季節は冬。
人々の首にマフラーが巻かれ、冷たい風に身をすくませる。
道の猫は冬毛になってもこもことした体を丸め、降る雪は街を白く染める。
そこは、人里離れた山の中。
大きな犬が、ある方角を見ていた。
異常な、気配。
犬は走り出す。その危機を感じて。
母の危機を、感じて。
季節は、冬。
『貫殺天使リア』
17.雪降る街で
――日本海溝、海底
ごぷり。ごぷり。泡があふれた。
母は言った。まだその時ではないと。
ごぷり。ごぷり。
腹の子は答えた。もうその時だと。
ごぷり。ごぷり。
ずるり、と巨大なイカの背を引き裂いて白く長い触手が現れた。
ずるり。ずるり。
触手は中から這いずり出て行く。
ずず、ずるり。
腹の傷に、白く細い手がかかる。
「――育ててくれてありがとう」
母の命を食い尽くし生まれたその少年は、泡とともに海面を目指す。
ごぷり。ごぷり。まっぷたつに裂けた母の死骸が、泡に隠れた。
――学校の校庭
文化祭、体育祭、期末テストも終わり、終業式。
校長先生のお話中。
退屈です。
『この冬は高校生としての自覚を持って・・・・・・』
なんで校長先生って話長いんだろう。ふしぎ。
あー、早く終わってくんないかなー。寒いんだよなー・・・・・・。
『――生徒諸君の元気な笑顔を新学期に見ることを楽しみにしています』
あ、終わった。
『これで終業式を終わりにします』
ふぅ、やっと教室に戻れる・・・・・・。
『次に、表彰式です』
えー・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――1年B組、教室
「英語が3・・・・・・。ま、まぁいいほうだよね」
通知票、5段階評価。
3は普通だと思いたい。
「リ、リアちゃ〜ん・・・・・・、どうだったぁ・・・・・・?」
「カナエ・・・・・・。見たらわかるでしょ?」
おおっと、ここで仲間発見。さすがは友よ。
「まったく・・・・・・。勉強癖をつけないからだって・・・・・・」
「る、るーあ・・・・・・。手厳しいことで・・・・・・」
るーあは一学期でも5ばっかりだった。幼なじみのはずのるーあとカナエ、どこで差がついたんだろう?
慢心、環境の違い?
「あぅ〜、もう成績の話はいいよぅ・・・・・・。ね、ね、帰りにあのケーキ屋さんよっていこうよ!」
「アキラさんの?」
アキラさんが勤めているバイト先、ケーキ屋さん。
行くと嫌な顔するんだけどなぁ・・・・・・。けどすごい楽しそうだし、おごってくれるし・・・・・・。
「私は今日はパス。ごめんね。委員会があるの」
「う〜、じゃあリアちゃんは〜?」
どうしよっかな・・・・・・。
「んー・・・・・・、アキラさんの顔も見たいし・・・・・・、いこっかな」
「やったぁ!」
教室前でるーあと別れて、帰路につく。
そんなのんきにしている場合じゃ、なかったのに。
――同じ町、海岸
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶ
一匹の蜂が、砂浜を飛んでいる。
ドーベルマンほどもある大きさ。大火蜂。
富山に現れたデスパイア、その生き残りだった。
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶ
海岸線に沿って、飛ぶ。人間のメスを求めて。
生き残ったのはこのメス一体と、オス一体のみ。針を持たないオスは隠れている。
早急に、産卵をしなければいけなかった。
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶ
前方に、ひとりの少女が遊んでいる。貝を集めているのか、視線を下に向けて蜂に気づく様子がない。
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶ
後ろから近づく蜂。ようやくその羽音に気づいた少女だが、それは遅すぎた。
かち、かち、かち。とすん!
「ひぃっ、うあ!?」
針の毒で気を失う少女。12歳程度だろうか、その小柄な体を蜂は悠々と持ち上げた。
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶ
来た道を戻ろうと、蜂が体の向きを変える。
ずず、ざばぁ!
突然、海を割って人間が現れた。
ただの人間にしか見えない。しかし、その体に異常な程の魔力を認めた蜂は、少女を落とし人間に迫る。
かちかちかちかちかち!
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ
ひゅん、しゅぱん!
蜂がなにかに絡め取られる。白く、長い、まるでイカの触腕のような。
その触手は、人間の背中、肩胛骨の下から生えていた。
かちかちかちかちかち!
必死に威嚇行動を繰り返す。しかし、
「弱いなぁ。地上は、この程度なのかな?」
と人間が言うと、触手の先から尖った注射針のようなモノが突き出て、蜂の体に突き刺さる。
じゅるるるる!
かちかち・・・・・・
ぶぶぶぶ・・・・・・
蜂の、体液が吸われていく。
ひゅっ、ぱしゃん!
吸いかすとなった残骸を海に捨てると、人間は倒れた少女に目をやる。
ずるり、と2本目の触手が背中から生える。少女の身体に手をかける。
白い髪に、色白の肌。長身細身の10代半ばと見える人間。
人間型デスパイア。
小型、SS級。
最強のデスパイア、上陸。
――海岸沿いの道路、メグミの車
久々の休日。なにやら店長が終業式帰りの娘とご飯を食べに行く、というので今日は休業だった。
食べ物屋がそんなことでいいのだろうか・・・・・・。
そんなわけで、趣味のドライブ。県民性だろうか、土地が変わっても車に乗るのは飽きないものだ。
だれもいない道路を走る快感。その内北海道にいってみたいなぁ。キロ単位でまっすぐな道があるらしいし。
「ん・・・・・・、降ってきたわね・・・・・・」
ちらちらと白い固まりがフロントガラスにあたる。雪が降るというからバイクではなく車にしたが、当たりだったようだ。
「そろそろ戻ろうかしら・・・・・・」
この県に来て驚いたこと。雪がしんしんと降るのはほんの少しの時間だけということ。
初めて体験した雪国の雪は、それはもうひどかった。
もう吹雪。あれは雪じゃない。
しかもアキラとリアちゃんの雪国コンビは平然としてるし、うろたえてる私がバカみたいだった。
「う、もう吹雪いてきた・・・・・・」
速度を落とし、Uターンの準備をしようとしたとき、
それがわかった。
「な、なにこれ・・・・・・!?」
むちゃくちゃな量の魔力がある。たぶんここから100メートルも離れていない。
デスパイアだ――、しかもこの力、A級なんて軽く越しているはず!
車を止めて、ケータイを鞄から取り出す。
『prrrrrr...がちゃ! おーどした? まだバイト中なんだけどさー』
「今すぐ来てちょうだい。場所は海水浴場。わかるわね? 私ひとりじゃ無理なの」
『っデスパイアか! わかったすぐ行く!』
がちゃん、と電話が切られる。やはりあの娘は頭がいい。例え勉強が出来なくても、私の言いたいことをすぐ理解してくれた。
「あとはリアちゃんだけど・・・・・・」
『prrrrrrrrrrr...』
だめか。たぶん今は学校。とりあえずメールをいれておこう。
「アキラが繰るまで30分程、それまで待ってくれるわけが・・・・・・」
当然、なかった。魔力が市街地の方に向かっていくのがわかる。
「ふぅ・・・・・・。変身!」
水晶を輝かせ、私はデスパイアのもとへ走る――。
――ケーキ屋『Fragola e Crema』
ケータイの通話を切る。事態はメグミの声色からしてけっこう逼迫しているはずだ。
「店長、すいません。早引きさせてもらいます」
「え、どうしたの? そんなに真剣な顔して・・・・・・」
「ホントすいません! 埋め合わせは日曜に入れといてください!」
「ちょ、ちょっとアキラちゃん!?」
だっ、と店から駆け出す。雪が降ってきているから、乗り物は使えない。
「変身! はっ!」
家々の屋根を駆ける。早く、はやく!
『アキラちゃん! 荷物忘れてるわよ! ・・・・・・あら? もういない・・・・・・』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――海岸
「障壁全力展開、15枚!」
変身したのだ、相手もこちらに気づいているはず。ならば、はじめから全力で!
「! あれね!」
道路に出ている触手を黙視で確認。雪で視界が悪いけど、あれだけ大きければすぐわかる。
本体は――、に、人間!? 人間型!
「待ちなさい!」
ざっ、と敵の進路に立ちふさがる。背中から生えた触手に女の子が囚われている。あの様子から見ると、既に犯された後だ。
白い髪、青い瞳の少年。服は着ていない。
人間型。知能が高く、もっとも厄介だと言われている存在。
「ふぅん・・・・・・。君が天使かい? 思っていたよりずいぶん脆そうだね・・・・・・」
それがしゃべる。見下すような、人をただの餌としか思っていない眼。
こういう眼をした奴らは、ヤバイ。隠れる気なんて一切なく町に出て行くタイプだ。
テレビで見た3年前の京都の事件。あれも、そういった類のデスパイアだったのだろう。
またあの惨劇を作り出す気は、ない。
「その娘を放しなさい。今すぐ」
「気が短いね。女性はもっと貞淑にするべきだ。その身体に教えてあげるよ」
ぎゅる、と空いている触手が一本、放たれる。だが、
ぎぃん!
「!? 障壁か!」
15枚の障壁。それが私を守る。今まで誰にも進入を許したことのない魔法。これがあれば、絶対に負けない!
「あなたの攻撃は通じない! 観念しなさい!」
杖を構える。体全体に魔力を渡らせ、強化!
その姿を見たデスパイアが、突然笑い出した。
「ふっ、ふふ・・・・・・ふはははははは! その程度! その程度の壁で通じない、か!
君は僕の力を見くびっているようだね!」
ぞくっ、と背筋が冷える。いつの間にかソレの背からは新たに2本の触手が生まれていた。
しかも、前の2本と先端の形状が違う。イカの足、ではなく錫色の巨大な鏃がついている。
その鏃の先が、私を見据えた。
「その壁、ずいぶんとたくさん張っているようだけど・・・・・・。何枚耐えられるかな?」
ビュン!
ズドドドドド!
「な、うそ!?」
いちまい、にまい・・・・・・、一撃で11枚の障壁が貫通される!
私のわずか2メートル手前で動きを止めた触手。だが、残りの障壁も、
「ふぅん・・・・・・。あっけないものだな」
ズドン!と音を立ててもう1本の触手に貫かれる。
「あぅ!」
くそ、だめだ。体に張った障壁も破られた。
でも、逃げられない。ここで引けば町が襲われる。
「く・・・・・・うあぁ!」
障壁を張り直し、杖を振りかぶった私の体を、
「あがくのは、みっともないよ」
いとも簡単に障壁を突破した触手が、打ち据えた。
「う、くぁ・・・・・・。ここは、とおさな・・・・・・」
ビュン!
「あぅ!」
もう一度、触手で一打ちされ、
私の意識は闇に沈んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とすん!
「うぁ!?」
メグミのびくんとからだが跳ねて、意識を取り戻す。どのくらい落ちていた? 今の状況は?
状況は――最悪。両手足を触手で拘束され、デスパイアの目の前で掲げられている。
なにか刺されたようだ。何が刺された?
それは、考えるまでもない。
「くぅ、はなしなさい!」
「負けた者は、素直にすべきだよ」
にやにやと、あざ笑うかのように言うデスパイア。しかしメグミはそのデスパイアの手のひらにいる。
「う、うぅ・・・・・・」
「ああ効いてきたね。どうだい? それ、ただの媚薬じゃないんだ。ボク特製の、薬入りだよ」
「な、何を・・・・・・」
全身が熱い。ライダースーツの中が蒸れて気持ち悪い。
「はぁ、・・・・・・んっ、はぁッ・・・・・・」
頭がぼんやりしてくる。典型的な媚薬の特徴。何が違うというのか。
「どうちがうのか、って思っている顔だね。いいよ。教えてあげよう」
そう言って、メグミの体を砂浜に下ろす。逃げ出そうと思っても、体が痺れて動かない。
ヂー・・・・・・
デスパイアがスーツのチャックを下ろす。早々に裸体をさらしたメグミの白い肌は、赤く火照っていた。
「はぁ、ん、んん・・・・・・」
フルフルと震えるまつげ。それでも失われない闘志を瞳に燃やしてデスパイアを睨み付ける。
「いい眼だ。戦士の眼だね。それじゃあ、その瞳がどれほどで堕ちるか試してあげるよ」
「私は、あんたらなんかに屈しな・・・・・・うぁ!?」
ぱしん! と音を立てて触手の鞭が振るわれる。左肩に大きく赤腫れをつくる。
痛覚。それと同時に、
「ひ、え、なに・・・・・・?」
ぞわぞわとした感覚が、内ももから這い上がってくる。
ぱしん!
「ひゃぅ!」
D程の大きさの胸が、たゆんと揺れる。今度は背中だった。
ぱしん! ぱしん! ぱしん!
「あぅっ! ひっ! あぁ!」
立て続けに3発。腿、腹、胸に赤い筋が浮かび上がる。
「あ、あぁ・・・・・・」
今まで味あわされてきた、どんな快楽とも違う。打たれた一瞬の悦びと、なにもされない時間の寂寥感。
喉が渇く。瞳の奥がチカチカする。
「どうだい? 痛いのは、気持ちいいだろう?」
「だ、誰がそんな・・・・・・。きゃう!」
ぱしん! とまた腿を打たれる。再度打たれた瞬間、強烈な2種類の刺激が脳を巡る。
「正直に言ってご覧よ。どうせ君は負けたんだ。これ以上の恥なんてもうないだろう?」
「ふん、あんたなんかにきく口なんて・・・・・・、あぅ!」
ぱしん! 左手を打たれる。メグミの内もも辺りの砂には、染みが出来ている。
「そうかい。だったらここを打ってみよう。考えが変わるかもしれない」
「え、ちょっと、ソコは・・・・・・、あ、あぁん!」
ぱしん!! 一段と強く跳ねた鞭は、メグミの充分濡れたソコをとらえる。
軽い絶頂を味わい、ふらりと上体を揺らすメグミ。
さらに、背筋を反らし後ろに倒れそうになる身体を後ろから1発、
「あぁ!」
ぷるんと震えた双乳の頂を1発ずつ、
「ひぁん!」
最後にまだ白い肌を縦横無尽に、
「ひゃ! あぁ! も、もう・・・・・・、あぁぁん!」
身体中に赤い痕を残すように、打ち付ける。
ぷしゃぁぁぁぁぁ・・・・・・
「あ、あぁ・・・・・・」
感極まり、尿道から液を排出するメグミ。彼女は今までにない快楽に絶頂を覚えていた。
「う、うぁ・・・・・・。こ、この・・・・・・」
それでも戦いの意志を見せるメグミ。しかし、その身体は次なる快楽を求め熱くなるばかり。
「さ、お待ちかねだよ」
そう言ったデスパイアが見せたのは、股間にそびえる凶器。形こそ人間と同じだが、大きさが子供の腕ほどある。
「あ、ぁ・・・・・・」
太い、太すぎる。あんなのが入ったら――
すごく、痛そうで、すごく気持ちよさそうで――。
期待をその瞳に隠すメグミにデスパイアが覆い被さる。ねとりと銀光を返すソコへ、デスパイアのそれが進入していく。
「うぁ、うぁぁ・・・・・・」
「ふぅん、やっぱり処女じゃなかったか。なら」
言葉も発せぬ恍惚に身を奪われたメグミを、
「少しくらい手荒に扱っても、問題ないかな」
と言って激しく突き上げる。
「うっ! うぁっ、あぁ! んん!」
ピストンのたびに揺れる両胸。髪は乱れ、唇から女の声を紡ぎ出す。
「いぁ! あぁ! もっと、もっと痛いのぉ!」
「ふふ、やっと本心が聞けたよ。ほら、これでどうだ!」
ぱしん! ぱしん! ぱしん!
「あ、あぁん! ひゃぁ!」
打たれるたびぴくぴくと身体を痙攣させ頂を登るメグミ。彼女の瞳に星が舞う。
そして・・・・・・、
「さ、仕上げだ。ボクに全てさらけ出してしまえ」
デスパイアのモノがひときわ大きく引かれ、
「だ、だめぇ! あんっ、ひゃ、ぁ、あ、あ、あぁぁーーーーーー!!」
バシィィン!
一斉に放たれた鞭と突き入れられたデスパイアの象徴で、メグミは最大の絶頂を味わう。
どぷん、どぷどぷん!
「あっ、あぅ・・・・・・ごめん、アキラ、リアちゃん・・・・・・」
胎内に満ちる精液に小さな波を味わいながら、メグミの意識はもう一度闇へと誘われていく。
メグミの赤い肌を、雪が白く包む。
たっぷりと魔力を手に入れたデスパイアは、町への一歩を踏み出していった。
雪降る街で.end