こっちこそ……とはいえ、一応はハンデつけますよ。  
 流石に男と女でまともにやりあうのはフェアじゃないですし。  
 スクワットを一定時間して、秋野先生が僕の8割以上出来ていれば先生の勝ち。  
 それ以下なら僕の勝ち。これでどうです」  
 瀬野は屈伸をしながらそう提案する。一応は秋野を立てたつもりだ。  
 しかし秋野は、瀬野の提案にたちまち目を吊り上げた。  
「ふざけないで。男だから女だからって、そういうの嫌いよ!  
 私達は競争をするの。互角の条件、互角の立場で、瀬野君に打ち勝つわ!!」  
 割に整ったボーイッシュな顔を引き締め、秋野はそう断言する。  
 女生徒から黄色い声が上がった。  
「……わかりました。それじゃあ僕だって、本気でいきますよ!!」  
 瀬野と秋野は睨み合ったまま並び、生徒の合図の下で勢いよくスクワットを開始する。  
 
 しかし結果として、秋野が瀬野に勝つことはできなかった。  
 筋量も瞬発力も持久力も、基礎体力的な部分では男である瀬野が圧倒的に勝っていたのだ。  
 スクワット、雲梯(うんてい) 、反復横跳び、100メートルダッシュ……。  
 多くの競技で競ったが、全てが秋野の負け。  
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」  
 秋野は地面に膝をつき、苦しそうに俯いていた。  
「秋野先生だっせー!全敗かよお」  
「やっぱ大人んなったら、男が体力上なのねえ。やだあ……」  
 男子も女子もその決着に騒ぎ立てる。  
 やがてその声は、勝負に負けた秋野への罰を求める声に変わっていった。  
「罰ゲーム!罰ゲーム!!」  
 俯く秋野へ追い討ちをかけるような騒ぎに、瀬野が頭を掻く。  
 さすがに気まずくなったのだろう。  
「あーお前ら、それはちょっとやりすぎ……」  
 そう言いかけた時、不意に秋野がその肩に手を置いて制した。  
「瀬野君、いいの。勝負って言ったのは私、負けた以上罰ゲームだってするわ。  
 でもね、これでハッキリしたでしょ?”優劣をつけて、敗者に罰を与える”。  
 こんな小さな子供達だって、自然とそれを受け入れてるのよ」  
「……ちぇっ」  
 秋野に囁かれ、瀬野は唇を尖らせる。  
 なぜか結局秋野の主張を認める形になってしまった。  
 試合に勝って勝負に敗れる、というやつだ。  
「ぃよーし、じゃあ負けた秋野先生!あの雲梯の梯子を使って、懸垂でもして貰いましょうか?」  
 瀬野は腹いせに不敵な笑みで秋野に命じる。  
「はいはい、やりますよ……っと」  
 秋野はおどけたように肩を竦めつつ、額からはひと筋の汗を流していた。  
 
 ぎっ、ぎぎっ……。  
 校庭には軋むようなその音が一定のペースで繰り返されていた。  
 それは秋野の指が雲梯の梯子を掴み、懸垂の動作で握りこまれる時の音だ。  
 秋野は瀬野と児童達に見上げられる中、延々と懸垂をさせられていた。  
 頬も鼻頭も朱に染まっている。  
 Tシャツは汗に塗れて紫のブラジャーを浮き彫りにし、懸垂で胸がせり上がる時には臍が丸出しになった。  
 運動好きなだけあって美しく引き締まった腹筋だ。  
 その腹は汗でぬらぬらと濡れ光り、乳房から下ってきたと思しき雫が腹筋の凹凸に沿って流れ落ちてゆく。  
「うっ…っく!うんんっ……っく!!!」  
 秋野は震える肩に鞭打ち、下唇を強く噛み締めて懸垂を繰り返す。  
 眉は垂れ下がり、可憐な鼻腔からは鼻水を垂らし。  
「あははっ、秋野せんせーすんごい顔ー!」  
 その真っ赤な情けない顔と風呂上りように汗みずくの身体を見られるのは、秋野にとって自慰を見られるのに匹敵する恥ずかしさだった。  
 
※  
 
 その校庭での決着から一週間後。  
 夏休みに入った小学校には、毎日のようにプールで遊ぶ子供達がいた。  
 プールの監視役をしていた瀬野は、夕方になってもまだ校内に留まる子供達を見つける。  
 秋野の所のクラスメイトだ。  
「お前たち、もう帰る時間だぞ。どうかしたのか?」  
 瀬野が聞くと、子供達は困ったような顔で振り返る。  
「あ、瀬野っち。それがさぁ、今年の夏休みの自由研究、『暑さ』に関する事の観察日記なんだよ。  
 でも、何にするか決まらなくて」  
「へぇー、秋野先生そんな宿題出したんだ……」  
 要するに外に出て暑さを味わえ、って意味だろうな……と瀬野は理解する。  
 そしてふと良い事を思いついた。  
「そうだ。じゃあその宿題、先生が手伝ってやろうか」  
 瀬野が言うと、子供達の顔がぱあっと明るくなる。  
「ホント!?」  
「ああ本当だとも。それからどうせなら、当の秋野先生にも手伝ってもらおう」  
 瀬野は意地の悪そうな顔でそう続けた。  
 
 
「それで、瀬野君。どうして私は、こんな扇風機しかない薄汚い六畳間に呼ばれてるんだっけ?」  
 秋野は畳に座り、足元のトランクスを汚そうに摘み上げて言った。  
 瀬野がそれを素早く奪い取る。  
「だからですね。最近小さな子供が車内で熱中症になる問題がよく起きてるじゃないですか。  
 それに関連して、夏の車内がどのくらい暑くなるのかを有人で検証するのは大切だと思うんです。  
 生徒達にとっても決して他人事ではない話ですしね」  
「それは解ったわ。でも、どうして私が乗るのよ!?」  
「いえだって、子供を乗せるわけにはいかないじゃないですか」  
「だかっら、貴方が乗れば良いんでしょうが瀬野君!!」  
 秋野が瀬野の頬をつまみ上げる。  
 瀬野はそれを振りほどいて屈託のない笑みを浮かべた。  
「いてて……いいですか秋野先生。これは最悪、被験者が熱中症になる可能性もある実験です。  
 もし仮に、僕が熱中症で倒れたら、秋野先生の力でどこか涼しい場所に運べます?」  
 瀬野が肉体を誇示しながら告げた。  
 筋肉質で重そうな体だ。はっきり言って秋野の細腕では持ち上がりそうにもない。  
「その点僕なら、先生が倒れてもすぐに介抱できます。いかがです、秋野先生?」  
 瀬野が秋野の顔を覗きこむ。秋野は大きく溜息をついた。  
「……わかったわよ」  
 以前校庭で汗まみれの恥を晒してから、どうにもこの男に逆らいづらくなっている。  
 
「有難うございます。では、さっそく」  
 秋野の了承を得て、瀬野は鞄からある物を取り出した。  
「なっ……!」  
 秋野が目を見張る。  
 それは小型のローターだった。コードはなく、手元のスイッチで遠隔操作ができるタイプだ。  
「せっかくなので、これを着けてやって貰えますか?」  
 瀬野の言葉に、秋野の顔が見る間に赤くなっていく。  
「な、ば、馬鹿なことを!誰がそんな事するもんですか!」  
 秋野の言葉に、瀬野が嬉しそうに笑う。  
「勿論、ただでやって貰えるとは思ってませんよ。腕立て伏せで勝ったら、ナシで結構です」  
 瀬野がそう条件をつける。  
 男女の筋力差を盾にとった卑劣ともいえる条件だ。  
 だが秋野はむしろ、爛々と目を輝かせる。  
「ほ……本当!?それは本当なのね、勝負するのね!?」  
 秋野は半袖シャツを腕まくりする真似をしてやる気に満ちている。  
 おそらく前に瀬野に負けた事が悔しく、かなり特訓したのだろう。  
「え……え、っと?」  
 瀬野は秋野の予想外の張り切りにたじろいだ。  
 瀬野のほうは暑さに負けてここ最近トレーニングを怠っている。  
「さあッ、勝負しましょうよ!!」  
 だが秋野がそう叫ぶと、瀬野も呼応してやる気に満ちた。  
 基本的にどちらも筋肉馬鹿なのだ。  
「一、二ィの……スタートッ!!!」  
 狭い六畳間に四本の腕が突かれ、激しく上下する。  
 部屋の熱気がさらに増した。  
 
「先生達おそーい!待ちくたびれたよぉ」  
 アパートの外では子供達が頬を膨らませていた。  
「ごめんな、ちょっとした用があって」  
 そう言って瀬野が部屋から現れ、次いで秋野が姿を見せる。  
 タンクトップにスパッツという、肌の露出の多い格好だ。  
 風呂に入ってきたのか石鹸のいい匂いがしている。  
 その顔は僅かに赤らみ、なぜか時おり小さく内股に脚を閉じていた。  
「うん、いい感じに熱くなってるな」  
 瀬野はマンション脇の駐車場で車を覗き込んで言う。  
 エアコンをつけていない車内は夏の太陽でサウナのようになっていた。  
「さ、秋野先生。」  
 瀬野がドアを開けて促すと、秋野は一瞬恨めしそうに彼を睨み、  
 そそくさと車に乗り込んだ。  
「頑張ってね、秋野先生!!」  
 子供達の声援を受け、秋野がにこやかに微笑む。  
「さ、それじゃあ観察開始だ」  
 瀬野が車内を覗き込みながら、ポケットに突っ込んだ手を動かす。  
「ひうっ!?」  
 その瞬間秋野はびくんと腰を跳ねさせた。  
 膣の中に埋められたローターが振動を始めたのだ。  
 玩具を使うのは初めての秋野に、この刺激は大変なものだった。  
「せんせー、どうしたのー!?」  
 生徒の心配する声がし、秋野はぎこちない笑みで首を振った。  
 ただ一人、瀬野にだけは笑みの中にかすかな恨みを込めて。  
 
 
この後、汗だく濡れ濡れになった秋野を部屋に連れ込んでツンデレイチャラブセックスして  
 
                    〜終わり〜  
 

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