種から芽が出て、葉を広げる。  
にょきにょき茎が伸びて、花が咲く。  
いつしか花はしおれ、そしてまた種を残す。  
ずっと昔からつづいている営み。  
形はすこし違うけれど、人間だってそうだ。  
お母さんのお腹で育って、産声を上げて。  
すくすく育って、恋人を作る。  
時間が経てばふたりは死ぬけど、新たな命が営みを絶やさない。  
人間も、植物も、動物も。  
みんな、同じ。  
みんなみんな、生きているんだ。  
みんな、同じなんだ。  
だからこれも、きっと正しい。  
 
『貫殺天使リア』  
3.母  
 
 
――公園の隅  
「あぅっ、はぁっ、あっ、あぁーーー!」  
獣の子種が子宮を打つ。もうなんどめか、どれほどの時間がたったのかもわからない。  
お尻どうしをつきあわせた格好で、わたしの秘裂と犬の肉棒は繋がっていた。  
お腹が重い。多分、子宮にたまっているんだ。  
「はぁ、はぁ・・・・・・っ」  
ようやく、ずるりと犬のそれが抜かれた。どろりと内ももに水気がしたたる。  
「ぁうっ」  
どしゃり。相手の肉棒で支えられていただけの腰が地に落ちる。  
「はっ、はっ・・・・・・」  
酸素が足りない。手足の痺れもとれないし、指先ひとつ満足に動かない。  
「ウルルル・・・・・・」  
わたしとの交わりを終えた獣は、どこかへ去っていった。  
あれ、なんだ。わたしとはそれだけだったんだね。  
にゅるる・・・・・・  
ずっと私たちの交尾を眺めていた花が動き出した。つたを身体に絡めてくる。  
「・・・・・・んっ」  
乳首を擦られて、すこし声が出た。あんなに乱れてたんだし、これくらいは許容範囲?  
幾本ものツタが身体を巻き、わたしは宙にさらされた。見せ物じゃあ、ないんだよ。  
ぐねぐね。肌のいたるところをまさぐってきた。やだな、恥ずかしいじゃん。  
やがて目標を見つけたのか、わたしの、まあ、平均よりはすこーし小さめの胸をまさぐる。  
さわさわ。さわさわ。  
「はぁ・・・・・・ふぅん・・・・・・」  
ぐねぐね。ぐねぐね。  
「あぅ・・・・・・やぁん・・・・・・」  
ぐにぐに。どしゅっ。  
「・・・・・・え?」  
痛い。なんで?  
桜色をした頂き。そこに、緑の棘が刺さっていた。  
「い・・・・・・〜〜〜〜〜〜ッッ」  
叫び声を上げようとした口腔にもツタが割り込む。  
同時に、無事だったもうかたほうにも棘が刺さる。  
痛い、なんてものじゃない。  
熱い。さっきまでのうだるような熱さじゃない。  
鋭くて、赤くて。  
 
いたい。いたいよ。  
「むぐっ、うむぅ!」  
何かが棘から入ってくる。麻酔じゃない。痛みが消えない。  
多分液状の、何かがわたしのおっぱいに吸い込まれると、今度は違う地獄が待っていた。  
傷口に硬い感触。  
花。ツタ。草。  
植物。デスパイア。繁殖。  
様々な知識が頭を駆けめぐる。  
そして、  
 
――もしかして、種?  
 
思い当たってしまった。わかってしまった。  
無理だよ、入らないよ。ソコは入れるところじゃないよ。  
「んん! んー!」  
必死に頭を振る。けれど。  
「んぎぃ!?」  
通った。確かに通った。  
痛いからわかる。痛みで理解する。  
種がおっぱいに居座る。違和感。気持ち悪い。  
なにかしてる。なにこれ? いやだよ。  
きもちわるい。きもちわるい。  
さっきまでのしあわせはどこにいいたの?  
 
なんだか、へんなきぶん。  
 
 
――乳房は昔から母性の象徴とされてきた。  
育み養う、生の象徴。  
出産と養育の重要なメタファーであり、腹部、臀部、性器と並ぶ女性の象徴である。  
母乳を与える姿は誰であれそこに愛情と生命を感じるであろう。  
また、母乳を与えるというのは(ごく短い期間の母乳に限るが)まだ生まれて間もない子に免疫を付与する意味もある。  
そして、このデスパイアはその乳房に種子を打ち込んだ。  
太さ1mmに満たない小さな種子。  
当然、ただの種子ではない。  
「むぅん・・・・・・んん!?」  
与えられた体温で急速に発芽、先に注入された栄養液でその実を育てる。  
ここからは、母胎の魔力を使いその母胎に根を張る。  
「んーーーー!?」  
深く、深く。けして離れぬよう、子が母にしがみつくように。  
固定が終われば、最後の仕事。  
人体の、改造。  
「〜〜〜〜〜〜!?」  
何か変わったわけでもない。  
乳頭の痛みも治まったわけでもない。  
けれど、リアは自分自身が何か、どこか違っていくのを感じていた。  
その信号は種子から根を通り、  
その根に絡め取られ一体化した神経を通過し、  
脳を、侵す。  
徹底的に。容赦なく。  
変える。加える。書き換える。  
そうなるべきだと。こうなることがよいのだと。  
そして脳はその侵略を受け入れる。  
変える。加える。書き換える。  
遺伝子はヒト。けれど彼女の全ては変えられていく。  
まずは乳房。まだ乳腺も通っていない。  
しかしそれも時間の問題。  
一日もすればリアの胸からは高純度で高密度の魔力を含んだ、  
魔法への免疫を付加する母乳がとれることだろう。  
そして卵巣。  
快感をトリガーに、その卵子を放つよう。  
最後に子宮。いまは、犬の精液でいっぱいの。  
より魔力を包み、デスパイアの子を育む揺りかごに。  
その浸食は始まったばかり。  
けれど、リアの身体は着実に最良の母へと変わっていく――。  
 
 
――隣町の駅舎裏  
「いやぁぁぁぁああ!」  
深夜、路地裏。  
残業でもあったのか? 若いOL風の女性が巨大なトカゲに組み敷かれていた。  
いや、それはトカゲだろうか。後ろ足は太く大きく、獣毛に覆われている。  
リザードマン。そう言えばよいか。  
そのリザードマンの体は、ひどく傷ついていた。  
切り傷、切り傷、切り傷。体中に傷を負っている。  
「お、おとなしく・・・・・・しろぉ!」  
ひどく焦った様子で、女性の服を暴く。  
焦る理由はひとつ、彼は追われていた。  
東北で多くの女を襲い、力をつけた。  
元は弱く、下級程度の力しかなかった彼が、知能を得るにまで。  
調子に乗ったのが、いけなかった。  
初の天使との邂逅。初の敗北。  
逃走。南へ。  
街ひとつに常駐する天使ではなかったのか。その天使は追ってきた。  
逃げて、逃げて。気温が変わるほど逃げて。  
逃げた先で女を犯しては、また逃げて。  
それでも。  
「みっっつけたぁぁ!」  
上か。反応が遅れる。新たな傷。  
「スラァァァァッシュ!」  
太刀を浴びる。逃走。逃げ足には自信がある。  
「ちぃっ、また逃げるか!」  
追ってくる。死にたくない。生き延びたい。  
傷が深い。危険だ。  
撒いたか、しかしこのままではいずれ見つかる。  
どうすれば――  
 
 
――深夜の公園  
つい30分ほど前、犬と繋がっていたソコは、今はツタが入り込んでいた。  
「あ・・・・・・んぁ・・・・・・」  
再びの快楽に、リアの目に熱が戻る。  
膣を進み子宮口にたどり着いた輸卵管は、神聖のドアをのっくする。  
「ひぁっ・・・・・・ん・・・・・・」  
ゆっくりとじっくりと、撫でるように愛するように動くツタに、リアの膣は悦びを示す。  
ツタの先が割れ、細く、細い糸のような繊維が入り口から中へと侵入する。  
一本、二本、三本。すこしばかりの時間をかけ、実に七本の繊維が子宮に到達する。  
自らの傀儡の白濁液。命のスープのごとく充ち満ちた魔力。  
最高の環境だ。これこそ求めていたメスだ。  
管から種子を運ぶ。先ほどの改造用ではない、まごう事なき自らの遺伝子。  
まずひとつ。グリュン!  
「ひぁぅ!」  
3cmほどの種が愛に包まれる。  
そして、受精。  
改造を受けた犬の遺伝子、それと天使の魔力。  
デスパイアと天使、ふたつの命が出会い、ここに新たな命が生まれた。  
植物と動物、ヒトとデスパイア。その営みが交わる。  
「あれ・・・・・・え・・・・・・やだ、やだ」  
恐怖。  
ふたつめ。受精。  
「やだよ。デスパイアの赤ちゃんなんて産みたくないよぉ!」  
恐怖、未知と既知と、それから根元的な、恐怖。  
みっつめ。グリュン!  
「はぁん! ぁ・・・・・・いや! いやぁぁぁぁぁ!」  
身体は快楽を肯定する。身体は母となることを肯定する。  
よっつめ。受精。  
「あぁ・・・・・・あかちゃんやだぁ・・・・・・ダメ・・・・・・」  
身体が震える。恐怖。期待。喜び。恐怖。  
いつつめ。全て、受精。  
「ぁ・・・・・・ぇ・・・・・・」  
総じていつつ。リアの身体は脳へ妊娠を告げる。  
絶望。絶望。絶望。  
母の揺りかごに包まれ、五つの命は育まれる。  
生まれるデスパイアの母は、フィリア・グローデン。  
 
 
――隣町の街角  
平凡な少年だった。体育の成績も並み程度、勉強も上の下。  
部活なんてやってない、それくらいなら勉強するか遊ぶかだ。  
そんな少年。  
彼の日課。深夜徘徊。そこだけは人とすこし違う。  
別に、何か悩みがあるわけではない。悪い仲間と遊ぶわけでもない。  
ただ誰もいない街を楽しんでいた。  
今日は違った。  
誰もいない街じゃなかった。化け物がいた。  
デスパイア。うわさは聞いたことがある。  
それが目の前にいた。  
ずいぶんボロボロ、息も絶え絶えのようだ。  
相手も少年に気づく。化け物が走り出す。  
こっちに来る。あれ、死ぬかな?  
 
少年の表情は、なぜか笑っていた。  
 
 
――深夜の公園  
あれから3回目のお月様。  
不思議なことに、この三日間、誰としてこの公園に近づきさえしなかった。  
どぷん、どぷん。こくっ、こくっ。  
朝と夜、口に差し込まれたツタから栄養液らしきものを送り込まれる。  
はじめは拒絶していたが、もう慣れた。  
ぴくっ。  
感じる。蹴られた。お腹の中で、動いている。  
「んん・・・・・・いやぁ」  
わたしのお腹は膨らんでいた。まるで妊婦のように。まさに妊婦のように。  
胸も明らかに成長していた。もう、Cはあるよ。  
今日の昼から、蹴られる回数が増えてる気がする。  
 
そろそろかもしれない。  
 
どん! どん!  
突然強く蹴られる。痛い。お腹が痛い。  
「ぃひぎぃ!?」  
違う。蹴ってるんじゃない。出ようとしてるんだ。  
わたしの様子を感じ取ったのか、ツタが身体を固定する。  
背中を地面につけ、足を大きく広げさせられた。  
「やだ、やだ・・・・・・産みたくないよう、やだよう・・・・・・」  
ぐにっ。細めのツタが、わたしの中に入ってくる。  
痛い。お腹が痛い。  
ぐにぐにと、外へ。ぐねぐねと、中へ。  
どうやら子供をアシストする気らしい。中で何かされている。  
「うぅ・・・・・・あっ・・・・・・いぃ!?」  
ぐい、と引っ張られる感覚。  
いたい。いたいよ。  
「うぁぁ・・・・・・いぁ・・・・・・」  
もうおまたのところまで来ている。そして。  
ずぷっ。出た。出てしまった。生まれた。産んでしまった  
「ゥゥ・・・・・・ゥりゅりゅりゅりゅりゅァ!」  
産声。姿は見えないけど、人じゃない。  
ビクン!  
また痛み。そうか、まだいるんだ。  
もう一度ツタがわたしの中へ入っていく。  
あと四匹。耐えられるかな、わたし。  
 
 
――隣町、少年の家  
ザァァァァァァ・・・・・・  
少年はシャワーを浴びていた。  
黒い水がしたたり落ちる。  
今までにない気分だ。ひどく高揚している。  
手を開く、握る。手を開く、握る。手を開く、変化する。  
黒い掌。巨大な爪。怪物。  
手を元に戻すと、バスルームから出る。  
また、笑っていた。  
 
 
――深夜の公園  
「っはぁう!」  
五匹目。最後の子を産み終える。  
「ぅりゅりゅりゅりゅりゅぁぁ!」  
よかった。元気な子だ。  
3匹目のあかちゃんは、まだ産声を聞いてない。  
ダメだったのかな、お母さんのせいかな。  
ぞくり、とした。  
当たり前のように子供だと思っていた。  
当たり前のように母親になっていた。  
身も、心も、デスパイアに侵されてる?  
のそり。誰かが胸にのしかかってくる。  
ちいさな、ちいさな。生まれたばかりの子猫より小さなその体。  
犬の体つきに、背中にちょこんとツタが二本、生えている。  
フルフルと震えながら、わたしのおっぱいに吸い付く。  
ちゅう、ちゅう、ちゅう。  
ああ、ちゃんと吸えている。  
ちゅう、ちゅう、ちゅう。  
なんて――なんてかわいい。  
「・・・・・・ダニエラ」  
わたしはその子に、そう名付けた。  
のそり。もう一匹。  
もう片方のおっぱいに吸い付く。  
「フリーダ」  
次の子がが上ってきた。  
「ダニエラ、ギゼラに譲ってあげて」  
妖花のツタがダニエラを持ち上げる。名残惜しそうに、  
「ウリュゥ」  
と鳴いた。ごめんね、お母さんのおっぱいふたつしかなくて。  
ギゼラと名付けた子がおっぱいを吸い始めると、最後の子が上ってきた。  
ツタがフリーダをどかすと、その顔が見える。  
「あなたは、ヨハンナ」  
元気よくおっぱいを吸い始める。かわいい子。  
 
種から芽が出て、葉を広げる。  
にょきにょき茎が伸びて、花が咲く。  
いつしか花はしおれ、そしてまた種を残す。  
ずっと昔からつづいている営み。  
形はすこし違うけれど、人間だってそうだ。  
お母さんのお腹で育って、産声を上げて。  
すくすく育って、恋人を作る。  
時間が経てばふたりは死ぬけど、新たな命が営みを絶やさない。  
人間も、植物も、動物も。  
みんな、同じ。  
みんなみんな、生きているんだ。  
みんな、同じなんだ。  
だからこれも、きっと正しい。  
 
 
母.end  
 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!