財布にしまった恋愛成就のお守り。  
てのひらには勇気を握り。  
大丈夫、大丈夫と自分を励まし。  
壁の時計を何度もチェック。  
呼んだ時間まで、あと10分。  
プール脇の、更衣室。  
憧れのあの人への、一大決心。  
今日は、文化祭。  
 
 
『貫殺天使リア』  
16.文化祭/告白  
 
 
――第一校舎下駄箱  
「それじゃ、私は家に戻っているよ。終わったらまっすぐ家に帰るんだぞ?」  
「うん! まっててね、おとーさん!」  
手を振ってお父さんを見送る。時刻は昼の1時。  
お父さんはまだ仕事が残っているらしく、家でも書類と戦うらしい。  
「ほんとは、カレンといっしょに回りたかったのにな・・・・・・」  
ぽつり、とここにいない彼女を想う。いつかの日に、わたしの前から消えてしまった彼女。  
「カレン・・・・・・」  
いつも傍にいてくれた、いつも笑ってくれていた。  
わたしの大切な人。  
あれ? おかしいな・・・・・・。泣かないって決めたのに。強くなるって決めたのに。  
カレンのことを想うと――カレンの笑顔を思い出すと――  
前が、よく見えないよ。やだな、こんなに涙もろかったけ、わたし。  
「・・・・・・ひっく、・・・・・・ひっく・・・・・・」  
ねぇカレン。今、どこにいるの?  
答えてよ。  
わたし、つらいよ。  
 
 
――屋上への扉の前  
少年は考えていた。  
祭の喧噪から離れ、静かな場所での思案ごと。  
どうすれば、あの小さな天使に会えるのだろう。  
認識阻害の魔法のせいでうまく年を特定できなかった。  
少なくとも16以下な気がする。  
勘だが。  
あの、金色の髪、あどけない顔立ち。  
控えめな胸に、肉付きの薄い腰つき。さらされていた太股も白く輝かしかった。  
なにより、その瞳。青い双眸に秘められた強い意志。  
あれを、歪ませたい。屈辱に、快楽に。  
一目惚れ、だ。彼女にとってこれほど迷惑なこともないだろうが、彼は天使に惚れていた。  
出来ることならふたりでまた会いたい。そして、その身体を自分のものにしたい。  
会いたい。  
今すぐ会いたい。  
どうすれば会えるだろうか。  
「おびき寄せるとか・・・・・・?」  
呟いて、すぐにその考えを否定する。  
この町にはまだ天使はひとり以上いる。必要なのは彼女だけだ。  
それに、今ここでそんな行動をとれば文化祭自体中止になってしまう。  
それは、避けたい。  
これは自分たちが苦労して作り上げたものだし、けっこうな思い入れがある。  
それに、彼のクラスの少女。  
夏休みの間に、同居人が行方不明になったとか(まず確実にデスパイアだろう)で、かなり落ち込んでいた。  
その少女がこの頃楽しそうにしているのは、たぶん自分に割り当てられた仕事、それがあったからだ。  
きっと、文化祭を成功させる、といういい気持ちの逃げどころがあったのだろう。  
その少女のよりどころを壊す気にはならない。消えた同居人の話が上っている時の少女の顔は、いつも泣きそうな顔だ。  
正直、かわいそうだと思っている。  
「文化祭をダメにしないで・・・・・・、あの娘を呼ぶ方法・・・・・・」  
考えても、答えは出ない。  
「はぁーっ、どうしたもんかねぇ・・・・・・」  
少年はひとりぼやいて、考える。  
 
 
――屋上  
石井瑠美奈は、サボっていた。  
新しいクラスにうまくなじめず、2学期を迎えた。  
そんなクラスでの文化祭は、なにか入りづらく、そこにいても楽しくないものとなっていた。  
いたたまれなくなり、今。  
有り体に言えば、彼女は逃げ出していた。  
「楽しそうだなー・・・・・・」  
眼下には父親と思しき男性と手を繋いで歩いている少女がいる。周りの生徒たちも充実した笑顔だ。  
去年は自分もそこに含まれていたはずなのだが。前のクラスの友達たちは、それぞれのクラスの友達と楽しんでいるはず。  
ひとりでいるのを、友達に見られたくもない。  
屋上は、そんな意味でも逃げ場所に最適だった。  
「はぁ・・・・・・」  
ため息をついて、寝っ転がって空を見上げる。  
今日は、晴れ。  
 
 
――真っ黒な空間  
がちゃり。  
「!」  
きた、ついにこのときが。  
憧れの先輩。1年生の頃からずっとずっと、好きだった。  
こつり、こつりと床を鳴らして私の前に立つ先輩。今だ、言うんだ。  
「好きです! 私と! 私とつきあってください!」  
言った! ついに!  
どうかな、どうかな?  
「本当ですか・・・・・・? やった! やったぁ!」  
うれしい! 先輩、大好き!  
「あ・・・・・・、先輩・・・・・・ちゅっ」  
ファーストキスだ・・・・・・。先輩がその人でよかった・・・・・・。  
「ん・・・・・・、ちゅ、ちゅる・・・・・・」  
先輩の長い舌が私のに巻き付いてくる・・・・・・。キスって、こんなに気持ちいいんだ・・・・・・。  
「ちゅう・・・・・・ぷはぁっ、せ、先輩・・・・・・ぁ・・・・・・」  
後ろの先輩が私の胸を揉んでくる。Eもあるので、けっこう自慢の胸なのだ。  
「ん・・・・・・、ひぁ、んちゅ・・・・・・」  
いつの間にか着ていたスクール水着の中に手を入れて直接胸に触る先輩。  
それに、足下にいた先輩が私の足を舐めてきた。  
「ちゅ・・・・・・ん、ちゅる・・・・・・」  
前にいる先輩のキスはやっぱり甘くて、身体がとろけそう。  
くちゅ・・・・・・。  
「あ、せんぱぁ・・・・・・ひゃあん!」  
しっとりと濡れそぼってきていた私のソコに、先輩の舌が入り込む。  
くちゅくちゅ・・・・・・。  
「んぁ、ひゃっ、ちゅ、んん・・・・・・っ」  
舌が私をかき乱す。胸を攻めていた先輩は乳首に舌を絡ませている。  
キスをしている舌は相変わらず私の頭をぼんやりさせるし、もうここは天国みたいだ。  
「あ・・・・・・」  
私の横にいた先輩が私の手を先輩の股間にやる。添えた手の下で、それはうねうねと蠢いていた。  
いつの間にか私の中にいた先輩もぐねぐねとした触手になっていて、私の蜜を貪っていた。  
「あっ、んちゅっ、んあぁ!」  
ぐちゃぐちゃぐちゃ。私のソコが卑猥な音を立てる。  
キスをしていた先輩の肩から二本手が伸び、その小枝のような指で私の耳に進入する。  
「んっ、んちゅっ、ぷはぁっ、ひゃあん! せんぱい、せんぱぁい!」  
胸が握られたり縛られたりして様々に形を変える。お尻の穴に後ろの先輩の触手が出し入れされる。  
口も耳も、胸も手のひらも、お尻もアソコも、先輩のもの。  
「しぇんぱい、もうだめ、いく、いっちゃいますぅ!」  
限界が近づいてくる。先輩のモノも太くなった気がした。  
そして・・・・・・。  
「あ、あ、せんぱい! せんぱい! あ、あぁぁーーーーー!!」  
どくん! どくどくん!  
達しながら、部屋の壁の先輩から天井にいた先輩まで、周り全ての先輩の精液を受ける。もちろん、中にも。  
「ぁ・・・・・・ん・・・・・・ちゅっ」  
中の先輩がまた動き始める。あぁ、気持ちいい・・・・・・。  
今日は、最高の日だ。  
 
 
――屋上  
空は、晴れ。  
雲は所々にあって、ときたま太陽の邪魔をしている。  
あれから1時間。瑠美奈はただまんじりと空を見上げ続けていた。  
「そろそろ、かえろっかな・・・・・・」  
たしか自分の担当時間が近づいているはずだ。居心地の悪いクラスと言えど、協力しないわけにはいかない。  
すっ、と立ち上がる。床に大きな影が落ちている。  
「・・・・・・?」  
時刻はまだ1時。夕日の差す時間ではない。  
にもかかわらず、その影は貯水庫から大きく伸びている。  
「え・・・・・・?」  
何気なく見上げた貯水庫の上。  
人の倍ほどある羽を広げた、蝶々がいた。  
その蝶が、ふわりと宙に浮く。  
ふわりふわり。瑠美奈の目前に迫る。  
「・・・・・・」  
あまりの非現実さに声を失う瑠美奈。そこへ、ばっさばっさと蝶は羽ばたき始める。  
「・・・・・・? くしゅんっ」  
鱗粉が舞い、鼻孔をくすぐった粉がくしゃみを導く。  
くしゃみの反動で、頭が揺れる。  
いや、反動のせいではなかった。  
眠気。強烈な、眠気。  
「な、なに・・・・・・?」  
答える者はなく、ふらりとその場に倒れ込む少女。  
その体を、蝶は6つの足で抱え上げる――  
 
 
――第一校舎1階、階段裏  
『好きです! つきあってください!』  
『うん、僕からもお願い』  
・・・・・・おおう。校舎を彷徨ってたらすごい場面に出くわした・・・・・・。  
あれ、土御門さんだよね? 相手は柊くん?  
なんというか・・・・・・、うん、文化祭ってこんなイベントでもあるのか・・・・・・。  
・・・・・・わたし、ロマンスないなぁ。  
所詮はマスコット・・・・・・。  
え、うわ、ちょっと。いきなりそんなことすんの!? はやくない!?  
「あわわ・・・・・・」  
だだだだめだよ! キスは18歳からだってカレン言ってたのに!  
え、えらいところを見つけてしもうた・・・・・・。犯罪だ・・・・・・。  
うぅ、きまずいなぁ。てかなんでわたしこんなでばがめみたいなことしてるんだろ・・・・・・。  
クラスにかえろっと・・・・・・。  
・・・・・・ぞわ!  
「――!」  
微かだが、魔力を感じた。  
アキラさんたちはさすがに帰っただろう、わたしがやらなければ。  
目を閉じて、感覚をとぎすませる。  
場所は、屋上!  
 
 
――屋上  
瑠美奈を抱えた蝶が舞い上がることはなかった。  
後ろからの一撃。  
黒い爪による。  
「デスパイアが人助けってのもあれだけど・・・・・・、騒ぎは起こして欲しくないんだなー」  
放出する魔力を最低限に抑え、腕だけ変身した少年が、その一撃を食らわせていた。  
「ほいっと」  
鋭い爪の連撃で、蝶を粉々にする。一瞬だった。  
「おーおー、幸せそーに寝やがって。おこさねーぞ?」  
床に倒れ伏して寝息を立てる瑠美奈に、そう声をかける。騒ぎが起こらなければいい。  
「ん・・・・・・、だれか来たな」  
開けっ放しの扉の奥から、階段を駆け上がる軽い音がする。  
こんな場面見られるのはたまったものじゃない、と身を翻し隠れようとした、  
そのとき、  
「――!?」  
変わった。気配が変わった。  
彼のよく知る、彼の会いたがっていた天使のそれに。  
 
 
――屋上  
「たっ!」  
空け広げられていた扉をくぐり、屋上に出る。  
目の前には倒れている少女、そして――  
「待ってたぜ?」  
黒い、デスパイア。  
「あんた・・・・・・、その娘を放しなさい!」  
意味はないだろうが交渉を持ちかける。交渉材料は相手に向けた銃口だ。  
ここで戦闘は避けたい、下には人がたくさんいる。しかもこいつは戦闘タイプ。  
やりあえば、被害が大きすぎる。  
して、その相手の言葉は、  
「? いいけど? もともと俺が囲ってるわけじゃねぇし」  
とのこと。  
・・・・・・はぁ?  
「ずいぶん簡単に放すのね・・・・・・。なにか裏でもあるの?」  
「ないっ!」  
胸を張って言うな。前にも思ったけど、こいつ本当に戦闘タイプだろうか。  
いや、どのタイプでもあって欲しくない。  
「・・・・・・じゃあ、その娘から離れて」  
「へいへーい」  
とんっ、と一足で10メートル離れた場所まで移動するデスパイア。  
確かに、身のこなしはすごい。  
すぐさま少女に駆け寄り、容態を確認する。  
「大丈夫ですか!? ・・・・・・あれ? 寝てる、だけ?」  
おかしい。服の乱れどころか乱暴された痕さえ見られない。  
「いやぁその娘、ただ寝てるだけだから。俺なんもしてねーし」  
「・・・・・・」  
嘘だ。デスパイアがそんな状況を逃すはずはない。  
何を考えているのか読み取ろうとしていると、先に相手に会話を持ちかけられた。  
「なぁ、ところで頼みがあるんだが」  
「なによ」  
刺々しさ全開。どーせろくなもんじゃない。  
「いや、頼みっつーとなんか違うな・・・・・・。なんてーのかな・・・・・・。えーと・・・・・・」  
「・・・・・・」  
煮え切らないやつだなぁ。早くしろよ。こっちはさっきのでちょっと気が立ってんだよ。  
「よし! うん! 聞いてください!」  
「なに」  
 
わたしに出来る最大の冷たい声。冷ややかさ全開だ。  
「あなたが好きです!」  
「・・・・・・へ?」  
え? 今なんて言われた?  
「え、え、ちょっと待った。もっかい」  
「君がいれば他のどんな花もいらない・・・・・・、結婚しよう」  
「かえてんじゃねーよ!」  
いやいやいや、え、なにこいつ。告白? これって世に言う告白ってやつ?  
「えーと、それは愛の告白と取ってよろしいのでしょうか?」  
聞いてみた。  
「そう! ラブ! 世界を包む、それは僕から君への愛!」  
肯定された。  
しかもむかつく。  
「ねーよ! はぁ!? なんでお前突然!? いやいやいや、ねーよ!」  
「そういわずに! そこをなんとか!」  
土下座された。  
マジ土下座。デスパイアの土下座なんてここでしか見られないだろう。  
別に見たくなかった。  
「・・・・・・なんで、わたし?」  
聞いてみた。  
「一目惚れ」  
一目惚れだった。  
いや、そんな真摯な目で見られても困るんだけど・・・・・・。  
「君のことが好きなんだ! 本当に!」  
「そんなこと言われても・・・・・・」  
「君のそのきれいな髪も! きれいな瞳も! かわいい顔も!」  
う、うお。面と向かってそんなこと言われたの初めて。  
「その気の強い言葉も! つやつやした唇も!」  
な、なにこの感じ。ヤバイ。褒める攻撃ヤバイ。全然心動かないけど、めっちゃハズい。  
「ちっちゃめな胸も! ロリロリした体型も!」  
ちょっとまて。なんか一気に冷めたぞ。  
「スカートのしたに穿いてる全く似合ってないパンツも! 紫はまだ早いって!」  
「いつ見た!? お前いつ見た!?」  
アキラさんの悪ふざけで購入されたランジェリー。  
せっかくだから付けてみたのだ。  
紫に黒のドット、フチは黒のレース。  
ずいぶん冒険しました。  
「全部全部抱きしめたい! エッチして喘がせたい! お願いです! 俺とセックスしてください!」  
「あぁもう死ねよお前! ほんとに!」  
最後の台詞で台無し。いや、それ以前にもいろいろおかしいけど・・・・・・。  
 
「そ・・・・・・それは・・・・・・」  
顔を上げてこっちを見られる。こっちみんな。  
「了解ということで・・・・・・?」  
「なんなんだョお前! お断りだよ!」  
勢い余って変な発音になったじゃねーか!  
「・・・・・・マジ?」  
「マジ」  
すっごいショックを受けた顔をするデスパイア。人間味ありすぎ。  
「君以外襲わないよ?」  
「だめ」  
「人間を傷つけないって約束する」  
「だめ」  
「一生君を守るから!」  
「ぜったい、だめ」  
泣きそうな顔すんなよ・・・・・・。いや泣いてる、泣いてるよこれ。  
「う・・・・・・う・・・・・・」  
「う?」  
「うわぁーーーーーーーーん!」  
そう泣き叫びながら、そいつは走り去っていきました、まる。  
・・・・・・嫌な、作文だったね。まだ落ちが見つかってないんだろ?  
「・・・・・・あ、そうだ。被害者・・・・・・」  
少女に駆け寄る。一応保健室に・・・・・・、げ、先輩じゃん。  
 
 
ふと空を見上げる。青くて晴れ晴れとした空。  
校庭からは音楽と歓声が響いてくる。  
今日は、文化祭。  
 
 
 
 
 
 
 
 
てかわたしの初告白があれ!?  
「ん、んにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」  
人生最悪の日だ・・・・・・。  
 
 
 
 
文化祭/告白.end  
 
 

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