その日、城内は重苦しい空気に包まれていた
「姫〜・・・開けてくれよ」
「・・・・」
「姫!」
「・・・・」
そんな陸の王子の怒鳴り声が延々と午前中続き、
いい加減痺れをきらした陸の王子が部屋の鍵を使って無理に部屋に入る
「姫、入るぞ?入ったぞ?」
そっとドアを開けた途端に陸の王子めがけて枕が飛んでくる
「・・・来るな!出て行けっ!」
「そんな怖い声出すなよ。昨日は俺が悪かったって・・・な?」
枕を頭に乗せたまま人魚王子の御機嫌を取ろうとするが、その口は飛んでくる椅子によって遮られ、
『ガシャーンッ』という音と共に壊れる椅子に人魚王子の本気の怒りを感じ青ざめる陸の王子。
「・・・出て行けと言っているだろう?次はテーブルが行くよ?絶対逃げられないようにしてね」
何時も鈴を転がすように穏やかで心安らぐ美しい声が、まるで地獄からの声のように
恐ろしく響き、キラキラと輝く瞳は激しい怒りに彩られている。
「姫、悪かったよ、もうしない。絶対しない。だから側に行かせてくれよ」
情けなく哀願する陸の王子を見て少しだけ空気を和らげる人魚王子。
そして、そのチャンスを逃さない陸の王子
「姫、甘い果物と果物を絞ったジュース持って来たんだ。朝から何も食べてないだろう?
どうしても俺が居たら嫌ならすぐに出て行くから、コレだけ受け取ってくれよ」
「・・・・・・・・・わかった。持って来て」
長い沈黙の後、ようやく人魚王子は陸の王子が近付く事を許し、
持ち上げかけていたテーブルを元に戻しソファに腰をおろす
カラカラと車輪の音をたてるワゴンを押しながら陸の王子は優しく微笑み人魚王子へ近寄る
「ほれ姫、コレくらいなら腹が痛くても食べられるだろう?
病気じゃ無いんだから何か口に入れないとダメだぞ?」
「・・・お腹だけじゃない。腰も頭も背中も・・・全部痛い。イライラする。
コレが毎月続くのか?僕はもう嫌だ」
いきなりポロポロとなきじゃくる人魚王子
「ひ、姫・・・母上に、王妃に聞いてみたけどな、そんなに辛いのは続かないらしいぞ?
ホルモンバランスってやつのせいで情緒不安定になるらしいし
・・・ん〜・・・とにかく大丈夫だから、泣くなよ。な?」
「だって陸の王子が・・・」
ポロポロからエグエグへと泣き方が変わっていく人魚王子
「え?俺がどうした?」
「生理だって言ったらがっかりしたじゃないか!僕がこんなに辛いのに、
陸の王子はヤレないのだけが辛いんだろう?僕は性欲処理人形じゃ無いんだ!」
普段の落ち着きぶりからは想像もつかない幼さで泣きわめく人魚王子を見て
自分の軽率さに思い当たり青ざめながら
「あ・・・そんなつもりはなかったんだが・・・悪かった。本当に申し訳なかった」
ぎゅっと強く抱きしめ、頭を撫でる。
「うっ・・・うぐっ・・・」
嗚咽をもらす人魚王子が可愛くてしかたがない
『いつもの姫もいいけど、こうして錯乱状態なのもまた・・・幼くていいよな』
そんな事を考えながらこの何ヶ月かですっかり気の長くなった陸の王子は
人魚王子が落ち着くのを待つ
「姫、血行が良くなると少し楽になるらしぞ?マッサージしてやるから、足触らせてくれるか?」
「・・・変な事しない?」
「神に誓って」
芝居がかった仕種で十字をきって見せる陸の王子にやっと身体の力を抜き微笑む人魚王子
「それでは、お願いしていいかな?」
「喜んで」
まず足の指を一本ずつ丁寧に揉んでいく。人魚王子の表情を観察しながら土踏まずをそっと圧す
「あっ・・・」
まるで愛撫された時のように艶っぽく声をあげてしまう人魚王子は自分の声に赤くなる。
「ココ、気持ちいいだろ?」
気が付かない振りをして少し強めに圧し続ける
「足の裏にはな、身体の色んな場所のツボがあるんだってよ・・・痛い所は無いか?」
「あ・・・うん、だいじょう・・・ぶ」
「そうか、良かった。次はふくらはぎいくぞ?」
ふくらはぎを円を描くように撫でてみる
「はぁっ・・・ん・・・」
声を漏らさないよう口をキツく閉じ、眉間に皺がより始める人魚王子
『コレを襲ったら殺されるってのはある意味拷問だよなぁ・・』
陸の王子の拷問は、その後首のツボに到達するまで、延々と続くのであった