「『かごの中の鳥は、幸せでしょうか』2年1組、さとうあきら。  
 わたしにはわかりません。  
 わからないけど、小鳥は、とてもきれいに鳴きます。  
 とてもとてもきれいに啼くのです。  
 まるで、歌っているようだと思います。  
 わたしは、鳥さんの歌はだいすきです」  
 
 
『貫殺天使リア』  
28幸.幸せの青い鳥  
 
 
――夕暮れ時、いつかのファミレス  
カラン。アイスコーヒーの氷が動いた。  
「・・・・・・」  
「・・・・・・」  
昨日、リアちゃんは学校行事から帰ってきた。楽しかった、とお土産を渡しながら言っていた。  
特段、変わったところは見られなかった、と思う。  
「・・・・・・アキラ」  
「・・・・・・なんだよ」  
今日の昼、彼女からメールが届いた。  
――『ごめんなさい、ちゃんと帰ります』  
その文言だけで、異常を感じ取れた。すぐにリアちゃんの家へ向かった。  
電気は全て消してあり、鍵も万全。どこかの近所に出かけるような体勢ではなかった。  
ケータイは繋がらない、何時出て行ったかもわからない。  
けど、  
「リアちゃんが向かった場所、わかるわよ」  
「なに!?」  
身を乗り出して驚くアキラ。幸い、テーブルの上のドリンクたちは零れなかった。  
カラン。アイスコーヒーの氷が動いた。  
アキラを窘めて、説明する。  
「旅行から帰ってすぐ、あの娘は出発した。ということは、行き先は旅行先で間違いないと思う。  
 それと、目的は。あの娘がそんなに急ぐ理由は――」  
「カレンちゃん、か?」  
そう。それしか思いつかない。  
「けど・・・・・・、なんでアタシたちに相談でもしてくんなかったんだ? 信用、してくんなかったのか?」  
「・・・・・・そこは、わからないわ」  
「そうだ、場所がわかるんなら、アタシたちも行けるってことだよな?」  
「そのことなんだけど・・・・・・」  
カラン。アイスコーヒーの氷が動いた。  
「あなたは、町に残って」  
「っなんで!」  
アキラが声を張り上げる。その、気持ちはわかる。  
だから、理由を教えなくてはならない。  
「私たちは、ここの専属として決まったでしょう? 一昨日、決めたじゃない。  
 それが着任2日目でふたりともいなくなってどうするの」  
「・・・・・・」  
そして、専属の天使には特定の地域を持たない天使にはない義務が発生する。  
「この町には、リアちゃんの友達や、あなたの友達もいるのよ?」  
「っ!」  
その土地の誰もを傷つけてはならないという、義務。  
それは、多分に自分勝手で、知らない場所の知らない誰かを否定するような。  
私たちは、知っている誰かを救うことを選んで、知らない誰かを救わなかった。  
カラン。アイスコーヒーの氷が動いた。  
「・・・・・・わかった。アタシは、残ってる。アタシたちがいなくなってる間にデスパイア大量発生は、笑えねーからな」  
「ありがとう・・・・・・、ごめんなさい」  
アキラも行きたいだろうに、それを押し殺してくれた。  
ありがとう。本当に、ありがとう。  
「・・・・・・始発に乗るから、今日の夜には新潟駅に行ってくるわ」  
「おう、行ってこい」  
新幹線の席はもう、とってある。アキラに内緒で。  
「・・・・・・」  
「・・・・・・」  
カラン。アイスコーヒーの氷が動いた。  
少し、シロップが底にたまっていた。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
――翌日の夜、浜辺  
昼過ぎに、メグミからメールが来た。あちらについたらしい。  
多分今は捜索中なのだろう。あれから連絡はない。  
ざくざくと砂を踏んで浜辺を歩く。ここはあの白いデスパイアが出現した場所、今でも警備は怠っていない。  
「・・・・・・」  
リアちゃんは、アタシたちを頼ってはくれなかった。それが、心にのし掛かってくる。  
そんなに頼りなかったのか。それとも、信用されていなかったのか。  
アタシには、わからない。  
「・・・・・・?」  
遠くから、なにか音が聞こえてくる。ヘリコプターのホバリング音? いや、もっと違うなにか。  
集中。感覚器官を最大限に高める――。  
「鳥、じゃない。これは・・・・・・」  
この羽音は、半年ほど前の、薬師岳で聞いた、音。複数いる。  
殲滅したはずが、生き残りがいた? 方向は、あっち!  
「こんにゃろ、まぁたでてきやがって! レパートリーすくねえんじゃねえの!?」  
身体強化、最大限!  
走る、走る、走る――!  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
――浜辺近くの藪の中  
少女たちは逃げていた。  
時季はずれの肝試し、森の祠に3人でお参りに行くだけのお話。それが、出てきたのは神様でもお化けでもないもの。  
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ  
「るっ、るりぃ! もっと早く!」  
「ま、待って南美、瀬奈っ、足が・・・・・・」  
「いいから、はやく!」  
追ってくるのは大きな昆虫。大火蜂――では、なかった。  
ベースは緋色、黒いラインの入った体色。そして、大火蜂の倍はあろうかという体格。  
それが10もの大群で迫っていた。  
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ  
「あぅ!」  
「瑠璃!」  
小柄な少女が足をつまずかせる。夜の森では足下がまったく見えない。  
「は、早く立って・・・・・・ぁ」  
「瀬奈・・・・・・? え」  
リーダーらしい勝ち気な眼をした少女がなにかに気づく。遅れて、幼げな容姿を顔に残した少女も、気づく。  
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ  
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶうぶぶ  
ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ  
囲まれていた。  
へなへなと座り込む少女たち。逃げ場は、もうない。  
一頭の蜂が、少女たちに襲い来る――  
 
「――っだらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」  
ヒュウッ! と風切り音を靡かせ、その蜂の胴体がまっぷたつになる。蜂は空中でじたばたともがいた後、ぼとりと地に落ちた。  
「大丈夫か!? 走れるな? いけ!」  
座り込んだ少女たちに激励を浴びせ、アキラは蜂の大群と対峙する。アキラの後ろには蜂はいなかった。  
「あ、ありがとうございます!」  
「るり、いこっ!」  
足をくじいた瑠璃に肩を貸して、少女たちは去っていく。その後ろ姿を肌で感じて、アキラは安堵した。  
「・・・・・・こいつら、前のと違うのか? ずいぶんでけえな」  
突然の闖入者に驚いたのか、蜂たちは様子を伺うように空中に居座っている。やがて、かち、かち、かちという威嚇音を鳴らし始めるた。  
「数が多いが・・・・・・よし、いっちょやってやるぜ!」  
うっすらと雲のかかる月から落ちた光が、刀身にはじき返された――。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
――藪を抜けた、砂浜  
「そんな・・・・・・」  
やっと森から抜け出せた、その先にあったのは。  
月明かりに照らされた、恐ろしい蜂の姿。  
少女たちに合わせたかのように、3体の蜂がいた。  
かち、かち、かち。本能的な恐怖を煽るハーモニーが蜂たちから響く。  
安心した矢先の絶望に、少女たちはまたへたり込んでしまった。  
じんわりと瑠璃の穿くジーンズに染みが広がっていく。口をぱくぱくとさせるだけで、声もだせない。  
今度こそ、彼女たちは蜂の手に落ちた。  
アキラは、誰も救えなかった。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
――浜辺近くの藪の中  
「ぜぇっ、ぜぇっ、チッ! 『八重桜』!!」  
近づいてきた蜂を薙ぎ払おうとする。しかし、技が放たれる一瞬前、蜂たちは後退してしまう。  
蜂が近づいてきては攻撃し、また近づいてきては攻撃する。  
先ほどから何度も何度も同じことの繰り返しだった。  
アキラの刀は、はじめの一体以外まだ蜂を切り伏せられていない。  
アキラには接近戦しかできないと見てか、蜂は一度たりとも彼女の間合いに入ってはこなかった。  
「なんなんだよっ、こいつらぁ!」  
寄ってきた蜂に攻撃をくわえる。当然のようにかわされた。  
アキラが技を出そうとする瞬間にタイミングよく蜂は逃げる。何度も技を使いすぎて、アキラの魔力も限界を見せてきた。  
「こいつら、魔力の集中を感じ取ってやがるのか・・・・・・?」  
肩で息をするアキラがようやく思い当たる。蜂は、アキラが魔力を使うのを感じたときに避ける動作をしていた。  
「くっそ、なんで昆虫型がこんな頭いいんだよ! っだらぁ!」  
魔力を使わないで、手近な蜂へ攻撃をくわえる。予想しない動きに硬直した蜂は、たやすくその身を分けた。  
「はっ! やっぱこれでいいのか!」  
攻略法を見つけたかのように勝ち誇るアキラ。だが、それは攻略法になりえない。  
蜂たちが活発に動き始める。臨戦態勢となった彼らの顎から耳障りな音が木霊する。  
「お前ら倒すのなんざ、簡単なんだよ! 魔力を使わなきゃ――」  
「使わないで、どうやって倒すのだ?」  
ぎょっとして振り返るアキラ。砂地の森に、場違いな白衣が立っていた。  
顔は、高度な認識阻害魔法で確認できない。声のみの判断で老人だとしかわからなかった。  
まるで博士だ、とアキラは感想を抱く。ぶぶぶぶぶぶぶ、と突貫してきた蜂を避ける。  
「く、くそっ! なんだお前!?」  
「魔法を使わないで、どうやって倒すのかね?」  
また、老人が問う。アキラは蜂から逃げ続ける。立場が逆転していた。  
「くそ、あぁ!」  
「ほら見ろ。魔力を使わなければただの人間と同じだ」  
言葉通り、アキラは状況を打開できない。悪いことに、技を出す魔力も限界が来ていた。  
残り、あと一発。  
――なんだあのじじいは? なんでこんな所にいやがる?   
  なんであいつは蜂に襲われない? どうすればこの状況を打破できる?――  
考えたアキラは、考えた末、  
「ってめえが親玉と見たぁ! 『萌え桜』ぁ!」  
その白刃を、老人へと向ける!  
が、  
「××××××××××」  
老人の口から理解不能な音声が流れた、その瞬間、アキラの刀は弾かれた。  
驚愕の表情の先に、理解不能な物体がある。  
鉄特有の光沢を持つ、人工物のような触手。  
「狙いはよかったが・・・・・・、それだけだな」  
老人の傍らに、理解不能な生物がいた。蛇のようなフォルムで、大きく開いた口から無数の触手が伸びている。  
その触手が、惚けたアキラをはじき飛ばす。魔力が底をつき強化も薄くなったその体は簡単に吹き飛んだ。  
「・・・・・・がぁ!」  
「今回の実験は、幼虫と卵にある。そう遠くないとき、また会おう」  
ぐったりとしたアキラに蜂が群がる。首筋に赤い斑点を残した後、蜂に支えられて体が宙に浮く。  
そしてアキラは、いなくなった。  
 
 
――清潔な部屋  
「う・・・・・・」  
アキラが眼を覚ました場所は、手術室のような部屋だった。  
手足がなにかで縛られ、大の字――いや、分娩台の上のような姿勢で床に寝かされている。  
胸のサラシは真ん中で裁たれ、長スカートはない。ショーツも片側が切れて用をなしていない。  
「くそ、つかまっちまったか・・・・・・」  
冷静に考える。が、そんな冷静さはすぐに吹き飛んだ。  
ぞぞ、と硬い床を節足が這う音が聞こえた。そして腹にちくちくとした感触。  
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・」  
それは、アキラの苦手とする虫。割合少女趣味を残す彼女が嫌悪する、節足動物。  
「や、やだ・・・・・・、ムカデ、やだ・・・・・・」  
うっすらと涙を浮かべて、アキラはいやいやと首を振る。ムカデのグロテスクな顔が、目の前にあった。  
その節足が、胸の突起に触れる。ちくりちくりとした感触が気持ち悪い。  
「ぎぃぃ」  
「ひっ!?」  
がぷり、首筋を噛まれる。白い肌に赤い斑点が2つがついた。  
もちろん、淫毒だろう。じきにその身体には情欲があふれるはずだ。  
しかしムカデはそれを待たずに挿入を試みる。硬く冷たい突起がアキラのソコにあたる。  
自分のもっとも嫌う生物に犯されることを知ったアキラは、必死に抵抗をしようとする。  
しかし、無情にもムカデは扉を見つけた。  
まだ濡れてもいない彼女の膣に、強引に割り入る。強烈な痛みが走った。  
かまわず、その突起を推し進める。異物感が侵入してくる。  
「たすけ、たすけてメグミ・・・・・・」  
つい3日前に優しく自分を抱いてくれた天使の名を呼ぶ。だが、返事は返ってこない。  
一生。  
「あぐ!?」  
どすん、と最奥を叩かれる。長い突起はついに目的の場所に到達した。  
そして、  
「あっ!? い、いやぁぁぁぁぁぁあ!?」  
どぴゅぴゅぴゅぴゅ! 粘りけの少ない白濁がアキラを満たす。  
ムカデは少しの蠕動をした後、第2射に入った。何度も何度も、ムカデ自身が枯れるまで。  
ようやく媚毒が効果を現し始めて、アキラの柔肌にほんのりと朱が差し始めた頃、ムカデの杭が抜かれる。  
引き抜かれたソコから、収まりきらない精液が零れ落ちた。あふれた白濁がピンク色の菊座を濡らす。  
「はぁっ、はぁっ、・・・・・・くぁ、くそぅ・・・・・・」  
息を荒くし、尖った乳首を天井に向けるアキラ。自分のもとから去っていくムカデを見て、少しだけ安堵する。  
ぞぞぞぞぞという音が右側へと消えていき、自動ドアの開く音がして、閉じた音の後に静寂が残った。  
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」  
精液を呑み込んだソコが熱い。  
「っ、はぁ、うぅ、ぁぅ・・・・・・」  
開かれてさえいない菊門が切ない。  
「うぅ、うぅぅ・・・・・・」  
子宮が、精液を求めている。  
拘束され自分を慰めることさえできないアキラに、地獄の時間が訪れていた。  
今すぐ、秘所をいじり回したい。尻に指を突き入れてめちゃくちゃにしたい。  
足りない。  
「あぁ、うぁぁ・・・・・・」  
がたがたと震え出す身体。淫毒の虜となったアキラの肢体が、理性から離れて牡を要求する。  
また、自動ドアの開く音。今度はムカデの這う音ではなく、ぶぶぶという蜂の音。  
アキラの秘所にとまり、2、3度穴の位置を確かめた後、ためらいなく精管を突き入れる。  
 
「あ、あぁん!」  
待ち望んだ刺激に、嫌悪感より先に多幸感が脳を支配する。ぐいぐいと強引に子袋を目指す管は、アキラの救世主だった。  
そして、ソレも子宮口への旅を終える。終着駅に先端を押しつけると、ムカデと同じく大量の精液を吐き出した。  
「あっ、あぁん! あぁぁぁぁ!!」  
絶頂、絶頂。子宮が満たされ、至福が地獄から連れ出してくれる。  
しかし、その救世主も、用を済ませるやいなや自身をアキラから抜き取り、扉の向こうへ消えていってしまう。  
二度目の地獄。  
「ぁ、なんで、なんで・・・・・・?」  
足りない。足りない。この程度の陵辱では。これでは、足りない。  
ガガガッ。  
『さて、佐藤輝・・・・・・アキラくん、だね。これから君の身体を使った実験をしようと思う』  
「・・・・・・?」  
部屋のどこからかスピーカーを通した声が聞こえる。劣情を求める意識を必死につなぎ止め、その言葉を理解しようとする。  
『なに、実験といってもたいしたことはない。今ちょうど下ごしらえも済んだところだしな。  
 これから、そう、3日。3日待ってくれ。それだけでよい』  
「なん、だよ。実験って・・・・・・ぁぅっ」  
『ふむ・・・・・・教えるべきだな、確かに』  
そして、衝撃が伝えられる。  
『ヒトと、2種のデスパイアの遺伝子混合実験だ。今君に種付けした2体。  
 それらと君の遺伝子が掛け合わされた存在を、君には産卵してもらう。ああ、むろん卵じだ』  
「――!?」  
一瞬で劣情が吹き飛ぶ。  
なにを言っているのかわからない。わからないが、言っていることがあまりに凶悪だ、ということだけは理解できた。  
『これが成功すれば、大きな躍進となる・・・・・・。くくっ、我が大志にも大きく近づく』  
「お、おまえ、なにを・・・・・・」  
理解できない言葉が、理解できない言葉を吐いていく。  
『オートマティック・マジシャンも実用に耐えられることがわかった。都合よく天使も手に入った。  
 既に5人に種付けを施してある。あとは、孵化実験、生育観察・・・・・・。  
 ククッ、そうだそうだ、天使を使った実験も、したかったことが山積みだ。  
 都合がいいぞ都合がいいぞ。O・M機構に魔術を搭載する理論も、一考の余地があるかもしれん。  
 あやつの作った机上の空論だと思っていたら、どうだ、それを確かめる絶好の環境が整ったではないか。  
 いや、先にあれをしてみるのはどうだろう――』  
「・・・・・・・・・・・・っっ!!」  
異常。最後はもはや誰に向けたものではない記号たちがスピーカーから延々と流れ出てくる。  
その間にも、アキラの熱情はぶり返ってくる。  
「くぅ、、また・・・・・・、ぁぅ・・・・・・」  
『――O・M機構のコアに組み込んでみようか。ちょうどサンプルがそこにあるのだし。  
 まてよ、サンプルは多い方がいい。ああそうだ、彼女に聞けばわかるかもしれないな。  
 おい、君・・・・・・ああ、しまった』  
まるっきり忘れていたという感じで、実際忘れていたのだろう、久し振りにアキラへ声がかかる。  
「くぁ・・・・・・あぅ、はぁっ、うぅ・・・・・・」  
『ふぅむ、辛そうだな。おい、アキラくん』  
「ぅぁ・・・・・・なん、だよ・・・・・・」  
『いいところへ、連れて行ってやろう』  
ガガッと音を立ててスピーカーが切れる。すると、またあの扉が開いた。  
ごうん、ごうんと生物にはとても思えない駆動音が近づいてくる。  
「・・・・・・? ・・・・・・!?」  
アキラの不審は、すぐに驚愕に変わった。  
トンボを模したジャンクアート、とでもいえばよいか。メタリックな外観を煌めかせる機械が、アキラのもとへ浮遊してきたのだ。  
そのアキラよりも大きな駒体の胴体部から、あのときアキラを打ち倒した触手が伸びてくる。  
がしゃん、とアキラの拘束が解けた。触手がアキラを抱え上げる。身体に力の入らないアキラは、なすすべなく宙に浮く。  
そのまま、トンボは来た道を戻っていく。ごうんごうんと機械が走る音を鳴らして、アキラは扉の先の闇へと消えた――。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
――別室  
暗い廊下を抜けて、重苦しい白い扉を開いたその先。  
所狭しと並んだ妙な機械たち。点滅を続ける赤いランプ。普段見るようなパソコンのモニターには緑色の文字列が並んでは消える。  
その部屋は、アキラが小さい頃に見たSF映画の研究室そっくりだった。  
アキラを抱えたまま、すいすいと機械たちを避けて飛ぶトンボ。それが通った場所にはアキラから零れた精液が転々と落ちている。  
トンボが壁際で止まった。危険区域のシールが貼られた扉の前。扉が開き、中へ。  
そこは、天国だった。  
勝ち気な眼をした少女が触手に貫かれてよがっている。おかっぱの少女がアナルを責め立てられている。  
精臭はなく、まき散らされているのはメスのにおい。その部屋にいる少女たちは皆、機械によって悦びを受けていた。  
小鳥のさえずりのように皆喘ぎ、小鳥の歌のように機械を求める少女たちの部屋。  
その天国へ、アキラも放り出される。すぐに機械たちが寄ってきた。  
メスのにおいにあてられたのか、上気した顔のアキラは抵抗しない。膣に触手が侵入する時も、むしろ股を開きさえした。  
「ぁ、あぁ・・・・・・」  
ぐちゅぐちゅと水音をたてて蜜壺を犯される。火照った身体は既に意志など置き去りにしていた。  
「んっ、おしり、お尻も・・・・・・」  
懇願に従い菊にも触手があてがわれる。さんざん焦らされた菊門に、やっと釘が打たれた。  
そのまま、前後運動を始める。前が突かれたときは後ろは引き、後ろが突かれたときは前を突き。  
はたまた同じタイミングで奥へ届いたと思えば、互いを擦らせるようにして引いていく。  
「はぅっ、あっ、あぁんっ! あぁあ!」  
手足には冷たい鉄が絡みつき、肌に浮かぶ汗をより際だたせる。アキラも、他の少女と同じくメスを振りまいていた。  
「あぅっ、くぁっ、んっ、あぁ!」  
ぷるんと乳房を揺らし、快感を享受する。天使の証したるコスチュームは既に解け消えていた。  
天使も、フィリアも、メグミも忘れてただ喘ぐ。目の前にある快楽が今の彼女の全てだった。  
なんの前触れもなく、膣の触手が回転を始めた。駆動音を唸らせ、愛液がはじけ飛ぶ。  
「あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」  
突然の絶頂。暴力的な快感がアキラを襲う。  
次いで、尻の触手が振動を始める。  
「うあ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」  
強烈なバイブレーションに視界が白く染まる。メグミの与えた愛より強いものがアキラを埋め尽くした。  
「ああっ、だ、だめ、まだイッて、あぁぁぁぁぁあ!」  
休む暇すら与えず、無慈悲な機械はピストンを行う。余韻も味わわずにアキラは新たな絶頂を迎える。  
「ひあっ、あぁん! あぁぁぁぁっ! またっ、あぁぁぁぁ!」  
何度も、何度も。メスの色を宿した唇からは愉悦の歌が奏でられる。  
アキラは気づかない。自分が絶頂するたび、デスパイアの陵辱と同じように魔力を奪われていることを。  
 
アキラは気づかない。アキラは今、天国にいるから。  
アキラは、幸福だから。  
戦いを忘れ、憂いを忘れ、絶望もなく、希望もなく。  
なにも考えることなく、ただ快楽を貪る彼女。  
また、イッた。この機械たちはアキラの体力がなくなってくれば休息を入れるであろう。アキラが陵辱で死ぬことはないのだ。  
快楽のみを与えられ、快楽のみを受け取る。他のものはここにはない。  
それはなんて、幸せなのだろう。  
アキラは笑っている。幸せそうに、笑っている。  
3日後、彼女はデスパイアと自分の子を産むだろう。  
そしてその先も、様々な実験が待っているだろう。  
けれど、彼女は幸せな日々を送れるはずだ。  
この部屋には、恐ろしいものはなにもない。破壊的な快感があるだけだ。  
アキラの残った意識が、なにかを思う。それも、幸せに流された。  
 
 
オレンジのライトが照らす四角い部屋。  
ここは、アキラの籠。  
アキラが閉じこめられた、鳥かご。  
彼女は、彼女は。  
幸せの、青い鳥。  
 
 
 
 
幸せの青い鳥.end  
 
 
 

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