『見ィつけた』
広い宮廷の中の、小さな箱庭。
小さいと言えどその端は見えず、見渡す限りの草木や、僅かに聞こえる水音は自然の美しさを物語る。
そこに、数人の男と首輪をつけられた、裸の少女がやって来る。
楽しそうに談笑する男達とは対照的に、表情すら感じられない少女の整った顔。
肋の浮き出るほど痩せ細った体の至るところに男の白い欲がこびりつき、美しかった金髪は乱れ、所々固まっている。
そして、夜明けと共にその『遊び』は始まる。
少女には普通スープに浸して食べる、石のようなパンが一つ渡され、その小さな箱庭に離される。
今は男達に滅ぼされた国の王女である少女に言い渡されたのは、一つのルール。
『日が昇り、また沈むまで見つかることがなければ、お前を釈放してやる』
嘘か真かも解らない。ただ、その『かくれんぼ』に負ければ、酷いことをされる。
少しでも凌辱の時間を短くするために、少女は棒のようなその足を必死で動かし、逃げるように隠れる。
その時、走り続ける足の間から、どろりと昨夜の痕が溢れ落ち、少しだけ足を止めて、声を出さずに泣く。
一瞬でも気を抜けば、精神が折れてしまいそうなこの数日を振り返り、本しか友達の居なかった王女としての数年を思い出す。
もともと戦争が嫌いだった彼女は、父が敗けたことにも大して悲しみは無く、普通の身分として暮らせるのではないかと、喜びさえ感じていた。
もし普通に暮らせたならば、人里離れた所に家と畑を構え、友達を作り、晴耕雨読の日々を送りたい。
しかし、次の暮らしに思いを馳せていた無垢な少女に下されたのは、相手の将として戦った、貴族の慰み物としての扱い。
暗い牢の中で本を読んでいた彼女を突然押し倒し、強姦に次ぐ強姦。
本のように、いつか白馬の王子が自分を迎えに来て楽しく過ごせるのだろうか、と思える年頃の彼女には酷すぎる結末だった。
粗末な布の服すら取り上げられ、畜生の様に裸でいる。
話す人と言えば、あの男達で。
話す事と言えば、命令と服従。
する事と言えば、情事と睡眠。
それでもいつか――そこまで来て、自分が眠っていた事に気付く。
いけない、隠れなきゃ――そう思って体を起こすと、周りはあの下卑た笑いを浮かべた男達に囲まれている。
「見ィつけた」
それはゲームの終了と、凌辱の開始を告げる合図。
絶望を浮かべる間もなく首輪についた鎖を掴まれ、引き摺られるようにベッドだけがある部屋へ連れていかれる。
年の割に小さい体に、ろくな食事も与えられない彼女は簡単にベッドの上に投げられ、身を起こせば目の前には屹立した『拷問』用の道具。
逆らえば、殴られる。昨日も、一昨日も、その前も自分の体に入っていたそれにそっと舌を這わせ、くわえ込む。
巧くなったじゃないか、と嬉しくもない皮肉混じりの誉め言葉を聞きながらも、黙って舐め続ける。
直に限界が訪れ、その小さな口を犯す物から迸る白い液体。
吐き出すことは許されない。そういえば、最近一番口にしている『飲み物』はこれかもしれない。
そんなことを思いながら、いつまでも慣れないそれを数回に分けて、涙と、嗚咽と、哀しみとともに呑み込む。
傍で見ていた男達も動き出し、小さな胸にしゃぶりつき、震えるその手に余る男根を握らせ、愛など無い快楽を求めて足の間の薄い茂みの奥へ突き刺す。
少女の意向は関係ない。
いつしか感じなくなった体の痛み、どんどん強くなる心の痛み。
やがて日が沈み、再び石のようなパンを二つと、干からびた様な林檎を一つ投げるように渡され、凌辱は終わりを告げる。
余すところ無く白濁した液を体に浴び、容量を超えるまで放たれた分が秘所から溢れ落ちる。
それでも、漸く終わったという束の間の喜びが疲労の底にある彼女を動かし、箱庭にある川で、水浴びを始める。
少しでも早く、外側だけでも身を清めるために、身を切るように冷たい水に身体を投じる。
箱庭に、先程の部屋。随分広く、狭い世界。
凍える身体を唯一の毛布でくるみ、少女は眠る。
毛布は夜露に濡れて、立ち上がろうとする若草の頭を押さえつける。
静かな寝息だけが響く。
翌日、少女は隠れなかった。
両手をつき、頭を下げて男達に懇願する。
おねがいします。
今までみたいなことをされつづけても構いません。
ただ、外面だけでも友達になってください。
ただ、一瞬だけでも違う会話をしてください。
ただ、一枚だけでも服をください。
人並みに扱ってください――――
涙を流して訴える彼女に、一際立派な服を着た男が歩み寄り、肩に手を置く。
顔を上げた少女を抱き寄せ、優しく抱擁する。
少女は久々に感じる暖かさにさっきとは違う涙を流し、すがりつく。
男は耳元に口を寄せ、囁いた。
『見ィつけた』
表情が、凍る。
その言葉が意味するのは――――
どんなことがあっても日は昇り、そして沈む。
その、人の生から見れば一瞬に過ぎない時間に、あらゆる想いがある。
喜び。
悲しみ。
感動。
絶望。
安心。
不安。
重なりあった色が、また世界を彩っていく。