魔力。
魔法を使うその源。
生物全てが持ち、
デスパイアが奪い、
天使が使役する。
魔法が使えたらな。
誰もが描く夢のひとつ。
わたしも使えるだろうか。
使えたなら、強くなれるだろうか。
彼女を、救えるほど。
『貫殺天使リア』
9.鰯の大群
――グローデン家、リビング
「そうそう、そのまま壁を意識し続けて」
「はい」
天使の姿で、わたしはメグミさんに訓練を受けていた。
魔法障壁。体を覆う魔力の壁。
ことの発端は、30分前の食事中。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――グローデン家、食卓
「魔法障壁が作れないぃ?」
「あの、なんていうか・・・・・・すいません」
「まぁそりゃ誰にも教えてもらってないんなら当然だろーけどさぁ・・・・・・」
ビーフシチューとかき混ぜられたご飯を口にしながら、アキラさんは呆れ顔を作る。
さっきのデスパイアのレクチャー、そこでわからない単語があったから聞いてみたのだ。
――『魔法障壁ってなんですか?』
『まじかよ』
こんな具合に。
「魔法障壁っていうのは、体の周りに張る不可視の壁よ。戦闘の基本。
それなしで戦ってたなんて・・・・・・。あなた、ある意味すごいわ」
「え、あの、そんなに重要なことでした・・・・・・?」
「重要ってか、障壁破られたら負け一直線が普通だかんな」
「えぇ!?」
なんてこったい。じゃあなにか。今まで負け一直線で戦って生き残ってきたのかわたし。
「これじゃぁブルーメの傀儡に負けるのも当たり前だわ・・・・・・。コスチュームの防御力だけって、
大して生身と変わらないじゃない・・・・・・」
「め、面目ないです・・・・・・」
メグミさんにまでそんな目で見られると・・・・・・。うぅ、へこむ。
「はぁ。食べ終わったら、魔法も手ほどきしてあげる。パトロールは、アキラに任せましょう」
「いいぜ。リアちゃんは特訓してな。アタシはちょっと田んぼの様子見てくるから」
「その言い方はやめなさい」
そんなこんなで・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・」
わたしは今、障壁持続の訓練をしている。
さすがに基本だけあって、教えてもらってものの5分で発現できた。簡単すぎる。
「5,4,3,2,1・・・・・・はい、解除して」
「ふぅ!」
魔法を解く。なにげに疲れるなぁ・・・・・・。これを戦闘中ずっと続けるのか・・・・・・。
「持続なんて、いつの間にか無意識で出来るようになるわ。要は慣れよ、慣れ。
これをこれから毎日1時間に5分ずつ、日常生活中でも訓練して」
「はぁい」
一応障壁程度なら、変身しなくても使えるみたい。見た目には何も変わらないし、魔法の訓練にはもってこいらしい。
「ああ、変身はしたままでいて。武器を見せてくれる?」
「どうぞ」
オーシャンオルカを手渡しする。リボルガー型、弾倉6装。わたしの片手に収まる大きさだ。
「前々から思ってたけど、銃のタイプなら変形が出来るはずよね? してみてくれる?」
「はい。連射モード、<サーディン>!」
一瞬オルカが銀の光に包まれ、形を変える。るーあにつきあわされて観た戦争物映画、
それに出てくるような小さいマシンガン。片手用みたいだけど、重いから両手で使っている。
「へぇ・・・・・・、変形はできるのね。他にはなにかあるの?」
「長距離狙撃(ロングバレル)モードと、カノンモードがあります。
カノンモードは、使う魔力が多すぎて実戦で使ったことはないんですけど・・・・・・」
「うん、わかったわ。わたしの知ってる銃使いと同じね。銃使いの基本訓練は、それぞれの状態を使いこなすこと、
弾として込める魔力を大きくすること」
「一応、どれも使ったことはありますけど・・・・・・」
自慢じゃないが、狙撃は百発百中だ。どんな頭でもヘッドショット!
あ、これ自慢?
「さすがにこっちの訓練は室内じゃ出来ないわね・・・・・・。それじゃ、障壁訓練をアキラが帰ってくるまで続けましょうか」
「えぇー・・・・・・、ぅ、はぃ・・・・・・」
こわ! 今の顔こわ!
「まったく・・・・・・。それにしてもあなたの魔力って・・・・・・」
「はい? なんです?」
「いえ、いいわ」
なんだろ。まぁいいや。
「・・・・・・んっ」
障壁を展開。神経すり減る・・・・・・。
アキラさん早く帰ってこないかな・・・・・・。
その日、アキラさんが帰ってくることはなかった。
――強い雨、風にたゆむ稲の中
刀を振るう天使は今、泥の中にいる。
スライム。台風に乗ってやってきた、水を主体とするデスパイアに、襲われていた。
「ああくそ! 離せ!」
この雨の中、気配を同化し足下をすくうのは容易であった。
田んぼに引きずり込んでしまえば、あとは無限の水分がその身を保持し続ける。
肉体を持たぬ為、天使の刃も効果がない。アキラにとって最悪の相手だ。
「くっそ! この!」
必死に暴れる獲物を、ゆっくりとスライムは包み込んでゆく。
足。膝。腿。
尻、腰、胸。
粘着質が頭まですっぽり覆う。
「・・・・・・っ」
気道が全てふさがれ、息をすることが出来ない。
いや、本当は出来るのだ。スライムの体内は包んだ相手に空気を提供する構造になっている。
しかし、アキラは知っている。
スライムの体液を飲むことの意味を。
「・・・・・・!?」
ぞわり、と。水分が内ももをなぜる。スライム全体がアキラへの愛撫を始めた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
魔力で強化された肉体の、酸素保有時間は一分間。けれど、それすらスライムは待つ気がないようだ。
髪。瞼。唇。
胸。腰。尻。
ついにスカートの下にまで愛撫はおよぶ。
ずずっ・・・・・・。
サラシが浸食され、千切れていく。
ショーツをすり抜け、天使の秘所に迫る。
ずりゅりゅりゅりゅ!
「〜〜〜〜〜〜がぽっ!」
なんの前触れもなく、水が処女の聖域のその上、尿道へ進行した。
こらえきれず、口を開け叫ぶ。叫ぼうとした。
震わせたのは、空気でなく水。はき出された空気が気泡となってスライムの体内から出て行く。
代わりに吸い込まれたのは、体液。
デスパイアの、毒液。
「んん! がぽぽっ・・・・・・」
肺が満たされ、血液に乗って体中を駆けめぐる。
心臓。血管。大動脈。
脳。耳筋。胸。
そして子宮。
身体がふわふわして心許なくなる。尿道から膀胱へたまったスライムがひどく重い。
抜けなくては。
そう思い手を掻いても、掴むものは水ばかり。涙がひとしずく。スライムへ吸収される。
ぷつりと、膀胱に自身を残し、アキラから出て行くデスパイア。
次の目標は、彼女の突起物。
「!!」
赤く充血した、乳首がこすれる。じっくりと、ねっとりと。
おして、つまんで。ひいて、はじいて。
「・・・・・・っ」
天使は耐える。口を固く閉じ、スライムの進入を拒んで。
今度は胸全体を。下からすくい上げ、ゆっくりと揉みしだきながらもとへ。
頂を少しつぶしながら、耳元をざらりとなでる。
「〜〜〜〜っがぽがぽ!」
不意の刺激に気をやられ、再びスライムを招き入れる。
なんだ、今の感覚。
そう言いたげに目を泳がせる彼女に、新たに試練が加わる。
今や真っ赤に腫れ上がり刺激を待ちわびる亀裂の小豆を、ぶるりとした感触が襲う。
「〜〜〜〜〜っ」
またあの感覚。それも、今度は、
「っ、んっ、〜〜〜っ」
2度、3度。毒液を気にする余裕もなく、アキラはその感覚の正体を知っていく。
――あ、これもしかして。
ようやくと水体が女穴に迫る。まだ一度も陵辱をみたことのないその口は、
初めての快楽にその先を期待し、ひくひくと疼いていた。
ぬる。スライムの一部が隆起し、そのパズルをあわせる。
迎え入れた肉壁は、スライムと違う水分を生み出している。
「んっ、がぽがぽ! んんん!?」
その細い路地を進み、薄い壁に突き当たる。処女の証。
ず、と浸食。流れる破瓜の地はデスパイアに力を与える。
波打ち捻れ、アキラの身体に自らを馴染ませる。
「んん〜〜〜〜!」
首筋と、女豆。忘れていた刺激をまた味あわせる。
彼女の身体に突き刺さる悪魔の先端が、子宮口をとらえた。
ずるるるるるるっっ!
突然、
流れ込むスライム。
一瞬のあと、
走る快感。
そして、
絶頂。
ぴくんぴくんと身体を震わせ快楽の果てを知る身体。流れ出た魔力はデスパイアの糧となる。
ふっと、脱力感。体中の力が抜ける。
それでも、陵辱は終わらない。
スライムは探し求める。卵管を見つけ、目的のモノがある場所へ。
卵巣。女の女たるゆえん。卵子。
みつけた。奪い取る。これで目的は果たした。
あとは、この女を搾り取るだけだ。
0時を回っても、天使の鎖は千切れない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ぱぁん!
デスパイアの一部が四散する。
ぱん! ぱん!
雨にそぐわぬ乾いた音が鳴り響く。魔力の弾丸は以前と比べものにならぬほどの魔力を持ち、
デスパイアの体を粉砕していく。
「アキラさん!」
「アキラ!」
ふたりの天使が駆け寄る。分が悪いとみたか、スライムはアキラの体を捨て逃げ出し始める。
「リアちゃん、まかせたわ」
「・・・・・・っ、はい!」
今日教えてもらったこと。今まででは倒せなかったであろう敵。
銃を向け、構える。
「連射モード、<サーディン>!」
敵の倒し方。銃の性質。自分の能力。
昨日までと違う、その弾丸は、
「っは!」
万の数を超える鱗が光を反射するような、銀色の輝きで――
奔流が、デスパイアを押しつぶす。
デスパイアを、この世から消し去る。
「・・・・・・はっ、強くなったじゃねぇか」
リアの青い双眸は、強い光を帯びていた。
――グローデン家、トイレ
ふたりに救出されたアタシは今、トイレに立てこもっていた。
なぜか。
スライムの切れっ端がまだ、膀胱に残っているのだ。
「ぅ・・・・・・」
風邪をひくからと渡されたでかいバスタオルを裸の上にかぶり、右手にはデスパイア殺しの例のアレを構える。
どんな構図だよ・・・・・・。
「ん・・・・・・」
ちょろちょろと、アタシ自身の尿に混じって青っぽい液体が出てくる。
すかさず、例のアレをかけていく。
効果は抜群のようで、半固形の体はみるみる溶けていった。
「ん・・・・・・ぁんっ」
ソコを紙で拭いた瞬間、甘い声が出てしまう。ちくしょうめ、アタシがこんな奴に・・・・・・。
水を流し憎き敵とさよならをする。ばいばい、死ね。死んでるけど。
「リアちゃーん、風呂入れてさせてくれー」
温かな料理と温かなお湯。そしてふたりの笑顔。
やっぱり、うん。
これだな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――日本海
下水から川、川から海へ。
死んだと思われたアキラから排出されたスライムは、生きていた。
人の精液をかけられ、通常なら体が溶けるところ、魔法障壁を使い生き延びた。
演技までして、ソレを守りたかった。
アキラから奪った、卵子。
ふたりの天使が現れた瞬間、あわてて膀胱へ押し込み、守った。
ここから、新たな生物へ進化する。
予定だった。
白。あまりにも大きな白。
スライムが抵抗も逃げることすら出来ないまま、白はその命を奪う。
触腕をなびかせ、白は悠々と泳ぐ。
新たな可能性を見つけて。
鰯の大群.end