「姫!」  
広い部屋中に響きわたる大声を涼しい表情で無視して読書を楽しむ美しい少女がいる。  
「っ・・・姫っ!!!」  
舌打ちをし、無視できないように肩をつかみ目を見て怒鳴る少年。  
「・・・何か用か?」  
やっと読んでいた本から目を離し、道ばたの石でも見るように冷たい視線で相手を  
睨み付けると、つかまれた肩から手を剥がし股間に鋭い蹴りをとばす。  
「おい姫!股間はやめろっ洒落になんねーぞ」  
なんとか避けられたものの恐怖で嫌な汗を流しながら少年が抗議する。  
「・・・・」  
ツンと顔をそむけてまた本を読みはじめる少女は全身で『近寄るな』と表現しているようだ。  
「なあ姫、何をそんなに怒っているんだ?俺は何かしたのか?」  
蹴りとパンチの届かない範囲に避けた少年が情けない声で問うた瞬間、少女の瞳が怒りに燃える。  
「何をだと?何かだと?・・・貴方は本気で言っているのか?」  
日の光りに包まれ怒りのあまり立ち上がって少年に怒鳴り返す少女の美しさに引き寄せられ  
るように少年が少女に近寄ると、すかさず少女の拳が少年の顎めがけて飛び、  
「ぐあっ」という叫び声と共に少女の1.5倍はありそうな少年が宙に浮く。  
背中から落ちて呼吸困難になっている少年の心臓の上に美しい素足を乗せ体重をかける。  
「自分が王と王妃に何を言ったのか覚えていないのか?この間抜けが!」  
呼吸困難になったうえ、心臓を圧迫され青くなる少年。  
青が紫に変わる寸前で足をどけ、椅子に座り直す少女。  
「ひ、姫落ち着け。何でそんなに・・・っ、悪かった!俺が悪かった!!よく判らないが  
全部俺が悪かったから落ち着いてくれ!!!」  
しつこく問おうとしたとたんに少女の白く細い腕が大理石のテーブルを持ち上げよう  
としたのを察し、土下座して謝る事にする。  
「・・・判ってないようだから説明してやる。黙ってよく聞け」  
 
「・・・」無言でうなづく少年を睨みながら少女は続ける。  
「僕が海の向こうにある小国の第一王女で、王位を継承する為に男として育てられた。  
しかし、僕の母が数年前に亡くなり、王の後妻が男子を産んだために国に居ずらくなり  
共の者を連れ旅にでたが、先日の嵐で乗っていた船が難破し、僕一人が貴方に助けられて  
生き残った・・・そう説明する事にしたよな?」  
「・・・・」ブンブンと頷く少年  
「それだけなら少々強引だが、ありえる話だ。僕は男として育てられた少女として  
宮廷での作法を覚える心づもりでいた・・・・が・・・」  
「・・・っ・・・」  
やっと少女が何に怒っているのか理解して青ざめる少年  
「なんで昨日やっと指一本入っただとか、俺のがでかすぎてまだ最後までやれてないとか  
そんな事まで話すんだっ」  
涙を流し怒り狂う少女は近寄ろうとする少年に本、椅子、テーブル・・・手の届く範囲に  
あるものすべてを投げ付ける。  
「悪かった姫。オヤジとオフクロがあんまり姫の事を褒めるからつい調子に乗って  
しゃべりすぎた。もうしない。姫が嫌がることは絶対にしない。だから泣かないでくれ」  
あちこちに痣をつくりながらも少女に近寄り強く抱き締める。  
「触るなっ」  
「嫌だ」  
「僕が嫌がる事はしないと言ったのは嘘なのか?」  
「・・・姫は嫌がっていないじゃないか」  
そっと頭を撫でてうなじにキスをし、背中に手を伸ばすと少女の攻撃が止まり  
何かを堪える様に下を向く  
「姫?」  
「陸の王子なんて大嫌いだ」  
ポロポロと涙を流す少女は可憐で、少年はどうにも我慢できなくなり無理矢理抱き上げるとベットへ向う。  
「姫、仲直りしよう?」  
耳元にそっと囁きかけるとピクっと反応して頬を染めるがそれを隠すために顔を背ける少女。  
『姫、感度良すぎで最高だ!』  
心の本音をなるべく口に出さないよう、努力する少年だった  
 
真っ赤になって硬直している少女をそっとベットに降ろしドレスを脱がそうとすると少女は悲し気に呟く。  
「やめて」  
「どうしてだ?」  
「どうしても」  
「・・・わかった。でも、一緒に寝るぞ?」  
少女が本気で拒絶しているのを感じて脱がすのはやめて隣に寝転び、  
片腕を少女の頭の下に通して空いた腕で逃げようとする少女を抱き寄せる。  
「っ・・・」  
「姫、俺は今まで人の気持ちを思いやるって事をした事が無い。  
だからこれからも色々やらかしちまうとは思うんだが、姫が嫌がる事をしたり、  
泣かせる気はないんだ。同じ失敗はしないよう努力するから、そんな表情しないでくれ」  
「違うんだ」  
「何がだ?」  
「僕は本気で怒っていたんだ。怒っているのに、陸の王子に触れられるとそれだけで身体が震えて  
力がぬけて、怒りが溶けて行ってしまう。そんな卑しい身体と心になってしまった自分が・・・」  
おさまっていた涙がまた溢れだし言葉がでなくなる少女。  
「卑しくなんか無いだろうよ姫。それは姫が俺を好きだからだろう?俺は姫がそうなってくれると  
すげえ嬉しい。俺がこんなに嬉しいのに、それでも姫は嫌なのか?」  
 
優しく見つめる視線から逃げるようにし少年の胸板に顔を埋める少女を強く抱きしめながら少年は続ける。  
「俺は姫が大好きだ。姫が男4人で運ぶ大理石のテーブル片手でなげつけても、俺の事殺しかけても、  
いや、きっと殺されても姫の事を嫌いになんてならない。余計に好きにはなるけどな。  
・・・姫もきっと俺と同じように思ってくれてるんだろう?きっと、急に身体が変わったから、  
精神的に不安定なだけだ・・・だからもう泣くなぁ!」  
一生懸命優しい言葉で宥めようと努力したが泣き続ける少女を静かに宥めるなど  
やはりできない少年は自分も泣きそうになりながら怒鳴る。  
「陸の王子・・・」  
「ったく、だから賢いやつはダメなんだよ。余計な事考える必要無いじゃねーか。  
俺は姫が好きで姫も俺が好き・・・それだけで充分だろ?」  
つつっと指先で少女の背中をなであげながらまだ何か言いた気な口を塞ぎ逃げられないよう  
舌をからめる。  
「んぅっ」  
いきなり刺激を与えられて逃げる間もなく快感の渦に飲まれる少女。  
抵抗する気配が止んだので口から耳朶へと移動しぺロリと舐める。  
「ああっ」  
「耳を舐められただけでも気持ちいいだろ?それは相手が俺だからだ。  
姫を愛してる、姫が愛してる俺だからだ・・・な?そう考えれば大丈夫だろ?」  
昨日、この少女は耳が弱い事に気が付いていた少年はさり気なく耳元で甘く囁きつづけると  
悲し気に泣いていた少女が甘く切なさそうに鳴きはじめ、少年は満足気に笑う。  
ふと悪戯心で耳の穴に舌を入れてみる  
「ひゃあうっっ」  
「姫、愛してるぞ」  
耳だけでイってしまった少女がまた荒れないよう、少年は少女を優しく抱きしめた。  
 
人魚王子は混乱していた。  
魔女の暗示(呪い)はとけているはずなのに、何故自分は耳だけでこんなに乱れてしまうのだ?  
女の身体だから?相手が陸の王子だから?・・・女というのは愛する相手に触れられるだけで  
こんなにも溶けそうになってしまうのか?総てを破壊して逃げ出したい程に恥ずかしいのに、  
こうして優しく抱き締められるだけで心が満たされてしまう。何も考えられなくなってしまう。  
以前のように広い視野で物事を見られない、何を見ても聞いても考えても、ただひたすらに  
陸の王子だけを求めてしまう自分を・・・許していいのだろうか?・・・  
こうして考えようとしても、この頭を撫でる手が、包むように響く陸の王子の鼓動が自分の邪魔を  
する。考えがまとまらない。でも、それが嫌ではなく、心地よく感じてしまう。  
 
「わからないんだ」  
「何がだ?」  
「好きになるというのは、愛するというのは、こんなにも愚かになるものなのか?これは僕が  
女になったからなのか?それとも、男でもこうなるのか?」  
無垢な瞳で問う人魚王子を押し倒したい衝動にかられるが、それを堪えていられる自分を  
自分で褒めながら陸の王子は微笑む。  
「俺は姫の事になると自分でも信じられないくらい頑張れるが、同時にとんでもなく愚かになるぞ。  
それで普通だ。なんの心配も無い。俺は姫が居るから生きていける。居なくなったら生きてられない。  
・・・そんな俺の事を愚かだと、卑しいと蔑んで嫌いになるか?」  
「嫌いになんて絶対にならない」  
『明確な答えはでないけれど、今はそれでいい。陸の王子との蜜月に浸る事にしよう』  
そう結論ずけると、やっと陸の王子が望む笑顔で笑う人魚王子。  
「じゃあ姫、続けていいのか?」  
鼻息荒く大声をあげていしまった陸の王子は『しまった!』という表情になったが、  
予想に反し、甘く深いキスをされる。  
「二人でたくさん愚かになろう。今は陸の王子の事だけ考えることにする」  
「姫!」  
 
『今日は指2本まで・・・いや、最後までOKか!?』  
我慢もいい加減限界に近付いている陸の王子だった。  
 
「嫌いになんて絶対にならない」  
「嫌いになるか?」と問う陸の王子の瞳に不安が写るのを見て反射的に答えた人魚王子は、  
『明確な答えはでないけれど、今はそれでいい。陸の王子との蜜月に浸る事にしよう』  
そう結論づけ、やっと陸の王子が望む笑顔で笑う。  
「じゃあ姫、続けていいのか?」  
鼻息荒く大声をあげていしまった陸の王子は『しまった!』という表情になったが、予想に反し、甘く深いキスをされる。  
「僕も、今さら考え過ぎだと、陸の王子の言う事が正しいと思う。  
・・・急に考え方を変えるのは難しいけれど・・・今は二人で沢山愚かになろう?」  
キスと同じ甘さで微笑む人魚王子を、陸の王子は遠慮無く押し倒す。  
「うわっ」  
いきなりの行動に慌てた声をあげてしまうが、上に乗る陸の王子をみて、人魚王子は静かに目を閉じた。  
「姫、好きだ。大好きだ・・・だから俺はもう、我慢できないのだが・・・」  
申し訳無さそうに言いながらも、手はドレスを脱がし終え、シルクとレースで作られた下着へと伸ばす。  
人魚王子は物言わず背中を浮かせて、下着の紐を解きやすく誘導する事で返事とする。  
真珠のように白い肌がほんのりと赤らみ見る者の情欲を誘ってやまない裸体が解放された途端に、  
陸の王子の鼻から、赤い液体が零れはじめた。  
 
「っ、陸の王子!大丈夫か?どうしたのだ、僕が顔を殴りすぎたせいで毛細血管が切れたのか?  
医者を呼ぼう、ちょっと待っていろ?」  
『興奮しすぎると稀に鼻から血が出る事もある』  
という知識の無い人魚王子は泣きそうになり医者を呼ぶ為に立ち上がる。  
放っておいたら裸で走っていきそうな人魚王子の腕をつかみ、鼻をシーツでおさえながら  
「ひ、姫、大丈夫だから、待て」  
と人魚王子を宥める陸の王子は、自分の鼻を斬ってしまいたいくらい情けない気持ちでいっぱい  
だったが『このままではまた姫が泣き出してしまう』とう恐怖からなんとか自分を取り戻し  
『鼻血は姫があまりに色っぽくて興奮しすぎて出ただけ。心配はいらない』  
という事を人魚王子に納得させる事に成功する。が、残念な事に鼻血の前のあの甘い空気は  
二人の前からすっかり消えてしまっていた。  
このまま続けても上手くはいかないと諦めた陸の王子は、  
「姫、外はまだ明るい。二人で散歩でもしよう」と人魚王子に下着を付け始める。  
「良いのか?陸の王子の下半身が大変な事になっているぞ?」  
「いいから!・・・そのぶん、夜は絶対逃がさないから、覚悟してくれ」  
苦笑いしながらドレスを着せ終わり陸の王子は立ち上がると人魚王子に手を差し出す。  
人魚王子は真っ赤になりながら陸の王子に手を伸ばし、  
「・・・わかった・・・」と、小さく頷いた。  
 
 
「陸の王子、人間の女はどうしてこんなに窮屈なのだ?」  
下着の紐をキツく締めてしまったようで、人形の様に美しい身体の上に乗る美しい顔は不愉快そうに歪む。  
「んー・・・それはもう、そういうモノとしか言い様が無いんだよな。  
足も、俺はこんなだが、姫のはコレだしな」  
自分用の皮で出来た履きやすく歩きやすそうな靴と、人魚王子の踵は高く、  
『履けば非常に美しく見えるが歩くのも非常に困難』であろう靴を持ち、見比べる。  
先程王と王妃に謁見する時履いたこの靴は人魚王子の為に作られたかのように良く似合い、  
歩く姿も踊子のように軽やかで、どの姫よりも美しく気品に満ちあふれていたが・・・・  
「やっぱり辛いか?」  
『ここで姫が頷いたら、オヤジを殺す寸前まで脅かして自分が王位に付き、  
『女性も男性のように楽な格好』ができるように国を変えてしまおう』  
などと物騒な事を考えながら陸の王子は尋ねる。  
「この国が・・・いや、この陸に生きる人間の文化がこういうモノだというのなら、  
僕がソレに従うのは当然だろう?・・・大丈夫、きっとすぐに慣れると思うから。  
慣れるまでは、陸の王子が助けてくれるのだろう?」  
「もちろんだっ」  
健気に可愛らしく愛らしく艶やかな・・・陸の王子にとっては脳味噌が沸騰しそうな程に  
破壊力のある微笑みで人魚王子が嬉しくなる事を言ってくれて、やっぱりもう一度  
押し倒したくて堪らなくなるが、なんとか我慢して人魚王子の靴を履かせる事にする。  
「あっ・・・自分でできる・・・から・・」  
足を掴まれ動揺する人魚王子  
「ん?姫も散歩より先刻の続きが良くなったか?」  
「馬鹿者!」  
言わないほうが良い一言をつい言ってしまい、真っ赤になって恥ずかしがる人魚王子に  
蹴飛ばされ、5m程跳んで逝く陸の王子は、それでも幸せそうに笑っていた。  
 
転ばないように陸の王子の腕に掴まり歩く人魚王子と人魚王子の歩幅に合わせゆっくりと  
歩く陸の王子は、誰が見ても初々しく微笑ましい、見ているだけで幸せになりそうなカップルだった。  
「なあ、陸の王子。何故皆こっちを見て笑うのだ?僕はどこかおかしいのか?」  
女性としての立ち振舞いに自信のない人魚王子が不安そうに尋ねる。  
「バカだな、よく見てみろよ。俺達があんまり幸せそうだから一緒に幸せになっちゃってる  
って感じだぞアレは?」  
そう言われて良く見てみると、頭を下げながら笑っている従者達の表情は蔑むモノではなく、  
嬉しそうに幸せそうに見える。  
「・・・まあ、今までが今までだったからなあ・・・」  
気まずそうに目を逸らしながら答える陸の王子は  
『姫の顔が気に入らなかったら顔を隠してヤリまくった挙げ句、従者にするつもり  
だったし、周りの者も俺がそう考えるのが普通だと思っていた』なんて事は、絶対に  
何があっても黙っていようと硬く決意する。  
「今まで陸の王子はどう見られていたのだ?」  
「あー・・・うん、あれだ、愛するって事がどんな事だか解っていなかったからな、  
周りを気づかうって事した事ないしな・・・って言えばわかるか?」  
『頼む、これ以上は聞かないでくれっ』と心の中で叫ぶ陸の王子に対し、  
「あぁ・・・なんだか解るようながする」  
『失礼を絵に描いたようなバカ男』という評価は言葉にしないほうが  
良いだろうと判断し、苦笑いで返事をする人魚王子。  
「とにかく、俺が良い方向に変化して、姫は可愛くて美しくて、俺達二人が  
幸せそうだから周りもなんとなく幸せなんだよ。そういう事だっ」  
「そういう・・・事なんだね?」  
「この話はここまでっ・・・で、姫、俺の馬に会いに行こう。その靴だと遠くまで行けない」  
 
「馬?」  
「馬だ。見た事無いのか?」  
「だって海にはいないもの」  
「そうだったな・・・是非会ってやってくれ。姫の次に可愛い奴なんだ」  
『海には居ない』その言葉に人魚王子がどれだけのモノを捨てて自分の側に居る事を  
選んでくれたのか改めて感じた陸の王子は人魚王子を抱き締める。  
「っ、こんな所で何をするんだ!」  
陸の王子の心が解らない人魚王子はいつものように殴り飛ばそうとするが陸の王子は剥がれない。  
「姫、俺・・・姫の事一生大切にするからな。ずっとずっと一緒に、幸せになろうな?」  
陸の王子の真剣な表情に、人魚王子は黙って抱きしめ返す事にする。  
そして、そんな二人を幸せそうに見守る従者の数は、どんどん増えていくのだった。  
「陸の王子、いいかげん恥ずかしいのだけど・・・」  
見物客の多さを感じて頬を染める人魚王子。  
全然気にならないが人魚王子が恥ずかしがっているのを見て、抱き締める力を緩め・・・たように  
見せ、隙をついてそのまま抱き上げて歩き始める陸の王子。  
「気にすんな姫。何やっても、何処にいても俺達は見られる運命なんだ。なんてったって  
こんなにかっこいい俺とこんなに可愛くて美しい姫だぞ?あきらめて大人しくしてな。  
・・・歩くの、辛いだろ?」  
「気が付いていたのか?」  
「なんとなくだけどな。俺が側に居る時は無理しないでくれ。そうでないと、俺が辛い」  
「ありがとう」  
陸の王子の首に手を回し素直に礼を言う人魚王子は本当に幸せそうに輝いていて、  
後ろの見物客と化した従者達から拍手喝采が起きる。  
「陸の王子・・・」  
「判った。走る」  
真っ赤になって走って行く二人いつまでも拍手が送られた  
 
「姫、着いたぞ」  
馬小屋に着き人魚王子をそっと降ろす。  
「これが・・・馬?」  
「そうだ。4本の足を使って華麗に、そして人間と比べようもない程早く、力強く走る。  
この真っ黒いのが俺の馬でジェット。ほれジェット、俺の姫だ。挨拶しな?」  
黒い馬はじっと人魚王子を観察し、そっと鼻を突き出す。  
「ジェット・・・王妃が付けていた宝石と同じ名前だね?あの宝石に負けないくらい  
美しい黒色だ。宜しくね?ジェット」  
『こちらこそよろしく。美しい姫』  
「主に似ず、礼儀の正しい子だね?」  
『人の振り見て我が振り治せと言いますからね』  
「まったくだ!」  
「おい姫、お前ジェットの言葉が解るのか?」  
「え?陸の王子には解らないの?」  
「「・・・え?・・」」  
二人は同時に問い、答えを察して固まる。  
『美しい姫、人間には人間の言葉しか理解する能力はありません。貴方様は  
ただの人間ではありませんね?・・・でしたら、この王子以外の人間の前では  
人間以外とは喋らない方が宜しいかと思います。普通の人間は理解できないモノ  
を排除しますから』  
「そういうモノなの?」  
『残念ながらそういうモノですよ』  
「こら姫、ジェット、俺を無視して話をするなっ」  
人魚王子が『馬と話す』のではなく『俺を除け者にして楽しそう』なのが気に入らない  
陸の王子は無理矢理人魚王子と黒馬の間に割って入る。  
 
『・・・王子がこのように誰かに執着するのを生きてこの目で見られる  
なんて・・・姫は凄い方ですね』  
馬にまで驚かれる陸の王子の以前の状態を考えると頭が痛くなる人魚王子だが、  
このまま頬っておくと暴れ出しそうな陸の王子の頬を撫で、  
「貴方の事を話していたんだ。今の貴方が幸せそうだとね」と微笑む。  
「そうなのか?」  
「うん。あと、貴方以外の人間には人間以外のモノと話せるのは内緒にしておいた方が良いと  
教えてもらったよ。陸の王子もそう思う?」  
「それは・・・そうだな、魔女だと誤解されるかもしれないから、俺達だけの秘密に  
しておいた方が良いと思う・・・て、馬以外とも話せるのか?」  
「心と意志のあるモノとなら大抵は・・・それは普通ではないの?」  
「残念ながら人間にはできない。そして、情けないが人間ってのは自分にできない事が  
できるヤツの事を妬み、羨むんだ。それが度を超えると恐怖を産む。姫には済まないが、  
俺が王になり、姫が王妃になるまでは内緒だな・・・ごめんな?」  
「ううん、気にしないで。陸の王子が僕を怖がらないならいいんだ。さあ、もう散歩に行こう?  
ジェットに乗せてもらってよいのだろう?」  
「ああ、そうだな。ジェット、二人共乗せてくれるか?」  
『喜んで』  
 
「凄い!これが森?」  
「そうだ、木が生茂り空が見えない程だろう?此処には色んな動物がいるんだ」  
「動物・・・ああ、本当だ。皆こっちを気にしているね。木も動物も・・・  
妖精も精霊もいる。此処は神の力がまだ残っているんだね?」  
「そ、そうなのか?」  
人魚王子に見えるモノが見えない陸の王子は戸惑いの声をあげ、それに気がつき説明を始める人魚王子。  
「総てのモノには心があるんだ。強い心には意志がある。目に見えない意志が  
沢山存在するのは、神々の力が残る古き良き土地なんだよ・・・って、以前に旅の  
鳥が教えてくれた。精霊が生きて行けなくなって消えて行く土地も多いんだって」  
「でも、此処には沢山いるのか?」  
「うん、沢山いるよ。僕達を歓迎してくれている。良かったね?」  
嬉しそうに教えてくれる人魚王子を見て、『そういうモノなんだな』と素直に納得する陸の王子。  
「そうか、それは良かった。俺には解らないから、姫から挨拶しといてくれ」  
「言葉は別にいらないから、陸の王子が伝えたい思いがあれば、きっと伝わると思うよ?」  
「そういうモノなのか?」  
「そういうモノだよ」  
「それじゃさっそくやってみるか」  
「此処に居る姫は俺の奥方になる姫、この国の王妃になる姫だ!これから宜しく頼むぞ!!」  
と人魚王子の肩を抱き大声で宣言する  
「陸の王子・・・」  
「なんだ、本当の事だろう?まだ嫌だとか何か違うとか言い出すのか?いいかげんにしないと  
俺が泣くぞ?いいのか?」  
「どういう脅迫の仕方だよ」  
「普通に脅迫すると殴り飛ばされるからな?」  
「・・・バカ・・・」  
二人は森中の意志に祝福されながらキスをした。  
「そろそろ日が暮れる。城に戻るぞ?」  
「そうだね。ジェット、お願いね?」  
『了解です』  
黒馬は城へ向って走り出した。  
 

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