俺達はホテルに戻った。  
望遠鏡やら三脚やらを置きに行くため、俺は理恵の部屋に寄った。  
「ありがとう」  
荷物を置いた瞬間、感謝の声が聞こえてきた。  
「どういたしまして、っと」  
時計を見てみると、もう真夜中を過ぎている。  
理恵の方をちらりと見た。今はうつむいていて髪をいじっている。  
(本当に、こいつと恋人同士になったんだよな・・・)  
もちろんそうだ。その証を、先程ビーチでしたばかりなのだから。  
(でも、恋人同士になったら普通は・・・その・・キスだけじゃなく・・・)  
俺は、健全な思春期男子の例にもれず、とんでもない妄想をしてしまった。  
そんな雑念を払拭するように、俺は理恵に言った。  
「じゃ、俺も自分の部屋に戻るよ。おやすみ」  
そして、この部屋を立ち去ろうとした。  
――しかし、それは叶わなかった。理恵が俺の袖をつかんで引っ張ったのだ。  
「ど、どうした、まだ何か用か?」  
「・・・・」  
「おーい」  
反応がなかったので、もう一度尋ねた。その瞬間――  
「行か・・ないで・・・」  
消え入りそうな声で、理恵が俺にそう告げてきた。  
「えっ」  
「・・・・」  
理恵は無言の上目遣いで俺を見つめいる。  
その可愛らしい顔を見て、俺はますます情愛を感じた。そして、同時にある欲望も。  
だが――  
「な、何言っているんだよ。もう遅いから寝ないと・・・」その衝動を消そうと声を少し張り上げた。  
しかし、理恵は俺の顔を見据えて袖を離さないでいる。  
高鳴り続けている俺の鼓動は、一向に収まる気配がない。このままでは、本当に欲望の赴くままに行動してしまう。  
そんな俺に、さらなる追い討ちがかけられた。  
「一緒に・・・いて・・」  
俺の心臓は爆発寸前だった。理恵だって子供じゃない。それがどういう意味か分かっているだろう。  
「ば、馬鹿言うなよ。俺はおばさん達からお前を託されているんだぞ」  
その信頼を、自らの手で裏切るわけには行かない。  
「大丈夫だよ、雄也だから」  
突然、俺は甘い香りと柔らかい感触に包まれた。――理恵が抱きついてきたのだ。  
「お願い・・まだ・・・離れたくない。せっかく雄也に、好きって言ってもらえたから・・・」  
もう、理性は残っていなかった。俺も理恵を抱きしめ、そしてゆっくりとベッドの上へと押し倒した。  
 
「いいんだよな?」俺達は体勢を立て直し、ベッドに垂直に座って見つめ合っている。  
理恵は静かに頷いた。  
「今日は、・・・大丈夫な日だから・・」  
「お前・・・」  
「好きなこと・・何でもしてくれていいから・・」  
おずおずしながら、俺の目をじっと見てこう言った。  
「他の女の子とは・・・しないでね・・」  
その言葉を聞き、俺の中で何かが弾けた。衣服を脱ぎ、まずは上半身を裸にする。  
そして、今度は理恵の衣服を脱がすのを手伝った。  
丸みを帯び、柔らかそうな肌色の上半身が現れ、今はブラジャーだけが着いている。  
その谷間を見て、俺の愚息は膨れ上がっていく。しかし、ズボンがそれを妨げる。  
俺は急いでジーンズを脱いだ。もう、身に着けているのはパンツだけである。  
理恵の方を見てみると、ブラのホックに手をかけている。  
やがてホックを外し終えたが、そのままブラをとることなく、手で胸を押さえている。  
羞恥心からか、その頬は真っ赤に染まっている。  
「それじゃ、見えないぞ」  
俺がそう言ったら――意を決したのだろう――ゆっくりと手を離し、ブラを落とした。胸があらわになる。  
理恵の乳房は、とても綺麗だと感じた。  
当たり前だが、一緒に風呂を入っていた頃の体つきとはもう違う。立派に成長した女性の体だった。  
胸は大きくもなく、かといって小さくもなく、形は凄く整っている。  
それを見た俺は、もう欲情にかられるばかりだった。  
 
「理恵」  
俺は、最愛の幼馴染みの名前を呼びながら顔を近づけ、キスをした。  
さっきの軽い口付けとは違い、今度はもっと踏み込んだものだ。理恵は目をつむり、すぐ受け入れてくれた。  
「ん・・・ぁ」  
理恵が吐息をもらす。俺はさらに舌を絡めていった。ぴちゃぴちゃと音がする。  
「あ・・んぁっ・」  
俺の舌は理恵の口内を侵食していく。とても甘い味だ。  
「はぁ・・んっ・・・んぁ・・」  
理恵の息遣いが少しばかり荒くなってきた。  
だが、俺はもっと近くに理恵を抱き寄せた。その瞬間、乳房が俺の胸に当たった。  
その感触は、何ともいえないものだった。  
 
俺は深い口付けを止め、口を拭いながら理恵の顔を見た。  
向こうも同様に口を拭い、俺を見ている。  
右手を理恵の頭の後ろにやり、左手でゆっくりと体を押し倒した。  
そして、そのまま左手で右の乳房をやさしくつかみ、揉んでみた。  
最高に、柔らかい感触がした。  
「あ・・やぁ・・」  
理恵はかすかな声をもらす。どうやら気持ち良さを感じているようだ。  
幼馴染みの聞いたことない嬌声に、俺は興奮しっぱなしだった。  
もっと快楽を与えたくて、今度は両手で左右の胸を揉んでみた。  
「んぅ・・あぁ・・ん」  
その乳房の感触と、快楽の混じった切なげな声を聞いたことにより、俺の逸物はもうはち切れんばかりに勃っている。  
 
右手で理恵の乳首をいじりながら、俺は左手を股間の方へと伸ばしていった。  
スカートを脱がせ、理恵を下着一枚の姿にした。  
その布の上から若干の膨らみに手をかけ、割れ目をなぞった。  
「きゃっ・・・んぁ・・ん・・」  
理恵は、秘部に触れられた瞬間驚いたが、すぐに俺の行為を許容してくれた。  
「あぁ・・んぅ・・・ふぁあ・・あ・・」  
今までの比ではないくらい、理恵は感じている。  
俺はすぐさま最後の下着を脱がせようとした。  
理恵も俺の意図に気付いたのか、協力してくれた。  
そして、俺は思わず生唾を飲んだ。  
理恵の大事な部分には、少しばかりの産毛が生えていた。――はじめて見る、“女”へと変貌を遂げた幼馴染みの性器。  
「雄也、その・・・」  
申し訳なさそうに理恵が声をかけた。顔全体が真っ赤だ。  
「あ、悪い」  
俺は理恵の大事なところを凝視しすぎていた。  
 
今度は直に、割れ目の少し奥に触れてみる。  
「あぅ・・」  
再び嬌声が聞こえた。そして、その性器はもう充分濡れていた。  
「ん・・あぁ・・・。ゆ・・うや・・」  
理恵が俺の名を呼ぶ。それが合図なのだろう。  
「理恵、じゃあ、入れるぞ」  
「・・・うん」  
俺は恐ろしいくらいに緊張している。だが、それは理恵も同じであろう。  
だから、俺は平静を装って安心させなくてはならない。男の俺がリードしなくては。  
俺は理恵の股を広げた。そして、その間に体を入れ、俺の男根を理恵の割れ目に近づけた。  
ゆっくりと、挿入していく。  
「ん・・んあぁ!」  
突然、理恵が聞いたこともない大声を出した。やはり痛かったのだろう。  
「り、理恵」  
俺は情けなく慌てふためいた。そんな俺に理恵が、  
「だ、大丈夫だよ」  
と微笑みかけてくれた。  
「ごめんね、驚かせて・・・。平気だから、最後まで続けて・・・」  
その言葉に感謝し、俺の男根は理恵の中に侵入し続けていった。  
「あっ・・ん、んっっ・・」  
理恵は小さな声で必死に痛みに耐えている。彼女の両手はベッドのシーツを固く握り締めている。  
 
何とか最後まで挿入できた。  
この世のものとは思えないほどの気持ちよさが、俺に押し寄せる。  
「理恵、入ったよ」  
俺は労わるつもりで、彼女の頭を撫でてみた。  
「はぁ・・はぁ・・んぁ・・」  
理恵は荒い呼吸を上げている。ずっと痛みに耐え、頑張ってくれたのだ。  
しかし、俺の方はというと、初めて味わうあまりの気持ちよさため、早くも射精感を感じていた。  
だが、理恵が頑張ってくれた矢先に、俺だけ絶頂に達してしまうわけにはいかない。  
一刻も早く、一緒に――  
「動くぞ」  
「・・うん」  
その返事を聞き、俺は腰を前後に振った。  
「ああぁ、あ・・あん・・」  
理恵の艶っぽい喘ぎ声が響く。  
「あっ、あ、あぁん・・」  
その声は、とても俺を興奮させてくれるのだが、少し大きかった。ゆえに、  
(部屋の外まで聞こえないだろうか?)  
俺はそんな懸念を、欲情にまみれながら、頭の片隅に抱いた。  
ここはラブホテルではない。もし、この喘ぎ声を誰かに聞かれたら――  
俺は理恵と視線を交わした。  
理恵は、そんな俺の思いを感じ取ってくれたのだろうか。右手で自らの口を塞ぎ、声を若干押し留めてくれた。  
「んむぅ・・・ん・・んぁ・・」  
幾分ボリュームの下がった、快楽のくぐもり声が聞こえる。  
「ん、んぁ、ん、んぅ・・」  
性交の最中でも、そんな風に気遣ってくれる様を見て、俺はますます理恵をいじらしく思った。  
 
「理恵、もう・・」  
何分かは堪えていたが、ついに限界を迎えた。こみ上げる射精感をこれ以上我慢できそうにない。  
「んっ・・ん・・雄也・・」  
彼女の方も、もうすぐでイキそうな様子であった。  
とはいえ、いくら安全日だとしても中出しはまずい。  
俺は、絶頂を迎える瞬間に逸物を抜いた。  
そして、解放された男根から、勢いよく精液が飛び出した。白濁が理恵の裸体にかかる。  
「はぁ・・・はぁ・・はぁ・・」荒い呼吸が聞こえる。理恵もどうやら一緒に絶頂を迎えたようだった。  
かかった精液に少しも目もくれず、体を震わせて息を弾ませている。  
俺はティッシュをとり、自らで発した液体を拭く。  
そんな俺を、理恵は快楽の余韻を味わいながら見守っていた。  
 
 
「シャワー、浴びてくるね」  
「ああ。・・・悪いな」  
「ううん。ありがとう、中に出さないでくれて」  
そう言って、理恵は浴室へと入っていった。やはりその辺は、いくら安全日といえど気にしていたのだろう。  
 
手持ち無沙汰になった俺は、少々自己嫌悪に陥っていた。  
というもの、結局欲望に勝てず、嫁入り前の女の子とつながってしまったからだ。  
だが、もう後悔しても遅い。・・・実際は、物凄く良かったから後悔なんてないのだが。  
必ず責任はとろう。だから理恵と――  
(いやいや、飛躍しすぎだろ俺。気が早すぎるって・・・)  
などと、しばらく考え事をしていたら、理恵が一糸纏わぬ姿で浴室から出てきた。  
「どうしたの?」  
俺の様子を見るなり、すぐにそう尋ねてきた。これからも、こいつに隠し事はできそうにないな。  
「お前の両親に、なんて顔を合わせればいいかなって」  
俺は正直に胸中を打ち明けた。  
「・・・・」  
理恵は無言で俺の背後に行き、そしてそのまま抱きついてきた。  
「理恵?」  
「・・・大丈夫だよ」  
体が密着しているため、ふくよかな胸の感触を感じる。甘い吐息が耳にかかる。体がびくりとした。  
「だって、少なくともお母さんは、私が雄也のこと好きなの知っているから」  
「えっ」俺は目を丸くした。  
「旅行に行く前日、私になんて言ったと思う?」  
「用心しなさい、とか・・・?」  
「頑張りなさい、って」  
・・・全く、あの人は。理恵の生みの親とは思えないくらい、その、…大らかな性格というか。  
「それに、私の方から誘ったようなものだから」  
「けど――」  
「もう止めよう。私は、嬉しかったよ・・・」  
それは俺も同様だ。振り向いて理恵を見る。目が合った瞬間、彼女が破顔した。  
俺はまたもや欲情を感じてしまった。本当に、自分の若さ溢れる体が嫌になる。  
もう逸物は最大限に膨れ上がっていた。落ち着いてくれそうにはない。  
「理恵・・・もう一回いいかな?」  
理恵は頷き、自らベッドへゆっくり倒れこんだ。そして、俺をじっと見つめ、  
「雄也・・・」と俺の名を呼んだ。  
こうして、俺達は再び愛し合った。  
 
 
揺れを感じる。  
「・・きて・・」  
誰かの声が聞こえる。いや、この声は――  
「起きて」  
理恵だ。意識が覚醒する。俺を起そうとしているのだ。  
俺はゆっくりと目を開けた。目の前には、慣れ親しんだ幼馴染みの顔があった。  
「おはよう、雄也」  
「・・・おはよう」  
そう挨拶を交わし、俺は起床した。  
 
理恵はすでに衣服を纏っている。時計を見てみると10時を過ぎていた。  
夜遅くまで、行為に及んでいたツケであろう。  
理恵は9時くらいに起き、洗面や着替えなどの身支度をしてから俺を起こしたそうだ。  
「お前が起きたときに、一緒に起してくれたらよかったのに」  
「だって、あまりにも気持ちよさそうに寝てたから」  
そんな会話をしながら、俺も朝の身支度をしている。  
「しっかし、久しぶりだよな、お前に朝起されるの。何年ぶりかな?」  
理恵が首をかしげた。そのくらい、久々なのだろう。  
「よし」俺は着替え終えた。「飯でも行くか」  
「うん」  
俺達は部屋を出た。  
 
2日目の午後は、観光をし、そして夜には再び星を見た。  
今は、また理恵の部屋にいる。  
「これって、タイトルとかつけないのか?」  
俺はバインダー、すなわち理恵が撮った星座写真集を手にして言った。  
「うーん・・・」理恵はうなっている。  
「まぁ、いいや。それにしてもよく集めたもんだよな」  
再び目を通す。聞いたことのない星座も多く収められている。  
そして、日付はほとんどが中学の時もの。多分、たった一人で撮り続けていたのだ。  
俺は自省した。どうして一緒にいなかったのだろう。  
理恵は俺のことを子供の頃から好きだといってくれた。  
一緒にいて星空を撮っていれば――自惚れかもしてないが――この写真集は俺達にとってもっと思い出深いものとなったはずだ。  
過ぎ去った時間はもうかえって来ない。  
俺は理恵を一瞥した。その視線に気付いた彼女は、微笑みながら「どうしたの、また考えごと?」と聞いてきた。  
その笑顔を見て、俺は吹っ切れた。  
過ぎた時間を嘆いても仕方がない。これからが肝心だ。  
理恵とたくさんの思い出を作っていこう。――子供の頃のように、二人で一緒に。  
「何でもねーよ。ちょっと決心しただけ」  
「何を?」  
「帰ってからも、またお前と一緒に天体観測しようって」  
理恵はとても嬉しそうな声で「ありがとう」と言ってくれた。  
 
「じゃあ、部屋に戻るよ。明日は早いからな」  
飛行機を乗り過ごすわけには行かないので、今日は情事をしないことにしていた。・・・ゴムもないしな。  
「おやすみ」  
「ああ、おやすみ」  
理恵の部屋を出て、俺は自分の部屋まで戻りベッドに潜り込んだ。  
 
 
飛行機の中で、理恵が俺に尋ねた。  
「今年の冬休みも、宮古島に旅行していいかな?」  
「・・・今度は何の星座だ?」  
「レチクル座、かな」  
「れちくる?」  
「望遠鏡に、また小さな望遠鏡みたいなのが付いてたでしょ。ファインダースコープって言うんだけど」  
「ほぅほぅ」  
「本体は視界が狭いから、そのファインダーでまずは星を探すの」  
「ふむふむ」  
「それで、そのファインダー越しに見える、照準を合わせるための十字線をレチクルって言うの」  
「へー、じゃあ十字型の星座なのか」  
「ううん、ひし形」  
「・・・何だよそれ」  
「でも、今回見たぼうえんきょう座とは縁があるよね」  
「確かに、今の話を聞く限り、望遠鏡とレチクルはいつも一緒だもんな」  
「・・・うん、そうだよ。いつも・・・一緒なの」  
こんな話を交えながら、俺達は帰路についていた。  
 
 
見慣れた道を歩いている。俺達の家までと続く、理恵と子供の頃によく歩いたあの直線道だ。  
「今日は、あまり見えないな」  
夜空は雲で覆われていた。  
「でも、月は見えるよ」  
雲の隙間から、月だけが運よく顔を出していた。  
「ホントだ」  
しばらく俺達は無言だった。キャリーバッグを引きずる音だけが響く。  
やがて、俺が声を出した。  
 
「・・・俺達が初めて会った時のこと、覚えているか?」  
夜に月を見た俺は、唐突に昔のことを思い出した。  
「・・・うん」  
「月を見ているお前に、俺が急に声をかけたんだよな」  
「驚いて、何ていったらいいか戸惑っちゃったよ」  
「はは、それは悪かったな」  
「ううん。むしろ、ありがとう。あのとき声をかけてくれたから、今この時間があるんだよ、きっと」  
「確かにな」  
そして、もう一度俺は月を見た。そんな俺を見て、理恵も空を見上げた。  
「綺麗な満月だったよな」  
「中秋の名月だもんね」  
「そうそう。その言葉も、昔お前から教わったな」  
「・・・また、見たいね。二人で・・・」  
理恵が俺を見つめてそう言った。その顔と言葉で、俺は何故だか照れてしまった。  
それをごまかすために、冗談めかして  
「けど、その日に限って、今日以上の曇り空で月が隠れたりして」  
と言った。すると、理恵が少し悲しそうな顔で「あっ」と声をもらした。  
そんな表情を見て、いたたまれなくなった俺はすぐに  
「け、けど、今年がダメでも来年があるし、来年がダメでも再来年が――」  
と告げた。そうしたら理恵が、  
「・・・ありがとう・・・」  
と嬉しそうにお礼を言ってきた。どうやら気を取り直してくれたようだ。  
 
すると突然、理恵が自身のバッグを引きずる手を右手から左手に替え、右腕を俺の左腕に絡めてきた。  
そして――  
「雄也、大好き・・・」  
と言ってくれた。  
同じ言葉を返すのが気恥ずかしかった俺は、代わりにその小さな右手を握った。  
理恵は少し驚いたようだが、すぐに握り返してくれた。  
俺達はこのまま、手をつなぎながら自宅へと向かっていった。  
 
 
季節は12月になり、俺達が付き合い始めて約4ヶ月が経った。  
休日にはデートをしたり、夜には天体観測をしたり、・・・たまにはエッチをしたり――そんな風にして日々は過ぎていった。  
俺は理恵のおかげで、思い描いていた理想の高校生活を過ごせている。  
 
だが、いま俺はちょっとしたピンチを迎えていた。  
 
「本当に、悪かった。ごめん」  
「・・・・」  
俺は現在、理恵の部屋にいる。昨日のことを謝りにきたのだ。  
彼女はベッドの上で枕を抱えながら座って、俺を見ている。――ややふくれっ面で。  
「あの雰囲気の中で、俺だけ帰るわけにはいかなかったんだよ」  
実は昨夜、理恵との天体観測をすっぽかしてしまったのだ。もちろん、連絡は入れたが。  
「男にも付き合いってものがあるんだからさ」  
「それは分かっているけど・・・」  
昨日は夜遅くまで、彼女に振られたという友達をみんなで慰めていたのだ。  
俺は、この世の終わりみたいな顔していたそいつのことが気がかりだった。  
それに何より、そんな奴の前で「俺、これから彼女と約束があるから」なんて言って抜け出せるわけがなかった。  
「頼む理恵。今回ばかりは許してくれ、いや、下さい」  
「・・・でも、昨日がピークだったんだよ。ふたご座流星群」  
「うっ」  
「すごく綺麗だったよ。一緒に見たかったのに・・・」  
そう言って、理恵は枕に顔をうずめてしまった。  
 
困った俺はある行動に出た。  
理恵の机の上にあるバインダーの表紙にペンで文字を書いたのだ。  
この先も、理恵と星を見ていくことを誓った証として。  
「理恵」  
俺が名前を呼ぶと、枕から顔を上げてこちらを見た。  
「これ、いつか絶対完成させような。二人で一緒に」  
俺は理恵にバインダーをつき出している。  
「タイトルに偽りがあっちゃ、ダメだもんな」  
そう言って俺は理恵の機嫌を直そうとした。  
「・・・もう少し、綺麗な字で書いて欲しかったな・・・」  
「なっ」  
「ふふ、冗談だよ。ごめんね」  
理恵が笑った。機嫌を直してくれたみたいだ。そして――  
「ねぇ、雄也。今日も一緒に見てくれる?」  
と言った。俺の返事は決まっている。  
「いいぜ、もちろん」  
その言葉を契機として、理恵はベッドから腰を上げて、俺の腕をつかんだ。  
「行こう」  
「ああ」  
そう言って俺達は部屋を出た。今日も、星空を見るために。  
 
部屋を出る直前、俺は手に持っていたバインダーを机の上に置いていた。  
その表紙には、俺の無骨な字で『全天星座』と書かれていた。  
 
[完]  
 
 

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