島を出て、南へ。  
共連れは2体。住みよい場所を探す。  
A級デスパイア、飛竜種、種族名「きりゅう」。  
ひとつの島を食い尽くし、嵐の中を飛ぶ翼竜。  
あそこならば、良さそうだ。  
見つけたのは田園地帯。妙に魔力の密集した場所。  
リアの住む、町。  
 
 
『貫殺天使リア』  
10.銀の鱗は金の光に包まれて。-side A-  
 
 
――グローデン家、食卓  
「・・・・・・」  
ぽろり、と箸からご飯を落とす。画面の映像が信じられない。  
『――昨日未明から連絡が取れなくなっており、その時点では回線の・・・・・・』  
アキラさんが襲われた台風の日、その翌翌日。  
嵐は過ぎ去り、わたしは登校の準備を終え朝ご飯を食べていた。  
『ビデオカメラが落ちています! 少し中を確認してみましょう!』  
朝のニュースと新聞、そのどちらにも大々的に報じられている、ある島の惨状。  
台風でこうなった訳じゃない。建物もほとんど無傷。  
しかし、人が、生命が残っていなかった。  
ひとつ残らず、食い荒らされていた。  
『こ、これは――観てくださいこの映像!』  
画面いっぱいに映し出されたビデオカメラ。そこには・・・・・・。  
轟々とうなる風、二階から撮っているのだろうか、上からのアングルで通りが写されている。  
ノイズ。画面がぶれる。  
薄い太陽の光の中、  
道の真ん中に、恐竜がいた。  
なんだっけ、ジュラシックパークの・・・・・・ラプトル。あれみたいな。  
きょろきょろと辺りをうかがっている。  
なにかを探すように。誰かを捜すように。  
『な・・・で、きりゅうがこ・・・に。あ・・・はほこらピーーガチャガチャブブッっかつしたの・・・』  
男の声。ノイズがひどい。きりゅう?  
ソレが、こちらを向いた。  
視界が暴れる。部屋の中、ベッドを次々移していく。あわてて逃げているのか。  
がしゃあん!  
ガラスの割れる音。ノイズ。あの高さを一瞬で!?  
まったく止まらずぶれ続ける画面。腕を振っているのか、足下の階段と背後が交互に現れる。  
『はっ、はっ、はっ』  
玄関の扉が写った。もうすこしだ!  
次の瞬間、振った腕が、背後の恐竜を捕らえた。  
『ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!』  
『うわ、うわーーーー!』  
どた、ばさばさばさ! 羽ばたく音。翼をもってる!  
ノイズ。暗転。まっくら。  
 
 
・・・・・・。  
視界が戻る。外に出たようだ。白いコンクリートの壁をバックにする。  
『ぜぇっ、ぜぇっ・・・・・・。こ、このびでおをみたガガガッいてくれ!』  
蒼白な、20代であろう青年の顔が写る。ノイズ。  
『あれはっ! きりゅう! このしガガピーーーーういんされていたばけものだ!』  
ノイズ。雨のせいか、風のせいか、カメラのせいか。ふとそんなどうでもいいことが頭をよぎる。  
『ひとをたべピーーガガガッガチャッおんなのはらにたまごをうえつける!』  
ぼぼぼぼぼっと、風が邪魔をする。たまご?  
『うまれたガガガガガガッんなのはらをくいやぶってでてくる! だれもたすからない!』  
ノイズ。ノイズ。ノイズ。  
『ああくそ、あいつらが! このしまはおしまいガガガピーーーーー』  
『ぎゃぎゃあ! ぎゃぎゃあ!』  
どすん!  
突然重い音がして画面が空を向く。がちゃがちゃがちゃ!  
『ガガだれかガガひぃガガガガぎゃっガガ』  
『ぎゃぎゃブブブブブブブブブブ』  
ノイズ。ノイズ。音は何も伝えない。何もわからない。  
無音。無音。静寂。  
『たすけてぇ!』  
大きな男の悲鳴が聞こえたあと、画面はもう一度暗転し、二度と戻らなかった。  
「・・・・・・」  
なんて。なんてひどい。  
ビデオの画面からキャスターの顔に焦点が変わる。キャスターの女性は震えている。  
『ご、ご覧いただけたでしょうか・・・・・・』  
非常事態宣言。秋田県全域の交通規制及び外出禁止。  
人食いデスパイア。  
 
これが、わたしが戦う、初めてのA級デスパイアとなった。  
 
 
――1年B組  
メグミさんたちに電話をしたあと、普通に登校。  
ひとまずは東北の天使に連絡をとり、必要があれば応援に行くらしい。  
わたしは、とりあえず今まで通り学校へ。トレーニングも続ける。  
「・・・・・・」  
一時間に5分だけ、障壁を張り続ける。この5分というのがくせ者で、けっこうきついのだ。  
魔法の扱いは精神力。5分間ずっと気を張ってろというものだ。  
「・・・・・・」  
今は授業中。ふたつのことをいっぺんにやるのは難しい・・・・・・。  
「ここを――、リアちゃん、訳してみろ」  
「はい。えーと、“これはペンに決まってるだろ、目腐ってんのか”」  
「よし正解。ちゃんと予習してあるな」  
というか担任にすらリアちゃん呼ばわり。なぜ。  
「Black say. I couldn't help to lough. Because,White atakked Black. 大田原、やってみろ」  
「Fack you」  
「oh...  
Miss spell.  
Fuck you.」  
「Fuck you.」  
「なるほどソレがお前の気持ちか」  
「待って先生!」  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
きーんこーんかーんこーん  
「今日はここまで。あと大田原、こっちこい」  
4時間目の鐘。お昼休みだ。  
「るーあ、カナエ、食べよ」  
「ささっ、こちらへどぉぞ〜」  
「かたじけないー」  
「何やってんの・・・・・・」  
机を引っ付きあわせて大きな机にする。お手製弁当を空け、ご飯開始。  
「るーあちゃん、出し物の投票先決めた〜?」  
「まだ。カナエは甘味ね?」  
「うん! 土御門さんのおうちも手伝ってくれるらしいし、たのしみだょ〜」  
係であるわたしは、投票は出来ない。まともなのが当選してくれるといいんだけど・・・・・・。  
「・・・・・・ところでリア、今朝のニュースみた?」  
「うん。あの、秋田の島のだよね?」  
「なになに〜? なんかあったの?」  
この娘は・・・・・・。  
「朝先生に言われたでしょ。怪物が出るかもしれないからあんまり外に出ちゃダメって」  
「そぉいえば・・・・・・。てへへ、ねてました〜」  
「朝は起きてようよ・・・・・・」  
ん、そろそろ時間だ。障壁を、展開。  
「・・・・・・ん」  
「? リアちゃんどぉかした?」  
「いや、なんでも」  
わたしは、この娘たちを守らなきゃいけない。そのために強くならなきゃいけない。  
絶対に。  
 
 
――1年B組、男子のグループ  
その少年は、考えていた。  
この街の天使を、どうするか。  
自分の住む町は隣。どうやらあの天使はこの町に住んでいるようだ。  
行動範囲は、微妙に違う。  
が、自分がこの学校に通う限り危険に変わりはない。  
戦うか、隠れたままでいるか。  
この環境を変える気はない。人の生活を捨てる気はない。  
「つかあのバケモンやばくね? キテるっしょ。まじ鬼」  
「デュフwwwあれぞウワサのwwwwデスパイアwwwwwwマジキタコレ!」  
「秋田でよかったッス! 不謹慎だけど、あれがこの町に来たら困るッス!」  
「まぁ、だいじょぶでしょ。自衛隊も出てるらしいし」  
なにやら大事になっているらしい。見つかれば自分も同じ道だ。  
「ケンジマジ物知り。つーか天才?」  
「神田はもっとwwwwニュースを見ろwwww」  
なんとも人間らしい生活。まだここにいたい。  
少年は、考えていた。  
 
 
――メグミのバイト先、個人レストラン『tonno』  
お昼のラッシュを終え、休憩時間。  
「はい、はい――、わかりました。残り3体ですね」  
東北の先輩天使から電話が来た。こちらに“きりゅう”が向かっているらしい。  
きりゅう、忌竜。  
現地に入った天使が見つけた書物、それにそう記されていたらしい。  
書物は、島の洞窟の最奥、神殿と思しき場所に安置されていた。  
ふたりの子供の遺体も、ともに。  
彼女たちがいたづら半分に復活させた、そう判断されている。  
「はい、気をつけます。それでは」  
2体の子竜を発見、駆除。成長スピードが桁外れに早く、食べた肉の分だけ大きくなる。  
駆除された2体は、成獣と同じくらいの大きさになっていたらしい。  
代わりに、食べる肉がなければ成長はしない。現に洞窟で発見された雛は、  
食料、子供たちを食い尽くしたあとそれ以上大きくなっていなかった。  
成獣。あのビデオに録画された竜。  
まずい相手、だ。生まれてたった1日だというのに、倒された子竜たちは障壁を作っていたらしい。  
ならば、成獣は。イヤな汗が顔を伝う。  
島民の、約半数以上。  
タマゴを植えられた人の近くにいなかった人間。それらを食したと目されている。  
なんという数。80人の魔力がその体にあるのか。  
「メグミちゃーん、そろそろ入ってー」  
「はーい」  
私はこのとき、ソレが本当にこの町に来るなどと思いもしなか  
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
 
――夕方の帰り道  
その気配にいち早く気づいたのは少年であった。  
獰猛さを隠しもせず、こちらに飛来する魔力。  
「・・・・・・・・・・・・」  
少年は、いくらかの迷いのあと、帰路をとる。  
 
 
――夕方の街道  
次に気づいたのは、アキラ。バイト先から出て、張りつめた空気を感じる。  
草木は脅え、いつもは石垣で寝ている猫の姿もない。  
「――!!」  
アキラは、走り出す。  
 
 
――夕方の街角  
そしてメグミも気づく。明らかな殺気。誰に向けるでもなく、ただただ漏れ出るだけの。  
近くの家の犬が震えて小屋でうずくまっている。小鳥の姿がない。  
「っ!!」  
メグミは、駆け出す。  
 
 
――夕方の住宅街  
最後に気づき、また最初に発見したのは、リア。  
夕日に黒いシルエットを描き、3羽の鳥が飛んでいる。  
あまりに大きな、鳥が。  
談笑していた中学生、愛しい我が家を目指すサラリーマン。道の全ての人が呆然と夕日を見つめる。  
怪物の1体が町の北の方へ降りていった。  
リアは、何も言わず。  
敵を倒すために、向かう。  
 
 
 
 
銀の鱗は金の光に包まれて。-side A-.end  
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