きりゅう。島に伝わる文献にそう記されていた。  
漢字に直して、忌竜。  
忌まわしき竜。  
その昔、隋の方角から飛んできて、村民を喰い殺していった。  
あげく、女の腹に卵を産み付け、腹を破り増えていった。  
折良く、領主がやってきたのが幸いした。  
多くの犠牲を犠牲を出しつつ、領主の私軍、村民、お付きの封魔師の命と引き替えに、  
忌竜の子供たちは全滅、親を封印することが出来た。  
元は、たくさんの人のいる島だった。  
それが、たった10日で、10人に。  
忌まわしき竜。  
封印を解いては、いけないとされる。  
 
 
『貫殺天使リア』  
8.竜  
 
 
――東北日本海側の島、学校だった場所  
昼間。いつもは子供たちの笑い声のしていた場所。  
そこは、血の海だった。  
机はめちゃくちゃに、ランドセルは倒れ。  
『1年1組 ささき みか』  
そう書かれたノートの脇に、赤黒さをまとった白いカルシウムの固まりがある。  
息は、すでにない。  
腹は破られ、眼球もない。  
黒の字で『うみ』と書かれた白い半紙の貼られた壁。  
その下には、まだ生きた人間がいた。  
『5年1組 佐々木 理佳』と書かれた名札。黄色く濁った粘液の固まりで、体中が巻かれている。  
スカートの下から血を出し、意識を失っているようだ。  
腹が歪に、膨らんでいる。  
まるでダチョウの卵が3つほど入っているように。  
ここで生きているのは、彼女と女の教師。教師もまた卵を産み付けられている。  
まるで子供を産めないような弱い体は、子供は必要ないとばかりに、小さな児童たちは喰われていた。  
また、男も。女以外はいらないとばかりに、腹から食い破られている。  
9月10日。大型台風通過中、  
島からの通信が、途絶えた。  
 
 
――9月9日、1年B組  
ザアァァァァァァァ・・・・・・  
月曜日、7時間目のロングホームルーム。  
「集まった意見を発表します。フィリアちゃん、おねがい」  
「えーと、お化け屋敷、ドーナツ屋・・・・・・」  
わたしの声を受け、津南君がそれを黒板に書いていく。  
文化祭の出し物。先週出た意見のなかから、やるものをひとつ決めるための時間。  
「ネコミミラゾクバー・・・・・・? タピオカ屋、アイス屋、駄菓子屋、ぬいぐるみ喫茶・・・・・・」  
前回はとにかくでまくった(というか津南君とわたし以外、先生含めた28人から別々のものがでた)ので、  
今日は5個くらいに絞り込む作業だ。  
「ねこ写真展、UFO展示会、漫画喫茶、大人のマッサージ・・・・・・」  
いくつも訳のわからないものが混じってる。あとから案を出した人たちか。  
「ケーキ販売、そば屋・・・・・・」  
このふたつはカナエとるーあのだ。るーあの頭の中がよくわかんない。  
「なにか劇をやる、性別逆転レストラン。以上です」  
「レストラ、ン。できた。それでは、この中から絞り込みます」  
こうしてみると壮観だ。黒板の端までかいてある。  
「これだけは譲れないって意見のある人は手を挙げてください。おふざけをすると帰れませんよ」  
最後の言葉が聞いたのか、上がった手は数えられるほどだ。  
・・・・・・先生、こだわりがないなら大人のマッサージとかいうのやめてくださいよ・・・・・・。  
「ひい、ふう、みい、よんご・・・・・・。8人ですね。んじゃあ大田原君から、理由をどうぞ」  
いっしょに係をやることになった津南賢治くん。いつもは接点がなくて話したこともあまりなかったが、  
思ったよりしっかりしている。  
裏でロリアっていってるのはゆるさねーけど。  
「ウスっ! 文化祭といったらお化け屋敷! 何はともあれお化け屋敷!基本だと思います!」  
「理由になってねーですよ大田原君。フィリアちゃん、候補一がお化け屋敷」  
「はーい、お化け屋敷、と」  
ルーズリーフにメモを取る。まともだ。  
「次・・・・・・土御門さん」  
「やっぱ時代はスイーツですよ。ウチの家、レストランやってるから技術も食材も協力できるし。  
てゆーことで、甘味処をおしまっす!」  
ふたつめ、甘味処。  
「瀧上さん」  
「ケーキのおいしぃとこみつけたんだぁ〜。だから、そこに協力してもらえば儲かる気がするのです!」  
無理じゃね? みっつめ、ケーキ販売・・・・・・。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
「残ったのが、お化け屋敷、甘味処、ケーキ販売、ネコミミラゾクバー、劇、縁日、焼きそば、タピオカです」  
「甘味とケーキは合体していいんじゃない?」  
「そだね。てことで、この7つが生き残りました。来週投票をするので、それまでに考えておいてください。  
以上。今日はここまでにします」  
津南君の締めと同時に、チャイムが鳴る。あとは帰りのショートホームルームで終わりだ。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
   
 
ザアァァァァァァァ・・・・・・  
校門の前でカナエたちと分かれる。強い雨が降っていた。大型の台風がやってくるらしい。  
ボボボボボボボボ・・・・・・。  
傘が雨を打つ音を楽しみながら、家路をたどる。今日もたぶんアキラさんが来るはずだ。  
「ただいまーっと」  
家の鍵を開け、中へ。制服が濡れちゃったから干さないと。  
セーラーとスカートをハンガーに吊し、お風呂を沸かす。下着姿は寒いけど、我慢我慢。  
『――強い風に気をつけてください。次のニュースです』  
つけたテレビからキャスターが伝える。台風情報が見れなかったのは残念。  
『島根県東部で立て続けに失踪事件が起きています。県警は、何らかのつながりがあると見て・・・・・・』  
世界では、デスパイアによる被害がつきることはない。  
どれだけ天使が頑張っても、どれだけ市民が注意しても。  
闇は、消えることはない。  
『――鳥だよ、でっけぇ鳥があっちへ飛んでったんだ』  
ピピッ、ピピッ。  
お風呂が沸いたことを示す機会音が鳴る。  
テレビを消して、洗面所へ向かった。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
「やっぱりちっちゃくなってる・・・・・・」  
湯船の中でくつろぎながら、わたしは落胆していた。  
対象は、胸。  
あの夏休み、あんまり思い出したくない事件の中で、一時期私の胸はDを超えていた。  
それが今はどうだ。  
かろうじてBカップ。あまりにひどい仕打ちじゃないか。  
縮んだことで垂れたり緩んだり、ということはなかった。むしろハリとキメがよくなっている。  
乳首も薄い桜色のままだ。  
けど、小さくなった。  
そこだけは幻を見せてくれてよかったのに・・・・・・。  
あのデスパイアと関わって得たもの。  
決意。誓い。  
肌のハリ、きめ細やかさ。  
そして有り余る健康。  
なんで強くなってんの・・・・・・。  
犬に長時間乱され、出産まで体験したわたしのソコも、今はきれいに貝を閉じている。  
あのときのような変な気分になることも、今のところない。  
「んっ・・・・・・」  
ちゃぷんっ。  
湯船からでて、体を拭く。お日様の香り。  
ショーツを穿き、ワイヤーブラ(スポーツからレベルアップ!)をつける。  
デニムとパーカを合わせ、アキラさんを迎える準備を始めた。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
ぴんぽーん。  
「はーい」  
チャイムが来客を示す。アキラさんだ。  
「うぃーす」  
「おじゃまします」  
「あ、メグミさんも? バイトは今日なしですか?」  
「ええ。 店長が風邪引いたって」  
「へぇー・・・・・・。あ、どうぞどうぞ」  
ふたりを家に招き入れる。  
ザアァァァァァァァ・・・・・・  
外の雨はますます強くなっている。心なしか風も強くなってきている。  
「台風、明日の昼に直撃だってよー。足が遅い上に規模がでかいから、四国の方とかすごかったらしいぜ」  
「いやですね。洪水とかにならなきゃいいんですけど・・・・・・」  
タオルを渡しながら会話をする。ここら辺は田んぼも多いし、水はけはかなりいいはずだけど。  
「ありがとう。ところでリアちゃん、お願いがあるんだけど・・・・・・」  
「なんです? 出来ることならなんでもしますよ?」  
「アタシらのアパート、雨漏りがすごくてさ・・・・・・。今日だけ泊めてくんね?」  
「やっぱり敷金礼金ケチったのがいけなかったかしら・・・・・・」  
「そんなことですか。いいですよ。お布団も余ってるし」  
使ってないお布団は結構ある。ビバ中流家庭。冬の寒さに布団は必需品だ。  
「ありがとよぉ〜! 帰ったら畳まで黒くなっててびびったんだ! 眠れる夜を過ごせるぜ!」  
「ほんとにいいの? ふたりもお邪魔しちゃって・・・・・・」  
「大丈夫です。それにわたし、天使のこととか聞きたいこといっぱいあったし」  
ザアァァァァァァァ・・・・・・  
雨音は、強くなっていく。  
 
 
――東北日本海側の島、洞窟の最奥  
「ギャオォォォォォ!」  
喜びと怒りの入り交じった叫び声。  
封印を解かれ、悠久の眠りから覚めた忌竜。爛々と光る赤い眼球は、2匹の小さな獲物を見据えていた。  
「ひっ、ひぃぃ!」  
「しゃなっ、しゃなぇぇ、どう、どうしよう!」  
早苗と千春。ふたりの兎は、腰を抜かしおびえるばかり。  
ぐぐ、ばきばきばき!  
忌竜はその身を縛る朽ちた杭を壊すと、洞窟の岩床に降り立つ。  
「グルルルルルルル・・・・・・」  
腹が減っている。エネルギーの補充が必要だ。  
早苗と千春。どちらが大きいか、どちらがより肥えているか、どちらが強い魔力を持っているか、  
「グルォ!!」  
見定めた忌竜は、翼を使い、千春を打ちはじく。  
「あぅ!」  
がつん! 鈍い音を立て岩壁に頭を打つ千春。  
「ちはる! ちはるぅ!」  
早苗の声にも応答しない。どうやら意識を失っているようだ。  
「ぁ、あぁ・・・・・・。逃げなきゃ、逃げなきゃ・・・・・・」  
ずりずりと手を使い少しずつ交代していく早苗。  
しかし、離れた距離は竜のたった一歩で詰められる。  
「あぁ・・・・・・やめて・・・・・・」  
「グルルルルルルル・・・・・・」  
竜が首を近づけてくる。においを嗅ぐように。いつかの食料と同じことを確認するように。  
グパ!  
大きく開けられた口が喉元に食らいつく瞬間、早苗は意識を手放した。  
そして、命も。  
 
 
――グローデン家、リビング  
ザアァァァァァァァ・・・・・・  
カーペットに座り、わたしはメグミさんからレクチャーを受けていた。  
実際わたしは、まともな師もなく、カレンとふたりでようやく敵を倒してきたようなものなのだ。  
「デスパイアには、小型、中型、大型、超大型があります。  
小型から、モンゴロイド以下の大きさ、モンゴロイドからアングロサクソンより少し大きめ、  
それより5メートルまで、5メートル以上全て、というくくり。  
ただの体格の話だから、実際強さにはそれほど関わらないわ。  
中型でも強いのはいくらでもいるし、大型でも弱いのはたくさんいる」  
「へぇ・・・・・・。ウルフだと、中型くらいですか」  
「そうなるわ。で、こっちが等級。直接戦闘に関わってくるもの」  
すらすらとルーズリーフにペンを走らせる。みぎから、E、D、C、B、A、S、SSと並んだ。  
「E・・・・・・これが、あなた達のいままでたおしてきたデスパイアね。小型がほとんど、  
人間でもある程度強ければ倒せるレベル。魔法も使えないわね」  
「でけぇ蛇とか鳥とか、リアちゃんも倒してきたろ?」  
「はい。あいつら、一番下なんですね・・・・・・」  
「つぎが、D。こいつらも弱いわね。催淫作用を持つ能力持ちから、ここに含まれるわ」  
つまり、基本的なデスパイアはここらへんか。  
「リアちゃんは見てねーだろうけど、この前話したカエルなんかだな」  
「そうね。こいつらも、魔法を使うことはまずないわ。それで、C。  
魔法を使える部類。けど、弱い魔法ね。肉体強化とか、  
少なくとも魔力の放出や障壁なんかはできないわ。ウルフの下っ端が入るわね」  
「・・・・・・」  
そう言えば、催眠とかいってもなんだか戦ってるときにふわふわしてる気分になっていただけだ。  
地に足がついてないような、というか。  
ウルフ。いつか見つけ出し、倒さねばならない相手。  
「B。ここから、普通の人間が太刀打ちできなくなる」  
「魔法障壁だな。通常の弾丸をかるーくはじいたり、煙だガスだを無力化したり」  
「あとは、攻撃魔法が使えるようになるわ。火を噴いたり、電気を放ったり。ウルフのボスと準ボスはここね」  
ウルフの特性、強い催眠魔法。まだ見たことはないが、それにカレンはやられたのだろう。  
「A、S。このふたつは明確な基準がなくて、相対した天使がランクを決めるわ。  
集団としてのウルフや竜の個体ね。3年前、ローパーの集団も加えられたわ」  
Aの文字の下ににウルフ、ローパー、魔導触手を書く。  
Sのしたには、竜種、キメラ種が。  
「最後に、SS。いちばん会いたくない相手ね。たいがい超大型、めったに人前に出ない代わりに、  
一度出たら災害ものよ。深海の大魔王イカや3年前の巨大ローパーね」  
「こいつらには出会ったことはねぇが、人づてに話は聞いてるぜ。場合によっちゃあビルよりでかいとか」  
「覚えてるかしら? 10年前、アメリカにこのレベルが現れたのよ」  
「あ、たしかトカゲみたいな奴でしたよね。すごい被害がでたとか」  
「そう。そいつは食べることで魔力を得るタイプで・・・・・・、アメリカ軍とあっちの魔法天使が  
協力してやっと倒せたの」  
「つーかあっちの天使ってアメコミのヒーローみたいな扱いだぜ? そんとき初めて知ったんだ」  
「あー、あっちの人たちケバいですよね」  
「話を聞きなさい」  
デスパイアに関するレクチャーは、夕ご飯の時間までつづいた・・・・・・。  
 
 
――東北日本海側の島、洞窟の最奥  
ずどん!  
「いぎぃ!?」  
千春は痛みによって目を覚ました。下腹部のめちゃくちゃな痛み。  
目の前がまっくらで、生臭い血のにおいがする。  
「あぎ・・・・・・ぃいい!?」  
千春の目の前には忌竜の腹がある。それが、千春の視界を遮っている。  
竜は、この餌となる獲物に、卵を産み付け始めた。  
ぐっ、めりめりめり・・・・・・。  
「ぃいいたい! さける! さけちゃう!」  
ごろんとした巨大な楕円形が、産卵管を通り少女の子宮に押し込まれる。  
筋力で、無理矢理。  
「いぃあ! ひぎぃぃ!?」  
痛み止めなど打つ必要はない。どうせ、魔力の吸収は食べることでしか出来ない。  
必要なのは、魔力を持つ子宮と体温。卵をふ化させるのに最低限のものさえあればいい。  
ぐぽっ、めりめりめり・・・・・・。  
2個目のタマゴが膣を通過していく。初潮を迎えたばかりだとしても、子など産めない体でも関係ない。  
「あぁぁぁ! いぃっ、ひあぅぅ!」  
あまりの痛みに気絶さえ許されない。腹がはち切れそうだ。  
めり、めりめりめり・・・・・・。  
最後のタマゴが運ばれる。3つのタマゴ。腹の中で食い合い、  
勝利したものだけが母の腹を食い破り外界へ出ることを許される。  
「ウゥゥゥウゥウウ・・・・・・」  
全ての卵を産み付け終わった忌竜は、口から細い粘糸をはき出し千春を壁に固定する。  
ぱしゃん、ぱしゃん。  
用を済ませた竜が、洞窟の出口へ歩いていく。  
千春はようやく早苗のいた方を見ることが出来た。  
赤い早苗だったなにか。  
千春の意識は、そこで一端途絶える。  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
明くる日の朝。  
「あぁあ、いぎぃぃ!?」  
痛みで目を覚ましてからの3時間、千春はもがき苦しんでいた。  
腹が、暴れている。  
文字通り。  
「あぁぅ・・・・・・ぁ・・・・・・?」  
それが、ぴたりとやむ。  
次の瞬間。  
「ぃぎゃぁぁぁぁ!」  
へその方へ、突き刺すような痛み。腹が盛り上がり盛り上がり、  
ぶちゅ!  
腹を裂いて、竜の頭が顔を出す。  
「ギャオォォォォォォォ!」  
新たな竜が、またひとつ。  
母親はあまりの痛みからこときれていた。  
なんの躊躇もなくその肉を咬みちぎる子竜。  
外は、大雨の台風だった。  
 
 
竜.end  
 
 

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