交通事故なんて遭うもんじゃない。  
痛いし、裸にされるし、その様子をずっと見られるし、――もういやだ……。  
 
 
 
正午を回った頃に私は歯医者から家に帰ろうとしていた。  
お腹が空いていたので、早く家に帰りたいなーなどと考えながら、ぼーっとしながらのろのろと自転車をこいでいたら、  
 
……やってしまった。信号のない交差点で、私は車にはねられた。  
 
私が車とぶつかったのは信号もないような小さな道だったので、車のスピードはあまり出ていなかったのが幸いだった。  
原因は、両方の不注意。私も横からの侵入車を全く見ていなかった。  
私は自転車ごと横から突き飛ばされ、身体が自転車から投げ出され、左半身から地面に落下した。  
左肩と、左側の腰を強く打ち付けた。  
 
「すみません!大丈夫ですか!?」  
中から、スーツの中年の男性が出てきた。サラリーマンだった。  
「え、あ、あっ、ご、ごめんなさい。私、よく見てなくて」  
自分にも落ち度があるので、私はつい謝ってしまう。  
「身体は大丈夫ですか!?痛くないですか!?」  
「え、あっ、……」  
言われてみると、地面に打ち付けられた肩がじわじわと痛む気がする。  
「救急車、呼びますね!」  
「あ、え、でもこの辺田舎なんで、救急車呼んでも30分以上かかっちゃいますよ」  
「なら、この近くに病院はありますか?そちらまでお連れします!」  
「えーっと、じゃあ、すぐ近くに仁坂(にさか)外科ってありますから、多分そこでいいと思います」  
「そうですね、ひとまず応急処置の意味でも、外科がいいでしょうね。わかりました」  
 
私は、スーツの男性の車に乗り込んだ。衝撃でひしゃげた自転車も後部座席に乗せてもらった。  
彼は車を運転させながら、私を轢いたので病院に連れて行くということを会社に連絡していた。  
 
車の中で、この男性から一通りのことを教えてもらった。  
男性が伊井田(いいだ)さんという名前であること、営業の仕事で隣の県からやってきたということ、警察に事故届けを出した後は示談の方向で話を進めたいこと、などを話してもらった。  
私は、ずっと相槌を打っているだけだった。地面に打ち付けた肩と腰がずきずきと痛み始めた。  
伊井田さんは、私を心配しているからか、ずっと喋りかけてきた。  
「ほんとにすみませんでした。……あなたの名前も教えてもらえますか?」  
「あ、私は伊富貴佳苗(いぶき かなえ)です……」  
「伊富貴佳苗ちゃんかあ。佳苗ちゃんは、中学生ですか?」  
「えっ、はい、中学2年生です」  
「今日は、部活帰りか何か?」  
「い、いえ、今朝は歯医者さんに行ってました」  
「ああ、今日立て続けにまた病院に行くことになっちゃったんですね……申し訳ありません。あ、着きました」  
 
目的の外科に到着したけれど、ドアには診察時間外を示すプレートが掛かっていた。  
しかし鍵は掛かっていなかったので、私は伊井田さんに連れられて中に入った。  
受付には、ここの院長の仁坂先生がいた。  
「すみません、さっき車にはねられたので、診察してもらいたいんですけど……」  
私が状況を説明した。  
「……まあ、とりあえず診察室にどうぞ」  
 
打ち付けた肩と腰は、どんどん痛みを増してきた。耐えることはできるが、急に動かすと激痛が走る。  
「……まあとりあえずレントゲン撮りましょう」  
そう言うと、お医者さんは私を奥のレントゲン室に案内してくれた。  
 
「じゃあ、検査室の中で、パンツ一枚になってください」  
「あ、え、あっ、……」  
そう言えば、レントゲン撮影と言えば服を脱ぐんだ。  
うわあ、恥ずかしいよ……そりゃ今も打ったところが痛くて、そんなこと言ってる場合じゃないことはわかるんだけど……。  
私のその日の服装はTシャツとジーンズ。……あれっ、Tシャツくらいなら着ていてもレントゲン撮れるんじゃないのかな?  
「あの……下着は外しますけど、その上からシャツ着てもいいでしょうか?」  
「シャツに付いているプリントが写り込むから駄目です、さっさと脱いでください」  
「……はい」  
渋々ながら、私はTシャツの裾に手をかけた。  
 
……痛い!  
左腕は全然動かせないくらいに痛みが激しくなってきた。  
まずは左手だけを裾にかけて、脱ごうと捲り上げてみる。やっぱり片手だけで服を脱ぐのは難しく、胸から上には全然進まない。どう頑張っても、首から抜けない。  
右手を首筋にかけて脱ごうとしても、引っ張った服が左の鎖骨や腋周辺を刺激して、痛くてとても脱げない。  
片手で服を脱ごうとする間抜けな状態の私を、検査室の外からお医者さんは眺めているんだろうか……。脱ぐことよりもなんかそっちの方が恥ずかしい気がする……。  
脱げかけのTシャツの裾からおへそだけが出た状態でもぞもぞしていると、お医者さんが中に入ってきた。  
 
「……何やってるんですか」  
「あっ、す、すみません……鎖骨が痛くて脱げないんです……」  
「はぁ……」  
仁坂先生は面倒そうに溜息をついた後、検査室の側で待ってくれていた伊井田さんに声をかけた。  
「……お父さん、お子さんの服を脱がせてやってください」  
え?お父さんって?  
 
「伊富貴さん、一旦検査室から出てください」  
検査室の中は狭く、二人が入るスペースはない。外の待合室のようなところで、お医者さんは伊井田さんに私の服を脱がせるように言った。お医者さんは、伊井田さんを私のお父さんだと勘違いしているようだ。  
……って、えええっ!?お医者さんの前で裸になるだけでも恥ずかしいのに、私を轢いた伊井田さんに服脱がされるの!?  
お医者さんはそう言うと、検査室の奥に引っ込んで行った。  
 
ええっ、ちょ、ちょっと……脱がされるなんて、やだよ……  
しかも、上半身裸でしょ?うわあ……  
「佳苗ちゃん……ごめんなさい。失礼します」  
そう言って、伊井田さんは私のTシャツの裾に両脇から手をかけ、捲り上げていった。  
うああ、痴漢ー、脱がすなぁ……  
やぁ、お腹見られた……////うわあブラ見られたあ……指が胸に当たったあ……!!  
私の着ていたTシャツが、慎重に首から抜き取られた。  
上半身下着だけの姿を、私を轢いた人に晒してしまった。服を脱ぐと、強く打ち付けた肩周辺が赤くなっているのがわかった。  
でも、これで終わりじゃないんだ……ブラもとらなきゃ……  
一応片手でブラを外そうと試してみたけれど、だんだん右腕を動かすだけで左肩に痛みが響くようになって、両腕とも思うように動かせなくなっていた。  
……ブラも、伊井田さんに脱がせてもらうしかない。  
でも、男の人におっぱい丸出しにされるなんて、すごく心細いよ……  
伊井田さんは躊躇っている。さすがにブラの上からレントゲンを撮れないことは知っているみたいだ。  
伊井田さんも、いくらなんでも、親子でもない私を裸にするのはやっぱり抵抗があるみたいだ。  
……このままじゃ、診察を受けられない。左肩も腰も、どんどん痛みだしてきた。  
「まだですかぁ?」  
検査室の奥から、やや怒気を含んだ仁坂先生の声が聞こえた。  
 
伊井田さんが私のブラのホックに手をかけた。ブラのホックはあっさりと外れた。  
伊井田さんは私に気を遣うかのように、恭しく慎重にブラを奪い取った。  
私の胸は、丸出しにされた。  
伊井田さんの視線が、申し訳なさそうに私の胸に注がれた。視線が温度を持っているかのようで、視線を浴びた箇所が熱く感じられた。  
 
は、恥ずかしい……。  
お願いです、見ないでください……。  
 
でも、これで終わりじゃない。次はジーンズも脱がないといけない。  
私が自由の利く右腕で胸をかばっている間に、伊井田さんが私の前でしゃがみ込んだ。  
ジーンズのベルトに伊井田さんの手がかけられた。どさくさにまぎれて、指でおへそを触られた気がする。くすぐったかった。  
そして、ジーンズの前ホックが外され、ファスナーが下ろされた。……パンツ、見られた!  
私のジーンズは、するすると足下に向かって下げられていった。もうパンツは丸見えだ!私の脚が、どんどん露出させられていく……!  
脱がされたジーンズは私の足首に到達した。私は足を上げて、ジーンズを引き抜いてもらった。  
……ああああ、パンツ一枚の素っ裸だ。ちょっと肌寒い……。  
どうして、どうして私を轢いた人にまで、わざわざ裸を見られなきゃいけないんだろう……///////  
 
「準備できましたぁ?」  
検査室からに仁坂先生が顔を覗かせた。はやく、検査室に入らなきゃ。  
お医者さんでもイヤだけど、これ以上、医者でもない伊井田さんに裸を見せたくない……。  
左足の痛みも、徐々に増してきた。  
右足に重心を置き、ぎこちない歩き方で検査室に入った。  
恥ずかしいけど、何よりやっぱり痛い。はやく、診てもらわなきゃ……。  
 
 
「あ、お父さん、やっぱりその下着も脱がしてやってください」  
 
へっ……!?  
 
「その下着、フロントに飾りが付いてますよね。その飾りが邪魔ですから、素っ裸にしてあげてください」  
 
え……。  
ええっ!!?  
や、やだ、やだやだ!!  
パンツ一枚でも恥ずかしいし、今もおっぱい丸出しにしている時点で泣きたいくらい恥ずかしいのに!  
どうして、どうしてこんな目に遭わされなきゃいけないの……!!  
こんなパンツ、穿いてくるんじゃなかった……!!  
 
すっと、私の両腰に後ろから添えられる手。  
伊井田さんが、私の後ろからパンツを脱がそうとしてる……!  
すーっ……  
パンツはあっけなく、私の足首まで下ろされた。  
……お尻が空気に触れているのが、感触でわかる。  
伊井田さんの顔のすぐ前に、私のお尻……。  
ああ、もう……//////お尻が熱い!伊井田さんの視線で焦がされてるみたいだ!  
意識しなくても、勝手にお尻の筋肉に力が入る。お尻の穴が、収縮する……。  
次に、足首に引っかかっているパンツを引き抜かなきゃ……。  
まずは、痛くない右足を重心にして、痛い左足を浮かせる……。  
って、うわわっ!足、開いちゃう!お尻とかあれとか色々見えちゃう!  
できるだけ、できるだけ内股で……  
……え〜ん。  
私見てないから分からないけど、伊井田さん今、どんな顔してるんだろう。  
目を、逸らしてくれてるかな。まさか、じーっと見てるのかな……///////  
振り返ってみたい……でも、恐い……もし伊井田さんが私のお尻を、じーっくり眺めていたとしたら………!  
右足、もっと浮かせなきゃ……  
……うわ〜、お尻の穴が何かヒクヒクしてる……。わわっ、あそこも開いちゃった!  
こんなところを知らない人に見せるなんて、失礼だし惨めだし、恥ずかしいよお……。  
 
左足を引き抜いた。  
次は、右足。痛む左足を重心に……って、うわっ痛いよ!  
左足に体重をかけられない!  
「……伊井田さん、左足、痛いです……」  
「え、あ、じゃあ、そこの椅子に座って、そこで脱ぎましょうか……」  
「あ、はい……」  
私は、後ろの下の方から聞こえる声に、顔を向けずに返事する。  
後ろで伊井田さんが立ち上がる気配を感じた。  
「……自分で座れますか?」  
「……」  
「……支えますね」  
 
伊井田さんが私の右腕を持ち上げ、私の腋に自分の首を通してきた!  
私の裸の胸のすぐ横に、伊井田さんの顔がある!  
伊井田さんの顔が、私の胸の先っぽを一瞥した!  
視線にくすぐられた私の胸の先っぽは、たちまち収縮してしまった……/////////  
伊井田さんは、痛くない右側に私の身体を傾け、支えてきた。  
……だから、伊井田さんの顔に、私の右胸が押し当てられてる!  
ダメ、ダメだよ伊井田さん!伊井田さんの髪の毛が、固くて胸がチクチクする……。  
 
そのまま伊井田さんは私の身体を90°回転させて、そばにあった椅子に腰掛けさせてくれた。  
……ああ、黒い皮椅子の感触が裸のお尻に気持ち悪いよ……ひんやりして、皮膚に引っ付く……。  
パンツが右足首に引っかかっただけの素っ裸の状態で、私は腰掛けていて、伊井田さんを見上げている。  
私の丸裸の身体が、知らない男の人の正面にある。  
……せめてもの抵抗。右腕で胸を隠して、精一杯内股になってみる。完全に隠せるわけじゃないけど、ヘアは隠したい……///////  
伊井田さんは右足首のパンツを、あっさりと引き抜いた。  
ああ、私、人前でほんとに全裸になっちゃった……。  
 
 
伊井田さんに身体を支えてもらいながら、検査室に入った。  
仁坂先生にも、伊井田さんに身体を預ける丸裸の私の身体を見せてしまった……。  
仁坂先生に裸の背中をべたべた触られながら、胸部のレントゲン。息を吸い込んで止めるだけで痛む。  
次に、腰部のレントゲン……私が見えない後ろから裸の腰を両側から掴まえられたから、とても恐かった。  
 
「はい、撮影終わりです。現像して診断しますので、診察室まで移動してください」  
仁坂先生は、無愛想に言い放った。そして、伊井田さんに向かって言った。  
「お父さん、お子さんを診察室まで支えて連れてきてください」  
 
「あ、あの……もう服着ていいですか?」  
レントゲンを撮って引き続き裸のままだった私が、仁坂先生に尋ねた。  
「はぁ……すぐに着れますか?」  
仁坂先生は明らさまな苛立ちを込めた溜息を吐いて、私を睨んだ。  
「い、いいえ……」  
「どうせすぐ着れないんですから、そのまま診察室に来てください」  
 
……い、い、  
いやだよ〜〜〜!!  
うあああ〜〜〜!!!!  
やっともうすぐ、服を着せてもらえると思ったのに!!  
 
恥ずかしかった全裸でのレントゲン撮影も終わって(……さらっと言ってるけど、ほんとに恥ずかしいんだから……)、やっと服が着れると一安心していたのに。  
何で、何で、なんでまだずっと裸じゃないといけないんだよ〜……////  
しかも、何度も言ってるけど、今の私は、正真正銘の全裸なんだ。  
痩せっぽちで腰もほとんどくびれていないけど、胸もほんのり膨らんでいるし、ヘアだって間違いなく生えてきているというのに。  
子供じゃないのに!子供でもこんなことさせられたらすごく恥ずかしいはずなのに!!  
多分、私の顔は真っ赤だ。涙、我慢しなきゃ……。  
 
引き続き伊井田さんに右肩を支えてもらいながら、私はたどたどしい足取りで歩く。  
途中の廊下の全身鏡が、スーツ姿の伊井田さんに抱きかかえられている丸裸の私の身体を映していた。  
……見たくなかったのに。  
見たくもないのに、自分の胸も、その胸の先っぽの薄いピンクの突起も、股間の黒いヘアも何もかもが晒されているのを見てしまった。  
鏡で確認した裸の自分の姿が、改めて、惨めでとても恥ずかしいと思った……。  
「……あの、佳苗ちゃん。ほんとにごめんなさい」  
「あ、い、いえ……」  
謝ってほしいけど、謝られるのもそれはそれでとても気恥ずかしかった。  
ああ、そういやトイレ行きたいなあ。  
おしっこ、我慢したままだった……。  
 
 
「えー、肩は骨に問題はないです。恐らく打撲で、自然に治ります。  
問題は左の股関節です。軽い脱臼みたいに外れかけていますので、ここで治療します」  
全裸のまま裸のお尻を丸椅子に乗せ、もう既に見られたはずの胸を右腕でかばいながら先生の話を聞いた。  
「お父さん、そこのベッドに仰向けに寝かせてあげてください」  
 
伊井田さんに注意深く、私の身体をベッドに横たえてもらう……。  
素っ裸で2人の大人の男の前に寝かせられるのがやはり恥ずかしい。  
特に、伊井田さん……。何で私を轢いた張本人が、私の裸を全く遠慮せずに眺めているんだろう。  
今から足を治療してもらうみたいだけど、でもその前に……。  
「すみません、トイレ、行きたいんですけど……」  
 
仁坂先生は心底面倒そうな表情で私を睨み、溜息を吐いた。  
……私だって、好きでここにいるわけじゃないのに。好きで今おしっこしたくなってるわけじゃないのに。  
仁坂先生は無言で診察室の奥に入って、そして何かを手に持って戻ってきた。  
 
先生が手に持っていたもの。名前を聞いたことがあるだけで、実物は見たことがない。それでも、それの名前と、使い方は一瞬でわかってしまった。  
それの名前を頭に浮かべた瞬間に、私の目尻は引き攣り、それだけで危うく泣いてしまいそうになった。  
 
 
――しびん、だった。  
先生が持っていたものは、尿瓶(しびん)だった!  
 
 
おしっこを溜める容量のために奥行きのある、取っ手付きのやかんのような容器。  
よりによって、おしっこの入った量を確認するために容器が透明。  
その「やかん」の口には、女のあそこ全体を覆うような、ピンク色の塩ビ製のあてがい口。  
 
 
まさか、まさか!  
今ここで、2人に見られながら、おしっこしろっての!?  
 
 
「あ、ああ、……」  
先生が私の右足を持ち上げて、股を開かせようと近付いてきた!  
「あ、あ、あの!」  
それだけは。それだけは何としても止めたかった。  
おしっこくらい、一人でトイレに行ってしたかった。それくらいは待ってほしかった。  
 
「あの……トイレでしたいです……」  
「嫌です。早くここでしてください」  
仁坂先生ははっきりと「嫌」だと言った。  
冗談じゃないよ!私だってこんなところでおしっこするなんて嫌だよ!!  
でも、自由に身動きを取ることも、逃げることもできない私は、先生のされるがままになるしかない……。  
 
私の右膝が持ち上げられて、ベッドの外側に向けて、お股が開くように倒された。  
とうとう、お股が完全に開けられてしまった!  
「……っく、ひっく、……」  
こ、声が上擦ってきちゃった!  
泣きたくない、我慢しなきゃ!!  
もし一筋でも涙を流しちゃったら、多分、もう泣くことを抑えられなくなる……!  
 
寝転んだままの姿勢で伊井田さんの方に視線を向けてみた……、  
……もういやだ……私は恥ずかしさと幻滅とで頭が眩んだ。  
伊井田さんは、丸出しにさせられた私のあそこをじっと見ていた!そして私が伊井田さんに目を向けた瞬間に、わざとらしく目を逸らしていた。  
 
そして、そのとき、私は分かってしまった。  
伊井田さんの股間が、こんもり膨らんでいることを。  
男の人には女と違って、お股に何かが付いているらしい。そして、それは女の裸を見たりして興奮したときに、固く大きくなるらしい。  
つまり、伊井田さんが、今の裸の私がされている一部始終を見て、興奮しちゃったってことを!  
嫌でも、私は理解してしまった……!  
 
見せ物じゃない、私は見せ物じゃないよぉ……  
私を見て、興奮されてしまうなんて……  
……泣くな、泣いちゃダメだ、自分!  
お願いだから、もう少し堪えて!お医者さんにおしっこさせられるだけなんだから!  
 
仁坂先生が私のあそこの位置を確認して、尿瓶の口を遠慮なくあてがった。  
「……はい、もういいですから。早くしてください」  
仁坂先生が、ぶっきらぼうに言い放った。  
 
……覚悟を決めたけど、出ないものは出ない。  
人前でおしっこしちゃうなんて、そんな勇気は私にはない。  
「するなら早くしてください」  
しっかりと白衣を着込んだ先生の手で丸出しのあそこに尿瓶をあてがわれている、素っ裸の私……。  
その状況を想像すると、どうしてもあまりにも屈辱で、歯を食いしばってしまう。  
そして、私を見守っているのか、イヤラシい好奇心なのか、伊井田さんがじっとこっちを見ている。  
どうせ何の役にも立たないのに、そもそも私を轢いたくせに、私を見てしっかり楽しんじゃってる。  
お医者さんだけならまだいい。どうして、医者でもない、人の裸を見慣れていない一般人に、おしっこするところまでじっくり観察されないといけないんだろう。  
うまく言えないけど、伊井田さんは『観客』だ。  
役割を持って私を裸にさせる仁坂先生と、役割があって裸になる私。  
そこまでなら、医療現場という『脚本』を、お互いがお互いの役割と理由を持って服を脱がせたり脱いだりする『演じ手』で済む。  
それだけならまだ我慢できる恥ずかしさも、そこに『観客』が居るから……!  
何の関係もない、自分は何も手を出さなくていいのに、『演じ手』の必死な感情も、恥ずかしい格好も、全て高みの見物で見てしまうことができる、『観客』がいるから……!  
だから私は、こんなに恥ずかしいんだ!!  
 
「出ませんか?」  
先生が焦れったさを明らさまにしながら尋ねてきた。  
出してしまおうという諦めと、それでも出したくないという抵抗とで私は板挟みになっていた。  
そして、私のそんな、小さな(と言っても、私にとってはあまりにも大きな)悩みが先生を苛々させていることも分かっていた。  
……そうは言っても、出ない。  
あまりにも緊張しているせいで、いくら力を抜いても出ない。もしかしたら無意識に私が抵抗してるのかもしれないけど。  
 
焦れったくなった先生は、私の顔を見て舌打ちした。そして、なんと、――  
 
「ひゃああっ!」  
つい、上擦った大きな声が出てしまった。  
先生が、私のあそこのコリッとした部分(……クリトリスっていうんだっけ?)を、手袋をはめた指ですりすりと擦ってきたのだ!  
 
私はまだ、自分のあそこのことをあんまりよく知らない。  
自分で触ったり、擦ったりしたこともない。  
だから、別の人に私の敏感な所を触られるのが、とっても恐かったし、とっても恥ずかしかった。  
そして、むず痒くてくすぐったいような、痺れるような気持ち良さがお股全体に広がってきた。  
お医者さんにそんなところを擦られていることが、とっても恥ずかしくて、それなのにとっても気持ち良かった。  
コリコリ、くりくり、すりすり、……。  
先生がしつこく、私のそこだけをゆっくりと擦っていた。  
不安になるくらいの気持ちよさが全身を支配した。ダメ、もう、おしっこ我慢できない……!  
擦る刺激の後は、トントンと、指を置いたり離したりを繰り返していた。  
もう無理だ、お股の力が抜けて、ああっ、が、我慢できない!出ちゃうよっ……  
 
ちょろっ  
ちょろろろろっ  
 
長い間裸にされてあそこも冷えていたからか、少し熱くてびっくりした。  
あそこを伝う、とても温かい液体の感触。  
おしっこが零れた。  
あそこを触られて、気持ちよくて、力が抜けて、……おしっこが出た。  
――お漏らし、してしまった!  
 
「えっ、あ、あああああ……」  
右眼からこめかみを、一筋の涙が伝った。  
我慢していたのに、目からも、零れてしまった。  
2人の男に見られながらお漏らししてしまったこと、それをその生々しい感触で知らされたこと、  
我慢していたのに目尻に溜まった涙は顔を伝って零れてしまったこと、  
……それら全てが悔しくて、私が泣いているということをはっきりと自覚してしまったこと。  
一度涙が零れ始めると、今度は左目からも、次々と涙が垂れ始めた。  
天井が、滲んできた……  
 
おしっこが出始めたので、先生は私のあそこを擦る手を離して、尿瓶の口をぴったりとあそこにあてがった。  
あそこへの刺激が止んだせいで、そこでまたおしっこが止まってしまった。  
私は、必死に抵抗して、これ以上おしっこを漏らさないように我慢していた。  
 
先生はまた舌打ちを一つすると、尿瓶を持っていない方の指を、私のおへそに入れた。  
私のおへそに入れた指に押す力(圧力)が加えられて、押す力が加えられたまま下に向かって動かされた。  
下腹をまっすぐ下って、膀胱の真上。指が押す力が、徐々に一番我慢できないところに加わる。  
「……っく、ひっく、ひっく、」  
私は声を殺して泣いていた。喉がしゃくり上げるのをやめてくれない。  
先生の指は、おしっこを我慢するのに一番やめてほしい所を、遠慮なくぐにぐにと押した。  
こんなに遠慮なく、身体の色んなところをまさぐられるなんて……。  
私はしばらく、その部分をぐにぐにと押され続けた。おしっこを我慢する辛さと戦っていた。  
 
膀胱への刺激を諦めた先生は、また一つ舌打ちして、私のヘアを軽く引っ張り始めた。  
そして、すっかり油断していた(すこし開いていた)私のお尻の穴にまで、指でぐりぐりと力を加え始めた!  
「いやあああああああ!!!!」  
びっくりした。あまりにびっくりして、私は叫び声をあげてしまった。  
そして、お尻の穴が刺激されたと同時に、  
 
また、おしっこが流れ始めた。  
 
 
じゃああああああ  
じょろろろろろろ  
 
 
今度のおしっこは、もう、止まってくれなかった。  
尿瓶の中に溜まっていく私のおしっこの音が、診察室中に響いていた。  
そして、  
 
「うわああああああああん……」  
叫んだときに大声を出した勢いで、私は大声で泣いていた。  
 
惨めだった。  
悔しかった。  
屈辱だった。  
 
検査の都合で丸裸に脱がされてしまい、しかもそのままの格好で歩かされて診察されたことが。  
身体をまさぐられて、それで気持ちよくなってしまい、とうとうおしっこを我慢できなくなったことが。  
私がおしっこしているところを、2人の男に、特に私を轢いた伊井田さんにまで見られたことが。  
 
一度出た涙は止まらない。  
一度出た泣き声は、もっと止まらなかった。  
「うわあああああん、うわあああああああ、っく、ひっく、うわあああああああん……」  
顔は熱くて、喉が締め付けられている。  
両方の目から零れていく涙は、どんどん耳に流れていく。  
身体は相変わらずずっとズキズキと痛い。  
しかし、おしっこが完全に出たことで、とてもすっきりとしていた。  
すっきりとしてしまったことが、とんでもなく屈辱だった。  
私は、人前でお漏らししてしまった。  
 
「っく、ひっく、うわああああああん、……」  
 
気持ちの整理がつかない。ただひたすら、恥ずかしくて悔しかった。  
 
泣きじゃくる私などお構い無しに、おしっこを完全に出し切った私のあそこを先生がガーゼで拭いた。  
そして、何か今から治療するみたいなことを言っていた。  
でも、今の泣きじゃくっている私には、どんな声も届かなかった。  
 
先生は、私の身体を右半身が下になるように寝返らせた。  
私の裸身が、そっくりそのまま先生の方に向いた。  
でも、それももうどうでも良かった。  
上(天井側)にある私の痛む左脚を先生が持って、ゆっくりと高く持ち上げた。  
多分これ、セックスの体制だよね?先生が脚を持ち上げたので、また私のあそこが丸出しにされた。  
もうどうでもいいけど、伊井田さんに見せつけるようにしっかりと向けられていた。  
私は涙でぐしゃぐしゃになった顔をこれ以上見せたくなくて、ベッドに埋めるように俯いた。  
「じゃあ今から、骨を元に戻しますからね」  
高く持ち上げた左脚を、ゆっくりと股関節側に力を込めていく。  
それは、すごく痛かった。あまりに痛くて、恥ずかしいどころではなくなっていた。  
 
 
やがて、私は痛さで失神した――。  
 
 
あれから、私は失神している間に左の股関節を元通りに治療してもらった。  
そして、伊井田さんに服を着せてもらって、自宅まで送ってもらったそうだ。  
気付いたら、私は家のベッドで寝ていた。  
 
 
交通事故に遭った割には、身体の痛みもだいぶすぐになくなって、今では元通りに運動することもできるようになっていた。  
伊井田さんとは、示談の方向でお父さんが話をつけてくれていた。  
ひとまず、これでめでたしめでたしだ。  
 
股関節の脱臼は、一歩間違ったらそのまま下半身不随になるくらい深刻らしい。  
交通事故で股関節の骨が外れかけることはあまりないみたいだけど、それでも、迅速な治療のおかげで私は助かったみたいだ。  
だから、全裸でレントゲン撮られたり、おしっこさせられたりと、とても恥ずかしかった私の感情など考えずに、  
とにかくすぐに治療することに専念してくれた仁坂先生には、感謝した方がいいのかもしれない。  
 
でも、あのとき仁坂先生は一言、伊井田さんにその場を外すように言ってくれても良かったはずだ。  
仁坂先生にとっては女の裸なんて見慣れたものかもしれないし、触り慣れたもので全く何も感じないかもしれないけど、  
……ああ思い出したくもない、あのときの伊井田さんの股間は、ずっと膨らみっぱなしだったんだから。  
ずっと、私の方を見て興奮していたんだから!  
 
治療行為と患者の羞恥心との両立。そんなもの、できるわけがないんだろう。私が実際やられたからわかる。  
でも、だからと言って、患者の羞恥心を全く考えなくていいわけではないはずなんだ。  
 
「……私、医者になろう。診察で恥ずかしがる女の人を、少しでも減らしたい!」  
 
そのためには、今は学校の勉強を頑張んなきゃなあ〜。成績上げなきゃ。  
そう思いながら、私は今日出された宿題に取りかかった――。  
 
 
終わり  
 

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