太陽は好きですか?  
こんなに変わってしまった  
太陽だけど………  
それでも……貴方…  
太陽は…好きですか?  
 
 
Writer : LovingVoiceMail(LVM)  
Illastration : Kamui  
 
- Natu -  
 
 
 
 
 
 
その学生は道を歩いていた。  
疲れ切った表情で今日も帰り道。  
友達も居ない。更に恋人とかいう言葉は宇宙の何処かだ。  
それでも1人、その学生は疲れた表情で歩道を歩いていた。  
彼は今の自分をせせら笑う事が日課だった。  
そうやって自虐的になっていれば、なんとか心の平衡が保たれる。  
だから、こうやって1人という空間を  
自分は不幸だ、自分は不幸だと思いながら歩き続ける。  
それが彼の幸せだった。  
価値観は多様だろう。根暗な生き方だと思えばそれだけだが…。  
それでも鬱屈して、このまま首を縄で吊り上げるよりは  
人生を呪いながらでも、歩いているだけマシではないだろうか?  
学生は心の中で自己弁護に励む。  
(寒いな……)  
今の心境を彼はそう率直に思った。  
こんなに、日が差しているというのに……寒い……。  
どうしてこんな事になったのだろうか?と  
色の無い景色を眺めながら、思い詰める。  
そうだ……ここには色がない。  
色は見えているが、歩く人も町並みも全て灰色に見える。  
それはまるで冬の様……。  
彼は溜息を付いた。  
 
そうだ……。  
と、その学生はある一瞬に思い出す。  
自分は昔、今のように捻れ曲がった気持ちでは無かった時間があった。  
それを思い出す。  
そう、あの時ばかりは……こんな太陽が照りつける中で……  
その名前通りの、熱いくらいの躍動の中で暮らしていたんだ。  
それを思い出した瞬間だけ……彼は微笑みを浮かべた。  
下らない……本当に下らない微笑みを……。  
どうして、今更、それも今頃になって思い出したのだろう……。  
そうだ……何で忘れていた? 何故?  
『そんな事』を忘れてしまうくらい、世界が灰色だったから?  
そんな事を忘れてしまうほど、魂の隅まで傷ついていたから?  
だから?  
彼は自問を続けた。今更、問っても仕方ない事を……。  
「あいつ、どうしてるかな………」  
そんな言葉が、彼の口から漏れた。  
 
その時……そう……その時だった。  
不意に真正面を向くと……  
女の子が居た……。  
セミロングの髪が風で揺れる中、  
くすんだ抹茶色の……あの店の上着を着て……その少女が……  
不意に、学生の視線が彼女で止まる。  
と同時に、彼女の視線も彼を目視した瞬間に止まり  
……つまり……2人は見つめ合っていた。  
「………嘘やろ?」  
彼女はじっと……その学生を見ながらそう漏らした。  
学生の頭はその瞬間、真っ白になった。  
目の前の少女は幻か?  
彼女の言葉と同じくらい、彼の心も(嘘だろ?)と呟く。  
「……哲?」  
彼女は両手で自らの口を塞ぎ、肩を振るわせてそう言った。  
言った後も、ずっと彼を凝視していた。  
「…………………」  
その哲と呼ばれた少年は、返事が出来なかった。  
あり得ない事が目の前で起きていたから………  
居るはずのない少女が、目の前に居たから………  
「……ナ、ナツ?」  
哲と呼ばれた彼は、思わず彼女の名を口にした。  
 
「……信じられへん……こんなラッキーあってええんか?」  
そう言った後、ナツと呼ばれた少女は思わず自分の唇を自らの両手で塞ぐ。  
彼女はずーっと、哲と呼ばれた少年を見つめ続けた。  
そして、彼もじーっとその少し変わった……といっても  
全然変わらない彼女の姿を見つめて硬直し続けるしかなかった。  
(どうしてナツがっ!?)(馬鹿なっ!?)  
そんな混乱の言葉が頭の中をグルグルと回り続ける。  
お互いの思いの中で、立ちつくす2人。  
ナツと呼ばれた少女は、思わず瞳を潤ませた。  
日本人なのに、瞳だけ蒼いその目に涙を浮かべて彼を見る。  
「……哲……なんやな……間違い……無いよな?」  
おずおずと前へ歩み、彼女は彼に近づいた。  
「………多分……そうだと思う………」  
哲と呼ばれた少年は、自分自身のおかしな返答に混乱しながら  
彼女の問いに答え返した。  
そう……多分、自分は哲郎……矢幡哲郎……。  
そう思うのに、それが彼には妙に違和感に感じる。  
「……哲っっっ!!」  
ナツと呼ばれた少女は、思いを堪えきれずに走り出し  
そのまま哲郎の胸の中に飛び込んだ。  
「うわっ……」  
あまりに豪快なダイビングに転げそうになる哲郎。  
それでも彼女は勢いを止めずに叫び声を上げる。  
「馬鹿哲っ!! 約束はどうしたんやぁっ!? 手紙はぁっ!?」  
哲郎の胸の中に縋って涙をボロボロ流しながら、  
ナツと呼ばれた少女は叫んだ。  
 
哲郎は慌てる。慌てるしかない。  
何故、彼女がこんな神奈川の隅に突然現れる!?  
どうして!? 何故!?  
疑問が何度も頭の中を交錯するが、目の前には  
胸の中でボロボロと涙を流している女の子。  
それも店の服のままでいるから目立って仕方がない。  
流石に周囲の人々も、  
男と女の人情ざたに興味の目を向け始めた様だった。  
その視線を感じて青ざめる哲郎。  
ヤバイと心の中で叫んで、  
さっとナツと呼ばれた少女の手をとって、  
そのまま彼女を引っ張り始める……  
「あ……哲……ちょっと……まってな…哲……」  
せっかく感動の再会といった所なのに、  
相手の男にぐいぐい引っ張られて口を尖らせるナツと呼ばれた少女。  
しかし、哲郎はしゃにむに彼女を  
自分の家の方に引っ張っていくしかなかった。  
 
とにかく彼女を自分の住むマンションまで引きずって  
自分の部屋まで連れ込むしかない哲郎。  
じっと考えると、女の子を強引に自分の部屋に上げたわけで  
物凄い大胆な行動といえたのだが、  
流石に今の哲郎には、それを意識するだけの余裕がなかった。  
自分の部屋に転がり込んで、ゼイゼイと息を切らす哲郎。  
冷や汗というか、滝汗というか…。  
今までの鬱な自分が嘘のようであった。  
「もー、哲郎……強引やなぁ………  
 幼なじみやからって、いきなり自分の家に連れ込む事はないやろ?」  
ナツと呼ばれた少女は、強く握られた自分の腕の跡を見て  
更に口を尖らせるしかない。  
「そう言う問題かっ!? っていうか、  
 どういう状況なんだっ、俺は今っ!?」  
哲郎は床に突っ伏して、この有り得ない状況に叫び声を上げるしかなった。  
そんな哲郎を見下ろして、眉をひそめ冷ややかな視線を送るナツ。  
「いちおう、感動の再会ってヤツやと、思うんやけど?」  
叫び声に表情を曇らせて、ナツは哲郎にそう返す。  
その返事に、哲郎はガンガンと床に頭を叩き付けた。  
「馬鹿なっ!!」  
全く有り得ないナツの言葉に、哲郎は思いきり叫んだ。  
 
長瀬奈津枝……子供の頃からの愛称はナツ。  
昔、父親が大阪で働く事になって、小学校1年に大阪に引っ越した先で  
哲郎の家の正面、3軒横にあった饅頭屋の娘だった。  
生まれた時からずっと幼なじみという、そういう関係では無かった。  
というか、そういう関係は相当稀であろう。  
しかし、同い年の子が小学校1年から近所にやってくれば  
そこから「幼なじみ」になるのは、無い事も無い話だ。  
東京から引っ越してきたという珍しさもあったし、  
何より、奈津枝は勝ち気で男勝りな女の子だったから、  
自分の顎で使えそうな男の子が近所に引っ越して来た事は  
彼女のガキ大将的な一面を刺激した。  
近所の子供の中で、リーダーシップを握っていた彼女だから  
『近所付近の新入り』の面倒を見るというのは、  
使命感の様なものだったのだと思われる。  
仲は直ぐに良くなった……というか、強引に面倒を見られ始めて  
仲を良させられた……というのが正しいか……  
母親も、大阪という新天地に目を白黒させていたから  
自分の子供を勝手に支えてくれる少女が現れた事は  
渡りに舟だったのだ。  
 
何より彼女の家業の饅頭屋『伊三郎』は、  
長く続く近所の老舗な店だったので、  
そこの一人娘と息子が仲良くなったという事は、  
割と新参者の近所付き合いをスムーズにさせてくれた。  
ただし、息子を饅頭屋の丁稚に差し出すという犠牲を伴ったが……。  
『哲はウチの子分なんやから、ウチの店を手伝うんは当然の事や!』  
本当に子供の頃の、ナツの傲慢な台詞を思い出す。  
そう、いつの間にか、哲郎は子分になっていた……。  
ナツと一緒に、饅頭屋の手伝いをしていた頃が脳裏に浮かんだ。  
ただ、少し引っ込み思案な所があった哲郎には、  
その時は、それでも良かったのかもしれない。  
少なくとも、奈津枝という近所の同年代における太陽の様な存在の  
『子分』になれたわけで、おかげで他の男子とも女子ともの和の中に入れた。  
その頃のナツは、間違いなく真夏日の太陽の様な存在だった。  
それはキャラクターというヤツだから、どうともできないモノだと思う。  
 
それから段々と月日を重ねた。  
小さな頃の幼なじみというヤツは、年を取る毎に  
男の子と女の子と分けられて、お互いの距離を生じさせるものなのだが  
流石に、家の正面3軒隣は、あまりに距離が近すぎた。  
その上、ナツに顎で使われ、店の手伝いをしていた日々なのだ。  
親父さんやナツのお袋さんにも気に入られて、  
付き合いが段々家族じみてきた。  
本当の家族の方も、長瀬家のおおらかな人柄に安心し、  
結局、息子が近所の饅頭屋の娘に振り回されるという現状を良しとした。  
奈津枝は矢幡家に好き放題出入りしたし、  
哲郎は奈津枝という中継を介さなくても、饅頭屋で働かされた。  
奈津枝の親父さんが、息子が欲しかったというのがあったから  
哲郎は体の良い代替えだったのだ…。  
いや……、その頃から代替えではなく、  
『本物』として仕立てようと言う計画も在ったようだが……  
 
そんなこんなで付き合いも長くなってくると、  
いつの間にか、小学校の凸凹コンビとして認知されるようになった。  
学校が、悪乗りしたのか、本当に偶然だったのか……  
クラスの振り分けでは、かなりの確率で同じクラスになった。  
ボケ役とツッコミ役のコントラストがハッキリしていたから、  
先生も楽しかったのだろう。  
「饅頭屋夫婦」と先生からも周りからも、  
よくよくからかわれたものだが、決まって奈津枝が返すのだ。  
「ちょっと先生、そこ訂正してやっ!  
 饅頭屋の綺麗なお嬢さんと、冴えない丁稚やで、ウチと哲の関係は!」  
「ちょっと待てっナツっ! 俺、丁稚かいなっ! それも冴えない…」  
「そうや、お前はウチの丁稚や…」  
「たいがいにせいやっ 俺は丁稚やあらへんっ  
 それにどの口で、自分を綺麗なお嬢さんと言うんや!?」  
「この口や〜」  
「自惚れもエエところやっ! ちょっとは表現慎みなさいっ」  
「ウチは真実を語っとるだけのつもりやが?」  
こういう「からかい」で、幼なじみという間柄は疎遠になるものだが  
やはり彼女のキャラクターだったのだろう。  
軽く流して、全部ボケ続けた。  
そして、何時の間にか哲郎も奈津枝のツッコミ役が板に付いてしまった。  
もし、その時間を交際時間とカウントして貰えるのなら……  
もうこの時点で2人は公認の間柄だったのだろう……。  
 
恋愛感情なんてヤツが、本当に2人の間に発生していたのか  
それさえ今となっては疑問が残るが……  
付き合いも6年となってくると、  
どこか居るだけで安心感を感じている間柄になってくる。  
多分、恋人なんて言葉をすっとばかして、もう家族になっていたのだろう。  
クリスマスと正月をどっちの家で迎えるかとか、そんな関係なのだから  
是非もない……。  
それでも、不思議に呼吸が合う2人だったから、  
会話も何もかもが、一緒にいるだけで安心できた……。  
それが………  
この今の状況では………  
「ふーん……、マンションに1人暮らしか? 哲……  
 なんか……学生の癖に生意気やなぁ………」  
奈津枝は哲郎の走馬燈の様な回想を割って、今の現実を指摘した。  
部屋をキョロキョロと見回し、色々と周りを見回しては訝しがる。  
「なぁ……、出流おじさんと、楓おばさん……どうしたん?  
 一緒に住んでるんやないの? …ここに?」  
奈津枝は、至極あたりまえの様に、その事を聞いてきた。  
その言葉に、哲郎の表情が急激に曇る。 反射的に哲郎は答えた。  
「2年前に交通事故でどっちも死んだよ……」  
哲郎は、ぶっきらぼうに返した。  
 

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