ふと、目が覚めた。  
 
窓の隙間から漏れる光は弱く、まだ時間が早いことを知った。  
二度寝しようと目をつぶるが、何やら背後でもぞもぞ動く気配がする。  
寝返りを打とうとしたら髪が引っ張られた。  
「ああ、ごめん。起こしちゃった?」  
寝起きの頭ではまだ思考が戻ってこないのだが、目の端に入る背後の状況ではどうやら  
旦那が髪の毛を掴んでいるようだ。  
「……何してるの」  
「一回やってみたかったんだ」  
そう言って目の前に突きだされたのは乱雑に編まれたわたしの毛先だった。  
「編んでみたかったの?」  
それにしてもひどい、と思ったがとっさに飲み込む。この人は手先が器用でないくせに  
いろいろやりたがるのだ。そのくせ、できないとそれとなく落ち込む。案外子供だ。  
「案外難しいんだな。見ている分には簡単そうなのに」  
女の身支度なんてどこで見たんだろう、と思ったが聞かないでおく。  
ちょっと悔しい自分が悔しい。  
「やってみせようか」  
「うん」  
旦那が手を離すと、荒縄みたいな三編みが肩の上に落ちた。  
わたしの硬い髪は纏まりにくいので、すぐに解けて背中にこぼれる。  
くるりと後ろを振り返れば、旦那は神妙な顔をして手元を見ている。  
「いい?」  
適当な量を取って編む。ものの数秒で終わるのだが、旦那は納得がいかないらしく、眉をひそめた。  
仕方なくもう一度解いて、今度はゆっくりと手元を見せながら編む。  
しかしまだ腑に落ちないらしい。  
「少し引っ張るようにしながらやるといいよ」  
旦那はもう一度挑戦しようとしたが、結局途中で諦めた。  
不器用な上に、わたしの髪は扱いづらいのだから仕方ない。  
「まあ、いっか。この髪を触るのが好きなだけだし」  
旦那の手が伸びて、頭を抱き寄せられた。こんな行為も慣れたはずなのに急にされると  
どきりとする。  
触れた旦那の胸から鼓動が大きく聞こえて、わたしの緊張も気づかれてはいないかと  
少し気になった。  
再び髪が解かれ、胸の上にさらりと落ちた。  
手櫛で梳かれて、ベッドの上に焦茶色が流れる。  
何度も繰り返されるうちに、緊張もほどけてなんだか眠くなってきた。  
そうだ。まだ朝早かったのだ。  
 
「ん……」  
わたしは身じろぎして居心地のいい位置を探す。  
旦那の首筋に顔を埋めるようにしてぎゅっと張りついた。  
あったかくて心地いい。  
いつもははらはらさせられっぱなしの相手なのに、こうしているととても落ち着く。  
どんなに無茶をしても、最後は全て受け入れる器をもった人だと知っているからだろうか。  
この人なら、大丈夫。  
身も心も預けてしまって、ふわふわした心地になる。  
そのまま眠りに落ちかけて、ふと違和感を覚える。  
頭を撫でていたはずの旦那の手が、段々下がってきていた。  
「……ひゃ、あっ!」  
背中を撫でられるとぞくぞくする。これだけは、何度されても慣れない。  
「あの……やめて」  
「落ち着かない?」  
「そう……あっ、だから、やだって」  
逃げようとしたところで逆に覆い被さられてしまい、嫌な予感が頭をかすめる。  
もしやと思えば、旦那の「あれ」はむっくりと首をもたげている。  
「何で……」  
「珍しく甘えてきたから」  
そう言って瞼に口付けられる。  
 
あ、あ、甘えてきたっ?  
 
そんなことしただろうか。  
夕べもいろいろされてお互い裸だったので、既に臨戦態勢に入ってしまっている。  
肩のあたりを撫でられ、「あれ」が内腿をかすめると夕べのあれこれを思い出してしまって  
身体の芯が熱くなる。  
「……いい?」  
耳元で囁かれ、ぞくっとする。  
「だ……駄目っ。もう朝なんだから」  
「まだ暗いよ」  
「嘘。だってさっき――」  
言いかけて、頭の上から布団を掛けられた。急に視界が覆われて何も見えないところに、  
旦那の指が胸に触れる。  
「ね、暗いでしょう」  
「ちょっと、そんなの、ずるい……あ、んっ!」  
「こっちもこんなに硬くなってるのに。ね……いい?」  
この期に及んで確認を取るのは卑怯だと思う。  
わたしの身体は既に熱を持ち始めていたのだから。  
「……今日だけだからね?」  
近所の早起きのお爺さんにばれませんように――心の中で願いつつ、わたしは膝を絡めた。  
 
 

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