日曜日。
晴れ晴れとした笑顔、思い思いの衣装。
あちらこちらに風船が飛び、おいしいにおいが漂ってくる。
耳をふさぐほどの喧噪。
今日は、文化祭。
『貫殺天使リア』
15.文化祭/饗宴
――1年B組、朝
校内祭を終えた次の日、つまり今日。
文化祭の本番だ。
「リアちゃん、ケーキの確認!」
「もうできてる!」
昨日の時点で発覚した問題点を、今日は全てクリアしておかないといけない。
一般公開日。お客さんが来るのだ。
「牛乳は・・・・・・、うん、足りてる!」
「壁紙がやばい!? 隠せそんなの!」
わたしと津南くんは大忙し。ええと、これでチェックは・・・・・・。
「食材チーム、チェック終わり!」
「装飾もすぐ直せそうだ・・・・・・。はぁ、間に合った・・・・・・」
どうやら昨日の時点で壊れたものがいくつかあったらしい。るーあちゃんと津南くんがかけずり回っている。
「ところで右田さん、衣装はどうなの?」
「んふふふふ・・・・・・ばっちしよ!」
本番で汚れた服は見せられない、と昨日は制服参加だった。衣装担当右田さんと田島くん、なにやら自身ありげ。
「点検おわりぃ!」
津南くんが喜びの声を上げる。職務からの開放感は、わたしの知るところ。
『ぶぶぶっ、・・・・・・それでは開会式を始めます。生徒は制服で校庭に集まってください』
「放送入ったぞー。教室帰ってからも時間あるから、手ぇ止めて校庭いけー」
廊下から見回りの先生の声がする。
なんだか、うきうきした気分。
今日は、文化祭。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「リアちゃんの衣装は、これ」
「・・・・・・まじ?」
「まじ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
きーんこーんかーんこーん
文化祭開始の鐘が鳴る。
今日のチャイムは、最寄りバスの時間になるたび鳴らされるので、バスの第一陣が来たと言うことだ。
「ふぅ・・・・・・」
着こなしおっけー、ケーキも万全、牛乳もすぐ取り出せる。
今日のわたしはウェイトレス兼売り子さんなのだ。
教室の両端にケーキ棚と牛乳棚。それぞれ“たこ焼き”“やきそば”と書かれた屋台に冷蔵庫が隠されている。
・・・・・・どんな見た目だ。
外観、夏祭り。でるもの、ケーキと牛乳。そして衣装は・・・・・・。
『わいわい』
『がやがや』
『ドゥーウェーイ!たーのしー!』
お客さんが入ってきたみたいだ。笑顔、笑顔。
がらがらがら。
「いらっしゃいませ♪ “銀だら”へようこそ!」
なんかお寿司屋さんみたいな名前・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
午前10時頃。
くるよね。そりゃあくるよね。
『へいにーちゃん、1のBってここ?』
『そうですよ。どうぞ』
『ありがとうね』
ああ津南くん、教えなくていいのに・・・・・・。
「おっじゃま〜」
「・・・・・・“銀だら”へ、ようこそ」
アキラさんとメグミさん。来て下さいってお願いしたのはわたしだけど、今となっては・・・・・・!
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・なんですか」
わたしを全身舐め回すように見るふたり。先に限界が来たのはアキラさんだった。
「・・・・・・ぶふっ! な、なんだそれ! ね、ネコミミ・・・・・・ぶふっ!」
「わ、笑わないで下さい!」
「あら、私はかわいいと思うわよ・・・・・・ぷふ! やっぱりだめっ!」
「メグミさんまで! いいじゃないですか!」
ネコミミ、額の三角巾、白浴衣。
猫耳お岩さんらしい。
そんなバカな。
「ふ・・・・・・ふふふ・・・・・・っく」
「含み笑いしないでください!」
「ぶふー! ぶはははははは!」
「馬鹿笑いしないでください!」
そもそも金髪で和服ってのもどうなんだ。右田さんは似合うって言ってたけど・・・・・・。
「ふふ・・・・・・じゃ、じゃあおすすめのケーキをもらえる? ぷふっ」
「わ、わかりました・・・・・・」
くそう、あのときのアキラさんの気持ちがわかった。嫌すぎる。
とてとてと“たこ焼き”に向かう。(カナエの)おすすめは・・・・・・。
「あ、リアちゃん。友達だからって接客はちゃんとしなくちゃダメだよ?」
「わかってるよ・・・・・・」
「いや、台詞のほう」
「・・・・・・」
忘れてた。てか忘れててよかった。
「お、きたきた。ケーキに牛乳をお化けが運んでくるってのも・・・・・・」
「けっこうな壮観ね・・・・・・」
こと、とテーブルにトレイをおく。そして、決め台詞。
「ゆ・・・・・・ゆっくりしてってにゃん♪」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
死にたい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「Hallo, Filiya ! Wie geht es Ihnen ?」
「ach, vater !」
メグミさんたちが『他を見てくるわ』と出て行ってから30分後、お父さんがやってきた。顔を見るのは久し振りだ。
「はは、やっと休みがとれてね。かわいい服だね、YUKATAかい?」
「うん! そうだ、お父さんは今度はいつまでいられるの?」
「うーん、実は重要なProjektから少し逃げてきたところでね。明日には出なくちゃいけないんだ・・・・・・」
「Es ist Bedauern... そうだ、今日はご馳走させて! わたし、お料理うまくなったんだよ!」
帰ってくると知っていたから、仕込みも万全なのだ。
「それは楽しみだ!・・・・・・そうだ、カレンのことなんだが・・・・・・」
「・・・・・・」
カレン。たった2ヶ月前までいっしょに暮らしていた親友。
「ah... この話はやめにしよう。電話口でさんざん聞いたものな」
「・・・・・・うん。ごめんね、お父さん」
とんとん、と後ろから肩を叩かれる。津南くんだ。
「いっしょにお父さんと回っておいでよ。ここはそろそろ宣伝組が帰ってくるから」
「・・・・・・うん。ありがと。Sehr geehrter Vater, Genieben wir das Fest mit mir !」
「Nette idee !」
そうして、お父さんとお祭りへ繰り出していく・・・・・・。
――2年D組、“恐怖病院”
「ねーみさきー、さっきの××高の女子たち、でてきたー?」
「んー、出てきたんじゃない? だってけっこう人数はいたよー?」
――野外プール、水泳部女子更衣室
「葉月、鍵閉めて出てきてね? 午後の公演まで時間あるから」
「はいはーい♪」
――屋上
「はぁ・・・・・・。ここなら誰にも見つからないよね。文化祭なんてかったるいっつーの」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――2階廊下
「アキラ、そっちはどう?」
『問題ねえ。これから校庭の方いってみる』
「おねがい」
ケータイを切り、見回りを続ける。今ここに、魔力は感じられない。
文化祭。それは、人を集めると同時にデスパイアも集める。女が大量に押し寄せるのだから当然だ。
なぜかこの土地は、多くのデスパイアを呼び寄せる。そんな土地のお祭だ。2、3体のデスパイアがいて不思議じゃない。
「・・・・・・ここは、いなさそうね」
リアちゃんは、父親が来ると喜んで話していた。
あの娘は、私たちの捨てた日常をまだ持っている。
捨てさせたくは、ない。
だから、気づかれないよう、私たちだけで、やる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――真っ黒な空間
あれ、私なにしてたんだっけ。
そうだそうだ、お化け屋敷に入ったんだ。けっこうよくできてたなあ。
あれ? まだ出てないのかな? まっ暗じゃん。
・・・・・・。そう言えば幸と美香がいないや。どこいったんだろ。
「さちー、みかー? どこー?」
さちーみかーどこー・・・・・・さちーみかーどこー・・・・・・
!? なんで山びこみたいに私の声が響いてるの!?
怖い、怖いよ。なんか、いやだよ、ここ。
「幸! 美香ぁ! 返事してよ! どこにいるの!?」
そこら中を走り回って叫ぶ。けど、返ってくるのは山びこだけ。
それに・・・・・・。
「な、なんでここ・・・・・・、こんなに広いの!?」
おかしいよ。だって普通の教室の大きさじゃない。もう50メートルは走ったのに、どこにも行き着かない。
「はぁっ、はぁっ! やだよぅ・・・・・・おかあさん、お父さん、だれか助けて・・・・・・」
ついに足が震えだしてうずくまってしまう。
もう、だめ。動けないよ・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いつの間にか寝てたみたい。体が波に揺られている。
なぁんだ、夢だったんだ。
あ、あっちにいるのは幸かな? おーい、幸、私はこっちだよー。
あれあれ、どっかに行っちゃった。聞こえなかったのかな。
ん・・・・・・、身体が、むずむずする。何でだろ。
? 君、だれ?
誰でもいっか。
指、撫でてくれるんだ。優しいね。
胸はまだダメだよ。せっかちだなぁ、もう。
ん・・・・・・んちゅ・・・・・・。あは、キス、うまいんだね。ぞわぞわしちゃったよ。
ひゃっ! 足の指も舐めるの? 汚いよ・・・・・・。
ん・・・・・・んん・・・・・・。太ももを舐められるなんて、初めて。ちょっとくすぐったいね。
ぁ・・・・・・うん、ごめんね、胸小さくて。
ひゃん! かじっちゃ、やだよう。
あ・・・・・・うん。えへへ、乳首、たってきちゃった。
もう! 君が悪いんだよ? そんなに、優しくしてくれるから・・・・・・。
そこ・・・・・・、触るの? は、恥ずかしいなあ。
う・・・・・・、濡れてるのは私がエッチだからじゃないよ! 君のことが・・・・・・、その・・・・・・。
・・・・・・なんでもない。
ひゃぁん! ご、ごめん! 怒らないでよ! ちゃんと、ちゃんと言うから!
そ、その・・・・・・、君とエッチなことしてると思うと、なんだか私までエッチになってきちゃって・・・・・・。
そ、そうだよ! 私はエッチな女です!
言わせないでよ・・・・・・。
ん・・・・・・ぁ・・・・・・。やだ、いきなり舐めないでよ・・・・・・。
はぁ・・・・・・、そろそろ、ね?
・・・・・・入れて欲しいな・・・・・・。
あ、あぁ! そんな、いきなり! ひゃぁうん!
激しい、激しすぎるよ! だめだよ! あぁん!
あぅ、あぁあ! ひゃっ、んあぅ!
あっ、あぁん! やっ、だめ、今そこ撫でられたら・・・・・・!
っひゃあん! い、いっちゃったよう! ああ、あぁん!
あっ、あぁ! イクの? 君も、イクの?
いっしょに、いっしょにイこう! ね、いっしょに!
あっ、ああぁっ! なかに、お願い中に!
あっ、ああっ、ああぁっ!
あぁぁぁーーーー!!
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・、あは、私の中、君でいっぱいだね。
しあわせ、だよ・・・・・・。
――非常階段
「っせい!」
ばきぃん!
一太刀でデスパイアの体を切り捨てる。メグミの言ったとおり、本体は貧弱だった。
「まったく・・・・・・。ナイトメア・キューブなんて変なもの、どっから来たんだか・・・・・・」
「お、閉じこめられてた嬢ちゃんたち、出てきたぜ」
ナイトメア・キューブ。小型A級、ドッチボールに墨を塗りたくったような姿。
こいつの内側は異空間になっているらしく、攫った女の精神を中でむさぼり喰うらしい。
捕まったら最後、どんな天使でも逃げられない。
かわりにその本体は貧弱で、体を覆う障壁も脆く壊しやすい。
まぁ、見つからないよう気配隠蔽はしていたみたいだが、黒いボールが浮いてりゃ天使ならすぐ気づく。
「いち、に、さん・・・・・・8人もいる・・・・・・。これは、後処理が大変ね」
「とりあえず救急車8台かー」
『それでは、文化祭を終わりにしたいと思います!』
『『『ありがとーございましたー!!』』』
校庭の方から歓声が聞こえてきた。あぁ、終わったんだな・・・・・・。
「リアちゃんは、楽しめたかしらね?」
「どーだろな。でも、こんときのアタシたちよりかは楽しかったんじゃね?」
そうだったらいい。アタシたちみたく、ぴりぴりした行事なんてやってらんないもんな。
「そうね・・・・・・。ほらアキラ、早く救急車」
「おっといけね。えーっとぜろきゅーぜろ・・・・・・」
文化祭が、終わっていく。
夕日とともに、終わっていく。
彼女は楽しめただろうか。
楽しい日になっていたら、いいな。
文化祭/饗宴.end