がたんごとん。列車は線路をなぞっていく。  
あの場所へ、あの娘のもとへ。  
わたしの隣には、ふたりの天使。  
これからも続く、戦いに臨む。  
 
 
『貫殺天使リア』  
27/苦.そして  
 
 
――早朝、グローデン家門前  
朝靄の中、荷物を持って外に出たら、メグミさんとアキラさんがいた。  
「おかえり、どこに行くの?」  
「・・・・・・ちょっと、そこまで」  
憮然とした面持ちで、アキラさんに問いかけられる。  
「カレンちゃん、見つけたんだろ? 昨日のパトロールの時点で様子がおかしかったぜ」  
「・・・・・・これは、わたしの問題です。メグミさん達には迷惑かけられません」  
いつも通りにしてたはずが、すぐに見破られてたみたい。そんなにおかしかったかな。  
「リアちゃん、私たちはあなたに言わなければならないことがあるの」  
「・・・・・・? なんです?」  
「アタシたちは1週間・・・・・・、5日後、この町を出る。たぶん、戻ってこない」  
「!!」  
そんな、きいてないよ。  
「ごめんなさい。これは、昨日決まったことなの。夜には言うべきだったわね・・・・・・」  
「5日後にはアタシたちはもう会えないんだ。だから、さ」  
「迷惑なんて、言わないで。最後なんだから、もっと甘えて欲しいの」  
「・・・・・・」  
いいのかな、いいのかな。  
アキラさんの差しのべた手を、わたしは受け取った――。  
 
 
――現在、温泉街  
「ふーん、ここかぁ。なんつーか、セントチヒロ?」  
「おーるうぇいずって気もしますけど」  
わたしは再び、この土地に足を下ろしていた。  
今度は、天使の立場で。  
「そーいや、宿とかどーすんだ? 荷物置かなきゃだめじゃね?」  
「あっ・・・・・・」  
しまった、ここに来ることばかり考えてて、宿なんてとるの忘れてた。  
「それなら、私が新幹線の中で電話を入れておいたわ。安いところだけど、いいでしょ?」  
「ありがとうございます・・・・・・」  
「さっすがメグミぃ! アタシたちにできないことを平然とやってくれる! そこに痺れる、憧れるぅ!」  
「いや、あなたは大人なんだからできるようになりなさいよ・・・・・・」  
というか岩手から新潟まで、アキラさんは寝るところをどうしてたんだろう。  
お金も大して持っていなかったようだし。  
・・・・・・段ボール?  
「なんか、失礼なこと考えてねーか?」  
「い、いえいえ。段ボールじゃ寒かったろうなーと・・・・・・」  
「段ボールぅ?」  
よけいなことを、わたしめ。  
「なにはしゃいでるのよ。ついたわよ、旅館」  
「あ、はーい」  
「へいへーい。・・・・・・ここ?」  
目の前にそびえ立つのは、今にも崩れそうな2階建て家屋。屋号がかすれて見えない・・・・・・。  
「そ。ひとり1泊2000円。食事、お風呂なし」  
それは温泉旅館であることを放棄してるんじゃないだろうか。  
「荷物をおいたら、捜索を始めるわよ」  
「「はーい」」  
・・・・・・うわ、中きたなっ。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
――ボロ旅館「久地葉手荘」  
「リアちゃん、アキラ。こういう場合の捜索の仕方を教えてあげるわ」  
「捜索の仕方、ですか? 普通に探しちゃだめなんですか?」  
「いんや、住処の“アタリ”がついてるならそれでいいんだが、見当がついてないんだったら普通には探せないんだ。  
 『ここいら辺にいる』って情報しかない今、ウルフの巣を見つけるのは不可能だ。四方が山ばっかだしな。  
 巣となり得る場所はそれこそいくらでもある。で、メグミ。自信ありげだけど、どーやって探すの?」  
「まずは、土地の確認ね」  
ばさっ、と大きな地図を広げる。るるぶについてきたものだ。  
きゅきゅっとペンを鳴らして現在地に赤丸をつける。  
こうして見ると、周りが本当に山ばかりで、ここから巣を見つけるなんて荒唐無稽に思える。  
「ふむ・・・・・・。全部の山に観光地があるのね。好都合だわ。リアちゃん、1階に降りるわよ」  
地図を閉じて部屋を出るメグミさん。まさか地道な草の根作業をするのだろうか。  
階段を下りて、メグミさんに追いつく。あれ、女将さんの部屋に向かってる?  
「相手がヒュプノスウルフだからできる裏技、見せてあげる」  
ちょっとお茶目な表情をして、がらりと障子を開ける。女将さんが畳の上で転がっていた。  
おせんべぼりぼり。昼メロどろどろ。  
「ちょっといいですか? ここいら辺の観光で聞きたいことがあるんですけど」  
「んー? なんじゃ?」  
「この地図に出てる山の特徴、教えて頂けませんか?」  
「どれどれ、そうじゃの、この山は・・・・・・」  
ひとつずつ指さして観光名所だの秘湯だの伝承だのを教えてくれる女将さん。  
10分くらいかけて、全部の山の特徴を聞き終えた。  
「ありがとうございます。これから少し観光してきますね」  
「おうおう、門限には帰ってくるんじゃぞー」  
障子を閉めて、部屋を後にする。また2階のわたしたちの部屋へ。  
「リアちゃん、“アタリ”はついたわよ」  
「え!? えと、どうやったんですか!?」  
ただ山の見所を聞いていただけに思えるけど・・・・・・。  
「ヒュプノスウルフはヒトが巣の近くを意識しないように催眠魔法をかけるの。  
 ほら、慣れた道を歩いていても、『そういえばこんな建物あったな』ってことない?  
 そういう“意識のデッドスペース”ともいえるものを応用した魔法ね。早い話が結界よ。  
 で、この裏技」  
ばさ、と地図を広げる。階段だから狭い・・・・・・。  
「ここに住んでいる人に、自分から土地の説明をしてもらう。忘れられている場所、意識されなかった場所に巣があるわ」  
ぴ、と一点を示す。女将さんの字が書き込まれた図面の中、奇妙にそこだけ地の色が残っていた。  
「ここに、やつらがいる」  
廊下の窓から顔を出す。  
あの、山に、いる。  
まってて、カレン。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
――夜、山中  
ウルフが巣を作っているであろうポイントに、わたしたちはいる。  
正確な場所はわからないけど、だいたい山の中腹くらいだろうとの見当。  
変身せずに、わたしとメグミさんだけでお喋り中。  
デスパイアがいるかもしれない場所で、何とも暢気なことである。  
もちろん、狙いがある。  
「そしたらですね、カナエったら・・・・・・」  
「あらあら・・・・・・」  
がざ、と藪から音。目配せ。まだ行動は起こさない。  
「でですねー・・・・・・」  
「え、そんなことするの?」  
がさがさ、音が近づいてくる。目配せ。まだ動かない。  
「なんて言ったと思います? 『近藤さん?』って言ったんですよ!?」  
「まあまあ――」  
「ガルルルルルルルル!」  
――来た!  
「アキラさん!」  
「言われんでも!」  
ばっと木の後ろに隠れていたアキラさんがウルフに飛びかかる。瞬時に変身を終え、刀を振りかぶる。  
「たぁぁぁぁ!」  
「ガルゥ!?」  
突然の天使の登場に慌てふためくウルフ。体も小さく、群れでも下の部類だろう。  
背中に一太刀を浴び、ほうほうの体で逃げ出すウルフ。それに対して、追撃はしない。  
ある程度の距離を保ったまま、追跡をする。常套手段、巣に連れて行ってもらう、だ。  
坂を上り坂を下り、ウルフはそこへ逃げ込む。  
「・・・・・・民家?」  
そこは、小さな民家だった。  
2階建て、屋根が一部崩れている。手入れをされず好き放題に伸びた防風林がその半身を隠している。  
場違いに、“トトロの家の10年後”という感想を抱いた。  
「メグミさん、どうします? このまま突入しましょうか?」  
「そうね・・・・・・、アキラ、裏口の見張りと殲滅を頼めるかしら?」  
「オウ、任しとけ」  
そう言って生け垣をまわっていくアキラさん。残ったのは、門の前に立つメグミさんとわたし。  
「大障壁、半径20メートル」  
メグミさんが呟くと、メグミさんを中心とした球状の障壁ができあがる。身を守るものではなく、敵を閉じこめるもの。  
壁がすっぽりと家を覆うと、メグミさんは宣言する。  
「それじゃあ――正面突破ね」  
がやがやと慌てふためくその巣に、わたしたちは足を踏み入れた――。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
「障壁反転、6から4!」  
「<サーディン>!!」  
氷の割れる音と魚の衝突音が狼の悲鳴をかき消していく。  
古民家は武家屋敷に似ていて、廊下と和室、それぞれの部屋のしきりがほとんどない。敵を見つけるのは簡単だ。  
1階をあらかた探しても、カレンどころか被害者の女性ひとりも見つからない。と、いうことは。  
「2階にいますね。集められているんでしょうか」  
「そうね。それじゃ、階段を探しましょう」  
メグミさんに寄り添い探索をする。多重障壁の中は、いちばん安全だ。  
階段を見つけるため歩を進める。  
背後から視線――  
      ――カレン――  
           ――いた、いた、いた!  
「カレン!!」  
「っリアちゃん!?」  
駆け出す。  
走る。  
頭の中は空っぽ。  
「っうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  
やっと、見つけた。  
カレンが背を向けて走り出す。どうして逃げるの? 待って、待ってよ。  
追いすがる。走る。走る。階段を上る。  
上りきったその先で、カレンはこちらを向いて立っていた。  
両手に、小太刀を構えて。  
「カレン!!」  
やっと見つけたその姿。カレンが、笑う。  
わたしの知らない、媚びた笑顔で。  
「久し振り、リアちゃん。元気だった・・・・・・、みたいだね。こんなとこまでどうしたの?」  
「・・・・・・カレン、帰ろう。家に、帰ろう。みんな、みんな待ってるよ」  
カレンは、答える。ごめんねと言うように、申し訳なさそうに。  
「だめだよ。あそこは、私のいる場所じゃない。わかったの。私のいるべき場所は――」  
両脇の襖が破れて、ウルフが飛び出してくる。カレンが、飛びかかってくる。  
「――ここだ、って」  
「っくあぁぁぁぁぁっ!?」  
向かい来る爪を牙を銃弾が射止める。その刹那の時間に接近してきた小太刀を、銃身で受け止める。  
「カレン、なんで!?」  
「私ね、ご主人様に教えてもらったんだ。私の生きてきた意味、私の生きる意味」  
二本の短刀が交互に走る。カレンの戦闘スタイルは接近戦、肉体強化の下手なわたしではついていけない!  
一閃、二閃、わたしの腕に赤い線が増えていく。捌ききれない攻撃がわたしを容赦なく痛めつける。  
「く、あぅっ!?」  
「そう、ご主人様につくすこと。一生、一生尽くすこと。それが私の生きる意味、私の存在する価値!」  
ばしん、とカレンの一撃ではじき飛ばされる。背中を打つ。  
足も、手も。そこかしこに切り傷が浮かび上がる。なんで、なんでカレンがわたしに?  
 
「そうだ、リアちゃん。これ、すぐに言わなきゃいけなかったよね」  
カレンがそのお腹に手を当てる。あのときから少し膨らんで見えるお腹に。  
膨らんだ、お腹?  
それは、つまり。  
「私、ご主人様の子供を授かったの」  
「・・・・・・え・・・・・・」  
時が止まる。わからない。なんで、なんでそんなに嬉しそうなの? なんでそんなに幸せそうなの?  
いつの間にかわたしに歩み寄ってきたカレンが、わたしの体を抱きしめる。包むように、慈しむように。  
「私、幸せだよ。今、とても幸せ。この幸せを、リアちゃんにも味わって欲しいの」  
カレンの肩越しに、ウルフの姿が見える。今まで倒したウルフよりもひときわ大きく、粘ついた視線をわたしたちに注いでいる。  
ぎゅっと抱きすくめられたわたしの腕は、だらしなく床に落ちる。あれ、わたしってカレンを助けに来たんじゃないの?  
なんで、そのカレンはこんなに幸せそうなの?  
わからない。わからないよ。  
廊下の奥からウルフが悠々と歩み寄ってくる。わたしはそれを、どこか遠くから見ている気がした。  
「大丈夫、大丈夫だよリアちゃん。ご主人様が、リアちゃんも幸せにしてくれるから」  
黒灰色の毛皮が目前にある。高くそそり立つ牡の象徴に、目を奪われる。  
「リアちゃん、ね、いっしょに・・・・・・」  
カレンに導かれ、肉棒に唇を寄せる。強い悪臭に、脳が灼ける。  
夢のような幻のようなその感覚の底で、懐かしい声を聞いた。  
――『傷つけられる人たちを、守りたい、助けたい、あんな思いをする人は増やしたくない。  
   お願い、私を、私を天使にして』――  
傍らにいる友の、かつての声。  
――『天使の仕事は、誰かを守ること。誰かが苦しんでいるのなら、助けなければならない。  
   どうか、諦めないで。あなたなら、きっと大丈夫』――  
わたしを導き、助けてくれた彼女。  
――『もっと胸張れ、胸! リアちゃんはできる子だ!  
   いつかカレンちゃんも、助けてやれるさ!』――  
ともに戦い、勇気をくれたあの人。  
そして、  
――『フィリア、あなたは優しい子です。あなたの笑顔は、みんなを幸せにしてくれます。  
   忘れないで。本当の幸せは、デスパイアから与えられるものではないことを。  
   人は、人と生きることに幸せがあるということを。  
   人を、家族を、友達を、あなたの手で、守ってあげてください』――  
そして、お母さん。  
そうだ、これは、今感じるこれは、カレンの感じているこれは――  
「カレン、今、幸せ?」  
「? 幸せだよ? ほら、早くご主人様にご奉仕しよう?」  
――偽物、だ。  
ぱん!  
乾いた銃声が虚しく響く。静かに硝煙を噴く銃口は、真上を向いていた。  
「・・・・・・ぁ?」  
遅れて、ぼたぼたと生暖かい赤色が流れ落ちてくる。頭上を見やれば、獣の顎からその滴りが流れてくるのが確認できた。  
ふらふら、ばたり。  
あっけなく、あまりにあっけなくそれは命を終える。  
呆然としたカレン。でも、これで洗脳はとけたはず。  
やっと、いっしょに帰れるね、カレン。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
「ご、ご、ご主人様ぁ!? あっ、いった・・・・・・!?」  
頭を抱え出すカレン。なにかが切れたように、まやかしがとけたように。  
「い、いた、なにこれ、違う、私は、あぁ、ちがう、ちがう!」  
じたばたとのたうち回る。涙を流して、嗚咽を漏らして。  
「デスパイア、てきっ、ちがう、ごしゅじんさま、いやぁ! ちがう! あれは、てき!?   
 きもちわるい、きもちわるい、きもちわるい!」  
「カレン・・・・・・」  
耳をふさぐ。目を閉じる。  
真実から。  
自分を、守るために。  
がたがたと、震えて。  
現実を、拒絶した。  
「カレン!」  
「り、リアちゃん・・・・・・? 私、なに、なんで・・・・・・?」  
信じられない顔をするカレン。なにを信じられないのか、なにを信じたくないのか。  
わたしには、わからない。     
「ぁ・・・・・・」  
ふと、カレンの手のひらが彼女のお腹に伸びる。止めようとした、止められなかった。  
「あは、これ、なに・・・・・・? なに、これ。なにこれっ。いやっ! なにこれぇ!」  
「カレンっ、カレンだめ! カレン!!」  
がたがたと。ぶるぶると。  
恐怖と嫌悪と絶望と真実を。  
カレン自身の身のうちから感じ取って、  
「い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」  
断末魔のような叫び声を上げ、カレンは意識を失った。  
そして、  
 
 
――グローデン家  
あれから、1年と半年。また、夏休み。  
メグミさんとアキラさんは遠いところへ行った。今でもメールは続けている。  
この前写真が貼付されたメールが来た。ふたり並んでテーマパークにいる写真。  
すごく、幸せそうだった。  
クラス替えでるーあとカナエとは離ればなれになった。新しいクラスは、なんだかうまく馴染めない。  
昨日、ふたりと廊下ですれ違った。わたしではない、たくさんの友達を連れて。  
すごく、幸せそうだった。  
お父さんはまた海外出張に行くらしい。ここ半年、一度も会ってない。  
あの人は仕事が生き甲斐で、仕事をしてるときはいつも楽しそう。一昨日の電話で出張を告げたときだって。  
すごく、幸せそうだった。  
それから――それから、カレン。  
この町に戻ってから2日後、カレンの意識は戻った。  
意識は戻ったが、心は戻らなかった。  
憎み、怒って殺意を抱いたデスパイア、その子供を孕まされていたことが精神に深いダメージを与えていたらしい。  
病院のベッドで目覚めたカレンの第一声目は、『お母さんはどこ?』だったとか。  
彼女のお母さんは、6年前に死んでいる。  
もう、壊れていたのだ。  
「おかーさん、またお外行くの?」  
「うん、カレンもお留守番しっかりしててね?」  
そして今、カレンは家に戻っている。  
なぜだか、わたしをお母さんと勘違いして。  
幼児退行、らしい。大きすぎるショックから、心を守るために子供に戻ったのだ。  
なにも知らない、純真で白痴なあの頃に。  
「おかえりしたら、しらゆきひめ読んで!」  
「うん、まっててね。それじゃあいってきます」  
自分より高いカレンの頭をひと撫でして、玄関を出る。  
暗い、暗い闇の中へ。  
わたしはひとりで、向かっていく。  
 
 
 
 
デスパイア――いつからかこの世界に巣くい、人々を蹂躙してきた存在。  
過去からひっそりと、今も闇の中で息づいている。  
それは、絶望を喰って生きる。そして、人間の女性を、犯す。  
彼らとの和解の路はないし、今後できそうな兆しもない。だから私たちは倒さなくてはならない。  
けど、戦い続けてどうなるのだろう。なにがあるのだろう。  
カレンを助けても、なにも手に入らなかった。むしろ、いろんなものを失った気さえする。  
暗い夜道を歩きながら、思う。  
疲れた、な――。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
――グローデン家、リビング  
絵本を両手に座り込んだカレンの瞳に、大きな影が映る。  
砕けて転がるガラスを踏みしめ、デスパイアがそこにはいた。  
小柄な馬の矮躯に、頭には山羊の頭骨を被せた姿。  
カレンの家族を襲ったデスパイアと、同種のもの。  
絵本でもテレビでも見たことのないその動物に、カレンは不思議の眼を向ける。  
「お馬さん、だあれ? ここ、カレンのおうちだよ?」  
「グケケッ、逃げないのか逃げないのか。なんだなんだ、つまらんやつめ」  
しゅるしゅるとたてがみが伸びて、カレンの手足に絡みつく。パジャマのボタンを器用に外す。  
ショーツ一枚を残した姿になって、ようやくカレンが疑問を持つ。  
「お馬さん、なにするの? パジャマ着てないと、おかーさんにおこられちゃうよ」  
「グケッ、大丈夫だよ。それより、カレンちゃんにいいことを教えてあげよう」  
「いいこと?」  
無垢なその唇に、デスパイアは舌を伸ばす。長く細い馬の舌がカレンの舌と絡み合う。  
「んっ、んん・・・・・・?」  
どこか懐かしく、熱くて幸福な気持ちがわき起こる。正体を知らぬまま、カレンは接吻を交わしていく。  
つんと尖った乳頭にたてがみが巻き付く。ぐねぐねと動くたてがみに踊らされ、カレンは股を擦らせる。  
半年に及ぶデスパイアの調教を受けたカレンの身体は、既に新たな主を迎え入れる準備を始めていた。  
「ぁう・・・・・・。おもらし、しちゃった・・・・・・?」  
ぐっしょりと濡れたショーツが彼女の下腹部に不快感を与える。そのショーツが半透明の糸を引きつつずり下ろされる。  
真っ赤に充血した牝の象徴が、牡を欲してぱくぱくと蠢いていた。  
「カレンちゃん、そっちをむきな。そうそう、そこに手をついて・・・・・・」  
「はぁい」  
デスパイアに従い長足のテーブルに手をつく。尻を上げ、馬に向ける。  
「・・・・・・?」  
自然と、腰が動いていた。誘うように、誘うように。  
「グケケッ、調教済みかよ。まあいいや」  
デスパイアの怒張があてがわれる。熱い感触は、熱い記憶を呼び覚ます。  
「ぁ・・・・・・ん、あぁっ! なに、んやぁっ」  
ずぷりと抵抗なく馬の怒張が呑み込まれる。太く長いソレは、いともたやすく終着にたどり着いた。  
そして、大きくグラインドを始めた。  
「んぁ・・・・・・、あうっ! ひゃっ、あぁ!」  
カレンの淀んだ瞳は懐かしい快楽のみに焦点を合わせる。身体の記憶のままに、腰を使って牡を悦ばす。  
「あん、あぁ、んあぁっ!」  
2匹の饗宴はなおも続く。牡は自らの快楽を追い、牝はただ牡を悦ばせることに悦楽を得る。  
その姿は、かつてのカレンと同じものだった。  
結局、リアはカレンを助けることなどできなかったのだ。カレンには、これしか残っていなかったのだ。  
「ごしゅじんさま、ごしゅじんさまぁ!」  
無意識に今は亡き主を呼ぶ。埋め込まれた肉棒が太さを増していくのを感じて。  
牡と牝の宴に、終わりが訪れた。  
太く大きく高く、馬はいななく。ひときわ強く、カレンは突き立てられる。  
そして、そして、そして、  
「あ、あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁっっ」  
染まる。戻る。あの日に、あの日々の幸せに。  
ゆっくりとデスパイアが抜け出ていく。カレンの愛液と馬の精液が混じり合った白濁が女陰からごぽりとあふれた。  
白くトンだカレンの心には、性の快楽しか残っていない。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
帰宅して、いつもなら飛びついてくるカレンがいなくて。  
おかしいなと思って、リビングに入って。  
崩れ落ちた。  
巨大な馬、デスパイア。その肉棒にカレンが奉仕をしていた。  
デスパイアがわたしに気づき、言う。  
「ああ、デザートまであるのか」  
たてがみが伸びてくる。それを振り払う気には、ならない。  
ああ、わたしって、  
なんのために、頑張ってたんだっけ?  
そして、  
 
 
 
 
 
 
 
 
そして.end  
『貫殺天使リア』/bad end  
 
 

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